不在者財産管理人とは?必要なケース・選任申立ての流れ・費用について
相続が開始した場合、遺言書がない限りは遺産分割協議を行い、法定相続人全員で遺産の分割方法について話し合いをしなければなりません。
しかし、法定相続人の中に行方不明で連絡が取れない人がいれば、遺産分割協議を成立させることができません。
このような場合に必要とされるのが、不在者財産管理人です。
不在者財産管理人は、利害関係人が家庭裁判所に申立てをすることで選任され、行方不明となっている不在者(法定相続人)の代わりに、不在者財産管理人が遺産分割協議に参加することが可能となります(家庭裁判所の権限外行為許可も必要です)。
この記事では、不在者財産管理人が必要なケースや職務と役割、選任申立ての条件・手続きの流れ・かかる費用について解説します。
この記事の目次 [表示]
1.不在者財産管理人とは
不在者財産管理人とは、従来の住所または居所を去り、容易に戻る見込みのない不在者の財産や、不在者の財産について利害関係を有する第三者の利益を保護するため、不在者に代わって財産を管理・保存したり、遺産分割や不動産の売却等を行ったりすることができる人のことです。
不在者の財産の利害関係人などが申立てをすることにより、家庭裁判所が不在者財産管理人を選任します(民法第25条第1項)。
不在者財産管理制度は、不在者の財産を保護することを目的とした制度です。
しかし実際には、不在者がいないことで進まない様々な手続きを行うために、不在者の代わりを務めてもらうために利用されることが多いです。
不在者財産管理人について、裁判所「不在者財産管理人選任」もあわせてご覧ください。
1-1.失踪宣言との違い
不在者財産管理人と失踪宣言は、どちらも誰かが行方不明である場合に利用できる手続きですが、「法律的な効果」に大きな違いがあります。
不在者財産管理人は、不在者が「生存している」ことを前提として、その不在者の財産を代わりに管理する人を選任する制度のことです。
失踪宣言は、不在者の生死が7年間明らかでない時に、法律上「死亡した」とみなす制度のことです(民法第30条)。
失踪宣言を受けたら、その不在者の相続が開始しますし、不在者に子供がいれば代襲相続が発生することもあります。
失踪宣言について、詳しくは「失踪宣告の申立方法と流れを解説!相続や婚姻関係はどうなる?」をご覧ください。
1-2.相続財産清算人(旧:相続財産管理人)との違い
遺産相続に関係する財産管理人には、不在者財産管理人のほか、相続財産清算人(旧:相続財産管理人)もありますが、誰の財産を管理(精算)するのかに違いがあります。
不在者財産管理人は、行方が分からない不在者がいる場合に、その不在者(生存している可能性がある人)の財産を管理します。
相続財産管理人は、被相続人に相続人がいない場合や、相続人全員が相続放棄をした場合に、被相続人(亡くなった人)の相続財産を精算した上で国庫に帰属させます。
誰の財産をどのような目的で管理するのかに違いがありますので、間違えないようご注意ください。
相続財産清算人(旧:相続財産管理人)について、詳しくは「相続財産管理人(相続財産精算人)とは?選任手続き・流れ・費用」をご覧ください。
2.不在者財産管理人の選任が必要なケース
不在者財産管理人の選任が必要になるのは、主に「相続人の中に不在者がいる場合」や「不在者名義の財産を売却等する場合」です。
これらのケースに該当する場合、どうして不在者財産管理人の選任が必要となるのか、確認していきましょう。
2-1.相続人の中に不在者がいる場合
相続が発生した場合、遺言書がない限りは法定相続人全員で遺産分割協議を行い、誰が・何を・どれだけ相続するのかを決めなくてはなりません。
しかし、法定相続人の中に不在者がいる場合、いつまでたっても遺産分割協議を成立させることができません。
このような場合、不在者財産管理人を選任すれば、不在者である法定相続人の代わりに、その不在者財産管理人が遺産分割協議に参加することができます。
ただし、不在者財産管理人が遺産分割協議に参加するためには、家庭裁判所の「権限外行為許可」を得る必要があります(民法第28条)。
遺産分割協議のための権限外行為許可の申立てには、不在者に法定相続分にあたる財産を割り当てた、遺産分割協議書の案が必要です。
不在者は相続人として遺産を受け取る権利があるため、不在者に財産を与えないなど著しく不利な内容の遺産分割案は認められない可能性が高いでしょう。
2-2.不在者名義の財産を売却等する場合
共同名義の不動産(土地や建物)を売却等する場合、共同所有者全員の同意を得る必要があります。
しかし、共同名義人の中に不在者がいる場合、いつまでたっても売却ができず、建物が老朽化する一方です。
このような場合、不在者財産管理人を選任すれば、不在者の代わりに、その不在者財産管理人が不動産の売却等の合意ができます。
ただし、不在者財産管理人が不在者名義の財産を売却等する場合は、家庭裁判所の「権限外行為許可」を得る必要があります(民法第28条)。
民法改正により、共有関係に係る制度の見直しや、財産管理制度の見直しが行われました。
相続開始から10年を経過した時に限り、相続によって不動産が共有状態になり、その相続人の中に所在等不明共有者がいる場合、裁判所の決定を得れば、所在等不明共有者の不動産の持分を取得・第三者に譲渡する権限を、共有者に付与することが可能となります。
詳しくは「【令和5年4月1日施行】民法改正の概要を解説!共有関係や相続はどうなる?」をご覧ください。
3.不在者財産管理人の職務や役割
不在者財産管理人の職務や役割は、遺産分割協議への参加や売却等への合意だけではありません。
この章では、不在者財産管理人の職務や役割をご紹介しますので、参考にしてください。
3-1.不在者の財産を保存・管理する
不在者財産管理人は、不在者の財産を本人に代わって保存・管理しなければなりません。
この「保存・管理」とは、不在者のために財産を保存すること、あるいは財産の性質を変えない範囲で、利用・改良することを意味しています(民法第103条)。
不在者財産管理人が不在者の財産を不正に使った場合は、不在者財産管理人を交代させられるほか、損害賠償を請求されたり業務上横領の罪に問われたりすることがあります。
3-2.財産目録を作成する
不在者財産管理人は、行方不明の不在者が戻ってくるか死亡(失踪宣言も含む)が確認されるまで、不在者の財産を適切に保存・管理することが義務付けられます。
そのため、不在者の財産の状況を調査して、「財産目録」を作成しなければなりません(民法第27条)。
なお、不在者の財産から返済や支払いをした場合は、「収支報告書」を作成して記載しなくてはなりません。
3-3.家庭裁判所への報告
不在者財産管理人は、財産目録や管理報告書を家庭裁判所に提出し、その後は家庭裁判所の求めに応じて、定期的に財産の状況を報告します。
4.不在者財産管理人を選任できる条件
不在者財産管理人を選任するためには、利害関係人などが家庭裁判所に申立てを行わなくてはなりません。
しかし、不在者財産管理人を選任できる条件が、分からない方もいらっしゃるかと思います。
この章で、いつから・誰が・どこに申立てができるのか、不在者財産管理人になれる人は誰なのかについて解説しますので、参考にしてください。
4-1.選任申立てはいつからできる?
不在者財産管理人は、その人が行方不明であれば、選任の申立てができます。失踪宣告のように、行方が分からなくなってから一定期間を過ぎている必要はありません。
ただし、不在者は「従来の住所または居所を去り、容易に戻る見込みがない人」とされているため、行方が分からなくなって1週間や1ヶ月程度では、不在者とは言えません。
不在者財産管理人の選任申立ての際には、本当に不在者であるかを調査して、それを裏付ける「不在の事実を証する資料」を提出する必要があります(詳細は後述します)。
4-2.選任申立てができる人は誰?
不在者財産管理人の選任申立てができるのは、不在者の財産の管理・保全につき、法律上の利害関係を有する、以下のような人です。
- 不在者の配偶者
- 不在者の共同相続人
- 不在者の推定相続人
- 不在者の債権者
- 不在者の財産を時効取得した者
このほか、公共事業等のために土地を取得しようとする国・地方公共団体等や、検察官が不在者財産管理人の選任申立てをすることもできます。
4-3.申立て先はどの家庭裁判所?
不在者財産管理人の選任申立て先は、「不在者の従来の住所地または居所地」を管轄する家庭裁判所です(家事事件手続法第145条)。
なお、不在者の従来の住所地や居住地が不明である場合は、「不在者の財産の所在地を管轄する家庭裁判所」もしくは「東京家庭裁判所」となります(家事事件手続法第7条)。
家庭裁判所の管轄は、裁判所「裁判所の管轄区域」から検索いただけます。
4-4.不在者財産管理人になれる人は誰?
不在者財産管理人になれる人は、財産目録の作成や家庭裁判所への報告などの職務を適切にでき、不在者と利害が相反しないことが条件です。
弁護士や司法書士などの特別な資格は必要ありませんが、弁護士から選任されるケースがほとんどです。
なお、大阪家庭裁判所では、「原則申立人の推薦を受けず、大阪弁護士会所属の弁護士から選任する」とされています。
5.不在者財産管理人の選任申立ての手続きの流れ
不在者財産管理人選任の申立ての手続きの流れは、以下の通りです。
不在者財産管理人の申立てから選任までは、目安として約1~2ヶ月かかります。
5-1.不在者財産管理人の選任申立て(必要書類を提出)
まずは管轄の家庭裁判所に、利害関係者が不在者財産管理人の選任申立てを行います。
具体的には、以下のような必要書類を、管轄の家庭裁判所に提出することとなります。
- 申立書
- 不在者の戸籍謄本
- 不在者の戸籍附票
- 不在者財産管理人候補者の住民票または戸籍附票
- 戸籍謄本など不在者と申立人の関係を示す資料
- 不在の事実を証する資料
- 不在者の財産に関する資料
不在の事実を証する資料とは、「行方不明者届受理証明書」や「不在者宛てに差し出されて返送された郵便物」などです。
不在者の財産に関する資料とは、通帳の写しや不動産登記事項証明書などです。
申立書の様式や記入例は、裁判所「不在者財産管理人選任の申立書」に掲載されています。
5-2.家庭裁判所による審理
利害関係者が不在者財産管理人選任の申し立てをした場合、家庭裁判所はその人が「不在」であるかどうか審理を行います。
具体的には、申立書や行方不明となった事実を裏付ける資料を確認したうえで、申立人から事情を聞いたり、不在者の親族に照会したりします。
5-3.裁判官による審判
家庭裁判所の裁判官が、不在者財産管理人を選任するかどうかを審判します。
不在者財産管理人が選任される場合もされない場合も、申立人のところに選任手続きの結果が通知されます。
5-4.権限外行為許可の申立て(必要な場合のみ)
遺産分割協議や財産の処分のために不在者財産管理人の選任申立てをした場合は、選任後に「権限外行為許可」の申立てが必要です。
この理由は、遺産分割協議への参加や財産の処分は、不在者財産管理人に与えられた権限を超えることになるため、家庭裁判所の許可を得る必要があるからです(民法第28条)。
権限外行為許可の申立てには、権限外行為の必要性や相当性を調査した上で、「遺産分割協議書の案」や「売買契約書の案」などの提出が必要です。
不在者は相続人として遺産を受け取る権利があるため、不在者に財産を与えないなど著しく不利な内容の遺産分割案は認められない可能性があるので注意が必要です。
還元外行為の許可の審判が下されたら、権限外行為の遂行が可能となります。
権限外行為許可の申立書の様式や記入例は、裁判所「不在者の財産管理人の権限外行為許可の申立書」をご覧ください。
6.不在者財産管理人の選任に関する費用
不在者財産管理人の選任には、以下のような費用がかかります。
これらの費用は不在者の財産から支払われますが、不足する場合は申立人が負担することになります。
6-1.選任申立てに必要な費用
不在者財産管理人の選任申立ての際に必要な費用は、以下の通りです。
- 収入印紙800円分(申立書に貼る)
- 連絡用の郵便切手(金額は家庭裁判所により異なる)
この他、戸籍謄本や住民票の交付手数料など、必要書類の発行手数料として数千円程度必要です。
6-2.不在者財産管理人に対する報酬
不在者財産管理人は報酬を請求することができ、家庭裁判所の判断により、不在者の財産から支払われます(民法第29条第2項)。
報酬の金額は、不在者本人と不在者財産管理人の関係、不在者の財産の規模、管理の期間、職務の内容をもとに決定されます。
このほか、財産目録の作成にかかった費用も、不在者の財産から支払われます(民法第27条第1項)。
6-3.予納金を求められる場合も
不在者財産管理人の報酬など財産管理に必要な費用は、原則として不在者の財産から支払われます。
しかし、不在者に十分な財産がない場合は、申立人が家庭裁判所に予納金を納めなければなりません。
予納金の額は不在者の財産の状況にもよりますが、少なくとも数十万円、多い場合で100万円程度かかることがあります。
なお、報酬や管理経費を払い終えて予納金が余った場合は、申立人に返還されます。
7.不在者財産管理人の選任申立てをする際の注意点
不在者財産管理人の選任申立てをする際、いくつか注意点がありますので確認しておきましょう。
7-1.不在者の利益に反することや不利益になることはできない
不在者財産管理人は、不在者のために財産を管理するのですから、不在者の利益に反することや、不利益になることはできません。
不在者財産管理人が不在者本人の財産を不正に使用した場合などは、財産管理人を改任されるほか、損害賠償請求などの民事上の責任を問われたり、業務上横領などの罪で刑事責任を問われたりすることもあります。
7-2.推薦した候補者が選任されるとは限らない
不在者財産管理人の選任申し立ての手続きでは、親族などから候補者を指定することができますが、必ずしも候補者から選任されるとは限りません。
特に、不在者と候補者が共同相続人である場合では、互いの利益が相反することから、家庭裁判所が指定する弁護士や司法書士が選任されることになります。
7-3.不在者財産管理人の選任が不要なケースもある
不在者がすでに不在者財産管理人を選任している場合は、家庭裁判所による選任はできません。
また、不在者に法定代理人(親権者、後見人)がいる場合は、不在者財産管理人を選任する必要はありません。
8.不在者財産管理人が役割を終える時とは
不在者財産管理人の職務は、次の時点まで続きます。
- 不在者が戻ってきたとき
- 不在者について失踪宣告がされたとき
- 不在者の死亡が確認されたとき
- 不在者の財産がなくなったとき
不在者が戻ってきたときは、財産は不在者本人に引き継がれます。
失踪宣告されたときや死亡が確認されたときは、財産は不在者の相続人に引き継がれます。
なお、令和5年4月1日からは、不在者の財産の管理、処分などにより生じた金銭を供託することができます。
これらの金銭が供託された場合は「不在者の財産がなくなったとき」に該当するため、不在者財産管理人は適時に職務を終えることができるようになりました(家事事件手続法第146条の2、第147条)。
9.不在者財産管理人のご相談はチェスターへ
不在者財産管理人を選任すべきケースは、相続人の中に不在者がいる場合や、不動産の共同所有者に不在者が含まれる場合です。
ただし、行方不明が長期に及ぶ場合や災害に遭った場合など、失踪宣告を申し立てる方がよいこともあります。
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