遺産分割協議書は必要か?不要な事例・自分で作成する流れを解説
被相続人(亡くなった方)の遺産を分割する方法や相続人・持ち分割合など、遺産分割協議で決めた内容を書面化した書類を「遺産分割協議書」と呼びます。
遺産分割協議書は、必ず作成しなくてはいけないのでしょうか?
相続人が1人で遺産分割協議が不要、遺産を金融機関に預けていないため相続の手続きが要らないなどのケースを除き遺産分割協議書は作成する必要があります。
本記事では遺産分割協議書とは、作成方法とメリット・デメリット、不要な4つの事例、自分で作成する手順を解説していきます。
この記事の目次 [表示]
遺産分割協議書とは
遺産分割協議書とは、被相続人の遺産の分割について相続人や持ち分割合など取り決めた内容を書面化したものです。
相続は被相続人が亡くなった日(または亡くなった事を知った日)から自動的に開始します。
遺言書がある場合には基本的に遺言書どおりに遺産を分割します。遺言書がないもしくは相続人の遺留分を侵害しているケースなどでは、相続人全員で協議します。(遺産分割協議)
遺留分とは一定の相続人に定められた最低限の取り分を指し、遺留分を侵害された者は家庭裁判所に調停を申し立てる事が可能です。
遺産分割協議は民法907条に基づき被相続人が遺言書で禁止していない限り可能で、以下のルールがあります。
- 相続人・包括受遺者が全員参加する(1人でも欠けていたら無効)
- 未成年者・判断能力が乏しい人(認知症・知的障害・精神疾患など)には後見人を付ける
- 相続人・包括受遺者全員が合意した際に協議が成立する
※包括受遺者:遺産の○割・▲%という形で遺贈を受ける、法定相続人以外の者
遺産分割協議で全員が合意した内容を遺産分割協議書として作成します。
遺産分割協議書は、不動産の相続登記(名義変更)・被相続人の預金の相続など相続手続きの場面で必要となります。
後に相続人同士で「言った・言わない」などのトラブル回避にも繋がります。
遺産分割協議書は誰がどうやって作成する?
遺産分割協議書は、①相続人が自分で作成する、②行政書士など専門家に作成してもらう、③公証役場で公正証書として作成するという3つの作成方法があります。
相続人全員で話し合い、いずれかの方法を選びましょう。
作成方法 | メリット | デメリット |
---|---|---|
自分で作成する | コストがかからない | 不備が生じる可能性がある |
行政書士など専門家に依頼 | 書式・内容に不備が生じる可能性が限りなく低い | 費用がかかる 行政書士の場合、平均68,325円(日本行政書士会連合会:2022年度報酬額統計調査の結果概要より) |
公正証書として作成 | 公的書類としていざという時の証拠力が高い 公証役場に原則20年間保管してもらえる | 費用がかかる 作成費用は相続の内容によって異なる。10万円以内 |
詳しくは下記の記事をご参照ください。
遺産分割協議書を作成できる人は? 専門家のメリット、デメリットや自分で作成する場合のポイントを解説
遺産分割協議書が不要な事例4つ
遺産分割協議書が不要な事例は以下のとおりです。4つの事例を除いたケースでは、基本的には作成する必要があります。
- 相続人が1人だけ
- 遺言書どおりに遺産分割する
- 遺言書で遺産分割協議が禁止されている
- 預貯金の名義変更など手続きが要らない
1.相続人が1人だけ
相続人もしくは包括受遺者が1人だけの場合は遺産分割協議自体が不要ですので、遺産分割協議書も要りません。
手続きでは被相続人との関係が分かる戸籍謄本を提出します。
2.遺言書どおりに遺産分割する
遺言書があり遺言書の内容どおりに遺産分割する場合には、遺産分割協議は行いません。
相続手続きでは遺言書(または遺言書の写し)を提出します。
3.遺言書で遺産分割協議が禁止されている
遺言書で被相続人が遺産分割を禁止している際には、相続開始から5年の間遺産分割協議ができません。
遺産分割協議の禁止は、民法908条で定められている遺言書を記した者の権利です。
4.預貯金の名義変更など手続きが要らない
遺産が自宅にある現金のみなど、相続手続きをしないケースで遺産分割協議書は必要ありません。
ただし、遺産分割協議書には相続人同士のトラブルを防ぐという役割もあります。相続人が2人以上で遺産分割協議をした場合には、作成した方が良いでしょう。
遺産分割協議書を作成するメリット・デメリット
相続人が複数いる場合でも「遺産分割協議書は必要?」と疑問に思う方もいらっしゃるかもしれませんが、遺産分割協議書には「相続人同士のトラブル回避に繋がる」というメリットがあります。
「うちは相続争いとは無縁」という家庭でも、「実は自分たちの知らない法定相続人がいた」など予期せぬトラブルが起こる可能性も想定されます。
また遺産分割協議書は相続人間の契約書という役割とともに、証明書としての役割を担っています。預金・不動産の名義変更など、相続手続きで必要になりますので手続きが必要なケースでは作成しておきましょう。
作成するデメリットは自分で作成する際には手間や時間がかかる、専門家に依頼する場合にはコストがかかる点です。
遺産分割協議書を自分で作成する流れ
遺産分割協議の流れは以下のとおりです。
- 遺言書の有無を確認
- 法定相続人の調査・確定
- 相続財産の調査・確定・評価
- 遺産分割協議をする
- 全員が合意した時には遺産分割協議書を作成
- 協議が不成立の場合には家庭裁判所で調停・審判の手続きを
1.遺言書の有無を確認
被相続人が遺言書をのこしていたかを調査します。
自宅や銀行の貸し金庫などに保管しているケースと、法務局もしくは公証役場に保管されているケースがあります。
遺言書は自宅や貸し金庫など身近な場所で発見された時には家庭裁判所で「検認」という手続きをしなければいけません。検認は遺言書の偽造・変造を防ぐものです。
法務局・公証役場に保管している際には検認が不要です。
遺品整理・エンディングノートのチェックなどで遺言書の有無を確認しましょう。
遺言検索システムとは?使い方・遺言書の見つけ方・利用方法や必要書類を解説
2.法定相続人の調査・確定
法定相続人(民法で定められた相続人)を調査します。
法定相続人になる可能性がある人は、被相続人の①子ども(亡くなっている場合は孫)、②父母・祖父母などの直系尊属、③兄弟姉妹(亡くなっている場合は甥・姪)です。配偶者も法定相続人ですが、内縁関係の人は含まれません。
相続人は被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本を基に調査します。
推定相続人が確定し連絡先を知らない場合には、全員の戸籍の附票を取り寄せ住所を確認し連絡します。
3.相続財産の調査・確定・評価
被相続人の遺産を調査・確定・評価します。
遺言書・遺品・エンディングノートを参考に、生前被相続人が取引のあった銀行・証券会社・保険会社・不動産会社などを確認し連絡を取りましょう。
ネット銀行の預金・ネット証券会社の有価証券・仮想通貨・電子マネーの残高など「デジタル遺産」は見落としやすいので注意が必要です。
遺産の中に借金・債務があり相続を放棄したい方は相続開始から3カ月以内に家庭裁判所で手続きをします。借金などマイナスの財産の額が分からない場合には、プラスの財産の範囲内でマイナスの財産を引き継ぐ「限定承認」も可能です。ただし、相続放棄は1人でできますが、限定承認は相続人全員が共同で申請する決まりとなっています。
遺産は基本的に時価で評価します。主な遺産の種類別の評価方法を見ていきましょう。
遺産の種類 | 評価方法 |
---|---|
普通預金 | 相続日の預入残高 |
定期預金 | 預入残高+利子(解約利率)―源泉徴収税額 |
自動車・家財道具 | 同質の物の購入料金(調達価額)―減価償却 ※リサイクルショップの査定額などで評価する場合もある |
不動産 | ※相続税の評価では建物が固定資産税評価額・土地は路線価または倍率方式不動産会社の査定額または不動産鑑定士の鑑定評価額 |
株式・投資信託など有価証券は評価方法が複雑ですが、専門家に相談することで適正な価額が把握できるでしょう。
税理士法人チェスターでもご相談を承ります。
4.遺産分割協議をする
相続人・包括受遺者全員で遺産分割協議を行います。遺産を誰が相続するか・どのくらいの割合を相続するか・どの方法で相続するかを話し合い決定します。遺産の種類や相続人の意向・環境などを考慮して遺産分割を決めましょう。
預金・現金は分割が容易ですが、不動産・自動車などの遺産は分割が難しいでしょう。
分割方法には現物分割・換価分割・代償分割・共有分割があります。
共有分割は持ち分割合に応じて共同で相続する方法ですが、相続人同士でトラブルが起こりやすい傾向にあります。
不動産・自動車などの相続は、相続後の取り扱い(売却もしくは保有など)についても取り決め遺産分割協議書に記載しておく事をおすすめします。
共有分割の場合は、相続人同士で意見が分かれた際のルール・相続人が亡くなった後の処遇についても決め書面化しておくと、トラブルが回避できる可能性が高くなるでしょう。
遺産分割協議は全員が合意した時に成立となります。
5.全員が合意した時には遺産分割協議書を作成
相続人・包括受遺者全員が合意した際には、遺産分割協議書を作成します。
6.協議が不成立の場合には家庭裁判所で調停・審判の手続きを
意見がまとまらないなど何らかの事情で協議が不成立の場合は家庭裁判所で遺産分割調停・審判の手続きをします。
遺産分割協議書を自分で作成する方法・ひな形も
遺産分割協議書はどうやって作成するのでしょうか?定められたテンプレートはありませんが、客観的にどのような遺産分割をするのかを分かりやすく記載しなくてはいけません。
<遺産分割協議書のひな形>
記載する主な項目を確認しましょう。
作成日付
被相続人の氏名・最後の住所
相続する財産の詳細と相続人・共有分割の場合は持ち分割合
分割の方法(現物分割・換価分割・代償分割・共有分割)
不動産・自動車などは相続後の取り扱い
(必要な場合は希望売却価格も)
後日判明した遺産の取り扱い
遺産分割協議書を人数分作成して保管する旨
法定相続人・包括受遺者全員の氏名・住所・署名・捺印(印鑑は実印のみ)
上記の遺産分割協議書のひな形は、以下からダウンロードできます。
遺産は、不動産の場合登記簿謄本を参考に所在地や地番(家屋番号)・構造や面積などの情報を記入します。預貯金は金融機関の名称と口座番号・名義人、借金は債権者の名前と金額を記載しましょう。
相続人の印鑑は実印のみで、手続きでは印鑑証明書が必要となる場合もあります。
遺産分割協議書が2枚以上になる時の注意点
遺産分割協議書が2枚以上になる場合、全ての内容に相続人が同意したことを証明するために、製本と割印が必須です。
必要事項を記載した遺産分割協議書をホッチキスで留め、上図のように製本テープで包みます。
表紙または裏表紙に、「製本テープと本紙にまたがる形」で相続人全員が実印で割印します。遺産分割協議書が1枚に収まる場合、製本や割印は不要です。
まとめ
遺産分割協議書は、相続人が1人、遺産分割協議が禁止されているなどのケースを除き作成する必要があります。
税理士法人チェスターは、相続税申告に強い税理士法人です。グループには司法書士法人もあり、遺産分割協議書の作成などさまざまな相続手続きのお手伝いを承ります。
※この記事は専門家監修のもと慎重に執筆を行っておりますが、万が一記事内容に誤りがあり読者に損害が生じた場合でも当法人は一切責任を負いません。なお、ご指摘がある場合にはお手数おかけ致しますが、「お問合せフォーム→掲載記事に関するご指摘等」よりお問合せ下さい。但し、記事内容に関するご質問にはお答えできませんので予めご了承下さい。
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