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秘密証書遺言とは?メリット・デメリットや作成方法を解説します

秘密証書遺言作成のメリット・デメリット

秘密証書遺言とは?メリット・デメリットや作成方法を解説します

遺言書は、多くの場合自筆証書遺言や公正証書遺言として作成されます。しかし、通常作成される遺言書にはもう1つ、秘密証書遺言があります。

秘密証書遺言は、遺言の内容を秘密にしておくことができ、必ずしも自筆で書く必要がないという特徴があります。一方、公証役場での認証の手間がかかるほか、自身で保管するため紛失の可能性もあります。

ここでは、秘密証書遺言のメリット・デメリットを解説し、作成する場合の注意点や遺族が見つけたときの注意点もご紹介します。

なお、秘密証書遺言は他の種類の遺言に比べてあまりメリットがないため、実際に作成されるのはごくまれなケースです。

この記事の目次 [表示]

1.秘密証書遺言とは?

秘密証書遺言は、民法で定められる遺言書の方式の一つで、内容を秘密にしたうえで存在のみを公証役場で証明してもらいます

通常作成される遺言書には、秘密証書遺言のほか、自筆で書く自筆証書遺言と、公証人に作成してもらう公正証書遺言があります。

内容を秘密にできるという点では、秘密証書遺言と自筆証書遺言に大きな違いはありません。しかし、秘密証書遺言は、公正証書遺言のメリットである「偽造・改ざんを防止できる」という性質もあわせ持っています。

つまり、秘密証書遺言は、自筆証書遺言と公正証書遺言の中間的な性質の遺言書であるといってよいでしょう。

自筆証書遺言・公正証書遺言については、下記の記事をご覧ください。

(参考)
自筆証書遺言書の作成から使用に至るまで、知っておくべき4つのこと
公正証書遺言とは?作り方・費用・必要書類を紹介

2.秘密証書遺言のメリット・デメリット

続いて、秘密証書遺言のメリットとデメリットをご紹介します。

2-1.秘密証書遺言のメリット

秘密証書遺言のメリットは、主に以下の3つがあげられます。

秘密証書遺言作成のメリット・デメリット

メリット1.遺言執行まで内容を知られることがない

秘密証書遺言は、遺言者(遺言書を作成した人)が亡くなって遺言が執行されるまで、他の人に内容を知られることがありません。

公証役場で公証人の認証を受けますが、封をしたまま提出し、公証人による内容の確認は行われません。

メリット2.パソコン・ワープロでの作成も可能

自分で遺言書を作成する場合は、自筆証書遺言か秘密証書遺言のいずれかで作成します。

自筆証書遺言は、原則としてすべて自筆で書く必要がありますが、秘密証書遺言はパソコン・ワープロで作成することもできます(ただし、署名は自筆で書く必要があります)。

他の人に代筆してもらうことも可能ですが、その場合は遺言の内容を知られることになるので注意が必要です。

【できれば自筆で書くほうがよい】

秘密証書遺言はパソコン・ワープロや代筆で作成することもできますが、自分で文字を書くことができるのであれば自筆で書いておくことをおすすめします

万が一、秘密証書遺言として不備があった場合でも、自筆で書かれていて自筆証書遺言の方式が備わっていれば、自筆証書遺言としては有効になります(民法第971条)。

秘密証書遺言作成のメリット・デメリット

メリット3.偽造や改ざんなどを防止できる

秘密証書遺言は作成後に自分で封をして、公証人の認証を受けます。そのため、公正証書遺言と同様に、偽造や改ざんなどを防ぐことができます

2-2.秘密証書遺言のデメリット

秘密証書遺言のデメリットは、主に以下の5つがあげられます。

デメリット1.費用がかかる

秘密証書遺言の作成では、公証役場に11,000円の手数料を支払う必要があります。

公正証書遺言の作成に比べると費用は抑えられますが、自筆証書遺言よりは費用がかかることになります。

デメリット2.手続きの手間と証人2名が必要

秘密証書遺言の作成では、公証役場で遺言が本人のものであることを認証してもらう手続きをする必要があります。

また、認証にあたっては証人が2名必要です。

【証人になることができる人】

秘密証書遺言の証人になることができる人は、以下のいずれにもあてはまらない人です(民法第974条)。

  • 未成年者
  • 相続人になる予定の人や遺言で遺産を与えられる人
  • 上記の人の配偶者、直系血族
  • 公証人の配偶者や4親等以内の親族、書記、使用人

証人は遺産相続に関係のない親族や知人などに依頼するか、公証役場に頼んで手配してもらうとよいでしょう。

デメリット3.保管は自身で行うので紛失する可能性がある

秘密証書遺言は公証役場で認証されますが、その後は自身で保管しなければなりません

したがって、誰も保管場所を知らずに遺言書を見つけてもらえず、結果として紛失と同じことになる恐れがあります。

なお、公正証書遺言は公証役場で保管され、自筆証書遺言は希望すれば法務局で保管してもらえるなど、他の種類の遺言は紛失の可能性が低くなっています。

デメリット4.無効になる恐れがある

遺言の内容が不明瞭であったり記載方法に誤りがあったりすると、遺言書が無効になる恐れがあります。

秘密証書遺言は封をした状態で公証人に提出するため、公証人による内容の確認は行われません。これはメリットの一つとしてご紹介しましたが、内容や記載方法に誤りがあっても見つけてもらえないという意味では、デメリットといってよいでしょう

デメリット5.相続発生時に検認が必要

秘密証書遺言は、遺言者が死亡して相続が発生したときに、家庭裁判所で検認を受ける必要があります。通常、検認には1か月以上かかります。

公正証書遺言や法務局で保管した自筆証書遺言は検認が不要であることと比べると、相続人の負担は増えてしまいます。

3.秘密証書遺言と他の遺言の違い

秘密証書遺言、自筆証書遺言、公正証書遺言には、それぞれ異なる特徴があります。

遺言の種類ごとの違いをまとめると、下の表のようになります。
他の種類の遺言と比較すると、秘密証書遺言にはあまりメリットがないことがわかります。

 秘密証書遺言自筆証書遺言公正証書遺言
作成する人本人(代筆でも可)本人公証人
筆記の方法署名以外はパソコン・ワープロも可自筆
(財産目録は自筆以外でも可)
(公証人が作成)
証人2名必要不要2名必要
秘密にできるかどうか遺言の内容だけ秘密にできる遺言の存在と内容を秘密にできる
(法務局で保管する場合は法務局職員に内容を見られる)
遺言の内容を公証人・証人に知られる
偽造・改ざんの恐れ極めて低いありなし
無効になる可能性ありあり極めて低い
保管方法自身で自宅・貸金庫などに保管自身で自宅・貸金庫などに保管
法務局で保管することも可能
原本は公証役場で保管
正本、謄本は自身で保管
相続発生後の検認必要必要
(法務局で保管していたものは不要)
不要
作成の費用公証人手数料
一律11,000円
ほとんどかからない財産の金額に応じて公証人手数料がかかる
(数万円~十数万円)

自筆証書遺言・公正証書遺言の特徴については、下記の記事もご覧ください。

(参考)
自筆証書遺言書の作成から使用に至るまで、知っておくべき4つのこと
公正証書遺言とは?作り方・費用・必要書類を紹介

自筆証書遺言も自身で保管するため紛失する心配がありましたが、令和2年7月10日から法務局で保管することができるようになりました。
法務局で保管していた自筆証書遺言は相続発生後に検認を受ける必要がなく、利便性が向上しています。

(参考)自筆証書遺言の保管制度を新設~遺言書作成のルールも緩和

4.秘密証書遺言の作成が向いている人

秘密証書遺言の特徴は他の種類の遺言と共通するものが多く、あえて秘密証書遺言を作成する必要はないといってよいでしょう。実際に作成される事例も少なく、積極的におすすめすることはできません。

どうしても秘密証書遺言の作成が向いている人をあげるとすれば、「文字が書けなくて、遺言の内容を誰にも知られたくなく、作成の費用もかけたくない」といった場合でしょう。

文字が書けない場合は公正証書遺言を作成することが多いですが、遺産の額に応じて手数料がかかるので作成費用が高額になります。また、公証人と証人2人の少なくとも3人に遺言の内容を知られてしまいます(ただし、公証人と証人には守秘義務があります)。

秘密証書遺言の作成手数料は一律11,000円であり、作成費用を比較的安く済ませることができます。また、封をした状態で公証人に提出するため、内容を知られることはありません。

5.秘密証書遺言の作成方法

次に、秘密証書遺言を作成する場合の手順をご紹介します。

秘密証書遺言作成のメリット・デメリット

手順1.遺言内容を書く

自分で用意した紙に遺言内容を書きます。使用する紙やペンに決まりはありません。手書きでもパソコン・ワープロを使用しても構いません。

ただし、署名だけは自筆で行う必要があります。署名のほか押印も必要です(民法第970条第1項第1号)。

手順2.封筒に入れて封をして押印する

遺言内容を書いた紙を封筒に入れ、封をします。

封をした部分には、遺言書に押したものと同じ印鑑で押印します(民法第970条第1項第2号)。
遺言書と異なる印鑑で押印すると無効になってしまいます。

手順3.公証役場に持っていく

封をした遺言書を、最寄りの公証役場に持っていきます。
公証役場では、遺言書を公証人と証人の前に提出し、その遺言書が本人のものであることと住所氏名を申述します(民法第970条第1項第3号)。

すでに封をした状態で公証役場に持っていくため、公証人や証人に内容を見られることはありません。

手順4.封筒に署名捺印をする

次に、公証人は遺言書の封筒に、提出した日付、遺言を書いた人の申述を記入します。そこへ、遺言者、証人2人が署名・押印します(民法第970条第1項第4号)。
これにより秘密証書遺言としての効果が生じます。

秘密証書遺言は公証役場では保管されないため、自身で保管する必要があります。

なお、公証役場には秘密証書遺言を作成した記録が残り、相続人は秘密証書遺言の有無を検索することができます。

6.秘密証書遺言を作成するときの注意点

秘密証書遺言は、内容を他の人に知られることがない反面、遺言の内容や書き方に不備があっても気付かれず、遺言自体が無効になる可能性があります。

ここでは、遺言の内容が確実に実行されるように、作成や保管で注意したいポイントをご紹介します。

6-1.正しい用語で記載する

遺言書を書くときは、正しい用語を使うことが求められます。

遺産を与える場合は、法定相続人となる人に対しては「相続させる」と記載します。
一方、法定相続人以外の人に対しては「遺贈する」と記載します。

法定相続人に「遺贈する」と記載しても無効にはなりませんが、不動産の相続登記を相続人全員で申請しなければならないなど不利になることがあります。

6-2.誰に何を与えるか正確に記載する

遺言書では、誰に何を与えるかを正確に記載する必要があります。すべての財産について記載しておくことで、相続争いを防ぐことができます。

また、与える財産の内容は、具体的に記載しなければなりません。
「預金は妻に相続させる」としか記載していなければ、複数の預金口座があった場合に財産を特定することができません。

財産を指定するときは、以下の内容をもれなく記載しましょう

  • 預金:銀行名、支店名、口座種別、口座番号
  • 不動産:登記簿に記載されている内容(所在、面積など)
  • 株式等:銘柄、株数(口数)など

借入金がある場合は、借入金の負担者となる人も指定しておきましょう。

6-3.遺言執行者を決めておく

遺言の内容を確実に実行してもらうためには、遺言で遺言執行者を定めておきましょう。
遺言執行者は単独で相続手続きを行うことができ、遺産相続がスムーズに進められます

遺言執行者を指定するには、遺言書にその人の氏名と住所を記載します。

ただし、遺言書を開封したときにはじめて遺言執行者がわかるようでは、指名された人は驚いてしまうでしょう。遺言執行者になることを断られるかもしれません。
差し支えなければ、遺言執行者になってもらう人には事前に連絡しておくことをおすすめします。

遺言執行者の役割や遺言執行者になれる人について詳しい解説は、下記の記事をご覧ください。

(参考)遺言執行者は必要か?遺言執行者の選任・解任方法と報酬について

6-4.加除訂正方法を理解しておく

秘密証書遺言の記載を間違えたときの加除訂正は、民法で定められた方法でしなければなりません(民法第970条第2項)。
具体的には、加除訂正する場所を示して、遺言の内容を変更した旨を記載します。そのうえで署名し、加除訂正した場所に押印します。

このように加除訂正の方法は細かく指定されているため、漏れや誤りがあった場合は新しく作成し直すことをおすすめします。定められた方法で加除訂正されていなければ、その加除訂正はなかったことになります。

下記の記事では、自筆証書遺言の加除訂正について解説しています。秘密証書遺言の加除訂正も方法は同じなので参考にしてください。

(参考)自筆証書遺言をパソコンで作る方法|有効にするための財産目録ひな形付き

6-5.保管場所にも注意が必要

秘密証書遺言は自分で保管しなければならず、紛失の恐れがあります。亡くなったときに見つけてもらえなければ、遺言書を書いた意味がなくなってしまいます。

遺言書の保管場所を誰も知らなかったということにならないように、弁護士や遺言執行者に預けるか、銀行の貸金庫を利用するなどといった対策が必要です。

6-6.遺言書を書いた理由や感謝の気持ちも書いておく

遺言書には「付言事項」として、遺産相続に直接関係のないことを書くことができます。
遺言書を書いた理由や葬儀の方法、亡くなったことを知らせて欲しい人、家族への感謝の気持ちなどを書いておくとよいでしょう。

付言事項は必ず書かなければならないものではありませんが、こういった記載があると遺産相続が円滑に進むことが多いです。

7.秘密証書遺言を発見したときの注意点

亡くなった人が秘密証書遺言を残していた場合は、家庭裁判所で検認の手続きを行う必要があります(民法第1004条第1項)。
検認を受けていない秘密証書遺言は、預金の引き出しや相続登記などの相続手続きで使うことができません。

(参考)遺言書の検認手続きの流れ、さらに手続きを怠るとどうなる!?

7-1.見つけたら開封していい?

遺族が秘密証書遺言を見つけても、すぐに開封してはいけません

封印がされている遺言書は、家庭裁判所で相続人や代理人の立ち合いがなければ開封することができません(民法第1004条第3項)。

秘密証書遺言を見つけた場合は、遺言者の最後の住所地の家庭裁判所に持ち込んで検認の手続きをしましょう。

7-2.検認に必要な書類

遺言書の検認手続きには、以下の書類等が必要です。

  • 遺言書
  • 遺言書の検認の申立書(800円分の収入印紙を貼付)
  • 遺言者の出生から死亡までの戸籍謄本(除籍謄本、改製原戸籍謄本)
  • 相続人全員の戸籍謄本
  • 連絡用の郵便切手

このほか遺言者と相続人の関係によって、追加で戸籍謄本が必要な場合があります。

7-3.検認を行わないと罰せられる?

遺言書の検認を受けずに遺言を執行した場合や、家庭裁判所以外の場所で開封した場合は、5万円以下の過料が科されることがあります(民法第1005条)。ただし、これによって遺言自体が無効になるわけではありません。

また、遺言書の偽造や変造、破棄、隠匿などを行った人は、相続欠格となり相続人の権利を失います(民法第891条第5号)。

秘密証書遺言を見つけたときは、必ず家庭裁判所で検認を受けるようにしましょう。

8.まとめ

ここまで、秘密証書遺言のメリット・デメリットや、作成時、発見時の注意点をご紹介しました。

秘密証書遺言は、手間がかかる割には確実ではなく、あまりメリットはありません。
自筆証書遺言や公正証書遺言とメリット・デメリットなどを比較して、それでも秘密証書遺言を作成したい場合は、この記事でご紹介した作成方法を参考にしてください。

相続問題に強い弁護士や司法書士に相談すると、内容に不備のない遺言書が作成できるほか、死亡した後の遺言の執行も任せることができて安心です。

この記事を掲載している相続税専門の税理士法人チェスターは、法律事務所や司法書士法人と提携して、遺言書に関するあらゆるご相談を承っております。お気軽にお問い合わせください。

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