姻族関係終了届とは?目的や効果、メリット・デメリット、提出期限を解説
姻族関係終了届(いんぞくかんけいしゅうりょうとどけ)とは、夫(妻)が死亡したのちに、その両親(姑や舅)との親族関係を終わらせるための届け出です。一般的には「死後離婚」とも呼ばれます。
この記事では「姻族関係終了届」の効果と、届け出をすることのメリット・デメリットをご紹介します。
あわせて、子供と親族の関係や戸籍への記載など、よくある疑問にもお答えします。
亡くなった夫(妻)の親と折り合いが悪い方や、義理の両親の介護の負担が心配な方は、ぜひ参考にしてください。
この記事の目次 [表示]
1.姻族関係とは
姻族関係とは、夫婦の結婚によって結ばれる親族関係のことです。
配偶者の血族(両親や兄弟姉妹など)と自身の間に血のつながりはありませんが、結婚することで姻族関係が結ばれます。
夫婦が離婚した場合は、配偶者の血族との姻族関係も終了します。
一方、夫婦のどちらかが亡くなったときは、夫婦の婚姻関係は終了しますが、配偶者の血族との姻族関係は続いたままになります。
2.姻族関係を終了させるには「姻族関係終了届」を提出する
夫婦が死別したとき、配偶者の両親(姑、舅)との姻族関係は続いたままになります。そのため、特に夫が亡くなった場合は、妻が夫の両親の世話をするケースが多くみられます。
妻が姑や舅の世話をしても、財産を相続する権利はなく、十分な見返りを得ることができません。
2019年7月1日以降の相続では、相続の権利がない親族が故人の世話をしていた場合に財産を得られる「特別寄与料」という制度があります。しかし、遺産を相続する相続人と交渉する必要があるなど、実際に特別寄与料をもらうことは簡単ではありません。
このような懸念から、亡くなった配偶者の血族と縁を切りたいという場合は、「姻族関係終了届」を提出して姻族関係を終わらせることができます。
姻族関係終了届の提出方法
届出人 | 死亡した人の配偶者 |
---|---|
提出先 | 届出人の本籍地または住所地の市区町村役場 |
提出期限 | 配偶者の死亡届を提出した後であればいつでもよい |
必要書類 | 姻族関係終了届、戸籍謄本(本籍地以外で届け出る場合に必要)、印鑑(認印でもよい) |
2-1.姻族関係終了届を提出できる人
姻族関係終了届を提出できる人は、死亡した人の配偶者です。
死亡届と同様に代わりの人(使者)が提出することもできますが、届出用紙の記入は届出人本人がしなければなりません。
なお、姻族関係を終了するかどうかは、生存している配偶者本人の意思にもとづきます。
嫁や婿との折り合いが悪いからといって、死亡した人の血族が姻族関係終了届を提出することはできません。
2-2.姻族関係終了届の手続き方法
姻族関係終了届は家族関係に大きな影響を及ぼしますが、手続きそのものは簡単です。
届出人の本籍地または住所地の市区町村役場の窓口に提出して受理されれば、手続きは終了します。
提出するときに死亡した人の血族の同意は必要なく、家庭裁判所の許可も不要です。
2-3.姻族関係終了届の提出期限
姻族関係終了届の提出に期限はありません。配偶者の死亡届を提出した後であればいつでも提出できます。
2-4.姻族関係終了届の必要書類
姻族関係終了届の提出に必要な書類等は次のとおりです。
- 姻族関係終了届
- 戸籍謄本(本籍地以外で届け出る場合に必要)
- 印鑑(認印でもよい)
3.姻族関係終了届の効果
姻族関係終了届を提出すると、亡くなった配偶者の血族との姻族関係は終了します。
姻族関係の終了により、姑や舅の扶養を強要されることはなくなります。一方、配偶者であったことには変わりはなく、相続財産や遺族年金は受け取ることができます。
この章では、姻族関係終了届の提出によって変わることと変わらないことを具体的にご紹介します。
3-1.姻族関係終了届の提出で変わること
姻族関係終了届の提出によって変わることは、主に次のとおりです。
- 姻族関係が終了することで扶養を強要されなくなる
- 戸籍には「姻族関係終了」と記載される
民法では、直系血族および同居の親族は互いに扶け(たすけ)合わなければならないと定められています。
同居していないのであれば、本来は、義理の両親を扶養する義務はありません。しかし、「嫁は両親の世話をするべきである」という考えも根強く、扶養を強いられることもあります。
姻族関係終了届によって姻族関係を終わらせれば、世話をするよう求められても断ることができます。
なお、戸籍には「姻族関係終了」と記載されますが、そのほかの事項は変わりません。
3-2.姻族関係終了届の提出で変わらないこと
姻族関係終了届を提出しても変わらないことは、主に次のとおりです。
- 戸籍や姓(名字)は変わらない
- 子供と配偶者の血族の関係は変わらない
- 相続権、遺族年金の受給資格は変わらない
姻族関係終了届を提出しても戸籍の異動はなく、亡くなった配偶者との戸籍に入ったままとなります。姓(名字)も変わりません。
籍を抜いて姓を変えたい場合は、別途手続きが必要になります。詳しくは「5-3.婚姻前の姓に戻したい場合の手続き方法は?」でご紹介します。
姻族関係終了届によって自身と姻族(配偶者の血族)の関係は絶たれますが、子供と配偶者の血族の関係は変わりません。姑や舅は子供にとって祖母・祖父であることに変わりはなく、亡くなった配偶者に代わって遺産を相続する権利があります。
姻族関係終了届を提出しても、財産の相続権や遺族年金の受給資格がなくなることはありません。亡くなった配偶者と婚姻関係があったという事実は変わらないからです。
なお、相続放棄をする場合は、死亡から3か月以内に家庭裁判所に申し立てをしなければなりません。姻族関係終了届を提出しただけでは相続放棄したことにはなりません。
4.姻族関係終了届のメリット・デメリット
姻族関係終了届は、自分の意思だけで配偶者の血族との関係を終わらせることができる手続きですが、一方的に家族関係に区切りをつけることの影響がないわけではありません。
姻族関係終了届を提出するかどうかは、そのメリットとデメリットを比較してじっくり考えることが大切です。
この章では、姻族関係終了届の提出にどのようなメリット・デメリットがあるかをご紹介します。
4-1.姻族関係終了届のメリット
姻族関係終了届のメリットには、主に次のようなものがあります。
- 姻族関係から生じる精神的・金銭的負担が解消される
- 亡くなった配偶者の遺産は相続できる
- 遺族年金ももらえる
4-1-1.姻族関係から生じる精神的・金銭的負担が解消される
姑や舅と折り合いが悪い場合は、姻族関係を解消することで精神的な負担を軽減することができます。
また、扶養するよう求められても断ることができ、金銭的な負担も解消されます。
4-1-2.亡くなった配偶者の遺産は相続できる
姻族関係終了届を提出しても相続の権利には影響がなく、亡くなった配偶者の遺産を相続することができます。
配偶者の血族から遺産を相続しないように言われても従う必要はありません。
生前に離婚した場合は遺産を相続することができませんが、生前の離婚と姻族関係の終了を混同しないように注意しましょう。
4-1-3.遺族年金ももらえる
姻族関係終了届を提出しても、支給の要件を満たしていれば遺族年金をもらうことができます。すでにもらっている場合も、引き続きそれまでどおりもらうことができます。
ただし、再婚するなど支給の要件を満たさなくなった場合は遺族年金の支給が停止されます。
(配偶者への支給が停止されても、子供に支給されるケースがあります。)
4-2.姻族関係終了届のデメリット
姻族関係終了届のデメリットには、主に次のようなものがあります。
- 姻族関係の終了は撤回できない
- 配偶者の血族を頼れない
- 住まいやお墓を自分で用意する必要がある
4-2-1.姻族関係の終了は撤回できない
姻族関係終了届は、一度提出すると撤回することができません。
もし、配偶者の血族と親族関係を復活させたい場合は、養子縁組をすることになります。
4-2-2.配偶者の血族を頼れない
姻族関係終了届を提出すると、配偶者の血族を頼ることはできなくなると考えておくほうがよいでしょう。
姻族関係を一方的に断ち切った以上、子供の面倒を見てもらったり、経済的な援助を受けたりすることは期待できません。
また、配偶者が亡くなってから時間が経っていない場合は、法事をめぐってトラブルになる可能性もあります。
4-2-3.住まいやお墓を自分で用意する必要がある
すでに配偶者の両親と別居している場合は心配ありませんが、同居している場合は新たな住まいを探す必要があります。
自身が亡くなった後のお墓や埋葬場所も手配しなければなりません。
亡くなった配偶者の遺骨が実家のお墓に納められた場合は、夫婦でお墓が別々になってしまうこともデメリットとなります。
5.姻族関係終了届についてよくある疑問
最後に、姻族関係終了届について多くの方が疑問に思われる事項をいくつか選んで解説します。
5-1.子供と配偶者の血族の関係はどうなるのか?
姻族関係終了届を提出しても、自分の子供と配偶者の血族の関係は終了しません。
つまり、子供にとって姑は「おばあちゃん」であり、舅は「おじいちゃん」であることに変わりはありません。
義理の両親が亡くなったときは、子供は代襲相続で遺産を相続することができます。
自分の子供と配偶者の血族との縁が切れないことについては、デメリットとしてとらえる人がいるかもしれません。しかし、自分の子供が義理の両親の遺産を相続できることは知っておくとよいでしょう。
5-2.戸籍の記載はどうなるのか?
姻族関係終了届を提出すると、戸籍には「姻族関係終了」と記載されます。
一方、戸籍の異動はありません。これまでどおり亡くなった配偶者との戸籍に入ったままであり、姓(名字)も変わりません。
5-3.婚姻前の姓に戻したい場合の手続き方法は?
戸籍を分離して婚姻前の姓に戻したい場合は、市区町村役場に「復氏(ふくうじ)届」を提出します。
復氏届を提出すると、婚姻前の戸籍に戻るか新しい戸籍を作ることができます。
姻族関係終了届と同様に、配偶者の死亡届を提出した後であればいつでも提出でき、期限はありません。
なお、自分が復氏届を提出しただけでは、子供の姓と戸籍は変わりません。
子供を自分の戸籍に入れたい場合は、「子の氏の変更許可申立書」で家庭裁判所の許可を受けて、市区町村役場に「入籍届」を提出する必要があります。
これらの手続きで子供の籍を抜いた場合でも、子供にとって配偶者の両親は祖父・祖母であることに変わりはなく、代襲相続の権利を失うことはありません。
5-4.相続で受け取った遺産を返す必要はあるのか?
姻族関係終了届を提出しても、亡くなった配偶者の遺産相続には影響がありません。
したがって、配偶者の遺産を相続してから姻族関係終了届を提出した場合でも、相続した財産を親族に返す必要はありません。
姻族関係終了届を提出したことを親族に知られたときに、遺産を返すよう迫られることがあるかもしれませんが、そのような要求に応じる義務はありません。
5-5.姻族関係終了届を提出しないと再婚できないのか?
配偶者が死亡すれば、夫婦の婚姻関係は解消されます。したがって、姻族関係終了届を提出しなくても再婚することはできます。
ただし、再婚した場合でも亡くなった配偶者の血族との姻族関係は解消されず、亡くなった配偶者と再婚相手の両方の血族と姻族関係がある状態になります。
姻族関係が二つあっても問題になることはあまりないようですが、気になるのであれば姻族関係終了届を提出するとよいでしょう。
6.相談先は家庭問題に強い弁護士・司法書士がおすすめ
ここまで、姻族関係終了届の効果と、届け出をすることのメリット・デメリットをご紹介しました。
姻族関係終了届を提出すると、配偶者の血族(両親や兄弟姉妹)との関係を終了させることができます。
姻族関係が終了しても相続した財産を返す必要はなく、遺族年金もそれまでどおりもらえます。しかし、一方的に家族関係に区切りをつけることになるため、その後の人間関係に影響を及ぼす場合があります。
姻族関係終了届を提出するかどうかは、慎重に判断することをおすすめします。
具体的な手続きや個別のケースのメリット・デメリットについては、家庭問題に詳しい弁護士や司法書士に相談するとよいでしょう。
姻族関係に区切りをつけたいとお考えの方は、お気軽にご相談ください。
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