借地権を相続放棄する手順と費用を解説 | メリットとデメリットも紹介
借地権の相続放棄は家庭裁判所に申述する書類を用意するため、一般的に手続完了まで1ヶ月ほどかかります。借地権相続放棄のメリットは、建物の維持管理や税金の支払いが不要になることです。
しかし、地主との交渉に失敗して手続が難航したり、親の財産を受け継げなかったりするようなデメリットもあります。状況に応じて相続放棄以外の手段もチェックしながら、目的に合った最適な手段を確認しましょう。
借地権は2種類の権利(賃借権と地上権)に分けられます。地上権はトンネル設備や太陽光発電パネルの設置など採用する目的が限定的なため、今回は賃借権を相続放棄するケースについて事例とともに解説します。
この記事の目次 [表示]
1.借地権相続放棄とは-すべての権利を放棄すること
借地権を相続放棄する行為は、借地権だけでなくすべての権利を失うことにつながります。借地権だけを相続放棄することは不可能であるため注意しましょう。
借地権とは、地主が所有している土地を借りて、家を建てて住んだり店舗を構えたりできる権利を指します。借地権には2種類の権利(賃借権と地上権)があり、個人の契約では賃借権を採用するケースが一般的です。
たとえば借りた土地に建てた家に住んでいた親が亡くなり、子どもが借地権を相続するとします。親の借地権を相続した子どもは、住んでもいない土地の地代を支払わなければなりません。また、家を解体したり売却したりするためには、地主の承諾を得る必要があります。
このような手間を考えた場合、借地権だけを相続放棄したくなることもあるでしょう。しかし相続放棄を行った場合、借金のようなマイナスの財産を受け継がなくて済みますが、金融資産や不動産といったプラスの財産も受け継げません。
借地権の相続放棄はプラスマイナスを問わず、すべての財産を放棄することであると認識しましょう。
2.借地権を相続放棄するための実際の手順と方法
借地権を相続放棄するためには、家庭裁判所への申立て手続が必要です。相続放棄手続では、以下のポイントに注意しましょう。
相続放棄手続のポイント
- 家庭裁判所に申述する添付書類を用意する
- 書類提出後は審査があり受理まで1ヶ月ほどかかる
相続放棄はいつでもできるわけではありません。民法915条1項によると、相続放棄できるのは「自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内」と決められています。
2-1.家庭裁判所に申述する添付書類を用意
相続放棄の手続には、必要書類の準備と家庭裁判所への申述が必要です。故人(被相続人)が最後に住んでいた住所地を管轄する家庭裁判所へ申立てしましょう。
相続放棄の申述に必要な書類
- 被相続人の「住民票の除票」(または戸籍附票)
- 申述する人の「戸籍謄本」
- 被相続人の「死亡の記載がある戸籍謄本」(配偶者や子が相続放棄する場合)
上記以外に相続人と被相続人の間柄によって、追加で書類が必要となる場合もあります。その場合は、家庭裁判所からの連絡を受けてから提出すれば問題ありません。
家庭裁判所に提出した書類は、原則として原本還付申請を行うことで返還してもらえます。必要に応じてコピーを保管しておくとよいでしょう。
相続放棄の申述には、必要書類にあわせて800円の手数料が必要です。申述書に800円分の収入印紙を貼付しましょう。また手数料とは別に、数百円分の切手も必要です。切手料金は管轄の家庭裁判所により異なるため、事前に確認しておきましょう。
2-2.提出後は審査が進み1ヶ月ほどで受理される
相続放棄の申述後、家庭裁判所から約2週間で照会書が届きます。照会書にはいくつかの質問事項があるので、回答を記入して家庭裁判所へ返送しましょう。
家庭裁判所は照会書の回答内容を参考に、申述を受理すべきかどうか判断します。そのため、うっかり放置して回答と返送を忘れないよう注意してください。
照会書の一般的な質問事項
- 相続の開始を知った日はいつか
- 申立てをしたのは相続人本人か
- 相続放棄の理由はなぜか
- 被相続人の財産を処分していないか
- 相続放棄の意思は変わっていないか
相続放棄の審査は長い場合で2ヶ月程度かかるため、早めの準備を心がけましょう。相続放棄の手続がすべて完了すると、家庭裁判所から「相続放棄申述受理通知書」が届きます。
また被相続人に借金がある場合は、貸主から相続人に相続放棄申述受理証明書を要求するケースもあります。その場合は、相続放棄申述受理通知書に同封の交付申請書を記入して、手数料150円を添えて家庭裁判所へ申請しましょう。
3.借地権を相続放棄したときの4つのメリット
借地権を相続放棄すると、下記のようなメリットがあります。
借地権相続放棄のメリット4つ
- 地代を払い続ける必要がない
- 更新料を支払う必要がない
- 不要な建物の解体費用を用意する必要がない
- 相続税がかからない
借地権の相続放棄を考えている場合は、自分にとってメリットがあるかどうかを考えてみましょう。
3-1.地代を払い続ける必要がない
借地権を相続放棄すれば、地主に対して地代を払い続ける必要がなくなります。相続放棄してしまえば、該当する土地の借地権者ではなくなるからです。
仮に借地権を相続放棄しない場合は、故人と地主が地代の支払いについて契約した内容に従う必要があります。たとえば故人の借地権が定期借地権契約の場合は、存続期間が終了するまで地代の支払いが必要です。
このような場合に借地権を相続放棄することで、契約期間にかかわらず不要な支払い義務を拒否できます。
3-2.更新料を支払う必要がない
借地権を相続放棄すれば、地主から更新料の支払いを求められても拒否できます。地代の支払いと同様に、相続放棄することで該当する土地の借地権者ではなくなるからです。
たとえば故人が借地権契約を締結した際に、地主との間で「借地権の相続人は更新料を支払うこと」といった内容が含まれていたとします。この場合は契約により、地主からの更新料支払い請求に応じなければなりません。
しかし借地権の相続を放棄すれば相続人ではなくなるため、地主から更新料の支払いを請求されても応じる義務がなくなります。
3-3.不要な建物の解体費用を用意する必要がない
借地上の建物を解体するための費用は、借地権を相続放棄することで不要になります。借地権を相続放棄することにより、借地の建物を管理する義務が失われるからです。
借地権を相続放棄した場合でも、更地にしてから土地を地主に返す必要があると不安に思う人もいます。しかし基本的には借地権や土地上の建物に対する権利を失うので、更地にして地主に返す義務が発生しません。
不用意に建物へ手を加えてしまうと、故人の遺した財産を相続するものとみなされてしまいます。借地権を相続放棄することで、建物の解体費用が不要になるといったメリットも得られます。
3-4.相続税がかからない
借地権を相続放棄すれば、相続税を払う必要がなくなります。借地権は、相続税の課税対象となる権利です。一般的に借地権の相続税額は、借地の評価額に借地権割合を掛けた金額(借地権の評価額)をもとに算出します。
路線価や周囲の環境により変動する借地の評価額は、状況次第で高額になる場合もあります。しかし相続放棄により相続人ではなくなった場合、相続税の支払い義務は発生しません。
4.借地権を相続放棄したときの2つのデメリット
借地権を相続放棄した場合のデメリットとして、下記の2点が挙げられます。
借地権相続放棄のデメリット2つ
- 借地権だけでなくプラスの財産も放棄する必要がある
- 他の相続人とトラブルになる可能性がある
借地権を相続したくないからといってすぐに相続放棄してしまうと、思わぬデメリットにつながる可能性があります。相続放棄することでどのような影響があるかを、事前にシミュレーションしておくと安心です。
4-1.借地権だけでなくプラスの財産も放棄する必要がある
借地権の相続放棄が家庭裁判所に認められると、預金や不動産などプラスの財産も相続できません。借地権の保持が煩わしいといった理由で安易に故人の財産を相続放棄してしまうと、利益が発生するはずの財産も手放すことになります。
相続放棄する場合は、放棄すべきではないプラスの財産が存在するかどうかを事前に確認しておきましょう。
4-2.他の相続人とトラブルになる可能性がある
▲相続人の優先順位
同じ順位の相続人が全員相続放棄した場合、相続権は次順位の人に移ります。そのため次順位の相続人は、借地権を含めたすべての財産を受け継ぐことになります。
たとえば故人(被相続人)に子どもがいた場合は、その子どもが第一順位の相続人です。この場合に子どもが相続放棄すると、第二順位である故人の親が相続人となります。そして親が亡くなっていた場合は、第三順位である故人の兄弟姉妹が相続人です。
次順位の相続人へ相談せずに相続放棄してしまうと、思わぬトラブルにつながる可能性が高まります。不要なトラブルを未然に防げるよう、相続放棄について親族と事前に相談しておきましょう。
5.借地権の相続放棄で気をつけるべきポイント
借地権の相続放棄によるトラブルを防ぐため、気をつけたいポイントがあります。
借地権の相続放棄で気をつけるべきポイント
- 土地建物を勝手に処分できなくなる
- 親に借金があれば借地権を売却してもマイナスになる
- 借地権の相続放棄後も建物の管理が必要になる
相続放棄により権利を失った場合でも、土地や建物の管理が不要となるわけではありません。想定外のトラブルを防ぐためにも、事前に取り扱い方法を確認しておきましょう。
5-1.土地建物を勝手に処分できなくなる
相続放棄をすると、土地や建物を勝手に処分することはできません。相続放棄の手続が認められた場合でも、地主の土地や故人の建物に手を加えてしまうと、借地権を相続したものと扱われてしまうので注意しましょう。
相続放棄が認められることで相続権を失い、故人が遺した借地権を引き継ぐ必要はなくなります。地主に気を遣って「自分の建物は処分しよう」「更地にして返そう」などと考える必要はありません。
5-2.親に借金があれば借地権を売却してもマイナスになる
故人の借地権と一緒に多額の借金も相続してしまった場合、借地権を売却しても相続財産がマイナスとなる可能性があります。相続する財産は、不動産や金融資産だけでなく借金や納税義務も対象です。
相続した借地権を売却することで金銭に換えようとしても、借金のようなマイナスの相続財産が上回ってしまう可能性もあります。借金や納税義務によるマイナスの相続財産が存在する場合は、相続放棄を検討しましょう。
5-3.借地権の相続放棄後も建物の管理が必要になる
借地権を相続放棄することで地代や相続税の支払いが免除された場合でも、借地上の建物を管理する義務は残ります。相続放棄による相続人の建物管理について、民法940条1項により次のように定められているからです。
相続放棄した場合でも、次順位の相続人や相続財産清算人に引き渡すまでは、自己財産として管理する必要があります。大がかりな修繕は必要ありませんが、汚れがたまらないように定期的なメンテナンスを心がけましょう。
6.借地権相続放棄以外の選択肢
借地権を相続放棄することで損をするような事情がある場合は、相続放棄以外の選択肢を検討してみましょう。
相続放棄以外の選択肢
- 地主や業者のような第三者に借地権を売却する
- 建物と底地をひとまとめにして他人に売却する
- 建物を取り壊して更地にしてから地主に返却する
6-1.地主や業者のような第三者に借地権を売却する
借地権を地主や業者などの第三者に売却することで、借地権契約を終了できます。
借地上の建物を第三者に売却する場合、地主の承諾と譲渡承諾料の支払いが必要です。しかし売却相手が地主本人であれば、譲渡承諾料を支払う必要はありません。また、地主も借地権の取れた土地を取り戻せるため、双方にメリットがあります。
ただし借地権や土地上の建物については、地主との価格交渉が必要です。地主との交渉に不安を感じる場合や時間がかかる場合は、不動産専門業者に買い取ってもらうことも検討しましょう。
6-2.建物と土地(借地権)をひとまとめにして売却する
建物と借地(地主側から見ると底地)を一緒に売却すると、それぞれ単独で売却する場合より高額となる可能性があります。
売却価格の配分は、借地権割合を目安にするパターンが一般的です。「借地や建物を使用する予定も相続放棄するつもりもない」といった場合は、ひとまとめにして売却することを検討してみましょう。
6-3.建物を取り壊して更地にしてから地主に返す
借地権の買い手が見つからず賃貸物件としての価値も期待できない場合は、建物を取り壊して更地にしたうえで地主に返す方法が効果的です。いったん地主に返してしまえば、地代の支払いや土地建物の管理といった手間が発生しなくなるメリットを得られます。
ただし土地を更地にするためには、建物を解体するための時間と費用が必要です。「今後の地代や土地建物を管理する手間」と「更地にするための解体費用」を比較して、建物を取り壊すかどうかを検討してみましょう。
そのうえで建物を取り壊す場合は、必ず地主に相談しましょう。断りなく建物を解体すると、トラブルに発展してしまいます。
7.借地権を相続放棄されたときの地主側の対応方法
相続人が借地権を相続放棄した場合、地主は次順位の法定相続人がいるかどうかの調査が必要です。たとえば、すべての相続人が相続放棄してしまった場合は、法定相続人が存在しません。このような場合は相続財産清算人により、借地権も含めた財産を競売や任意売却にかけて清算します。
相続財産清算人の選任には、地主を含む利害関係人から家庭裁判所への申立てが必要です。相続財産清算人を選任する場合は、故人が最後に住んでいた土地を管轄する家庭裁判所へ依頼しましょう。
8.相続してもトラブルの可能性があるなら専門家に相談を
借地権を相続放棄すべきかどうかは、被相続人が遺した財産や相続人同士の関係などを考慮する必要があります。相続放棄以外の方法を含めて、トラブルにつながらない選択肢を見つけることも大切です。
相続放棄を実際に行ってみると、審査や手続に想定外の時間と手間がかかります。慣れない相続に不安を感じる場合は、専門家の助けを借りたほうがスムーズで安心です。
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