生活保護受給者死亡時における相続財産の取り扱いと保護費の返還義務
生活保護費の返還義務が発生していた場合、相続人が返還費用の負担を迫られます。
生活保護受給権は本人だけの権利であり相続の対象にはなりませんが、生活保護費に関する義務は相続人が引き継ぐためです。
返還費用や借金を支払いたくないのであれば相続放棄が有効な手段です。生活保護受給者が死亡したときの相続手続や返還義務について詳しく見ていきましょう。
この記事の目次 [表示]
1.生活保護受給者の死亡における相続のポイント
生活保護受給者が死亡し、自分が相続人の立場であるとき、相続には大切なポイントがいくつかあります。
まず生活保護の受給権は相続人には引き継がれません。
しかし返還するべき要件に該当した場合、相続人に返還義務が課されるケースもあります。
銀行口座の預金はその他の預金者が死亡した場合と同じように相続人に相続されます。
注意すべきは、相続人が生活保護受給者の場合です。
生活保護受給者が相続を受けた場合、生活費の支給が止まることもあるからです。
1-1.相続しても生活保護受給権は引き継がれない
生活保護の受給権が相続によって引き継がれることはありません。
生活保護は生活に困窮する人を助ける制度であり、受給権はその個人にのみ認められたものだからです。
このように特定の人に専属する権利を一身専属の権利といい、相続や譲渡の対象にならず、差し押さえもされません。
1-2.相続人へ返還義務が課されることがある
生活保護受給者が何らかの理由で保護費を多く受け取っていた場合、全額または一部を返還しなくてはいけません。
もし返還していないまま受給者が死亡した場合や、死亡後に返還義務が判明した場合は相続人に返還義務が課されることもあります。
返還義務が生じる2つのケース
- 年収や財産の金額を偽って嘘の申請をしていたとき
- 資力があるにもかかわらず受給を続けていたとき
生活保護受給者の死亡により返還義務があるかわからない場合は、福祉事務所に問い合わせましょう。
1-2-1.年収や財産の金額を偽って嘘の申請をしていたとき
生活保護の受給申請の際に誤った収入や財産の金額を申請して不正に受給した場合は、生活保護法第七十八条により返還義務の対象となります。
以下のようなケースが該当します。
返還義務対象になること
- 仕事の収入があるのに申告していない
- 家や車などを持っているのに申告していない
第七十八条 不実の申請その他不正な手段により保護を受け、又は他人をして受けさせた者があるときは、保護費を支弁した都道府県又は市町村の長は、その費用の額の全部又は一部を、その者から徴収するほか、その徴収する額に百分の四十を乗じて得た額以下の金額を徴収することができる。
1-2-2.資力があるにもかかわらず受給を続けていたとき
資力があるにもかかわらず生活保護の受給を続けていた場合は、生活保護法第六十三条により、多く受け取ってしまった保護費を返還しなくてはいけません。
生活保護を申請するときは受給要件に該当していても、以下のような理由で資力がある状態になった場合には注意が必要です。
- 収入が増加した
- 医療給付金を受給した
- 年金を遡って受給した
第六十三条 被保護者が、急迫の場合等において資力があるにもかかわらず、保護を受けたときは、保護に要する費用を支弁した都道府県又は市町村に対して、すみやかに、その受けた保護金品に相当する金額の範囲内において保護の実施機関の定める額を返還しなければならない。
1-3.銀行口座にある預金は通常通り相続によって承継される
生活保護受給者が持っていた銀行口座は通常通り相続の対象になります。
各銀行へ預金者が死亡したことを申し出て、相続手続きをすれば預金は相続人へと承継されます。
そのため相続した預金から保護費の返還や葬祭費用を支払うことは可能です。
しかし相続前に被相続人の預金を下ろすと、使用目的によっては相続を承認したとみなされ、相続放棄ができなくなることがあるため慎重に判断しましょう。
1-4.相続人が生活保護受給者なら相続によって保護費の支給が止まることもある
相続人が生活保護受給者であった場合、相続で大きな資産をえると保護費の支給が止まることもあります。
生活保護の基準である「健康で文化的な最低限の生活」が相続資産によってできるのであれば、保護は不要であると判断されるためです。
生活保護の支給を受け続けながらも相続できる財産は少額の財産や、住むための自宅などです。
もし多額の資産を相続して生活保護の支給が停止しても、そのあと再度困窮する状態になれば再支給を申請できます。
相続が発生する場合は一度ケースワーカーに相談してみるのがよいでしょう。
2.生活保護受給者の相続人が抱く返還義務に関する疑問
自分が生活保護受給者の相続人である場合、また将来相続人となる可能性がある場合に気になるのは返還金のことです。
受給者の代わりに保護費の返還義務を迫られたとき、知っておきたいことは以下の3つです。
返還義務に関する疑問
- 保護費はいつまでに返還したらいい?
- 受け取った金額をそのまま返済するの?
- 生活保護の返還免除は可能なの?
これらは返還義務発生の原因やケースによって異なりますが、基本的な情報は抑えておきましょう。
2-1. 保護費はいつまでに返還したらいい?
返還の時効は返還義務が発生した翌日から5年間ですが、できるだけ早く返還しましょう。
生活保護の返還義務は受給者に資力が発生したとき、または不正に受給しはじめたときに発生します。
返還方法は生活保護の支給分から天引きで徴収されるケースと、払い込みにより返還納付を求められるケースの2通りです。
悪質な不正受給とみなされた場合は天引き徴収で、悪質ではないと判断されると払い込みによる返還になります。
払い込みの場合は納付書に納期が記されており、納期を守って返還しなければいけません。
納期になっても払い込みをしない場合には督促がおこなわれ、督促料金を加算されることもあります。
2-2.受け取った金額をそのまま返済するの?
生活保護の返済金額は支給された金額の一部もしくは全額です。
返還金をそのまま請求される場合と、加算金を課される場合があります。
- 急に相続金や保険金などで収入があった場合(前述の生活保護法第六十三条に該当)にはそのままの金額を返還。
- 申請時に収入や財産を偽るなどで不正に保護費を受給していた場合(前述の生活保護法第七十八条に該当)には、100分の40以内の加算金を課されることがある。
不明な場合は市町村などの支給機関に問い合わせましょう。
2-3.生活保護の返還免除は可能なの?
生活保護法の第八十条により、返還を免除されるのは市町村などの生活保護の実施機関がやむを得ない事由があると認めるときです。
しかし免除が容易に認められるとは考えにくく、多くの場合支払いがすぐにできない場合は免除ではなく分割での支払いとなります。
第八十条 保護の実施機関は、保護の変更、廃止又は停止に伴い、前渡した保護金品の全部又は一部を返還させるべき場合において、これを消費し、又は喪失した被保護者に、やむを得ない事由があると認めるときは、これを返還させないことができる。
3.生活保護費の返還金や借金があれば相続放棄の検討を
もしも死亡した人に生活保護の返還金や借金があった場合、相続放棄を選ぶことも検討しましょう。
相続放棄するかどうかは早めに決めなくてはなりません。相続放棄する場合、死亡を知ったときから原則3ヵ月以内の手続が必要です。
相続放棄をするか決める前に慌てて預金を引き出すと、相続放棄ができなくなることもあるので注意しましょう。
相続放棄は死亡を知ったときから3ヵ月以内に意志を示す必要がある
相続放棄をするかどうかの熟慮期間は3ヵ月と決められており、期間内に家庭裁判所で手続きをしなければなりません。
死亡した人について、まず以下のことを調べましょう。
- 生活保護の返還請求はあるのか
- 借金などのマイナスの財産があるのか
- 預金が残っていた場合、返還金や借金を返済できる金額か
生活保護を受給する場合には多額の貯金は認められません。もしたくさん貯金できるようであれば、生活保護は停止や廃止されます。
そのためプラスの財産が多いというケースはあまり考えにくく、そのあとのトラブルも予想されるのであれば相続放棄を検討したほうがよいでしょう。
親族が亡くなったとなれば葬儀の準備や公的機関での手続きなどでゆっくりもしていられませんが、できるだけ早急に調査することが必要です。
3-1.【注意】口座凍結前に返還金や生活資金を引き出すと相続放棄ができなくなる
相続人の行動によっては、相続放棄ができなくなるケースもあるので注意が必要です。
その行動とは「死亡した人の口座から自分が使うためにお金を引き出すこと」。
銀行口座の凍結は通常相続人の申し出によっておこなわれますが、相続人の意志によらず銀行側で死亡を確認したら凍結する場合もあります。
「口座が凍結される前に預金を引き出しておかなければいけない」と考える相続人がいますが、そのあと相続放棄の可能性もあれば、慌てて引き出すのはやめておきましょう。
相続放棄はマイナスの財産もプラスの財産も含めて一切の相続を放棄するということです。
預金を引き出して自分のために使う、財産を処分するといった行為は「相続の単純承認」をしたとみなされて、そのあと相続放棄ができなくなる可能性があります。
4.相続放棄で生活保護費の返還や借金から免れても支払いが発生する費用
相続放棄で生活保護費の返還や借金から免れても、親族が亡くなったときに必要な費用があります。
葬儀費用は自治体の制度で補助を受けられる場合がありますが、アパートの退去費用や遺品整理の作業にかかる費用は基本的に親族が負担します。
4-1.葬儀費用ー自治体の葬祭扶助制度活用で補助が受けられる
次のケースに該当する場合は自治体の葬祭扶助制度を利用できます。
- 葬儀を執りおこなう親族も生活保護受給者である場合
- 親族以外の第三者が葬儀を手配する場合
この制度を利用するためには、葬儀の前に福祉事務所への申請が必要です。
葬儀にかかる費用の相場は100~200万円といわれていますが、自治体の扶助はおよそ20万円です。扶助は必要最低限の葬儀がおこなえるだけの金額と決まっているためです。
葬儀費用は自治体から葬儀社に支払われます。
生活保護受給者ではない親族が葬儀をおこなう場合は、基本的に扶助を受けられません。
4-2.アパート退去費用と遺品整理作業代ー基本的には親族負担
生活保護受給者が賃貸物件に住む場合の家賃は、多くのケースで保護費により賄っています。
受給者が亡くなった場合は退去費用も保護費から出るかというと、それは出ません。
退去費用や遺品整理にかかる作業代は、基本的には親族負担です。
退去費用とは賃貸物件を原状回復するための費用で、ハウスクリーニングや修繕などに充てられるものです。
1LDKの部屋を退去する際の相場は5万円程度ですが、物件の築年数などによっても異なります。
相続放棄したにもかかわらず、遺品を整理して売却したり、価値があるものを自分のために使用したりすると「単純相続を承認した」とみなされて相続放棄できなくなるため注意が必要です。
5.生活保護受給者の死亡による相続に関する疑問が残るなら専門家に相談
生活保護受給者が死亡したときの相続財産の取り扱いには注意が必要です。
保護費の返還義務が発生していれば、相続放棄を検討したほうがよいケースもあるからです。
しかし相続放棄を選択するかどうかの判断を一人でするのは困難でしょう。
財産や債務の調査を早急におこなう必要があり、また預金の取り扱いも相続放棄に関する知識が必要となるためです。
相続放棄の手続き以外にも、葬儀や賃貸物件の退去手続など、さまざまなケースによりわからないことが出てくることが予想されます。
もし生活保護受給者の死亡による相続で疑問があれば、相続の専門家に相談することも検討しましょう。
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