兄弟に遺留分が無い理由とは?子どもがいない場合の相続人と遺産配分とは
子どもがいない場合の相続人は、配偶者および被相続人の父母、兄弟姉妹です。
法定相続人には順位があり、第2順位の父母がいる場合、第3順位の兄弟には配分されません。また兄弟には、最低限確保される遺留分もないことが特徴です。
法定相続人とはいえ、普段接点がない兄弟姉妹に財産を渡したくない場合、遺言書で相続人を指定するとよいでしょう。
本記事を読めば、子どもがいない場合の相続人や配分割合を把握でき、法定相続人以外に相続させる方法がわかります。
この記事の目次 [表示]
1.最低限の取り分である遺留分は兄弟には存在しない-法定相続人と相続人の範囲
亡くなった人の財産は、原則として民法が定める範囲の相続人に相続されます。法定相続人の範囲は、亡くなった人の家族構成により異なります。配偶者や子どもは常に相続人ですが、子どもがいない場合には被相続人本人の父母が、父母がいない場合には兄弟姉妹も法定相続人です。
ただし、兄弟姉妹には遺留分が認められていません。遺留分とは、被相続人の意向に関わらず、法定相続人が最低限の割合を相続できる権利のことです。兄弟姉妹以外の法定相続人には、それぞれ遺留分が認められています。
例えば、配偶者がいる被相続人の父母なら法定相続分の3分の1が、配偶者のいない被相続人の父母なら法定相続分の半分が遺留分として認められています。したがって、父母の法定相続分が900万円だとすると、配偶者のいる被相続人の父母は300万円、配偶者のいない被相続人の父母は450万円を相続する権利を主張できるのです。
参考:民法第千四十二条(遺留分の帰属及びその割合)|e-Gov法令検索
1-1.子どもがいない場合は父母や兄弟姉妹が法定相続人になる
亡くなった人に子どもがいれば、配偶者がいなくても法定相続人は子どもだけです。しかし、配偶者がいても子どもがいないケースでは、配偶者のみが法定相続人となることはありません。
被相続人の父母が法定相続人の第1順位として、兄弟姉妹が第2順位として被相続人の財産を相続する権利が認められています。正確には、父母が亡くなっていても祖父母が存命の場合は、兄弟姉妹ではなく祖父母が法定相続人です。
被相続人が高齢であれば、父母や兄弟姉妹がすでに亡くなっているケースもあるでしょう。しかし、亡くなった兄弟姉妹に子どもがいる場合は、その子どもが法定相続人になります。こうした仕組みを、代襲相続といいます。
▲兄弟姉妹やその子どもが法定相続人となるケース
上図は、父母のいない被相続人に配偶者の他に兄と妹がいて、兄はすでに亡くなっているが子どもが2人いるといったケースです。
こうした場合は、被相続人の兄の子ども2人と被相続人の妹が法定相続人となります。
代襲相続については次の記事を参考にしてください。
代襲相続とは?代襲相続人の範囲や相続割合も解説【図解】|相続税のチェスター
1-2.法定相続人に関わらず配偶者は常に相続人になる
子どもの有無で法定相続人としての地位が変わる直系の父母や兄弟姉妹とは異なり、配偶者は常に相続人になります。ただしここでいう配偶者とは、法律上婚姻していると認められた配偶者を指します。したがって、いわゆる内縁の妻のような事実婚で配偶者とみなされる立場では、法律上の保護を受けられません。
例えば、内縁の夫の土地と建物に一緒に住んでいた内縁の妻がいても、内縁の夫が亡くなれば、その土地や建物は夫の直系である父母や兄弟姉妹へ相続されます。相続人が内縁の妻に建物から退去するよう求めた場合、内縁の妻は拒否できません。そのため結果的に住む場所を失ってしまいます。このような事態を避け、事実婚状態で内縁の妻に相続させたい場合には、遺言書を事前に作成しておかなければなりません。
内縁の妻への相続については次の記事を参考にしてください。
内縁の妻と相続|相続税のチェスター
2.子どもがいない場合の相続パターンごとの法定相続分
子どもがいない場合の相続パターンは、配偶者の有無で大きく2つに分けられます。
配偶者がいない場合は父母が、父母もいない場合には兄弟姉妹、兄弟姉妹が亡くなっていてもその子どもがいれば、子どもが法定相続人になります。(パターン1からパターン3)
配偶者がいる場合は、配偶者は必ず相続人になりますが、配偶者の他に直系尊属である親兄弟も相続人に含まれます。(パターン4からパターン6)
子どもがいない場合の相続パターンごとの法定相続分 | ||||
〇は法定相続が認められる ×は法定相続が認められない ( )内は、法定相続の割合 | ||||
相続人 | 配偶者 | 直系父母 | 兄弟姉妹 | 兄弟姉妹の子ども |
---|---|---|---|---|
パターン1 | いない | 〇 | × | × |
パターン2 | いない | いない | 〇 | × |
パターン3 | いない | いない | いない | 〇 |
パターン4 | 〇(2/3) | 〇(1/3) | × | × |
パターン5 | 〇(3/4) | いない | 〇(1/4) | × |
パターン6 | 〇(3/4) | いない | いない | 〇(1/4) |
3.子どもがいない場合の相続における3つの注意点
子どものいない夫婦に相続が発生した場合、残された配偶者でも自動的にすべての財産を相続できません。法律上、亡くなった人の直系尊属も共同相続人となり、お互いが共同して相続手続を進めていく必要があります。
被相続人が亡くなるまで、ほとんど付き合いのなかった人々が含まれる場合もあるでしょう。誰が法定相続人なのか、どのような相続割合にするのかといった、通常話題にしにくい話も必要になります。
亡くなった人の家族構成によっては、相続手続が非常に複雑になる可能性を意識しておきましょう。相続で特に問題になる事例として、以下3つのことが挙げられます。
子どもがいない場合の相続において起こりうること
- 隠し子や前妻との間にできた子にも遺産が渡る
- 希望しても配偶者に全財産が渡らない可能性がある
- 代襲相続によって相続人が多数になる場合がある
3-1.隠し子や前妻との間にできた子にも遺産が渡る
亡くなった人の子どもは、常に法定相続人です。被相続人が亡くなったときの配偶者以外との子どもであっても地位は変わりません。
前妻との子どもだけでなく、婚姻関係なく生まれた子ども、いわゆる隠し子も含まれます。配偶者との相続割合はそれぞれ1/2ずつです。仮に、被相続人に隠し子が2人いたとしても、配偶者の相続割合が全相続財産の1/2であることに変わりはありません。
以前は、隠し子は嫡出子の相続分の1/2のみの相続が認められていました。しかし、平成25年12月に民法が改正され、現在では隠し子も嫡出子と同様の割合が認められています。
したがって、もし前妻との間に子どもがいなくても隠し子がいる場合、相続割合は嫡出子がいる場合と変わらず1/2ずつになります。
前妻の子、隠し子については次の記事を参考にしてください。
再婚家庭は要注意!再婚者なら知っておくべき相続に関わる注意点|相続税のチェスター
愛人や愛人の子に相続権はあるの? 不意に現れたときの対処法を税理士が解説|相続税のチェスター
3-2.希望しても配偶者に全財産が渡らない可能性がある
被相続人が、自分の財産をすべて配偶者に相続させたいと考えていても、配偶者に全財産が渡らない可能性があります。法律では法定相続人に遺留分が認められているため、法定相続人が遺留分を請求することは法的に認められた権利であり、その権利行使を被相続人が妨げることはできないからです。
したがって、遺留分の認められる法定相続人は遺留分を請求することを前提として対処していきましょう。生前に、配偶者へ相続させたい財産を明確に考えておくほうが安心です。どうしても相続させたい財産については、相続ではなく生前贈与のような方法も検討しておきましょう。
遺留分については次の記事を参考にしてください。
遺留分とは|相続税のチェスター
遺留分侵害額請求(遺留分減殺請求)とは?計算方法・時効・手続きの流れ|相続税のチェスター
3-3.代襲相続によって相続人が多数になる場合がある
被相続人の直系尊属である父母や祖父母がすでに亡くなっている場合、兄弟姉妹が法定相続人になります。
兄弟姉妹のうち1人は存命、残りの兄弟姉妹はすでに亡くなっていて、その子ども達が代襲相続で法定相続人になるケースも考えられます。亡くなった兄弟姉妹それぞれに複数の子ども達がいるようなケースもあるでしょう。その場合、子どもと配偶者だけの相続に比べて、相続人が予想外に多数になることもあります。法定相続人それぞれが別の家庭を築いている場合には、各相続人との連絡にも手間と時間がかかってしまいます。
代襲相続によって相続人が多数になる場合には、相続に関する手続を専門家に任せることも検討してみてください。
4.遺留分を残さずに相続人を指定する3つの方法
自分の財産はすべて配偶者に相続してほしい、ほとんど音信不通だった親兄弟には相続してもらいたくない、といった考えを持つ人もいるでしょう。
しかし、こうした考えは心に留めているだけでは外には伝わりません。法定相続人の意向によっては、実際には配偶者と法定相続人との共同相続となり、被相続人の希望は考慮されないこともあります。
共に協力し合いながら一緒に財産を築いてきた残された配偶者のためにも、自分の財産をどのように相続してほしいのか、以下の3つの方法を参考にしてください。
遺留分を残さずに相続人を指定する方法
- 法定相続に関わらず被相続人の希望できる遺言の作成
- 信頼できる家族に資産の管理を任せられる家族信託
- 生きている間に財産の譲渡先を指定できる生前贈与
4-1.法定相続に関わらず被相続人の希望できる遺言の作成
生前に遺言書を作成しておけば、相続に被相続人の希望が反映されるだけでなく、相続人の相続手続に関する負担を減らせます。
法定相続制度は、相続に関する被相続人の希望が外部にはわからない場合に適用されます。例えば、被相続人である夫が、相続人である妻との口約束で「我が家にはこの土地と家しか財産がないから、妻にすべて渡す」と言っていたという事実があっても、遺言として認められません。口約束が真実かどうかは、外部では判断できないためです。
遺言書として、誰にどの財産を相続させたいかを書面に残せば、外部の人間も被相続人の意向を知ることができ、不要な争いを避けやすいでしょう。
ただし、遺言書があっても、直系父母が遺留分を請求すれば財産の1/6は父母への権利として認められます。そのため、家族の事情に応じて遺言書を作成する必要があります。
遺言書と遺留分については次の記事を参考にしてください。
遺言書の効力と遺留分の権利はどちらが優先?注意すべき点を解説|相続税のチェスター
4-2.信頼できる家族に資産の管理を任せられる家族信託
家族信託は、保有財産である不動産や預貯金などの管理・処分を家族に任せる制度です。
委託者、受託者、受益者、の3者によっておこなわれます。
▲家族信託とは保有財産の管理・処分を家族に任せる制度
委託者は自分が保有する財産の管理を受託者に依頼します。これに応じて受託者が財産の管理をおこないます。財産の管理をしていくなかで利益が生じた場合には、受益者がその利益を得ることになるのです。
例えば、被相続人は複数の兄弟姉妹の中に、1人だけ信頼でき以前から配偶者とも良好な関係の妹がいるとします。一方、配偶者は軽い認知症を患っており、今後自分で相続財産の管理をすることが難しくなっていく状況です。このような場合に、信頼できる妹を受託者として管理を任せるといったケースが考えられます。
信頼できる親族がいる場合には、ぜひ家族信託も視野に入れてみましょう。
家族信託については次の記事を参考にしてください。
家族信託の基本的なしくみと具体的な活用方法|相続税のチェスター
4-3.生きている間に財産の譲渡先を指定できる生前贈与
相続発生前に遺言書を作成していても、法定相続人から遺留分を請求された場合は拒否できません。どうしても特定の相続人に特定の財産を相続させたい意向があるなら、生前贈与がスムーズです。
贈与は、贈与する人と贈与される人双方の意思が合致するだけでよいため、遺留分といった考え方はありません。
ただし、一定の金額を超えた贈与には贈与税が発生します。税額を計算する際に考慮される基礎控除額や税率の面でも、相続税のほうが優遇されていることも考慮し、相続がよいのか生前贈与がよいのかを検討しましょう。
参考:相続税対策には生前贈与を活用しよう! 贈与税の6つの非課税枠って?|相続税のチェスター
5.子どもがいない場合に遺言でトラブルを避ける際の注意点
子どもがいない場合の相続人は、配偶者だけではありません。法定相続人として、被相続人の直系尊属も対象です。
普段から良好な関係であれば、話し合いもスムーズに進むでしょう。しかし、お金が絡む問題では、往々にしてトラブルに発展しやすいものです。これまでほとんど付き合いがなかったり、一度も会ったこともなかったりする関係の親族であれば、なおのこと問題が起こりやすいでしょう。
相続に関するトラブルを未然に防ぐためにも、生前に遺言書を準備しておくことが有効です。その際、遺言書に書かれた相続内容があいまいでわかりにくい、また法定相続人の存在を無視している、といったような文面は避けましょう。遺言書がない場合よりも、かえってトラブルの原因になりかねないからです。
子どもがいない場合の遺言書作成注意点
- 具体的な配分割合がわからない不明瞭な書き方を避ける
- できる限り遺留分を侵害しないような書き方をする
- 付言事項を活用して遺言の内容に至った想いを記す
以下の記事も参考にしてください。
子供なし夫婦の財産は配偶者のみが相続?ケースや注意点を解説
5-1.具体的な配分割合がわからない不明瞭な書き方を避ける
相続財産の分け方は、誰から見てもはっきりわかるような配分割合で書きます。
例えば、被相続人は配偶者9割と兄弟1割の割合で相続させたいと考えたとしましょう。相続財産は土地と建物と有価証券があるとします。
遺言を作成するとき、配偶者へ9割、兄弟へ1割と記載したとします。遺言書を見た人にとっては、どのように9割と1割に分けるのかがわかりにくい文面です。
もし兄弟が土地、建物、有価証券をすべて1割ずつ相続したいと申し出た場合、配偶者は遺言書を理由に拒否できません。こういった、不動産のように分割できないものが相続財産に含まれている場合、相続割合だけでなく、誰に何を相続させるかについて明確に記載しましょう。
5-2.できる限り遺留分を侵害しないような書き方をする
被相続人は、遺言書で自分の財産をどのように相続してもらいたいのかを書くことによって、法定相続の割合を変更できます。自分の財産をどのように処分するか決定できても、法定相続人に認められている最低限の相続財産である遺留分には注意が必要です。
遺留分を主張できる法定相続人はいるのか、いるとすれば誰でいくら認められているのか、といったことを事前に調べておきましょう。遺留分を考慮せずに遺言を作成すると、法定相続人自身が相続において不当に扱われていると考え、遺言書に書かれた相続割合に対しても疑いの気持ちを持つかもしれません。本来ならスムーズに済ませられた遺言による相続手続が、泥沼のトラブルになることもありえます。十分注意しましょう。
5-3.付言事項を活用して遺言の内容に至った想いを記す
遺言書で、遺留分を考慮した相続配分を書いたとしても、法定相続分よりも相続できる財産が減ってしまう相続人から、不満が出る可能性はあります。
ふだん付き合いのない関係でも、できるだけ多くの財産をもらいたいと考えることはあるでしょう。
遺言書に書く内容は、相続割合だけではありません。付言事項といって、どうしてそのような相続割合に決定したのか、といったような遺言内容に至った想いを記入することもできます。
法定相続とは異なる割合で相続財産を分けた場合、特にその法定相続人を納得させる理由を遺言書に書けば、不要なトラブルを避けられる可能性があります。予想されるトラブルを未然に防ぐためにも、付言事項を使って被相続人の立場、想いを明確に表しておくとよいでしょう。
参考:遺言書の書き方完全ガイド-遺言書の形式と内容に関する注意点を解説|相続税のチェスター
6.子どもがいない場合の相続に関して兄弟間でトラブルが発生しそうなら専門家へ相談を
子どもがいない場合の相続は、法定相続人が多数になることがあります。被相続人やその配偶者と被相続人の直系家族との関係によっては、相続手続がスムーズに進まないことも考えられます。
起こりうるトラブルに対しては、事前に遺言書、家族信託、生前贈与などの方法を取っておくことで、自分が指定した相手にのみ財産を渡すことも可能です。ただし、思いのほか税金が高くなる、他の相続人から不満が出るといった可能性はあります。
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