一人っ子相続の注意点は?メリット・デメリットと相続税対策も解説
一人っ子が相続するメリットは、相続人が少ないこと。また相続関係が両親だけであるため、相続トラブルになりづらいことです。
しかし相続の手続や問題発生時に相談する兄弟姉妹がいないため、一人に大きな負荷がかかります。加えて相続税の基礎控除が少ないため、相続税の負担が増えることがデメリットです。
このようなデメリットに対し、両親が元気なうちに節税対策しておくことをおすすめします。また相続手続の流れや借金がある場合の手続きは、事前に対処方法を理解しておくことで対策が可能です。
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この記事の目次 [表示]
1.一人っ子が相続する2つのメリット
一人っ子が相続する場合は、兄弟姉妹がいる場合と比較して以下のメリットがあります。
一人っ子が相続する2つのメリット
- 相続人が少ないため相続トラブルになるリスクが低い
- 相続人が多い場合に比べて手続が楽に済む
1-1.相続人が少ないため相続トラブルになるリスクが低い
一人っ子の相続には、以下のようなパターンがあります。
一人っ子の相続のパターン
- 被相続人の配偶者と子が相続人となる
- 両親がともに亡くなった場合、一人っ子のみが相続人となる
兄弟姉妹がいる場合は相続人が増えるため、一人ひとりの意見が対立してトラブルになる可能性があります。しかし一人っ子の場合は、基本的に相続人が一人となるためトラブルになりにくいのです。
1-2.相続人が多い場合に比べて手続が楽に済む
一人っ子の場合は、相続人が複数人である場合よりも手続きを楽に進められるメリットがあります。相続手続きに必要な書類が少なく、煩わしさを軽減できるためです。
預貯金や不動産の相続手続には、相続人の戸籍謄本や印鑑証明書などが必要となります。相続人が増えると、居住地の違いなどから意思疎通に手間や時間がかかることもあるのです。
2.一人っ子が相続する3つのデメリット
一人っ子が相続する場合には、相続人数が少ないことにより以下のようなデメリットが発生する可能性もあります。
一人っ子が相続する3つのデメリット
- 相続税が高くなる
- 一人で相続手続する必要がある
- 親と争う可能性がある
2-1.相続税が高くなる-相続税対策することで支払う税金を減らせる
一人っ子が相続する場合は、相続税が高額になる可能性があります。法定相続人の人数が減ると、相続税の基礎控除額や生命保険の非課税限度額が下がるためです。相続税の課税対象となる遺産は、以下のように計算します。
相続税の課税対象となる生命保険金の非課税枠は、以下のように計算します。
法定相続人が複数人いる場合は、基礎控除額や非課税限度額が上がるため相続税額の負担を抑えられます。しかし一人っ子の場合は基礎控除額や非課税限度額が少ないため、相続税が高額になる可能性があるのです。事前に相続税対策することで、一人っ子でも相続税の負担を抑えられます。
2-2.一人で相続手続する必要がある-相続手続を専門家に依頼可能
一人っ子の相続手続きは、一人または二人で進めることが一般的です。相続手続きは多岐にわたり、少人数では大変な作業となる場合もあります。
複雑な手続きや問題が発生した場合に協力できる相手がいないことは、相続手続きに時間がかかる要因の一つです。一人で相続手続きを進めると手間や時間がかかってしまうため、専門家に相続手続の代行を依頼したり相談したりすることも検討しましょう。
2-3.親と争う可能性がある-生前の家族会議で想いを共有
被相続人の配偶者と一人っ子が相続人となる場合、トラブルに発展する可能性があります。被相続人の配偶者である親との意見の相違や、不仲であることが原因で対立してしまう場合があるのです。
日ごろから相続財産の分け方や節税対策について話をするなど、認識を合わせながらトラブルを防ぐことも大切です。
3.一人っ子がスムーズに相続手続きを行うための大まかな流れ
相続手続きをスムーズに進めるためには、手続きの流れを理解しておくことが大切です。提出書類に不備があると相続手続きに時間がかかってしまい、相続税の申告期限に間に合わずペナルティが課されてしまう場合もあります。以下の流れを確認して、手間なく確実に相続手続きを進められるようにしましょう。
一人っ子がスムーズに相続手続きを行うための大まかな流れ
- 遺言書があるかどうか確認する
- 戸籍を調査して相続人を確定する
- 相続財産を調査する
- 他に相続人がいる場合は遺産分割協議を行う
- 相続税の申告をする-申告期限は10ヶ月
- 不動産の相続登記や預貯金の相続手続をする
3-1.遺言書があるかどうか確認する
被相続人が遺言書を残しているかどうかを確認しましょう。遺言書は被相続人の自宅や貸金庫のほか、法務局で保管されている場合もあります。全国にある法務局で「自筆証書遺言」が保管されているかどうかを調べてもらうことが可能です。
また遺言書が「公正証書遺言」の場合は、原本が公証役場で保管されています。公正証書遺言の有無は、最寄りの公証役場で調べてもらうことができます。
遺言書が「自筆証書遺言」と「秘密証書遺言」の場合は、裁判所にて検認手続きが必要です(法務局で「自筆証書遺言」が保管されている場合は不要です。)。
遺言書に「法定相続人以外に財産を遺贈する」と記載がある場合は、遺産の取得者が増えます。また遺言書に「相続人廃除」や「認知」についての記載がある場合は、遺産の取得者が増減するほか、遺言の内容を実行する遺言執行者の選任手続きが必要です。検認手続きだけではなく、遺言書の記載内容についても確認しておきましょう。
3-2.戸籍を調査して相続人を確定する
戸籍から相続人を確定させるため、市区町村役場にて以下の戸籍謄本等を取得します。相続人確定のために必要な戸籍謄本等は、以下のとおりです。
取得が必要な戸籍謄本等
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- 相続人の現在の戸籍謄本
手続きによっては、被相続人の住民票除票が必要な場合もあります。戸籍謄本等とあわせて住民票除票を取得しましょう。戸籍謄本等や住民票除票を取得できる市区町村役場は、以下のとおりです。
戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本 | ・最寄りの市区町村役場 |
---|---|
住民票除票 | ・被相続人の住所があった市区町村役場 |
戸籍謄本等の収集は、ほかに相続人がいないことを確認するために必要な作業です。異父兄弟や異母兄弟がいる可能性も考慮しておきましょう。
3-3.相続財産を調査する
被相続人の財産を調べるときは、プラスとマイナスの財産を両方調査する必要があります。被相続人に借金など債務がある場合は、相続人が引き継がなければならないほか、相続税の申告において必要な遺産総額(相続財産)は、財産の合計評価額から債務や葬儀費用を差し引いて計算するためです。
金融機関や不動産の所在地は、被相続人の通帳や郵便物、金庫に保管されている書類などから調査します。金融機関の場合は、被相続人の死亡時点の残高証明書から財産があるかどうかが調査可能です。
不動産の場合は、権利証や固定資産税の通知書に記載されている地番から所有者を調査します。法務局で登記事項証明書(登記簿謄本)を取得したり、法務局のホームページで登記情報を取得したりすることで調査が可能です。
生命保険契約の有無については、自宅で保険証書を捜すほか、生命保険協会への照会でも確認できます。
被相続人が所有していた可能性のある財産については、被相続人の生前の話や関係者の話などを参考にすべて調査しましょう。
3-4.他に相続人がいる場合は遺産分割協議を行う
相続人が「配偶者と一人っ子」となる場合は、遺産分割協議にて第三者に証明できる遺産分割協議書を作成します。
被相続人が遺言書を残している場合は、原則としてその遺言に従い財産を分配します。しかし相続人全員の同意があれば、遺言とは異なる内容の遺産分割も可能です。
遺産分割協議書は相続人全員が内容を確認のうえ、署名と実印にて合意した旨を証明します。
3-5.相続税の申告をする-申告期限は10ヶ月
相続税の申告が必要となる場合は、税務署にて申告手続きします。申告手続きは税務署への書類提出だけではなく、納税も含まれることに注意しましょう。相続税の申告とは、下記の2つを指します。
相続税の申告
- 相続税をいくら支払うのかを算出した資料を税務署に提出
- 「税務署」「金融機関」「郵便局」の窓口などで相続税を納税
相続税の申告は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10ヶ月以内と義務付けられています。たとえば被相続人の死亡を令和5年4月5日に知った場合、申告期限は令和6年2月5日です。
申告期限にあたる日が土曜日、日曜日、祝日の場合は、その翌日以降の営業日(平日)になります。相続税の申告期限までに申告と納税がない場合は、無申告加算税や延滞税が課税されてしまう可能性もあるため把握しておきましょう。
3-6.不動産の相続登記や預貯金の相続手続をする
相続を実行した場合は、財産の相続手続きが必要です。預貯金や有価証券であれば銀行や証券会社へ連絡し、所定の方法にて手続きします。不動産の場合は、法務局で相続登記の手続きが必要です。
相続や相続登記の手続きでは、一般的に以下の書類が必要となります。
金融機関の相続手続きで一般的に必要な書類
- 被相続人の出生時から死亡時までの戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本一式・相続人全員の現在の戸籍謄本(法務局から発行される「法定相続情報一覧図の写し」でも代用できます。)
- 遺産分割協議書もしくは遺言書(公正証書遺言以外の場合、検認調書など)
- 相続人全員の印鑑証明書
法務局の相続登記手続きで一般的に必要な書類
- 相続登記の対象となる不動産の登記事項証明書(登記簿謄本)
- 被相続人の住民票の除票(本籍の記載があるもの)
- 被相続人の出生時から死亡時までの戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本一式・相続人全員の現在の戸籍謄本(法務局から発行される「法定相続情報一覧図の写し」でも代用できます。)
- 遺産分割協議書もしくは遺言書(公正証書遺言以外の場合、検認調書など)
- 相続人全員の印鑑証明書
- 物件を取得する相続人の住民票
- 固定資産評価証明書
遺言の形式や内容、遺産分割協議書や遺言執行者の有無などで必要な書類が異なります。手続を実施する場合は、事前に金融機関や法務局で確認しておきましょう。
4.一人っ子の相続の相続税対策3選
一人っ子の相続は少人数となるため、相続税の課税対象金額を計算する基礎控除額や生命保険の非課税限度額が下がります。遺産額が高額の場合は課税対象金額が増え、相続税が高額になる可能性があります。相続税の負担を減らすために、以下のような相続税対策を検討しましょう。
一人っ子の相続の相続税対策3選
- 暦年贈与を利用する
- 教育資金の贈与の特例を利用する
- 二次相続を考えて遺産分割する
4-1.暦年贈与を利用する-年間110万円まで贈与税不要
相続税が課税される可能性がある場合は、生前贈与による節税対策を検討しましょう。節税対策しておくことで、相続税の負担を減らせる可能性があります。子どもへ贈与するときは、贈与額や方法に注意が必要です。
生前に年間110万円以下の贈与(暦年贈与)をすることで、贈与税がかからず、相続が発生した場合の相続税課税対象金額を抑えられます。しかし毎年の贈与額が同額となる場合は「定期贈与」とみなされてしまい、受贈者に贈与税がかかる可能性もあります。定期贈与とみなされないよう、贈与する際に贈与契約書を作成しましょう。
また贈与から一定期間内(3年~7年以内)に贈与者が死亡した場合、110万円以下の贈与でも相続財産と判断され、相続税の課税対象財産となる場合があります。一方、特例や制度を利用することで非課税条件を満たす場合もあるため、事前の確認が大切です。
4-2.教育資金の贈与の特例を利用する
相続税対策のため、教育資金一括贈与の非課税制度の利用を検討しましょう。教育資金一括贈与の非課税制度は、贈与税が最大1500万円まで非課税となる制度です。
教育資金とは親から子または祖父母から孫へ、教育のために一括で贈与した資金に該当します。非課税制度の期間と条件は、以下のとおりです。
期間 | 平成25年4月1日から令和8年3月31日まで |
---|---|
条件 | ・父母または祖父母から30歳未満の子や孫への贈与 ・贈与する資金の用途は教育のため ・非課税限度額は受贈者1人につき1500万円まで(学習塾や習い事など学校以外に支払われる教育資金は500万円が限度) |
贈与者が死亡した場合は、一部の例外を除いて、贈与された資金の一定の残額に相続税が課税されます。また、30歳(学校等に在学の場合は最長40歳まで延長)になった時点で残額がある場合は、その残額に贈与税が課税されます。
また教育資金一括贈与の非課税制度では、贈与者の都合で贈与後に資金を取り戻せません。財産があっても金融資産が不足してしまうと、贈与者が生活に困る場合もあります。
教育資金一括贈与の非課税制度を利用する場合は、贈与者の資産状況や受贈者となる子や孫に予想される教育費用の事前確認が大切です。
参考:No.4510 直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税|国税庁
4-3.二次相続を考えて遺産分割する-被相続人の配偶者が健在の場合
相続人が配偶者と一人っ子の場合は、二次相続(将来的に配偶者が死亡して一人っ子のみが相続する)を考えて遺産分割しましょう。被相続人の配偶者が相続する場合は、配偶者控除が適用されます。
相続税の配偶者控除とは
配偶者が相続した遺産のうち課税対象金額が1億6000万円までであれば、相続税が課税されない制度。また相続財産が1億6000万円を超える場合でも、配偶者の法定相続分までなら相続税は課税されません。
相続税の配偶者控除を適用するには、原則として相続税の申告書を提出する必要があります。しかし配偶者控除制度の利用で、将来の相続税にともなう負担が増す可能性も考慮が必要です。
一人っ子の場合は基礎控除額が低額なため、配偶者の相続が発生した場合に課税対象となる金額が増える場合もあります。最初の相続で配偶者と一人っ子の遺産分割の割合を調整すると相続税の負担を軽減できるため、将来に不安を感じる場合は専門家への相談をおすすめします。
5.マイナスの遺産がある場合は相続放棄を検討する-事例で解説
相続人は、原則として被相続人の権利義務を全面的に承継するため、すべての財産を相続します。被相続人の預貯金や不動産といったプラスの財産だけでなく、借金のようなマイナスの財産も引き継がなくてはなりません。引き継ぐ財産による負担を軽減するためにも、以下のような場合は相続放棄を検討しましょう。
相続放棄を検討すべき事例
- 資産よりも借金が多い場合
- 被相続人が連帯保証人になっている借入がある場合
- 相続する遺産に借金と生命保険金の両方がある場合
5-1.資産よりも借金が多い場合
プラスの財産よりもマイナスの財産が多い場合は、相続により相続人が借金の返済義務を負います。被相続人の郵便物や金庫にある書類から、借金の有無を漏れなく調査することが大切です。
5-2.被相続人が連帯保証人になっている借入がある場合
連帯保証人の地位も相続されるため、被相続人に代わり相続人が連帯保証人となります。連帯保証を引き受けた契約書がないかどうかを、被相続人と交友がある人に確認しながら調査することが大切です。
5-3.相続する遺産に借金と生命保険金の両方がある場合
契約上の受取人に指定されていれば、相続放棄しても生命保険金(死亡保険金)を受け取れます。死亡保険金は被保険者の所有物ではなく、保険金の受取人の固有財産として扱われるためです。
なお、保険の契約者(保険料の支払者)と被保険者(保険の対象者)が同一である場合は、死亡保険金は相続税の課税対象になります。
相続放棄した場合は、死亡保険金のみ相続税の課税対象となります。相続税の基礎控除は適用できますが、相続放棄した人は相続人ではないため死亡保険金の非課税枠は適用できません。
したがって、他に課税対象となる遺産がなく、生命保険金が「3000万円+(600万円×法定相続人)」を超えない場合は、相続税の申告は不要です。
6.相続放棄の手続き方法-死亡を知ってから3ヶ月が期限
相続放棄するためには、家庭裁判所で期限内に手続きする必要があります。相続放棄できる期限は、自己のために相続が開始したことを知ったときから3ヶ月以内です。以下の情報は、裁判所のホームページで確認できます。
裁判所のホームページで確認できる情報
- 手続に必要な書類や費用
- 申述書の様式
- 管轄の家庭裁判所
管轄の家庭裁判所が遠方の場合は、郵送にて手続が可能です。被相続人の財産調査に時間がかかり、相続するかどうか3ヶ月以内に判断できない場合もあります。期限までに判断できない場合は、家庭裁判所に対して「相続の承認又は放棄の期間の伸長」を申立てることで延長申請が可能です。
裁判所にて相続放棄の申述が受理された場合は、以後撤回できません。相続放棄するかどうか検討する場合は、慎重に判断しましょう。
7.メリットとデメリットを理解して一人っ子の相続にかかる負担を軽減しよう
一人っ子の相続は、相続人同士で争いになりづらいことがメリットです。しかし相続の負担や手間を分散できず、相続手続の協力者がいないことをデメリットに感じることもあります。相続税の基礎控除額が下がるため、税金の支払い負担が増える可能性もあるのです。
生前の相続対策や特例制度を理解し、一人っ子の相続にかかる負担を軽減できるよう対策することが大切です。対策方法に不安を感じる場合は、法律や税金の専門家へ相談することをおすすめします。
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