暦年贈与とは?廃止は見送りに。活用方法と注意点、7つの対策を解説
暦年贈与とは、1月1日~12月31日までの1年間(暦年)に贈与された財産が、贈与税の基礎控除(年間110万円)以下であれば、贈与税がかからないことを活用した贈与の方法です。
生前に非課税で財産を移すことができ、相続税対策の1つとして利用されています。
暦年贈与には生前贈与加算というルールが設けられており、令和5年度税制改正によって、加算期間が相続開始前3年以内から7年以内に延長されました。
そのため、安易な暦年贈与をしたり、暦年贈与の方法を間違えたりすると、贈与税や相続税が課税される可能性があるため注意が必要です。
この記事では、暦年贈与の仕組みや注意点はもちろん、無駄にしないための7つの対策についてまとめました。
また、暦年贈与と併用できる贈与税の非課税特例や、相続時精算課税制度など、贈与税をかけずに贈与できる方法もご紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
この記事の目次 [表示]
1.暦年贈与とは?仕組みを知っておこう
暦年贈与(読み方:れきねんぞうよ)とは、贈与税の仕組みを活用して非課税で贈与を行うことです。
贈与税は、原則として1月1日~12月31日までの1年間(暦年)に贈与された財産に対して課税されます(暦年課税)。
贈与税には「基礎控除(受贈者1人あたり年間110万円)」が設けられており、税額は「暦年贈与された財産の合計額」から「基礎控除(年間110万円)」を差し引いた、課税価格をもとに計算します。
つまり、1年間に贈与された財産の合計額が110万円を超えない場合は、贈与税は課税されません。贈与税の申告を行う必要もありません。
暦年贈与は、このような贈与税の仕組み(暦年課税)を利用した贈与の方法です。
暦年ごとの贈与の額が年間110万円以下であれば、贈与税を負担することなく財産を移せるという特長があります。
贈与税の税率や控除額の計算方法について、詳しくは「贈与税はどんな時に払う?計算方法や非課税の特例も解説」をご覧ください。
1-1.贈与税がかかるかどうかは「1年ごとの合計額」で判定する
贈与税が課税されるかどうかは、1月1日から12月31日までの1年(暦年)ごとに受けた、贈与の合計額で判定します。
例えば、5月1日に110万円の贈与を受けて、同年8月1日に110万円の贈与を受けた場合は、年間220万円の暦年贈与を受けたこととなり、贈与税が課税されます。
しかし、12月30日に110万円の贈与を受けて、翌年1月4日に110万円の贈与を受けた場合では、短期間に220万円もらっていますが、年が異なるため贈与税は課税されません。
1-2.年間110万円の基礎控除は「受贈者1人あたり」に対して適用
贈与税の年間110万円の基礎控除は、受贈者(財産を受け取る人)1人あたりに対して適用されます。
複数の人から贈与を受けた場合でも、贈与税の基礎控除は受贈者1人あたり年間110万円です。贈与者(贈与した人)ごとに年間110万円の基礎控除が適用…ではないため注意が必要です。
例えば、4人から110万円ずつ贈与を受けたという場合は、受贈者1人あたり合計440万円を贈与されたこととなります。
そのため、贈与合計440万円から、基礎控除(年間110万円)を引いた330万円が、贈与税の課税対象になります。
2.相続開始前の一定期間の暦年贈与は相続税の対象(生前贈与加算)
生前贈与加算とは、贈与者の相続発生に財産を相続・遺贈で取得した人が、贈与者の相続開始前の一定期間に贈与を受けていた場合、その贈与財産を相続財産に持ち戻しをした上で、相続税の課税対象とすることです。
生前贈与加算は、贈与税が課税されない年間110万円以下の暦年贈与も加算の対象になります。
つまり、暦年贈与で贈与税がかからなくても、生前贈与加算の対象期間中に贈与者が死亡した場合は、相続税がかかる可能性があるのです。
令和5年度税制改正により、暦年贈与に係る生前贈与加算の加算期間が見直しされました。
令和6年1月1日以降に行われる贈与から、生前贈与加算の加算期間が、相続発生前「3年以内」から「7年以内」に段階的に延長されます。
生前贈与加算について、詳しくは「生前贈与加算とは?対象者・相続税改正内容・生前贈与の注意点を解説」をご覧ください。
2-1.【改正前】相続開始前3年以内の暦年贈与は相続税の対象
令和5年12月31日までに贈与が行われる場合は、贈与者の相続発生前3年以内に受けた贈与財産が、生前贈与加算の対象になります。
2-2.【改正後】相続開始前7年以内の暦年贈与は相続税の対象
令和6年1月1日以降に贈与が行われる場合は、贈与者の相続発生前7年以内に受けた贈与財産が、生前贈与加算の対象になります。
なお、経過措置が設けられているため、加算期間は3年から7年へと随時延長されることとなります。
つまり、令和6年1月1日以降の贈与については、「贈与時期」と「贈与者の相続開始時期」によって、生前贈与加算の加算期間が変動するということです。
延長された4年間に受けた贈与(イラスト赤色部分)は、総額100万円まで生前贈与加算の対象に含めません。
これは、過去に受けた贈与の記録・管理の負担を軽減するための措置です。
令和5年度税制改正のポイントについて、詳しくは「【令和5年度税制改正】暦年課税と相続時精算課税制度の見直し」をご覧ください。
2-3.一時は暦年贈与の廃止が噂されたが見送りに
令和2年12月に自民党・公明党が発表した「令和3年度税制改正大綱」では、相続税と贈与税をより一体的に捉えて課税する観点から、現行の相続時精算課税制度と暦年課税制度のあり方を見直すと述べられました。
これにより、実務家の間では「暦年課税が廃止されて相続時精算課税(相続財産とまとめて課税する方法)に一本化されるのではないか」といった観測が広がりました。
しかし、令和5年度税制改正では、暦年課税を存続したうえで、生前贈与加算の対象を相続開始前「3年以内」から「7年以内」に延長することが決定しました。
暦年課税の廃止は見送りになりましたが、生前贈与加算の対象が広がることで節税効果は乏しくなるでしょう。
暦年贈与をお考えの方は、相続や生前贈与に詳しい税理士に相談して早めに取りかかることをおすすめします。
3.暦年贈与の活用が向いているケースとは?
暦年贈与には生前贈与加算というルールがあるため、誰にでもおすすめできる贈与方法ではありません。
直系血族間の贈与においては、暦年贈与ではなく、相続時精算課税制度を選択した方が良いケースもあります(詳細は後述します)。
この章では、暦年贈与の活用が向いているケースをご紹介しますので、参考にしてください。
3-1.相続開始まで時間に余裕がある
暦年贈与の活用が向いているのは、贈与者の年齢が若く、相続開始まで時間に余裕があるケースです。
令和5年度税制改正により、暦年贈与の生前贈与加算の加算期間が「7年」に延長されました。
そのため、贈与者の相続開始まで最低でも3年~7年以上あると想定されるケースであれば、暦年贈与を活用しても良いでしょう。
3-2.孫に財産を渡したい
暦年贈与の活用が向いているのは、孫に財産を渡したいケースです。
この理由は、生前贈与加算の対象となるのは、贈与者の相続発生時に財産を相続・遺贈によって取得する人のみだからです。
そのため、贈与者の相続発生時に財産を取得する予定がない「孫」であれば、相続開始前3年~7年以内に暦年贈与をしても、生前贈与加算の対象にはなりません。
ただし、以下の孫は贈与者の相続発生時に財産を取得するため、生前贈与加算の対象となりますのでご注意ください。
×養子縁組をした孫
×遺言書で遺贈される孫
×死亡保険金の受取人である孫
3-3.贈与する相手が多い
暦年贈与の活用が向いているのは、贈与する相手が多いケースです。
もちろん、贈与者の相続開始までに時間に余裕がある…というのが前提となりますが、贈与する相手が多ければ多いほど、多額の財産を贈与できます。
例えば、4,400万円の財産を1人の人に一度に贈与してしまうと、多額の贈与税がかかります。
しかし、同額の贈与でも4人に対して10年間に分けて贈与を続ければ、贈与税を無税にできます。
3-4.贈与財産と相続財産の総額が相続税の基礎控除以下
暦年贈与の活用が向いているのは、「暦年贈与における贈与財産」と「贈与者の相続発生時に想定される相続財産」の総額が、相続税の基礎控除以下であるケースです。
相続税が課税されるのは、基礎控除【3,000万円+(600万円×法定相続人の人数)】を差し引いた後の価額です。
つまり、「暦年贈与の贈与財産」と「想定される相続財産」の総額が、相続税の基礎控除以下であれば、生前贈与加算の対象になったとしても、相続税は課税されません。
4.暦年贈与を行う場合の2つの注意点
暦年贈与の原則的な方法では、毎年1月から12月の間に受け取った財産の合計額が110万円以下であれば、贈与税の基礎控除によって贈与税がかからないことになります。
しかし「暦年贈与だから年間110万円までの贈与は問題ないだろう」と安易に判断してしまうと、多額の贈与税や相続税が課税されることがあるので注意しましょう。
この章では、暦年贈与を行う場合の注意点を2つご紹介しますので、参考にしてください。
4-1.定期贈与とみなされると多額の贈与税が課税される
定期贈与とは、最初からまとまった財産を、1人の人にあげることを想定して行われた贈与のことを指します。
つまり、暦年贈与のつもりで、毎年同じ時期に・同じ金額を・同じ人に贈与している場合は、税務署から「定期贈与」であるとみなされる可能性があるのです。
暦年贈与が連年贈与や定期贈与であると判断されてしまうと、結果として多額の贈与税がかかることになるため注意が必要です。
4-1-1.暦年贈与が認められなかった事例
10年間にわたって、毎年1月1日に未成年の息子に対して親が110万円をあげていました。 年間の贈与財産の合計額は、贈与税の基礎控除(年間110万円)の範囲内であり、本来は暦年贈与として贈与税は非課税となるはずです。
しかし、税務調査によって「定期贈与である(最初から息子に対して1,100万円を渡す意図があった)」と判断されると、1年間で1,100万円をまとめて贈与したとみなされて、多額の贈与税が発生します。
結果として、息子に渡すことができる財産の合計額は1,100万円-271万円=829万円となり、当初の想定よりもかなり少ない金額となってしまいます。
4-2.名義預金は暦年贈与が成立しない
名義預金とは、家族名義の銀行口座で、名義人とは異なる人が管理している預金のことです。
贈与税の基礎控除(年間110万円)を適用するには、贈与契約そのものが成立していることが前提となります。
贈与契約は、「あげます・もらいます」という、贈与者と受贈者の双方の合意があってはじめて成立します(民法第549条)。
しかし、贈与者が一方的に贈与をして受贈者がその存在を知らない場合や、実際に名義預金を管理しているのが贈与者であれば、贈与そのものが成立していません。
暦年贈与が成立していない名義預金とみなされた場合、その原資は贈与者のものであるとして、贈与者の相続発生時に相続税が課税されてしまいます。
名義預金について、詳しくは「名義預金の基礎知識と相続税が追加で発生する条件を解説」をご覧ください。
4-2-1.名義預金とみなされて相続税が課税された事例
10年間にわたって、父親が暦年贈与のつもりで、子供名義の銀行口座に毎年110万円を振り込んでいたとします。
しかし、実際には父親が子供名義の銀行口座を管理していて、なおかつ子供はその存在を知りませんでした。
1年間の贈与財産の合計額は、贈与税の基礎控除(年間110万円)の範囲内であり、本来は暦年贈与として贈与税は非課税となるはずです。
しかし父親が亡くなった際に税務調査によって、「名義預金である」と判断され、1,100万円は父親の相続財産となりました。
結果として父親の相続財産の価額が増加することとなり、相続税の税率もアップしてしまいます。
5.暦年贈与を無駄にしないための7つの対策
贈与税の基礎控除を上手に活用して暦年贈与を行うためには、税務署に「定期贈与」や「名義預金」とみなされないような工夫が必要です。
この章では、暦年贈与を無駄にしないための7つの対策をご紹介します。
5-1.贈与契約書は必ず作成する
暦年贈与をする際は、贈与契約書を必ず作成しましょう。
贈与契約書を作成することで、客観的に「贈与者と受贈者の合意の元で贈与契約が成立した」と証明できます。
未成年の子に対する贈与で契約書を作成する場合は、法定代理人(通常は親権者)の署名捺印が必要です。
贈与契約書の書き方やひな形フォーマットについて、詳しくは「贈与契約書の書き方【保存版】様式・注意点を記載例付きで解説」をご覧ください。
5-2.あえて基礎控除110万円を超える金額を贈与して贈与税を申告する
暦年贈与をする際は、あえて基礎控除の110万円を超える金額を贈与して、贈与税を申告・納付しておくことも1つの方法です。
贈与税を申告することで、過去に贈与を行って贈与税が課税された証拠を残すことができます。
例えば、115万円の贈与を行ったとすると、贈与税の金額は5,000円です。贈与を行って贈与税が課税された証拠を残すための費用と考えれば、それほど大きなコストとはなりません。
贈与税の申告は、贈与があった年の翌年2月1日から3月15日までに行います。確定申告があれば一緒に申告するように覚えておくとよいでしょう。
贈与税の申告書は、一度作成すれば翌年以降はほぼ同じものを作成するだけでよいので、負担も大きくありません。詳しくは「自分で出来る?贈与税申告書の作成・提出方法をすべて解説!」をご覧ください。
5-3.贈与は銀行口座への送金で証拠を残す
暦年贈与をする際は、現金を手渡しするのではなく、送金の記録が残る銀行口座への振込で贈与しましょう。
銀行口座への送金をすれば、暦年贈与を行ったことを客観的に証明できます。
もちろん、贈与者名義の銀行口座から、受贈者名義の銀行口座に送金をしてください。
贈与契約書を作成すれば贈与を行った証明にはなりますが、振込をすると実際に送金された記録が通帳に記載されるため、より確かな証拠になります。
5-4.受贈者もきちんと贈与を認識しておく
暦年贈与をする際は、受贈者も「贈与を受けた」という認識を持っておかなければなりません。
受贈者に「贈与された」という認識がない場合は、贈与者が家族の名義でお金を貯めていた「名義預金」と判断され、後々相続税の課税対象になる可能性もあります。
特に子供の名義の預金口座に親がお金を振り込んでいて、子供はそのことを知らなかったというケースで問題となりやすいので注意が必要です。
贈与契約書を作成するときに、受贈者に必ず立ち会ってもらうとよいでしょう。
5-5.受贈者の預金通帳の印鑑は本人のものを用意する
暦年贈与をする際に、受贈者の銀行口座を開設するケースもあるかと思います。
この場合は、必ず受贈者の預金通帳の印鑑は、受贈者本人のものを用意してください。 贈与者と同じ印鑑を使用すると、名義預金とみなされる可能性があります。
5-6.受贈者の銀行口座は本人が管理する
暦年贈与をした後は、受贈者の銀行口座は、受贈者本人が管理をしましょう。
贈与者がいつでも受贈者の預金からお金を引き出せる状態では、実質的に名義預金とみなされるケースもあります。
受贈者本人が印鑑・通帳・キャッシュカードを管理して、自由に預金を引き出せるようにしておくと良いでしょう。
5-7.贈与する金額や時期を変える
同じ受贈者への暦年贈与を数年繰り返す可能性がある場合は、贈与する金額や時期を変えましょう。
①1月1日に110万円を贈与
②翌年の12月に90万円を贈与
③翌々年の5月に115万円を贈与(あえて申告)
このように贈与する金額や時期を変えれば、連年贈与とみなされる可能性が低くなります。
6.暦年贈与は贈与税の非課税制度や特例と併用可能
一定の金額までの贈与について、要件を満たせば贈与税が非課税になる制度や特例があります。
- 贈与税の配偶者控除(おしどり贈与)
- 住宅取得等資金の非課税の特例
- 教育資金の一括贈与
- 結婚・子育て資金の一括贈与
これらの非課税制度や特例は、暦年贈与の基礎控除(年間110万円)と併用できるため、贈与目的や要件を満たすならば、節税の範囲が広がります。
詳しくは「生前贈与の非課税枠は年間110万円以内!申請方法によって2500万円が上限に?」や「相続税対策には生前贈与を活用しよう!贈与税の6つの非課税枠って?」で解説しておりますので、あわせてご覧ください。
6-1.贈与税の配偶者控除(おしどり贈与)
贈与税の配偶者控除(おしどり贈与)とは、婚姻期間が20年以上の夫婦の間で、居住用不動産やその取得資金の贈与があった場合に、最大2,000万円まで贈与税が非課税になる制度のことです。
暦年贈与と併用すれば、最大2,110万円まで贈与税が非課税となります。
なお、贈与税の配偶者控除を適用した部分は、生前贈与加算の対象にはなりません。 詳しくは「おしどり贈与とは?特別受益になるか?メリット・注意点についても解説」をご覧ください。
6-2.住宅取得等資金贈与の非課税の特例
住宅取得等資金の非課税の特例とは、直系尊属から住宅取得資金の贈与を受けた場合に、最大1,000万円まで贈与税が非課税になる特例のことです(令和4年以降の非課税枠)。
暦年贈与と併用すれば、最大1,110万円まで贈与税が非課税となります。
なお、住宅取得等資金の非課税の特例を適用した部分は、生前贈与加算の対象とはなりません。
詳しくは「住宅取得等資金と暦年贈与を組み合わせると最大1,110万円(※)まで贈与税がかからない?」をご覧ください。
6-3.教育資金の一括贈与
教育資金の一括贈与とは、30歳未満の子または孫(所得1,000万円以下)が、直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合に、最大1,500万円まで贈与税が非課税になる特例のことです。
暦年贈与と併用すれば、最大1,610万円まで贈与税が非課税となります。
なお贈与者の相続発生時に教育資金の一括贈与に係る管理残額がある場合、一定の要件を満たしていないと相続税の課税対象となりますのでご注意ください。 詳しくは「教育資金を贈与するなら、普通の贈与?教育資金の一括贈与?」をご覧ください。
6-4.結婚・子育て資金の一括贈与
結婚・子育て資金の一括贈与とは、直系尊属から結婚・子育て資金の贈与を受けた場合に、最大1,000万円まで贈与税が非課税になる特例のことです。
暦年贈与と併用すれば、最大1,110万円まで贈与税が非課税となります。
なお贈与者の相続発生時に、結婚・子育て資金の一括贈与に係る管理残額がある場合、相続税の課税対象となりますのでご注意ください。
詳しくは「結婚・子育て資金の一括贈与は1,000万円まで贈与税が非課税に!」をご覧ください。
6-5.非課税制度や特例を適用して贈与税額0円でも申告が必要
贈与税の非課税制度や特例のうち、「贈与税の配偶者控除」や「住宅取得資金贈与の非課税の特例」を適用する場合は、贈与税額が0円になる場合でも、贈与税の申告が必要です。
これらの特例は贈与税の基礎控除(年間110万円)と併用することができますが、特例を適用しない贈与財産があって、その金額が110万円以下であったとしても申告が必要です。
7.暦年贈与信託を利用するという選択肢も
暦年贈与を有効に行うためには、自分で贈与契約書を作成したり、銀行口座へ振込をしたりして「贈与が成立した」という証拠を残さなくてはなりません。
しかし、こういった手続きに不慣れな場合は、契約書を作成できなかったり、振込のタイミングを忘れてしまったりすることもあるかもしれません。
信託銀行が提供する「暦年贈与信託」では、贈与契約書の作成や振込など、暦年贈与に関する手続きを銀行に任せることができます。
銀行から送られた贈与契約書に署名捺印して返送すれば、贈与する人の口座から贈与を受ける人の口座に送金され、簡単に暦年贈与ができます。
手数料は無料で、少ないリスクで確実に贈与を行いたい場合に便利な商品です。 主要な信託銀行には次のような暦年贈与信託があります。
8.暦年贈与ではなく相続時精算課税を適用するという選択肢も
贈与税の課税方式は、「暦年課税」と「相続時精算課税」の2種類があります。
暦年課税は、これまで解説してきた贈与税の原則を活用した暦年贈与における課税方式のことです。
しかし、贈与者と受贈者の関係性や、贈与財産の価額によっては、相続時精算課税制度を適用した方が良い場合もあります。
8-1.相続時精算課税制度とは
相続時精算課税制度とは、原則「60歳以上の両親(もしくは祖父母)」から「18歳以上の子供(もしくは孫)」へ生前贈与をした際に選択できる、贈与税の課税方式の1つです。
相続時精算課税制度を選択すれば、最大2,500万円の特別控除までは贈与税がかからず、超過分は贈与税が課税されます(税率は一律20%)。
なお、相続時精算課税制度の特別控除を適用した部分は、特定贈与者の相続発生時に相続財産に持ち戻した上で、相続税が課税されます。
相続時精算課税制度について、詳しくは「相続時精算課税制度とは?活用するメリット・デメリットや注意点も解説!」をご覧ください。
8-2.令和5年度税制改正で相続時精算課税制度にも基礎控除が創設
令和5年度税制改正により、相続時精算課税制度にも基礎控除(年間110万円)が創設されました。
令和6年1月1日以降の贈与で相続時精算課税制度を選択した場合、年間110万円までは贈与税は課税されず、基礎控除を超過した分が特別控除に加算されます。
なお、相続時精算課税制度における年間110万円の基礎控除は、特定贈与者の相続発生前3年~7年以内であっても、相続財産に持ち戻しする必要はありません。
8-3.暦年贈与と相続時精算課税制度の違い(令和6年1月1日以降)
令和6年1月1日以降の贈与における、暦年贈与と相続時精算課税制度の違いは以下の通りです。
暦年贈与 | 相続時精算課税 | |
---|---|---|
贈与者の要件 | なし | 60歳以上の直系尊属 |
受贈者の要件 | なし | 18歳以上の直系卑属※ |
基礎控除 | 年間110万円 | 年間110万円 |
特別控除 | なし | 最大2,500万円 |
税率 | 累進課税 | 一律20% |
申告や手続き | 基礎控除を超えた時のみ | 基礎控除以下でも届出が必要 |
相続財産への加算 | 相続開始前3年~7年以内の贈与を加算(基礎控除も加算あり) | 特別控除や課税部分を加算(基礎控除は加算なし) |
※贈与年1月1日時点で満18歳以上であること 令和5年12月31日までの贈与における、暦年贈与と相続時精算課税の違いについて、詳しくは「暦年課税と相続時精算課税制度の違いとは?注意点・財産を多く残す方法を解説」をご覧ください。
8-4.暦年贈与と相続時精算課税制度どちらを使えばいいのか?
令和6年1月1日以降は、暦年贈与と相続時精算課税制度、どちらを適用すれば良いのかで迷われるかと思います。 判断ポイントをまとめましたので、参考にしてください。
8-4-1.暦年贈与を使ったほうが良い人
- 贈与者の相続開始まで時間がある(7年以上)
- 法定相続人以外の人(孫など)に贈与したい
- 贈与する相手が多い
8-4-2.相続時精算課税制度を使ったほうが良い人
- 贈与者の相続開始まで時間がない
- 子供や孫にまとまった財産を贈与したい
- 値上がりが予想される財産がある
- 想定される相続税の税率が20%を超える
8-5.暦年贈与と相続時精算課税制度は併用できる?
相続時精算課税制度を選択した場合、特定贈与者からの贈与において暦年贈与には戻れなくなります。
そのため、同じ贈与者からの贈与において、暦年贈与と相続時精算課税制度は併用できません。 しかし、贈与者が異なるのであれば、暦年贈与と相続時精算課税制度は併用できます。
そのため、令和6年1月1日以降に以下のような併用をすれば、年間220万円までは贈与税はかかりません。
ただし、異なる贈与者で「暦年贈与+暦年贈与」や「相続時精算課税+相続時精算課税」といった併用の場合、基礎控除の考え方は「受贈者1人あたり年間110万円」ですので、混同されないようご注意ください。
詳しくは「複数の人から贈与を受けたら贈与税はいくら?暦年課税・相続時精算課税の計算方法」をご覧ください。
9.まとめ
暦年贈与は、贈与税の暦年課税の仕組みを利用した贈与の方法です。 暦年贈与を正しく活用すれば、贈与税を負担することなく財産を移すことができ、将来の相続税の節税対策になります。
しかし、暦年贈与には生前贈与加算というルールがある上に、定期贈与や名義預金とみなされるリスクもあります。
安易な暦年贈与をすると、多額の贈与税や相続税を支払わなければならいこともある…と覚えておきましょう。
贈与者と受贈者の関係性・贈与目的・贈与財産の内容によっては、暦年贈与と非課税特例の併用や、相続時精算課税制度を選択した方が良いケースもあります。
暦年贈与は、相続税や生前贈与に強い税理士に相談して、計画的に取り組むことをおすすめします。
9-1.税理士法人チェスターにご相談を
税理士法人チェスターは、相続税と贈与税を専門とする税理士事務所です。
税理士法人チェスターでは、生前贈与に関するご相談も承っております。
生前からできる相続税対策として、暦年贈与をお考えの方は、ぜひ一度ご相談ください。
【公式】税理士法人チェスター「生前対策プラン」
※この記事は専門家監修のもと慎重に執筆を行っておりますが、万が一記事内容に誤りがあり読者に損害が生じた場合でも当法人は一切責任を負いません。なお、ご指摘がある場合にはお手数おかけ致しますが、「お問合せフォーム→掲載記事に関するご指摘等」よりお問合せ下さい。但し、記事内容に関するご質問にはお答えできませんので予めご了承下さい。
相続対策は「今」できることから始められます
「相続税の納税額が大きくなりそう」・「将来相続することになる配偶者や子どもたちが困ることが出てきたらどうしよう」という不安な思いを抱えていませんか?
相続専門の税理士法人だからこそできる相続税の対策があります。
何から始めていいか分からない方もどうぞご安心ください。
様々な状況をご納得いく形で提案してきた相続のプロフェッショナル集団がお客様にとっての最善策をご提案致します。
まずはチェスターが提案する生前・相続対策プランをご覧ください。
今まで見たページ(最大5件)
関連性が高い記事
カテゴリから他の記事を探す
贈与税編