相続した空き家はリスクあり-対処法と特例措置の適用をチェック

空き家相続のリスクを減らすためにやるべきことは、以下の2つです。
空き家を相続した際にやるべきこと
- 3年以内に相続した空き家を売却する
- 空き家に住み小規模宅地の特例を受ける
建物が劣化すると、近隣トラブルや支払う税金が高くなるなどの要因となります。そのため、相続した空き家は『空き家特例』を活用して、早めに売却することをおすすめします。
相続した空き家を放置するリスクや、管理で損しないためにおこなうべきことを理解し、空き家をスムーズに処分する方法を確認しましょう。
この記事の目次
1.相続した空き家を放置するリスク
故人の家から離れて生活していた家族が、故人の家を相続する際は注意が必要です。
家は、人が住むことなく手入れされずに放置されているとすぐに劣化します。また、劣化による衛生上の問題に加えて、空き家を利用した犯罪に利用される可能性があり危険です。
そうした背景から、国は空き家の増加にともなうさまざまな問題に対処する『空家等対策の推進に関する特別措置法』を制定し、空き家対策に取り組んでいます。
空き家相続でトラブルに巻き込まれないために、空き家を放置した場合のリスクと注意点を理解することが重要です。 参考:空家等対策の推進に関する特別措置法|e-Gov法令検索
1-1.管理上の負担が増える
特定空き家等に認定されないためには、空き家の定期的な管理が必要です。
しかし現実問題として、屋内の清掃や庭の手入れなど、管理には手間や時間のかかる作業がともないます。
遠方に住んでいたり多忙で時間が取れなかったりする状況では、近隣の親戚に頼んだり空き家管理サービスを利用したりする方法も効果的です。
ただし空き家管理サービスはもちろんのこと、近隣の親戚に依頼する場合でも報酬が必要なことを考慮しましょう。
1-2.近隣トラブルの原因になる
税金や劣化による資産価値の下落は、自分自身や身内だけの問題で済みます。しかし空き家の放置は、さまざまな近隣トラブルの原因となります。
空き家を放置することによるトラブル例
- 害虫や害獣の棲み処となる
- 犯罪集団の拠点となる
- 自然災害による倒壊のリスクが高まる
- ゴミの不法投棄場所となる
- 放火されるリスクが高まる
1-3.固定資産税を継続的に支払う必要がある
空き家を保有し続ける限り、固定資産税を毎年支払う必要があります。固定資産税は、毎年1月1日時点で固定資産課税台帳に不動資産所有者として登録される人に課税される地方税です。
建物の場合は「課税台帳の登録価格×標準税率1.4%(自治体によって異なる場合あり)」が税額となります。建物を取り壊して更地にしてしまえば、建物への固定資産税は不要です。しかし「住宅用地の軽減措置特例」が適用されなくなるため、土地にかかる固定資産税が跳ね上がってしまいます。そのため安易に更地にすることは危険です。
住宅用地の軽減措置特例は、敷地面積に応じて6分の1(または3分の1)の減額が適用されます。土地の固定資産税と住宅用地の軽減措置特例については、以下のとおりです。
敷地面積200平方mまで | 敷地面積200平方mを超える部分 | 更地 |
---|---|---|
課税標準額×1/6×1.4% | 課税標準額×1/3×1.4% | 課税標準額×1.4% |
1-4.相続税や登録免許税を支払う必要がある
空き家に限った話ではありませんが、不動産を相続した場合は相続税や登録免許税を支払う必要があります。相続税と登録免許税の申請については、以下のとおりです。
税の種類 | 相続税 | 登録免許税 |
---|---|---|
納付期限 | 相続開始から10ヶ月以内 | 登記申請時に納付 |
納付先 | 税務署 | 法務局(収入印紙にて納付) |
課税対象 | 固定資産税評価額より基礎控除を差し引いた額 | 固定資産税評価額 |
税率 | 基礎控除後の額に応じて10~55% | 0.4% |
なお相続税の具体的な計算については「相続税計算シミュレーション」をご活用ください。
なお、不動産の相続では『相続登記の登録免許税の免税措置』が設けられています。こちらも参考にしてください。 参考 : 相続登記の登録免許税の免税措置について|法務局
2.相続した空き家のリスクを減らすためにとるべき選択肢2つ-対処法を把握
空き家のリスクを減らす対処法は、3年以内に不動産を売却するか、小規模宅地の特例を受けるかの2つです。
相続した家に誰も住まない場合、ゴミを不法投棄される可能性や、犯罪の温床になるリスクがあります。加えて、『空家等対策の推進に関する特別措置法』の空き家に認定されないために、家の状態を維持しなければならず、所有者の負担になります。
これらのリスクを軽減する対処法は、相続後に転居するか否かで異なるため、それぞれの場合を確認し、自身に合った対処方法を選びましょう。
2-1.3年以内に相続した空き家を売却する
相続開始から3年以内をめどに空き家を売却することで、譲渡所得に対する最大3000万円の特別控除制度(空き家特例と呼ばれています。)の適用を受けられます。この特例制度は、令和5年12月31日までの売却が対象となる時限措置です。
細かな要件や手続については後述の『空き家特例』にて解説します。ただし地域によっては、空き家に買い手がつかないこともあるため注意しましょう。
2-2.空き家に住み小規模宅地の特例を受ける
被相続人が居住していた空き家とともに相続した土地の評価額は、小規模宅地等の特例制度の「家なき子特例」を使うことで80%減額できます。
家なき子特例とは、土地の評価額を下げる小規模宅地の特例において、以下の要件に該当した場合に利用できる制度です。
家なき子特例の適用要件
- 亡くなった人に配偶者や同居の親族がいない
- 宅地を相続した親族が相続の3年前までに「自己または自己の配偶者」「3親等以内の親族」「特別の関係がある法人」の持ち家に住んだことがない
- 相続した宅地を相続税の申告期限まで保有する
- 相続開始時に居住している家屋を過去に所有していたことがない
3.相続した空き家売却への特例措置「空き家特例」
相続により取得した空き家から解放されるためには、なるべく早く売却することをおすすめします。
売却する場合は「取得した空き家で損しないための3つの対策」の特例措置により、譲渡所得から最大3000万円控除できます。
3-1.空き家特例措置の適用条件-チェックシートで確認
空き家特例措置を受けるためには、相続の開始時期や家の建築年度など細かな条件を満たしている必要があります。
以下のチェックシートで条件を1つずつ確認し、空き家特例措置を受けられるか確認しましょう。
▲条件を満たせば3,000万円の特別控除の特例が適用される 参考:相続した空き家を売却した場合の特例チェックシート|国税庁
3-2.申請に必要な書類
「空き家特例」を適用するためには、確定申告の際に以下の書類提出が必要です。
特例の適用申請に必要な書類
- 譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)
- 売却家屋の登記事項証明書
- 売却家屋の所在地を管轄する市区町村長から交付された「被相続人居住用家屋等確認書」
- 耐震基準適合証明書または建設住宅性能評価書の写し
- 売却価額が1億円以下であることを証明する売買契約書など
3-3.特例措置を適用した納税額計算式-シミュレーション
「空き家特例」を適用する場合は、納税額を「(譲渡価額-取得費-諸費用-特別控除額)×税率」で算出します。以下の前提条件に従い、適用有無による納税額の違いを計算します。
計算例の前提条件
- 譲渡価額は4000万円とする
- 取得費は不明のため譲渡価額の5%で計算して200万円とする
- 取り壊しは行っていないため諸費用は0円とする
- 所有期間は30年(長期譲渡所得)であるため税率は20%とする
- 復興特別所得税0.315%は考慮しないものとする
納税額の計算例 | 計算式 |
---|---|
特例の適用を受ける場合 | (4000万円-200万円-3000万円)×20%=160万円 |
特例の適用を受けない場合 | (4000万円-200万円)×20%=760万円 |
上記の計算例では、特例の適用有無により納税額に600万円の差が出ることがわかります。
4.空き家を相続した場合の登記手続のやり方
相続登記は、該当不動産を管轄する法務局へ以下の書類を持参、または郵送かオンラインによる添付で申請します。
相続登記が完了しないと、空き家を売却できません。また、他の相続人と共同で相続する場合、相続登記前にその共同相続人が亡くなると登記が複雑になってしまいます。
相続登記に期限はありませんが、相続後はなるべく早く登記手続を済ませましょう。
4-1.申請に必要な書類
相続登記の申請には、登記申請書以外に、戸籍謄本や印鑑証明書などさまざまな書類が必要になります。
以下の表を確認して、申請時に必要な書類をもれなく用意しましょう。
相続登記申請に必要な書類 | 書類の概要 |
---|---|
登記申請書 | 司法書士に依頼するのが一般的です |
相続登記の対象となる不動産の登記事項証明書(登記簿謄本) | 全国どこの法務局でも取得可能です |
被相続人の住民票の除票(または戸籍の附票) | 被相続人の死亡後に住民票から除外されたことを証明するものです |
被相続人の出生時から死亡時までの戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍 | 法定相続人を確定するために必要です |
相続人全員の戸籍謄本 | 被相続人のように出生時までのものは必要なく、現在の戸籍謄本で構いません |
遺産分割協議書もしくは遺言書 | 遺産分割協議書には相続人全員の実印による押印が必要です |
相続人全員の印鑑証明書 | 遺産分割協議書に押印した実印の印鑑証明書が必要です |
対象不動産を相続する相続人の住民票 | 対象不動産を相続しない相続人は不要です |
固定資産評価証明書 | 相続登記する年度のものが必要です |
登記申請書は「遺産分割協議」「遺言」「法定相続分」の3パターンで、それぞれ書式が異なります。書式は法務局の公式サイトよりダウンロード可能です。しかし専門的な知識が要求されるため、司法書士に依頼することをおすすめします。
遺産分割協議書および印鑑証明書については、ほかに相続人がいない単独相続もしくは法定相続分による相続の場合には不要です。
固定資産評価証明書については、被相続人が亡くなった年度ではなく、実際に相続登記する年度であることを把握しておきましょう。
なお、相続登記時には、法定相続情報一覧図も合わせて準備することをおすすめします。相続登記の申請手続のほか、さまざまな相続手続に利用することで、相続人と相続担当部署双方の負担を軽減できます。
参考:相続登記の登録免許税の免税措置について|法務局
参考:「法定相続情報証明制度」について|法務局
4-2.申請の流れ
不動産に関する相続が発生した場合、空き家に限らず相続登記手続の申請が必要です。登記手続の流れは以下のとおりです。
- 不動産の所在地を管轄する法務局はどこか調べる
- 必要書類と登録免許税を準備する
- 書類が揃っているか再度確認し相続登記の申請をおこなう
申請は、管轄法務局への書類持参と郵送以外に、平成20年7月からすべての法務局でオンライン申請に対応しました。
また、登録免許税は、書類の持参や郵送の場合、収入印紙を利用できます。オンライン申請の場合は、インターネットバンキングやATMからの振込が可能です。
参考:不動産の所有者が亡くなった(相続の登記をオンライン申請したい方)|法務局
参考:手数料の納付(かんたん証明書請求)|登記ねっと
4-3.相続登記にかかる費用一覧
相続登記にかかる費用は、必要書類によって変動します。書類取得に必要な費用は「遺産分割協議」「遺言」「法定相続分」の3パターンで比較しましょう。
書類 | 遺産分割 | 遺言 | 法定相続分 | 相続登記の費用 |
---|---|---|---|---|
不動産の登記事項証明書 | 〇 | 〇 | 〇 | 1通480~600円(申請方法による) |
被相続人の住民票の除票 | 〇 | 〇 | 〇 | 自治体による |
被相続人の戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍 | 〇 | △(戸籍謄本のみ必要) | 〇 | 戸籍:1通450円 除籍・改正原戸籍:1通750円 |
相続人全員の戸籍謄本 | 〇 | △(不動産取得者のみ必要) | 〇 | 1通450円 |
相続人全員の印鑑証明書 | 〇 | - | - | 自治体による |
対象不動産を相続する相続人の住民票 | 〇 | 〇 | 〇 | 自治体による |
固定資産評価証明書 | 〇 | 〇 | 〇 | 管轄による |
上記以外にも、登記申請書や遺産分割協議書の作成を司法書士に依頼した場合や、相続税の申告手続きを税理士に依頼した場合の報酬にかかる費用も必要です。
5.空き家の相続放棄はおすすめできない
相続放棄は、被相続人のプラスの財産だけでなくマイナスの財産も相続する必要がなくなります。
しかし、相続放棄では空き家にともなう問題を解決できないため、おすすめしません。
なぜなら、国は管理期間の空白期間を避けるために、相続人が管理責任の放棄を相続放棄によっておこなえないように定めているからです。
空き家は、管理を怠ることでさまざまな問題が生じるため、相続人はマイナスの財産であっても相続財産管理人が決まるまで管理責任が生じます。
5-1.相続放棄しても不動産の管理責任は残る
ほかの相続人がいない場合でも、相続の放棄により空き家の管理責任から逃れられるとは限りません。売却や利用のあてがなく、管理するにも放置するにも負担がかかる場合は、相続放棄してしまえばよいと考えるのが自然です。
しかし相続放棄した者は、相続財産管理人を選任するまで自己所有財産と同等の注意義務で相続財産の管理が必要です。
(相続の放棄をした者による管理)
第九百四十条 相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。
5-2.プラスの財産を引き継げなくなる
相続放棄すると、マイナスの財産だけでなくプラスの財産も引き継げません。
空き家は維持管理に手間がかかります。しかし、立地によっては売却に困らない場合や、維持管理を業者などに依頼することで問題を解決できる場合があります。相続放棄によって失う財産と相続によるデメリットを比べて、最終的な判断を下しましょう。
6.相続した空き家は早めの売却がリスク低減につながる
相続で取得した空き家は、負担や損失額の軽減が可能です。賃貸に出すような利用予定がない場合は、なるべく早めに売却しましょう。
空き家対策特別措置法成立の背景からも分かるように、空き家の数は年々増加する傾向にあります。相続した空き家を放置した挙句に特定空き家等の認定を受けたり、近隣トラブルに発展したりするケースも少なくありません。
早期売却の必要性を理解しながらも、手続きの煩雑さに二の足を踏む相続人がほとんどであることも事実です。
そこで相続に関する幅広い知識をもとに、空き家の処分について一括で任せられる専門家に相談することをおすすめします。
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