相続税計算における外貨の評価方法|外貨建て資産の相続で注意すべきこと
被相続人が外貨を現金で保有していたり、外貨建ての資産を保有していたりする場合にも、日本円で相続税がかかります。この場合には、外貨を日本円に換算して計算しましょう。
外貨を日本円に換算することを邦貨換算といいます。相続税の計算は、いつの時点で邦貨換算するかが重要です。外貨や外貨建て資産は、為替レートの影響を受けて日本円での金額が変動するからです。また、為替レートといっても3つの種類があるため、どのレートを基準にして計算するかも重要となります。
この記事の目次 [表示]
1.相続税計算において外貨は被相続人の死亡時に評価
相続税申告において外貨建て資産の評価基準日は、相続開始日(被相続人の死亡日)です。被相続人又は相続人の取引金融機関における相続開始日の公表レートによって評価します。
1-1.金融機関が休みの場合|相続開始前のうちもっとも近い時点の相場が基準になる
相続開始日(被相続人の死亡日)に金融機関が休みの場合は、その日より前のもっとも近い日の相場で評価します。土日祝日で金融機関が休みの場合、相場がなく取引レートは公表されないためです。
たとえば、相続開始日が11月14日(日曜日)である場合は、11月12日(金曜日)の公表レートを使用します。
2.外貨建て資産の評価には顧客が外貨を売るときの相場を使う
被相続人が外貨建て資産を所有する場合の相続税申告では、金融機関の公表する為替レートを使用して外貨建て資産を評価します。
金融機関は、以下3種類の為替レートを営業日に公表しています。
金融機関が公表する為替レート
- TTS(対顧客電信売相場)
- TTM(対顧客電信相場仲値)
- TTB(対顧客電信買相場)
外貨建て資産の評価には、顧客が金融機関で外貨を売るとき(外貨を邦貨に換える場合)に適用されるTTBを使用します。
2-1.TTS(対顧客電信売相場)|顧客が外貨を買うときの相場
TTS(Telegraphic Transfer Selling Rateの略)は、顧客が金融機関で外貨を買うとき(邦貨を外貨に換える場合)に適用されるレートです。金融機関はこのレートで顧客に外貨を売るため、「売相場」と呼ばれます。
TTSの数値は、取引の基準となる為替レート(TTM)に金融機関の手数料を上乗せして算出されています。
2-2.TTM(対顧客電信相場仲値)|実際の市場価格
TTM(Telegraphic Transfer Middle Rateの略)は、顧客が金融機関で外貨を売買するときの取引の基準となるレートです。「仲値」とも呼ばれています。TTMの数値は、金融機関ごとに異なります。外国為替市場の取引実勢レートを参考に各金融機関が個別で発表するためです。
発表は金融機関の毎営業日、午前10時ごろにおこなわれます。また、よほど大きな為替変動がない限り、該当日で同じ数値を使用します。
2-3.TTB(対顧客電信買相場)|顧客が外貨を売るときの相場
TTB(Telegraphic Transfer Buying Rateの略)は、顧客が金融機関で外貨を売るとき(外貨を邦貨に換える場合)に適用されるレートです。金融機関はこのレートで顧客から外貨を買うため、「買相場」と呼ばれます。
TTBの数値は、取引の基準となる為替レート(TTM)から金融機関の手数料を差し引いて算出されています。
2-3-1.外貨建て資産を実際に日本円に換金した場合の金額が基準になる
相続税申告において外貨建て資産は、TTBを使用して評価します。外貨建て資産を実際に日本円に換金した場合の金額を基準とするためです。
たとえば、相続開始日において被相続人が、1万アメリカドルを所有する場合です。アメリカドルのTTM(仲値)が1ドル110.15円、為替手数料が1円の場合、TTBと評価額は以下の金額となります。
金額 | 計算式 | |
---|---|---|
TTB | 109.15円 | 110.15円-1円 |
評価額 | 109万1500円 | 1万ドル×109.15円(TTB) |
一方、外貨建て債務は、TTSを使用して評価します。債務は外貨で返済するためです。
3.TTBを確認するときに注意すべきこと
相続税申告において外貨建て資産は、為替レートのTTBを使用して評価します。TTBを確認するときには以下の点に注意が必要です。
TTBを確認するときに注意すべきこと
- 被相続人又は相続人の取引金融機関の為替レートを使う
- 取引金融機関のうち、どの金融機関の為替レートを採用するかは任意
- TTBは金融機関の残高証明書に記載されている場合もある
3-1.被相続人又は相続人の取引金融機関の為替レートを使う
外貨建て資産の相続税評価で使う為替レートは、被相続人又は相続人の取引金融機関の相続開始日(被相続人の死亡日)における公表為替レートです。
相続人が複数で、取引金融機関が相続人ごとに違い為替レートが異なっても問題ありません。また、相続人が名義変更で被相続人の取引金融機関に口座開設しても、その金融機関の為替レートを使用することも可能です。
なお、取引金融機関がない場合や過去の為替レートを公表していない場合は、任意の金融機関で為替レートを使用します。
3-2.取引金融機関が複数ある場合|為替手数料の高い金融機関のレートを採用すれば有利
為替手数料の高い金融機関のレートを採用すると、相続税の課税対象金額を抑えられる可能性があります。相続税申告で外貨を評価するための為替レート(TTB)は、為替手数料を差し引いた金額によって計算されるためです。
為替レートと為替手数料は、金融機関によって異なります。たとえば、相続開始日に被相続人が1万アメリカドルを所有している場合です。アメリカドルのTTM(仲値)がAB銀行ともに1ドル110.15円とします。為替手数料がA銀行1円、B銀行3円の場合、TTBと評価額は以下の金額となります。
A銀行のTTBと評価額
金額 | 計算式 | |
---|---|---|
TTB | 109.15円 | 110.15円-1円 |
評価額 | 109万1500円 | 1万ドル×109.15円(TTB) |
B銀行のTTBの評価額
金額 | 計算式 | |
---|---|---|
TTB | 107.15円 | 110.15円-3円 |
評価額 | 107万1500円 | 1万ドル×107.15円(TTB) |
上記例の場合、B銀行の評価額を相続税の課税対象金額として計上すると、A銀行よりも評価額が抑えられます。
3-3.TTBは金融機関の残高証明書に記載されている場合もある
金融機関によっては、被相続人の口座の残高証明書にTTBが記載されています。
なお、残高証明書への記載がない場合でも、取引先の金融機関のホームページや窓口に問い合わせることで確認できます。
4.外貨建て資産がある場合の相続税計算の流れ
相続財産に外貨建て資産がある場合、以下の流れを理解しておくことでスムーズに相続税を計算できます。
外貨建て資産がある場合の相続税計算の流れ
- 被相続人が保有していた全財産を評価する
※外貨建て資産を相続開始日現在の為替レート(TTB)で邦貨換算する - 被相続人の債務や非課税財産を1で評価した金額から差し引く
- 基礎控除額を2で算出した金額からさらに差し引く
- 法定相続分にしたがって3で算出した金額を分配し、それぞれに応じた税率をかける
- 4で算出した金額を合算して相続税の総額を導き出す
- 相続税の総額を実際の相続割合に応じて分配する
4-1.被相続人が保有していた全財産を評価する
相続税を計算するときに、まずは正味の遺産総額(相続財産)を計算します。正味の遺産総額は、以下の計算式で求めることが可能です。
正味の遺産総額の計算方法
土地の評価額+建物の評価額+金融資産(預貯金や有価証券)+生命保険-債務-葬儀費用
相続開始前の一定期間内の贈与財産や、相続時精算課税制度の対象となった贈与財産がある場合は、遺産総額に含めて計算します。
相続税の対象となる財産は、以下のとおりです。
プラスの財産 | マイナスの財産 |
---|---|
不動産(土地・建物) 戸建て・マンション・農地・店・貸地 | 借金 銀行や人からの借入金 |
不動産上の権利 借地権など | |
現金・預貯金・有価証券 小切手・株券・貸付金・国債など | その他 未払の医療費などの債務 |
その他 ゴルフ会員権・著作権など | |
動産 車・骨董品・宝石など |
被相続人の財産は、すべてが相続税の対象ではありません。相続税がかからない財産は、以下のとおりです。
4-1-1.外貨建て資産を邦貨換算する
相続税申告の外貨建て資産は、相続開始日現在のTTB(顧客が外貨を邦貨に換える場合に適用する為替レート)で評価します。
外貨建て資産にはさまざまな種類が存在します。被相続人と取引のあった金融機関の通帳や送付物から、漏れがないように確認しましょう。
外貨建て資産の一例と主な取扱金融機関は、以下のとおりです。
外貨建て資産 | 取扱金融機関 |
---|---|
外貨預金 | 銀行・信用金庫など |
外国株式・外債・外国籍投資信託 | 証券会社 |
外貨建て生命保険 | 生命保険会社 |
4-2.被相続人の債務や非課税財産を評価した金額から差し引く
次に、被相続人の遺産の総額から被相続人の債務や非課税財産を差し引き、課税価格を計算します。
被相続人に外貨建ての債務があった場合、外貨を日本円に換算して相続財産から控除します。外貨建て債務は、相続開始日現在のTTS(顧客が邦貨を外貨に換える場合に適用する為替レート)で評価します。債務は外貨で返済するためです。
4-3.基礎控除額を算出した金額からさらに差し引く
相続税の課税対象となる遺産は、以下のように計算します。
課税価格の合計が基礎控除額(3000万円 + 600万円 × 法定相続人の数)を超える場合は、相続税の申告が必要となります。基礎控除額を超えていない場合は、相続税に関する手続が不要です。
ただし、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を適用することにより納税額が0円になった場合には、税務署への申告が必要になります。
4-4.法定相続分にしたがって算出した金額を分配・それぞれに応じた税率をかける
相続税の申告が必要な場合は、相続税の課税対象となる課税遺産総額から法定相続人ごとに相続税を計算します。計算の流れは、以下のとおりです。
相続人の相続税額を計算する流れ
- 相続税の課税対象となる課税遺産総額を、相続人が法定相続分によりそれぞれ相続したとし、法定相続分で分割。
- 相続税の税率(相続税の速算表)をもとに、法定相続分で分割した取得金額に税率をかけて各相続人で仮の相続税額を計算。
相続人が遺言書や遺産分割協議などで取得した財産の割合では計算しません。
相続税率は、国税庁のホームページで確認できます。相続開始日が平成27年1月1日以降の税率は、以下のとおりです。
法定相続分に応ずる取得金額(基礎控除後) | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1000万円以下 | 10% | - |
3000万円以下 | 15% | 50万円 |
5000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1700万円 |
3億円以下 | 45% | 2700万円 |
6億円以下 | 50% | 4200万円 |
6億円超 | 55% | 7200万円 |
4-5.算出した金額を合算して相続税の総額を導き出す
法定相続人ごとの相続税額が計算できたら、すべてを合計して相続税の総額を算出します。
4-6.相続税の総額を実際の相続割合に応じて分配する
算出した相続税の総額を、遺言書や遺産分割協議などの結果で各相続人が取得した相続割合を適用して分配します。各相続人の納税額の計算方法は、以下のとおりです。
各相続人の納税額
相続税の総額×実際の相続割合+相続税の2割加算-相続税の税額控除
被相続人の兄弟姉妹や孫養子など一定の相続人は、相続税の税額が2割加算されます。相続税の税額控除は、相続人の個別の状況に応じて適用できます。たとえば、配偶者の税額軽減や未成年者控除、障害者控除などがあります。
5.外貨建て資産を相続するときの注意点
外貨建て資産を相続する場合、為替相場の影響を受けたり手数料が発生したりするため、以下の点に注意が必要です。
外貨建て資産を相続するときの注意点
- 円高が進行すると資産が目減りする
- 外貨建て生命保険は、節税効果よりも損失が大きくなる場合もある
事前に注意点を理解し、リスクを回避できるようにしましょう。
5-1.為替レートの変動|円高が進行すると資産が目減りする
外貨を日本円に換金する場合、為替相場の影響を受けます。購入時より為替相場が円安になっていた場合は、為替差益が得られます。しかし、為替相場が円高の場合は為替差損が生じてしまい、円建ての金額は減少します。
アメリカドルの為替レートの例 | TTS | 仲値 | TTB |
---|---|---|---|
被相続人の購入時点* | 110円 | 109円 | 108円 |
A時点 | 122円 | 121円 | 120円 |
B時点 | 92円 | 91円 | 90円 |
※被相続人は日本円110万円でアメリカドル1万ドルを購入(110円(TTS)×1万ドル=110万円)。
たとえば、被相続人がアメリカドルを1万ドル所有していた場合です。相続後に、A時点とB時点のどちらで日本円に換金するかによって、以下の差益または差損が発生します。
日本円に換金する時点 | 損益 | 計算式 |
---|---|---|
A時点 | 10万円の為替差益 | (120円(TTB)×1万ドル)-(110円(TTS)×1万ドル) |
B時点 | 20万円の為替差損 | (90円(TTB)×1万ドル)-(110円(TTS)×1万ドル) |
5-2.外貨建て生命保険|節税効果よりも損失が大きくなることも
外貨建て生命保険では外貨で保険料を支払い、保険金を受け取ります。そのため、為替相場の影響や、運用実績などで損益が発生します。
外貨で元本保証される場合でも、日本円での保証はありません。保険金や解約返戻金を日本円で受け取る場合、円高になっていると元本割れするリスクがあります。
日本円で外貨建ての保険料を支払う場合や、保険金や解約返戻金を受け取る場合には、所定の為替手数料が必要です。また、短期間で契約を解約した場合、手数料を差し引かれる場合もあります。外貨建て生命保険を検討する場合は、リスクや手数料を理解したうえで契約するようにしましょう。
なお、外貨建て生命保険には、保険会社で円換算して保険金が支払われる「円換算支払特約」を付けられるものがあります。その場合には、相続人において円換算する必要はありません。
6.外貨建て資産の相続税評価を正しくおこなうためには専門家を活用しましょう
被相続人が外貨や外貨建ての資産を保有していた場合は、外貨を日本円に換算したうえで相続税評価が必要です。使用する為替レートは、資産や負債によって異なります。またレートの金額は納税者(相続人)の取引金融機関によって差があります。
専門家に正しい評価方法や計画的な手続方法を相談することで、相続税評価の誤りによる税金の加算を防げるでしょう。相続の手続や相続税の申告が心配な場合は、ぜひ一度税理士法人チェスターにお問い合わせください。相続に強い専門税理士に任せることで、外貨建て資産がある場合も安心して相続手続を進められます。
※この記事は専門家監修のもと慎重に執筆を行っておりますが、万が一記事内容に誤りがあり読者に損害が生じた場合でも当法人は一切責任を負いません。なお、ご指摘がある場合にはお手数おかけ致しますが、「お問合せフォーム→掲載記事に関するご指摘等」よりお問合せ下さい。但し、記事内容に関するご質問にはお答えできませんので予めご了承下さい。
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