相続財産を全員が放棄したら、いったいどうなってしまうの?
被相続人に多額の借金があり資産をほとんど保有していない場合、相続人全員が相続放棄することがあります。
相続人全員が相続放棄した場合、残された借金や資産の取り扱いはどのようになるのでしょうか?
今回は相続人全員が相続放棄した場合の取り扱いについてご説明しています。
この記事の目次 [表示]
1.全員が相続放棄をした場合の借金の行方は?
父が5,000万円の借金を残して亡くなった場合、セオリーとしては父の借金は相続人が受け継ぎ返済していくということになります。もしも相続人となりうる全員が相続を放棄してしまった場合、残った借金はどうなってしまうのでしょうか。
父が借金をしたということは、父にお金を貸した誰かが存在しているということは間違いなく、この場合父にお金を貸した人は「債権者」と呼ばれます。
本来ならば相続人が父親に代わって借金を返済するべきですが、相続放棄をしたため借金を返済する人がいなくなってしまったわけです。こういった場合、「債権者」は借金を返済してもらえず泣き寝入りをするしかないのでしょうか。
その答えはNOです。債権者は泣き寝入りをすることなく家庭裁判所に「相続財産清算人」の選任を申し立てることが認められています。そしてこの「相続財産清算人」を間に立てることによって、亡くなった方に貸していたお金が戻ってくる可能性があるのです。
【ポイント】 相続人全員が相続放棄しても、相続財産清算人を間に立てることで、貸したお金が返済される可能性がある! |
2.相続財産清算人って何をするの?
相続財産清算人はほとんどの場合、弁護士が選ばれます。
弁護士が選ばれる理由は、相続財産の清算にあたって中立な立場の人を選ぶ必要があるほか、弁護士であれば事務手続きがスムーズにできるからです。
相続財産清算人は、まず亡くなった方の資産や負債である相続財産を調べます。
そして資産を清算したうえで債権者に弁済をしてそれでも資産が残ったという場合には、最終的には国に引き継ぐという業務を行います。
亡くなった方に多額の借金があり、相続人全員が相続放棄をした場合には、お金を貸していた金融機関等が相続財産清算人の選任を申し立てるケースが少なくはありません。
しかし、亡くなった方が借金をした債権者がひとりだけとは限りません。複数から借り入れをしている可能性もあるでしょう。
例えばA銀行に2,000万円、B銀行に2,000万円の借金をしていたということも考えられる訳です。
この場合、相続財産清算人は、残された財産の中からAとBに平等に返済しなければなりません。従って例えば亡くなった方のすべての資産と負債を整理したところ、資産が1,000万円残ったとすると、A銀行に500万円、B銀行に500万円が返済されることになります。もしも亡くなった方にそれ以上の財産がなければ、A銀行もB銀行もそれ以上の返済を求めることはできません。つまりこのケースでは最終的にどちらの銀行も1,500万円損をしてしまうという結果になるのです。
3.相続財産清算人をつけない場合もあります
では、相続人全員に財産相続の放棄をされてしまった場合でも、相続財産清算人が付かないということもありえるのでしょうか。相続財産清算人というのは、債権者からの申立てがなく自動的につくというものではありません。
従って申立てがなければ相続財産清算人がつくことはありません。
なお、申立ての際には家庭裁判所に予納金(裁判所に払うお金)を支払わなければなりません。
亡くなった方がいくらかの不動産なり現金なりを残していれば、貸したお金が債権者へ戻ってくる可能性があります。しかし、借金のみで現金などの財産がまったく残っていなかったら、債権者が相続財産清算人の選任を申し立てたところで、何も戻ってきません。つまり、予納金のみを支払って終了となります。
このようなケースでは債権者が自腹を切ってまで申立てを行うということは極めて考えにくいといえるでしょう。
【ポイント】 亡くなった方が資産(不動産や現金など)を保有していることがわかれば、貸したお金の一部が返済される可能性があるので、相続財産清算人選任の申立てをすることがある。 一方、資産がほとんどないと見込まれる状況であれば、費用をかけてまで相続財産清算人選任の申立てをすることはない。 |
4.相続財産清算人を申立てる費用とは?
相続財産清算人の選任を申立てる費用としては、予納金のほか以下のものがあります。
- 収入印紙800円分
- 連絡用の郵便切手(家庭裁判所によって異なる)
- 官報公告料 5,075円
予納金の金額はケースによって異なりますが、大体30万円から100万円ぐらいかかります。
5.相続放棄してもやらなければならないことって何?
相続人の全員が相続を放棄するということは、相続人が誰もいなくなってしまうということです。
しかし、亡くなった方の相続財産で相続人が現に占有しているものがある場合には、相続放棄をしても相続財産清算人に引き渡すまでは、引き続き相続財産を管理しなければなりません。
相続人の全員が相続放棄しても引き続き相続財産を管理する義務は以前からありましたが、その発生要件や内容はあいまいでした。民法の改正により、令和5年4月1日以降は、相続人が現に占有しているものに限定されるようになりました。
6.相続放棄は撤回できるの?
相続放棄が受理された後に相続放棄を撤回することは、例外を除いて認められていません。
一度受理された相続放棄の撤回を認めると、相続放棄を受けて行った遺産分割をやり直すことになり、他の相続人や債権者に大きな負担をかけてしまうからです。
撤回が認められる例外とは、自分以外の相続人による圧力や脅迫によって相続放棄を強いられた場合や、自分以外の相続人にだまされて相続放棄をしてしまった場合などです。
7.まとめ
ここまで、相続人の全員が相続放棄した場合の取り扱いについてご説明しました。
相続人の全員が相続放棄すると、特に亡くなった方にお金を貸していた債権者は、お金を返済してもらえなくなります。相続財産清算人を間に立てることで返済してもらえる場合がありますが、亡くなった方に十分な資産がなければ返済の可能性は低いでしょう。
また、相続人の全員が相続放棄しても、その時点で占有していた財産があれば、相続財産清算人に引き渡すまでは引き続き財産を管理しなければなりません。
このように、相続人の全員が相続放棄した場合にも、さまざまな注意点があるということを押さえておきましょう。
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