相続分の譲渡で自分の相続分を人に譲る!目的・方法・注意点は?

相続が発生すると、通常は相続人全員で遺産分割協議による話合いを行い、各自で相続手続きを進めます。
ただ、相続人同士の折り合いが悪い場合や、代襲相続の発生によって相続人の人数が多くなった場合などは、遺産分割協議がまとまらずに長期化してしまいがちです。
「これ以上遺産分割協議でもめたくない…」という方は、相続分の譲渡を検討してみてはいかがでしょうか。
相続分の譲渡とは、ご自身の相続分を他の相続人や第三者に譲り渡すことです。
「相続分を譲渡すれば遺産相続しないんだから、相続放棄で良いんじゃないの?」という気もしますが、両者には違いがあるのでよく検討する必要があります。
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1.相続分の譲渡とは?
相続分の譲渡とは、自身の相続分(地位)を他の人に譲り渡すことです。
民法において相続分の譲渡に関する明白な記載はありませんが、民法905条の条文から「相続分を他の人に譲渡できる」と解釈できます。

なお相続分とは、被相続人(亡くなった人)のプラスの財産(現金や不動産など)とマイナスの財産(債務や未払い金など)を含めた、遺産全体に対する相続人の持分のことで、その割合は民法900条で定められています。
相続分について、詳しくは「法定相続分は相続人の家族構成でこんなに変わる!【ケース別で解説】」をご覧ください。
1-1.自身の相続分を他の相続人や第三者に譲渡できる
自身の相続分は、「他の相続人(共同相続人)」や相続人以外の「第三者」に譲渡できます。
なお、相続分の譲渡をするにあたって他の相続人の同意は不要となるため、譲渡人と譲受人の合意のみで相続分の譲渡は成立します。
例えば、親の相続が発生し、法定相続人が長女・長男・次男の3人としましょう。
この場合、各自の相続分は長女1/3・長男1/3・次男1/3となりますが、ここで長女が長男に相続分の全てを譲渡すると、長男2/3・三男1/3となります(三男の相続分は影響なし)。

なお、第三者に相続分を譲渡することも可能となりますので、相続人ではないご自分の配偶者や内縁の夫や妻はもちろん、血縁関係がない友人知人に相続分を譲渡できます。
ただし、相続人以外の第三者に相続分の譲渡をした場合、いくつかデメリットや注意点があります(詳細は後述します)。
実務的に、第三者に相続分の譲渡をするケースはほとんどありません。
1-2.一部譲渡も可能
相続分の譲渡は、相続分の全部を譲渡ではなく、一部譲渡をすることも可能です。
ただし「一部譲渡の考え方」はよく誤解されるポイントとなりますので、ご留意ください。

相続分譲渡は、あくまでその相続人の「相続分」を他の相続人や第三者に譲渡するため、特定の財産を指定した一部譲渡はできません。
1-3.複数人への譲渡も可能
自身の相続分を誰か1人だけではなく、複数人へ譲渡もできます。
例えば、法定相続分が母・長男・次男であった場合、母の相続分を長男と次男に均等に譲渡できるということです。
1-4.譲渡の対価は有償でも無償でも良い
相続分を譲渡する対価は無償でも有償でも構いませんが、よく考えた上で決断をしてください。
例えば、他の相続人に無償で相続分の譲渡をしてしまうと、民法903条1項に規定された「贈与」に該当するとみなされ、特別受益権や遺留分侵害額(減殺)請求の対象になる可能性があります(最高裁判所判例集 平成29(受)1735)。
また法定相続人以外の第三者に相続分を譲渡する場合は、対価が無償なのか有償によって、課税される税金の種類が異なる(増える)ため、この点にも注意が必要です(詳細は後述します)
1-5.相続分の譲渡はいつまでに行えば良い?
相続分の譲渡を行えるのは、遺産分割協議や遺産分割調停などによって、遺産分割の具体的な割合が決まるまでとなります。
仮に遺産分割後に相続分の譲渡をしてしまうと、遺産分割協議を最初からやり直さなくてはいけません。
2.相続分の譲渡と相続放棄の違い

相続分の譲渡と相続放棄は、その範囲に大きな違いがあります。
相続分の譲渡は、その相続人の「相続分」を他の相続人や第三者に譲るため、相続人であるということは変わりません。
一方、相続放棄は、その相続人の「相続権そのもの」を放棄するため、相続人では無くなります。
では「相続人であること」と「相続人では無くなること」は、具体的にどのような違いがあるのでしょうか?
(1)マイナスの財産の扱いが違う

相続分の譲渡をしても相続人となるため、被相続人に借金などがあった場合、債権者から返還請求をされた場合には、それに応じる必要があります。
しかし、家庭裁判所に相続放棄の申述をして受理されれば、その人は相続人ではなくなるため、債権者からの返還請求に応じる必要はありません。
被相続人の財産が債務超過などマイナスの財産が多い場合には、相続放棄を選択した方が良いと言えるでしょう。

相続放棄について詳しく知りたいという方は、「相続放棄って何?判断基準から手続き方法・期限など、相続放棄の基礎知識」も併せてご覧ください。

相続分の譲渡の場合、相続分を譲渡する側の相続人が、「誰」に相続分を渡すかを決めることが可能です。
相続分を無償で譲渡することもできますし、対価としていくらかお金をもらって有償譲渡することもできます。
しかし、相続放棄は「相続の権利そのもの」を放棄していますので、放棄した相続財産は他の相続人が分割することになります。
相続放棄した相続人は遺産分割に関わることはありませんので、自分の相続分を譲渡する相手を指定することはできません。
3.相続分の譲渡にかかる税金
相続分を譲渡する対価は無償でも有償でも構いませんが、自身の相続分を「誰」に「どのような条件(有償か無償)」で譲渡するのかで、税金の種類や課税対象が変わります。
なお、この章では相続分を譲渡する人を「譲渡人」相続分を譲渡される人を「譲受人」とし、相続税が課税されるケースであると前提してお話をします。
3-1.他の相続人に無償譲渡した場合
譲受人は「譲受人の本来の相続分+譲渡された相続分」が、相続税の課税対象となります。
この場合、無償譲渡であっても遺産分割の利益移転とみなされるため、譲受人に贈与税は課税されません。
譲渡人は相続分を全て譲渡すれば税金は一切かからず、一部譲渡をした場合は「譲渡しなかった相続分」が相続税の課税対象となります。
3-2.他の相続人に有償譲渡した場合
譲受人は対価として有償額を支払うため、「受け取る相続財産と有償額の差額」が相続税の課税対象となります。
譲渡人は「有償金額」が、相続税の課税対象となります。
3-3.第三者に無償譲渡した場合
譲受人は対価として有償金を支払っていないため、「譲渡された相続分」が贈与税の課税対象となります。
譲渡人は相続分の譲渡をしても相続人の地位は残るため、相続税の負担が残ります。
3-4.第三者に有償譲渡した場合
原則譲受人に税金はかかりませんが、有償額が乏しく低額なケースであれば贈与税が課税される可能性があります。
例えば、相続財産の価値が1,000万円あるのに、有償額が100万円である場合などですね。
譲渡人は相続分の譲渡をしても相続人であることに変わりはないため、相続税の負担が残るだけではなく、譲渡対価について譲渡所得税を負担する必要があります。
4.第三者へ相続分の譲渡を行うときの3つの注意点
第三者へ相続分の譲渡を行う際、前章でご紹介した税金の種類の他にも、いくつか注意点があります。
注意①相続分の取り戻し権を行使されれば譲渡は無効になる
第三者に相続分の譲渡を行った場合、他の相続人が譲渡から1ヶ月以内に「相続分の取り戻し権」を行使すれば、他の相続人は譲渡された相続分を取り戻すことができます(民法905条1項、2項)。
相続分が取り戻されてしまうとその譲渡は無効となり、その相続分は他の相続人が分け合う形となります。
相続人からしてみれば、全く関係のない人に財産を渡したくないと思うのは当然ですが、譲られた側からみれば、一度くれたものを返せと言われてもという気持ちになります。
そのため、相続分の取り戻しが行われるには、以下の要件をすべて満たしている必要があります。

他の相続人に相続分を譲渡されている場合は、相続分の取戻権は行使できません。
注意②第三者が遺産分割に参加することになる
第三者に相続分が譲渡された場合には、その第三者には遺産分割協議に参加する権利があります。
そのため、他の相続人から見た時に、全く知らない人が遺産分割協議に参加することとなり、さらに遺産分割協議がまとまりにくくなってしまうことが考えられます。

しかし相続分を他の相続人に譲渡された場合には、単純に譲渡された相続人が譲渡した相続人の相続分を相続するという形になります。
そのため、遺産分割協議がまとまりにくくなる心配はありません。

注意③不動産の登記手続きを2段階で行う必要がある
第三者に相続分の譲渡を行い、その後の遺産分割協議の結果、第三者が不動産の持ち分を取得することになった場合、不動産の登記手続きを2段階で行う必要があります。
この理由は、譲渡人は相続人のままであるため、相続登記をした後に、自己の持分のみを譲受人に移転させる必要があるのです。

不動産の登記手続きが2段階になってしまうと、司法書士への報酬もアップしますし、登録免許税も発生してしまいます。
なお、相続分を他の相続人へ譲渡した場合、通常は相続登記の手続きのみとなります。
5.相続分の譲渡をするメリットとデメリット
ここまででご紹介した内容を元に、相続分の譲渡のメリットとデメリットをまとめました。
相続分の譲渡を検討すべきケースもご紹介しますので、参考にしてください。
5-1.相続分の譲渡のメリット
相続分の譲渡を選択する最大のメリットは、遺産分割協議がスムーズに進行する可能性が高いという点です。
遺産分割では相続人全員で遺産分割協議による話合いをする必要があり、相続人の人数が多いほど話合いがまとまりづらくなります。
遺産分割協議がスムーズにまとまらなければ、遺産を受け取ることもできません。
他の相続人に相続分を譲渡すれば、遺産分割協議に参加する相続人の人数も少なくなり、遺産分割協議がスムーズに進行する可能性が高まります。
ただし、第三者に相続分譲渡した場合は、相続人の人数が変わらないうえ、全く関係ない人が加わることによって遺産分割で揉める可能性がありますのでご注意ください。
5-2.相続分の譲渡のデメリット
相続分の譲渡を選択するデメリットは、相続放棄とは違い、債権者の返還請求に応じなければならないリスクが残るということです。
もちろん相続債務を含めて相続分を譲渡することはできますが、仮に譲受人が返済を滞らせた場合は、譲渡人に請求が来る可能性も否定できません。
仮に第三者に相続分を譲渡していれば、相続税の負担は譲渡人に残ったり、前章でご紹介した注意点がデメリットとなったりすることもあります。
5-3.相続分の譲渡を検討しても良いケース
以下のような状況に複数当てはまるのであれば、相続分の譲渡を検討されても良いでしょう。

例えば、遺産分割協議が長引いている場合、相続分を有償譲渡すれば、早期に自身の相続分を現金化できます。
法定相続人の人数が多く、誰か1人が納得しない(協力する気がない)場合であれば、相続分の譲渡をすることで、遺産分割調停の申立てが早期に終了することもあります。
ただ、遺産分割には「代償分割」という方法もありますので、早期の現金化を望んでいないのであれば、こちらを選択されても良いでしょう。
代償分割について、詳しくは「代償分割とは?遺産を分割する方法や相続税の課税価格の計算方法」をご覧ください。
6.トラブル回避のため相続分譲渡契約をしよう
相続分の譲渡を行う際には、そのやり方についての決まり等は特になく、口約束での譲渡も可能です。
しかしトラブルを回避するという意味で、相続分譲渡契約を交わしておくことをおすすめします。
相続分の譲渡契約を交わす際には、遺産分割協議がまとまる前に「相続分譲渡証明書」を作成して契約を締結し、「相続分譲渡通知書」を発送することが大切です。
なお、相続分譲渡証明書は、不動産の相続登記において必要となる書類となります。
6-1.相続分譲渡証明書の作成方法と注意点
相続分譲渡契約書を作成する前に、譲渡人と譲受人の間で、具体的に「譲渡する相続分の割合」と「有償なのか無償なのか」を話し合いましょう。
具体的に相続分の譲渡内容が決まれば、書面に残すために「相続分譲渡証明書(以下画像)」を作成します。

相続分譲渡証明書の書き方に決まりはありませんが、譲渡人と譲受人の名前や住所、具体的な譲渡内容だけではなく、債務の取り扱いも必ず記載をしてください。
その理由は、相続分の譲渡を行っても、相続人として債務に対する責任を負う必要があるためです。
相続分譲渡証明書に必要事項の記載が終われば、双方の署名押印(実印)をし、譲渡人と譲受人の印鑑証明書を添付します。
6-2.相続分譲渡通知書の作成方法と注意点
相続分譲渡証明書の作成が終われば、他の相続人に「自己の相続分を譲渡した」という事実を知らせるため、「相続分譲渡通知書」を作成します。
仮に第三者に相続分を譲渡した場合、相続分譲渡通知書を送付することで、他の相続人は「相続分の取り戻し権」の行使を検討できます。

相続分譲渡通知書は「内容証明郵便」を利用して、他の相続人全員に送付をしましょう。
内容証明郵便で送付をすれば、相手が郵便を受け取った日付を証拠で残せるだけではなく、郵便物不着といったトラブルを回避できます。
7.まとめ
相続分の譲渡は、譲渡人(もともとの相続人)の相続分を、譲受人(他の相続分や第三者)に譲渡することを言います。
しかし第三者へ相続分を譲渡すると、課税される税金の種類が変わったり、不動産の登記が2段階になったり、遺産分割協議に第三者が介入してトラブルになったりと、いくつか注意点やデメリットがあります。
そもそも相続分の譲渡は、長引く遺産分割協議トラブルを回避するための選択肢です。
相続分の譲渡を行うのであれば、第三者への譲渡は控えるべきと言えるでしょう。
また、債務などマイナスの財産が多い場合には、相続分譲渡よりも相続放棄を選択したほうが良いでしょう。
相続分の譲渡は慎重に判断する必要があるため、後悔しないためにも、必ず相続に特化した専門家に相談されることをおすすめします。
7-1.相続分の譲渡は「CTS法律事務所」へご相談を
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