株主が死亡したら株式はどうなる?相続手続きと相続税を解説

亡くなった株主が保有していた株式は、相続の対象となります。必要な手続きを放置すると「配当金を受け取れない」「株式を売却して現金化できない」などさまざまな不利益が生じかねません。
また、非上場株式は相続税評価額の算出そのものが難しいうえ、相続で株式が分散すれば中小企業の経営に影響を及ぼすこともあります。
この記事では、株主が死亡したときの相続手続きの流れから相続税の計算方法などを、相続税を専門とする税理士が解説します。
この記事の目次 [表示]
1.株主が死亡したら株式はどうなる?
株主が死亡したとき、株式は預貯金や不動産などと同様に相続財産となり相続人へ承継されます。
一方、誰がどのような形で株式を引き継ぐかは、遺言の有無や相続人の数によって異なります。
以下では、株主の死亡によって株式がどのように引き継がれるのかを解説します。
1-1.株式は死亡と同時に相続財産として相続人に承継される
株式には財産的価値があるため、株主である被相続人が亡くなったときは、上場株式・非上場株式にかかわらず、遺産相続の対象となります。
相続人へ引き継がれるのは、株式の財産的な価値だけではありません。
株式の相続というのは「株式に関する権利の包括的な承継」にあたります。そのため、株式に付随する剰余金の配当を受ける権利や株主総会での議決権など、株主としての地位も原則として承継されます。
1-2.相続人が複数いる場合は遺産分割まで相続人全員の共有になる
被相続人が遺言を残しておらず、相続人が複数いる場合、その株式の取得者が遺産分割協議や調停・審判などによって決まるまで、原則として共同相続人の準共有状態となります(民法898条)。
〇準共有とは
- 株式など所有権以外の財産権を複数人が共同で持っている状態のこと
土地や建物のような「物」を複数人で持つ場合は共有と呼びます。しかし、株式は物ではなく会社に対する権利であるため、法律上は準共有として区別されています。もっとも、呼び方が異なるだけで、ルールそのものは同じです。
株式が準共有となる場合、各相続人はその株式すべてを共有財産として保有します。
たとえば、被相続人が保有していた100株を相続人2人が相続するとしましょう。
この場合、100株の全部を2人の相続人がそれぞれの法定相続分(または遺言により指定された相続分)に応じた2分の1ずつの準共有持分を持ちます。50株ずつ分けられるわけではありません。
株式が準共有となっているあいだは、相続人のなかから1名を権利行使者と定めて会社へ通知しない限り、原則として議決権を行使できないとされています(会社法106条)。
権利行使者は、各相続人の準共有持分で数えた過半数の賛成で決定します。相続人の人数による多数決で決まるわけではない点に注意しましょう。
1-3.遺言書がある場合は原則として指定された人が承継する
遺言書で株式の承継者が指定されている場合、原則としてその指定された人が、被相続人の死亡と同時に株式を取得します。遺言書がない場合とは異なり、相続人全員の準共有状態を経ることはありません。
ここで「遺言書で指定されたとしても、株式を引き継ぐには会社の承認が必要なのではないか」と疑問に思う方もいるでしょう。
非上場の中小企業の多くは「譲渡制限株式」を発行しています。譲渡制限株式とは、株式を譲渡する際に会社の承認を必要とする株式のことです。
譲渡制限株式であっても、相続による承継は「譲渡」には当たらないため、会社の承認は不要です。これは、遺産分割協議によって相続人が株式を取得する場合も同様です。
ただし、定款の定めによっては会社から「売渡請求」を受ける可能性があります。売渡請求については、「7-2. 相続人を株主として受け入れたくない場合の対応」で解説します。
1-4.株式を相続したくない場合は相続放棄もできる
会社の経営に関わりたくない、株式の価値が乏しい、被相続人に債務保証があるといった事情がある場合、相続放棄をするのも1つの方法です。
〇相続放棄とは
- 相続人が被相続人の権利や義務を一切受け継がない制度のこと。相続放棄をした人は、初めから相続人でなかったものとみなされ、預貯金や不動産、株式などプラスの財産だけでなく、借入金や未払金などマイナスの財産も一切承継しなくなる
相続放棄をするためには、自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内に、家庭裁判所へ相続放棄の申述をする必要があります。

ただし、株式のみを放棄する、あるいは株式のみを相続するなど、取得または放棄する財産を選ぶことはできません。預貯金や不動産などすべての財産を受け取れなくなるため、相続放棄をすべきかどうかは、被相続人の財産を漏れなく調査したうえで慎重に決めましょう。
相続放棄の手続き方法や費用などは、下記の記事で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
参考:相続放棄とは?期限・手続きの流れ・費用をわかりやすく解説
2.株主が死亡したときの相続手続き
株主が死亡したときは、株式を取得する人を決め、名義変更を行う必要があります。また、正味の遺産総額が一定の金額を超える場合は、相続税の申告手続きも必要です。
以下では、基本的な遺産相続の流れと、株式の名義変更の方法を解説します。
2-1.基本的な遺産相続の手順
株式を含む遺産の相続手続きは、次の流れで進めます。
〇遺産相続の手順
- 遺言書の有無を確認する
- 相続人と相続財産を確定する
- 遺産分割協議で株式の取得者を決める
- 株式の名義変更をする
- 正味の遺産総額が基礎控除額を超える場合は相続税を申告する
まず、被相続人が遺言書を残していないかを確認しましょう。法的に有効な遺言書があれば、原則としてその内容にしたがって株式などの遺産を引き継ぐ人が決まるためです。
次に、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本を集め、誰が相続人になるのかを確定させます。あわせて、証券会社の残高証明書や会社の株主名簿などで株式の保有状況を調べましょう。
株式だけでなく、預貯金や不動産などを含めた相続財産が全体でいくらあるのかを調べることも重要です。遺産の調査は、相続放棄の申述期限である相続の開始を知った時から3ヶ月以内に済ませましょう。
遺言書がない場合は、相続人全員による遺産分割協議で株式を取得する人を決め、その内容にもとづいて名義変更をします。
正味の遺産総額が基礎控除額「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」を超える場合は、相続税を申告します。申告期限は、相続の開始を知った日(通常は被相続人の死亡日)の翌日から10ヶ月以内です。

遺産相続の手順については以下の記事で解説していますので、あわせてご覧ください。
参考:【相続で必要な全知識】手続きの流れや注意点をプロが解説
2-2.株式の名義変更をする方法
株式の名義変更手続きをする窓口は、相続した株式の種類によって異なります。具体的には、以下のとおりです。
- 上場株式:証券会社
- 非上場株式:発行会社または株主名簿管理人
以下で、それぞれの手続き方法を解説します。
2-2-1.上場株式は証券会社で手続きする
上場株式の場合、相続人が被相続人の口座のあった証券会社で名義変更手続きをします。証券会社に連絡し、被相続人の口座から相続人名義の口座へ株式を移管する流れです。
株式を取得する相続人が故人と同じ証券会社に口座を持っていない場合、原則としてその証券会社の口座を新規開設する必要があります。
手続きの際に必要となる書類の例は、次のとおりです。
〇上場株式の名義変更に必要な書類の例
- 亡くなった人の出生から死亡までの戸籍(除籍)謄本
- 法定相続人全員の戸籍謄本
- 遺産分割協議書または遺言書
- 印鑑証明書
- 証券会社所定の相続手続き書類
手続きの際は、戸籍謄本などの束の代わりに「法定相続情報一覧図」を提出できる場合があります。
法定相続情報一覧図は、被相続人と相続人の関係を1枚にまとめた家系図のような書類です。必要な戸籍謄本等を収集して一覧図と申出書を作成し、法務局へ提出すると、認証された一覧図の写しが無料で交付されます。
「法定相続情報一覧図の写し」の例
引用:法務省「~法定相続情報証明制度について~」
名義変更時の必要書類は証券会社ごとに異なるため、手続き前に確認しておきましょう。
なお、株券電子化までに証券保管振替機構へ預けられなかった上場株式は、特別口座で管理されている場合があります。相続手続きの窓口は、発行会社が指定する特別口座管理機関(株主名簿管理人である信託銀行等)です。
2-2-2.非上場株式は発行会社で手続きする
非上場株式の名義変更をする際は、原則として発行会社に株主名簿の名義書換を請求します。発行会社が株主名簿管理人に事務を委託している場合は、会社から案内された株主名簿管理人が手続き先となります。
名義変更の際の必要書類は、上場株式と同様に戸籍謄本や遺産分割協議書、印鑑証明書などです。
必要書類や請求方法は発行会社が定める規定によって異なっており、独自の書式による請求書の提出を求められることもあるため、事前に発行会社へ問い合わせて確認しておきましょう。
3.株式の相続手続きを放置するリスク
株主が亡くなったときは、遺産分割協議や株式の名義変更などの手続きを必ず行いましょう。株式の相続手続きを放置することには、以下のようなリスクがあるためです。
〇株式の相続手続きを放置するリスク
- 配当金や株主優待を受け取れないおそれがある
- 相続人が単独では株式を売却・現金化できない
- 次の相続が発生して権利関係が複雑になる
- 相続税の申告期限に遅れると加算税・延滞税がかかる
以下では、それぞれのリスクを解説します。
3-1.配当金や株主優待を受け取れないおそれがある
株式の名義変更をしないでいると、配当金や株主優待の受け取りに支障が生じることがあります。
遺産分割をしていない場合、各相続人は法定相続割合の範囲でしか配当金を取得する権利を持ちません。通知書などをもとに1人の相続人が受け取ったとしても、ただちにその人のものとはならないのです。
また、多くの上場会社は定款によって、支払開始日から一定期間を経過した未受領配当金について支払義務を免れる旨を定めています。これは「除斥期間」と呼ばれており、3~5年程度に設定されるのが一般的です。
手続きをしないまま放置した場合、除斥期間の経過によって配当金を受け取る権利自体が消滅してしまいかねません。
株主優待についても、所定の基準日までに株主名簿の名義書換が間に合わないと、当該基準日に係る優待を受け取れない場合があります。
配当金や株主優待を確実に受け取れるようにするためにも、相続した株式の名義変更は早めに済ませることが大切です。
3-2.相続人が単独で株式を売却・現金化できない
遺産分割が済んでいない株式は相続人全員の準共有となるため、売却には原則として相続人全員の同意が必要となります。
反対する相続人が1人でもいると株式を現金化できず、納税資金や生活資金の準備が難しくなる場合があります。
また、株価は日々変動するため、遺産分割に手間取っている間に値下がりし、売却時に受け取れる金額が減ってしまいかねません。
売却を視野に入れている場合は、株価の動向も踏まえて、遺産分割と名義変更を計画的に進めましょう。
3-3.次の相続が発生して権利関係が複雑になる
遺産分割が終わらないうちに相続人の1人が亡くなり、次の相続が始まる状態を数次相続といいます。
数次相続が起きると、亡くなった相続人の配偶者や子供も遺産分割協議に加わり、当事者が増える分だけ話し合いがまとまりにくくなる可能性があります。
たとえば、父の株式の遺産分割を放置している間に長男が死亡し、その妻や子が相続人になって協議に加わるとしましょう。新たに相続人となった妻や子は、被相続人や亡くなった長男以外の相続人との関係が薄いと、話し合いが難航して争いに発展するかもしれません。
世代を重ねるほど当事者はさらに増えていき、疎遠となっている親族や面識のない親族も交えた話し合いが必要になることで、協議の成立がますます難しくなっていくでしょう。
このような事態を防ぐためにも、遺産分割協議は数次相続が起きる前に早めにまとめることが大切です。
3-4.相続税の申告期限に遅れると加算税・延滞税がかかる
遺産分割協議がまとまらない場合でも、相続税の申告期限は原則として延長されません。
納税義務があるにもかかわらず、申告期限までに申告・納付をしなかった場合、本来の相続税に加えて無申告加算税や延滞税が課される可能性があります。
無申告加算税の税率は、以下のとおりです。
| 申告のタイミング | 無申告加算税の税率 |
|---|---|
| 税務調査の事前通知を受ける前に自主的に申告した場合 | 納付税額の5% |
| 税務調査の事前通知後、調査による決定を予知する前に期限後申告した場合 | 納付税額のうち50万円までの部分:10% 50万円超300万円以下の部分:15% 300万円超の部分:25% |
| 税務調査を受けた後に期限後申告をした場合、または税務署から決定を受けた場合 | 納付税額のうち50万円までの部分:15% 50万円超300万円以下の部分:20% 300万円超の部分:30% |
延滞税は、利息に相当する税金であり、納付が遅れた期間に応じて年率で課されます。
また、延滞税の割合は年によって変動します。令和8年(2026年)中の延滞税の割合は、納期限の翌日から2ヶ月以内が年2.8%、2ヶ月を経過したあとが年9.1%です。
加算税や延滞税が課されないようにするためにも、相続税の申告・納税期限に間に合うように遺産分割協議を済ませましょう。
相続税の申告が必要で、遺産分割が期限に間に合わない場合は、法定相続分で取得したものと仮定して期限内に未分割申告する方法もあります。
未分割申告の際に「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出しておくと、遺産分割の成立後に配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例など相続税の負担を軽減する特例を適用することが可能です。
相続税の申告期限を過ぎたときのペナルティや対処方法、期限後申告については下記記事をご覧ください。
参考:相続税の申告期限を過ぎたらどうなる?ペナルティ・デメリット・対処法を解説
参考:【相続税の未分割申告】時効・デメリット・書き方などを解説!
4.株主が死亡したときにかかる相続税
相続税を計算するには、まず株式の相続税評価額を正確に求めなければなりません。評価額の計算方法は、上場株式と非上場株式で異なります。
以下では、株式の種類ごとの評価方法と配当金の課税関係を解説します。
4-1.上場株式の相続税評価額の計算方法
上場株式の価格は日々変動しており、死亡日の終値だけで評価すると、一時的な値上がりによって相続税評価額が過大になるおそれがあります。
こうした不利益を防ぐため、上場株式の場合は以下4種類の価額のうちもっとも低いものを1株あたりの相続税評価額とすることが認められています。
〇上場株式の評価に使える4種類の価額
- 死亡日(課税時期)の終値
- 死亡月の毎日の終値の月平均額
- 死亡月の前月の毎日の終値の月平均額
- 死亡月の前々月の毎日の終値の月平均額
1株あたりの評価額に保有株式数をかけた金額が、相続税の課税対象に算入されます。たとえば、もっとも低い価額が1株500円で保有株式数が1,000株の場合、相続税評価額は50万円です。
死亡日が土日や祝日に当たり終値がない場合は、課税時期にもっとも近い日の終値を用います。死亡日の前後に同じ日数だけ離れた取引日がある場合は、両日の終値の平均額を死亡日の終値として扱います。
上場株式の相続税評価について詳しくは以下で解説していますので、あわせてご覧ください。
4-2.非上場株式(中小企業の自社株)の相続税評価額の計算方法
非上場株式には、上場株式のような市場価格がありません。そのため、国税庁の財産評価基本通達に定められた「取引相場のない株式の評価」にもとづいて評価額を計算します。
具体的には、原則的評価方式または配当還元方式を用います。各評価方式の詳細は以下のとおりです。
〇非上場株式の主な評価方式
| 評価方式 | 内容 |
|---|---|
| 原則的評価方式 | 類似業種比準方式:事業内容が似た上場企業の株価や配当、利益、純資産価額(簿価)をもとに評価する方法 |
| 純資産価額方式:会社を解散させたときに、株主に分配される財産の価値で評価する方法 | |
| 特例的評価方式 | 配当還元方式:評価しようとする会社から受け取れる配当金額にもとづいて、1株あたりの評価額を計算する方法 |
非上場株式を同族株主等が取得する場合は原則的評価方式、同族株主以外の株主等が取得する場合は特例的評価方式(配当還元方式)を用いて評価します。
同族株主とは、会社の株主のうち、同族関係者グループ(株主の1人とその同族関係者)の有する議決権割合が、30%以上である場合におけるその株主及びその同族関係者のことです。
〇株主区分による評価方式
| 区分 | 評価方式 |
|---|---|
| 同族株主等が取得 |
|
| 同族株主以外の株主等が取得 |
|
会社の規模(大会社・中会社・小会社)は、総資産価額や従業員数などをもとに判定します。
非上場株式の評価は、相続税評価の中でもとくに専門性が高い領域です。評価方式の選択や計算の過程が複雑なため、非上場株式を相続した場合は相続税専門の税理士への相談をおすすめします。
非上場株式の評価方法や会社規模の判定については以下で解説していますので、あわせてご覧ください。
参考:非上場株式(取引相場のない株式)の相続税評価のすべて
参考:非上場株式の評価方式とは?相続手続きのメリット・注意点を一挙紹介
4-3.死亡前後の配当金は相続税の課税対象になる場合がある
株主の死亡前後に支払われる配当金は、相続税の課税対象になる場合と相続人の所得税の課税対象になる場合があります。
配当金を受け取れるのは、原則として会社が定める基準日の時点で株主名簿に載っている人です。一方、配当金に課される税金の種類は、以下のとおり受け取りのタイミングによって変化します。
| 状況 | 財産の種類 | 課税関係 |
|---|---|---|
| 配当確定日(株主総会等の決議日)から配当金支払日までの間に死亡した場合 | 未収配当金 | 相続財産として相続税の課税対象 |
| 配当金の基準日(決算日)の翌日から配当確定日(株主総会等の決議日)までの間に死亡した場合 | 配当期待権 | 相続財産として相続税の課税対象 |
| 相続人が株式を承継した後に配当基準日を迎え、配当を受ける権利を取得した場合 | 相続人の配当所得 | 相続人の所得税・住民税の課税対象 |
未収配当金と配当期待権の評価方法は以下のとおりです。
配当金額−源泉徴収される所得税・復興特別所得税および特別徴収される道府県民税相当額
なお、被相続人が配当金を相続開始前にすでに受け取っている場合、その配当金は被相続人の配当所得として、準確定申告の対象となります。未収配当金等として相続財産に計上する必要はありません。
ただし、受け取った配当金が相続開始日時点で被相続人の預貯金や現金として残っている場合は、預貯金・現金の残高に含めて相続税を計算する必要があります。
5.株式を相続した場合の相続税のシミュレーション
ここで、上場株式を相続した場合に相続税がいくらかかるのかをシミュレーションしてみましょう。
【例】被相続人が上場株式10,000株を保有しており、相続人が母(配偶者)・長男・長女の3人であり、法定相続分どおりに取得したケースを考えます。
預貯金・不動産など株式以外の相続財産は7,000万円となります。まず、上場株式の評価額を求めます。
上場株式の評価額を算出
1株あたりの相続税評価額は、4種類の価額のうちもっとも低いものを採用します。このモデルケースでは、終値などをそれぞれ以下のとおりとします。
- 死亡日(課税時期)の終値:3,200円
- 死亡月の毎日の終値の月平均額:3,100円
- 死亡月の前月の毎日の終値の月平均額:3,000円
- 死亡月の前々月の毎日の終値の月平均額:3,050円
もっとも低いのは死亡月の前月の終値の月平均額3,000円のため、これを1株あたりの相続税評価額として採用します。保有株式数10,000株をかけると、株式の評価額は次のとおりです。
- 株式の評価額:3,000円×10,000株=3,000万円
続いて、この評価額と預貯金・不動産など計7,000万円を含めた正味の遺産総額1億円をもとに、相続税を計算していきます。
基礎控除額と課税遺産総額を算出
相続税は、実際の分け方にかかわらず法定相続分で分けたと仮定して総額を計算する仕組みです。まず、正味の遺産総額から基礎控除額「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」を差し引き、課税遺産総額を求めます。
- 基礎控除額:3,000万円+600万円×3人=4,800万円
- 課税遺産総額:1億円−4,800万円=5,200万円
相続税の総額を算出
課税遺産総額5,200万円を法定相続分(配偶者2分の1、長男・長女4分の1ずつ)で仮に分けると、それぞれの取得金額は配偶者2,600万円、長男・長女各1,300万円となります。
法定相続分に応ずる取得金額が1,000万円を超え3,000万円以下の場合、相続税率は15%、控除額は50万円です。各人の仮の税額と相続税の総額の計算は、次のとおりです。
- 配偶者:2,600万円×15%−50万円=340万円
- 長男:1,300万円×15%−50万円=145万円
- 長女:1,300万円×15%−50万円=145万円
- 相続税の総額:340万円+145万円+145万円=630万円
各人の納税額を算出
相続税の総額630万円を、実際の取得割合で各人に割り振ります。今回のケースでは、法定相続分に応じて分割するため、算出された金額がそのまま各人の相続税額となります。
- 配偶者:630万円×1/2=315万円
- 長男:630万円×1/4=157万5,000円
- 長女:630万円×1/4=157万5,000円
被相続人の配偶者は「配偶者の税額軽減」を適用できると、取得した財産が1億6,000万円または法定相続分のいずれか多い金額まで相続税がかかりません。そのため、今回のケースでは配偶者の納税額は0円となります。
長男と長女は各157万5,000円を納付します。家族全体の最終的な納付額は315万円です。
以上はあくまで一例であり、実際の税額は財産の内容や分け方などで変わります。正確な税額を知りたい場合は、相続税に詳しい税理士への相談を検討するとよいでしょう。
相続税の計算方法について詳しくは以下で解説していますので、あわせてご覧ください。
参考:相続税の計算方法を解説!具体例・シミュレーションソフト付き!
6.株主の死亡時に相続人がいないときの取り扱い
株主が亡くなったときに、株式を受け継ぐ人が誰もいないケースもあります。たとえば、以下のようなケースです。
- 被相続人に配偶者・子・直系尊属・兄弟姉妹など法定相続人に該当する人が1人もいない
- 相続人の全員に「相続放棄した」「相続欠格・廃除によって相続権を失った」といった相続できない理由がある
相続する人が誰もいないときは、法律上の手続きを経て株式など相続財産の帰属先が決まります。以下では、その流れを解説します。
なお、相続人がいない場合の遺産の取り扱いは下記記事で解説していますので、あわせてご覧ください。
参考:法定相続人がいない場合(相続人不存在)の遺産の行方と生前対策
6-1.相続人の不存在が確定するまでの流れ
株式を含む遺産を相続する人が誰もいない場合、その相続財産は法人となります(民法951条)。この場合、利害関係人や検察官の申立てにより、家庭裁判所が「相続財産清算人」を選任します(民法952条)。
〇相続財産清算人とは
- 相続人のいない財産の管理・清算を担う人。弁護士などの専門家が選ばれることが多い
相続財産清算人が選任されたあとは、以下のような流れで相続人不存在が確定します。
〇相続人不存在が確定するまでの主な流れ
- 家庭裁判所は相続財産清算人が選任されたことを知らせるとともに、相続人を捜すため6ヶ月以上の期間(公告期間)を定めて公告する
- 清算人が債権者・受遺者に対し、2ヶ月以上かつ選任・相続人捜索の公告期間内に満了する期間を定めて請求申出の公告を実施する
- 捜索期間内に相続人が現れなかった場合、相続人不存在が確定する
相続財産清算人は、法律にしたがって亡くなった人の債務の弁済を進めます。株式を含む残りの財産については、必要に応じて家庭裁判所の許可を得て売却・換価される場合があります。
6-2.特別縁故者への分与を経て最終的に国庫に帰属する
相続人不存在が確定しても、財産が直ちに国のものになるわけではありません。法律上の相続人ではなくても、被相続人と縁が深かった人へ財産が渡るケースがあります。こうした人を「特別縁故者」と呼びます。
特別縁故者となりえるのは、被相続人と生計を同じくしていた人や、療養看護に努めた人などです。たとえば、内縁の配偶者や事実上の養子・養親などが特別縁故者と認められる場合があります。
特別縁故者に該当する可能性がある人は、相続人捜索の公告期間が満了してから3ヶ月以内に家庭裁判所へ財産分与を申立てられます。申立てが認められた場合、債務の弁済などを終えたあとに残る相続財産の全部または一部が分与される仕組みです。
特別縁故者からの申立てがない、または申立てが認められなかった場合、相続債権者等への弁済などの清算手続きを経たあとも残った財産は、原則として国庫に帰属します。
特別縁故者の要件や手続きの流れについて詳しくは以下で解説していますので、あわせてご覧ください。
参考:特別縁故者とは?認められる要件から手続きの流れ、受け取れる金額まで解説
7.中小企業の株主が死亡した場合に会社側がすべき対応
株式を発行している中小企業の側にも、株主の死亡にともなう対応が必要です。以下では、会社側がすべき対応を解説します。
7-1.相続人を株主として受け入れる場合の対応
遺産分割などで株式を取得した相続人から、名義書換の請求があった場合、会社は原則としてこれに応じる必要があります。
相続による承継は譲渡に当たらないため、たとえ譲渡制限株式であっても、法令にしたがった名義書換請求がされた場合、会社は合理的な理由なく名義書換を拒否できません。
名義を書き換えたあとは、株主総会の招集通知や配当金の支払いの宛先も、相続人に変わります。
7-2.相続人を株主として受け入れたくない場合の対応
会社にとって好ましくない人物が株式を取得する事態を避けたい場合、「任意の買い取り交渉」をする方法があります。これは、会社が相続人の合意を経て株式を買い取る方法です。
会社法上の自己株式の取得に当たるため、買取の際は原則として株主総会の特別決議が必要です。
相続人が任意の交渉に応じないときは、一定の要件を満たすと会社法174条にもとづき会社が相続人に対して株式の「売渡請求」をすることで、強制的に売り渡してもらえる可能性があります。
売渡請求をするためには、会社の定款にその旨の規定が設けられていなければなりません。請求を実行するためには、株主総会の特別決議も必要です。
また、売渡請求の対象は譲渡制限株式に限られます。かつ、会社が相続を知った日から1年以内に請求しなければなりません。
7-3.オーナー社長が死亡した場合は役員変更の手続きも必要
株主兼取締役のオーナー社長が死亡した場合、株主としての地位は相続人へ承継されます。しかし、取締役(代表取締役)の地位は相続されません。
取締役や代表取締役は会社との委任契約にもとづく地位であり、原則としてその役員の死亡によって終了するためです。
オーナー社長が死亡すると、会社運営をする取締役が不在になり、事業活動が停滞してしまいかねません。そのため、速やかに株主総会を開催して後任の取締役を選任する必要があります。
故人が保有していた株式を1人で引き継ぐ場合はその相続人、相続人が複数おり遺産分割協議が終了していない場合は、選ばれた権利行使者が参加して決議を行います。
死亡した取締役が代表取締役でもあった場合は、会社の機関設計や定款の定めに応じて、新たな代表取締役を選定する手続きも必要です。
選任後は、役員変更登記をする必要があります。期限は、原則として役員の死亡日から2週間です。
8.会社側が手続きを放置するリスク
株式の相続手続きを放置して不利益を被るのは、相続人だけではありません。大株主やオーナー社長が亡くなったとき、会社側が対応せずにいると次のようなリスクが生じます。
〇会社側が手続きを放置する主なリスク
- 株主総会で必要な決議を成立させられなくなる
- 株主総会の決議の取消しを求められる
- 売渡請求の期限を過ぎて請求できなくなる など
会社が権利行使者や新たに株主となった相続人を適切に把握していないと、亡くなった株主の議決権が適切に行使されず、株主総会で役員の選任といった重要な決議を成立させられなくなるおそれがあります。
また、会社側が事実確認を怠り、特定の相続人だけに議決権の行使を認めると、ほかの相続人から決議の取消しを求められてトラブルが生じてしまいかねません。
定款に売渡請求の定めがある場合でも、相続があったことを知った日から1年の期限が過ぎると請求できません。請求手続きを放置すると、会社にとって好ましくない人物が株主となる場合もあります。
他にも、会社側が手続きを放置することにはさまざまなリスクがあります。株主が亡くなったときは、弁護士などの専門家にも相談のうえ、必要な手続きを速やかに済ませることが大切です。
9.株主が死亡したときは相続税専門の税理士に相談を
株主が死亡したあとは、遺産分割や名義変更手続きなどに加えて、株式の相続税評価額を適切に求め、必要に応じて相続税の申告もしなければなりません。
なかでも、株式の相続税評価と相続税額の算出、申告書類の作成には高い専門性が求められるため、相続税を専門とする税理士への相談がおすすめです。
税理士法人チェスターは相続税を専門とする税理士法人です。年間申告実績は3,000件を超えている一方、税務調査率は約1%と低水準。グループ内の弁護士・司法書士と連携し、名義変更や遺産分割までワンストップで対応可能です。
株式の相続手続きや自社株の評価でお困りの際は、税理士法人チェスターへお問い合わせください。
※この記事は専門家監修のもと慎重に執筆を行っておりますが、万が一記事内容に誤りがあり読者に損害が生じた場合でも当法人は一切責任を負いません。なお、ご指摘がある場合にはお手数おかけ致しますが、「お問合せフォーム→掲載記事に関するご指摘等」よりお問合せ下さい。但し、記事内容に関するご質問にはお答えできませんので予めご了承下さい。
煩わしい相続手続きがワンストップで完結可能です!
相続手続きはとにかくやることが多く、自分の足で動くことも多いものです。
例えば、必要な書類収集・口座解約は行政書士、相続税申告は税理士、相続登記は司法書士、遺産分割は弁護士、不動産売却は不動産業へ…。
慣れない手続きの中で、これら多くの窓口を一つひとつご自身で探し、調整するのは精神的にも時間的にも大きな負担となります。
そんな複雑な相続の手続きに関することなら、まずはチェスターへご相談ください。
税理士法人チェスターではグループ会社に相続専門の各士業と不動産を取り扱う株式会社が揃っているのですべてをチェスターで完結できます。
相続手続き周りでお困りの方はまずは下記よりお気軽にお問い合わせください。
※CST法律事務所は、弁護士法上、独立した法律事務所であり、グループ法人とは相互に連携しながらサービスを提供しますが、法律事務に関する委任契約の締結及び業務の遂行はグループ法人から独立して行っています。
今まで見たページ(最大5件)
関連性が高い記事
カテゴリから他の記事を探す
相続手続き編
