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使用貸借は貸主死亡で相続される―相続税はいくらかかる?注意点・ポイントも解説

使用貸借は貸主死亡で相続される-相続で貸主となった場合の選択肢

土地の所有者が、その土地の一部を無償で人に貸していることがあります。これを「使用貸借」といいます。使用貸借契約が結ばれている土地の貸主(所有者)が死亡した場合、その使用貸借契約や、土地の相続税評価はどうなるのでしょうか?

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1.使用貸借とは

対価の支払いなしで、無償で何かを貸し借りすることを「使用貸借」(しようたいしゃく)といいます。

例えば、自分が読み終えた本を人に貸してあげる時、普通はお金を受け取ったりしないでしょう。これは、無償で本を貸し借りしているので「使用貸借」です。

使用貸借は、民法で以下のように規定されています。

民法593条(使用貸借)
使用貸借は、当事者の一方がある物を引き渡すことを約し、相手方がその受け取った物について無償で使用及び収益をして契約が終了したときに返還をすることを約することによって、その効力を生ずる。

引用元:民法593条|e-GOV検索

ある物について、貸す人と借りる人の間で、「タダで貸すので、使い終わったら返してください」「いいですよ」と合意した契約が、使用貸借契約だということです。

相続に関連して使用貸借が問題になるのは、不動産、特に土地の使用貸借でしょう。

例えば、親が所有名義人となっている土地を子に貸して、借りた子が、その土地上に自宅を建てて住んでいるといったケースはよくあります。

「家族なんだから、お金なんかいらないよ」といって無償で貸していれば、それは使用貸借です。

中には、親しい友人など親族外の人に貸していることがあるかもしれませんが、一般的に、土地の使用貸借は、親族間で行われているケースが多いでしょう。

以後、本記事では、相続の場面でよく問題になる、「土地の使用貸借」について解説していきます。

1-1.使用貸借と賃貸借

ところで、物の貸し借りをする場合に、権利金や賃借料などの対価の支払いが行われる場合もあります。こちらは「賃貸借」(ちんたいしゃく)と呼ばれます。例えば、自宅の一部を人に貸して、家賃を得ている場合は、賃貸借契約を結んでいることになります。

賃貸借契約は、借主がお金を払ってその物を利用する権利を得る契約であるため、借主の権利はある程度保護されており、貸主が一方的に契約を解除するといったことはできません。特に、土地の賃貸借契約においては、借地借家法に規定された「借地権」という強い権利が認められています。

これに対して使用貸借契約では、借主は対価を無償でその対象物を使用できますが、その反面、契約期間や使用収益する期間についての定めがない場合には、貸主が申し出ることで、いつでもその契約を解除できるなど、借主の権利は賃貸借よりも限定されています。

2.貸主の死亡後も、原則として使用貸借契約は継続する

使用貸借契約の当事者には、貸主と借主とがいます。貸主または借主のどちらかが死亡した場合、使用貸借契約はどうなるのでしょか?

2-1.民法で定められた使用貸借の終了事由

民法の規定によれば、使用貸借契約が終了するのは、以下の場合とされています。

①貸主と借主の間で定めた期間が満了した時
②使用目的を果たした時
③借主が死亡した時

▼民法597条(期間満了等による使用貸借の終了)

  1. 当事者が使用貸借の期間を定めたときは、使用貸借は、その期間が満了することによって終了する。
  2. 当事者が使用貸借の期間を定めなかった場合において、使用及び収益の目的を定めたときは、使用貸借は、借主がその目的に従い使用及び収益を終えることによって終了する。
  3. 使用貸借は、借主の死亡によって終了する。
引用元:民法597条|e-GOV検索

2-2.借主または貸主が死亡した場合の使用貸借の継続

民法の規定から、借主が死亡した場合は、原則としてその時点で使用貸借契約が終了します。したがって、借主側では、使用貸借の相続が問題になることはありません。

一方、貸主が死亡した場合は、契約終了事由に該当しないため、原則的に使用貸借契約は終了することなく継続します。

ただし、使用貸借契約に「貸主が死亡したら使用貸借契約が終了する」といった定めをしておけば、貸主が死亡すると同時に使用貸借契約も終了します。

死亡した人使用貸借契約土地を相続した人
借主原則として消滅特に何もする必要はない
貸主原則として継続使用貸借契約の貸主としての地位を承継する

2-3.貸主の死亡後、誰が使用貸借を引き継いで新たな貸主になるのか?

使用貸借契約を引き継ぐのは、その対象となっていた土地を相続等により承継した相続人等です。

貸主の死亡後に、土地を相続した相続人が、土地を引き継ぐと同時に使用貸借の貸主としての地位も引き継ぎます。

複数の相続人がいて、遺産分割協議が行われる場合は、相続人同士の話し合いにより誰が土地を相続し、使用貸借契約を引き継ぐのかを決定します。

また遺言書がある場合は、その遺言書にしたがって財産を引き継ぐ人を決定する「遺贈」により、財産を取得する人(受贈者)が決定されます。

さらに、故人に相続人がいない場合、被相続人と特別な関係があった「特別縁故者」が、家庭裁判所に申し立てて認められれば土地を引き継ぐことができます。

2-4.土地の借主の死亡後に借主名義の建物が相続された場合の使用貸借契約

次に、借主が死亡した場合を確認します。土地を使用貸借により借りて、そこに建物を建てて所有している借主が死亡し、建物を相続した人がいた場合です。

民法の原則的な考え方では、借主が死亡すると土地の使用貸借契約は終了するため、借主の相続人が使用貸借契約を相続することはできません。建物は相続できても、その土地は貸主に明け渡さなければならないのです。

しかしこれでは、借主の相続人は、その建物を相続しても利用できなくなってしまいます。

そこで、土地の使用貸借であり、その敷地上の建物の所有を目的とする場合などの、一定の条件を満たせば、借主の相続人が使用貸借契約の借主の地位を承継することが認められるケースもあります。

ただしこれは、事案ごとの個別判断となるため、借主と貸主の意見が対立してトラブルになる可能性もあります。使用貸借契約の終了事由は民法に明記されているとはいえ、トラブルを避けるためには、契約書でその時期や目的を明確にしておくことをおすすめします。

2-5.土地の使用貸借が、親族間の相続トラブルになりやすいケース

土地を他人に無償で貸すことは、あまりありません。土地の使用貸借で多いのは、親が所有する土地を子に使用貸借するケースです。

その際、土地を使用貸借で借りている親族と、その土地を相続する親族が別の人になると、問題が生じやすくなります。

例えば、父名義の土地の一画を次男が使用貸借で借り、次男の自宅を建てて居住しているといった場合で、父の死亡後に、長男がその土地全体を相続するようなケースです。

このケースでは、長男が貸主、次男が借主となって使用貸借契約が継続することとなりますが、後にその使用貸借部分の権利を巡って、トラブルのタネになることがあります。

トラブルを防ぐには、使用貸借をしている土地はその借主(次男)に相続させることがベターですが、そうすると、他の親族から不満が出る恐れもあります。被相続人が生存中に、どのように相続させたいのかを親族間でよく話し合っておいたほうがいいでしょう。

3.使用貸借契約が設定されている土地を相続した人の手続き

使用貸借契約の貸主としての地位の承継自体には特別な手続きは必要ありません。

3-1.土地の所有権が相続されれば、自動的に使用貸借も相続される

使用貸借の対象となっている土地を相続により承継した人は、自身で利用する土地を相続した場合と同様に、土地の所有権移転登記を法務局でおこなう必要はあります。そうすれば、使用貸借契約の貸主としての地位は、自動的に引き継がれます。これは、遺贈(遺言)により土地を引き継いだ場合も同様です。

3-2.遺産分割手続きが完了するまでは相続人全員が貸主になる

法定相続人が1人だけの場合や、遺言により、使用貸借契約が設定されている土地を引き継ぐ人が指定されている場合、その相続人等が土地を相続します。

一方、相続人が複数人いる場合で、遺言が残されていなければ、遺産分割協議による遺産分割が完了するまでは、誰がその土地を引き継ぐかわかりません。

遺産分割協議の完了までは、すべての法定相続人がその土地を共有しているものとされます。そのため、使用貸借においては、全員が共同で貸主となっている状態です。

3-3.使用貸借契約を承継した後は、内容、期間をチェックする

貸主の相続発生後、使用貸借契約は自動的に承継されますが、契約文中に、貸主が死亡したら使用貸借契約が終了する旨の定めがあれば、当然、契約は解消されます。

そのため、使用貸借契約のある土地を引き継いだ人は、その内容をなるべく早く確認しておく必要があります。特に、いつ使用貸借契約が終了するのかは、契約における重要事項です。契約に使用貸借契約の終了に関する決まりがないと、民法に定める終了事由が発生するまで、使用貸借契約が継続することとなります。

3-4.親の土地を使用貸借で借りていた子が相続人となり、その土地を相続した場合、使用貸借契約はどうなるのか?

親が所有する土地を子に使用貸借で貸していて、親の死後には、その子自身がその土地を相続するケースはよくあります。

その場合、使用貸借の借主である子が、相続後は貸主としての地位も引き継ぐことになります。同じ土地について、同じ人が、貸主でもあり借主でもある状態となってしまうのです。

このように、契約の双方の当事者が同一人物である状態を、民法では「混同」と呼びます(民法520条)。

混同が生じると、貸主の権利・義務と借主の権利・義務は互いに打ち消しあって消滅します。そのため、使用貸借契約は終了し、相続人は、単に自分の土地を自分で利用していることになります。

4.使用貸借と賃貸借、どちらになるかを判断する

土地の所有者と利用者との間で締結される契約には、使用貸借契約の他に賃貸借契約があります。どちらに該当するのか、その判断に迷うケースもあります。どちらに該当するのかによって、契約関係はもちろん、相続の場合、土地の課税評価額なども変わってくるので、正しく判断されなければなりません。

4-1.第三者への土地の賃貸借では、土地は借地権と底地に分けられる

土地を第三者(親族以外の他人)に貸して、借主が建物を建てて使用する場合、借主は借地借家法上の借地権という、非常に強い権利を得ます。

その借地権を得る対価として、通常は「権利金」が支払われ、借地権は借主のものとなります(借主は借地権者となります)。一方、借地権が設定されたとしても、土地の所有者はあくまで貸主です。そこで借主は、土地の使用に対する利用料を定期的に支払わなければなりません。これが「地代」です。

第三者に賃貸借されて借地となる土地は、借地権部分とそれ以外の部分(これを「底地権」といいます)に分割されるイメージです。

また、借地権の権利金の額と、地代の額については、それぞれ、「通常の権利金」「通常の地代」という目安が設けられています。

・通常の権利金:土地の時価×借地権割合(国税庁HPの「路線価図・評価倍率表」に記載されています。)

・通常の地代:=土地の価額(※)×(1-借地権割合)×6%
(※ 土地の価額には、実務上、過去3年間の自用地評価額が用いられます)

4-2.親族間での土地の貸し借りをしている場合

親族間で土地を貸し借りする場合は、わざわざ高額な権利金を支払って借地権者にする必要性が薄いため、通常は、借地権の対価としての権利金の授受は行われません。

権利金の授受がなく、地代も支払われていない場合は、当然、使用貸借になります。

問題は、権利金の授受がないけれど、地代が定期的に支払われている場合です。

この場合、まず支払われる地代が固定資産税相当額以下であれば、賃貸借とは認められず、使用貸借として判断されます。

では、地代が固定資産税相当額を上回っており、かつ「通常の地代」以下の場合はどうかといえば、原則的には賃貸借契約と判断されることになります。ただし、「契約当事者の関係性」や「地代の支払い状況」「地代の水準」「地代の改定実施や更新料の支払い」などの状況によっては、賃貸借と認められず、使用貸借と判断されることもあります。

裁判では、親族が固定資産税の1.5倍程度の地代を支払っていたにもかかわらず、賃貸借として認められず、使用貸借として判断された判例もあります。

抽象的ないい方になりますが、「その契約内容で第三者に貸してもおかしくない」と思われるような契約の実態があれば、親族間の土地の貸し借りでも、賃貸借と認められます。

4-3.借主が固定資産税程度を支払っている場合

土地の借主が、「地代分」として、貸主に代わって固定資産税を納税している場合もよくあります。地代が固定資産税額、またはそれ以下の場合、通常は賃貸借としては認められず、使用貸借になります。

固定資産税額は通常の地代よりも低いということもありますが、借主が支払っている固定資産税額は、民法595条1項に定められた、使用貸借における「通常の必要費」だと判断されるためです。そもそも貸主が受け取る対価ではない、ということです。

▼民法595条1項
借主は、借用物の通常の必要費を負担する。

引用元:民法595条|e-GOV検索

4-4.使用貸借または賃貸借の契約書がない場合

使用貸借になるか賃貸借になるかを判断するのに、契約書の文言が重要だと考えられるかもしれません。

しかし、使用貸借になるか賃貸借になるかの判断は、契約書の文言にかかわらず、その取引の実態に即しておこなわれます。

契約書には「賃貸借契約書」と書かれていても、実際には地代の支払いがおこなわれていなければ、その契約は使用貸借と判断されるということです。

なお、契約自体は契約書の有無にかかわらず成立します。

▼民法522条(契約の成立と方式)
2 契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。

引用元:民法522条|e-GOV検索

5.使用貸借契約が設定された土地を相続した場合の相続税

使用貸借契約が設定された土地を相続した場合、その土地は相続財産となり、相続税の課税対象となります。その場合の相続税評価はどうなるのでしょうか。

5-1.相続税における土地の評価方法の基本

まず、相続税における土地の評価方法の基本を解説します。

相続税は、被相続人が死亡した時点での、相続財産の評価額(相続税評価額)を求め、その合計額を基準にして税額を計算します。相続財産に土地がある場合は、土地の相続税評価額を算出します。

土地には、被相続人が自宅を建てていたもの(自用地)、他人に貸していたもの(貸宅地)、アパートなどの貸家を建ててその貸家を他人に貸していたもの(貸家建付地)、などの利用形態の種別があります。

例えば、他人に貸している土地は、貸主の一方的な都合で借主を退去させることはできないなど、土地の所有者であっても利用には制限があります。それを自由に処分できる自用地と同じ「価値」と評価するのではバランスに欠けます。

そのため、相続税評価においては、土地の利用状況に応じて評価額の計算方法を変えることとされています。

以下の表は、土地の利用状況の区分と、その相続税評価額の計算方法の概略です。

 自用地貸家建付地貸宅地
定義自分で利用している土地貸家を建ててその貸家を他人に貸している土地他人に貸している土地
相続税評価額の計算式土地の相続税評価額土地の相続税評価額×(1-借地権割合×借家権割合)土地の相続税評価額×(1-借地権割合)
計算例
(土地の相続税評価額を1億円、借地権割合を50%、借家権割合を30%とした場合)
1億円1億円×(1-0.5×0.3)=8,500万円1億円×(1-0.5)=5,000万円

土地の相続税評価額は自用地が一番高く、続いて貸家建付地、貸宅地の順となります。

つまり、同じ土地でも、自用地として評価されると、相続税負担はもっとも大きくなり、貸家建付地、貸宅地の順に、その負担が小さくなっていきます。

5-2.使用貸借で貸している土地は、自用地評価となる

使用貸借契約により土地を貸している場合、その土地は相続税法上、自用地に分類されます。

使用貸借が設定されている土地は、人に貸していて自分では利用していないにもかかわらず、貸宅地ではなく自用地になることは不思議かもしれません。

国税庁によると、その理由は、「使用貸借は、対価を伴わずに貸主、借主間の人的つながりのみを基盤とするもので借主の権利は極めて弱いことから、宅地の評価に当たってはこのような使用借権の価額を控除すべきではありません」とされています。

(参考)国税庁ホームページ「宅地の評価単位-使用貸借

つまり、貸しているとはいえ、賃貸借と比較して借主の権利が極めて弱く、貸主が土地を利用しようとする際に制約をほとんど受けない使用貸借では、自用地として評価することが妥当だとされているのです。

5-2-1.使用貸借で借りている土地に借主が貸家を建てている場合、貸家建付地にならないのか?

使用貸借で土地を借りている人が、その土地の上に自分で貸家を建てて、他人を住まわせている場合があります。子が親の土地を使用貸借して、子の資金で賃貸アパートを建てたような場合です。

この場合、そのアパートに住んでいる借家人は第三者ですが、その借家人の権利は土地の借主の権利があることではじめて認められるものです。

そして、土地の借主の権利は使用貸借に基づく脆弱な権利であることから、借家人の権利もまた脆弱なものとなります。

そのため、使用貸借で借りている土地に借主が貸家を建てた場合も、その土地は自用地として評価額を計算することとされています。

5-3.使用貸借を賃貸借に変更しておけば、課税評価額を下げられる?

自用地は、貸宅地よりも相続税評価額が高くなります。そこで、それを避けたいことから、相続発生前に使用貸借契約を賃貸借契約に変更してくという考え方があります。

賃貸借契約であることが認められれば、貸宅地としての評価とすることができます。

例えば親子間での土地の貸し借りであれば、使用貸借を賃貸借に変更することは、簡単にできると思われるかもしれません。

しかしその場合には、以下のような注意点があるので、よく理解しておいてください。

5-3-1.賃貸借と認められる程度の地代の支払いが必要

先に述べたように、土地が賃貸借契約と認められるためには、権利金を支払うか、最低でも固定資産税を超える金額、できれば「通常の地代」程度の地代を支払う必要があります。

また、仮に賃貸借契約書を作成して、その契約書に「通常の地代」程度の地代の支払いが明記されていたとしても、実際の支払いがなければ、賃貸借とは認められないでしょう。

実際に定期的に銀行振込などをして、支払いの証拠を残しておく必要があります。

5-3-2.権利金相当額の贈与税が課される場合がある

使用貸借を賃貸借に変更した場合で、権利金の支払いがなされない場合、貸主から借主に借地権の権利金相当額が贈与されたとみなされて、借主に贈与税が課税されるリスクがあります。

5-3-3.受領した地代が被相続人の相続財産となれば、相続税が課税される

子が親の土地を賃貸借して、きちんと「相当の地代」を支払い続けたとします。

親が、受け取った地代を貯金していたとすれば、その貯金は相続の際に、相続財産として課税対象になります。現預金は土地のような評価減が一切なく、額面100%で評価されるため、場合によっては、地代を支払わずに土地を使用貸借していた場合よりも、相続財産全体の相続税課税評価額は増えてしまうかもしれません。

以上、使用貸借を賃貸借に変更する場合には、簡単には判断できない税務上の注意点がいくつかあります。場合によっては、かえって課税上不利になってしまうこともあるので、相続専門の税理士に相談してアドバイスを受けたほうがいいでしょう。

5-4.使用貸借している土地に、小規模宅地等の特例は適用できるのか

「小規模宅地等の特例」とは、面積や利用状況などが一定の条件に当てはまる土地が相続財産となっている場合に、届出をすることで、その土地の相続税評価額が最大80%減額されるという制度です。

適用できれば土地の課税評価額を大きく引き下げることができる有利な制度ですが、使用貸借契約が設定されている土地でも適用可能なのでしょうか?

5-4-1.被相続人と相続人が生計を一にして同居していれば適用の可能性がある

小規模宅地等の特例が適用できる土地には、大きくわけると「被相続人等の事業の用に供されていた宅地等(特定事業用宅地等)」と「被相続人等の居住の用に供されていた宅地等(特定居住用宅地等)」の2種類があります。

使用貸借している土地は無償で貸しているので、事業用の土地には該当しません。

一方、特定居住用宅地等に該当する条件は、「被相続人が住んでいた宅地」の場合と、「被相続人と生計を一にしていた被相続人の親族が住んでいた宅地」の場合があります。「生計を一にする」とは、要するに生活資金を“同じ財布”から出し入れして暮らしているということです。

親から使用貸借で借りた土地に、子が自宅を建て、その家に親子が生計を1つにして同居している場合は、子がその土地を相続した際、小規模宅地等の特例適用対象に該当する可能性があります。

ただし、小規模宅地等の特例制度には、他にも土地の面積など、複雑な要件がいくつも定められています。

くわしくは下記の記事を参照ください。

(参考)土地を相続するとき、必ずチェックすべき小規模宅地等の特例とは?

6.被相続人が法人に対して使用貸借で土地を貸していた場合の課税関係

ここまではすべて、個人間の土地の貸し借りを前提に説明してきました。しかし、土地を所有する個人(被相続人)が、法人(会社)を相手に土地を貸していることもあります。

例えば、オーナー社長が自分の所有する土地を会社に貸して、そこに会社が営業所や工場を建てていたといった場合です。

この場合でも、借主が貸主に権利金と通常の地代を支払っていれば、個人間の取引と同じく賃貸借契約となり特に問題はありません。

問題となるのは、権利金の支払いがなく、相当の地代も支払われていない場合です。この場合は税務上、「個人が法人に借地権をタダであげた(法人がタダで借地権をもらった)」とみなされて、その借地権に法人税が課されます。これを「借地権の認定課税」と呼びます。

そこで、法人が税務署に対して「この土地はもらったものではありません。後で必ず返します」ということを約束する、「無償返還届出書」と呼ばれる書類を提出すると、借地権の認定課税を避けることができます。

そして、この届出書を提出しているか否かで、被相続人が所有する土地の評価方法が変わることとなります。

無償返還届出書が提出されており、通常の地代が支払われていれば、「自用地評価額×80%」が評価額となります。地代が固定資産税以下しか支払われていなければ、自用地評価となります。

ここで説明したのは概略のみです。いずれにしても、個人・法人間での土地の貸借関係の税務は複雑であるため、必ず税理士に相談したほうがいいでしょう。

7.相続人以外との使用貸借契約があった土地を相続した後に、契約の継続を望まない場合の対処法

使用貸借契約が設定された土地を相続した相続人が、その土地を自分で使いたい、あるいは借主との関係が良くないなどの理由で、使用貸借契約の継続を望まないことがあります。

この場合の対応は以下の通りです。

7-1.貸主から使用貸借契約を解除できる場合とできない場合

使用貸借契約の貸主は、一定の条件を満たす場合には、使用貸借契約を解除することができます。貸主から契約解除できない場合と、できる場合を確認しておきます。

7-1-1.貸主から使用貸借契約を解除できない場合

使用貸借契約書において、使用貸借契約の期間や目的が明記されている場合には、貸主にどのような理由があっても、貸主から契約を解除することはできません。

期間は、例えば「契約日から10年間」「2030年12月31日まで」というように定められます。また目的とは、使用貸借により借主が土地をどのように利用するかということです。

例えば、「借主が自宅を建てて居住するために利用する」とあれば、その目的が継続している間(つまり借主がその家に住んでる間)は、貸主から一方的に契約解除をすることはできないのです。

7-1-2.契約に使用貸借契約の期間や目的の定めがない場合、いつでも契約を解除できる

使用貸借契約書に、期間や目的が“記載されていない”場合は、貸主はいつでも使用貸借契約を解除できます。

なお、貸主から契約解除を申し出る際には、口頭で契約解除を通知するだけではなく、「契約解除の合意書」とした書面を作成しなければなりません。

7-2.使用貸借契約を解除したい場合の対処法(1)立ち退き料を提示して交渉する

契約書に使用貸借契約の期間や目的が明記されており、貸主から一方的に契約解除をできない場合でも、借主と交渉して両者の合意が得られれば、もちろん契約解除は可能です。

その際、借主とすれば、契約の期間や目的が達成される前にその土地を明け渡すためには、それ相応の経済的な見返りが欲しいと思うでしょう。

そこで貸主としては、見返りとしての「立ち退き料」の支払いを提示して、契約解除に同意してもらえるよう交渉することが一般的です。

7-3.使用貸借契約を解除したい場合の対処法(2)立ち退きが拒否される場合は、有償の賃貸借契約への変更を交渉する

使用貸借している土地の上に借主が自宅を建て、まだローンの返済も残っているような場合など、立ち退き料を提示しても、立ち退きの合意が得られないこともあるでしょう。

そのような場合には、立ち退きを求めるのではなく、地代を支払ってもらう賃貸借契約への変更を求める方法もあります。ただし、賃貸借に変更する場合は、先に述べた変更に際しての注意点があります。

7-3-1.賃貸借契約は使用貸借よりも借主の権利が強いことに注意

また、使用貸借契約から賃貸借契約に変更すると、貸主にとってはデメリットもあります。

それは、賃貸借契約になると借主の権利はより強くなり、貸主の都合で契約解除することは、原則的に不可能になる点です。更新があるのでいつまでも継続し、借主からの契約解除がない限り、自分で利用することができなくなります。

また、借地契約は借主の死亡後も相続されるので消滅しません。

 使用貸借契約賃貸借契約
貸主からの解除できるできない
法定更新なしあり
借主が死亡した場合契約終了借主の相続人に相続される

7-4.使用貸借契約を解除したい場合の対処法(3)借主への譲渡を交渉する

(1)(2)の方法が難しい場合、借主に対してその土地の譲渡を提案する方法もあります。

借主がその土地をどうしても利用したいという事情があるならば、むしろ買い取ってもらったほうが、今後も安心して利用できるはずだと話して交渉するのです。

もちろん、借主に相応の資力があることが前提となり、また、譲渡価格の決定までにはさらに交渉が必要となります。

7-5.使用貸借契約を解除したい場合の対処法(4)貸している土地の第三者への譲渡を検討する

使用貸借契約が設定されている土地であっても、第三者に売却することができます。売却が行われた場合、原則として、借主は土地の新所有者に対して、使用貸借の権利を対抗(主張)できません。新所有者から立ち退きを求められれば、立ち退かざるを得ません。

ただし、個別の事情によっては、借主が訴訟を起こせば、裁判所が新所有者の立ち退き要求を権利の濫用であるとして、それを認めない場合もあります。

7-6.使用貸借契約は口約束が多いため、法的なトラブルになりやすい

親族間の使用貸借では、契約書を作らず、口約束や暗黙の了解でおこなわれているケースのほうが多いでしょう。すると、貸主や借主が死亡した場合、相続人にはその口約束の内容がわからないために困ってしまうことがよくあります。

相続発生前であれば、契約内容を契約書面にまとめておくことをおすすめします。また、契約書が作られないまま、相続を迎えてしまった場合は、トラブルが深刻化する前に、相続問題の経験が豊富な司法書士や弁護士に相談したほうがよいでしょう。

8.使用貸借の相続問題に関連した判例

使用貸借契約がどのタイミングで終了するのかは、民法に定められた終了事由に該当するかどうかで判断します。

この終了事由のうち、「借主の死亡」は明確ですが、「使用および収益の目的を終えた」のかどうかの判断は難しく、個々のケースごとに判断せざるを得ません。

そこで、使用貸借の終了について裁判所はどのように判断しているのか、過去の裁判例を確認しておきましょう。

8-1.【判例1】使用貸借契約の終了が認められなかった例

東京地方裁判所が平成5年9月14日に下した判決をご紹介します。

この裁判では、使用貸借契約の借主が死亡し、その借主が経営する企業の工場などの建物が建っている土地の使用貸借契約が終了すると貸主が主張したため、裁判となりました。

この裁判で裁判所は、借主の相続人が借主としての地位を相続できる要件として、以下の3つを示しました。

  • 土地の使用貸借であり、かつ、その敷地上の建物を所有することを目的としている
  • 建物所有の用途にしたがって土地の使用を終えていない
  • 建物所有の用途にしたがって土地の使用を終えたときに土地の返還の時期が到来するものと解するのが相当でないような特段の事情がない

これらの要件をすべて満たす場合には、使用貸借契約の借主としての地位を相続できるとしました。また、「当事者間の個人的要素以上に敷地上の建物所有の目的が重視されるべき」としています。

さらに「借主が死亡したとしても、土地に関する使用貸借契約が当然に終了するということにはならない」として、使用貸借契約の借主の地位を相続人が相続することを認めたのです。

8-2.【判例2】使用貸借契約の終了が認められた例

使用貸借契約において、借主の地位の相続を認めなかった裁判例もあります。

ここでは、平成3年5月9日の東京地方裁判所での判決をご紹介します。

この事例は、使用貸借契約が成立する前提となっていた目的が失われたために、使用貸借契約の終了を裁判所が認めたものです。

親と娘婿との間で土地の使用貸借契約が締結されていました。

この契約は、将来的に娘がその土地を相続するとともに、親夫婦の老後の面倒をみることを目的としたものでした。

しかし、親より先に娘が病死してしまったこと、その後親と娘婿との関係が悪化したことで、当初の目的は達成できなくなってしまいました。

この事例について裁判所は、親と娘婿とは相互に不信を募らせ、既に信頼関係は破壊されてしまっているとした上で、親が娘婿に無償で土地を利用させてあげる実質的な理由はないとし、貸主の主張に基づいて使用貸借契約の終了を認めたのです。

9.まとめ:使用貸借の土地がある場合は、早めに専門家にご相談を!

土地の使用貸借契約は、土地の所有者の死亡によっても終了せずに相続人に承継されますが、口約束や暗黙の了解で結ばれていることがしばしばあり、当事者となる貸主や借主のいずれかが亡くなると、相続人が対応に困ることが多くあります。

そもそも、使用貸借なのか賃貸借なのかの判定をはじめ、個々のケースに応じた相続税評価、また、使用貸借のまま相続が発生した後の、借主とのトラブル予防など、一筋縄ではいかない税務上の論点も数多く登場します。

これらに適切に対応するためには、相続問題にくわしい弁護士や、相続税に強い税理士にアドバイスを受けることは必須だといえるでしょう。

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