学資保険の受け取りは贈与税の対象?所得税の対象となるケースも
学資保険は贈与税の対象にも所得税の対象にもなり得ます。どちらが課税されるかは、契約者と受取人の組み合わせによって決まる仕組みです。それぞれのケースで、どのような税金がいくらくらいかかるか見ていきましょう。
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1.学資保険の特徴
子どもの教育資金を作る目的で加入するのが学資保険です。単に教育資金を貯められるだけでなく、万が一のときへの備えとしても役立ちます。学資保険の税金について理解するために、まずは基本知識を確認します。
1-1.学資金を蓄える、不測の事態の備えにも
学資保険へ加入し保険料を支払うと、子どもの年齢に合わせて『祝金』や『満期保険金』を受け取れます。受け取れる資金やタイミングは契約次第です。
加えて一般的には『払込免除特約』が付けられています。契約者の死亡や障害状態など、所定の事態になった場合には、それ以降の保険料の支払いが免除される仕組みです。
もちろん満期学資金は、契約者が生存し保険料を全て払い終えたときと同様に受け取れます。
1-2.契約者、被保険者、受取人の違いを知ろう
契約時に記入する書類には『契約者』『被保険者』『受取人』を記載する欄があるはずです。この三者を誰に設定するかによって課税される税金の種類が変わるため、違いを押さえておきましょう。
契約者は学資保険を契約し保険料を支払う人です。契約者に万が一のことがあると保険料払込免除特約が適用されるため、生計維持者が契約者になるケースが多いでしょう。
被保険者は保険の対象となる人のことで、子どもを指します。受取人は祝金や満期学資金を受け取る人で、契約者と同じ人を設定するのが一般的です。
2.契約者=受取人の場合にかかる税金の仕組み
契約者と受取人が同一人物のときにかかる税金は『所得税』と『住民税』です。満期保険金として受け取ったときと、学資年金として受け取ったときでは、同じ所得でも区分が違う点に注意しましょう。
2-1.所得税、住民税が発生する
学資保険が満期を迎えたときに受け取る満期学資金や、被保険者である子どもが所定の年齢に達したときに受け取る祝金には『所得税』が課されます。所得税法で区分されている所得は次の10種類です。
- 利子所得
- 配当所得
- 不動産所得
- 事業所得
- 給与所得
- 退職所得
- 山林所得
- 譲渡所得
- 一時所得
- 雑所得
所得の種類によって必要経費に含まれるものや計算式が異なる点に注意しましょう。契約者と受取人を同一人物に設定している点は同じでも、保険金の受け取り方で異なる所得に分類されます。
所得税の対象となるものには、住民税もかかることも覚えておきましょう。
2-2.満期保険金は一時所得として扱う
満期を迎えたときに教育資金を一括で受け取る『満期保険金』は、契約者と受取人が同じなら『一時所得』です。保険の種類によっては小学校・中学校・高校などの進学時に受け取れる『祝金』も一時所得として扱われます。
一時所得は給与所得などと合わせて所得税が課税されます。ただし、学資保険のほとんどのケースでは課税されません。受け取った保険金から支払った保険料を差し引き、また、そこから控除額を差し引くことができるからです。
2-2-1.50万円の特別控除額
一時所得は『総収入金額-収入を得るために支出した金額-特別控除額(最高50万円)』で計算します。例えば満期保険金や祝金の総額が200万円、保険料が188万円であれば、12万円の利益です。
ここから特別控除50万円を差し引くと一時所得は0になり、課税されません。なお、払込免除特約により保険料を支払っていない場合などには課税されることもあります。
2-3.学資年金は雑所得として扱う
『学資年金』は満期保険金を分割で受け取る仕組みです。例えば満期保険金の総額が200万円で、大学4年間で受け取る契約なら、毎年50万円ずつ支払われます。
学資年金として、毎年受け取るときとは所得の種類も異なり、『雑所得』として扱うのが特徴です。雑所得は『総収入金額-必要経費』で計算できます。
ただし分割で保険金を受け取るため、払い込んだ保険料全額を必要経費にできません。必要経費は『学資保険年金額×(払込保険料総額÷総支給見込額)』で計算します。
先の例で保険料総額が188万円であれば、雑所得は『50万円-{50万円×(188万円÷200万円)}=3万円』です。
契約者が会社員であれば、給与所得と退職所得以外は合計20万円まで申告不要のため、このケースでは税金がかかりません。
ただし、医療費控除やふるさと納税などで確定申告書を提出する場合には、給与所得と退職所得以外の所得が20万円以下であっても申告する必要があります。
参考:No.1500 雑所得|国税庁
参考:確定申告が必要な方|国税庁
2-3-1.受取人が自営業者の場合
同じように学資年金を受け取るケースでも、契約者が自営業者の場合には注意しましょう。自営業者には、会社員のような申告不要枠がありません。
そのため3万円全額に所得税が課されます。仮に所得税率を10%だとすると、学資年金の受け取りにより所得税を3,000円多く支払わなければいけません。
自営業者が学資年金を契約するときには、税金の負担をよく確認した上で申し込みましょう。
3.契約者=受取人=専業主婦の場合
契約者と受取人が同一人物でかつ専業主婦のケースもあります。男性が契約者になるときとの違いや、注意点をよく確認することが大切です。
3-1.女性が契約者になるメリット
女性が契約者になるときのメリットは、保険料が安い可能性がある点です。保険料は保険業法に定める『標準生命表』によって、男女別に全年齢の死亡率をまとめた表を基に決められています。
女性は一般的に男性より健康リスクが低い傾向があることは、標準生命表からも分かる点です。そのため同内容の学資保険であれば、女性の方が保険料を抑えやすいでしょう。
商品によっても異なりますが、特に若いうちは保険料を安くできるかもしれません。
参考:標準生命表2018|公益社団法人 日本アクチュアリー会(金融庁委託)
3-2.所得税ではなく贈与税課税の可能性あり
保険料を抑えられるからと専業主婦の妻を契約者と受取人に設定すると、『贈与税』がかかる恐れがあります。
確かに契約書では妻は契約者かもしれません。しかし実際に保険料を負担しているのが夫だとすると、課税するときには実質的な契約者を夫とみなします。そのため夫から妻への贈与とされ、贈与税がかかる仕組みです。
専業主婦である妻に保険料の支払い能力があるかどうかがポイントといえます。
4.契約者、被保険者、受取人が異なる場合
一般的に契約者と受取人は同じ人物を設定します。しかし場合によっては『契約者=夫、被保険者=子ども、受取人=妻』といったケースもあるでしょう。この場合には『贈与税』がかかります。
4-1.贈与税が発生する
契約者と受取人が違うということは、受取人は何も負担することなく満期保険金を受け取ります。このとき受取人が手にする保険金は、契約者からの贈与とみなされるものです。
贈与は贈与する人と受け取る人の関係性によって、『一般贈与財産』と『特例贈与財産』に分けられます。父母や祖父母など直系尊属から成人した子どもや孫への贈与であれば特例贈与財産、その他は一般贈与財産です。
この2種類は税率が異なります。例えば契約者=夫、受取人=妻であれば、一般贈与財産です。
4-2.贈与税は110万円の基礎控除のみ
贈与税には『110万円』の控除があります。そのため1年間に110万円までであれば、贈与を受けても課税されません。しかし所得税のように必要経費として支払った保険料を差し引けません。
例えば満期保険金を200万円受け取ったケースでは、控除額110万円を引いたあとの90万円が課税価格です。夫=契約者、妻=受取人なら一般贈与のため、下記の税率に当てはめて計算します。
課税価格 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
200万円以下 | 10% | - |
300万円以下 | 15% | 10万円 |
400万円以下 | 20% | 25万円 |
600万円以下 | 30% | 65万円 |
課税価格90万円であれば、贈与税は『90万円×10%=9万円』と計算できます。一般に贈与税は所得税より高額の税金を納めなければいけません。
契約状況によっては、契約者変更の手続きをしても良いでしょう。保険会社のカスタマーセンターへ連絡すれば手続き可能です。
参考:No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)|国税庁
5.契約者=受取人が死亡した場合
契約者と受取人を夫にして学資保険を契約しているとき、夫が死亡したとします。すると学資保険の契約者と受取人を変更しなければいけません。このようなケースで発生する『相続税』について見ていきましょう。
5-1.新契約者=新受取人に相続税が課税
学資保険の契約者が死亡すると、新しい保険契約者と受取人が設定されます。例えば契約者である夫が死亡したときには、妻が契約者と受取人です。
このとき学資保険の『契約の権利』に対して相続税が課されます。また『死亡育英年金』を受け取れる学資保険であれば、これも相続によって取得したとみなされ、相続税の課税対象です。
育英年金は年金受給権に相続税が課されます。年金受給権は下記のうち、最も金額が大きいものに課税する決まりです。
- 解約返戻金の額
- 年金代わりに一時金を受け取れるなら一時金の額
- 予定利率などを基に計算した額
5-2.1回目の死亡育英年金受給時は非課税
死亡育英年金を受け取るときには、年金額を雑所得として扱います。そのため所得税の対象です。このとき受け取った年金額は課税部分と非課税部分に振り分けられます。
1回目の支給は『全額非課税』です。そして2回目以降は課税部分の割合が増えていき、段階的に税金が増えていくよう計算されます。
参考:No.1620相続等により取得した年金受給権に係る生命保険契約等に基づく年金の課税関係|国税庁
6.孫のために学資金を用意するには
祖父母が孫のために学資保険を用意するケースもあるでしょう。そもそも祖父母は学資保険を契約できるのでしょうか?できるだけ税金の負担を抑えながらサポートする方法も紹介します。
6-1.祖父母は学資保険の契約者になれる?
祖父母でも孫を被保険者として契約できる学資保険はあります。ただし学資保険は多くに保険料払込免除特約が付いているため、年齢制限が設けられている商品が多いでしょう。
制限は保険会社によってさまざまですが、45歳・69歳・75歳などがあります。年齢が設けられている上限を超えていると、契約できません。
また契約時には健康状態の告知も必要です。高齢になるほど、さまざまな健康状態のリスクは高まります。持病や入院歴があれば契約できない可能性もあるでしょう。
6-2.契約者=親で祖父母が保険料を援助する方法
親が契約者として加入している学資保険の保険料を、祖父母がサポートしても良いでしょう。『生前贈与』で受け取った現金を、学資保険の保険料に充てる方法です。
贈与税の控除110万円を利用すれば、1年間に110万円までは贈与税がかかりません。このとき確かに贈与が行われたと分かるよう『贈与契約書』を作成し、贈与の記録を残すために指定の口座へ振り込みで送ります。
注意が必要なのは『名義保険』です。契約者が孫の父親である夫になっていても、保険料を負担しているのが祖父母であれば、実質的な契約者とみなされる可能性があります。
この場合、祖父母が死亡すると相続が発生したとみなされ、相続税が課される点に要注意です。
6-3.都度贈与、教育資金一括贈与も検討を
中には贈与税がかからない贈与の仕方もあります。例えば生活費や教育費などに使う費用を、必要なときに渡す『都度贈与』がそうです。
通常必要と認められる金額の範囲であれば、祖父母が学資保険の費用を負担したとしても、贈与税はかかりません。他に『直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税制度』も利用できます。
教育資金として使う目的の場合に限り、1,500万円を上限に贈与税が非課税になる制度です。利用には取扱金融機関を通し『教育資金非課税申告書』を税務署へ提出します。
『直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税制度』について詳しく知るには、下記もご覧ください。
教育資金贈与はいつまで?対象項目や改正における注意点【最新版】|相続大辞典|【税理士法人チェスター】
参考:No.4405 贈与税がかからない場合|国税庁
参考:No.4510 直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税|国税庁
7.契約者=受取人は税金がかかりにくい
税金の負担を抑えたいなら、学資保険は契約者と受取人を同一人物にしておくのがおすすめです。この場合、満期保険金は一時所得となりますが、支払保険料を控除し、また、50万円の控除額があるため、ほとんどのケースで課税されません。
現時点で違う人が設定されているなら、カスタマーセンターへ問い合わせ契約者の変更をすると、同一人物へ変えられます。
契約者と受取人が異なる場合は贈与税の対象です。また契約者と受取人が同一人物でも、保険料を契約者以外が負担しているなら、実質的な契約者は支払者とみなされ贈与税の対象となります。
学資保険に関わる贈与税や相続税については『税理士法人チェスター』へ相談しましょう。
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