遺産を寄付したい!知っておきたい税金・相続のポイントとは?寄付先の選び方も

「自身が亡くなったら不動産を寄付して欲しい」「遺産の〇割を自治体に寄付する予定」というかたは多いのではないでしょうか。
近年遺産を寄付する「遺贈寄付」を希望するかたは増加しています。遺産の寄付にあたって、相続や税金のルールで知っておくべきポイントがあります。
本記事では、寄付・遺贈寄付の現状、遺贈寄付の方法3つ、おさえておくべきポイント6つと寄付先の選び方を解説していきます。
この記事の目次
遺産の寄付とは?相続人以外に寄付できる?
自身が亡くなった後の相続財産(遺産)を寄付することを「遺贈寄付」と呼びます。
遺贈とは亡くなった人が相続財産を人・団体に無償で譲与することで、相手は相続人とは限りません。
日本ファンドレイジング協会の「寄付白書2021」によると、60歳以降のシニア層は寄付をするかたが多いことが分かりました。
特定非営利活動法人 国境なき医師団日本の「『遺贈』に関する意識調査2018」では、遺贈の意向がある人は全体の49.8%という結果です。
遺贈の意思があるかたのうち、「NGO・NPOに寄付をしたい」と考える人の割合は計74.1%に及びます。
同調査では遺贈の理解が深くなると遺贈の意向が高まることも分かっています。
まずは遺産の寄付について「知っておくこと」が重要です。
遺贈寄付の方法3つ
遺贈寄付の方法は主に以下の3つです。
- 信託による寄付(特定寄付信託)
- 遺言書による寄付
- 相続人に寄付をしてもらう
1.信託による寄付(特定寄付信託)
信託銀行・会社等にあらかじめ財産を託し亡くなった時に寄付してもらう方法です。
信託された金銭を運用収益とともに信託銀行などと契約した特定の団体(公益法人・認定特定非営利活動法人など)のうち、寄付者が指定した公団体に寄付し公益のために活用します。
「特定寄付信託」と呼ばれ、信託できる財産は金銭のみで不動産や有価証券は対象外です。
寄付者には寄付金控除等を受けられる、運用益が非課税になるといった税制上の優遇措置があります。
加えて生前に契約を結ぶことにより遺贈が確実に実行されるというメリットがあります。しかし、信託銀行・会社に手数料を支払いますので「財産と運用益の全額が寄付できるわけではない」というデメリットが生じます。原則、一度契約すると解約ができません。
加えて信託先を選ぶ、信託契約を結ぶといった手間がかかります。
2.遺言書による寄付
遺言書に「遺産の〇割を○○法人に寄付する」「不動産を○○市に寄付する」など明記する方法です。
遺言書による遺贈寄付は信託手数料がかからないというメリットがありますが、確実に寄付が実行されるとは限りません。
相続では民法で定められた法定相続人がいますが、法定相続人全員が遺産分割協議で合意した際には遺言書の内容とは異なる相続が可能となります。
将来法定相続人となる予定のかた(推定相続人)と元気なうちに話し合っておくことが重要となります。
3.相続人に寄付をしてもらう
自身の遺産を相続人に引き継いでもらった後で寄付をする方法です。
エンディングノートや生きているうちに言葉で伝えることにより、相続人に寄付の意向を残します。
信託による寄付とは異なり、不動産・有価証券などを相続後に売却した代金を寄付することが可能となります。
しかし、相続人にとって相続の手続きをしなければならない、寄付に手間・時間がかかるなど負担になってしまうことがあります。
相続人が寄付に賛成していない場合には実行されない可能性が生じます。
相続税は特例の要件を満たした場合は課税されません。
他にも遺産の寄付を検討しているかたがおさえておくべきポイントがあります。
遺産を寄付したい人がおさえておくべき税金・相続のポイント6つ
- 相続のルール①:遺産分割協議の対象外となる財産がある
- 相続のルール②:法定相続人には遺留分がある
- 相続のルール③:遺贈には「包括遺贈」と「特定遺贈」がある
- 相続のルール④:遺言書には所定の方式で記載しなければならない
- 相続税のルール①:相続人が寄付をした遺産は相続税がかからないことがある
- 相続税のルール②:現物資産の遺贈寄付は要注意
相続のルール①:遺産分割協議の対象外となる財産がある
遺産分割協議とは、法定相続人が遺産分割の方法や割合などについて話し合うことです。遺産分割協議には相続人全員が出席しなければならず、未成年者や認知症・判断能力が乏しい(知的障害・精神障害などがある)かたは後見人をつけなければいけないという決まりがあります。
遺言書がある場合には基本的に遺言書の内容に沿って相続が実行されますが、遺産分割協議で相続人全員が合意した場合には遺言書の内容通りでなくても構いません。
よって遺言書で寄付の意向を示しても、遺産の寄付が実行されない可能性があります。
しかし死亡保険金は受取人を指定している場合、受取人固有の権利となり遺産分割協議で許可を得なくても保険金を受け取ることが可能です。
「遺言書で寄付の意向を残したいが相続人が実行するとは限らない」というケースでは、保険金の受取人をNPO法人など寄付先の団体にしておくという選択肢があります。
相続のルール②:法定相続人には遺留分がある
被相続人の配偶者・子供など法定相続人には最低限の取り分である「遺留分」が存在します。
遺留分が侵害されたときには侵害された相続人は遺留分侵害額を請求する権利があり、家庭裁判所に調停の申し立てが可能です。
参考:遺留分侵害額の請求調停
遺言書で遺産の寄付をする予定のかたは、遺留分を侵害しないよう気を付けましょう。
遺留分の権利があるのは被相続人の配偶者・子供(孫)・父母(祖父母)です。兄弟姉妹には遺留分はありません。遺留分は基本的に法定相続分の1/2とされています。
相続人の組み合わせ | 配偶者 | 子供 | 父母 |
---|---|---|---|
配偶者と子供 | 1/4 | 1/4 | – |
配偶者と父母 | 1/3 | – | 1/6 |
配偶者のみ | 1/2 | – | – |
子供のみ | – | 1/2 | – |
父母のみ | – | – | 1/3 |
参考:遺留分権利者の対象範囲と金額|手続きや必要書類も詳しく解説|税理士法人チェスター
相続のルール③:遺贈には「包括遺贈」と「特定遺贈」がある
遺贈には「包括遺贈」と「特定遺贈」があります。
包括遺贈は財産の全部又は一部を遺贈するもので、遺産の〇割・〇%といった形で示すものです。包括遺贈を受けた者は相続人と同一の権利義務を有し、プラスの遺産だけではなく債務も受け継ぐことになりますので注意が必要です。遺産分割協議にも参加します。
特定のモノや権利、一定額の金銭など遺産を特定する遺贈(割合で示されていない遺贈)を特定遺贈と呼びます。特定遺贈では特定された遺産を取得することができますが、包括遺贈とは異なり相続人と同じ権利を有しません。よって債務の承継や遺産分割協議への参加は不要です。
参考:包括遺贈と特定遺贈の違いとは?判断ポイント・トラブル防止の注意点や手続き方法|税理士法人チェスター
相続のルール④:遺言書には所定の方式で記載しなければならない
遺言は、民法に規定された方式に従って記す必要があり、規定を満たしていない遺言は無効となります。
自筆証書遺言・秘密証書遺言・公正証書遺言の3種類があり、それぞれの方式と概要は下記の通りです。
(注1) 2018年民法改正により、財産目録等を添付する場合には、その目録については、自書することを要しないこととされた。
自筆証書遺言・公正証書遺言が利用されることが多く、自筆証書遺言は法務局の保管制度が利用可能です。
公正証書遺言は公証役場に原則20年間保管されます。
参考:自筆証書遺言のメリット・デメリットと保管制度・方式緩和について徹底解説|税理士法人チェスター
相続税のルール①:相続人が寄付をした遺産は相続税がかからないことがある
相続税の申告期限(被相続人が亡くなった日の翌日から10ヶ月以内)までに国・地方自治体・特定の公益法人・認定NPO法人に遺産を寄付もしくは公益信託の信託財産とするために支出した場合には、相続税の対象外となる特例が存在します。
遺贈寄付における特例の適用は、以下の(1)(2)の要件と(3)のいずれかを満たす必要があります。
(1) 寄付した財産は、相続や遺贈によって取得した財産である
※生命保険金・退職手当金を含む
(2) 取得した遺産を相続税の申告書の提出期限までに寄付する
(3)<寄付先が国や自治体・公益法人の場合>
寄付した先が国、地方公共団体、教育や科学の振興などに貢献することが著しいと認められる公益を目的とする事業を行う特定の法人である
<寄付先が認定NPO法人の場合>
特定非営利活動促進法第2条第1項に規定する特定非営利活動に係る事業に関連する寄付をする
<特定の公益信託の信託財産として寄付をした場合>
受託者(相続人)が信託会社(金融機関の信託業務の兼営等に関する法律により同法第1条第1項に規定する信託業務を営む同項に規定する金融機関を含む)であり、公益信託が、教育や科学の振興などに貢献することが著しいと認められるなど一定のものである
参考:No.4141 相続財産を公益法人などに寄附したとき|国税庁
参考:No.4205 相続税の申告と納税|国税庁
相続税の申告書に特例の適用を受けようとする旨を記載し適用の対象となる寄付をした財産の明細書・一定の書類を添付して申告します。
遺贈寄付の相続税に関しては、下記のページもチェックしておきましょう。
遺贈寄付は相続税の節税のメリットあり!種類の違いや注意点とは|税理士が教える相続税の知識
相続税のルール②:現物資産の遺贈寄付は要注意
不動産・貴金属・株式など現物資産の遺贈寄付は注意が必要です。
現物資産を譲渡したとみなされ、譲渡所得税(みなし譲渡所得税)が課される可能性があります。
しかし、NPO法人や公益法人など一定の団体に対してはみなし譲渡所得税が非課税になる特例があります。
参考:現物寄附のみなし譲渡所得税等の非課税特例の拡充|内閣府NPO
この特例は要件や申請が複雑となっていますので、申請したいかたは専門家である税理士に相談することをおすすめします。
みなし譲渡に関しての詳細は、下記のページをご覧ください。
みなし譲渡として税金がかかるケースを税理士が解説|税理士法人チェスター
寄付先の選びかたとは
遺産の寄付を希望するかたは相続人になるかたと元気なうちに話し合っておきましょう。話し合いをしないまま遺言書に記載すると、理解を得られず寄付が実行されない可能性があります。また相続人同士で意見が別れるトラブルが起こってしまうこともありますので、注意しましょう。
寄付先を選ぶ際には、以下のポイントを意識し優先順位を付けて決定することをおすすめします。
- 希望する分野・ジャンルの活動をしており、支援したい人に適切な支援ができる
- 相続税が非課税となる特例を満たす団体(一定の公益法人・認定NliO団体など)であるかどうか
- 収支報告書などで寄付の使い道が明確に分かる
- 遺贈寄付の受け入れ実績が豊富である
支援の対象としては災害や子供の教育・貧困、発展途上国への支援・医療・環境問題への対応などさまざまな分野があり、支援対象者も子供・女性・貧困状態にある人・病気にかかった人など多岐に渡ります。
自身の寄付への思いを明確にした上で、寄付先を検討しましょう。
遺贈寄付は専門家に相談を
遺贈寄付は相続人同士でトラブルに発展するケースがありますので、検討しているかたは専門家に相談することをおすすめします。
遺贈寄付を活用した相続税対策をお考えの方は、相続に詳しい税理士にご相談ください。
相続税専門の税理士法人チェスターでは、相続税対策のご相談に対応しております。相続税対策にお悩みの方はお気軽にご相談ください。
※この記事は専門家監修のもと慎重に執筆を行っておりますが、万が一記事内容に誤りがあり読者に損害が生じた場合でも当法人は一切責任を負いません。なお、ご指摘がある場合にはお手数おかけ致しますが、「お問合せフォーム→掲載記事に関するご指摘等」よりお問合せ下さい。但し、記事内容に関するご質問にはお答えできませんので予めご了承下さい。
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