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居住用財産の3,000万円控除を相続時に活用するには。条件と手続き

居住用財産の3,000万円控除を相続時に活用するには。条件と手続き

居住用財産を売却するとき、要件を満たしていれば譲渡所得の3,000万円の控除を受けられます。相続時に活用すれば税金の負担を大きく減らせる制度です。要件が細かく決まっているため、自身のケースは利用できるか確認しましょう。

1.実家の売却で発生する税金

1.実家の売却で発生する税金

実家を売却すると『譲渡所得』が発生します。所得税が課税されるため、譲渡所得額に応じて税金の負担も発生する仕組みです。この税負担をできるだけ抑えたいと考えているなら、実家を購入したり、建築したりした際の『取得費』が分かる書類を用意しましょう。

1-1.売った人の譲渡所得に対する課税がある

資産を売却したときに得られる所得を譲渡所得といいます。親が住んでいた実家も資産の一つです。売却して得た利益は譲渡所得に分類されます。

譲渡所得がある場合は、譲渡した翌年に確定申告をしましょう。申告の期間は『2月16日~3月15日』です。『マイホームの譲渡損失の損益通算及び繰越控除』といった特例を利用すると、源泉徴収されていた所得税の還付が受けられる場合もあります。

還付申告の場合には、譲渡した年の翌年1月1日から5年間申告できます。

1-2.税負担軽減には、実家の取得費が重要

譲渡所得を申告するときには『収入金額-(取得費+譲渡費用)-特別控除額』で、税金を計算する基準になる課税所得を計算します。ここでポイントになるのが『取得費』です。

取得費は購入時の『売買契約書』で確認できますが、手元になく確認できない場合には『譲渡価額の5%』を概算取得費とします。例えば実家を2,000万円で売却すると、概算取得費は100万円です。

譲渡費用100万円・特別控除額0円なら『2,000万円-(100万円+100万円)=1,800万円』と求められます。
なお、建物の取得費は、購入代金又は建築代金などの合計額から所有期間における減価償却費相当額を差し引いた金額となります。

上記のケースで売買契約書があり、減価償却費を差し引いた取得費が1,700万円と分かれば、課税所得は『2,000万円-(1,700万円+100万円)=200万円』となります。

このように売買契約書によって取得費が分かれば、所得税を大幅に節約できるケースもあります。

参考:No.1440 譲渡所得(土地や建物を譲渡したとき)|国税庁

2.マイホームを売ったときの特例

2.マイホームを売ったときの特例

マイホームを売却する際には『3,000万円』の特別控除が適用できますが、売却のタイミングには注意しましょう。

親の生前にマイホームを売却すると、特別控除の対象になり譲渡所得にかかる所得税は少なく抑えられる可能性があります。しかし、売却代金が手元に入ることから、親の死後に発生する相続税の負担が大きくなるかもしれません。

2-1.親が生前に自宅を売却するときなどに活用

『居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例』を利用すると、マイホームを売却したときに最高で『3,000万円』の控除を受けられます。売却する本人が住んでいる家であれば所有期間は問いません。

特例の適用を受けるには、下記の要件を満たす必要があります。

  • 自分が住んでいる家屋・家屋+敷地・家屋+借地権を売却する
  • 売却する年の前年と前々年に、この特例や譲渡損失についての損益通算及び繰越控除の特例を利用していない
  • 売却する年及びその前年と前々年に、マイホームの買い換えや交換の特例を利用していない
  • 売却した家屋や土地に他の特例が適用されていない
  • 災害で家屋を失った場合、土地の売却は住まなくなってから3年後の12月31日までに行う
  • 売り手と買い手が親子や夫婦など特別な関係ではない

要件を満たしていれば『マイホームを売ったときの軽減税率の特例』も併用可能です。

参考:No.3302マイホームを売ったときの特例|国税庁

参考:No.3305マイホームを売ったときの軽減税率の特例|国税庁

2-2.生前の売却は相続税が上がる可能性あり

マイホームの売却による特例を適用するには、親の生前に実家を売却しなければいけません。実家を手放す代わりに親は現預金が増加します。

全ての資産を使い切ることなく死亡すれば、相続人は現預金を相続することになるでしょう。

不動産の価値は土地が路線価・建物が固定資産税評価額により求められるため、時価より低いケースが多くあります。課税評価額が低い分、相続税の節約につながりやすい仕組みです。

一方、現預金は金額がそのまま課税評価額となるため、不動産より税額が割高になりやすいでしょう。地価の変動や相続人間のトラブルがないなら、不動産のまま相続した方がいいかもしれません。

3.被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例

3.被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例

親の死後に実家が空き家になった場合、『被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例』を適用できる可能性があります。ただし特例を適用するには一定の要件を満たしていなければいけません。どのようなケースで特例を利用できるのか確認しましょう。

3-1.空き家となった実家の相続、売却時に活用

相続した実家が空き家なら、要件を満たすことで売却時に譲渡所得から最高『3,000万円』までの控除を受けられます。この特例は期間限定のもので『2016年4月1日~2027年12月31日』の売却が対象です。

ただし、実家であってもマンションは対象外である点に注意しましょう。この特例が対象としているのは『耐震性が低い空き家』のため、修繕計画に基づき計画的な補修が行われるマンションは対象外です。同様の理由で、戸建て住宅も1981年6月1日以後に建てられたものは対象外です。

売却する家屋や土地が必要な要件を満たしていても、売却先が配偶者や子どもなど特別な関係の場合には適用されません。

参考:No.3306被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例|国税庁

3-1-1.老人ホームに入所していた場合も対象に

中には、死亡時に老人ホーム等へ入所している被相続人もいるでしょう。この場合も下記の要件を満たせば、特例の対象として扱われます。

  • 被相続人が老人ホーム等へ入所していて相続開始直前に実家に住んでいなかった
  • 被相続人が老人ホーム等へ入所しているとき被相続人の物品を管理するのに実家が使われていた
  • 被相続人が老人ホームへ入所しているとき賃貸に出していなかった
  • 家屋は1981年5月31日以前に建てられたものである
  • 区分所有建物登記されていない
  • 被相続人が老人ホーム等への入所前に1人暮らししていた

参考:No.3307被相続人が老人ホーム等に入所していた場合の被相続人居住用家屋|国税庁

3-2.空き家発生の抑制が制度の目的

この特例は空き家の発生を抑えるのを目的とした制度です。そのため被相続人が1人暮らしをしていた実家が対象です。配偶者や子どもと一緒に暮らしていた被相続人の住まいは対象となりません。

当初は2019年12月31日までが適用期間とされていましたが、現時点では2027年12月31日まで延長されています。

4.空き家特例適用のチェックポイント

4.空き家特例適用のチェックポイント

売却時に譲渡所得から3,000万円の控除を受けられる空き家特例を利用するには、細かな条件を満たさなければいけません。主に『対象物件』『売却時期』『売却金額』について条件が定められています。

それぞれどのような条件が設定されているのでしょうか?

4-1.対象物件に関する条件

空き家特例は被相続人から引き継いだ『1981年5月31日以前』に建てられた区分所有建物登記されていない居住用家屋に適用されます。居住用家屋のみ、もしくは居住用家屋と土地を売却するときに受け取った譲渡所得が対象です。

売却する居住用家屋は、売却のときまでに一定の耐震基準を満たすよう耐震リフォームをする必要があります。あるいは、居住用家屋を全て取り壊し、敷地のみ売却する場合も控除を受けられます。

なお、2024年1月1日以後は、耐震基準を満たさない居住用家屋を現状のまま売却し、翌年の2月15日までに耐震リフォームまたは家屋の取り壊しを行う場合にも控除を受けられます。

敷地内に複数の家屋がある場合には、被相続人が主に住んでいた家屋のみに控除が適用されます。土地も一緒に売却するときには、土地の面積に主に住んでいた家屋の床面積割合をかけた部分が控除の対象です。

このほか、相続されてから譲渡までの間に賃貸に出していないことも、控除を受けるために満たすべき条件とされます。

4-2.売却時期と売却金額の条件

このほか、特例を利用して控除を受けるためには、売却までの期間が指定されています。相続が始まった日から3年が経過する年の12月31日までに売却しなければいけません。

ただし、制度の適用期間は2027年12月31日までと決まっています。例えば2025年11月1日に相続が開始したなら、3年後の年末は2028年12月31日です。

しかし適用期間の最終日は2027年12月31日のため、この日までに売却できなければ控除の対象になりません。

このほか、売却代金が『1億円』以下である点も重要なポイントです。

4-3.他の特例との併用条件

他の特例との関係も理解しておきましょう。特例を併用すれば税額をより抑えやすくなります。空き家特例と併用できるのは下記の二つです。

  • 自己居住用財産を譲渡した場合の3,000万円特別控除(同一年内に併用する場合、上限3,000万円)
  • 自己居住用財産の買換え等に係る特例措置

この二つは、どちらか一方を選び併用する点に注意しましょう。また空き家特例と『相続財産を譲渡した場合の取得費加算特例』や『収用等の場合の特別控除』は併用できません

加えて空き家特例を適用できるのは、相続人1人につき1回限りです。

参考:No.3306被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例|国税庁

5.必要書類を添付した上で確定申告が必須

必要書類を添付した上で確定申告が必須

空き家特例の控除を受けるには『確定申告』が欠かせません。空き家+敷地の場合と敷地のみの場合で、用意する書類が異なる点に注意が必要です。必要書類を過不足なく用意すれば、スムーズに確定申告できます。

5-1.空き家とその敷地を売った場合

空き家と敷地を売却したときには、下記の書類を用意しましょう。

  • 譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)
  • 登記事項証明書など
  • 被相続人居住用家屋等確認書
  • 耐震基準適合証明書か建設住宅性能評価書の写し
  • 売買契約書の写し(売却代金が1億円以下と分かるもの)

『登記事項証明書』は被相続人から相続で空き家と敷地を引き継いだこと、1981年5月31日以前に建てられた建物であること、区分所有建物登記をされていないことが分かる内容のものを添付します。

売却した空き家と敷地のある市区町村で発行してもらう『被相続人居住用家屋等確認書』は、交付までにおよそ3週間かかる書類です。確定申告の期限に間に合わせるため早めに申請しましょう。

参考:No.3306被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例|国税庁

5-2.空き家を取り壊し、その敷地を売った場合

相続した空き家を取り壊し、敷地のみを売却するケースもあります。その場合に確定申告で提出する書類は下記のとおりです(2024年1月1日以後の売却で、売却後に空き家の取り壊しを行う場合も同様です)。

  • 譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)
  • 登記事項証明書や閉鎖事項証明書
  • 売買契約書の写し(売却代金が1億円以下と分かるもの)
  • 被相続人居住用家屋等確認書

取り壊した家屋については、登記事項証明書と同様、法務局で取得する『閉鎖事項証明書』も必要です。提出できない合理的な理由があるなら、同様に家屋の取り壊しを証明できる『除却工事に係る請負契約書の写し』を提出しましょう。

また『被相続人居住用家屋等確認書』は、空き家と土地の譲渡所得を申告する場合と内容が異なるため注意が必要です。

参考:No.3306被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例|国税庁

6.親と同居中の実家を相続、売却する場合

6.親と同居中の実家を相続、売却する場合

相続人が複数いるとき、被相続人と同居していた実家にそのまま住み続けるには『代償金』が必要です。まとまった金額を用意できなければ、売却し譲渡所得を分け合うことになるでしょう。この売却時にはマイホームの特例を利用可能です。

6-1.実家を相続できるよう話し合う

相続財産が実家のみで相続人が複数いる場合には、二つの相続方法が考えられます。

  • 親と同居していた相続人が他の相続人へ代償金を支払う
  • 実家を売却し売却代金を分け合う換価分割を行う

十分な『代償金』を支払えるなら、同居していた相続人はそのまま実家に住み続けられます。しかし代償金が払えないなら『換価分割』を行うとよいでしょう

相続開始の時点では建物も土地も相続人の共有名義です。まずは代表者名義に変更するとスムーズに手続きを進めやすいでしょう。売却代金を分け合った資金を用い、同居の相続人は住居を確保できます。

また同居の相続人が換価分割に応じなくても、他の相続人が家庭裁判所へ申立てを行うと、調停や審判による解決が図られます。審判の結果、裁判所により建物や土地の競売にかけられる場合もあります。

6-2.マイホームの特例を利用する

被相続人と同居していた相続人がそのまま実家に住み続けていれば、実家は相続人の自宅であり財産とみなされます。そのため売却時に下記のマイホームの特例を利用可能です。

  • 居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例
  • マイホームを買い換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例(所有期間5年超の場合)

さらに所有期間が10年を超えているなら『軽減税率の特例』の対象でもあります。

7.兄弟姉妹などと共有名義の実家を売却する場合

7.兄弟姉妹などと共有名義の実家を売却する場合

相続をするときに、兄弟姉妹と実家を共有名義にしている場合もあるでしょう。共有名義の実家を売却するときには、全ての相続人が空き家特例を利用できるのが特徴です。ただしトラブルに発展しやすい所有形態である点に注意しなければいけません。

7-1.各共有者が空き家特例を活用できる

例えば被相続人の親から相続人の子ども2人が空き家になっている実家を相続したとします。このとき子ども2人はそれぞれが、空き家特例で最大3,000万円の控除を利用可能です。

ただし、3人以上の相続人で共有していた空き家を2024年1月1日以後に売却する場合は、それぞれの控除額は最大2,000万円となります。

空き家特例の適用を受けるには、居住用家屋と敷地をどちらも相続しなければいけません。家屋と敷地をそれぞれ共有しているなら特例を利用できます

しかし家屋と敷地を別々に保有しているなら適用は不可能です。

7-2.トラブルになりやすい点に注意

実家を共有名義で保有している状態は、トラブルに発展しやすいのが特徴です。相続人の1人が自分の持ち分を売却すれば、見ず知らずの人と実家を共有しなければいけなくなる可能性もあります

下記の方法で早いうちに共有を解消しましょう。

  • 共有者全員で実家全体を売却する
  • ある一人の共有者が他の共有者から持分を買い取る

実家全体を売却すると決めたときには、あらかじめルールを決めておくとトラブルに発展しにくいでしょう。例えば売却の窓口となる共有者・最低売却価格・売却額から経費を差し引いて分けることなどを決めておきます。

8.条件の確認と手続き忘れに注意しよう

8.条件の確認と手続き忘れに注意しよう

実家を売却すると譲渡所得に税金が課されます。そこでマイホームの特例や空き家特例を活用しましょう。譲渡所得から控除できるため、その分、税金の負担を抑えられる仕組みです。

ただし適用を受けるには細かな要件を満たしていなければいけません。要件を満たしていても手続きをしなければ控除は受けられません。譲渡をした翌年の確定申告を忘れずに行いましょう。

詳細は複雑で分かりにくいため、実績豊富な『税理士法人チェスター』へ相談してもよいでしょう。

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『空き家特例』についての詳細は下記もご覧ください。

空き家特例(3,000万円特別控除)と小規模宅地等の特例は併用できる|相続大辞典|相続税の申告相談なら【税理士法人チェスター】

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