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特別寄与料とは?相続税の課税対象?要件や相場、計算方法を解説

特別寄与料は民法の改正で新たに設けられた制度です。長男の妻など相続人ではない親族でも、相続で財産を得られるようになりました。

生前の介護や看護など故人に対する貢献に報いるための制度ですが、相続人でない親族が財産を得るためには相続人に特別寄与料を請求する必要があります

ここでは、どのような場合に特別寄与料を請求することができるか、請求手続きはどのように行うかについて、相続に詳しい税理士が解説します。

この記事の目次 [表示]

1.特別寄与料とは

特別寄与料とは、相続人でない人が亡くなった被相続人に対して特別に貢献した場合に、その貢献に見合ったものとして支払われる金銭のことをいいます。

民法には以前から、被相続人に対して特別に貢献した人に報いる制度として「寄与分」の制度があります。しかし、寄与分が認められるのは相続人だけで、相続人でない人には認められません。

高齢の両親の介護や看護は、昔からの役割分担で子の配偶者(長男の妻など)が担うことが多くなっています。子の配偶者は民法に定める相続人ではないため、いくら故人のために尽くしてきたとしても、遺産相続で十分な恩恵が受けられませんでした。

2018年に改正された民法で特別寄与料制度が創設され、被相続人に対して介護や看護などで貢献した親族は、相続人でなくても財産を得られるようになりました

手続き上は遺産を直接もらうのではなく、遺産を相続する相続人に特別寄与料として金銭の支払いを請求することになります

特別寄与料制度の施行は2019年7月1日からで、同日以降に相続が開始した、つまり同日以降に被相続人が死亡した場合に適用されます。

2.特別寄与料の請求が認められる要件

相続人に特別寄与料を請求して遺産を分けてもらうことができるのは、以下の要件をすべて満たしている場合です(民法第1050条第1項)。

  • 被相続人の親族である
  • 被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をした
  • 被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与をした

この章では、特別寄与料の請求が認められる要件について詳しく解説します。

2-1.被相続人の親族である

相続人に特別寄与料を請求できるのは、被相続人の親族であって相続人でない人に限られます

親族とは、6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族をさします(民法第725条)。

たとえば、被相続人から見た続柄が次のような人であれば特別寄与料の請求が認められます(ただし相続人になっている場合は除きます)。

  • 兄弟姉妹(2親等の血族)
  • 甥・姪(3親等の血族)
  • 子の配偶者(1親等の姻族)
  • 配偶者の兄弟姉妹(2親等の姻族)

親族であっても、相続放棄した人や相続欠格・相続廃除で相続権を失った人は、特別寄与料を請求することができません。

また、被相続人と法的な婚姻関係にない人(内縁・事実婚などの関係にある人)や、親族でない家政婦・ヘルパーなども特別寄与料を請求することができません。

2-2.被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をした

特別寄与料の請求が認められるには、被相続人との続柄のほか、無償で被相続人の療養看護など労務の提供を行ったことも要件となります。労務の提供には療養看護のほか、家業への従事も含まれると考えられます。

相続人を対象にした寄与分では金銭の援助など「財産上の給付」も要件として認められますが、特別寄与料の請求では「労務の提供」に限定されています。

2-3.被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与をした

被相続人の財産の維持や増加に特別の寄与があったことも、特別寄与料の請求の要件となります

「財産の維持や増加」については、出費を抑えたという意味でとらえると理解しやすいでしょう。

介護サービスを利用する代わりに親族が介護すれば、出費を抑えることができ財産の維持につながります。

被相続人の話し相手になるなど精神的な支えになっていたということだけでは、特別寄与料の請求は認められません。財産の維持や増加との因果関係がないからです。また、介護費用を支払って財産の維持に貢献したとしても、労務の提供がなければ特別寄与料の請求は認められません。

2-4.特別寄与料を請求できるケースの具体例

ここで、特別寄与料を請求できるケースの具体例を見てみましょう。

2-4-1.長男の妻が被相続人の介護をしていた

長男の妻は相続人ではありませんが、被相続人の1親等の姻族にあたります。

長男の妻が無償で被相続人の介護をして財産の維持に寄与した場合は、相続人に特別寄与料を請求することができます。

2-4-2.姪が被相続人の介護をしていた

被相続人に子がいる場合は、被相続人の姪は相続人ではありません。

ただし、姪は被相続人の3親等の血族にあたり、無償で被相続人の介護をして財産の維持に寄与した場合は、相続人に特別寄与料を請求することができます。

なお、被相続人の姪が相続人になる場合もあります。

被相続人に配偶者や子がおらず、直系尊属(両親、祖父母など)や兄弟姉妹もすでに死亡している場合は、甥や姪が相続人になります。

この場合は、特別寄与料を請求するのではなく、相続人として遺産を相続します。

3.特別寄与料はいくらもらえるか?その計算方法とは

特別寄与料の金額については、特別寄与料を請求する人(特別寄与者)が相続人と交渉して決めますが、明確な基準があるわけではありません。

話し合いがまとまらず家庭裁判所に処分を申し立てた場合も、「家庭裁判所は、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して、特別寄与料の額を定める」と規定されているだけです(民法第1050条第3項)。

しかし、目安となる基準がなければ当事者どうしで金額を決めることは困難です。

特別寄与者と相続人の主張に隔たりがあれば、いつまでたっても特別寄与料の金額は決まりません。

この章では、特別寄与料の目安の計算方法について解説します。

特別寄与料の金額を決める一つの目安として、相続人に認められる「寄与分」の算定方法を参考にすることができます。

3-1.療養看護型(被相続人の看護をした場合)

被相続人の療養看護をして財産の維持や増加に貢献した場合は、下記の金額を目安とします。

  • 第三者が療養看護を行った場合の日当額×療養看護の日数×裁量割合

第三者が療養看護を行った場合の日当額は、介護保険制度で定められる介護報酬基準額を参考にします。

裁量割合とは、専門職ではない親族が療養看護を行ったことを考慮したもので、0.5~0.8の割合をかけます。

3-2.家業従事型(被相続人の事業に従事した場合)

被相続人が営んでいた事業(農林漁業、自営業など)に従事して財産の維持や増加に貢献した場合は、下記の金額を目安とします。

  • 特別寄与者が通常受けるべき年間給与額×(1-生活費控除割合)×寄与年数×裁量割合

特別寄与者が通常受けるべき年間給与額は、国の統計資料である賃金センサスから、家業と同種同規模の事業に従事する同年齢層の賃金を参考にします。

生活費控除割合は、給与を受け取らない代わりに生活費を負担してもらっていた場合の生活費相当額の割合をさします。実額から計算するほか、交通事故の生活費控除率を参考にしたり、0.5としたりすることもあります。

裁量割合は、上記の療養看護型の場合と同じです。

3-3.当事者間で協議して決める場合

上記の算定方法は、家庭裁判所が特別寄与料を決める場合の目安です。

当事者の間で協議して決める場合は、お互いに納得できる金額であれば、上記の計算式にこだわる必要はありません。

3-4.特別寄与料は遺産の額を超えない

特別寄与料の金額は、遺産総額から遺贈の価額(遺言によって分け与えられた遺産の価額)を除いた金額を超えることはできません(民法第1050条第4項)。

また、相続人が複数いる場合は、ある特定の相続人に特別寄与料の全額を請求することはできません。

各相続人の負担は、特別寄与料の全額を法定相続分で分けた金額となります(民法第1050条第5項)。

4.特別寄与料の請求手続き

特別寄与料を請求する手続きには、次の二つの方法があります。

  • 遺産を相続する相続人と直接交渉する
  • 家庭裁判所に「特別の寄与に関する処分調停」を申し立てる

4-1.遺産を相続する相続人と直接交渉する

特別寄与料の請求は、基本的には当事者どうしで交渉します。

つまり、特別寄与者が自ら、遺産を相続する相続人に特別寄与料の支払いを請求します

しかし、特別寄与者は被相続人の親族ではあるものの、相続人とは縁が薄いことが多いです。

直接話し合うことが難しいときは、弁護士に依頼するとよいでしょう。

4-2.家庭裁判所に「特別の寄与に関する処分調停」を申し立てる

当事者どうしで話がまとまらない場合は、家庭裁判所に「特別の寄与に関する処分調停」を申し立てることができます(民法第1050条第2項)。

調停では、調停委員が当事者の間に入って話し合いによる解決を目指します。

調停が不調に終わった場合は、家庭裁判所による審判手続きに移行します。

「特別の寄与に関する処分調停」の申し立てについて詳しい内容は、裁判所ウェブサイトを参照してください。

裁判所ウェブサイト 特別の寄与に関する処分調停

5.特別寄与料の請求に期間の制限はある?

家庭裁判所の「特別の寄与に関する処分調停」には、申し立ての期限があります。

特別寄与者が相続の開始及び相続人を知ったときから6か月を経過したとき、または相続の開始から1年を経過したときは、申し立てができなくなります(民法第1050条第2項ただし書き)。

特別寄与料を請求するのであれば、調停を申し立てる可能性を考慮して早めに対応する必要があります。

6.特別寄与料は相続税の課税対象になる

特別寄与料は相続税の課税対象になります

特別寄与料をもらった人だけでなく、請求に応じて支払った相続人も手続きが必要になる場合があります。

6-1.特別寄与料をもらった人

受け取った特別寄与料は、被相続人から遺贈を受けた(遺言によって分け与えられた)とみなして相続税の課税対象になります(相続税法第4条第2項)。

被相続人の遺産の総額が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超えている場合は、相続税を申告しなければなりません。申告の期限は、特別寄与料の金額が定まったことを知った日の翌日から10か月以内です(相続税法第29条)。

なお、相続税では被相続人の1親等の血族・配偶者以外の人について税額が2割加算されます(相続税法第18条)。特別寄与者は多くの場合相続税の2割加算の対象になり、相続税に以下の金額が加算されます。

  • 相続税の2割加算が行われる場合の加算金額 = 各人の税額控除前の相続税額×0.2

6-2.特別寄与料を支払った相続人

特別寄与者からの請求に応じて特別寄与料を支払った相続人は、相続税の申告において課税対象の遺産から特別寄与料を差し引くことができます(相続税法第13条第4項)。

相続税の申告をした後に特別寄与料を支払った場合は、特別寄与料の金額が定まったことを知った日の翌日から4か月以内に更正の請求をすれば、還付を受けることができます(相続税法第32条第1項)。

7.特別寄与料を請求するときの注意点・難しい点

ここまで特別寄与料がもらえる要件や手続き方法についてお伝えしましたが、実際に特別寄与料をもらうことは簡単ではありません。

特別寄与料を請求するときは、次のような点に注意が必要です。

  • 相続人の強い抵抗を受ける場合がある
  • 寄与分に比べて条件が厳しく期限がある
  • 特別寄与料の金額の根拠を示さなければならない

7-1.相続人の強い抵抗を受ける場合がある

特別寄与料は、遺産を直接もらうのではなく、遺産を相続する相続人に金銭の支払いを請求する仕組みです。相続人は、自分のものとして相続した財産から特別寄与料を支払わなければなりません。

そのため、特別寄与料を請求すると相続人の強い抵抗を受けることが予想されます。相続人の立場が強い場合や人数が多い場合では、交渉はさらに難しくなります。

特別寄与料の制度は施行から時間が経っておらず、制度の内容がまだ十分に知られていない点にも注意が必要です。

7-2.寄与分に比べて条件が厳しく期限がある

相続人に「寄与分」が認められる場合に比べて、相続人でない親族に「特別寄与料」が認められる条件は厳しいと考えられます。

制度の施行から日が浅く実例が少ないため、どのような場合に特別寄与料が認められるのかがわかりづらい点にも留意しなければなりません。

また、「5.特別寄与料の請求に期間の制限はある?」でお伝えしたように、請求の期間にも注意が必要です。請求が必要な場合は、短い期間で準備しなければなりません。

7-3.特別寄与料の金額の根拠を示さなければならない

特別寄与料の請求では、相続人に金額の根拠を示す必要があります。

計算方法は、「3.特別寄与料はいくらもらえるか?その計算方法とは」でご紹介しましたが、自分で計算することは簡単ではありません。

療養看護にかかった費用をメモしておくか、領収書を取っておくなど事前の準備も必要です。

8.特別寄与料の請求を弁護士に依頼するメリット

特別寄与料の請求は、相続問題に詳しい弁護士に依頼すると安心です。

この章では、特別寄与料の請求を弁護士に依頼するメリットをご紹介します。

8-1.交渉や法的手続きが円滑になり精神的負担が軽減される

特別寄与者が相続人と直接交渉することは簡単ではありません。

特別寄与料の請求を弁護士に依頼すると、相続人との交渉を任せることができ、精神的な負担が軽減されます。

交渉がまとまらず家庭裁判所に調停を申し立てることになった場合でも、法的な手続きが円滑に進められます。

8-2.根拠のある金額を導き出してもらえる

特別寄与料の請求では、相続人に金額の根拠を示す必要があります。療養看護の日当や通常得られる給与の額を参考に計算することができますが、自分で計算することは簡単ではありません。

特別寄与料の請求を弁護士に依頼すると、客観的な根拠に基づいた特別寄与料の金額を導き出してもらうことができます。

9.特別寄与料請求のトラブルを防ぐための対策

最後に、特別寄与料請求のトラブルを未然に防ぐための対策をご紹介します。

相続人や特別寄与者となる人ができる対策は限られますが、被相続人となる人は遺言書の作成や生命保険への加入など生前にできる対策がいろいろあります。相続問題を専門にしている弁護士に相談して、アドバイスを受けるとよいでしょう。

9-1.被相続人となる人が生前に行う対策

被相続人となる人が生前に行う対策には、次のようなものがあります。

  • 特別寄与者となる人に財産を遺贈する内容の遺言書を書く
  • 特別寄与者となる人を受取人にした生命保険に加入する
  • 特別寄与者となる人と養子縁組する
  • 特別寄与者となる人に生前贈与する

いずれの方法も生きている間に自分の意思で行うものであり、亡くなった後にトラブルを起こさないための対策として有効です。

9-2.相続発生後に相続人が行う対策

特別寄与者となる人がいて特別寄与料の請求が予想される場合は、それを考慮して遺産分割をするとよいでしょう。

なお、特別寄与者は相続人ではないため、遺産分割協議に参加することはできません。

9-3.特別寄与者となる人ができる対策

特別寄与者となる人は、特別寄与料の金額交渉のために療養看護の内容や費用などをメモに残して、領収書をとっておくとよいでしょう。

前もって相続問題に詳しい弁護士に相談しておくことも有効です。

10.特別寄与料の請求は難しいので専門家に相談を

特別寄与料制度ができたことで、長男の妻など相続人ではない親族でも故人の療養看護に対する見返りを得られるようになりました。しかし、実際に特別寄与料をもらうことは簡単ではありません。

特別寄与料を請求するためには、遺産を相続する相続人と直接交渉する必要がありますが、相続人の立場が強い場合や人数が多い場合では不利になります。家庭裁判所に調停を申し立てることもできますが、時間と費用がかかります。

自分で特別寄与料を請求することが難しい場合は、弁護士などの専門家に相談するとよいでしょう。

特別寄与料は創設されて間もない制度で事例も少ないため、相続問題に詳しい弁護士を探すことをおすすめします。

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