相続財産管理人による不動産売却の流れ-選任の流れや生前対策も紹介
相続財産管理人が不動産を売却するためには、家庭裁判所の許可を経てから手続を進めていく必要があります。
裁判所からの許可条件の1つは公正な価格での売買であるため、不動産鑑定士による評価が必要になることも。
裁判所の許可がもらえた後に、相続財産法人名義の登記を行い、売買登記へと移っていきます。
相続財産管理人による不動産売却は、通常の不動産売買に比べて手間と時間がかかるのが通常です。
法定相続人がいないときは、遺言や養子縁組制度を活用した生前対策をしておくことで、相続財産管理人が絡む手続の複雑化を防げます。
この記事の目次 [表示]
1.相続財産管理人とは
相続財産管理人とは、法律で決められた相続人が誰もおらず故人の遺産を受け継ぐ人がいないなどの場合に、代わりに遺産を管理する人のことです。
亡くなった人の財産を誰も管理する人がいなければ、故人の預貯金から借金を返したり、土地家屋を処分したりすることができなくなってしまいます。そうなると、お金を貸していた債権者や保証人に迷惑がかかるだけではなく、空き家になるなどの問題も発生します。
以上のような問題が起きることを防ぐために、故人の遺産を適切に管理する人が必要なのです。
相続財産管理人は、必要であれば故人の所有していた不動産を売却することもできます。受け渡し先のない財産については、相続財産管理人が国庫に帰属させる手続をします。
2.相続財産管理人が不動産を売却するときの4つのステップ
▲相続財産管理人が不動産を売却するときの4つのステップ
相続財産管理人が不動産を買主に売るためには、4つのステップに沿って手続することが必要です。
2-1.家庭裁判所の許可を得る
相続財産管理人が不動産を売却するに当たっては、家庭裁判所の許可を得ることが必要です。なぜならば、相続財産管理人が相続不動産を売却することは法律で定められた「処分行為」に該当し、家庭裁判所の許可がなければ行えない行為だからです。
まず、「この値段が適正な売却価格である」という価格と、売却の予定先を明らかにし、家庭裁判所に対して許可を得たい旨の申立てをします。
売却予定価格は、申立人が決められるわけではなく、時価や路線価などの事情を総合考慮して、客観的に公正な評価額を決める必要があります。価格が公正なものであると家庭裁判所に認められなければ、売却を許可してもらえないので気をつけましょう。
家庭裁判所による売却価格の審査は厳しいため、多くの場合、不動産鑑定士に鑑定を依頼し、公正な評価額を調査してもらったうえで売却予定価格を決定することになります。
このように、相続財産管理人が故人の土地や家屋を売りに出す際は、裁判所の許しが必要となるのです。
2-2.裁判所の許可を得た内容で売買契約を結ぶ
裁判所から売却してもよいとの許しが得られれば、売りたい相手先と売買契約を結ぶことができます。その場合は、あくまで裁判所が適切と認めた範囲の額で売却するようにしましょう。
裁判所の許可がもらえたからといって、自由に販売できるわけではありません。好き勝手に価格を決めて販売できるとなれば、裁判所から許可をもらった意味がなくなるからです。
したがって、裁判所が認めた内容をきちんと確認し、決められた価額と売却先を守って売買契約を結ぶ必要があります。
2-3.売買登記の前に相続財産法人への名義変更を行う
相続人のいない相続財産は相続財産法人となるため、登記で名義変更をする必要があります。これは、不動産の名義を故人の名義から相続財産法人名義に変更する登記であり、相続財産管理人選任の審判がなされると行われる登記手続です。
相続財産法人名義変更登記手続は、所有権移転登記に付記する形で記載されます。必ず忘れないように手続しましょう。
2-4.相続財産法人から買主への売買登記を行う
相続財産法人名義への変更登記手続が終わったら、相続財産管理人が不動産を売却できます。その際、相続財産法人から買主へ不動産売買の登記手続が必要です。
相続財産管理人が不動産を売却する方法には、次の2つがあります。
相続財産管理人の不動産売却方法
- 競売
- 任意売却
競売は、故人の債権者に借金などを返済する必要がある場合に、不動産を金銭財産に換える手段として行われる方法です。
任意売却は、故人の借金の返済などのためではなく、第三者に不動産を売却する方法です。民法では、相続管理人に任意売却する権限を認めていますが、いったん家庭裁判所に対し申立てをし、許可を得る必要があります。
任意売却をする際にも、不動産の所有権が買主に移ることになるので、所有権移転を示す登記手続が必要です。
相続財産管理人によって不動産が売却されたときの税金はどうなるか?
相続財産管理人によって、相続人のいない不動産が売却された場合に、税金を支払う必要はないと考えることができます。
相続財産法人の不動産であることから法人税などの税金を支払わなければならないのかが問題となりますが、法律で支払義務が決まっているわけではありません。
また、相続財産法人の財産は、最終的には国庫に帰属することをふまえると、税金を支払わなくても税法上の問題はないことになります。
3.不動産売却のため相続財産管理人の選任が必要となるケース
不動産売却のため相続財産管理人が必要となるケースには次の3つがあります。
相続財産管理人が必要となるケース
- 相続人がいないため不動産を売却して被相続人の借金を返済する必要がある
- 相続人全員が相続放棄をして不動産を管理する人がいない
- 相続人がいないときに内縁の配偶者など特別縁故者に財産を配分する必要がある
上記3つのケースでは、故人の不動産に関わる利害関係者の権利や地位を不安定にさせないために、相続財産管理人が何らかのアクションを起こす必要があるのです。
3-1.相続人がいないため不動産を売却して被相続人の借金を返済する必要がある
故人に借金があるため、相続財産である不動産を売却して借金返済にあてなければならないにもかかわらず、不動産を受け継いで管理する人が誰もおらず不動産売却手続ができないケースです。
この場合、放っておくと誰も債権者に対して借金を返済できない状況になってしまいます。
そのような事態を防ぐために、不動産売却手続をする人物として、相続財産管理人を選任する必要があります。
3-2.相続人全員が相続放棄をして不動産を管理する人がいない
相続人全員が相続放棄をしてしまった場合も、相続財産管理人が必要です。不動産を受け継いでくれる法定相続人が複数名いたとしても、全員が相続放棄をした場合は、故人の遺した不動産を管理できる人がいなくなってしまいます。
これでは結局相続人がいない状態と同じになってしまうため、相続財産管理人の選任が必要になります。
3-3.相続人がいないときに内縁の配偶者など特別縁故者に財産を配分する必要がある
相続人がおらず、特別縁故者に被相続人の財産を分配する必要があるときは、相続財産管理人の選任が必要です。
特別縁故者とは、相続人ではないものの、被相続人と生前特別な関係にあった人のことをいいます。たとえば、被相続人と長年にわたり生活を共にしていた内縁の配偶者や、被相続人の身の回りの世話を毎日していた人などが該当します。
特別縁故者は、被相続人の所有財産から一定の限度で分与を受けることが可能です。もっとも、特別縁故者が勝手に不動産を処分することはできません。相続財産管理人によって遺産の内容を整理し、分与の手続をしてもらう必要があります。
したがって、特別縁故者に財産を分与しなければならない場合は、相続財産管理人の選任が必要になります。
4.相続財産管理人が選任されるまでの流れ
相続財産管理人は、一連の手続を行うことにより選ばれます。相続人がいないからといって、自動的に設定されるわけではありません。
相続財産管理人選任までの流れ
- 必要な書類を集める
- 家庭裁判所へ申立てをする
- 審判によって選任される
相続財産管理人を選任するためには、大まかな流れとして上記3つの手続を行う必要があります。
4-1.必要な書類を集める
相続財産管理人を選んでほしいと裁判所にお願いする前に、必要な書類を準備します。
申立てに必要な書類
- 申立書
- 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本
- 被相続人の両親の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本
- 被相続人の直系尊属が死亡していることを記載している戸籍謄本
- 被相続人の住民票除票または戸籍附票 など
裁判所に見せなければならない書類は、亡くなった人の家族関係によって異なります。いろいろな書類を用意しなければならないため、ややこしく感じるかもしれません。もっとも、もし不足しているものがあるときは、裁判所から追加で書類を提出するよう連絡がきます。
相続財産管理人が必要な時は、必要書類を確認し、あらかじめ準備しておくようにしましょう。
4-2.家庭裁判所へ申立てをする
提出書類がそろったら、家庭裁判所へ申立てをします。申立て先の裁判所は、亡くなった人が最後に住んでいた所を管轄する家庭裁判所です。
なお、申立てをするのは誰でもいいわけではなく、次の人に限られます。
申立てできる人
- 利害関係人
- 検察官
利害関係人とは、亡くなった人との関係において利益や不利益が生じている人のことです。たとえば、お金を貸していた人や金融機関、特別縁故者、特定遺贈を受けた人などが該当します。
必ず、相続財産管理人選任の申立てをできる権利を持った人が家庭裁判所へ申立てするようにしましょう。
4-2-1.予納金が必要な場合もある
相続財産管理人が選ばれると、申立てした人は予納金とよばれる費用を払わなければならない場合があります。なぜこのような費用が発生するのかというと、働いてくれる相続財産管理人のために報酬を支払う必要があるからです。
相続財産管理人は、土地建物や金銭財産を管理し、銀行などに借金を返済し、国庫に帰属させるための事務作業をしてくれる人です。申立て人のために時間と労力をかけていろいろな手続をしてくれるので、報酬を支払うのは当然でしょう。
報酬は、亡くなった人の遺産から支払えるのであればよいのですが、足りなくなるケースもあります。
遺産が足りなくなって報酬を支払えないなどということにならないよう、あらかじめ一定のお金を申立て人に準備しておいてもらいます。これが予納金です。
あらかじめ用意しておいてもらうお金なので、仮に遺産から報酬を全額支払えたのであれば、余った分のお金は返還されます。
相続財産管理人を立てるなら、予納金が必要となる場合も念頭に入れておきましょう。
4-3.審判によって選任される
相続財産管理人を選んでほしいという申立てが行われると、裁判所は本当に相続財産管理人を選ぶ必要があるケースなのかどうかを審判します。
申立てをしたからといって、必ず相続財産管理人が選ばれるわけではありません。裁判所が条件と実際の相続財産をとりまくさまざまな状況を照らし合わせて判断します。結果、選任が認められない場合もあります。
相続財産管理人選任に必要な条件
- 相続手続をする必要があること
- 相続財産があること
相続財産管理人を立てる際には、家庭裁判所の審判において上記の条件をクリアしなければならないのです。
5.法定相続人不在のとき手続複雑化を防ぐための生前対策
相続人不在による手続の複雑化を防ぎたいなら、生前に対策をしておく必要があります。生前にできる対策は下記の通りです。
相続人不在時の生前対策
- 遺言書の作成
- 養子縁組を活用
相続人がいないと、相続財産管理人の選任を裁判所にお願いするなど、さまざまな手続が必要になり、関係者に負担を生みます。
したがって、相続財産管理人を選任するための複雑な手続を行わずに済むように、生前対策を行っておくことが大切です。
5-1.遺言書を残して相続財産の行き先を決めておく
生前に遺言書を作成し、財産の行き先を決めておけば、相続財産管理人を立てるための手続をせずに済む場合があります。なぜならば、遺言であれば、法定相続人以外の人にも遺贈という形で財産を引き継ぐことができるからです。
相続財産管理人を不要とするために遺言書を作るなら、包括遺贈という方法がおすすめです。包括遺贈とは、「遺産の3分の1を〇〇に遺贈する」「自分の財産をすべて〇〇に遺贈する」といったように、誰にどれくらいの割合で財産を遺すかを決めたうえで財産を与える方法です。包括遺贈であれば、財産を受け取る人は法定相続人と同等の権利義務を受け継ぐことになるので、相続人がいないという事態には陥らないことになります。したがって、相続財産管理人を立てる必要がなくなるわけです。
なお、包括遺贈とは別に特定遺贈という遺言方式もあります。これは、「土地△△を〇〇に遺贈する」「預貯金△△を〇〇に遺贈する」といったように、財産の内容を特定して与える方法です。このやり方だと、遺贈の手続をするために相続財産管理人が必要になってきます。もっとも、遺贈の手続は遺言執行者がやることになっているため、遺言執行者を引き受けてくれる人がいるのであれば、その人に遺言執行の手続を依頼することで、遺贈については相続財産管理人を立てる必要がなくなります。
以上のように、遺言を作成することで財産の引継ぎ先や代わりに手続をしてくれる人を決めておけば、相続財産管理人にかかわる面倒な手続を行わずに済みます。
5-1-1.遺言は公正証書遺言がお勧め
遺産の行き先を指定しておくために遺言書を作成する際は、公正証書遺言がおすすめです。公正証書遺言とは、第三者である公証人が当事者に依頼されて書く遺言をいいます。公正証書遺言であれば偽造の心配がありません。公証人とは長く法律実務に携わってきたエキスパートから法務大臣によって任命される人物のことです。したがって、公証人が作成した遺言は公的に有効性を持つものとして信頼されます。
公正証書遺言を作成しておけば、原本を公正役場で保管してくれるため、偽造や紛失の心配もいらなくなります。
遺言書は全部自分で書くこともできますが、少しでもミスがあると無効となってしまったり、後で偽造されたりする可能性があるという心配があります。
そこで、あらかじめ遺産の引継ぎ先を指定して、相続財産管理人選任の煩わしさを残したくないのであれば、公正証書遺言を作成することがおすすめです。
5-2.養子縁組の制度を活用して法定相続人がいるようにしておく
相続人がいなくても、養子縁組制度を活用して法定相続人がいるようにすることも可能です。養子縁組をすれば、養う側の親が亡くなったとき、養子となった人物が遺産相続権を持つことになります。したがって、養子縁組をしておけば、複雑な手続を経なくても遺産を引き継ぐことができるのです。
養子縁組をする相手は、できるだけ昔からよく知る人物や心から信頼できる人物を指定しましょう。なぜなら制度を悪用し、最初から遺産狙いで養子縁組をしようとする人もいるからです。養子縁組をするときはできるだけ信頼性の高い人物を選び、大切な遺産を引き継ぐようにしましょう。
6.相続財産管理人による不動産売却の手間を減らすために生前対策で手続をシンプルに
亡くなった人に相続人がいない場合、遺産の管理については相続財産管理人を立てることとなりますが、その手続には時間と手間を要します。また、相続財産管理人を通して故人の土地や建物を売却するとなると、さらに手間がかかります。
したがって、相続財産管理人の選任や不動産売却の手間を減らすためには、生前から対策をし手続をシンプルにしておくことが望ましいのです。
もっとも、生前における対策では遺言書の作成や養子縁組など、法律的な手続が必要になります。手続を正確に行い、相続をスムーズに進めるためにも、ぜひ相続の専門家に相談することをおすすめします。
司法書士法人チェスターであれば、公正証書遺言にはどのような言葉を残せばよいかなど、依頼者に必要な法的手続について的確なアドバイスが可能です。
不動産を所有しているが相続人がいないなどでお困りの際には、ぜひお気軽にご相談ください。
※この記事は専門家監修のもと慎重に執筆を行っておりますが、万が一記事内容に誤りがあり読者に損害が生じた場合でも当法人は一切責任を負いません。なお、ご指摘がある場合にはお手数おかけ致しますが、「お問合せフォーム→掲載記事に関するご指摘等」よりお問合せ下さい。但し、記事内容に関するご質問にはお答えできませんので予めご了承下さい。
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