相続税の寄付金控除とは?相続財産を寄付するメリットについて解説
相続または遺贈(遺言による贈与)により取得した現金などを国や地方自治体などに寄付すると、寄付をした財産は、相続税の計算から除外されます。
また、寄付先によっては、財産を相続した人の所得税や住民税の負担も軽減されます。相続財産を寄付するときは、税負担の軽減効果を把握することが重要です。
今回は、遺言による遺贈や相続で取得した財産を寄付したときに受けられる控除について、相続税専門の税理士が解説します。
この記事の目次 [表示]
1.相続税の寄付金控除で税負担を軽減できる!所得税・住民税を減らせることも
相続した財産を、国や地方自治体などに寄付すると、相続税の負担を軽減できる場合があります。また、所定の要件を満たすと所得税や住民税の負担も減らせる可能性があります。
1-1. 相続税の非課税の特例
相続によって取得した財産のうち、国や地方自治体、NPO法人(特定の認定を受けたもの)などに寄付したものは、相続税の対象外となります。たとえば、相続財産のうち50万円の現金を国や地方自治体に寄付したとしましょう。相続税を計算するときは、寄付した50万円は除外されます。
非課税の特例を受けられるのは、相続または遺贈で取得した財産を寄付したときです。また特例の対象となる財産には、生命保険金や退職手当金も含まれます。
1-2.所得税の寄付金控除
国や地方自治体などに寄付をした場合、相続人の所得税の確定申告において、一定の場合寄付金控除を受けられます。
この場合、所得税の計算において、課税の対象となる所得から一定額が差し引かれるため、税負担を軽減できます。
1-3.住民税の寄付金税額控除
相続した財産を、国や地方自治体などに寄付したときは、住民税の寄付金税額控除の対象となります。
住民税の寄付金税額控除には「基本控除」と「特例控除」があります。このうち特例控除を受けられるのは、総務大臣が指定する都道府県・市区町村への寄付したときです。
たとえば、相続した財産を地方自治体に「ふるさと納税」すると、特例控除が受けられます。一方、特定の公益法人や認定NPO法人などに寄付をしたときは、特例控除は受けられません。
2.具体的にはどれくらい減らせる?計算例や実例をチェック!
では、相続した財産を寄付すると、税負担はどれほど軽減できるのでしょうか。ここでは、相続財産を寄付し、相続税と所得税、住民税すべての控除が受けられるケースにおける減税額を試算します。
2-1.相続税の減額分
相続税の減額分は、次の式で計算が可能です。
相続税の税率は、課税の対象となる財産を、法令で定められた割合(法定相続分)に応じて相続人間で分けたと仮定したときの金額によって決まります。
相続税の計算方法や、税率については下記の記事をご覧ください。
(参考)相続税の税率が知りたい!相続税額が算出する計算式と手順は?
2-2.所得税の減額分
所得税の減額分は、次の計算式で求められます。
寄付した金額から2,000円を差し引いた金額に、所得税率と1.021を掛けた分だけ所得税が減額されます。
所得税の税率は、課税の対象となる所得の金額に応じて決まります。また1.021を乗じるのは、令和19年(2037年)まで所得税の2.1%を「復興特別所得税」として納める必要があるためです。
ただし「寄付した金額」は、総所得金額の40%が限度となります。
2-3.住民税の減額分
住民税の減額分については、基本控除額と特例控除額を別々に計算します。
2-3-1.「基本控除額」
基本控除額の計算方法は、以下のとおりです。
住民税の税率は、ほとんどの自治体で10%となっています。そのため寄付した金額から2,000円を差し引いた金額に10%をかけると、住民税の基本控除額となります。
ただし「寄付した金額」にできるのは、総所得金額の30%が限度です。
2-3-2.「特例控除」
特例控除額の計算方法は、以下のとおりです。
寄付した金額から2,000円を差し引いた金額に「90%-所得税率×1.021」を掛けて算出します。90%は、100%から住民税の税率10%を差し引いた値です。
なお特例控除額は「住民税所得割額」の20%までとなります。住民税の所得割額は、課税の対象となる所得の金額×税率(基本的に10%)で計算されます。
2-4.減税の計算例
ここでは、相続財産を寄付すると税負担をどれほど減らせるのかシミュレーションします。シミュレーションの条件は、以下のとおりです。
- 相続税率:30%
- 所得税率:40%
- 住民税率:10%
- 課税所得:2,500万円
上記の条件にあてはまる人が、相続した財産のうち40万円の現金を地方自治体に寄付したときの減税額をシミュレーションします。
2-4-1.相続税
相続税の減税額は、寄付金額40万円に相続税率30%を掛けて算出します。
相続税の減税額
- 寄付金額40万円×相続税率30%=12万円
2-4-2.所得税
所得税の減税額は、寄付金額40万円から2,000円を差し引いた金額に、所得税率40%と1.021を掛けて計算します。
所得税の減税額
- 寄付金額40万円-2,000円×所得税率40%×1.021=16万2,543円
2-4-3.住民税「基本控除額」
住民税の基本控除額を計算するときは、寄付金額40万円から2,000円を差し引いた金額に、住民税率の10%を掛けて計算します。
住民税の基本控除額
- (寄付金額40万円-2,000円)×住民税率10%=3万9,800円
2-4-4.住民税「特例控除額」
特例控除額は、寄付金額40万円から2,000円を差し引いた金額に「90%-所得税率(40%)×1.021」を掛けて計算します。
住民税の特例控除額
- (寄付金額40万円-2,000円)×(90%-所得税率40%×1.021)=19万5,656円
2-4-5.すべての減額分を合計すると?
相続税、所得税、住民税の減額分を合計した結果は、次のとおりです。
合計減税額
- 相続税の減額分:12万円
- 所得税の減額分:16万2,543円
- 住民税の基本控除額:3万9,800円
- 住民税の特例控除額:19万5,656円
● 合計節税額:12万円+16万2,543円+3万9,800円+19万5,656円=51万7,999円
よって、40万円の相続財産を地方自治体に寄付することで、合計で「約51万8,000円」も節税できる結果となりました。
相続した財産の寄付は、社会貢献にもつながります。たとえば、地方自治体に寄付した財産は、子どもや高齢者、障害者を支援するための事業などに使われます。
財産を相続したときは、国や地方自治体などへの寄付を検討してみてはいかがでしょうか。
3.適用を受けるには条件があります。ご注意を!
財産を寄付しても、相続税の非課税の特例が受けられないケースがあります。ここでは、非課税の特例の適用外となるケースをみていきましょう。
(1)遺言による寄付は対象外
相続税の非課税の特例を適用できるのは、相続または遺贈によって取得した相続財産を寄付したときです。財産を相続した人が、相続後に自らの意思により寄付をしなければ特例の対象にはなりません。
たとえば、亡くなった人が「財産のうち〇〇円を地方自治体に寄付する」と書かれた遺言書を作成し、そのとおりに財産が引き継がれたときは、相続税の非課税の特例の対象外となります。
一方、遺言によって引き継いだ財産を相続人が自分の意思で寄付したときは、非課税の特例の対象です。
(2)相続の開始から10か月以内に寄付をして相続税を申告する
相続税の申告期限は「相続開始を知った日から10か月以内」です。遺言書がない場合は、申告期限までに遺産分割協議を終えて必要書類をそろえて税務署に提出し、相続税を納める必要があります。
そのため相続税の非課税の特例を受けるのであれば、相続開始を知った日から10か月以内に国や地方自治体に相続財産を寄付し、必要な書類をそろえたうえで申告まで済まさなければなりません。
(3)寄付金受領証明書の添付が必要
相続税を申告する際は、相続税申告書に寄付を証明する「寄付金受領証明書」を添付しなければなりません。
たとえば、国や地方自治体、特定の公益法人に寄付した場合、非課税の特例を受けるためには、財産の贈与を受けた旨、受けた年月日、財産の明細などが記載された書類を発行してもらう必要があります。
ふるさと納税をしたときは、地方自治体から以下のような寄付金受領証明書が送付されます。
(4)現金に換えてはダメ!
相続税の非課税の特例を受けるためには、相続した財産をそのままの形で寄付する必要があります。たとえば、相続した不動産や株式を現金に変えてから寄付をすると、非課税の特例の適用対象外となります。
なお、寄付先によっては、現金の寄付のみを受け付けていることがあるため、事前に確認をしておきましょう。
4.どこに寄付しても減税されるわけではありません
相続税の寄付金控除を受けるためには、特例の対象となる寄付先に寄付をしなければなりません。非課税の特例の対象となるのは、国や地方自治体、認定NPO法人、特定公益増進法人などです。
なお寄付先の多くには、専用の窓口が設けられています。寄付をする際は、事前に窓口へ問い合わせて手続きの方法や特例の対象となるかどうかを確認しておくと良いでしょう。
(1)国や地方自治体
国や地方自治体(都道府県・市区町村)に寄付したときは、相続税の非課税の特例の対象となります。また所得税の寄付金控除や、住民税の基本控除も受けられます。
さらに地方自治体に寄付した場合は、住民税の「特例控除」も対象となります。地方自治体への寄付は、「ふるさと納税」が代表的で、返礼品などを受領することもできます。
(2)認定NPO法人や特定公益増進法人等
認定NPO法人とは、NPO法人(特定非営利活動法人)のうち、設立年数や寄付実績などが一定の条件を満たした団体です。
特定の公益増進法人は、教育や科学の振興などに貢献することが著しいと認められる公益を目的とする事業を行う特定の法人です。たとえば、私立大学・高校などの学校法人や、日本赤十字社、ユニセフ、日本育英会が特定の公益法人にあたります。
特定の公益法人へ寄付する場合の注意点
特定の公益法人は、独立行政法人社会福祉法人などに限定されています。また寄付をする時点で、すでに設立されていなければなりません。特定の公益法人が設立される前の寄付や設立に貢献するための寄付は、非課税の特例の対象外となります。
また、特定の公益法人が寄付を受けてから2年を経過した日までに、①特定の公益法人に該当しないこととなった場合や、②寄付財産を2年経過日までに公益目的事業の用に供していない場合も特例は受けられません。
5.ふるさと納税はどうなるの?
ふるさと納税とは、生まれた故郷や応援したい自治体などに寄付ができる制度です。ふるさと納税をすると、所得税の寄付金控除や住民税の寄付金税額控除(基本控除+特例控除)を適用でき、税負担を軽減できます。
相続財産を自治体に寄付するとき、ふるさと納税を利用した場合も相続税の非課税の特例の対象です。よって所得税と住民税だけでなく、相続税も節税できる可能性があるのです。
ただし相続財産をふるさと納税で寄付するときは、以下の要件を満たしていなければなりません。
- 遺言による寄付ではないこと
- 相続税の申告期限(相続開始から10ヶ月以内)までにふるさと納税を行い、寄付証明書を申告書と一緒に提出すること
- ふるさと納税を行う前に遺産分割を終えていること
所得税と住民税の控除については、国や特定の公益法人に寄付したときと同様に、確定申告をすると受けられます。ただし寄付をする人が給与所得者等であり、寄付先の自治体が5団体以内である場合、ワンストップ特例を利用することができます。
ワンストップ特例は、所定の申請書を記入し必要書類を添付して寄付した自治体へ郵送するだけで税額控除が受けられる制度です。ワンストップ特例を利用すると、所得税の寄付金控除が受けられなくなる代わりに、寄付額から2,000円を差し引いた金額のすべてが住民税から控除されます。
6.宗教法人はどうなるの?
お寺などの宗教法人は、相続税の特例の対象となる「特定の公益法人」や「認定NPO法人」などに該当しません。
そのためお世話になったお寺に寄付をしても、相続税や所得税の寄付金控除は適用されないのです。
相続財産の寄付を検討するときは相続税の税理士に相談を
相続した財産を寄付して控除を受けるためには、特例の対象となる寄付先に寄付をしなければなりません。また寄付先によっては、税負担の軽減を受けられない可能性があります。
相続した財産を寄付するときは、税の専門家である税理士に相談することをおすすめします。税理士法人チェスターでは、実績が豊富な税理士が大切な財産を寄付したときの節税効果をわかりやすく説明いたします。減税額の目安をお伝えすることも可能です。
相続財産を国や地方自治体に寄付しようと考えている方は、税理士法人チェスターまでぜひお問い合わせください。
※この記事は専門家監修のもと慎重に執筆を行っておりますが、万が一記事内容に誤りがあり読者に損害が生じた場合でも当法人は一切責任を負いません。なお、ご指摘がある場合にはお手数おかけ致しますが、「お問合せフォーム→掲載記事に関するご指摘等」よりお問合せ下さい。但し、記事内容に関するご質問にはお答えできませんので予めご了承下さい。
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