ペットは相続できない?大切な家族を守る3つの生前対策とは

ペットを我が子のように大切にしている方が増えています。しかし、法律上ペットは家族とは認められていないため、飼い主に万が一のことがあったときでもペットが遺産を相続することはできません。
このため、飼い主亡き後ペットが安心して暮らせるようにするためには、生前のうちの準備が重要です。
本記事では遺言書・ペット信託・動物愛護団体などを活用したペットを守るための3つの対策や、遺言書作成のポイントをわかりやすく解説します。
ペットと飼い主の安心のために、ぜひ参考にしてください。
この記事の目次 [表示]
1.家族同然なのに!ペットは財産を相続できないって本当?
ペットを家族同然の存在として大切にしている方が増えています。自分に万が一のことがあったときは、家族におこなうのと同様に自身の財産をペットに残したいと考える方もいるでしょう。
しかし、どんなに大切な存在であっても、財産をペットに相続させることはできません。ここではなぜペットに相続ができないのか、ペットに財産を残したい場合はどのような方法があるのかについて解説します。
1-1.民法では相続人になれるのは「人」だけ
民法第887条以下では、相続人になれるのは配偶者・子・直系尊属・兄弟姉妹など「人」に限定しています。このため、家族同然に大切な存在であってもペットは相続人になれません。
相続ができないことから、他の方法でペットに財産を承継させようと考える方もいるでしょう。
亡くなったあとに財産を継承する方法として、相続の他に「遺贈」もあります。これは遺言書に「○○に財産を遺贈する」と書くことで、相続人ではない人に遺産を承継させる方法です。
遺贈は公共団体やNPO法人などに遺産を寄付するときも有効な手段ですが、財産の継承先としてペットを指定することはできません。
つまり、ペットに対しては相続と遺贈のどちらも不可ということになります。
参考:e-Gov法令「民法第887条」以下
1-2.直接ペットに相続させるのは不可能
ペットに対して相続と遺贈ができないということは、飼い主の財産を直接ペットに渡せないということになります。
自分が亡くなったあと、大切なペットが幸せに過ごせるように財産を残したい場合は、遺言書や信託契約などを使ってペットを預かってくれる人に財産を承継させる必要があります。
2.ペットは相続財産のひとつ?法律的な位置づけを解説
ペットは相続人ではなく、相続の対象となる財産のひとつです。つまり、遺産分割の対象となります。
ここからは、相続におけるペットの法律的な位置づけを解説します。
2-1.ペットは相続財産の「動産」!相続税の課税対象となる
ペットは相続財産のうち「動産」となり、相続税の課税対象でもあります。動産ということは、現金・有価証券・自動車・宝飾類などと同じ分類ということです。
民法第85条で「物」の定義として形があって物理的に存在するもの、すなわち「有体物」であると定めています。また、第86条では土地や建物とは異なり動かせるものは「動産」であるとしています。ペットは動かせる有体物なので、動産と分類されるというわけです。
ペットは相続税の課税対象となる財産のひとつではありますが、実際には相続税の評価額がゼロになります。評価額は売買した場合の取引金額になりますが、犬や猫、鳥などのペットを飼い主が売る行為は困難だからです。このため、ペットは相続財産ですが相続税に影響することはほとんどありません。
ただし、ペットが魚や両生類、昆虫などで売買が可能な種類だったケースでは、買取金額が相続税評価額になります。
2-2.誰がペットを引き継ぐのかは相続人の間で決めるのが原則
ペットは相続財産のひとつなので、飼い主が亡くなったら誰かにペットを承継してもらう必要があります。
誰がペットを引き継ぐのかについては、遺産分割協議で相続人同士が決めるのが原則です。
しかし、居住環境や体調の問題などもあり、相続人全員がペットを引き継ぐことができるわけではありません。このため、ペットを飼っている方は万が一のことがあったときにペットの世話をしてもらえるかどうかを、相続人となりうる家族に相談しておくことをおすすめします。
そのうえで、遺言書を準備しておけば、遺産分割協議を経ずに引き継ぐ人を指定することが可能です。
3.ペットの将来を守るために!飼い主が今からやっておきたい3つの生前対策
飼い主に万が一のことがあったとき、世話をしてくれる人がいなければペットも共倒れになってしまいます。特に一人暮らしでペットと生活している方は、万が一のことがあったときにペットが困らないように対策をしておく必要があるでしょう。
ここでは、今からやっておきたい対策3つをご紹介します。
| ①遺言書 | ②ペット信託 | ③動物愛護団体 | |
|---|---|---|---|
| 費用 | 遺言書の種類によって異なる (自筆証書遺言:数千円・公正証書遺言:5~10万円) | 設定費用は10~30万円程度 管理報酬が年間数万円かかるケースもある | 団体によって異なる 場合によっては数万~百万円の寄付金や預かり金を求められるケースもある |
| 手続きの 手間 | 自筆証書遺言なら自分で作成可能 公正証書遺言は公証役場での手続きが必要 | 契約内容の設計や信託口座開設などがやや複雑で手間がかかる | 事前登録や契約、条件の確認が必要 |
| 確実性 | 中程度 (形式の不備や受遺者拒否などで実現しないケースも) | 高い (信託法に基づき管理されるため、資金と飼育の両方が担保される) | 中~高 (団体によっては受け入れ制限があるため、団体選びによって左右される) |
| 専門家の 関与 | 公正証書遺言の場合は弁護士・司法書士・公証人の関与が必要 | 弁護士・司法書士などの専門家の関与が必要 | 専門家は不要だが、契約内容確認のために相談できると安心 |
3-1.対策①遺言書でペットを託す
ペットに財産を残すことはできないものの、遺言書を活用することで「誰に引き取ってもらうか」「飼育費用をどのように残すか」を指定することができます。
特に相続人ではない人にペットを託したい場合は、遺言書にペットの引取先や飼育費用について盛り込むことが大切です。ペットの引取先や飼育費用が明確になれば、自分にもしものことがあったときもペットが路頭に迷う可能性が低くなるでしょう。
遺言書には種類があり、よく使われているのは自筆証書遺言と公正証書遺言の2つです。
自筆証書遺言は自分ひとりで遺言書の作成を完結できるため、費用はほとんどかかりません。しかし、形式の不備や紛失のリスクがあり、せっかく作成しても無効になることがあります。
一方の公正証書遺言は、原則公正役場で作成し保管してもらう遺言書なので安心です。ただし、2人の証人や公証役場での手続きが必要となります。
遺言書を作成する際に自筆証書遺言がよいのか、それとも公正証書遺言のほうがよいのかを迷う方がいるかもしれません。
以下の記事ではそれぞれのメリット・デメリットを詳しく解説しています。ぜひ参考にしてください。
参考:自筆証書遺言書の作成から使用に至るまで、知っておくべき4つのこと
3-1-1.「負担付遺贈」を利用する
負担付遺贈とは、「ペットのお世話」を条件に財産を遺贈する方法です。
例えば、「愛犬の○○の世話をする代わりに300万円を渡す」などという形で指定することができます。お金と引き換えに飼育を依頼するため、引き受ける側は責任を持ってペットの世話を続けられるでしょう。
また、ペットを引き受けることで迷惑を掛けてしまうという心配も軽減できます。
3-1-2.「負担付死因贈与契約」を締結する
負担付死因贈与契約とは、生前に「ペットのお世話をする人に財産を贈与する」という契約を結んでおき、飼い主が亡くなった時点で効力が発生する契約です。
遺言書を作成したうえで、負担付死因贈与契約を締結すると、確実性がさらに高まります。
飼い主と受け取る側両方が合意のうえで契約をするので、一方的に放棄することは原則認められていません。このため、負担付遺贈よりも確実にペットを守る方法といえます。
▼負担付死因贈与契約書の例

3-1-3.いずれにしても引き受けてくれる相手の合意が不可欠!
負担付死因贈与契約だけではなく遺言書を作成する場合も、引き受けてくれる相手の合意は不可欠です。
もしペットをお世話するように書いていても、相手が引き受けてくれなければその遺言書は効力を発揮しないこともあります。相手の事情もあるので生前のうちに必ず話し合い、合意している旨を書面に残すことが大切です。
3-2.対策②ペット信託で専門機関に託す
ペット信託とは、飼い主が信託会社や専門家に資金を預けて飼育費用を管理してもらいながら、ペットのお世話をしてくれる人に託す仕組みです。

信託契約に基づき飼い主が希望した飼育がおこなわれているのかを第三者が監督してくれるので、安心度の高い方法といえます。
ただし、初期の契約費用や管理報酬などといったコストがかかるので、注意が必要です。初期費用は50万円程度で、年単位で維持費が発生することもあります。
ペットの種類によっても飼育費用が変わってくるので、トータルではより高額になるでしょう。
ペット信託については以下の記事で詳しく解説しています。費用はかかるものの、第三者の監督があることで最も安心度の高い方法といえます。自分がお世話できなくなったとき、ペットを確実に託したい場合は契約を検討してみるとよいでしょう。
参考:【ペット信託とは】手続きや費用、メリットをわかりやすく解説!
3-3.対策③動物愛護団体などに依頼する
身近にペットを託せる人がいない場合は、動物愛護団体やシェルターなどに依頼する方法もあります。引き取り制度を設けている団体もあり、事前の登録や寄付金によって飼い主が亡くなったあとの引き取りを約束してくれるケースがあります。
ただし、受け入れの条件や必要な費用、運営状況は団体によって異なるため、事前の確認が必要です。信頼できる団体を選び、事前に契約をしておけば、残されたペットを安心して託すことができるでしょう。
4.ペットを確実に託すために!遺言書を作成するときのポイントと文例
飼い主が亡くなったときに、ペットを託すためには遺言書を作成することが大切です。
しかし、せっかく遺言書を作成していても、書くべき内容が含まれていなかったり正しい形式で書かれていなかったりすると、無効になることがあります。
そこで、遺言書を作成するときのポイントと文例を解説します。
4-1.必ず記載すべき3つの項目
ペットを誰かに託す場合、必ず遺言書に記載すべき内容が3つあります。
- 誰にペットを引き継いでもらうのか
- 飼育費用をどのように渡すのか
- 引き受けを確実にするための条件や代替措置(受け入れできない場合、次に誰を指定するかなど)
遺言書にまずは、ペットの引受先を必ず明記しましょう。ペットを託す人には事前に相談しておき、しっかりと了解を取っておくことが大切です。
また、引取先に飼育費用をどのように渡すのかも書きましょう。例えば「○○銀行の口座にある△△万円を■■に相続する」などと、具体的に書く必要があります。
そのほか、引き受けを確実にするための条件や代替措置も明記しておきましょう。事前に約束していたとしても、遺言書の効力が発生するタイミングで引受先にペットを託せないということがあるからです。
例えば、引受先だった人が入院してしまうなど、ペットのお世話ができない状況になるケースも想定する必要があります。引受先がペットを受け入れることができない場合は、誰にお願いするのかを指定しておくとよいでしょう。
4-2.【文例付き】ペットに関する遺言書の書き方
先ほど述べたように、ペットを守るためには遺言書に「誰に託すのか」「飼育費用をどう渡すのか」「条件や代替措置」の3つを盛り込むことが大切です。
- ペットの名前・種類・特徴・性別・年齢などを明記して特定できるようにする(特に何匹も飼育している場合には注意する)
- 飼育費用の金額や渡し方を明確に記す(どの口座に入っているお金を充てるのかまで書く)
- 代替の引取先を示す(受取人が引き受けられないことも想定する)
上記を踏まえて、遺言書に書く文例を3つご紹介します。
【犬1匹を長女に引き渡すケース】
私は上記飼育を条件として、現金200万円をAに相続させる。
万が一、Aが当該ペットを引き受けられない場合には、友人Bに託し、同じ条件で飼育を依頼する。
【猫2匹を姪に引き渡すケース】
私は上記飼育を条件として、私の死亡後、○○銀行□□支店にある私の普通預金口座から300万円をCに遺贈する。
Cがこれを受け入れられない場合には、動物愛護団体Dに引き渡すものとし、同額をBに遺贈寄付する。
【信託や監督人を組み合わせるケース】
信託の受託者は司法書士Fとし、Fは飼育費用を管理し、定期的にEが適切な飼育をしているかを確認する。
4-3.遺言書を作成する際は「遺留分」にも注意すること!
ペットのために飼育費用を確保し新しい飼い主に託すことは大切ですが、遺留分には注意する必要があります。
遺留分とは、配偶者や子などの相続人に保障されている最低限の取り分です。遺留分は遺言書よりも優先されるため、あとから争いに発展する可能性があります。
遺言書を作成すれば全額ペットのために遺産を使えるわけではなく、遺留分を侵害しないような金額を設定することが重要です。
遺留分については以下の記事で詳しく解説しています。被相続人との関係によって遺留分の割合が異なる、兄弟姉妹には遺留分がないなど、遺留分には注意したいポイントがあります。
これから遺言書を作成しようと考えている方は、ぜひ遺留分についても知っておいてください。
参考:遺留分とは何のこと?「遺留分」を知って相続トラブルを最小限に-計算や万が一の対応まで
4-4.遺言書は「公正証書遺言」がおすすめ
遺言書には「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3つがあります。
自筆証書遺言や秘密証書遺言は自分で作成できるため、あまり費用がかからず気軽に残せる遺言書です。しかし、形式の不備があったり発見されなかったりすると、せっかく作成した遺言書でも無効になることがあります。
このため、確実に効力を発生させたいなら、公正証書遺言がおすすめです。

公正証書遺言は主に公証役場で手続きをし、専門家が遺言書の作成に関与します。作成した遺言書は公証役場で保管されるので、紛失や改ざんの心配がありません。
自筆証書遺言では本当に被相続人が作成したものなのかを確認するための検認が必要で、その分相続発生後の手続きに時間がかかります。
一方、公正証書遺言であれば手続きはスムーズに進むので、ペットの引き受けも滞らずにおこなえます。
公正証書遺言の作成方法や費用については、以下の記事で詳しく解説しています。ペットの将来のために遺言書を残したいという方は、ぜひ参考にしてください。
参考:公正証書遺言とは?法的効力・作成方法・費用・必要書類を解説
5.ペットの相続に関してよくある質問
ペットの相続は経験した人が少ないこともあり、わからないことが多いという方もいるのではないでしょうか。
そこで、ペットの相続に関してよく出てくる質問に対する回答を解説します。
5-1.ペットの相続、海外ではどうなっているの?
海外では大富豪が「全財産をペットの○○に遺贈する」と遺言書を残し、多額の遺産を手に入れるペットがニュースになることがあります。
実際にアメリカでは、500万ドル、当時のレートで約5億2,000万円もの遺産相続をしたルールーという名前の犬がいると報道されました。飼い主は亡くなったあと生前から親しくしていた友人にルールーを託し、お世話にかかった費用は遺産から返済されることになっています。
つまり、ルールーが直接遺産を「相続」したのではなく、形式的には信託や管理人を通じて費用が支払われる仕組みが活用されたことになります。
5-2.最近耳にする「ペット相続士」とは?
ペット相続士とは、日本ペットトラスト協会が認定する民間資格です。ペット相続士の役割は、ペットの飼い主に相続や終活のアドバイスを行うことです。
飼い主と専門家の橋渡し役としてペット信託に関わることもあるため、弁護士や司法書士、行政書士などがペット相続士の資格を保有しているケースもあります。
5-3.引き取り手が見つかるまでの間の飼育費は誰が負担するの?
遺産分割協議が終わるまでの間、ペットは相続人の共有財産になります。
このため、引き取り手が見つかるまでの期間にかかった飼育費は、相続人全員の同意のうえ遺産から拠出します。
5-4.相続放棄された場合や引き取り手のなかったペットはどうなるの?
相続放棄する、または引き取り手がなかった場合、ペットは保健所や動物愛護センターに送られることになります。
動物愛護センターでお世話をしてもらったり新しい飼い主が見つかったりすれば安心ですが、そうでなければ保健所で処分されるケースもあります。
生前のうちから預け先や飼育費用を明確にして、飼い主がいなくなったあとペットが悲しい結末を迎えないように対策を取りましょう。
6.まとめ:大切なペットのために、元気なうちから専門家へ相談を
ペットは法律上「人」ではないため、相続や遺贈で飼い主の財産を直接受け取ることができません。しかし、飼い主が生前のうちに適切な対策をおこなえば、ペットの将来を守ることができます。
遺言書を活用するなら、引取先や飼育費用、代替措置を盛り込むことが大切です。また、確実性を高めるために公正証書遺言での作成をおすすめします。
ペット信託では資金の管理や飼育状況の監督もできるため、より安心してペットが暮らせる環境を整えられるでしょう。
ペットを託せる人が見つからなかった場合は、信頼できる動物愛護団体に事前登録をしておくと万が一のときに助けてもらえます。
ただし、どちらの方法を選択する場合も、相続人の遺留分を侵害しないように注意が必要です。大切なペットを守るためには、元気なうちから専門家に相談し安心できる仕組みを整えておきましょう。
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