遺言無効確認訴訟の提起前に知っておきたいこと。費用、期間など
遺言無効確認訴訟を起こせば、納得のいかない遺言書の有効・無効を判断してもらえます。ただし訴訟には弁護士費用が必要で、問題解決までの期間も長期化しがちです。遺言を無効とするまでの流れや、どのようなケースで無効になるのか確認しましょう。
この記事の目次 [表示]
1.遺言を無効としたい場合の流れ
遺言に納得がいかないからといって、いきなり訴訟を起こすわけではありません。まずは通常の手続きと同じように、遺産分割協議を実施しましょう。相続人同士の協議のみでは合意に達しない場合に、調停・訴訟へと進む流れです。
1-1.相続人や受遺者全員で遺産分割協議を行う
被相続人が自分の財産をどのように処分するか記したものが遺言書です。有効な遺言書があるなら、相続人は最大限その内容を尊重します。
ただし相続人全員が遺言書の内容に納得しておらず、違う分割の仕方で相続したいと望んでいるなら、協議による遺産分割の実施が可能です。
このとき、遺言で相続人以外の人への遺贈を指定している場合、遺贈を受けた受遺者も遺産分割協議の実施に同意していなければいけません。遺産分割協議で相続人・受遺者全員が合意すれば、遺言書と異なる内容で遺産を分割できます。
1-2.遺言無効確認調停から訴訟へ移行
ただし相続人や受遺者同士の話し合いでは、合意に至らない可能性もあります。合意できない場合には、家庭裁判所に『遺言無効確認調停』を申し立てましょう。
調停は、裁判官と調停委員が間に入って行う話し合いです。既に遺産分割協議において話し合いのみでの解決が難しい状態のため、調停での解決もあまり期待できないかもしれません。
そのため、早い段階で『遺言無効確認訴訟』へと移行するケースが多いでしょう。遺言無効確認訴訟を行うと、裁判所により遺言の有効・無効が法的に判断されます。
1-3.訴訟になる場合は長期戦も覚悟
遺言無効確認訴訟には時間がかかります。訴訟を起こすまでにも数カ月の準備期間が必要な上、第一審だけで1~2年はかかるのが一般的です。
第一審での判決を不服とする控訴を上級裁判所に起こされれば、第二審にさらに半年~1年は時間がかかります。第二審にも不服の場合は上告審が行われ、さらに約半年はかかるでしょう。
加えて遺言が無効となれば、改めて遺産分割協議を実施します。合意できなければ再び遺産分割調停・審判と進み、1~2年はかかります。
全てが解決するまでの期間は数年がかりというケースがほとんどです。
2.遺言が無効となる例
被相続人の残した遺言書は、どのような場合に無効になるのでしょうか?代表的な4種類のケースを見ていきましょう。
2-1.法律にのっとって作成されていない
遺言書の形式は法律により決められています。被相続人の作成した遺言書が見つかったとしても、法律で定める形式にのっとっていなければ無効です。
自筆証書遺言は、遺言内容や日付・氏名を自分で書き、印鑑を押すと決まっています。そのため本文をパソコンなどで作成していたり、日付を特定できない書き方になっていたり、押印がなかったりすれば無効です。
また公正証書遺言を作成するときには、2人以上の証人を立てなければいけません。証人が不足している場合や、人数は十分でも不適格な人物である場合には、遺言書は無効と判断されます。
2-2.遺言能力がないことが認められた
有効な遺言書であるには、遺言書の作成時点で被相続人に『遺言能力』が必要です。遺言の意味を理解し、その結果として起こることが分かっていれば、遺言能力があると考えられます。
高齢になると認知症により『遺言能力なし』と判断されるケースが増えます。ただし認知症だからといって必ず遺言能力がないとはいえません。裁判所が総合的に見て、遺言能力がないと判断した場合に、遺言書は無効となります。
公証人や証人と作成する公正証書遺言でも、遺言能力の有無が争点となり、有効・無効を争うケースがあります。
また検認を受けていても、必ずしも有効な遺言書といえない点に注意しましょう。検認は遺言書の状態や内容の保存を目的とする手続きです。検認を受けただけでは、遺言書の有効・無効は判断できません。
2-3.無理矢理書かされた
もし遺言書が残されていたとしても、被相続人自身の意思で書かれたものでなければ無効です。例えば、誰かに『書いてほしい』『書かなければ家族を襲う』などといわれて作成した遺言書は無効と判断されます。
遺言書は被相続人の意思表示であり、意思表示は誰かに強いられてするものではありません。法律でも無理矢理させられた意思表示は取り消しができ、さかのぼって初めから効力がなかったものとされると決まっています。
2-4.不倫相手に全て遺贈など公序良俗違反
法律にのっとった形式で、遺言能力のある被相続人が自らの意思で遺言書を作ったとしても、不倫相手への遺贈というように、内容が『公序良俗違反』に当てはまるようであれば無効です。
公序良俗違反か判断する際には、下記を基準として考えます。
- 婚姻の実態が失われているか
- 内縁関係がある程度持続した後か
- 遺贈の目的は不倫関係の維持を目的としているか
- 遺贈の内容が相続人の生活基盤を脅かすものか
例えば、不倫関係を続けるために作成された、遺贈するという内容の遺言書を公序良俗違反とする裁判例があります。
遺言書が『無効』になる事例については、下記もご覧ください。
遺言書が無効になる事例と無効にならないための対策|相続大辞典|相続税の申告相談なら【税理士法人チェスター】
3.証拠を用意することが重要
遺言書を無効とするには、証拠を集めなければいけません。そのためには、代表的な証拠である、筆跡鑑定やカルテを用意しておくとスムーズです。
3-1.参考資料として筆跡鑑定を依頼しておく
被相続人の筆跡と遺言書の筆跡が違うように見えるのであれば、『筆跡鑑定』を依頼しておくとよいでしょう。専門家に鑑定してもらうと、遺言書の筆跡が被相続人のものでないと判明するかもしれません。
ただし、筆跡鑑定は科学的な裏付けがないとされており、これだけでは証拠としては不十分です。ほかの証拠を補強したい、もうひと押ししたいといった際の参考資料として使います。
3-2.被相続人のカルテ、介護記録を集める
遺言を作成した時点の『カルテ』や『介護記録』も重要な証拠です。これらの記録をもとに、認知症の有無を判断する指標である『長谷川式簡易知能評価スケール』を用いると、遺言能力の有無の判断に利用できます。
一般的には、10点以下だと遺言能力が疑わしいと考えられるレベルです。加えてカルテや介護記録に書かれている内容そのものも、遺言能力を判断するのに役立ちます。
4.遺言無効確認訴訟を提起するには
遺言書の有効・無効は、遺言無効確認訴訟を提起し、裁判所に判断を委ねます。訴訟を起こすには、どのような手続きが必要なのでしょうか?
4-1.地方裁判所に申し立てる
調停で遺言無効確認の合意に至らなければ、地方裁判所へ遺言無効確認請求訴訟を申し立てます。原告は無効を主張する相続人、被告は有効を主張する相続人か指定されているなら遺言執行者です。
申し立てるときには『訴状』を提出します。下記を漏れのないよう記入しましょう。
- 作成日
- 提出先の裁判所名
- 事件名
- 訴訟物の価格
- ちょう用印紙額
- 予納郵便切手
- 原告の住所・氏名・電話番号
- 被告の住所・氏名
- 添付書類
4-2.裁判所手数料を支払う
遺言無効確認訴訟は民事訴訟のため、費用がかかります。この費用を計算するときに必要なのが『訴額』や『訴訟物の価格』といわれるものです。
訴訟を起こすということは、原告は何らかの利益を主張しているといえます。この利益を金額として見積もったものが訴額です。
訴額が分かれば『第一審訴え提起手数料(収入印紙代)早見表』で手数料額を確認できます。例えば訴額が500万円であれば手数料は3万円です。3万円分の収入印紙で手数料を支払いましょう。
加えて訴訟手続きに使う郵送料を、切手か現金で支払います。必要な金額は裁判所ごとに異なるため、確認しておくと確実です。手数料も郵送料も原告が負担します。
4-3.相続事件の実績がある弁護士への依頼も
証拠の収集や訴訟の手続きを自力で全て行うのは難しいでしょう。相続事件について専門的な知識を持つ弁護士に依頼すると、裁判を有利に運べる可能性が高まります。弁護士費用の目安も見ておきましょう。
手続き | 着手金 | 成功報酬 |
---|---|---|
交渉 | 22~33万円 | 10~20% |
調停 | 33~44万円( ※交渉からなら+11~22万円) | |
裁判 | 44~66万円 (※調停からなら+11~22万円) |
相談が遅くなると、遺留分侵害請求権や相続税申告など期限のある手続きに影響が出るかもしれません。できるだけ早めに弁護士に相談するのがおすすめです。
5.遺言無効確認訴訟の判決後に行うこと
訴訟の判決が出て全てが終わりではありません。遺言書が無効なら遺産分割協議があり、有効なら遺留分侵害額請求をしておくと安心です。それぞれ実行すべき内容を詳しく解説します。
5-1.遺言が無効と判断された場合
遺言無効確認訴訟で遺言が無効と判断されると、遺産分割協議を行わなければいけません。訴訟はあくまでも遺言書の効力を判断するためのもので、遺産の分割方法を決めるものではないからです。
遺産分割協議で決まらないなら、家庭裁判所に調停を申し立て、それでも合意に至らなければ審判へ移行します。ほかにも以下の訴訟が必要なケースもあります。
- 所有権移転登記抹消登記手続請求訴訟:遺産に含まれる不動産の所有権移転登記が既に行われているとき
- 不当利得返還請求訴訟:既に遺言にもとづいて預金からお金が引き出されており、任意にお金の引き渡しをしないとき
- 相続権不存在確認訴訟:遺言書の無効原因が相続人による偽造と認定されたとき
5-2.遺言が有効と判断された場合
遺言書が有効であれば、被相続人の遺言に従って遺産が分割されます。しかし遺言書の分割の仕方では、相続人に認められている最低限の遺産取得分である『遺留分』が確保されていないかもしれません。
そこで『遺留分侵害額の請求』を行いましょう。一般的には遺言無効確認訴訟の中で、『遺言書が有効なら予備的に遺留分を請求する』としておきます。
注意が必要なのは、遺留分侵害額請求には期限がある点です。遺留分を侵害する贈与や相続を知ってから1年間が過ぎると、請求できなくなってしまいます。
6.遺言の効力が疑わしいときは裁判で解決
被相続人の遺言書が見つかったとしても、本当に有効な遺言書なのか疑わしい場合もあるでしょう。そのようなときに行うのが遺言無効確認訴訟です。
遺言書の有効・無効を法的に判断し、裁判で決定します。ただし訴訟で判断できるのは遺言書の効力の有無のみです。
無効なら改めて遺産分割について話し合わなければならず、有効なら遺留分侵害請求の手続きをしましょう。遺産分割を実施すると、相続税の納税が必要なケースもあります。税金については『税理士法人チェスター』へ相談するのがおすすめです。
※この記事は専門家監修のもと慎重に執筆を行っておりますが、万が一記事内容に誤りがあり読者に損害が生じた場合でも当法人は一切責任を負いません。なお、ご指摘がある場合にはお手数おかけ致しますが、「お問合せフォーム→掲載記事に関するご指摘等」よりお問合せ下さい。但し、記事内容に関するご質問にはお答えできませんので予めご了承下さい。
公正証書遺言の作成ならチェスターにお任せ下さい
「遺言があれば、相続発生後の多くの争いを防ぐことができます。
さらに、相続発生後の手続きもスムーズに進めることができ残された方の負担が大幅に軽減されます。
チェスターグループでお客様の大切な遺言作成のサポートをお手伝いさせて下さい。
今まで見たページ(最大5件)
関連性が高い記事
カテゴリから他の記事を探す
相続法務編