一般社団法人で相続税対策できる?節税スキームと税制改正の影響を解説

一般社団法人はかつて「相続税を非課税にしつつ家族に財産を承継できる」節税スキームとして活用されてきました。しかし平成30年度の税制改正により、同族で支配する一般社団法人「特定一般社団法人」に対して相続税が課される仕組みが導入され、従来の節税策は大きく制限されました。
本記事では、改正内容や相続税が課税される仕組み、現在でも一般社団法人の活用で得られるメリットについて詳しく解説します。
この記事の目次 [表示]
1.そもそも一般社団法人とは何?相続税対策で注目された理由とは?
上手に活用すれば相続税の節税効果が高いという理由で、一般社団法人は注目されてきました。なぜ一般社団法人が相続税対策として有効だったのでしょうか。
そもそも一般社団法人とはどういった組織なのかを含めて解説します。
1-1.一般社団法人とはどのような法人なのか?概要と特徴を解説
一般社団法人とは「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」に基づいて設立された非営利法人です。
一般の株式会社とは異なる組織になっており、理事長(法人の代表者)・理事(役員であり実務者)・社員(理事の選任や解任をできる人)の3者で構成されるのが一般的です。ただし、理事長と理事、理事と職員など兼任するケースもあります。
また、一般社団法人は非営利法人ですが、営利を目的にしていないだけで利益を出すことは可能です。理事や社員に労働の対価として給与を支払うことができる一方、余剰金を分配することはできません。
参考:e-Gov法令検索「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」
一般社団法人は株式会社と比較して設立するのが容易であることが知られています。一般社団法人の設立要件は以下の通りです。
- 出資金は不要
- 社員2名以上、理事1名以上が必要(ただし、理事は社員と兼務可能)
- 官庁からの許可は不要で、公証役場や法務局で手続きすれば設立可能
1-2.一般社団法人で相続税対策になる?節税スキームの解説
それでは、一般社団法人がどのように相続税対策になるのでしょうか。具体的な節税スキームは以下のとおりです。
- 親は一般社団法人を設立し、自身の保有する資産を一般社団法人に移す
- 親が亡くなったあと、子どもも一般社団法人の社員となる
- 子どもが亡くなったあと、今度は孫を一般社団法人の社員とする
一般社団法人に個人の財産を移管することで、その財産は法人の所有となります。一般社団法人には出資金にあたる持分という概念がなく、移された財産は相続税の対象外です。
このため、自分の子どもや孫を一般社団法人の社員にすることで「親→子→孫」と永続的に相続税を回避できます。

一般社団法人を解散する場合、財産の帰属先を定款にて指定可能です。公共性のある団体を財産の帰属先に指定するのが原則ですが、定款の変更は社員総会の特別決議によっておこなえます。
このため、設立時は国や地方自治体といった公共性のある団体を解散時の財産の帰属先にしておき、途中で親族などに帰属させることが可能です。
2.相続税対策が封じられた?平成30年度の税制改正での変更点は?
これまで一般社団法人を利用することで、相続税を非課税にしながら実際には子どもや孫などに財産を継承することが可能でした。しかし、平成30年度の税制改正で一般社団法人に財産を移転すれば相続税を回避できる状況にメスが入ります。ここからは、平成30年度の税制改正での変更点を解説します。
平成30年度の税制改正での相続税・贈与税の見直しについては速報段階で解説していました。このように、今後も税制改正や相続関連のニュースがあるときは、その影響をわかりやすく解説していきます。
参考:平成30年税制改正~一般社団法人等に関する相続税・贈与税の見直し~
2-1.「特定一般社団法人」は相続税の課税対象に
平成30年度の税制改正により、同族経営をおこなっている「特定一般社団法人」に対しては相続税を課税することになりました。
特定一般社団法人とは以下に当てはまる一般社団法人です。
- 相続開始の直前におけるその被相続人に係る同族理事の数の理事の総数のうちに占める割合が2分の1を超えること
- 相続開始前5年以内において、その被相続人に係る同族理事の数の理事の総数のうちに占める割合が2分の1を超える期間の合計が3年以上であること
引用:国税庁「特定の一般社団法人等に対する課税のあらまし」
同族理事とは、一般社団法人等の理事 のうち、被相続人またはその配偶者、3親等内の親族その他など被相続人と特別な関係にある人を指します。
つまり、配偶者や子ども、孫などで法定相続人になりうる人が半数を超える場合は特定一般社団法人となるため、相続税が課税されずに財産を承継することが不可能になったというわけです。
2-2.相続税が課税されるタイミングと対象者
相続税が課税されるタイミングは、特定一般社団法人の同族理事が亡くなったときです。
本来であれば一般社団法人には持分がないため、法人の財産は相続財産にはなりません。しかし、特定一般社団法人は家族の支配が強いため、死亡した理事の相続財産とみなされて相続税の課税対象となります。
課税対象となるのは、相続開始時点における特定一般社団法人の純資産額の一部です。同族理事の人数に応じて相続税課税金額は計算されます。
また、相続税の納税義務者になるのは亡くなった理事の法定相続人です。つまり、理事の配偶者や子どもなどが相続税を支払うことになります。
2-3.結果:現在は一般社団法人の節税効果は限定的
税制改正後も同族理事を2分の1以下にして特定一般社団法人ではない状態にすれば、一般社団法人の節税効果は維持できます。ただし、「同族」の規定が厳しいため、税制改正前のように相続税の節税ができるわけではありません。
つまり、一般社団法人の節税効果は限定的といえるでしょう。
3.税制改正後における特定一般社団法人の相続税評価方法
税制改正後における特定一般社団法人は相続税を課されるようになりましたが、全資産が相続税の課税対象となるわけではありません。亡くなった理事を含めた同族理事の人数で純資産を按分した金額が、相続税評価額になります。
特定一般社団法人の純資産額÷(相続開始時の同族役員数+1)
「相続開始時の同族役員数+1」になっているのは、死亡によって名簿から外れた同族理事も含めて計算をするためです。
実例として、相続税課税対象となる金額を計算すると以下のようになります。
【実例】
- 純資産額:1億円
- 理事の人数:5名
- 理事のうち同族理事の人数:3名(このうち1名が亡くなった)
【計算】
1億円(特定一般社団法人の純資産額)/3名(相続開始時の同族役員数+1)
=約3,333万3,333円
このように、約3,333万3,333円が相続税の課税対象となる金額です。 一般社団法人のように純資産額を相続税評価に用いるケースとして、非上場株式の評価が挙げられます。
純資産価額方式は「相続開始時に当該会社が解散したら何円と評価されるのか」を基準に計算する方法です。次の記事で考え方や計算方法などを詳しく解説していますので、非上場株式を保有している方はぜひご確認ください。
参考:【基礎】純資産価額方式を使った非上場株式の評価方法の考え方
4.現在でもメリットはある?一般社団法人を活用する意味とは?
平成30年度の税制改正後、一般社団法人を相続税対策として用いるメリットは限定的になりました。しかし、相続税の節税はできないものの、一般社団法人を活用する意味はあります。
ここでは、一般社団法人を相続対策として用いるメリットをご紹介します。
4-1.事業承継の円滑化が可能になる
一般社団法人を活用することで、事業承継が円滑におこなえるというメリットがあります。
個人で保有していた会社の株式を一般社団法人に保有させると、株式は相続税の課税対象ではなくなります。相続税の対象でなくなれば、株価の上下を意識する必要がありません。
また、遺産分割協議も不要になるため、後継者を一般社団法人の理事や社員にすると、当該会社と一般社団法人を含めたグループ全体でスムーズに事業を承継できるようになります。
事業承継税制の概要や納税猶予の条件、手続きの方法については以下の記事でわかりやすく解説しています。事業承継に不安がある方はぜひ参考にしてください。
参考:事業承継税制とは│納税猶予の要件や手続きをわかりやすく解説
4-2.財産の散逸防止ができる
一般社団法人に財産を移すと相続財産ではなくなる場合があるため、遺産分割を避けたい財産(不動産や事業など)を一般社団法人に移転しておけば、そのままの形で継承できるというメリットがあります。
移転する財産が不動産の場合、一般社団法人に移した段階で登記名義は一般社団法人となります。このため、不動産を所有していた理事が亡くなっても相続登記は不要です。
4-3.公益社団法人として認定されている場合は課税対象外
公益社団法人とは「公益事業を主な活動目的としている」と内閣総理大臣や都道府県知事から認定を受けた一般社団法人です。
以下のとおり認定基準は厳しくなっていますが、公益社団法人に移行すれば法人税・相続税の一部が非課税となります。
【主な認定基準】
- 公益目的事業を行うことを主たる目的としているか
- 公益目的事業に係る収入がその実施に要する適正費用を超えることはないか
- 公益目的事業費率が50/100以上の見込みか
- 遊休財産額が一定額を超えない見込みか
- 同一親族等が理事又は監事の1/3以下か
- 認定取消し等の場合公益目的で取得した財産の残額(※)相当額の財産を類似の事業を目的とする他の公益社団法人に贈与する旨を定款で定めているか
※公益認定以後に取得した公益目的事業のために使用・処分すべき財産のうち未だ費消し、又は譲渡していないものの額等
引用:政府の行政改革「公益社団法人・公益財団法人とは?」
公益社団法人については、下記の記事も参考にしてください。
参考:公益社団の贈与とは
5.他にはどのような相続税対策がある?一般社団法人との違いとは?
平成30年度の税制改正により一般社団法人での節税が封じられたため、これから相続税対策をしたい人は、ほかの方法を検討する必要があります。よく活用される相続税対策と、一般社団法人との違いを解説します。
5-1.よく活用される相続税対策
一般社団法人のほかに、よく活用される相続税対策は以下のとおりです。それぞれ要件はありますが、上手に活用できれば相続税の節税を期待できます。
- 暦年贈与(年間110万円の非課税枠)>>
年間110万円までの贈与は非課税となるため、毎年非課税枠内で贈与をおこなえば将来の相続財産を圧縮し節税効果が期待できます。 - 相続時精算課税制度>>
60歳以上の父母(もしくは祖父母)から18歳以上の子(もしくは孫)への生前贈与を最大2,500万円まで特別控除し、贈与財産は贈与者の相続発生時に相続財産に加算し相続税額として計算します。相続よりも早期に財産を移転でき、相続争いを防ぐことができます。 - 生命保険の非課税枠活用>>
生命保険の非課税枠「500万円×法定相続人の人数」の範囲内であれば保険金に相続税がかかりません。 - 家族信託>>
家族信託とは、信頼できる家族に財産の管理や処分を委託する仕組みです。相続税の節税よりも認知症などの対策・スムーズな財産継承方法として注目されています。
5-2.一般社団法人との違い
一般社団法人とほかの相続対策との違いを比較してみます。どのような相続対策が合っているのかは相続財産の種類や家族関係、目的によって異なります。ぜひ以下の表を参考にしてください。
| 対策 | 節税効果 | コスト | 手軽さ | 主な目的 | リスク・注意点 |
|---|---|---|---|---|---|
| 一般社団法人 | △(限定的) | 高い | 難しい | 資産管理と事業承継 | 同族の実質支配で課税対象になる |
| 暦年贈与 | ○(少額ずつ) | 低い | 簡単 | 着実な資産移転 | 名義預金と判断されないように注意 |
| 相続時精算課税制度 | ○(条件付き) | 中 | 中 | 早期にまとまった資産移転可能 | 要件を確認する必要がある |
| 生命保険 | ○(中程度) | 中 | 普通 | 納税資金、葬儀費用の確保 | 保険料の負担が発生する |
| 家族信託 | △(節税目的ではない) | 高い | 難しい (専門家の関与が必要) | 資産の管理・承継をスムーズにおこなう | 緻密な信託設計が必要 |
6.相続税対策は税理士法人にご相談を
平成30年度の税制改正により、一般社団法人の相続税節税効果はほぼなくなったといえるでしょう。従来のような相続税回避のスキームは利用できないものの、事業承継をスムーズにおこなったり不動産の分割を防いだりする効果はあります。
税制改正前のように節税効果を求める場合は、ほかの相続対策を含めて相続専門の税理士に相談することをおすすめします。
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