賃貸用不動産の相続税計算は床面積を使う?借地権割合、賃貸割合とは
賃貸用不動産を相続した場合、相続税の計算に床面積を用います。借地権割合や賃貸割合といった、自用不動産では用いない数値も確認が必要です。計算に必要な床面積の確認方法や、貸付事業用の小規模宅地の特例についても見ていきましょう。
この記事の目次 [表示]
1.不動産にかかる相続税を知ろう
賃貸用不動産の相続税について理解するために、まずは不動産にかかる相続税について基本的な知識を押さえます。不動産を相続したとしても、必ず相続税が課されるわけではありません。相続税が発生するケースや相続税評価額の決まり方を確認します。
1-1.相続税はどんなときに発生する?
被相続人の財産を引き継いだとき、その財産の価格に対して課されるのが相続税です。財産は経済的価値のあるものを全て指すため、不動産も含まれます。
ただし財産を相続したからといって、全ての人が相続税を納めるわけではありません。財産の総額が『3,600万円』以下であれば、相続税は課税されないからです。
相続税には基礎控除があり、相続財産から控除額を差し引けます。控除額は相続人の人数によって変わるため、ケースによって金額が異なるのが特徴です。
相続人が1人の場合の基準金額が3,600万円のため、相続税が発生するのは少なくとも3,600万円より多くの相続財産がある場合に限られます。
1-2.建物の相続税評価額の決まり方
相続財産の総額を計算するとき、建物は『相続税評価額』を用います。相続税評価額は『固定資産税評価額×1.0』で計算するため、固定資産税評価額と同額です。
固定資産税納税通知書の『価格』欄に記載されている金額を、そのまま使えば問題ありません。固定資産税評価額は、同じ床面積や構造でも異なる可能性があります。
建築コストの高さに左右される傾向があり、同じ床面積であれば木造より高コストの鉄筋コンクリート造の方が高額になりやすい傾向です。加えてキッチンやシステムバスなどの設備の品質・大きさ・数なども影響します。
2.賃貸アパートなどの相続の場合はどうなる?
賃貸アパートの相続税評価額は、被相続人の自宅の相続税評価額と比べて低くなります。計算するときに借地権割合や賃貸割合を乗じるからです。加えて、ローンを控除できる点も、賃貸アパートの相続税評価額が低くなる理由といえます。
2-1.自用の物件よりも相続税評価額が低い
被相続人の自宅より賃貸アパートの相続税評価額が低いのは、貸すことで自由に使える部分が減るからです。賃貸している間は自由に使えない分、相続税評価額が割り引かれます。
相続税評価額が割り引かれるのは、賃貸アパートが建っている『貸家建付地』も同様です。賃貸アパートが建っている土地は自由に使えない部分があるため、その分の相続税評価額が低く計算されます。
賃貸アパートだけでなく、マンション・賃貸併用住宅・テナントビルなど、貸し出す建物が建っている土地であれば全て対象です。
2-2.計算方法を把握
具体的な相続税評価額の計算方法も見ていきましょう。自用の建物であれば、固定資産税評価額をそのまま用います。
一方、賃貸アパートの相続税評価額の計算式は『固定資産税評価額-(固定資産税評価額×借家権割合×賃貸割合)』で計算可能です。以下に具体例を記載します。借家権割合は、法律により定められた2021年分を使用します。
- 固定資産税評価額:3,000万円
- 借家権割合:30%
- 賃貸割合:100%
- 相続税評価額:3,000万円-(3,000万円×30%×100%)=2,100万円
また貸家建付地の相続税評価額は『自用地としての価格-(自用地としての価格×借地権割合×借家権割合×賃貸割合)』で計算可能です。
2-3.ローンがある場合は相続財産から控除できる
賃貸アパートはローンを組んで建設しているケースが多いでしょう。ローン返済中に相続人が引き継いだなら、借入残高を相続財産から控除できます。
2億円の相続財産がある場合でも、賃貸アパートのローンが1億8,000万円あれば、相続税評価額は2,000万円です。基準価額である3,600万円を下回っているため相続税はかかりません。
アパートローンを被相続人と相続人の2人で契約することもあります。この場合に控除できるのは、被相続人が負担している分のみです。相続人負担分は控除額に入らない点に注意しましょう。
3.計算に使用する割合の調べ方
賃貸アパートや貸家建付地の相続税評価額の計算式には、『借地権割合』や『賃貸割合』が出てきます。これらの割合はどのように調べるのでしょうか?
3-1.借地権割合の調べ方
土地の権利のうち借地が占める割合を表すのが『借地権割合』です。土地を利用する権利である借地権には経済的価値があるため、相続財産に含まれます。借地を相続したときには、相続税評価額の計算に借地権割合が必要です。
借地権割合は地域によって異なります。土地の利用価値が高い主要な駅周辺や繁華街などは高く、そうでない地域は低く設定されています。
中には借地権割合が定められていない地域もあり、そのような地域の借地を相続したときは権利として評価しません。相続した借地の借地権割合は、路線価図や評価倍率表に記載されています。国税庁のホームページから確認しましょう。
借地権の評価及び割合については以下の記事でも解説をしています。
借地権は相続できる?相続のときの注意点と相続税評価額も解説
参考:財産評価基準書|国税庁
3-2.賃貸割合の調べ方
『賃貸割合』は賃貸アパートの全ての部屋の合計床面積に占める、賃貸中の床面積の割合です。空室の部屋の床面積は自用地として扱います。以下の具体例で賃貸割合を計算しましょう。
- 101号室:30平方m(空室)
- 102号室:50平方m(賃貸中)
- 103号室:70平方m(賃貸中)
- 合計床面積:150平方m
『(50平方m+70平方m)÷150平方m=80%』となり、この賃貸アパートの賃貸割合は80%と分かります。また賃貸割合を用いるのは、賃貸アパートやマンションを1棟丸ごと運営しているケースのみです。
戸建住宅や分譲マンションを貸し出している場合には、賃貸割合は考慮しません。
3-2-1.一時的な空室はどうカウントする?
賃貸割合を計算する際には、相続が発生した時点の状況を確認します。そのため、基本的には相続日に空室であれば賃貸割合には含みません。
ただし賃貸アパートは一時的に空室になるケースもあります。例えば前の入居者と次の入居者が入れ替わる間に発生する、数週間~1カ月間の空室です。
相続日前後の空室期間がおよそ1カ月であれば、賃貸割合に含めて計算できるケースが多いでしょう。たまたま発生した空室と考え実施する救済措置です。
4.床面積の確認方法
賃貸アパートの相続税評価額を計算するときに必要な賃貸割合を調べるには、床面積を確定しなければいけません。床面積はどのように確認するのでしょうか?また課税床面積・登記簿面積・専有面積の違いについても確認します。
4-1.各独立部分とは
賃貸割合の計算は、アパート1室ずつの床面積を用い計算する仕組みです。このときアパートの1室を『各独立部分』と呼びます。
各独立部分は隔壁・扉・天井・床など建物の構成部分によりほかの部分と遮断されており、独立した出入口があるのが特徴です。それぞれの部分を別個に賃貸できる状態になっていれば、各独立部分といえます。
4-2.登記簿謄本に専有部分の床面積の記載がある
各部屋の床面積を確認するには『登記簿謄本』『登記事項証明書』を確認しましょう。専有部分の床面積が記載されています。
登記簿謄本や登記事項証明書は『法務局』で取得可能です。全国どこの法務局でも取得できます。遠方にある建物の登記簿謄本や登記事項証明書を取得するために、わざわざ管轄の法務局まで行く必要はありません。
法務局が開いている平日の8:30~17:15に訪れ、発行してもらいましょう。
4-2-1.課税面積などとの違い
同じマンションの床面積であっても、登記簿面積・課税床面積・専有面積では広さが違います。それぞれの床面積は計算のもととなる法律が異なるため、面積を計算する部分が以下の通り違う仕組みです。
- 専有面積:壁芯面積
- 登記簿面積:内法面積
- 課税床面積:専有面積+共用部分
登記簿面積が壁の内側の寸法を計算している床面積であるのに対し、専有面積は壁芯という壁の中心部分からの寸法をもとに面積を計算します。
さらに課税床面積は廊下やピロティなどの共用部分も計算に含めるため、3種類の中でも特に面積が大きいのが特徴です。一般的に『登記簿面積<専有面積<課税床面積』となりやすいでしょう。
5.貸付事業用の小規模宅地特例
相続税の負担を抑えるには、貸付事業用の『小規模宅地の特例』を利用するのもよい方法です。対象となる土地や減額される割合を確認します。
5-1.賃貸マンションの敷地や駐車場も対象
賃貸に出しているなら、土地の相続税評価額も下がりやすいでしょう。貸付事業用の『小規模宅地等の特例』を使用できるからです。対象となる土地の中でも代表的なものを以下に挙げます。
- 賃貸アパートやマンションの敷地
- 駐車場の敷地
- 借地として貸している底地
ただし相続開始前『3年以内』に賃貸し始めた宅地は対象外です。かつて制限が設けられる前は、いつ賃貸を開始しても貸付事業用の小規模宅地の特例が適用されました。
そのため相続開始直前に賃貸用不動産を購入し、相続税申告後に売却する節税策を実践するケースがありました。対策として設けられたのが、3年以内に賃貸し始めた土地は対象外という制限です。
5-2.どれくらい減額されるの?
小規模宅地等の特例が適用されると、区分ごとに決められた割合が相続税評価額から減額されます。減額割合は土地の区分によって以下の通りです。
利用区分 | 限度面積 | 減額割合 |
---|---|---|
貸付事業以外の事業用の宅地等 | 400平方m | 80% |
一定の法人に貸し付けられた法人の事業用の宅地等(特定同族会社事業用宅地等) | 400平方m | 80% |
一定の法人に貸し付けられた法人の事業用の宅地等(貸付事業用宅地等) | 200平方m | 50% |
一定の法人に貸し付けられた貸付事業用の宅地等 | 200平方m | 50% |
被相続人等の貸付事業用の宅地等 | 200平方m | 50% |
例えば貸付事業以外の事業用の宅地等であれば、400平方mまでの土地の相続税評価額が80%減額されます。
6.空室が少ないほど相続税評価額が下がる
賃貸用不動産を相続すると、相続税を納めなければいけません。ただし第三者へ貸し出している賃貸用不動産は、自由に使えません。そこでその不自由さを加味し、相続税評価額を低く評価します。
そのとき用いるのが借家権割合や賃貸割合です。賃貸割合を求める際には、1部屋ごとの床面積の合計に対する、賃貸中の部屋が占める床面積の割合を計算します。
そのため空室が少ないほど割合が高まり、相続税評価額を下げられます。賃貸用不動産の相続税について分からないことがあれば、『税理士法人チェスター』へ相談しましょう。
相続税対策として行うマンション経営の利点を解説した、以下の記事もぜひご覧ください。
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