暦年贈与の注意点とは?贈与を無駄にしない5つの対策

暦年贈与とは、1年間(暦年)に贈与された財産が110万円以下であれば贈与税がかからないことを利用した贈与の方法です。
生前に非課税で財産を移すことができ、相続税対策の一つとして利用されています。
しかし、暦年贈与を行うときは注意が必要で、方法を間違えると贈与税が課税される可能性があります。
この記事では、暦年贈与の仕組みと注意点のほか、贈与を無駄にしないための5つの対策をご紹介します。
この記事の目次
1.暦年贈与の仕組み
贈与税は、原則として1月1日から12月31日までの1年間(暦年)に贈与された財産に対して課税されます。
贈与税には110万円の基礎控除があり、税額は、暦年に贈与された財産の合計額から110万円を控除した金額をもとに計算します。

(贈与税の税率や控除額など詳しい計算方法は、「贈与税はどんな時に払う?計算方法や非課税の特例も解説」をご覧ください。)
1年間に受け取った財産の合計額が110万円を超えない場合は、贈与税は課税されません。贈与税の申告を行う必要もありません。

暦年贈与は、このような贈与税の仕組み(暦年課税)を利用した贈与の方法です。
暦年ごとの贈与の額が110万円以下であれば、贈与税を負担することなく財産を移せるという特長があります。
1-1.贈与税がかかるかどうかは「1年ごとの合計額」で判定する
贈与税が課税されるかどうかは、1月1日から12月31日までの1年(暦年)ごとに受けた贈与の合計額で判定します。
たとえば、12月30日に100万円の贈与を受けて、翌年1月4日に他の人から100万円の贈与を受けた場合では、短期間に200万円もらっていますが、年が異なるため贈与税は課税されません。
1-2.贈与税が少なくなる特例を適用する場合は税額0でも申告が必要
贈与税には、一定の金額までの贈与について非課税になる特例があります。
これらの特例のうち、贈与税の配偶者控除や住宅取得資金贈与の非課税の特例を適用する場合は、税額が0になる場合でも贈与税の申告が必要です。
上記の特例は110万円の基礎控除と併用することができますが、特例を適用しない贈与財産があって、その金額が110万円以下であったとしても申告が必要です。

贈与税の特例について詳しい内容は、下記の記事をご覧ください。
相続税対策には生前贈与を活用しよう!贈与税の6つの非課税枠って?
夫婦間で贈与をすると贈与税は発生するの?贈与税の配偶者控除と併せて解説
住宅取得資金と暦年贈与を組み合わせると最大1,110万円まで贈与税がかからない?
1-3.基礎控除は財産を受け取る人に対して適用される
贈与税の110万円の基礎控除は、財産を受け取る人に対して適用されます。
たとえば、4,400万円の財産を一人の人に一度に贈与してしまうと多額の贈与税がかかります。
しかし、同額の贈与でも4人に対して10年間に分けて贈与を続けたとすると、贈与税を無税にすることができます。

複数の人から贈与を受けた場合でも、贈与税の基礎控除は110万円です。
贈与した人1人ごとに110万円の基礎控除が適用できるのではないため注意が必要です。
たとえば、4人から110万円ずつ贈与を受けたという場合は、合計440万円をもらったため贈与税は非課税とはなりません。
440万円から基礎控除110万円を引いた330万円が課税の対象になります。

2.【事例で解説】暦年贈与を行う場合の注意点
暦年贈与の原則的な方法では、毎年1月から12月の間に受け取った財産の合計額が110万円以下であれば、贈与税の基礎控除によって贈与税がかからないことになります。
ただし、「毎年同じ時期に同じ金額を贈与している」といった場合は、税務署に「最初からまとまった財産を1人の人にあげることを想定していた」と判断されることがあります。
このように判断されてしまうと、結果として多額の贈与税がかかることになるため注意が必要です。
この章では、税務上暦年贈与が認められなかった事例をご紹介します。
2-1.暦年贈与が認められなかった事例
10年間にわたって、毎年1月1日に未成年の息子に対して親が110万円をあげていたとします。
1年間にあげる財産の合計額は基礎控除110万円の範囲内であり、本来は暦年贈与として贈与税は非課税となるはずです。
しかし、税務調査によって「最初から息子に対して1,100万円を渡す意図があった」と判断されると、1年間で1,100万円をまとめて贈与したとみなされて多額の贈与税が発生します。
この場合、(1,100万円-110万円)×贈与税率40%-控除額125万円=271万円の贈与税がかかることになります。

結果として息子に渡すことができる財産の合計額は1,100万円-271万円=829万円となり、当初の想定よりもかなり少ない金額となってしまいます。
「暦年贈与だから110万円までの贈与は問題ないだろう」と安易に判断してしまうと、思わぬ失敗をすることもあるので注意しましょう。
3.暦年贈与を無駄にしないための5つの対策
贈与税の基礎控除を上手に活用して暦年贈与を行うためには、「一括で贈与する意図があった」と税務署に判断されないような工夫が必要です。このほか、贈与が行われたことが客観的にわかるようにしておくことも大切です。
この章では、暦年贈与を無駄にしないための5つの対策をご紹介します。
3-1.贈与契約書は必ず作成する
数年間にわたって贈与した金額をあとで証明できるように、必ず贈与契約書を作成しましょう。
未成年の子に対する贈与で契約書を作成する場合は、法定代理人(通常は親権者)の署名捺印が必要です。
贈与契約書の書き方は、下記の記事で詳しく解説しているので参考にしてください。
3-2.あえて基礎控除110万円を超える金額を贈与して贈与税を申告する
あえて基礎控除の110万円を超える金額を贈与して、贈与税を申告・納付しておくことも1つの方法です。
贈与があったつど贈与税を申告することで、過去に贈与を行って贈与税が課税された証拠を残すことができます。
たとえば115万円の贈与を行ったとすると、贈与税の金額は5,000円です。贈与を行って贈与税が課税された証拠を残すための費用と考えれば、それほど大きなコストとはならないでしょう。

贈与税の申告は、贈与があった年の翌年2月1日から3月15日までに行います。確定申告があれば一緒に申告するように覚えておくとよいでしょう。
贈与税の申告書は、一度作成すれば翌年以降はほぼ同じものを作成するだけでよいので、負担はあまり大きくありません。
3-3.贈与は送金で証拠を残す
暦年贈与を行ったことを客観的に証明するためには、現金を手渡しするのではなく、送金の記録が残る振込で贈与しましょう。
贈与契約書も贈与を行った証明にはなりますが、振込をすると実際に送金された記録が通帳に記載されるため、より確かな証拠になります。
3-4.贈与を受ける人もきちんと認識しておく
暦年贈与を行う場合は、贈与を受ける人も「贈与を受けた」という認識を持っておかなければなりません。
贈与契約書を作成するときに、贈与を受ける人に立ち会ってもらうとよいでしょう。
贈与を受ける人に「贈与を受けた」という認識がない場合は、贈与を行った人が他人の名義でお金を貯めていただけと判断され、後々相続税の課税対象になることがあります。
特に子供の名義の預金口座に親がお金を振り込んでいて、子供はそのことを知らなかったというケースで問題となりやすいので注意が必要です。
家族名義の預金口座で自分のお金を貯める行為を名義預金といいます。名義預金が引き起こす問題については、下記の記事をご覧ください。
3-5.贈与を受ける人の預金通帳の印鑑は本人のものを用意する
子供名義の預金口座に振り込みをして暦年贈与を行う場合は、子供本人が印鑑や通帳、キャッシュカードを管理して、贈与した親が勝手に預金を引き出せないようにしましょう。
親がいつでも子供の預金からお金を引き出せる状態では、実質的に贈与と認められないケースもあるので注意が必要です。
4.暦年贈与信託を利用するという選択肢も
暦年贈与を有効に行うためには、自分で契約書を作成して、振込をしなければなりません。
しかし、こういった手続きに不慣れな場合は、契約書を作成できなかったり、振込のタイミングを忘れてしまったりすることもあるかもしれません。
信託銀行が提供する「暦年贈与信託」では、贈与契約書の作成や振込など暦年贈与に関する手続きを銀行に任せることができます。
銀行から送られた贈与契約書に署名捺印して返送すれば、贈与する人の口座から贈与を受ける人の口座に送金され、簡単に暦年贈与ができます。手数料は無料で、少ないリスクで確実に贈与を行いたい場合に便利な商品です。
主要な信託銀行には次のような暦年贈与信託があります。
- 三菱UFJ信託銀行:暦年贈与信託 おくるしあわせ
- 三井住友信託銀行:暦年贈与サポート信託
- みずほ信託銀行:暦年贈与型信託 想いの贈りもの
5.亡くなるまでの一定期間の暦年贈与は相続税の対象になる(生前贈与加算)
遺産を相続した人が、故人が亡くなるまでの一定期間に故人から贈与を受けていた場合は、その生前贈与財産も相続税の課税対象になります。これを相続税の生前贈与加算といいます。
税制改正により、令和6年1月1日以降に行われる贈与から、生前贈与加算の対象になる期間は故人が亡くなるまでの「3年間」から「7年間」に段階的に延長されます。
なお、贈与税の配偶者控除や住宅取得資金贈与の非課税といった特例を適用した場合には、生前贈与加算の対象とはなりません。
生前贈与加算については、下記の記事で詳しく解説しています。
5-1.【改正前】亡くなるまでの3年間の贈与が相続税の対象
令和5年12月31日までに贈与が行われる場合は、故人が亡くなるまでの3年間に受けた贈与財産が生前贈与加算の対象になります。
生前贈与加算では、贈与税が課税されていない年間110万円以下の贈与も加算の対象になります。
つまり、暦年贈与で贈与税がかからなくても、贈与から3年以内に贈与者が死亡した場合は相続税がかかるので注意が必要です。

5-2.【改正後】亡くなるまでの7年間の贈与が相続税の対象
令和6年1月1日以降に贈与が行われる場合は、故人が亡くなるまでの7年間に受けた贈与財産が生前贈与加算の対象になります。
このうち故人が亡くなるまでの3年間より前に受けた贈与財産は、総額100万円まで生前贈与加算の対象に含めません。これは、過去に受けた贈与の記録・管理の負担を軽減するための措置です。

6.暦年贈与を配偶者控除・住宅取得資金特例と組み合わせると贈与税対策に
贈与税には、配偶者控除や住宅取得資金贈与の非課税の特例など、一定額までの贈与について非課税になる制度があります。
配偶者控除は、結婚20年以上の夫婦の間で自宅やその取得資金の贈与があった場合に2,000万円まで贈与税が非課税になる制度です。
住宅取得資金贈与の非課税の特例では、直系尊属から住宅取得資金の贈与を受けた場合に、令和4年以降は最大1,000万円まで贈与税が非課税になります。
これらの特例は110万円の基礎控除と併用することができ、暦年贈与と組み合わせることで贈与税の節税の範囲が広がります。
それぞれの特例の詳しい内容は、下記の記事をご覧ください。
夫婦間で贈与をすると贈与税は発生するの?贈与税の配偶者控除と併せて解説
住宅取得資金と暦年贈与を組み合わせると最大1,110万円まで贈与税がかからない?
7.一時は暦年贈与廃止の可能性が取りざたされていた
自民党・公明党が令和2年12月に発表した「令和3年度税制改正大綱」では、「相続税と贈与税をより一体的に捉えて課税する観点から、現行の相続時精算課税制度と暦年課税制度のあり方を見直す」と述べられました。
これにより、税の実務家の間では「暦年課税が廃止されて相続時精算課税(相続財産とまとめて課税する方法)に一本化されるのではないか」といった観測が広がりました。
しかし、「令和5年度税制改正大綱」では、暦年課税を存続したうえで生前贈与加算の対象を相続開始前「3年以内」から「7年以内」に延長する方針が示されました。
暦年課税の廃止は免れましたが、生前贈与加算の対象が広がることで節税効果は乏しくなるでしょう。暦年贈与をお考えの方は、相続や生前贈与に詳しい税理士に相談して早めに取りかかることをおすすめします。
8.まとめ
暦年贈与は、贈与税の暦年課税の仕組みを利用した贈与の方法です。正しく活用すれば贈与税を負担することなく財産を移すことができ、将来の相続税の節税対策になります。
しかし、数年分を一括で贈与したとみなされると、多額の贈与税を支払わなければならないリスクがあります。
暦年贈与は、相続や生前贈与に詳しい税理士に相談して取り組むことをおすすめします。
相続税専門の税理士法人チェスターでは、相続税申告のほか生前贈与に関するご相談も承っております。生前からできる相続税対策として暦年贈与をお考えの方は、ぜひ一度ご相談ください。
※この記事は専門家監修のもと慎重に執筆を行っておりますが、万が一記事内容に誤りがあり読者に損害が生じた場合でも当法人は一切責任を負いません。なお、ご指摘がある場合にはお手数おかけ致しますが、「お問合せフォーム→掲載記事に関するご指摘等」よりお問合せ下さい。但し、記事内容に関するご質問にはお答えできませんので予めご了承下さい。
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