自筆証書遺言はパソコンで作成できる!作成方法および財産目録のひな形付き
これまでは、内容をすべて自身で書くことが必要とされていた自筆証書遺言。民法が改正されたことによって、2019年1月からは財産目録の部分については自書の必要がなくなり、代わりにパソコンで作ることやコピーを付けることが認められるようになりました。
自筆証書遺言は、遺言書のなかでも自分ひとりで作ることができ、費用もほとんどかからないことがメリットです。その一方で勘違いや知識不足から間違った作り方をしてしまい、形式不備となり無効となってしまうことも。自筆証書遺言の本文や添付する財産目録の作り方を確認して、残された人に自分の意思を反映させた相続ができる有効な遺言書を作りましょう。
この記事の目次 [表示]
1.自筆証書遺言に付ける財産目録をパソコンで作る方法
2018年の法改正により、自筆証書遺言に付ける財産目録をパソコンで作成できるようになりました。
自筆証書遺言の方式比較
改正前 | 改正後 | |
---|---|---|
遺言書本文 | 自書でなければならない | 自書でなければならない |
財産目録 | 自書でなければならない | ・パソコンで作成可 ・不動産の登記事項証明書など書類のコピー添付可 (※ただし、全ページに署名押印が必要) |
改正法が適用される期間 | 2019年1月12日以前作成分 | 2019年1月13日以降作成分 |
改正前は、財産目録も遺言書本文と同様、全ての記載を自分で手書きしなければならず、パソコンは一切使用不可でした。
しかし、パソコンが普及した現代にあって、遺言を全て手書きしなければならないというのは非効率的です。また、所有財産の各種証明書類はパソコンで作成、印刷されたものがほとんどです。これをすべて手書きで書き直さなければならないというのは、遺言者にとって相当な負担を強いるでしょう。
そこで、2018年7月に「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」が成立したことにより、自筆証書遺言の方式が緩和されたのです。
改正後は、財産目録については自書の必要はなく、パソコンで作成したり、不動産の登記事項証明書などの書類のコピーを添付したりすることができるようになりました。
法改正による方式緩和は2019年1月13日から適用となり、これより前に作成された自筆証書遺言には適用されません。
手書きで財産目録を作成するとなると、とても複雑で時間がかかり、書き間違いも発生しやすくなるものです。書き間違いや内容不備の部分はせっかく書いても無効となってしまいます。
しかし、法改正によりパソコンの使用が認められたことで、誤記載による遺言無効の可能性も低くなり、遺言者の負担が軽減されることとなったのです。
1-1.パソコンで作成できるのは自筆証書遺言に添付する財産目録の部分のみ
自筆証書遺言において、パソコンで作成できるのは財産目録のみです。
遺言書の種類
- 公正証書遺言
- 秘密証書遺言
- 自筆証書遺言
遺言書には3種類あります。公正証書遺言とは、公証人によって作成される遺言のことです。遺言者が公証人に対し遺言内容を伝えることにより作成します。公証人によって認証されているので、方式に誤りがあることを理由とした無効にならずに済む点がメリットです。
秘密証書遺言とは、遺言の内容を他人に知られたくない場合に作成する遺言です。作成するのは遺言者本人であり、存在のみを公証人に認証してもらいます。
自筆証書遺言とは、遺言者が自分ですべて作成する遺言です。公証人を介する必要がないため、費用がかからないメリットがあります。
この中で、手書きではなくパソコンで作成できるのは、自筆遺言証書に付ける財産目録と、秘密証書遺言です。
1-2.財産目録に記載するべき内容-財産の内容が特定できるように記載
財産目録とは、遺言者(被相続人)の相続財産をリスト化した書面のことです。作成が義務付けられているわけではありませんが、遺言者の財産を具体的かつ明確に整理し、相続に当たって誤りがないようにするためにも、作成することが推奨されています。
財産目録に記載すべき内容は下記のとおりです。
財産目録の記載内容
- 預貯金
- 不動産
- 車
- 株や投資信託等の有価証券
- 貸付金
- 貴金属
- 借金 など
財産目録を具体的かつ明確に整理することは、相続人の手続の負担を緩和させることにもつながります。財産目録にミスがあることで、相続財産が正しく把握されず相続人同士で揉めたり、遺言者自身の希望通りではない相続が行われたりする可能性が出てきてしまいます。
したがって、財産目録はきちんと財産の内容が特定できるように記載しましょう。
2.遺言書の本文とパソコンで作る財産目録のひな形
▲遺言書本文ひな形
▲財産目録ひな形
自筆証書遺言の本文は必ず自筆で書きましょう。法改正によりパソコンでの作成が可能となったのは財産目録のみです。遺言書本文自体は、日付やタイトルに至るまで必ず自筆で作成することが法律で定められています。
また、財産目録をパソコンで作成した場合であっても、日付、署名は必ず自筆で行い、押印を忘れないようにしましょう。財産目録の内容は間違えることのないよう、細心の注意を払って作成する必要があります。ワードやエクセルなどのパソコンソフトを使って作成する場合でも、都度記載内容を確認し、誤りに気付いたらすぐに修正しましょう。
間違って遺言書本文をパソコンで作成してしまうと、せっかく時間と労力をかけて書いても遺言書そのものが無効となってしまいます。したがって、自筆証書遺言の本文は全て自筆で書くようにしましょう。
3.財産目録の4つの作成方法-財産の種類や量により作りやすい方法を選ぶ
法律で認められた財産目録の作成方法は次の4つです。遺言者の相続財産の内容、作成時の状況などを考慮し、作りやすい方法を選びましょう。
財産目録の作成方法4つ
- パソコンで作る
- 必要書類のコピーを付ける
- 自筆で作る
- 代筆で作る
法改正により、財産目録の作成については要件が緩和されましたが、それでも決まり事はあります。重要な点は、遺言書本文の作成方法と混同しないことです。
作成方法についての基礎知識を押さえ、遺言者本人に合った方法を考えるようにしましょう。
3-1.パソコンで作る-エクセルなどの表計算ソフトが便利
財産目録をパソコンで作成する場合は、財産の量や価額の計算が必要なため、エクセルなどの表計算ソフトを使うと便利です。
所有財産が多く複雑で整理するのが大変な場合は、初めは手書きで思いつくままにメモし、それを見ながらパソコンに入力していくと整理しやすくなります。
また、財産目録は本人以外の家族、金融機関、税理士などの専門家が作成したものを添付することもできます。ただし、その場合は財産目録の全ページに遺言者本人の署名、押印が必要です。ページの両面に記載がある場合は、両面共に署名、押印を忘れないようにしましょう。
3-2.コピーを付ける方法で作る-不動産の登記事項証明書や通帳のコピー
相続財産に関する書類をコピーして添付することで、財産目録を作成することも可能です。所有財産の証明書類を、たとえパソコンであっても自分で一から作成することは大変労力がかかり、非効率的です。
その点、通帳や土地建物の登記事項証明書といった財産を証明する公的機関のコピーがあれば、個人がパソコンで作成した財産目録と比べてより詳細で明確な内容を示すことができます。
したがって、手書きやパソコンで一から作成しなくても、関係書類のコピーを添付することで、財産目録とすることができます。
3-3.自筆で作る-パソコンを持っていない・記載する財産が少ない場合
自宅にパソコンがなかったり、所有財産が少なく手書きが負担でなかったりする場合は、自筆で財産目録を作成することもできます。法改正により財産目録をパソコンで作成できるようになったとはいえ、手書きで作ることを妨げる趣旨ではないのです。
したがって、遺言者本人の希望により財産目録を自筆で作成することも可能となっています。
3-4.代筆で作る-代筆できる人の範囲に決まりはない
自宅にパソコンがない場合や、財産目録を全て自分で記載することが大変な場合は、第三者による代筆で作成することも可能です。代筆してもらった場合でも、全ページに遺言者本人の署名押印が求められます。代筆できる人の範囲については、法律に特に規定はなく、誰でも代筆できます。
よって、家族・親族以外の人に代筆してもらうことも可能です。遺言者が信頼できる相手に代筆してもらうとよいでしょう。その際は、内容に誤りがないか遺言者本人がしっかりと確認し、署名押印を忘れないことが大切です。
4.財産目録をパソコンなど自筆以外の方法で作る場合の注意点
財産目録をパソコンなど自筆以外の方法で作る場合、ミスのない目録を作成するため下記の点に注意が必要です。
財産目録作成における注意点
- 遺言書の本文と財産目録は別ページにする
- 財産目録には全ページに署名と押印を忘れない
- 遺言能力がある遺言書の作成 を行う
財産目録作成時にはこれらのポイントを意識しながら作成しましょう。
4-1.遺言書の本文と財産目録は別のページにする
財産目録をパソコンで作成する場合、自筆証書遺言本体とは別のページで作成する必要があります。同一ページの中で、遺言書本文を手書きし、財産目録の部分をパソコンで作成するという書き方はできません。手書きの部分とパソコンで作成された部分が同一ページ内にある遺言書は無効となります。
また、別ページにした場合でも、財産目録部分に遺言内容を書くと当該部分は無効です。たとえ手書きであっても、財産目録部分に書かれた遺言は効力を持たない点に注意しましょう。
以上より、自筆で書いた遺言書本文と自筆以外の方法で作成した財産目録を混在させないことが大切です。
4-2.財産目録は必ず毎ページに署名と押印をする
パソコンなど、自筆以外の方法で作成した財産目録には、必ず全ページに署名押印が必要です。署名押印のないページは無効となります。
パソコンでページの両面に目録を印刷した場合は、両面に署名押印が必要です。片面のみ印刷されている場合は、片面だけの署名押印でかまいません。
押印に使う印鑑は遺言書本文と同一である必要はなく、認印も使えます。もっとも、遺言者本人が作成したことを照明するため、実印を使うのがおすすめです。
自筆証書遺言では、遺言者本人の意思であることを証明する必要があります。そのため、必ず毎ページに本人の署名押印をするようにしましょう。
遺言書を作成した時点で遺言能力がないと無効になる
正式な作成法を守っていても、作成者本人が高齢で認知症が疑われる場合、判断能力がないとして無効となる場合があります。自筆証書遺言に限らず、全ての形式の遺言書に共通することであるため注意が必要です。
5.財産目録を添付する方法-特に決められていないが契印が望ましい
財産目録を遺言書に添付する方法は特に決められていません。したがって、ホチキスで留めなければならない、契印をしなければならないといった決まりはないといえます。
もっとも、遺言書本文と財産目録とがバラバラになってしまわないように、ホチキスなどでまとめた上で契印をしたほうが分かりやすいでしょう。
6.内容に間違いや追加事項がある時の訂正・加筆の方法
▲自筆証書遺言の訂正方法その1
▲自筆証書遺言の訂正方法その2
自筆証書遺言の内容を誤って記載してしまった場合、本人により訂正・加筆することができます。間違いに気付いたら、速やかに訂正しましょう。
ただし、自筆証書遺言を訂正・加筆する際の方式は、民法968条2項により厳格に定められています。守らなければならないのは下記の点です。
自筆証書遺言の訂正方法
- 遺言書作成者本人が訂正・加筆すること
- 変更箇所を明記すること
- どのように修正したかを明記すること
- 遺言者本人が署名すること
- 変更箇所に押印すること
法律で定められた方式が守って訂正しなければ、遺言は無効となってしまうため注意が必要です。
誤記載箇所を訂正する場合は、二重線で消し、文字と重ならないように押印し、横に正しい内容を追記します。
加筆する場合は、挿入記号で場所を示して正しい内容を追記し、文字と重ならないようにして近くに押印します。
そして、訂正・加筆箇所についてどう訂正したかを記入し、遺言者氏名を記入します。
7.有効な自筆証書遺言を作るための6つのチェックポイント
自筆証書遺言は形式不備により無効になるケースが多いです。したがって、作成する前に下記のポイントをしっかり意識しておくようにしましょう。
自筆証書遺言作成時のチェックポイント6つ
- 遺言書の本文は全て自筆で書いているか
- 日付を自筆で書いているか
- 遺言書の本文に署名押印しているか
- 財産目録の全ページに署名押印しているか
- 正しい方式で加筆修正しているか
- 財産や相続人は不明確でないか
7-1.遺言書の本文はすべて自筆で書いているか
自筆証書遺言の本文は、全て自筆で書くことが遺言成立の要件です。自筆証書遺言をパソコンなど自筆以外の方法で書いてしまうと無効となります。法改正により遺言の作成方法が緩和されたと言っても、パソコンや代筆で作成できるのはあくまでも財産目録のみであることに注意しましょう。
7-2.日付は年月日がわかるように自筆で書いているか
自筆証書遺言には、作成日付も自筆で書くようにしましょう。民法968条1項において、自筆証書遺言には日付を自筆することが要件として定められています。したがって、自筆で日付の記載がない遺言書は無効となります。
日付は、何年何月何日に作成したのか、はっきりわかるように記載することが重要です。年は西暦と和暦のどちらでもよいので、「令和3年4月吉日」などのようにあいまいにせず、「令和3年4月1日」のように明記しましょう。
7-3.遺言書の本文に署名押印をしているか
自筆証書遺言の本文には、遺言者本人の署名押印が必要です。なぜなら、民法968条1項において、自筆証書遺言には署名押印をすることが要件として定められているからです。したがって、署名押印のない遺言書は無効となります。
なお、この場合の押印は実印でなければならないという規定はありません。しかし、実印以外の方法で押印してしまうと、本人が押印したかどうかが疑われ、遺言の効力が争われる可能性が出てきてしまいます。
この点、実印であれば、押印は本人によるものであるとして遺言書の効力が有効であると判断されやすくなるのです。したがって、遺言書の押印は実印を使うのが望ましいでしょう。
7-4.財産目録の全てのページに署名押印をしているか
パソコンや代筆など、自筆以外の方法で財産目録を作成した場合は全てのページに署名押印をすることが必要です。
民法968条2項では、以下のように定められています。
遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない
したがって、財産目録に遺言者本人の署名押印がないものは無効となります。
財産目録の全てのページに署名押印するのはもちろんのこと、記載が両面にわたる場合には両面に署名押印が必要です。
7-5.間違いや追加事項がある場合正しい方式で加筆訂正しているか
自筆証書遺言を作成していて、書き間違いや追加事項に気付いたら、民法968条3項に定められた方式に則って加筆訂正する必要があります。正しい方式で訂正していないと、せっかく作成した遺言書が無効になってしまいます。
したがって、法律で決められた訂正方法に従って加筆訂正するよう心がけましょう。
7-6.遺言書に書かれた財産や相続人は不明確ではないか
遺言書に記載の財産内容や相続人や受遺者が不明確で、第三者が読んでも判断がつかないときは、遺言書の効力が無効となる場合があります。
あいまいな記載は遺言の効力が無効になるだけでなく、相続人間のトラブルにつながる可能性もあります。
したがって、第三者が読んでもはっきり分かるよう明確に記載しましょう。
8.有効な遺言書を作成して残された人が困らない相続を
遺言書を作成することで、遺言者は自身の所有財産をどのように相続させたいかを書面で表すことができます。しかし、遺言書の作成には法律上さまざまな決まりがあり、どれか一つでも守られていなければ、無効になってしまうのです。
民法の改正により、財産目録についてはパソコンでの作成が認められました。これにより作成者の負担がいくぶん軽減はされたものの、気をつけなければならない点はまだたくさんあります。
また、遺された人のためを思って一生懸命作成した遺言書であっても、いったん有効性が疑われると、内容について相続人や受遺者の間でトラブルにつながる可能性も。
もし、遺言書の作成に不安な点があれば、専門家に相談することをおすすめします。
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