死後離縁とは?養親・養子死亡後、相続発生後に手続する方法・流れを解説
死後離縁とは、養親や養子が死亡したあとに、養子縁組を解消することです。
死後離縁にはメリットだけでなくデメリットもあるため、事前に確認しておかなくては「やはりやめておけばよかった」と後悔することになりかねません。また、理由によっては死後離縁の申立てが認められないケースもあります。本記事で理由の書き方を確認して、スムーズに申立ての手続を進めましょう。
この記事の目次 [表示]
1.死後離縁の意味-養親と養子の死亡後に養子縁組を解消すること
死後離縁とは養親が亡くなったあと、養子縁組を解消する手続です。養子縁組とは法律上親子関係にない人同士で、法的に親子関係が認められることを指します。以下のとおり、さまざまなパターンがあります。
▲子どもの配偶者と養子縁組したときの関係図
▲孫と養子縁組したときの関係図
▲甥や姪と養子縁組したときの関係図
養子縁組を結ぶことで、養子は養親と同じ姓を名乗って家を継いだり相続したりできます。
また、養親が亡くなったあとは家庭裁判所の許可があれば養子縁組を解消できます。この手続が死後離縁です。養子縁組が解消できることは、民法第811条にも記載されています。
6 縁組の当事者の一方が死亡した後に生存当事者が離縁をしようとするときは、家庭裁判所の許可を得て、これをすることができる。
(引用:民法第811条6項|e-Gov法令検索)
死後離縁とは、配偶者が亡くなったあとに離婚することや、親の死後に結婚して籍を抜くことではありません。養子縁組のメリットについては、以下の記事をご覧ください。
参考:養子縁組で相続税が節税できる金額と注意点を解説|相続税のチェスター
2.死後離縁によって得られる効果
死後離縁によって得られる効果は、以下のとおりです。
死後離縁によって得られる効果
- すでに発生している相続には影響を及ぼさない
- 養親や養子方との親族関係が終了する
ほかの離縁方法とは、養子または養親の意志のみで養子縁組を解消できる点で異なります。どちらかが生きているあいだに関係を解消したい場合は、養親と養子の両者による協議が必要です。しかし、死後離縁は養子が家庭裁判所に申し立てれば、一方的に関係を解消できます。
死後離縁は生前に離縁が叶わなかった場合、亡くなった養親の親族との関係を断ちたい場合、旧姓に戻りたい場合など、さまざまな理由でおこなわれます。
2-1.すでに発生している相続には影響を及ぼさない‐遺産は相続できる
死後離縁しても、すでに発生した相続には影響しません。すでに相続した遺産は、死後離縁したあとも引き続き所有できます。死後離縁は、亡くなった日までさかのぼって関係を解消する手続ではありません。申立てが認められた時点から離縁となるため、相続時点で養子縁組の関係にあれば遺産は相続できます。
ただし、遺産分割協議中である場合や、相続が完了していない時点で死後離縁した場合は、相続人から外れます。遺産を相続できなくなるため、注意しましょう。
2-2.養親や養子方との親族関係が終了する‐扶養義務が消滅する
死後離縁すると、養親や養子方との親族関係が解消されます。民法729条に定められているとおりです。
(離縁による親族関係の終了)
第七百二十九条 養子及びその配偶者並びに養子の直系卑属及びその配偶者と養親及びその血族との親族関係は、離縁によって終了する。
(引用:民法第729条|e-Gov法令検索)
養親に弟がいた場合、弟は養子にとって法律上の叔父となります。養親が亡くなったあとも死後離縁しなかった場合、家庭裁判所の判断によって叔父が養子の扶養義務を負ったり、養子が叔父の扶養義務を負ったりします。しかし、死後離縁した場合は、上記の関係が解消されるため、扶養義務が発生しません。
また、養子に配偶者がいた場合、養親は法律上配偶者の義父母となり、養子夫婦が義父母と同居していると、互いに扶養義務が発生します。仮に養子が亡くなり、養親が死後離縁の申立てをして認められた場合は、養親と養子配偶者間の関係は解消されます。
そのため、死後離縁は養親と養子の当事者同士だけでなく、親族間の関係も解消する手続です。
3.死後離縁のデメリット
死後離縁のデメリットは、以下のとおりです。
死後離縁のデメリット
- 養子縁組から7年経っていないと今の氏(苗字)を使えない
- 手続完了後に撤回できない
死後離縁は一度申立てが認められると、以降は撤回できません。手続の前に、死後離縁によって不都合はないか慎重に検討しましょう。加えて、死後離縁は亡くなった養親または養子の親族との関係にも影響します。特に、遺産相続や家の継承といった問題がある場合は、親族同士でもよく話し合って決めましょう。
3-1.養子縁組から7年経っていないと今の氏(苗字)を使えない
死後離縁したあとも現在の苗字を使いたい場合、養子縁組から7年経過しなければいけません。名古屋家庭裁判所の死後離縁に関するQ&Aの回答は、以下のとおりです。
Q5 離縁後の養子の氏は,どのようになるのですか?
養子は離縁によって縁組前の氏に戻り,それに伴って縁組前の戸籍に入るのが原則
です。(中略)また,養子が縁組の日から7年を経過した後に離縁をしたときは,離
縁の日から3か月以内に市区町村役場に届け出ることによって,縁組中の氏を引き続き
称することができます。
なお,養子の子の氏は当然に変更しないため,もし親と同一の氏を称したいときは,家
庭裁判所で「子の氏変更許可」の手続をとる必要があります。
例えば、元々山田姓だった人が、養子縁組をして林姓になったとしましょう。この場合、死後離縁したあとも林姓を名乗り続けるには、少なくとも養子縁組した日から死後離縁までの間に7年以上経過している必要があります。
▲現在の苗字を使うための条件-養子縁組から7年以上が必要
仮に養子縁組した日が2016年の10月1日で、養親の亡くなった日が2022年6月1日だとします。この場合、養子縁組が成立した日から7年が経過した2023年10月1日以降に死後離縁しないと、林姓は使えません。亡くなった日にすぐ死後離縁の申立てをすると、元の山田姓に戻ることになります。
また、養子縁組中の姓を引き続き使いたい場合は、死後離縁の申立てから3ヵ月以内に別途届け出が必要です。
3-2.手続完了後に撤回できない
死後離縁は、手続完了後に撤回できません。そのため、死後離縁で財産相続のチャンスを失う可能性があります。死後離縁をしたあとで相続財産が見つかったとしても、相続関係を失っているため、相続できません。
相続は、あとから相続人の知らなかった財産が発見されることも多々あります。しかし、すでに死後離縁が成立している場合、あらためておこなわれる遺産分割協議に参加できません。死後離縁には期限がないため、焦って申し立てる必要はありません。相続が落ち着いてから申し立てをしましょう。
4.死後離縁の申立てにかかる費用は依頼する専門家によって異なる
死後離縁の申立ては、司法書士や弁護士に代理人を依頼して手続できます。費用は以下のとおりです。
死後離縁の申立てを代理人に依頼した場合かかる費用
依頼する専門家 | 費用 | 内訳 |
---|---|---|
司法書士 | 5万円~ | 書類作成費用 |
弁護士 | 10万円~ | 着手金 |
費用の内訳や計算方法は、依頼する事務所によって異なります。例えば、弁護士に依頼した場合の着手金相場は約10万円です。しかし、ほかにも郵送代や交通費といった実費や、書類作成費用といった料金がかかります。詳しい費用は、実際に相談して見積もりをもらいましょう。
なお自分で死後離縁の申立てをした場合の費用は、以下のとおりです。
自分で死後離縁の申立てをした場合かかる費用
内訳 | 費用 |
---|---|
収入印紙 | 800円(1人あたり) |
郵便切手 | 管轄の家庭裁判所によって異なる (例:名古屋家庭裁判所なら1,771円) |
戸籍謄本 | 450円(1通あたり) |
除籍謄本 | 450~750円(1通あたり) |
確定証明書の申請に必要な印紙 | 150円 |
合計 | 4,000~6,200円 |
必要となる郵便切手や戸籍謄本の料金は、裁判所や申請する自治体によって異なります。
4-1.司法書士に依頼する場合にかかる費用は書類作成費用5万円程度から
司法書士に依頼する場合、かかる費用は書類作成費用5万円と実費が相場です。例えば、ある司法書士事務所では、以下の料金体系を設けています。
司法書士事務所の費用一例
内訳 | 費用(税込) |
---|---|
相談料 | 初回書類作成:4万4,000円 追加書類作成:追加書類作成1回につき1万7,600円 |
書類作成料 | 2,970円(90分まで) |
実費 | 申立手数料:800円 戸籍謄本:450円 除籍謄本:750円 郵便切手:実費 交通費:県内無料 ※遠方の場合は要実費 |
上記の場合、追加で作成する書類がなければ依頼費用は合計5万2,970円(郵便切手は4,000円で計算)です。弁護士に依頼した場合と比較すると、費用を抑えやすい傾向があります。ただし、料金は依頼する司法書士によって異なるため、相談時には見積もりをもらいましょう。
4-2.弁護士に依頼する場合にかかる費用は着手金10万円程度から
弁護士に依頼する場合、かかる費用は着手金約10万円と実費が相場です。例えば、ある弁護士事務所では、以下の料金体系を設けています。
弁護士事務所の費用一例
内訳 | 費用(税込) |
---|---|
相談料 | 初回無料 2回目以降:30分5,500円 |
着手金 | 11万円(90分まで) |
実費 | 申立手数料:800円 戸籍謄本:450円 除籍謄本:750円 郵便切手:実費 交通費:実費 |
上記の場合、初回相談で契約すれば依頼費用は合計11万6,000円(郵便切手は4,000円で計算)と交通費となります。死後離縁は家庭裁判所に必要書類を作成し提出するだけで手続が完了するため、日当や成功報酬がかかりません。
また、弁護士は司法書士よりも費用が高くなる傾向にあるものの、死後離縁だけでなく相続トラブルや遺産協議分割の代理人も依頼できます。相続や身内間のトラブルにアドバイスをもらいたい人や、代理人を任せたい人に最適です。
5.死後離縁の手続の流れとやり方
死後離縁の手続の流れは、以下のとおりです。
▲死後離縁の流れ-申し立てから結果が出るまで約1ヵ月
上記の図を簡単に説明すると、以下のとおり大きく3つのステップに分けられます。
死後離縁の手続の流れ
- 死後離縁許可の申立書を提出-申立人の住所地の家庭裁判所
- 確定証明書の交付を申請-死後離縁の審判をした家庭裁判所
- 養子離縁の届出-申立人の本籍地、または住所地の役場
上記のステップごとに詳しく見ていきましょう。また家族が亡くなったときの手続全般については、以下の記事をご覧ください。
参考:相続発生!やるべき手続きと流れ【一覧チェックリスト付き】|相続税のチェスター
参考:死後離縁手続とは|裁判所
5-1.申立人の住所地の家庭裁判所に死後離縁許可の申立書を提出する
まずは、裁判所の家事審判申立書から申立書をダウンロードし、記入例(死後離縁許可)を参照しながら記入しましょう。提出は一部で問題ありませんが、控えを取っておくと万が一不備があった場合に対応しやすいためおすすめです。必要書類とあわせて提出しましょう。
提出先は、申立人の住所地を管轄する家庭裁判所です。家庭裁判所の開庁日は基本的に平日のみとなります。なんらかの事情があって直接提出できない場合は、郵送での提出でも問題ありません。
5-1-1.死後離縁の申立てに必要な書類は申立書と戸籍謄本
死後離縁の申立てに必要なものは、以下のとおりです。
死後離縁の申立てに必要なもの
- 死後離縁許可の申立書
- 養親と養子それぞれの戸籍謄本(除籍謄本)
- 収入印紙800円分(1人あたり)
- 連絡用の郵便切手(裁判所により異なる)
収入印紙は、1人と離縁する場合800円です。養親2人と離縁する場合は、1,600円必要となるため注意しましょう。収入印紙は申立書に貼り付けて提出します。また、連絡用の郵便切手は、裁判所により金額や内訳が異なります。事前に申立人の住所地を管轄する家庭裁判所のホームページで、金額を確認しましょう。例えば、名古屋家庭裁判所では1,748円分の郵便切手の提出が必要です。
上記の必要書類と費用を、まとめて提出しましょう。
参考:死後離縁許可|裁判所
5-2.死後離縁の審判をした家庭裁判所に確定証明書の交付を申請する
死後離縁の許可が下りた場合は、確定証明書の交付を申請しましょう。
申立書を提出すると、約1ヵ月で家庭裁判所から審判書謄本が送られてきます。審判書謄本とは、申立てに対する審判の結果が記されている書類です。
家庭裁判所には、確定証明書の交付申請用紙が備え付けてあります。必要事項を記入し、150円分の収入印紙を貼って提出しましょう。郵送で確定証明書の交付を申請する場合は、返信用封筒と84円切手を同封します。
5-3.申立人の本籍地または住所地の役場に養子離縁の届出をする
申立人の本籍地、または住所地の役所に養子離縁の届出をすれば、死後離縁は完了です。
養子離縁の届出に必要なもの
- 審判書謄本
- 確定証明書
基本的には上記の書類で届出できます。しかし、役所によっては養親と養子の戸籍謄本を求められる場合もあります。詳細は自治体によって異なるため、あらかじめ問い合わせておくと安心です。
6.死後離縁の申立てにかかる期間は2ヵ月程度
死後離縁の申立てにかかる期間は、2ヵ月程度です。内訳は以下のとおり。
死後離縁の手続と期間
やること | 期間 |
---|---|
申立書や必要書類の準備 | 約1週間 |
家庭裁判所の審判 | 約1ヵ月 |
審判の結果が出てから確定するまで | 2週間 |
役所での手続準備・養子離縁の届出 | 約1週間 |
死後離縁の申立ては、家庭裁判所の審判に約1ヵ月かかります。事情があり早めに死後離縁を成立させたい人は、収入印紙や戸籍謄本の準備を早めに済ませておきましょう。また、家庭裁判所から審判の結果が出たあと、2週間は申立人が結果に不服を申し立てるための期間が設けられています。もし不許可となった場合はこの2週間で、不服を申し立てましょう。
審判書謄本が発送されてから2週間は、確定証明書を受け取れません。
7.死後離縁許可の申立書に記載する理由の書き方【事例付き】
死後離縁許可の申立書にある趣旨や理由は、以下を参考に記載しましょう。
▲死後離縁許可の申立書に記載する理由の書き方
理由に記載すべきポイントは、以下の3点です。
理由の欄に記載すべきポイント
- 養親と養子縁組関係にあり、養親に育てられて15歳以上を迎えた事実
- 養親が亡くなった事実
- 養子縁組を解消したい意志
理由といっても、「元の姓に戻したい」や「養親の家族間でトラブルがあった」といった内々の事情を記載する必要はありません。
8.死後離縁の手続における注意点
死後離縁の手続における注意点は、以下のとおりです。
死後離縁の手続における注意点
- 死後離縁の手続ができるのは本人だけ
- 相続や贈与を受けている場合は死後離縁を認められない可能性が高い
注意点をあらかじめ把握し、スムーズに手続を進めましょう。
8-1.死後離縁の手続ができるのは本人だけ
死後離縁の手続ができるのは、原則として養親または養子である本人のみです。当事者の兄弟や親、または子どもは代理人になれません。ただし、養親が亡くなった場合は例外があり、養子が離縁を希望すれば可能です。養子本人が15歳未満の場合は、本人の単独で死後離縁の手続ができません。基本的に養子の法定代理人が手続をおこないます。
また、養子に法定代理人もいない場合、離縁後の法定代理人となる人が手続可能です。
8-2.相続や贈与を受けているなら死後離縁の申立てを認められない可能性が高い
相続や贈与を受けたあとに死後離縁を申し立てた場合、許可されないケースがあります。なぜなら、亡くなった養親から利益を得ているにもかかわらず、養親から引き継ぐべき扶養義務を放棄するのは不当だと判断されるためです。養親側が死後離縁を申し立てる場合も、同じことがいえます。
ただし、相続や贈与を受けているからといって、必ずしも申立てが不許可になるとは限りません。場合によっては家庭裁判所から審問の機会が設けられ、背景にどのような事情があるのか聞き取ったうえで審判する場合もあります。また、不許可になっても審判書謄本が発行されてから2週間は、不服申立ての余地があります。
9.死後離縁は撤回できない-トラブルを避けたいなら専門家に依頼しよう
死後離縁は、一度成立すると撤回できません。亡くなった人とは再び養子縁組を組めないため、死後離縁は慎重に検討しましょう。のちの親族同士のトラブルや相続問題を避けたい場合は、相続に強い弁護士にご相談ください。
また、相続手続きや戸籍収集代行等の手続きを代理してもらいたい場合は、司法書士法人チェスターへ。
実績豊富な司法書士が、スピーディーに手続きを進めます。
相続税といった税金関係のご相談は、税理士法人チェスターへお問い合わせください。チェスターグループであれば、相続の疑問や不安をさまざまな形で解決可能です。まずはお気軽にお問い合わせください。
※この記事は専門家監修のもと慎重に執筆を行っておりますが、万が一記事内容に誤りがあり読者に損害が生じた場合でも当法人は一切責任を負いません。なお、ご指摘がある場合にはお手数おかけ致しますが、「お問合せフォーム→掲載記事に関するご指摘等」よりお問合せ下さい。但し、記事内容に関するご質問にはお答えできませんので予めご了承下さい。
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