遺言執行者とは?必要な場合と資格・選任・解任方法・報酬について徹底解説

遺言執行者とは、故人が遺した遺言書の内容を正確に実行するために、相続人全員の代理人となって、単独で相続手続きを行う義務や権限を持つ人のことです。
遺言執行者は相続人と同一人物でも法的に問題はないため、相続人の誰か1人を選任することが一般的です。
しかし相続トラブルが想定されるケースや相続財産が多いケースは、弁護士や司法書士などの専門家に報酬を支払って遺言執行することもあります。
この記事は、生前に遺言書の作成をお考えの遺言者の方(被相続人になる人)のために、遺言執行者について徹底解説します。
遺言執行者に選任された方は、「遺言執行者になったら何をするの?遺言執行者の業務内容を説明します!」で具体的な業務内容をご確認ください。
この記事の目次
1.遺言執行者とは?その義務と権限

遺言執行者とは、遺言者(亡くなった人)が遺した遺言書の内容を正確に実行するために、相続人全員の代理人として、単独で必要な相続手続きなどを行う義務や権限を持つ人の事を言います。
一般的な読み方は「ゆいごんしっこうしゃ」、法的な読み方は「いごんしっこうしゃ」、この他にも遺言執行人と呼ばれることもありますが、その義務や権限は全て同じとなります。
1-1.遺言執行者の義務
遺言執行者に選任された場合、その義務を承諾するか否かを決め、承諾する場合は直ちに相続人全員に対して「就任通知書」を送付し、自らが遺言執行者に就任した旨を連絡する義務があります(民法第1006条、第1007条)。
さらに被相続人の財産目録の作成をして相続人の確定をし、相続人全員に「相続財産の開示」を行い、各相続人の戸籍謄本等を収集して相続手続きを行います(民法第1011条)。
1-2.遺言執行者の権限
遺言執行者の権限については、民法第1012条「遺言執行者の権利義務」によって定められています。

遺言執行者には遺産の管理、つまり銀行預金や貸金庫の名義変更や解約、不動産の相続登記(名義変更)などを行い、各相続人に相続財産を遺言書の通りに分配する権限があります。
2.遺言執行者を選任する意味と役割
先述した通り、遺言内容を実現させるために、遺言執行者には権限が定められています。
その権限により、遺言執行者が単独で相続手続きを行うことが可能となり、相続手続きをスムーズに進めることができます。
相続手続きは相続人の人数が多いほど収集する書類の数も増え、署名捺印を行う書類の数も多くなります。
仮に相続人同士が疎遠であったり、利害関係者のうちの誰か1人が協力的でなかったりすれば、書類を収集する作業も難航してしまいます。
他にも、遺言者に隠し子が含まれていた場合など、利害関係者の中で「誰が相続手続きをするのか」とトラブルになる可能性も考えられます。
遺言書で遺言執行者を選任しておけば、遺言執行者が単独で相続手続きを進めることができるため、相続人など利害関係者同士の関係性によって、相続手続きが難航することはありません。
2-1.遺言書が無効であれば遺言執行者の権限もなくなる
遺言書が法的に無効であった場合は、遺言執行者には何の義務も権限もありません。
遺言書にはいくつか種類がありますが、一般的には「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」のどちらかを選択されるかと思います。
しかし「自筆証書遺言」は民法で書き方が細かく定められており、書き方を間違えていたり、日付や内容が曖昧であったりすれば、無効になってしまうリスクが高くなります。
「公正遺言証書」であれば法的に無効になるケースはほとんどありませんが、遺言者に判断能力がないと判断されてしまうと、無効になることもあります。
遺言執行者を選任して遺言書を作成しても、無効になってしまっては意味がありません。
「遺言書が無効になる事例と無効にならないための対策」にて、遺言書作成時の注意ポイントをご紹介しておりますので、ぜひご一読ください。
3.遺言執行者の選任は絶対に必要か?
遺言書の内容などによって、遺言執行者の選任が「絶対に必要な場合」と「あってもなくても良い場合」と「不要な場合」があります。
しかし実務的には、遺言内容や法的内容に関わらず、遺言執行者を指定するケースがほとんどですので覚えておきましょう。
3-1.遺言執行者の選任が絶対に必要な場合

遺言執行者の選任が絶対に必要となるのは、遺言書に「相続廃除」や「認知」についての記載をする場合です。
①相続廃除
相続廃除とは、推定相続人(相続する権利を有する人)の中に、遺言者に対して虐待・侮辱・著しい非行などを行った人がいる場合に、遺言者の意思によって、該当する推定相続人に対して遺産を渡さない、つまり、相続人としての権利を奪うことを言います。
遺言によって相続廃除を行う場合には、相続廃除の手続きを家庭裁判所で行う必要があるため、遺言執行者の選任が必要となります。
相続廃除の詳細について、詳しくは「相続廃除で相続させたくない相続人の権利をはく奪できる?」をご覧ください。
②認知
認知とは婚姻関係にない男女の間に生まれた子(非嫡出子)を、自分の子であると認める行為のことです。
認知されると「子」として認められるため、相続人として遺産を受け取ることが可能になります。
遺言による認知の場合には、遺言執行者が認知届けなどの手続きを行う必要があります。
遺言認知について、詳しくは「遺言で子供を認知することができる「遺言認知」とは?」をご覧ください。
3-2.遺言執行者の選任があってもなくても良い場合

遺言執行者の選任があってもなくても良いのは、遺言書に「遺贈」「遺産分割方法の指定」「寄与分の指定」の記載のみをする場合です。
なお、遺言執行者の選任をしない場合は、相続人が遺言の内容を実行することとなります。
①遺贈
遺贈とは、相続人ではない人(血縁関係は関係なし)に、被相続人の財産を譲り渡すことを言います。
例えば、実際の相続人は配偶者と子ですが、孫にも遺産を遺したいと思ってその旨を遺言書に記載していた場合、孫に譲り渡される財産は「相続」ではなく「遺贈」となります。
遺贈について、詳しくは「遺贈(いぞう)と相続って何が違うの?」をご覧ください。
②遺産分割方法の指定
遺産分割の指定とは、「誰」に「何」を「どれだけ相続(遺贈)させるのか」を指定することです。
ただし、相続人が遺留分を持っている場合、遺留分を侵害するような遺産分割を記載してしまうと、その部分に関しては無効となる可能性がありますので注意が必要です。
遺留分侵害額請求について、詳しくは「遺留分侵害額請求(遺留分減殺請求)とは?計算方法・時効・手続きの流れ」をご覧ください。
③寄与分の指定
被相続人に対して何かしらの形で奉仕していた相続人がいる場合、その相続人の相続分を増やして相続させることができます。
この増やした相続分を「寄与分」といい、この寄与分を受け取ることができる行為を寄与行為といいます。
寄与分について、詳しくは「寄与分と寄与行為~被相続人に特別な貢献をしていると相続分が増える?」をご覧ください。
3-3.遺言執行者の選任が不要な場合
そもそも遺言書がない場合には、遺言執行者の選任は不要です。
遺言書がない場合の遺産の分割は、相続人全員で遺産分割協議による話合いによって決定します。
4.遺言執行者になれる人と資格がない人
民法第1009条によって、遺言執行者の資格がない人(なれない人)が定められていますので、この点にはご注意ください。

また、遺言執行者は1人でも良いですし、複数人を選任しても良いですが、遺言者が複数人記載されている場合は、相続人の過半数によって任務の執行を行うこととなります(民法第1006条、第1017条)。
4-1.遺言執行者になれる人
遺言執行者になれる人は、遺言執行者の資格がない人以外であれば、誰でも構いません。
一般的には、相続人のうちの誰か(遺言者の配偶者や子供など)か、遺言書作成の相談をした専門家(弁護士や司法書士など)となります。
遺言執行者に就任することは相続人の利害には特に関係しないので、相続人と同一人物であっても法的に問題はありません。
4-2.遺言執行者の資格がない人
遺言執行者の資格がない人は「未成年者」と「破産者」です。
未成年者や破産者に該当するかの判定を行うのは、遺言書の作成時ではなく、遺言者の死亡時点となります。
つまり、遺言書の作成時に未成年者であっても、遺言者の死亡時点で成人していれば遺言執行者になれます。
逆に、遺言書の作成時に債務がない人であっても、遺言者の死亡時点で破産者になっていれば、遺言執行者になる資格はありません。
5.遺言執行者を選任する3つの方法【書き方あり】
遺言執行者を選任する方法は、遺言書に遺言執行者に関する記載をしておくのが一般的です。
しかし、家庭裁判所に遺言執行者選任の申立てを行い、遺言執行者を家庭裁判所に選任してもらう方法もあります。
(1)遺言書で遺言執行者を指定する場合
遺言書で遺言執行者を指定する場合、遺言書にその旨を記載する必要があります。
以下は、遺言執行者の指名に関する、一般的な遺言書の書き方ですので参考にしてください(必ず専門家に内容や書き方をご相談ください)。

遺言執行者の指定に関する内容は、遺産分割方法の指定などの後(遺言書の最後の条)に記載します。
なお、遺言執行者を複数名にする場合や、遺言執行者が死亡したことを想定して第二順位の遺言執行者を指定する場合や、遺言執行者に報酬を支払う場合(次章を参照)は、その旨についても記載が必要となります。
もちろん、遺言執行者に指定する人には事前にお知らせしておかないと、とんだサプライズになってしまいますので、予め遺言執行者となる人にお願いしておきましょう。
(2)第三者によって遺言執行者を指定する場合
遺言書に遺言執行者そのものの指定はせずに、「遺言執行者を決めてもらう第三者」を指定する、ちょっと遠まわりな方法もあります。
なぜこのような遠まわりな方法をとるのか疑問に思われるかもしれませんが、これは「遺言者が遺言を作成している時」と「実際の相続開始時」で状況等が変わっている可能性があるためです(例:遺言執行者の死亡など)。
そのため、遺言執行者を決めてもらう人だけを指定しておき、相続が発生したその時に一番ふさわしい人に、遺言執行者を指定してもらう方法と考えていただければと思います。
(3)家庭裁判所が遺言執行者を選任する場合
家庭裁判所が遺言執行者を選任する場合は、家庭裁判所に遺言執行者の申立てを行う必要があります。
例えば、遺言執行者が必要なのに遺言書に遺言執行者の指定の記載がない場合、遺言執行者に指定された人が辞任・解任された場合、遺言執行者に指定されている人がすでに死亡している場合などが該当します。
①遺言執行者選任申立て
相続人や遺言者の債権者など利害関係のあるものが、遺言者の住所地の家庭裁判所に申し立てを行います。
なお、家庭裁判所に申立てを行うには、事前に遺言執行者の候補者を決めておく必要があります(未成年者や破産者は資格がありません)。
②必要書類
家庭裁判所に遺言執行者の申立てを行う際、以下の必要書類の提出が求められます。

遺言執行者選任の申立書の様式については、裁判所のホームページからダウンロードできます。
ただし、家庭裁判所によって書式が変わる場合や、上記の他に申立人の身分証明書などの提出を求められる場合もありますので、申立てを行う家庭裁判所に事前に問い合わせた方が良いでしょう。
③申立てにかかる費用
家庭裁判所に遺言執行者の申立てを行う際の費用は、収入印紙(800円/遺言1通につき)と、連絡用の郵便切手です。
なお、連絡用の郵便切手の金額については、申立てする家庭裁判所へ確認をしましょう。
6.遺言執行者の報酬
遺言執行者には、報酬を支払うことができます。
遺言執行者は大変な相続手続きを単独で行うことになるため、その「手間賃」と考えて頂けると良いでしょう。
なお、遺言執行者への必要な経費や報酬の支払いは、遺言者の相続財産から負担されます。
6-1.相続人などを遺言執行者に指定する場合
相続人などを遺言執行者に指定する場合、その報酬は遺言書の定めによって決められます。
報酬として支払う金額はいくらでも構いませんが、一般的な相場は士業の最低報酬と同等である20~30万円となります(0円でも問題ありません)。
遺言内で遺言執行者を指定するのであれば、事前にその旨を本人に伝えると共に、報酬についても予め話し合って併せて記載しておくとトラブルになりにくいでしょう。
6-2.専門家に遺言執行を依頼する場合
遺言執行を第三者である専門家に依頼する場合は、報酬(手数料)が発生します。
6-2-1.遺言執行を依頼できる業種
遺言執行を依頼できる業種は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士などの士業となります。
また、遺言者が生前に信託銀行で遺言信託プランなどを契約している場合は、信託銀行が提携している士業が遺言執行を行います。
6-2-2.遺言執行を専門家に依頼したときの費用相場
遺言執行を専門家に依頼した時の費用相場は、依頼する士業やその事務所によって異なります。
どの士業に依頼をしても最低30万円は必要となりますが、相続財産の金額に対して報酬を設定しているケースの方が多いため、費用相場は大きく変わります。
詳しくは「遺言執行者を指定する場合」でご紹介しているので、ご参照ください。
6-3.家庭裁判所によって遺言執行者が選任される場合
家庭裁判所によって遺言執行者が選任された場合には、相続財産などの状況やその他の事情によって報酬が決められます(民法第1018条)。
しかし遺言書に遺言執行者の報酬について記載していた場合は、こちらも判断材料となります。
報酬の基準は裁判所の判断となりますので、裁判所が決定した金額に対して不服申立てをすることはできません。
7.遺言執行者の辞任・解任について
遺言執行者に選任された人は、遺言執行者本人の意思で辞任することもできます。
また、遺言執行者に選任された人が義務を怠った場合は、相続人など利害関係者からの申立てによって解任することも可能です。
7-1.遺言執行者の意思で辞任する場合
遺言執行者は、自らの意思で辞任することができます。
遺言執行者を辞任する場合、その旨を相続人全員に通知をしなくてはいけません(民法第1006条)。
しかし、一度遺言執行者への就任を承諾した場合には、遺言執行者としての任務を速やかに履行する義務があります。
一度承諾した遺言執行者を辞任する場合には、以下のような「正当な理由」が必要となり、家庭裁判所で許可を得なければなりません(民法第1019条2項)。

7-2.相続人など利害関係者からの申立てによって解任させる場合
遺言執行者としての義務を怠ったときなどの正当な事由があるときは、義務違反として遺言執行者を解任させることができます(民法1019条)。
例えば、遺言執行者が任務を行ってくれない場合や、遺言内容の一部しか実施してくれていない場合などですね。
本人以外からの申立てにより遺言執行者を解任させる場合にも、家庭裁判所で解任の手続きを行い、審理を受ける必要があります。
遺言執行者の解任手続きは、選任の手続きと同様に、遺言者の住所地を管轄する家庭裁判所に申立てを行います。
8.まとめ
遺言執行者は相続人全員の代理人となって、単独で相続手続きを行う義務や権利がある人のことです。
「遺言執行者が必要か否か」と迷う方もいらっしゃいますが、実務的には遺言執行者を選任されることがほとんどですので覚えておきましょう。
遺言執行者を選任する際には、法的に有効な遺言書に、遺言執行者として指名する人の詳細・権利内容・報酬などを細かく記載しておく必要があります。
各ご家庭によって遺言書に記載すべき内容は異なりますので、相続業務に特化した専門家に相談されることをおすすめします。
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