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平成30年度税制改正・相続税法改正のポイント

2018/11/20

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1.はじめに

平成30年度税制改正において、一般社団法人等に対する相続税や贈与税の課税の見直し、非上場株式等に係る納税猶予制度の特例の創設の他にも、相続税法に関して様々な改正が行われました。この改正のポイントについて、以下で簡単に説明いたします。

2.相続税法の改正

(1)一般社団法人等に対する課税の見直し

Ⅰ)特定の一般社団法人等に対する相続税の課税規定の創設

ⅰ)概要

一定の要件を充たす同族経営の一般社団法人を「特定一般社団法人等」とし、特定一般社団法人の役員が死亡した場合に、当該一般社団法人自身に相続税が課税されることとしました。

具体的には、特定一般社団法人に該当するような同族経営の一般社団法人において、その理事である者が死亡した場合、以下の計算式で計算した金額に相当する金額の財産について、被相続人から遺贈により特定一般社団法人等が取得したものとみなして、特定一般社団法人等自身に相続税が課されます。ただし、特定一般社団法人等について、すでに贈与税が課された場合には、その贈与税の額を控除して計算することになります。

ここで、「同族役員」とは、一般社団法人等の理事のうち、被相続人、その配偶者又は三親等内の親族その他当該被相続人と特殊関係がある者(被相続人が会社役員となっている会社の従業員等)のことを指します。

Ⅱ)適用関係

平成30年4月1日以後の一般社団法人等の理事である者の死亡に関する相続税について適用されます。ただし、特定一般社団法人等が平成30年3月31日以前に設立されていた場合には、3年間の経過期間が設定されています。具体的には、平成33年4月1日以後の一般社団法人等の理事である者(その一般社団法人等の理事でなくなった日から5年を経過していない者を含みます。)の死亡に関する相続税について適用されます(相続税法改正附則第43条第5項)。

Ⅲ)一般社団法人等に対する贈与又は遺贈があった場合の不当減少要件の明確化

ⅰ)概要

平成30年税制改正前にも、一般社団法人を利用した相続税の租税回避行為を防止するための規定がありました(相続税法66条4項、相続税法施行令33条3項)。

相続税法66条4項において、持分の定めのない法人に対し、財産の贈与又は遺贈があった場合において、その贈与又は遺贈により贈与又は遺贈をした者の親族等の相続税又は贈与税の負担が「不当に減少する結果となると認められるとき」については、その法人を個人とみなして、これに贈与税又は相続税を課するとされています。

そして、相続税法施行令33条3項において、4つの要件を掲げ、その要件を充足するときには、上記の「不当に減少する結果となると認められない」としました。ただ、その要件を1つでも充足すれば「不当に減少する結果となると認められない」ことになり非課税となるのか、それとも、4つの要件を全て充足しなければ非課税とならないのかについて、従来の規定では明確ではなかったため、一般社団法人の仕組みを利用した相続税の租税回避行為を十分に阻止することができていない状況がありました。

そこで、平成30年税制改正において、相続税法施行令33条3項の4つの要件のうち、1つでも充足していなければ、課税対象となることが条文上明確化されました。

ⅱ)適用関係

一般社団法人等が平成30年4月1日以後に遺贈又は贈与により取得する財産に関する相続税又は贈与税について適用されます。他方、一般社団法人等が平成30年3月31日までに遺贈又は贈与により取得した財産に関する相続税又は贈与税については、従前のとおりとされています(相続税法施行令改正附則第2項)。

(2)その他の改正

Ⅰ)相続税及び贈与税の納税義務の範囲の見直し

ⅰ)概要

相続開始又は贈与の時において国外に住所を有する日本国籍を有しない者が、国内に住所を有しないこととなった時前15年以内において、国内に住所を有していた期間の合計が10年を超える被相続人又は贈与者(※)から相続若しくは遺贈又は贈与により取得する国外財産については、相続税又は贈与税を課さないこととされました(相続税法1の3、1の4)
※当該期間引き続き日本国籍を有していなかった者であって、当該相続開始又は贈与の時において国内に住所を有していないものに限ります。

ⅱ)適用関係

平成30年4月1日以後に相続もしくは遺贈又は贈与により取得する財産に係る相続税又は贈与税について適用されます(相続税法改正附則第43条第1項~第3項)。

Ⅱ)調書の電磁的提出基準の見直し

ⅰ)概要

調書の電子情報処理組織(e‐Tax)又は光ディスク等による提出義務制度について
提出義務の判定基準となる調書の枚数が引き下げられました。具体的には、基準となる「提出する期限の年の前々年に提出すべきであった調書の枚数」が、改正前は1,000枚以上であったところ、100枚以上に引き下げられました(相続税法第59条第5項)。

ⅱ)適用関係

上記の改正は、平成33年1月1日以後に提出すべき調書について適用されます。なお、平成32年12月31日以前に提出すべき調書については、従来どおりです(相続税法改正附則第43条第4項)。

3.租税特別措置法(相続税・贈与税関係)の改正

(1)非上場株式等に係る納税猶予制度の見直し

Ⅰ)概要

非上場株式等に係る贈与税・相続税の納税猶予の特例が創設されました(租税特別措置法70の7の5第1項)。その概要について、以下で簡単に説明いたします。

ⅰ)特例後継者が、特例認定承継会社の代表権を有していた者から贈与又は相続若しくは遺贈(以下、「贈与等」とします。)により当該特例認定承継会社の非上場株式等を取得した場合には、その取得した全ての非上場株式等に関する課税価格に対応する贈与税又は相続税の全額について、その特例後継者の死亡日等までその納税が猶予されます。

ⅱ)特例後継者が、特例認定承継会社の代表者以外の者から贈与等により特例認定承継会社の非上場株式等を取得した場合についても、5年の特例経営承継期間内に当該贈与等に関する申告書の提出期限が到来するものに限っては本特例の対象とされます。

ⅲ)平成30年税制改正以前から存在する事業承継税制の一般措置における雇用確保要件(5年間で平均8割以上の雇用の維持)を満たさない場合であっても、納税猶予の期限は確定せず納税猶予が継続されるとして、実質的に雇用確保要件は撤廃されました。ただ、この場合は、雇用確保要件を満たさない理由を記載した書類を都道府県に提出しなければなりません。なお、この書類は、認定経営革新等支援機関の意見が記載されているものに限ります。そして、雇用確保要件を満たさない理由が、経営状況の悪化である場合又は正当なものと認められない場合には、特例認定承継会社は、認定経営革新等支援機関から指導及び助言を受けて、当該書類にその内容を記載しなければならないとされています。

ⅳ)特例経営(贈与)承継期間経過後に、事業の継続が困難な一定の事由が生じた場合において、特例認定承継会社の非上場株式等の譲渡等をしたときには、その対価の額(譲渡等の時の相続税評価額の50%に相当する金額が下限になります。)を基に相続(贈与)税額等を再計算し、再計算した税額と直前配当等の金額との合計額が当初の納税猶予税額を下回る場合には、その差額が免除されます(再計算した税額は納付します)。

ⅴ)特例後継者が贈与者の推定相続人以外の者(その年の1月1日において20歳以上である者に限ります。)であり、かつ、その贈与者が同日において60歳以上の者である場合にも、相続時精算課税の適用を受けることができることとなりました。

Ⅱ)適用関係

平成30年1月1日以後に贈与又は相続若しくは遺贈により取得する非上場株式等について適用されます。

なお、平成30年度税制改正以前に非上場株式等についての納税猶予に関する一般措置の適用を受けていた者についても(租税特別措置法70の7、70の7の2、70の7の4)、経営(贈与又は相続)承継期間内であれば、他の贈与者又は被相続人から贈与又は相続若しくは遺贈により取得した非上場株式等について、この制度の適用を受けることができます。

(2)特定の美術品についての相続税の納税猶予制度の創設

Ⅰ)概要

文化財保護法が改正されることを前提に、「特定の美術品に係る相続税の納税猶予の制度」が創設されました。
個人が、一定の美術館と特定美術品の寄託契約を締結し、文化財保護法に規定する保存活用計画の文化庁長官の認定を受けてその美術館にその特定美術品を寄託した場合、その者が死亡し、その特定美術品を相続又は遺贈により取得した者(以下「寄託相続人」とします。)がその寄託を継続したときは、担保の提供を条件に、その寄託相続人が納付すべき相続税額のうち、その特定美術品に係る課税価格の80%に対応する相続税の納税を猶予することとされました。

簡単に言うと、文化財に該当するような美術品を美術館に預けていた人が死亡した場合に、その者を相続した人が美術館との寄託契約を継続する場合には、相続税の納税を猶予することによって美術品の散逸を防止し、美術品の保存・活用などを促進するものです。

Ⅱ)適用関係

文化財保護法及び地方教育行政の組織及び運営に関する法律の一部を改正する法律の施行日以後に相続又は遺贈により取得する特定美術品に係る相続税について適用されます。

(3)農地等に係る納税猶予制度の見直し

Ⅰ)概要

生産緑地法の改正を受けて、農地等に係る相続税や贈与税などの納税を猶予する制度が改正されました。
これは、農地等を相続、遺贈した者が農業を継続する場合に、その農業経営を税制面から支援するための制度です。従来であれば、相続人自身が相続等した農地等で農業経営をする場合を対象としていたところ、貸付をした農地についても、納税猶予の適用を認めることとしました。

Ⅱ)相続税の納税猶予についての改正点

(A)次に掲げる貸付がされた生産緑地についても納税猶予が適用されます。
a)都市農地の貸借の円滑化に関する法律に規定する認定事業計画に基づく貸付け
 b)都市農地の貸借の円滑化に関する法律に規定する特定都市農地貸付けの用に供されるための貸付け
 c)特定農地貸付けに関する農地法等の特例に関する法律(以下「特定農地貸付法」とします。)の規定により地方公共団体又は農業協同組合が行う特定農地貸付けの用に供されるための貸付け
 d)特定農地貸付法の規定により地方公共団体及び農業協同組合以外の者が行う特定農地貸付け(その者が所有する農地で行うものであって、都市農地の貸借の円滑化に関する法律に規定する協定に準じた貸付協定を締結しているものに限る。)の用に供されるための貸付け
(B)三大都市圏の特定された市以外の生産緑地について、営農継続要件を20年から終身としました。
(C)三大都市圏の特定された市の生産緑地で特定生産緑地の指定又は指定の期限の延長がされなかったものについては、その時点で適用を受けている納税猶予に限って、その猶予を継続することとしました。
(D)特例農地等の範囲に、特定生産緑地である農地等及び三大都市圏の特定された市の田園住居地域内の農地を加えることとしました。
(E)特例農地等の範囲に、コンクリート等で覆われた農作物の栽培施設の敷地を加えることとしました。

Ⅲ)贈与税の納税猶予についての改正点

上記の相続税の納税猶予についての改正点のうち、(C)(D)(E)については、贈与税の納税猶予についても適用されることとしました。

Ⅳ)適用関係

ⅰ)上記(A)の改正は、都市農地の貸借の円滑化に関する法律の施行の日以後に相続又は遺贈により取得をする特例農地等に関する相続税について適用されます。ただし、旧法の納税猶予が適用される者に関する改正については、都市農地の貸借の円滑化に関する法律の施行の日以後に農地を貸付けた場合について適用されます。

ⅱ)上記(B)の改正は、都市農地の貸借の円滑化に関する法律の施行の日以後に相続又は遺贈により取得をする特例農地等に関する相続税について適用されます。そして、同日より前に相続又は遺贈により取得をした特例農地等に関する相続税については従来どおりとされています。

ⅲ)上記(C)(D)の改正は、平成30年4月1日以後に相続若しくは遺贈又は贈与により取得をする特例適用農地等に関する相続税又は贈与税について適用されます。そして、同日より前に相続若しくは遺贈又は贈与により取得をした特例適応農地等に関する相続税又は贈与税については従来どおりとされています。

ⅳ)上記(E)の改正は、農業経営基盤強化促進法等の一部を改正する法律の施行の日以後に相続若しくは遺贈又は贈与により取得する特例適用農地等に関する相続税又は贈与税について適用されます。そして、同日より前に相続若しくは遺贈又は贈与により取得した特例適用農地等に関する相続税又は贈与税については従来どおりとされています。

(4)小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例の見直し

Ⅰ)概要

小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例については、次のような見直しが行われました

ⅰ)被相続人の居住の用に供していた宅地等を、「被相続人の配偶者」や「被相続人と同居していた親族」以外の親族が相続又は遺贈により取得した場合に、その特例の対象者の範囲から、次に掲げる者を除外することとなりました。

➀相続開始前3年以内に、その者の三親等内の親族又はその者と特別の関係がある一定の法人が所有する日本国内にある家屋に居住したことがある者

➁相続開始時に居住の用に供していた家屋を過去に所有していたことがある者

ⅱ)相続開始直前において被相続人等の事業の用に供されていた宅地等の範囲から、相続開始前3年以内に貸付事業の用に供された宅地等(相続開始前3年を超えて引き続き事業的規模で貸付事業を行っている者が当該貸付事業の用に供したものを除きます。)を除外することとなりました。

ⅲ)介護医療院に入所したことによって被相続人の居住の用に供されなくなった家屋の敷地の用に供されていた宅地等については、相続開始直前において被相続人の居住の用に供されていたものとして本特例が適用されることとなりました。

Ⅱ)適用関係

平成30年4月1日以後に相続又は遺贈により取得する小規模宅地等に関する相続税について適用されます。他方、平成30年3月31日以前に相続又は遺贈により取得した小規模宅地等に関する相続税については、従来どおりとされています。一定の経過措置がございますので、経過措置については、税理士にご相談ください。

 

※本記事は記事投稿時点(2018年11月20日)の法令・情報に基づき作成されたものです。
現在の状況とは異なる可能性があることを予めご了承ください。

※この記事は専門家監修のもと慎重に執筆を行っておりますが、万が一記事内容に誤りがあり読者に損害が生じた場合でも当法人は一切責任を負いません。なお、ご指摘がある場合にはお手数おかけ致しますが、「お問合せフォーム→掲載記事に関するご指摘等」よりお問合せ下さい。但し、記事内容に関するご質問にはお答えできませんので予めご了承下さい。

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