相続税の更正の請求とは?必要なケースや手続きの流れ・請求期限や請求方法
家族が亡くなったときは、相続が発生します。亡くなった人(被相続人)が残した財産によっては、相続税を納めなければなりません。相続税の申告と納税には期限があります。期限内に納税まで済ませたものの、相続税の税額を間違って申告した場合、どのようにすれば良いのでしょうか。
もし、相続税の税額を本来よりも多く申告してしまったときは「相続税の更正の請求」をすると、払い過ぎた税金を取り戻すことが可能です。ただし更正の請求には期限があり、それを過ぎると請求できない可能性があります。
この記事では、相続税の更正の請求や請求期限、請求時の必要書類などを相続税専門の税理士が分かりやすく解説します。
この記事の目次 [表示]
1.相続税の更正の請求とは
相続税の更正の請求とは、すでに申告と納税が済んでいる相続税の税額が本来よりも多いときにできる請求です。請求が認められると、払いすぎた相続税を還付してもらえます。
家族が亡くなり相続が発生した場合は、被相続人が亡くなった日から10か月以内に遺産の分け方を確定し、相続税の金額を税務署に申告しなければなりません。相続税を税務署に申告して納税をしたあと、何らかの理由によって税額が適正でないことが判明した場合、税務署長宛に相続税の更正を請求できます。
相続税を払いすぎていた例として、計算を誤っていた場合などのほか、相続に関する特殊な事由により、相続人が取得した相続財産の課税価格が先に申告した額から変動する場合があげられます。
2.相続税の更正の請求の特則
相続税の更正の請求には期限がありますが、特殊な事情がある場合は期限をすぎていても請求できる場合があります。ここでは、相続税の更正の請求の期限に関するルールをみていきましょう。
2ー1.更正の請求の期限
税額が増えるときに行う修正申告はいつでも申告できますが、税額が減り差額を還付してもらう場合は期限内に請求をしなければなりません。請求期限は、相続税の申告期限(被相続人が死亡してから10か月)から5年です。
相続税の申告期限は、相続の開始を知った日から10か月です。相続の開始を知った日は、一般的に被相続人が亡くなった日であるため、相続税の更正の期限は死亡日から5年10か月となります。
相続税の更正の請求は相続人の権利として保障されていますが、被相続人が亡くなった日から5年10か月が過ぎてしまうと請求できません。ただし特殊な事由があった場合は、期限を過ぎても請求できる場合があります。これは「更正の請求の特則」といい、相続税法第32条第1項で定められています。
特殊な事情が発生した場合、更正の請求の期限にかかわらず、事由が発生した日の翌日から4か月以内に、請求をしなければなりません。状況によっては、更正の請求期限が短縮される可能性がある点には注意が必要です。
2ー2.特則に定められる特殊な事由とは
特則に定められる特殊な事由は、以下が代表的です。
- 未分割の財産が分割された
- 認知、廃除等による相続人の異動があった
- 遺留分侵害額請求権が行使された
- 遺贈にかかる遺言書が発見された・遺贈が放棄された
以上のような特殊な事由が発生した場合は、その日の翌日から4か月が更正の請求の期限となります。事由によっては、請求をする前に遺産分割協議のやり直しも必要になるため、迅速な対応が求められます。
2ー2ー1.未分割の財産が分割された
亡くなった人が遺言書を残していなかった場合、法定相続人同士で「遺産分割協議」という話し合いをして、 遺産の分け方を決めます。相続が発生したときは、10か月以内に遺産分割協議をして遺産の分け方を決めたうえで、相続税の申告と納税まで済ませなければなりません。
しかし相続税の申告期限までに遺産の分け方がまとまらず、相続財産の分割が終わらなかった場合は、法定相続人が法定相続分で取得したものとみなして申告・納付します。
その後、話がまとまり相続財産が分割され、各相続人が取得した遺産の割合や相続税額に変更があった場合は、相続税の更正の請求をします。
未分割の状態で相続税の申告をする場合「配偶者の税額軽減」や「小規模宅地等の特例」など、相続税の負担を軽減する制度を利用できません。そのため相続税の更正の請求をするときに、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例などの申告もあわせて行います。
2ー2ー2.認知、廃除等による相続人の異動があった
相続人の異動とは、相続人に変更が生じたことをいいます。相続人の異動が起きる代表的なケースは、以下のとおりです。
- 排除や欠格によって相続人が相続権を失った
- 被相続人に認知された子供の存在が発覚した
- 相続人が失踪の宣告を受けた・失踪の宣告が解除された など
たとえば、相続が終わったあとに被相続人に認知された子供の存在が発覚したときは、その子供を加えて改めて遺産の分け方を決めなければなりません。
遺産の金額に変更がない場合、相続人が増えると1人あたりの相続税額は基本的に減ります。すでに相続税の申告と納税を済ませている場合は、更正の請求をして差額を還付してもらえます。
2ー2ー3.遺留分侵害額請求が行使された
遺留分侵害額請求をされて、相続財産から一定の金銭を支払った場合、特則が定める特段の事情に該当するとされています。遺留分とは、配偶者や子(代襲相続人を含む)、直系尊属(被相続人の父母・祖父母)などの生活を保護するために、最低限相続できる割合のことです。
たとえば「遺産のすべてを献身的に介護してくれた息子の嫁にわたす」などと書かれた遺言書が見つかったとき、財産を相続できくなった相続人は遺留分侵害額請求をすることで、息子の嫁から一定額の金銭を支払ってもらえます。遺留分侵害額請求によって、本来の相続税額が申告した税額よりも安くなったときは、更正の請求をして払いすぎた税金を還付してもらえます。
遺留分侵害額請求の期限は、相続の開始および遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知ったときから1年です。ただし、たとえ相続の発生を知らなくても、相続が開始してから10年で遺留分侵害額請求ができる権利は消滅します。
2ー2ー4.遺贈にかかる遺言書が発見された・遺贈が放棄された
遺贈とは、遺言書によって財産を相続人やそれ以外の人におくることです。相続税の申告と納税を済ませたあとに、遺贈をする旨の遺言書が見つかったときや、遺贈されるべき人物が遺贈の放棄したときは、更正の請求の特則に該当するとされています。
3.相続税の更正の請求をする際に必要な書類とは
相続税の更正を請求するためには必要書類をそろえて、税務署に提出しなければなりません。請求の際に必要となる書類は、以下のとおりです。
- 相続税の更正の請求書
- 更正の請求の理由の基礎となる事実を証明する書類
3ー1.相続税の更正の請求書
相続税の更正の請求書に記載する内容は、以下のとおりです。
- 更正の請求をする人の氏名・住所・納税地・個人番号
- 相続税申告書の提出日または更正の請求ができる事由が生じたことを知った日
- 添付書類
- 更正の請求をする理由
- 更正の支給をするに至った事情の詳細 など
参考:申告に係る課税価格、税額等及び更正の請求による課税価格、税額等(相続税)|国税庁
また、更正の請求をする際は、別紙(次葉)に相続税の課税価格や税額などを記載します。なお相続税の更正の請求書と次葉は、相続税の還付を受ける相続人ごとに作成する必要があります。
3ー2.更正の請求の理由の基礎となる事実を証明する書類等
相続税の更正の請求をする際は、請求する理由を説明するための書類も添付しなければなりません。
たとえば、遺産分割協議がまとまらずに法定相続分で申告をし、その後話がまとまって分け方に変更があったときは、遺産分割協議書を添付する必要があります。
また、実務上では「修正申告書」も必ず添付します。相続税の更正の請求書だけでは、どの財産がどのように修正されたのかが分かりにくいです。そこで根拠資料として、修正申告書を添付します。
なお修正申告書はあくまで参考書類として提出するため、署名と押印は必要ありません。
4.相続税の更正の請求をする際の手続きの流れ
相続税の更正の請求をする流れは、以下のとおりです。
- 必要書類を準備
- 必要書類を税務署へ提出
- 「国税還付振込通知書」が届き、還付金が振り込まれる
4ー1.①必要書類を用意
まずは相続税の更正の請求に必要な書類をそろえましょう。相続税の更正の請求書と次葉は、お近くの税務署で入手できるほか、国税庁のホームページからもダウンロードできます。
また、相続税の更正の請求が必要になった事由に応じた「更正の請求の理由の基礎となる事実を証明する書類等」も準備します。必要な添付書類が分からない場合は、税務署に問い合わせて確認すると良いでしょう。
4ー2.②必要書類を税務署へ提出
相続税の更正の請求に必要な書類をそろえたら税務署に提出します。
請求に必要な書類が税務署に届くと、審査が開始されます。審査期間の目安は、2〜3か月程度です。なお審査期間中は、税務署から面談や電話で不明点を確認されることがあります。
審査の結果、請求が認められると「相続税の更正通知書」が送付されます。
4ー3.③「国税還付振込通知書」が届き、還付金が振り込まれる
相続税の更正通知書が届いたあとは「国税還付金振込通知書」が送付されてきます。その後、2週間以内に指定の金融機関口座に還付金が振り込まれます。
5.更正の請求が認められなかった場合の対処法
相続税の更正の請求をしても、必ず認められるとは限りません。審査の結果次第では、更正の請求が認められず税金が還付されないケースもあります。更正の請求が認められなかったときは「更正すべき理由がない旨の通知書」が送付されます。
更正の請求が認められなかったとしても、諦める必要はありません。請求が認められなかったときは、以下の方法で対処が可能であるためです。
- 国税不服申立制度を利用する
- 税務訴訟
5ー1.国税不服申立制度の利用
国税不服申立制度とは、税務署長などが行った処分に不服がある場合に、その処分の取り消し変更を求めて不服を申し立てる制度です。処分を行った税務所長等に再審査を請求できるだけでなく、国税不服審判所長に対して審査請求をすることも可能です。
国税不服審判所長への審査請求は、税務署長等が行った再調査の結果になお納得できないときだけでなく、最初から直接行うこともできます、
不服の申し立てができるのは、更正すべき理由がない旨の通知書を受け取った日の翌日から3か月以内です。税務署長等に対する再調査の結果に納得できない場合は、再調査結果が判明した1か月以内に国税不服審査所長に対して審査請求をしなければなりません。
5ー2.税務訴訟
国税不服審判所長に対する審査を請求しても、なお相続税の更正の請求が認められないときは、裁判所に対して取消訴訟を起こせます。取消訴訟ができるのは、国税不服審判所長の審査結果が分かった日から6か月以内です。
税務訴訟ができる裁判所は、以下のいずれかです。
- 東京地方裁判所
- 課税処分をした税務署長の所在地を管轄する裁判所
- 納税者の住所を管轄する高等裁判所の所在地を管轄する地方裁判所
6.相続税の更正の請求が認められないケース
相続税を本来よりも多く納めたとしても、必ず更正の請求ができるわけではありません。 たとえば「配偶者の税額軽減を適用せずに申告してしまった」「小規模宅地等の特例を適用する土地を間違えた」などの理由では、相続税の更正の請求はできません。配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例は、任意規定であるためです。
相続税の更正の請求が認められるのは、原則として国税に関する法律にしたがっておらず、税額の計算に誤りがあった場合です。つまり、法律にしたがって正しく相続税額が計算できていなかったときに、更正の請求ができます。
配偶者の税額軽減を利用するかどうかや小規模宅地等の特例を適用する土地は、相続人が選択できます。制度を使わずに申告をしたとしても、計算を間違えたわけではないため更正の請求はできないのです。
相続税の申告・納税をする際は「払いすぎたときはあとで還付してもらえば良い」とは考えずに、正しく税額を計算することが大切です。
7.【番外編】相続税を追加で納める場合は「修正申告書」が必要
「財産評価や税額計算に誤りがあった」「あとから遺産が見つかった」などの理由で、相続税を本来の税額よりも少なく申告したことが発覚するケースがあります。納税額が少なくすでに相続税の申告期限(相続開始から10か月)が過ぎている場合は、更正の請求ではなく「修正申告」をして不足額を追加で納めなければなりません。
修正申告をするときは、相続税の修正申告書をはじめとした書類を税務署に提出する必要があります。修正申告書は第1表〜第15表まであり、このうち「第1表 相続税の修正申告書」「第15表 相続財産の種類別価額表(修正申告用)」は提出が必須です。第2表〜第14表については、該当する書類のみを提出します。申告に必要な書類は、国税庁のWebサイトまたは全国の税務署で入手が可能です。
修正申告をする場合は、増加した相続税だけでなく延滞税も納めなければなりません。延滞税の額は、相続税の申告期限から修正申告書を提出した日までの日数に応じて決まります。
ただし「未分割の財産が分割された」「認知、廃除等による相続人の異動があった」など、更正の請求の督促が適用される特殊な事由が生じたときは、修正申告をする日までの延滞税が免除されます。
相続税の修正申告については、下記記事で詳しく解説していますのでご覧ください。
(参考)相続税の修正申告を自分で提出するときの流れ-申告すべき事例もチェック
8.相続税の更正の請求は相続税専門の税理士の相談を!
相続税を本来よりも多く納めてしまった場合は、更正の請求をすると差額を還付してもらえることがあります。更正の請求ができる期限は、原則として相続が開始された日から5年10か月ですが、特段の事由がある場合は事由の発生から4か月となります。
税額が変更になった事由によっては、遺産分割協議からやり直す必要があるため、迅速に対処しなければなりません。また納税額が本来より多かったとしても、必ず還付してもらえるわけではないため、ルールに則って相続税を正しく申告納税することが大切です。更正の請求を検討している方やこれから相続税を納める予定の方は、相続税専門の税理士の力も借りることをおすすめします。
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