成年後見人のデメリットにはプラスの側面や対処法も!後見人には親族も視野に

成年後見人を立てるときにデメリットはつきものですが、それぞれのデメリットにはプラスの側面や対処法があります。
また被後見人の立場になって制度を見直してみると、財産管理を安心して任せられるため、メリットのほうが大きく見えることもあるでしょう。
親族が成年後見人になるほうが望ましいと最高裁判所の考えもあり、第三者ではなく親族から選任するケースもあります。
なお、認知症と診断されていても、判断力がある程度残っていると認められる場合は成年後見制度と比べて柔軟な財産管理がおこなえる、家族信託の契約を結ぶこともできます。
この記事の目次
1.成年後見人を立てるデメリット6つ-プラス面や対処法をチェック
成年後見制度をうまく活用するためには、生じるデメリットと対処法についてあらかじめ押さえておくことが重要です。成年後見人を立てる場合のデメリットは次の6つです。
成年後見人を立てるデメリット
- 後見人申立の手続に手間と時間がかかる
- 専門家の選任で月額3〜5万円ほどの出費
- 判断能力がある場合でも自身で自由にお金を動かせない
- 相続対策としての生前贈与ができなくなる
- 被後見人が亡くなるまで終了できない
- 原則として親族の同意書の提出が必要
とはいっても、成年後見人はデメリットばかりではありません。別の面から見ればプラス面もあります。成年後見人を立てる際は、制度のデメリットとプラス面を把握し、自身と家族の状況に合った対処法をとるようにしましょう。
1-1.後見人申立の手続に手間と時間がかかる-代行ですべて任せられる
成年後見人は自分たちだけで勝手に決められるものではなく、家庭裁判所への申立てが必要です。そのため、申立てのための書類を準備しなければなりません。
成年後見制度は、まず家庭裁判所の裁判官が申立書類や調査結果に基づいて、制度利用を許可できるか審査します。また、同時に成年後見人として誰がふさわしいかの審査もおこないます。
したがって、裁判官が審査の基礎とするための書類をあらかじめ準備しなければならず、申立人に負担がかかる点はデメリットです。
しかし、申立書類の準備や手続は司法書士や弁護士などの専門家に代行してもらうことができます。費用は発生しますが、必要書類の収集や申立書類の作成、家庭裁判所への申立などをすべて任せられます。
申立手続が煩雑でとても負担の場合は、専門家へ依頼することを検討しましょう。
1-2.専門家の選任で月額3〜5万円ほどの出費-費用面以外の家族の負担はなくなる
専門家を成年後見人として選任した場合、月々の費用を支払い続けなければなりません。支払いは被後見人(本人)が亡くなるまで続きます。
費用の相場は管理財産の総額により異なりますが、月額3~5万円ほどです。場合によっては追加で報酬が発生する可能性もあるため、月額3~10万円ほどの幅を見ておくとよいでしょう。
たとえば、親が認知症にかかったため、専門家を成年後見人に選任し、親が亡くなるまで10年間成年後見人を続けてもらったとします。月額3万円だと、10年間で360万円を支払う必要があります。
したがって、専門家に依頼する場合には、月々の費用負担について確認しておきましょう。
一方、専門家に依頼すれば、煩雑な申立手続や財産管理をすべて任せられます。費用面以外で家族の負担がなくなり、ミスもなく財産管理ができるので、費用がかかっても専門家に依頼したほうが結果的にはメリットが大きいでしょう。
1-3.判断能力がある場合でも自身で自由にお金を動かせない-被後見人の財産を守るため
成年後見人を立てた場合、不動産活用や株式投資などの資産運用はできません。なぜなら、成年後見制度は被後見人の保護・支援が目的であり、不動産活用や株式投資などの元本が保証されないリスクがある行為は認められていないからです。
たとえば、被後見人のためを思い「積極的に投資で資産を増やそう」と資産運用を考える場合もあるでしょう。しかし、もし失敗してしまうとかえって被後見人の不利益になります。
資産運用ができない点はデメリットですが、見方を変えれば、被後見人の財産を守るための措置ともいえるでしょう。
1-4.相続対策としての生前贈与ができなくなる-生活費のような少額の贈与なら可能
成年後見制度を利用している場合、相続税対策や節税のために生前贈与をおこなうのは困難です。なぜならば、成年後見制度は被後見人を保護・支援するための制度であり、相続税対策は相続人の利益のための行為にあたるからです。
もっとも、相続税対策ではなく、以前から生活費や教育費などを与えていた場合、家庭裁判所と相談のうえ、金額によっては認められることもあります。
たとえば、被成年後見人が認知症になる前から子どもに年間100万円を生活費として与えていたとします。あくまで親心として与えていたものが、成年後見制度を利用し始めたからといって一切認められなくなることには違和感があるでしょう。
この場合、家庭裁判所に事情を説明すると、贈与額を減額し、少額であれば扶養義務として認められるケースもあります。
実際にいくらまでなら認められるかは家庭裁判所の判断に委ねられます。
1-5.被後見人が亡くなるまで解任できない-不正行為等があった場合は解任申立が可能
いったん成年後見人を選任すると、原則として被後見人の判断能力が回復するか亡くなるまで辞めさせられません。なぜならば、被後見人の判断能力が低下したままにもかかわらず、途中で解任してしまっては被後見人の保護・支援にならないからです。
「預金を引き出す」など、当初の目的が果たせたからといって、成年後見人を解任できないことにも注意しましょう。
もっとも、法律で定められた解任事由(民法|e-Gov)を満たせば、成年後見人を解任できます。
解任事由は下記のとおりです。
成年後見人の解任事由
- 不正な行為……被後見人の財産の使い込み
- 著しい不行跡……成年後見人の素行が著しく悪い場合
- その他後見の任務に適しない事由……不適当な財産管理、職務怠慢など
上記の事由が家庭裁判所によって認められれば、成年後見人を解任できます。成年後見人に不安がある場合は家庭裁判所に相談しましょう。
1-6.原則として親族の同意書の提出が必要-提出できなくても受理されるケースはある
成年後見人選任の申立てをする際、家庭裁判所が「成年後見人として誰が適任か」を判断するために、申立人以外の親族の意見を参考にします。その際に必要なのが「親族の同意書」の提出です。
親族の同意書がないと裁判所の審理に時間がかります。しかし、申立人側の事情によっては親族に同意書を書いてもらうことが難しいケースもあるでしょう。
そこで、下記の場合については親族の同意書の提出が不要です。
親族の同意書が不要な場合
- 高齢のため同意書の作成が困難な場合
- 遠方に住んでいる・音信不通などの理由で同意書の作成依頼が困難な場合
- DVを受けているため同意書の作成依頼が困難な場合
- 未成年者である場合
親族の同意書は、成年後見人選任の必須条件ではありません。家庭裁判所の審理をスムーズに進めるためにも提出するに越したことはありませんが、無理に準備する必要はありません。
2.成年後見人を立てることで被後見人が得られるメリット
成年後見人はデメリットばかりでなく、被後見人の財産を保護し、日常の活動を支援できるメリットもあります。
具体的な内容は下記のとおりです。
成年後見人を立てるメリット
- 煩雑な財産管理をすべて任せられる
- 被後見人の財産が家庭裁判所の管理下に置かれるため不当な使い込みを防げる
- 認知症や精神障害を利用した不利益な契約を防げる
成年後見制度を利用する際は、成年後見人の役割が「被後見人の財産の保護」であることをきちんと認識しておくことが必要です。
2-1.煩雑な財産管理をすべて任せられる
成年後見人を立てると、被後見人の財産管理をすべて任せられるメリットがあります。
成年後見人ができることは下記のとおりです。
成年後見人の権限
- 銀行での手続
- 不動産売却
- 遺産分割協議への参加
- 身上監護
- 介護保険契約の締結
不動産の売却については、被後見人の居住用不動産売却、賃貸借契約の締結や解除、抵当権の設定などの手続に家庭裁判所の許可が必要です。
また、身上監護とは被後見人の病院への入退院手続、要介護申請などの契約をすることです。被後見人の意思を尊重しながら、必要に応じておこなうことが求められます。
他にも、被後見人が訪問販売などの悪質商法に引っかかってしまった場合、成年後見人が代わりに契約を取り消せます。
2-2.被後見人の財産が家庭裁判所の管理下に置かれるため不当な使い込みを防げる
成年後見人を選任すれば、被後見人の財産を家庭裁判所の管理下に置けるため、親族による横領を防げます。
たとえば、同居の親族が被後見人の預貯金を勝手に使って買い物をしている場合でも、成年後見人が選任されることで阻止できます。
また、成年後見人の選任は銀行にも届出されるので、成年後見人以外の人はたとえ親族であっても預貯金の引き出しができなくなります。
したがって、成年後見人がいることにより親族の使い込みから被後見人を守れるのです。
2-3.認知症や精神障害を利用した不利益な契約を防げる
本人が不利益な契約をしてしまった場合、成年後見人が本人に代わって契約の取り消しや代金返還請求ができます。
不利益な契約とは、たとえば悪徳業者が本人の認知症や精神障害に付け込んで不当に高額な商品を販売し、本人が購入してしまうケースが挙げられます。貴金属や寝具、リフォーム契約など、商品の種類はさまざまです。
契約を取り消せるのは原則として本人だけですが、認知症や精神障害などで判断能力が低下している場合、取り消しを主張することは難しいでしょう。
そこで、成年後見人が本人に代わって不利益な契約を取り消したり、支払い済み代金の返還を求めたりできるのです。
3.親族が成年後見人になるほうが望ましいケース
最高裁判所事務総局家庭局の資料によると、成年後見人の約80%は親族以外が選任されています。理由は、親族を成年後見人候補とする申立てが減少しているためであり、決して親族が選任されにくいわけではありません。
実際、最高裁判所は2019年3月18日、後見人について「身近な親族を選任することが望ましい」との考え方を示しました。
参考:成年後見人には「親族が望ましい」 最高裁、考え方示す|朝日新聞
成年後見人は弁護士や司法書士などの専門家が選ばれたほうがよい場合もあれば、親族が選任されたほうがよい場合もあります。
親族が成年後見人になるほうが望ましいケースは下記のとおりです。
親族が成年後見人になることが望ましいケース
- 普段から生活資金全般の管理を親族がおこなっているとき
- 専門家の選任による多額の経済的負担を負えないとき
経済状況をふまえつつ、被後見人の保護という目的が達成できるような成年後見人を候補に立てましょう。
3-1.普段から生活資金全般の管理を親族がおこなっているとき
成年後見人は一度利用を始めると被後見人が亡くなるまで業務が続く点はデメリットでしょう。しかし、日頃から被後見人の財産管理全般をおこなっている場合は、むしろ親族が成年後見人になったほうがメリットが大きいです。
たとえば、認知症の親の定期預金を解約しようとしたところ、銀行から「本人でなければ解約できません。本人に判断能力が欠けている場合は、成年後見人を選任してください」と言われたとします。
この場合、成年後見人を選任すれば定期預金を解約できますが、解約したからといって、成年後見人の業務が終了するのではなく、原則として親が亡くなるまで業務は続きます。
また、成年後見人は親の財産について1円単位で収支を管理する必要があります。
以上をふまえると、日頃から被後見人の財産管理について慣れている親族が成年後見人になるほうが業務をおこないやすいでしょう。
3-2.専門家の選任による多額の経済的負担を負えないとき
親族が成年後見人になれば、専門家を選任した場合にかかる費用を抑えられます。弁護士や司法書士などの専門家に成年後見人を依頼すると、月々3~5万円、場合によってはもっと大きい金額を被後見人が亡くなるまで払い続けます。
そのため、専門家にかかる費用を介護費用や施設入所費用に回したい場合は、親族が成年後見人になったほうが経済的負担を減らせるでしょう。
親族が日頃から財産管理全般をおこなっているのであれば、親族が成年後見人になったほうが費用面でのメリットがあります。
4.親族が成年後見人になるデメリット
親族を成年後見人に立てた場合、メリットだけでなくデメリットも生じる可能性もあります。どのようなデメリットがあるのかを押さえておきましょう。
親族が成年後見人になった場合のデメリット
- 家庭裁判所への定期報告や財産目録の作成などの負担が大きい
- 横領のようなトラブルになるおそれがある
一緒に暮らしてきた親族だからといって、必ずしも成年後見人にふさわしいとは限りません。成年後見制度の目的は被後見人の財産の保護であることをふまえ、適切な人物を候補に選びましょう。
4-1.家庭裁判所への定期報告や財産目録の作成などの負担が大きい
成年後見人は、被後見人が亡くなるまで、家庭裁判所へ財産目録の提出や定期報告をします。定期報告とは、年に1回、後見事務について家庭裁判所に報告することです。定期報告以外にも、家庭裁判所から求められた場合は都度、後見事務について報告する必要があります。
定期報告では、被後見人の財産について大まかに記載すればよいわけではなく、すべての収支について1円単位で記録し報告しなければなりません。財産目録や定期報告を怠ったり不備があったりした場合、裁判所から指導を受ける可能性もあります。
したがって、毎年正確な財産目録の作成や定期報告の準備は、成年後見人である親族にとっては大きな負担になるでしょう。
4-2.横領のようなトラブルになるおそれがある
被後見人との折り合いが悪かったり、自分の財産と被後見人の財産を区別できなかったりする親族が成年後見人になると、財産の横領がおこなわれるおそれがあります。
成年後見人自身に悪気がなくても、結果として横領に該当してしまうケースもあります。たとえば、認知症の親の成年後見人に子が選任された場合、子からすると教育費や生活費など親の財産で育ってきた感覚から、親の財産と自分の財産を区別する意識が薄いこともあるでしょう。そして、悪気なく使ってしまい、結果として横領となるケースがあります。
被後見人の財産が使い込まれた場合、別の親族が裁判所に訴えを起こせば成年後見人を解任することも可能です。しかし、新たに成年後見人を選任するとなると弁護士や司法書士などの専門家が選ばれる可能性があり、月々の報酬が発生します。
以上のように、親族が成年後見人になった場合、被後見人との関係性によっては横領のようなトラブルのリスクがあることを押さえておきましょう。
5.成年後見制度を利用しない方法を選ぶなら家族信託がおすすめ
成年後見制度を利用しないと決めた場合は、家族信託による財産管理を検討しましょう。
家族信託とは財産管理を家族に任せる制度で、次のような関係です。
委託者 | 財産管理を依頼する人 |
---|---|
受託者 | 財産管理を任される人 |
受益者 | 信託により利益を受ける人 |
たとえば、高齢の親が自らを受益者として子に財産管理を依頼するパターンが典型です。
しかし、当事者の一方の判断能力が低下している場合は、家族信託契約は結べません。なぜならば、契約締結には当事者の判断能力が求められるからです。
もっとも、認知症がまだ軽度で、契約の内容を理解できるのであれば、家族信託契約を結べる可能性があります。
家族信託は公証役場で公正証書を作成するため、公証人による契約内容の確認があります。認知症の診断を受けても、公証人から見て「契約の内容を最低限理解できている」と判断されれば、家族信託契約を結ぶことは可能です。
5-1.成年後見制度と比べると柔軟な財産管理ができる
家族信託は、成年後見制度に比べて財産活用を自由におこなえる点がメリットです。成年後見制度は被後見人の財産を保護することが目的のため、リスクのある投資に財産を活用することはできません。
一方、家族信託は成年後見制度のような制限はなく、積極的に不動産を活用したり貸付や投資したりすることが可能です。
もし、資産を有効活用したいと考えている場合は家族信託契約を結んでおくとよいでしょう。
5-2.委託者の死後の財産管理について孫の代まで決められる

▲委託者の死後の財産管理について
引用:家族信託の基本的なしくみと具体的な活用方法|税理士法人チェスター
家族信託契約を結んでおけば、委託者の死後の財産について孫あるいはその先の代まで相続内容を指定できます。
親の死後の財産については遺言で指定できますが、相続人である子が死亡した後の相続までは指定できません。そのため、親が代々受け継いだ不動産を自身の死後も守りたいと考えていても、子が相続後に自由に処分することを防げません。
一方、家族信託を活用すれば、子が勝手に不動産を処分することを防げます。たとえば、不動産を信託財産とし、親が委託者・受益者、親戚を受託者に設定します。そして、親が死亡したときは受益者を子に変更できる内容の家族信託契約を結んでおくのです。そうすれば、子は受益者として信託財産を利用できますが、受託者ではないため自由に売却することはできなくなります。
また、子が死亡したときは受益者を孫に変更する契約を盛り込むことも可能です。
以上のように、成年後見制度や遺言では難しい柔軟な取り決めができるのが家族信託のメリットといえるでしょう。
6.成年後見人を立てるべきか迷うならまずは専門家へ相談
成年後見制度について調べていると、どうしてもデメリットが目に付きがちです。しかし、見方を変えれば認知症の親の財産を守るために成年後見人を立てたほうがよい場合もあります。
成年後見人を立てるべきか、それとも他の方法を選択すべきかについて迷ったら、まずは専門家に相談してみましょう。
成年後見制度を含む親族の財産管理についての相談や、各種相続手続の代行は司法書士法人チェスターにお任せください。制度に詳しい司法書士が依頼人の状況に沿ったアドバイスをおこないます。
認知症の家族が悪徳商法に騙され不当な契約を結んでしまったなどのトラブルが発生した場合は、CST法律事務所にご相談ください。成年後見制度や消費者問題に精通した弁護士が早期解決へと導きます。
生前から相続税対策を考えたい場合は、税理士法人チェスターにご相談ください。相続分野の経験豊富な税理士が、依頼者の現況を精査し、ベストな相続税対策を提案します。
相続人になったら必ず読んでおきたい一冊
相続税専門の税理士法人チェスターが監修する、相続人が読むべき本「相続対策と相続手続き」、会社紹介と「はじめてでも分かる!相続税申告&相続対策の基本」を押さえたDVD特典付きの資料請求を無料でプレゼントしております。
これから相続が起きそうという方も、すでに相続が起きている方にも有効活用して頂ける一冊です。
今まで見たページ(最大5件)
関連性が高い記事
カテゴリから他の記事を探す
-
相続法務編