遺産分割協議書は必要?不要?必要な場合の作成手順も解説

遺産分割協議書は遺産相続の手続きで必要になることが多いですが、全員が必ず作成しなければならないものではありません。
遺産相続の手続きでは、遺産分割協議書がなくてもよい場合があります。
相続人が1人だけの場合や遺言書がある場合も、遺産分割協議書は必要ありません。
もし、遺産分割協議書が不要であるとわかれば、相続の手続きで余計な手間をかけなくて済むでしょう。
この記事では、遺産分割協議書が必要な場合と不要な場合を具体的にご紹介します。あわせて、遺産分割協議書が必要な場合の作成手順も解説します。
遺産分割協議書が必要かどうかわからなくてお困りの方は、ぜひ参考にしてください。
この記事の目次
1.遺産分割協議書とは
遺産分割協議書とは、相続人どうしで遺産の分け方を話し合う「遺産分割協議」で決まった内容を記載した書面です。
遺産分割協議の結果を書面に記載しておくと、次のようなメリットがあります。
- 相続人どうしのトラブルを防ぐことができる
- 相続人どうしで合意した内容を第三者(金融機関や法務局など)に示すことができる
遺産分割協議書に相続人の全員が署名して実印を押印することで、相続人どうしで遺産分割の内容に合意したことが証明されます。
遺産分割協議の進め方など詳しい内容は、下記の記事をご覧ください。
(参考)
遺産分割でもめないために【遺産分割協議とは?】
相続の専門家が教えるスムーズな遺産分割協議の進め方と知っておきたいQ&A
2.遺産分割協議書は必ずしも必要ではない
遺産分割協議書は遺産相続の手続きで必要になることが多いです。しかし、どのような場合でも必要というものではなく、遺産分割協議書が不要な場合もあります。
この章では、遺産分割協議書が必要になる場合と不要な場合を具体的にご紹介します。
2-1.遺産分割協議書が必要になる場合
遺産分割協議書が必要になるのは、主に以下のような場合です。
- 遺産を法定相続分のとおりに分割しない場合
- 名義変更する遺産がある場合(不動産の相続登記など)
- 預金を引き出す場合
- 相続税を申告する場合
- のちのトラブルを防ぎたい場合
2-1-1.遺産を法定相続分のとおりに分割しない場合
相続について定める民法では、相続人が相続できる遺産の割合が定められています。これを法定相続分といいます。
(参考)法定相続分は相続人の家族構成でこんなに変わる!【ケース別で解説】
法定相続分は上記の表のとおり定められていますが、相続人どうしで合意できれば、法定相続分とは異なる割合で遺産を分割することもできます。
遺産を法定相続分のとおりに分割しない場合は、遺産分割協議書を作成する必要があります。
たとえば、父親が亡くなって、母親と子供2人で遺産を相続する場合の法定相続分は、母は1/2、子供はそれぞれ1/4ずつです。
もし、母が2/3、子供がそれぞれ1/6ずつ遺産を相続するのであれば、相続人全員で遺産分割協議を行い、遺産分割協議書を作成する必要があります。
2-1-2.名義変更する遺産がある場合(不動産の相続登記など)
不動産や自動車など名義変更する遺産があれば、多くの場合で遺産分割協議書が必要になります。
不動産の名義変更(相続登記)では、不動産を法定相続分とは異なる割合で分ける場合に遺産分割協議書の提出が求められます。
自動車の名義変更は、指定の用紙に相続人全員が記入するだけでよい場合もあります。しかし、他に名義変更する遺産があれば、遺産分割協議書を作成しておく方がよいでしょう。
(軽自動車の名義変更では遺産分割協議書は不要です。)
2-1-3.預金を引き出す場合
亡くなった被相続人の預金を引き出すときも、多くの場合で遺産分割協議書が必要になります。
被相続人の預金を引き出す手続きでは、指定の用紙に相続人全員が記入すれば、遺産分割協議書が不要な場合もあります。
しかし、手続きをする金融機関の数が多い場合は、金融機関ごとに指定の用紙に記入するほうが負担になります。遺産分割協議書を作成して、手続きのつど金融機関に提示すれば負担は軽減できます。
預金引き出しの具体的な手続きについては、取引している金融機関の窓口で確認してください。
2-1-4.相続税を申告する場合
相続税を申告するときも、多くの場合で遺産分割協議書が必要になります。
特に、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例などを適用する場合は、必ず遺産分割協議書を提出しなければなりません。
2-1-5.のちのトラブルを防ぎたい場合
遺産分割を口約束で済ませてしまうと、約束を破る相続人がいた場合に対抗することができません。相続人どうしの仲が良くても、思い違いからトラブルが起きることもあります。
のちのトラブルを防ぎたい場合は、相続手続きで特に必要がなくても遺産分割協議書を作成しておくことをおすすめします。
2-2.遺産分割協議書が不要な場合
以下のような場合は、遺産分割協議書は不要です。
- 相続人が1人しかいない場合
- 遺言書のとおりに遺産分割する場合
- 法定相続分のとおりに遺産分割する場合
- 遺産が現金・預金だけの場合
2-2-1.相続人が1人しかいない場合
相続人が1人しかいない場合は、その人が遺産をすべて相続するため遺産分割協議書は不要です。
他の相続人が相続放棄や相続欠格、相続廃除によって相続権を失った結果、相続人が1人だけになった場合も遺産分割協議書は不要です。
2-2-2.遺言書のとおりに遺産分割する場合
亡くなった被相続人が遺言書を残していて、遺言書のとおりに遺産を分け合う場合は、遺産分割協議書は不要です。
相続手続きでは遺言書を提示しますが、一部、そのままでは相続手続きに使えないものがあります。
遺言書は主に自分で書く「自筆証書遺言」と、公証人に作成してもらう「公正証書遺言」の2種類があります。
このうち、自宅等で保管されていた自筆証書遺言は、家庭裁判所で検認手続きを受けて検認済証を添付しなければ相続手続きに使うことができません。一方、法務局に預けられていた自筆証書遺言と公正証書遺言は、検認を受ける必要はありません。
(参考)
遺言書にはどんな効力があるの?遺言書の種類と効力について
遺言書の検認手続きの流れ、さらに手続きを怠るとどうなる!?
2-2-3.法定相続分のとおりに遺産分割する場合
不動産を複数の相続人で共有し、それぞれの持分を法定相続分のとおりにする場合は、相続登記で遺産分割協議書を提出する必要はありません。
ただし、不動産を法定相続分で分けて共有することはおすすめできません。
不動産を法定相続分で分けるときの相続登記は、相続人の誰かが単独で手続きができます。しかし、権利証(登記識別情報通知)は手続きをした人にしか発行されず、のちにトラブルになる恐れがあります。
また、不動産を複数人で共有すると、将来処分する場合に合意が難しくなります。子や孫へ世代が進むと共有者が増えて、収拾がつかなくなる可能性もあります。
2-2-4.遺産が現金・預金だけの場合
遺産が現金と預金だけの場合は、相続手続きのために遺産分割協議書を作成する必要はありません。
自宅で保管されていた現金を分け合うだけであれば、どこかに届け出る必要はなく、遺産分割協議書は不要です。
預金は、金融機関が指定する用紙に相続人全員で記入して引き出すことができます。
3.遺産分割協議書を作成・提出するまでの流れ
この章では、遺産分割協議書が必要であるとわかった場合の作成から提出の流れをご紹介します。
遺産相続は、一般的に、四十九日法要を終えた頃から始められることが多いようです。
3-1.遺言書がないか調査
まずは、被相続人が遺言書を残していないか調査します。
遺言書で遺産分割について定めがあって、そのとおりに遺産を分け合う場合は、遺産分割協議書は不要です。
遺言書が書かれているかどうか、あるいはどこに保管されているかがわからないかもしれませんが、心当たりがある場所をくまなく探しましょう。
自宅などで見つからなかった場合は、近くの法務局や公証役場に問い合わせて遺言書があるかどうか調べることができます。
自筆証書遺言は、令和2年(2020年)7月から法務局で保管できるようになっています。公正証書遺言は、正本が公証役場で保管されています。
3-2.相続人を確認
遺産分割協議は、相続人全員で行う必要があります。相続人が1人でも欠けると、協議した内容は無効になります。
そのため、遺産分割協議をする前に誰が相続人になるかを確認します。
相続人になる人は下記のとおりです。先の順位の人が1人でもいれば、後の順位の人は相続人になりません。
- 必ず相続人となる:被相続人の配偶者
- 第一順位:被相続人の子(すでに死亡の場合は孫)
- 第二順位:被相続人の父母(すでに死亡の場合は祖父母)
- 第三順位:被相続人の兄弟姉妹(すでに死亡の場合は甥姪)
相続人を確認するには、被相続人の出生から死亡まで連続した戸籍謄本を、本籍地のある市区町村役場で取得します。
わざわざ戸籍謄本を取得するのは、のちの相続手続きで必要になるだけでなく、養子、前妻の子、非嫡出子など、知らない相続人がいないかどうかを確認する目的もあります。養子や前妻の子、認知した非嫡出子も相続人になります。
相続人について詳しい内容は、下記の記事を参照してください。
(参考)相続人は誰?相続人の優先順位と相続分をケース別に詳しく解説!
3-3.不動産などの相続財産を調査
次に、遺産相続の対象になる財産としてどのようなものがあるかを調べます。
遺産相続では、預貯金、有価証券、不動産などプラスの価値がある財産のほか、債務やローンなどマイナスの価値がある財産も対象になります。
亡くなった被相続人の財産を調べるには、自宅で以下のようなものを探してみましょう。
- 預金通帳
- 不動産の権利証(登記済証・登記識別情報)、固定資産税納税通知書
- 借用書、金銭消費貸借契約書(お金を借りているか貸しているかも確認)
- 生命保険証券(被相続人の財産ではないが保険金を受け取るために確認)
相続財産を調べる具体的な方法は、下記の記事を参照してください。
3-4.遺産分割協議をする
相続人と相続財産が確認できれば、遺産の分け方を話し合う「遺産分割協議」を相続人全員で行います。
遺産分割協議と聞くと、相続人全員が集まって話し合いをするものと思われる方もいるでしょう。
しかし、全員が一か所に集まる必要はなく、電話などで話し合って、遺産分割協議書を郵送して順番に署名押印していくという方法でも構いません。
(参考)
遺産分割でもめないために【遺産分割協議とは?】
相続の専門家が教えるスムーズな遺産分割協議の進め方と知っておきたいQ&A
なお、遺産の分け方を決めるときは、専門家にアドバイスしてもらってもよいでしょう。
相続税対策を考慮した遺産分割をお考えの場合は、相続税に強い税理士に相談することをおすすめします。
3-5.遺産分割協議書を作成
相続人全員による遺産分割協議で合意した内容は、遺産分割協議書として書面にまとめます。
(遺産分割協議書のサンプルは、次の章でご紹介します。)
遺産分割協議書を自分で作成することが難しい場合は、専門家に依頼することができます。
弁護士や司法書士に依頼することが一般的ですが、相続税対策のために遺産分割を税理士に相談した場合は税理士に依頼してもよいでしょう。
相続人が各自で手続きできるように、また協議の内容を忘れないように、同じ書面を相続人の数だけ作成して各自1通ずつ保管します。
あるいは、原本を1通のみ作成して相続人の代表者が保管し、他の相続人はコピーを保管しても構いません。
3-6.相続財産の名義変更・登記手続きをする
作成した遺産分割協議書は、不動産の相続登記や預金の引き出しなどの相続手続きで提示します。
遺産相続の手続きでは、遺産分割協議書に押印した実印の印鑑証明書を添付します。このほか被相続人と相続人の戸籍謄本も必要になるため、事前に準備しておきましょう。
相続登記や預金引き出しの手続きについて詳しい内容は、下記の記事をご覧ください。
(参考)
不動産の相続に必要な「相続登記」についての基本知識を徹底解説
銀行預金の相続をするため、覚えておきたい6つのポイント
4.遺産分割協議書のサンプル
この章では、遺産分割協議書のサンプルをご紹介します。詳しい作成方法や注意点は下記の記事を参照してください。
(参考)相続登記で遺産分割協議書は必要?作成方法/サンプル/注意点も徹底紹介
遺産分割協議書は遺言書とは異なり、法律で定められた厳格な形式や様式はありません。パソコンで作成しても手書きでも構いません。
遺産分割協議書には、以下の事項を記載します。
①被相続人の最後の本籍、最後の住所、氏名
②相続開始の日(被相続人の死亡日)
③相続内容(どの財産を誰が相続するか(共有の場合は持分割合も記載))
④不動産の情報(土地の所在、地番、地目、地積)
⑤不動産の情報(建物の所在、家屋番号、種類、構造、床面積)
⑥協議書を作成したことを示す文言
⑦遺産分割協議が成立した日
⑧相続人の住所・氏名(氏名は相続人本人の自署)
⑨押印(実印)
遺産分割協議書が数枚にわたる場合は、それぞれの用紙の間に契印を押す必要があります。枚数が多い場合は袋とじにして、帯の部分に契印を押すこともあります。
押印する箇所が多いと押印忘れになることが多いため、できるだけ枚数を少なくするほうがよいでしょう。
5.遺産分割協議でトラブルになりやすいケース
最後に、遺産分割協議でトラブルが起こりやすいケースをご紹介します。
遺産は相続人どうしで公平に分け合うことが望ましいですが、遺産の種類や家族の事情によっては公平に分けることが難しい場合もあります。また、そもそも話し合いをすることが難しいという場合もあります。
このような場合は、遺産分割協議でトラブルが起こりやすくなります。
5-1.不動産以外の財産がほとんどない
遺産が自宅とわずかな預貯金だけというように、不動産以外の財産がほとんどないケースでは、遺産分割協議でトラブルが起こりやすくなります。
一つの不動産を物理的に分割することは困難であり、誰か1人だけが自宅を相続することになります。しかし、そうすると相続人どうしで遺産を公平に分けることができなくなります。
被相続人が死亡して自宅が空き家になった場合は、自宅を売却して現金に換えると公平に分けられるようになります。この遺産分割の方法を「換価分割」といいます。
しかし、残された配偶者など誰かが住んでいる場合は、換価分割をすることができません。
自宅を相続する人が他の相続人に財産を与える「代償分割」という方法もあります。ただし、この方法で遺産を分けるためには、自宅を相続する人が財産をたくさん持っていなければなりません。
5-2.相続人どうしのコミュニケーションがうまくいかない
相続人どうしでコミュニケーションが取れないケースでも、遺産分割協議でトラブルが起こりやすくなります。
遺産分割協議は、相続人の全員が参加して、遺産分割協議書に署名押印しなければ成立したことにはなりません。
相続人どうしで意思疎通できなければ遺産分割協議ができず、いつまでたっても相続手続きが進められません。
疎遠であるとか仲が悪いという場合のほか、相続人が行方不明になったり、認知症などで判断能力が十分でなくなったりした場合も、遺産分割協議が困難になります。
このとき、話し合いができる相続人だけで協議をして、協議に参加できない相続人に代わって勝手に署名押印してはいけません。協議に参加できなかった相続人が協議内容を不服として訴訟を起こせば、遺産分割協議が無効になる可能性があります。
行方不明になった相続人がいる場合は、家庭裁判所に申し立てて「不在者財産管理人」を選任して遺産分割協議を行います。
判断能力が不十分な相続人がいる場合は、「成年後見人」など代理人を立てて遺産分割協議を行います。
ただし、成年後見人など代理人は、判断能力が不十分な相続人について法定相続分が確保されていなければ、遺産分割協議に合意しないケースが多いです。
(参考)
行方不明の相続人がいたときどう対処すべきか?
活用したい成年後見制度とは?
6.まとめ
以上、遺産分割協議書が必要になる場合と、作成・提出の流れをご紹介しました。
遺産分割協議書は、すべての人が必ず作成しなければならないものではありません。
相続人が1人だけの場合や遺産の種類が少ない場合では、あえて遺産分割協議書を作成しなくてよい場合もあります。
しかし、のちのトラブルを避けたいのであれば、遺産分割協議書を作成しておくことをおすすめします。
簡単なものは自分で作成することもできますが、難しい場合は弁護士や司法書士など専門家に依頼して作成することもできます。
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