遺言書の検認とは?手続きの流れや必要書類・費用を解説

相続発生後に一定の種類の遺言書が残されていた場合、その遺言書について、家庭裁判所で「検認」という手続きを受ける必要があります。
まず遺言書にはいくつかの種類があることを理解した上で、どんな遺言書だと検認が必要になるのか、検認をしないとどうなるのか、検認手続きの進め方や必要書類、費用などを理解しておきましょう。
遺言書の検認が必要なのに検認をおこなわないと、相続手続きがスムーズに進まなかったり、親族間でのトラブルにつながったりする恐れもあるので、十分に注意してください。
この記事の目次
1.遺言書の検認とは
遺言書の検認とは、自宅で保管されていた自筆証書遺言や秘密証書遺言などを、家庭裁判所において、相続人やその代理人の立ち会いのもとで開封して中身を確認する手続きのことです。
検認により、遺言の存在を全相続人に知らせるとともに、遺言の中身が偽造、変造などされていないことが確認されます。
遺言書の検認の義務については、民法で下記のように定められています。
【民法1004条】
遺言書の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければならない。遺言書の保管者がない場合において、相続人が遺言書を発見した後も、同様とする。
2 前項の規定は、公正証書による遺言については、適用しない。
3 封印のある遺言書は、家庭裁判所において相続人又はその代理人の立会いがなければ、開封することができない。
引用元:民法1004条
2.遺言書の種類と検認の要否
遺言には、①自筆証書遺言、②秘密証書遺言、③公正証書遺言の3種類があります。また、令和2年7月からスタートした「自筆証書遺言書保管制度」という制度もあり、各種類、制度により検認の要否が異なります。
具体的には、公正証書遺言と、自筆証書遺言を法務局保管にしている場合は、検認は不要です。それ以外の場合(秘密証書遺言、法務局以外で保管された自筆証書遺言)には、検認が必要です。
以下では3種類の遺言の特徴や違いについて確認します。
2-1.自筆証書遺言
自筆証書遺言とは遺言の全文を被相続人本人が作成し、かつ、公証役場を利用しないで保管する遺言です。遺言は、全文、日付、氏名を自筆(ペンなどでの手書き)で作成しなければなりません。ただし、財産目録だけは自筆以外(パソコンでのプリントなど)で作成してもよいとされます。
2-1-1.自筆証書遺言のメリット、デメリット
自筆証書遺言は、自分だけで作成して自宅でも保管できるため、もっとも手軽に作成できる遺言だといえます。作成費用も、もっとも少なく済みます(自宅での保管なら無料)。
その反面、専門家のアドバイスを受けずに自分だけで自筆証書遺言を作成すると、形式に問題があって遺言そのものが無効になる恐れや、内容に問題があって相続後のトラブルにつながる恐れがあります。実際にも、そういう事態は頻繁に発生しています。
また、自宅で保管している場合は、うっかりして紛失しまったり、災害などにより滅失してしまったりするリスクもあります。
さらに、相続発生後には遺言書の検認を受けなければならない点も、相続人にとっては手間と時間がかかるデメリットです。
2-1-2.自筆証書遺言を遺すなら、法務局保管制度の利用を検討したい
自筆証書遺言のデメリットのいくつかを解消できるのが、令和2年7月からスタートしている法務局での「自筆証書遺言書保管制度」です。この制度を使うと、遺言書を預ける際に形式をチェックしてもらえるので、形式不備で無効になるリスクが基本的にありません。(内容はチェックされないため、内容上の問題は残る恐れがあります)。
また、相続発生後の検認も不要になります。もちろん、紛失などのリスクもありません。
保管申請時には3,900円がかかりますが、自筆証書遺言のデメリットの多くが解消できるため、自筆証書遺言を遺したいのであれば、利用を検討したいところです。
参考:自筆証書遺言書の作成から使用に至るまで、知っておくべき4つのこと
2-2.秘密証書遺言
秘密証書遺言とは、遺言内容を秘密にした上で、遺言書の存在のみを公証役場で証明してもらう遺言です。具体的には、作成した遺言書を封印して公証役場に持参し、公証人と証人の前に提出して、遺言書の存在を公証してもらいます。
2-2-1.秘密証書遺言のメリット
自筆証書遺言では、遺言書の存在自体が一部の相続人にしか知られず、そのために改ざんの可能性が疑われる、あるいは、被相続人がわかりにくい場所に保管してしまった場合など、相続人全員がその存在に気がつかないという事態もありえます。秘密証書遺言では、そういった事態を防げることがメリットです。
また、自筆証書遺言とちがって、パソコンで遺言文面を作成できることもメリットです。
さらに、公正証書遺言と異なり、公証人や証人に遺言の内容を知られないことがメリットと感じられる場合もあるでしょう。
2-2-2.秘密証書遺言のデメリット
一方、上記以外の点では、自筆証書遺言と同様のデメリットがあります。専門家から形式面、内容面でのチェックを受けなければ、遺言が無効になったり、相続トラブルの元となる不備な遺言を遺してしまう恐れがあります。また、紛失や滅失の恐れがある点、検認の手間が必要になる点なども自筆証書遺言と同様です。
さらに、公証役場に支払う手数料11,000円が必要で、自筆証書遺言に比べると費用がかかります。
メリットが少ない割にはデメリットが多いため、秘密証書遺言はあまり利用されていないのが現実です。
参考:秘密証書遺言とは?メリット・デメリットや作成方法を解説します
2-3.公正証書遺言
公正証書遺言は、遺言者が遺言内容を口述で公証人に伝え、その内容をもとに公証人が遺言書を作成し、公証役場に保管される遺言です。その際、遺言者と公証人以外に、2名の証人が必要になります。
なお、公正証書遺言は、公証役場に出向いて作成することが基本ですが、公証人に出張してもらうこともできます。遺言者が病気などで公証役場に出向けない場合でも公証人に自宅や病院に来てもらうことで公正証書遺言の作成は可能です(作成費用とは別に日当の支払いが必要です)。
2-3-1.公正証書遺言のメリット
公正証書遺言は、公証人が遺言書を作成することから、形式不備で無効になるリスクはほぼありません。また、内容的にもアドバイスを受けながら作成できるため大きなトラブルにつながる問題が残る恐れは少なくなります。
遺言の原本は公証役場で保管される(写しはもらえます)ため、紛失や偽造のリスクもありません。
また、遺言者が口頭で遺言内容を伝えて作成してもらうので、なんらかの事情により文字が書けない状態の人でも遺言を作成できます。(自筆証書遺言は自筆が条件なので、文字が書けない人は作成できません)。
さらに、公正証書遺言は検認が不要なので、相続人が検認手続きを取る手間も省けます。
2-3-2.公正証書遺言のデメリット
公正証書遺言のデメリットとしては、作成に際して公証人手数料がかかることが挙げられます。手数料は、遺産金額に応じて、数万円から数十万円です。
遺言は、一度作ればおしまいというものではなく、財産の増減や親族(相続人)の変化に応じて、その都度作成し直すことが普通です。中には、毎年書き換える人もいます。
こういった場合は、公正証書遺言を作成する手間や費用も、バカにならなくなるでしょう。
また、公証人以外に2名の証人が必要であり、その証人(多くの場合は相続人)に、遺言の内容を知られることが、場合によってはデメリットになりえます。自分が死ぬまで相続人には遺言の内容を知られたくない、という場合には公正証書遺言の利用はしにくいでしょう。
【遺言の種類】
自筆証書遺言 | 秘密証書遺言 | 公正証書遺言 | |
---|---|---|---|
作成する人 | 本人 | 本人(代筆でも可) | 公証人 |
筆記の方法 | 自筆(財産目録は自筆以外でも可) | 署名以外はパソコン・ワープロも可 | (公証人が作成) |
証人 | 不要 | 2名必要 | 2名必要 |
秘密にできるかどうか | 遺言の存在と内容を秘密にできる(法務局で保管する場合は、法務局職員に内容を見られる) | 遺言の内容だけ秘密にできる | 遺言の内容を公証人・証人に知られる |
偽造・改ざんの恐れ | あり | 極めて低い | なし |
形式不備により遺言が無効となるリスク | あり(法務局保管の場合、極めて低い) | あり | 極めて低い |
保管場所・方法 | 自身で自宅・貸金庫などに保管。法務局での保管(自筆証書遺言書保管制度)も可能 | 自身で自宅・貸金庫などに保管 | 原本は公証役場で保管。正本、謄本は自身で保管 |
相続発生後の検認の必要 | 必要あり(法務局で保管していた場合は必要なし) | 必要あり | 必要なし |
作成の費用 | 基本的に不要。自筆証書遺言書保管制度を利用する場合、3,900円 | 公証人手数料として一律11,000円 | 財産の金額に応じて公証人手数料がかかる(数万円~十数万円) |
3.遺言書の検認が必要な理由と検認の目的
自筆証書遺言や秘密証書遺言の場合、どうして検認という手続きが必要とされているのでしょうか? その理由として次の2点が挙げられます。
- ①相続人に対して遺言の存在およびその内容を知らせる
- ②遺言書の内容を明確にして、偽造や変造、破棄を防止する
遺言書が残されている場合、相続開始後に遺言書の存在とその内容を、すべての相続人に対して知らせる必要があります。しかし、もし遺言書を見つけた人や保管していた人が隠してしまうと、他の相続人に知らせることができません。そのため、遺言書の発見者や保管者には法律で検認の手続きが義務付けられているのです。
また、遺言書の発見者や保管者が、検認の手続をせずに勝手に開封することを認めてしまうと、変造、偽造などがあっても、わからなくなってしまいます。
そこで、検認前に遺言書を開封することを法律で禁止し、遺言書の裁判所への提出を義務付けて、裁判所で形状や加除訂正の状態、日付、署名などを確認することで、遺言書の偽造、変造を防ぐ仕組みになっています。
一方、公正証書遺言や法務局保管の自筆証書遺言の場合は、偽造、変造の可能性がないため検認は不要とされているのです。
4.遺言書の検認手続きの流れ
検認の手続きは、必要書類の準備、裁判所への申し立て、検認の実施の順で進められます。一般的な手続きの流れは次の通りです。以下、順に説明していきます。
4-1.相続人調査、必要書類の準備
相続人調査とは、相続人が誰なのかを調査して確定させる手続きです。そのために、故人の出生から死亡までの期間の連続した戸籍謄本を取得し、それを読み解いて相続人を確認します。
具体的な方法は次の記事で詳しく解説しているので、あわせて参考にしてください。
被相続人が、結婚や転籍で本籍地が変わっている場合は、変更前の本籍地の市区町村役場に出向いて戸籍謄本を取得しなければなりません。さらに、集めた戸籍謄本を読み解いて相続人を確定し、さらに、相続人全員の戸籍謄本も取得する必要があります。
これは、ご家族の状況にもよりますが、かなりの手間と時間がかかる作業です。
これらの作業時間がない方や、戸籍謄本の読み解きが心配な方は、相続人調査や必要書類の取得を司法書士などの専門家に依頼したほうがよいでしょう。
なお、必要な書類の一覧は、後でまとめて説明します。
4-2.検認の申し立て
必要な書類が揃ったら、遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に提出して、検認を申し立てます。申し立ては、裁判所の窓口に書類を持参しても、郵送でも、どちらでも可能です。
なお、管轄の裁判所は、以下のWebサイトで調べられます。
裁判所|裁判所の管轄区域
また、申立人は、通常、次のどちらかになります。
- 遺言書を保管していた人
- 遺言書を発見した相続人
4-3.検認期日の通知、出欠の回答
提出した書類に不備がなければ、検認をおこなう日程を調整するため、裁判所から申立人に連絡があります。日程が決まるとその期日が記載された通知書と出欠回答書が相続人全員に郵送されるので、相続人は出欠を回答します。申立人以外の相続人は欠席もできますが、申立人は必ず出席しなければなりません。
4-4.検認の実施、検認済証明書付き遺言書の返却
検認当日、申立人は遺言書や印鑑を家庭裁判所に持参します。具体的な持参物については裁判所からの指示に従ってください。
申立人が未開封の遺言書を家庭裁判所に提出し、相続人やその代理人の立ち会いのもとで裁判官が開封し、検認がおこなわれます。検認自体にかかる時間は5分から10分程度です。
検認終了後、「検認済証明書」を申請して、証明書付きの遺言書を受け取れば手続きは完了です。
通常、検認済証明書がないと、金融機関などでの遺産分割の実務手続きができないので、非常に重要な書類です。
5.遺言書の検認に必要な書類、費用
遺言書の検認手続きに必要な書類は、以下の2種類があります。
①裁判所が用意している申立書(「家事審判申立書」「当事者目録」)
②添付書類
5-1.必要書類
①については、裁判所のWebサイトからダウンロードできます。記入例も用意されていますので、確認の上記載しましょう。
②については、相続が開始したときの親族状況などによって必要書類が変わるので、ご自身のケースで必要になる書類をよく確認してください。
【共通して必要になる書類】 |
---|
|
【相続人が遺言者の(配偶者と)父母・祖父母等(直系尊属)の場合】 |
|
【相続人が不存在の場合、遺言者の配偶者のみの場合、遺言者の(配偶者と)兄弟姉妹及びその代襲者の場合】 |
|
5-2.必要な費用
検認の手続きにかかる費用は以下の通りです。
6.遺言書の検認に必要な期間と期限
家庭裁判所に検認を申し立ててから、手続きが終了するまで、通常は1か月程度です。ただし、裁判所が混雑して時期には2か月以上かかる場合もあります。
一方、検認の手続きをいつまでにおこなわなければならないという期限は、法律で定められていません。
しかし、相続放棄の申述期限(3か月)や相続税の申告期限(10か月)に注意が必要です。これらの手続きに際しては、遺言の内容を確認しておくことが必要となるため、検認が終わらないと正しく手続きできない恐れがあります。
「遺言書に借金の存在が記載されていたが、3か月を過ぎて相続放棄できず借金を相続してしまった」「相続税の申告期限を過ぎたことで延滞税がかかった」といったことも起こり得ます。
上記を踏まえ、検認手続きは、相続発生後なるべくすみやかにおこなうことが望ましいでしょう。
7.遺言書の検認をおこなう際の注意点
遺言書の検認では、注意すべき点がいくつかあります。これらの点を知らないままで相続を進めると、思わぬ不利益を被ることがあるので、気をつけてください。
7-1.遺言書の有効・無効を判断するわけではない
検認は家庭裁判所でおこなわれますが、裁判所でおこなう手続きと聞くと、遺言書の内容の法的な有効性を判断する手続きのように勘違いされる方がいます。
しかし、検認は、遺言書の内容が法的に正しいかどうかを判断するための手続ではありません。あくまでその存在を相続人に知らせ、偽造、変造などがないことを確認するだけの目的で実施されます。もし、遺言書の内容で法的におかしいと感じる点があれば、検認とは別に、法的な確認手続きを取る必要があります。
7-2.検認しないと相続手続き(遺産分割手続き)ができない
自筆証書遺言などが遺されていた場合、検認をしないと遺言書を開封できないので、当然ながら相続手続きを進めることができません。
また、もし検認をしないまま、自筆証書遺言を開封し、その遺言書を金融機関に持参して、この通りに遺産を分割してほしいといっても、金融機関は受け付けてくれません。自筆証書遺言などの場合、検認を終了させて「検認済証明書」が発行された遺言書しか金融機関では受け付けてくれないのです。遺産分割の実務上も、すみやかな検認が必要です。
7-3.遺言書を勝手に開封すると罰則が科される
自筆証書遺言などを発見した相続人が、検認を経ないで勝手に遺言書を開封してしまうと、
5万円以下の過料を科される可能性があります。また、他の相続人から遺言書の変造を疑われるなどして、相続トラブルに結びつく可能性もあります。
ただし、前述の通り、検認の有無は遺言書の有効・無効とは関係ないので、検認前に誤って開封しても遺言書自体が無効になるわけではありません。もし誤って開封してしまった場合でも、すぐに他の相続人に相談して、検認の手続きをおこなえばトラブルは防げるでしょう。
7-4.検認の場には、申立人は出席する必要がある
申立人は検認がおこなわれる日には、必ず家庭裁判所に出席する必要があります。検認日を決めるための電話連絡が裁判所から入った際には、注意して日程を定めましょう。
なお検認の手続きができるのは裁判所の開庁日である平日だけです。土日祝日に検認の手続きをすることはできません。
また検認の手続きを自分だけでするのが不安であれば、弁護士を代理人に立てて、検認日当日に同席してもらうこともできます。検認に同席できる代理人は弁護士だけであり、行政書士や司法書士、税理士といった他の士業者は同席できません。
7-5.相続人全員が出席する必要はない
申立人以外の相続人は、検認の日に出席しても欠席してもよく、欠席者がいても検認の手続きはおこなわれます。欠席しても不利益が生じることは特にありません。欠席する場合は、事前に届く出欠回答書に欠席する旨を記入して返送しましょう。
7-6.欠席者には後ほど通知される
検認日当日に欠席した場合、検認が終了した旨の通知が後日届きます。また検認時に確認された内容は遺言書検認調書の謄本を発行申請して入手すれば確認できます。
8.遺言書の取扱いや相続手続きで困った場合は専門家に相談を
相続後の慌ただしい時期に、自宅で遺言書が発見されると、ついあわてて開封したくなるものです。しかし、検認前の遺言書の開封はトラブル要因となることをしっかり覚えておき、すみやかに検認の準備を進めましょう。
とはいえ、必要書類の準備、裁判所への申し立てなど、やったことのない手続きに戸惑いを覚える方も多いでしょう。
そういった手続きを、信頼できる専門家にまかせることができれば非常に心強いものです。
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