年金は相続財産になる?税金の種類は?相続手続き3つのポイント
年金を受給していた方が亡くなった場合、遺族は未支給年金や遺族年金を受け取ることとなります。
よくある誤解ですが、公的年金から支給される未支給年金や遺族年金は、相続財産ではありませんので、相続税は課税されません。
ただし、私的年金はみなし相続財産として、相続税が課税される可能性が高いです。
この記事では、年金の相続手続きや遺族年金の種類、一時所得となる場合の確定申告についてまとめました。ぜひ参考にしてください。
この記事の目次 [表示]
1.年金は相続財産?相続税の課税対象になるの?
年金受給者が亡くなった際には、公的年金(国民年金や厚生年金など)から「未支給年金」や「遺族年金」が支給されます。
これらは、遺族の生活を保証するものであるため、「遺族固有の権利」として扱います。
相続財産ではないので遺産分割協議も無関係ですし、相続税も課税されません。

ただし、年金方式で受け取る個人年金保険や企業年金などは、「みなし相続財産」として相続税の課税対象となる可能性が高いので注意が必要です(遺産分割の対象ではありません)。
1-1.公的年金は相続財産にならない
公的年金とは、20歳以上60歳未満のすべての方が加入する国民年金と、会社員等の方が加入する厚生年金保険のことを指します。
国民年金や厚生年金の受給者が死亡した場合、遺族は以下の年金を受け取ることとなります。

未支給年金も遺族年金も相続財産ではありませんので、相続税は課税されません。
しかし、未支給年金は遺族の一時所得となるため、所得税が課税される場合は確定申告が必要です(一時所得の合計が50万円以下であれば非課税)。
なお、遺族基礎年金・寡婦年金もしくは死亡一時金・遺族厚生年金などの遺族年金は、非課税として取扱います。
国税庁「未支給の国民年金に係る相続税の課税関係」でも、詳細が公開されています。
1-2.私的年金は相続財産になる
私的年金とは、個人で積み立てる年金のことで、公的年金の上乗せ給付を保障する制度のことです。
私的年金には、以下のような年金が含まれます。

これらの私的年金は、みなし相続財産として相続税の課税対象となる可能性が高いため注意が必要です。
詳細はこの記事の後半で解説しますが、「みなし相続財産とは?死亡保険金と死亡退職金に相続税がかかるって本当?」でも解説しておりますのであわせてご覧ください。
2.公的年金受給者の相続開始!遺族が行う3つの手続き
公的年金受給者の相続が開始した後は、遺族は以下の3つの手続きをしなくてはなりません。
上記の①②の相続手続きは、「年金事務所」または「年金相談センター」で行います。
③の申請先は居住地を管轄する市区町村役場の窓口ですが、ケースによっては「年金事務所(街角の年金相談センター)」となりますので、必ず詳細を確認してから手続きを行いましょう。
最寄りの年金事務所は、日本年金機構「全国の相談・手続き窓口」から検索していただけます。
「相続発生後の年金手続き!課税対象となる年金は?確定申告は必要?」でも解説しておりますのであわせてご覧ください。
2-1.受給権者死亡届(報告書)を提出
公的年金の受給者が亡くなったら、年金を受給する権利がなくなるため、「受給権者死亡届(報告書)」を提出しなくてはなりません。
受給権者死亡届を提出しないと、いつまでも年金が支払われることとなり、不正受給と認定されてしまいます。
【出典:日本年金機構「記入例 受給権者死亡届(報告書)」】
亡くなった人の年金証書(年金手帳)や、死亡の事実を明らかにできる書類(死亡届や住民票除票など)を添付します。
なお、日本年金機構に個人番号(マイナンバー)が登録されている方の場合は、原則として「年金受給死亡届(報告書)」の提出は不要です(日本年金機構に住民票コードが登録されている場合も提出は原則不要です)。
詳しくは、日本年金機構「年金を受けている方が亡くなったとき」をご覧ください。
2-2.未支給年金を請求
受給権者死亡届の提出と一緒に、未支給年金の請求手続きを行います。
未支給年金とは、本来支給される年金のうち、死後に支払われる年金のことです。
年金には後払いの原則があり、偶数月にまとめて2ヶ月分(前月と前々月)が支給されるため、年金受給者が死亡すると必ず未支給年金が発生します。

未支給年金を請求できるのは、亡くなった年金受給者と生活を共にしていた配偶者・子供・両親・孫・祖父母・兄弟姉妹、それ以外の三親等以内の親族だけです。
未支給年金の請求手続きの必要書類は、以下のとおりです。

未支給年金の請求期限は、時効起算日(年金受給権者の年金支払い日の翌月の初日)から5年以内です。
時効成立すると未支給年金を受給できなくなるため、なるべく早い段階で請求をしましょう。
未支給年金について、詳しくは「未支給年金に相続税はかかる?確定申告・準確定申告は必要?」をご覧ください。
2-3.遺族年金を請求
さいごに、遺族年金の請求を行います。
遺族年金とは、公的年金に加入している被保険者が亡くなった場合、要件を満たした遺族に支給される社会保障制度の一種です。
亡くなった人がどの公的年金に加入していたのか、また、被保険者の家族構成によって、受給できる遺族年金の種類が異なります。
以下が、遺族年金の種類を見極めるためのフローチャートですので、参考にしてください。

遺族年金の請求期限は、生計を維持していた人が亡くなった日の翌日から5年です。
時効成立すると遺族年金を受給できなくなるため、なるべく早い段階で請求をしましょう。
3.遺族年金の種類別!受給要件や請求手続き
遺族年金の種類は以下の通りで、どの遺族年金を受給できるのかによって、請求手続きや準備すべき必要書類が異なります。

「遺族年金はいくら?要件や手続き方法・寡婦年金を具体例で解説」でも解説しておりますのであわせてご覧ください。
3-1.遺族基礎年金とは
遺族基礎年金とは、国民年金の被保険者や年金受給者が亡くなった場合に、その方によって生計を維持されていた「子のいる配偶者」や「子」に支給される遺族年金のことです。
受給対象者となる「子」とは、結婚していないという条件を満たしたうえで、18歳到達年度の末日(3月31日)を経過していないことが必須です(障害年金の障害等級が1級か2級である場合は20歳未満)。
つまり、亡くなった人に未成年の子がいれば、遺族基礎年金を受給できます。
詳しくは、日本年金機構「遺族基礎年金を受けられるとき」をご覧ください。
3-1-1.遺族基礎年金の受給要件
遺族基礎年金を受け取るためには、以下のいずれかの要件を満たす必要があります。

3-1-2.遺族基礎年金の必要書類
遺族基礎年金の請求では、以下の必要書類の提出を求められます。煩雑なのでご注意ください。

第三者の加害事故等が原因で亡くなった場合(例:交通事故が死亡原因)は、事故があったこととそれによって死亡したことを証明する書類が必要になってきます。
それ以外にも、状況によって提出する書類が追加される場合があります。
3-2.寡婦年金とは
寡婦年金とは、遺族基礎年金の受給対象者である18歳未満の子がいない、65歳未満の配偶者(妻)が受給できる遺族年金のことです。
寡婦年金の受給期間は、妻が60歳に達した日の月の翌月から、期限は65歳までとされています。受給額は、夫が受け取るはずだった老齢基礎年金額の3/4です。
詳しくは、日本年金機構「寡婦年金を受けるとき」をご覧ください。
3-2-1.寡婦年金の受給要件
寡婦年金の受給要件は、以下の通りです。

受給要件の婚姻期間については、法律婚のみならず、事実婚も含まれます。
3-2-2.寡婦年金の必要書類
寡婦年金の請求では、以下の必要書類の提出を求められます。

3-3.死亡一時金とは
死亡一時金とは、遺族基礎年金や寡婦年金の受給要件を満たすことができない遺族に支給される遺族年金のことです。
死亡一時金を受給できる遺族の優先順位は、配偶者・子供・両親・孫・祖父母・兄弟姉妹の順となっています。
なお、寡婦年金をもらう資格がある場合には、寡婦年金と死亡一時金のいずれか一方を選択できます。
詳しくは、日本年金機構「死亡一時金を受けるとき」をご覧ください。
3-3-1.死亡一時金の受給要件
死亡一時金の受給要件は、以下の通りです。

死亡一時金は、被保険者が亡くなった日の翌日から2年以内に請求をしなければなりません。
3-3-2.死亡一時金の必要書類
死亡一時金の請求では、以下の必要書類の提出を求められます。

3-4.遺族厚生年金とは
遺族厚生年金とは、厚生年金の被保険者や厚生年金受給者が亡くなった場合に、その方によって生計を維持されていた遺族に支給される遺族年金のことです。
なお、遺族基礎年金を受け取れる場合は、遺族基礎年金と遺族厚生年金の両方を受け取ることができます。
遺族厚生年金の金額は、亡くなった人の被保険者期間をもとに算出します。亡くなった人が受給できる老齢厚生年金額の3/4が受給額になります。
詳しくは、日本年金機構「遺族厚生年金を受けられるとき」をご覧ください。
3-4-1.遺族厚生年金の受給要件
厚生年金受給者が亡くなった場合には、その人の受給資格に問題がない限り、遺族に遺族厚生年金が支払われます。請求する遺族には、要件があります。

遺族厚生年金を受給できる遺族の優先順位は、第一位が配偶者か子供、第二位が両親、第三位が孫、第四位が祖父母となっています。
3-4-2.遺族厚生年金の必要書類
遺族厚生年金の請求時に提出すべき必要書類は、遺族基礎年金の時に述べたものとほぼ同じなので、参考にしてください。
4.未支給年金は相続財産ではなく一時所得!確定申告を
公的年金から支給される未支給年金は、相続財産ではありませんので、相続税の課税対象にもなりません。
しかし、受け取った未支給年金が50万円超えであれば、他に一時所得がなくても、遺族の一時所得として所得税・住民税が課税されますので、確定申告が必要です。
逆に、未支給年金が50万円以下であり、他に一時所得がなければ、所得税は非課税となりますので、確定申告は不要です。
4-1.一時所得の計算方法
一時所得の金額は、以下の計算方法で算出します。

未支給年金を受け取る遺族は、年金の保険料を支払っていないため、経費は考慮されません。
一時所得として課税される金額は、給与所得等の他の所得と合算した上で、所得税・住民税の計算を行います。
4-2.確定申告の必要書類
未支給年金を受け取った遺族に一時所得として所得税が課税される場合は、確定申告を行う義務があります。
ただし、特別な書類を準備する必要はありません。
通常の確定申告書に、必要事項を記載して提出するだけとなります。
- 確定申告書AまたはBの第一表
- 確定申告書AまたはBの第二表
- 本人確認書類
- 所得控除や税額控除に関連する書類
5.私的年金はみなし相続財産!相続税の課税対象に
公的年金は相続財産ではないため、相続税は課税されないと解説してきました。
しかし、個人年金保険・企業年金・iDECOなどの私的年金は、みなし相続財産として相続税の課税対象となる可能性が高いです。
5-1.個人年金保険
個人年金保険とは、民間の保険会社が販売している年金商品のことを指します。
個人年金保険の被保険者が亡くなった場合、被保険者・保険料負担者・年金受給権の取得者の関係性によって、その年金受給権には相続税もしくは贈与税が課税されます。

個人年金保険の税務は複雑ですので、必ず保険会社に詳細を確認されることをおすすめします。
詳しくは、国税庁「遺族の方が支払を受ける個人年金」もあわせてご覧ください。
5-2.企業年金
企業年金とは、従業員の生活保障のために企業が導入する年金制度のことです。
企業年金の税務は、どのタイミングで被保険者が亡くなったのかで取扱いが異なります。
企業年金の受給前に死亡した場合、企業年金は退職手当金としてみなし相続財産となり、相続税が課税されます。
しかし、死亡退職金には非課税枠(法定相続人の数×500万円)を適用できますので、非課税枠を超えた部分のみが課税対象となります。
企業年金の受給中に死亡した場合、その残りの企業年金は遺族給付金として年金受給権となり、みなし相続財産として相続税が課税されます。
ただし、相続税の非課税枠は適用できませんので、一時金として受け取った額が課税対象となります。
詳しくは、国税庁「相続税等の課税対象になる年金受給権」をご覧ください。
5-3.iDECO(個人型確定拠出年金)
iDECOとは、個人で加入して掛金を払って運用する、個人型確定拠出年金のことです。
iDECO加入者が死亡した場合、遺族は死亡一時金を受け取ることとなります。
この死亡一時金は、みなし相続財産として相続税の課税対象となりますが、相続税の非課税枠を適用できます。
そのため、遺族が受け取った死亡一時金から、非課税枠を差し引いた後の価額に、相続税が課税されることとなります。
6.相続開始後の年金手続きでよくある質問Q&A
年金の相続手続きに係る、よくある質問をまとめたので参考にしてください。
6-1.公的年金の相続手続きをしないとどうなる?
年金の相続手続きをしないと不正受給と認定され、過払い年金の返還を求められます。
必ず相続開始から10日以内(国民年金は14日以内)に、受給権者死亡届や必要書類を提出しましょう。
また、未支給年金や遺族年金の請求をしないと、これらを受給する基本権の時効が成立します。
未支給年金は「亡くなった年金受給者の年金の支払日の翌月1日から起算して5年以内」、遺族年金は「生計を維持していた人が亡くなった日の翌日から5年」が期限ですので、必ず請求を行いましょう。
6-2.遺族年金と自分の年金は両方もらえる?
公的年金には、遺族・老齢・障害の3種類の支給事由があり、原則としていずれか1つの年金を選択することとなります。
ただし、特例的に2つ以上の年金の受給権が発生することがあります。
ケースによって対応が異なりますので、必ず年金事務所などに問い合わせをしましょう。
日本年金機構「年金の併給または選択」もあわせてご覧ください。
6-3.相続放棄している場合は未支給年金や遺族年金はもらえない?
遺族が受け取る年金は、「受取人(遺族)固有の財産」となります。
相続財産にはならないため、相続放棄をしていても、未支給年金や遺族年金をもらうことが可能です。
未支給年金や遺族年金の受給後でも、相続放棄を選択することも可能です。
詳しくは、「遺族年金や未支給の年金は相続放棄をしても受給できるのか?」をご覧ください。
7.まとめ
公的年金から支給される未支給年金や遺族年金は、遺族固有の財産です。
相続財産ではありませんので、遺産分割協議の対象にもならず、相続税も非課税で、相続放棄をしても受給できます。
ただし、未支給年金と他の一時所得が50万円超えである場合は、所得税・住民税等が課税されるため、確定申告が必要となります。
私的年金は相続税の課税対象となる可能性が高く、非課税枠の適用要否が異なるため注意が必要です。
ご不明点がある方は、税理士や年金事務所に相談されることをおすすめします。
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