農地相続で兄弟トラブルが発生する理由|親ができる生前対策【4選】
農地が相続財産に含まれる場合、預貯金のように簡単に分けることが難しく、後継者となる子どもに農地を相続させようとすると、ほかの兄弟との間で不公平感が生じることがあります。
また、遺産分割の話し合いがまとまっていなくても、相続税申告や農業委員会への届出などの期限は待ってくれません。農地の相続税の納税猶予を受けるために、申告期限までに遺産分割が必要になる場合もあります。
こうした混乱を避けるためにも、親が生前に適切な対策を講じておくことが大切です。
この記事では、農地相続で兄弟トラブルが起きる原因と、トラブルを未然に防ぐための生前対策を、相続専門の税理士法人チェスターが解説します。
この記事の目次 [表示]
1.農地相続では兄弟間の遺産分割トラブルに発展しやすい
親が所有する農地を将来子どもたちが相続する場合、兄弟間(子ども同士)の遺産分割トラブルに発展しやすいという特徴があります。
その最大の理由は、農地が相続財産に含まれると、遺産分割協議を成立させるのが極めて難しくなるためです。
農地相続が兄弟トラブルに発展しやすい理由
- 農地は選択できる分割方法に制限がある
- 農業をしない人には使い道がない
- 農地は売却・貸付・転用に許可が必要
- 農地の管理には手間もコストもかかる
兄弟のうち誰かが後継者である場合は、農地を含む相続財産を公平に分割するのが難しくなります。
一方で、兄弟全員が農業を継がない場合は、「いらない農地を誰が相続するか」で押し付け合いになってしまうのです。
結果として、農地の分割方法が決まらず、遺産分割協議が長期化しやすくなってしまいます。
参考:【遺産分割とは】分割方法・割合・手続きの流れ!トラブル対処法も解説
1-1.農地が未分割でも相続手続きの期限は待ってくれない
農地の遺産分割協議がまとまっていなくても、相続税申告や農業委員会への届出など、期限のある手続きは進めなければなりません。
また、農地を取得する人が決まらないことで、以下の手続きや制度の利用に影響が生じます。
- 農地の相続登記(名義変更)
- 農業委員会への届出
- 相続税の申告・納付
農業委員会への届出と相続税申告は、相続開始から10ヶ月以内です。未分割の場合は、いったん法定相続分に従って取得したものとして申告します。
農業委員会への届出についても、遺産分割が成立するまで待つのではなく、農地を相続によって取得した場合に行う必要があります。
相続登記は、遺産分割前でも法定相続分による登記や相続人申告登記を行えます。ただし、遺産分割協議がまとまらなければ、農地を最終的に取得する子どもの単独名義に変更することはできません。
また、農業を継続するのであれば「農地の相続税の納税猶予特例」を適用できますが、相続税の申告期限までに農地の遺産分割が完了していることが前提条件となります。
農地の遺産分割がまとまらないと、相続登記・届出・相続税申告が進まないだけではなく、相続税の納税猶予も使えないという状態に陥り、相続トラブルがさらに深刻化します。
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農地の遺産分割がまとまっていなくても、相続税申告や農業委員会への届出など、期限のある手続きは進めなければなりません。
また、遺産分割が長引くと、農地等の相続税の納税猶予を受けられない可能性もあります。
子どもたちが相続後に困らないよう、親が元気なうちに、農地を誰に引き継がせるのか、ほかの財産をどのように分けるのかを検討しておくことが大切です。
2.農地相続において兄弟間で遺産分割がまとまらない4つの原因
農地相続では兄弟間の対立から遺産分割協議が長期化しやすいですが、その背景にはいくつかの典型的なパターンがあります。
農地相続で兄弟トラブルになる4つの原因
これらの要因が重なることで、農地の遺産分割はさらに複雑になり、協議がまとまらなくなってしまいます。
この章では、それぞれの原因について詳しく解説します。
2-1.原因①農地の分割方法が決まらない
農地相続で最も多いのが、農地をどのように分けるのかを巡る兄弟間の対立です。
一般的な不動産には4種類の分割方法がありますが、農地は法律上の規制が多く、選択できる分割方法が制限されます。
| 備考 | |
|---|---|
| 現物分割 | 農地を細分化(分筆)する現物分割は推奨されない |
| 換価分割 | 売却・賃貸・転用に許可が必要で困難 |
| 代償分割 | 後継者が取得し、他の兄弟へ代償金を支払う |
| 共有分割 | 共有名義にすると将来の管理・税負担で必ずもめる |
農地相続においては、農地そのものを細分化する「現物分割」や、農地の売却に許可が必要な「換価分割」は、法的な規制などから非推奨です。
実務では「代償分割」を選択するケースが多いですが、代償金を支払う能力があることが前提です。
代償分割ができない場合は「共有分割」を検討することとなりますが、共有関係が複雑になって管理費や固定資産税の負担でトラブルに発展しやすいため推奨しません。
このように、農地は兄弟間で公平な分け方の合意が形成されにくく、遺産分割協議が長期化する大きな原因となります。
参考:不動産を相続した際の分割方法!遺産分割協議書への書き方や注意点
2-2.原因②代償金の算定元となる農地の評価額でもめる
代償分割を選ぶ場合、次に問題になるのが代償金の算定元となる農地の評価額です。
後継者と非後継者で主張が分かれやすく、金額争いが激化します。
代償金でもめる典型パターン
- 後継者:相続税評価額を基準にしたい(代償金が低くなるため)
- 他の兄弟:時価を基準にしたい(代償金が高くなるため)
代償金の算定元となる評価額が違うと、代償金に百万円単位の差額が生じるため、遺産分割協議が一気にこじれやすくなります。
特に市街化農地は相続税評価額が高くなりやすく、後継者が代償金を準備できずに遺産分割が進まないケースも散見されます。
参考:【代償分割とは】代償金の決め方・相続税について税理士が解説
2-3.原因③農地の後継者が寄与分を主張する
農地相続では、長年農業を手伝ってきた後継者が、「親の農業を支えてきた」「設備投資をしてきた」「介護を担ってきた」といった理由で、寄与分を主張するケースがよくあります。
寄与分が認められると、その相続人の相続分が増えるため、他の兄弟との間で相続分の再調整が必要になります。

農地は評価額の算定が難しい財産で、さらに「どこまでが寄与分として認められるのか」が明確でないため、兄弟間で意見が大きく食い違いやすいです。
その結果、遺産分割協議が長期化し、必要な手続きが進まずにさらなるトラブルを生む原因となります。
参考:相続の寄与分とは?認められるための5つの条件と証拠書類・計算方法を解説
2-4.原因④農地の後継者がおらず兄弟間で農地を押し付け合う
兄弟全員が農業を継がない家庭では、「誰が農地を相続するのか」を巡って押し付け合いが起き、遺産分割が進まないこともあります。
農地は使い道が限られているため、相続すると以下のような負担が残ってしまい、誰も相続したがらないのが実情です。
結果として、誰も農地を引き受けず、遺産分割協議がまとまらないまま長期化する典型的な原因となります。
3.農地相続の兄弟トラブルを回避!親がするべき生前対策【4選】
農地相続における兄弟間での相続トラブルは、相続が始まってからでは解決が難しく、兄弟間の関係がこじれやすくなります。
だからこそ、親が元気なうちに、以下のような生前対策をしておくことが大切です。
これらの生前対策を組み合わせられれば、相続開始後の混乱を大幅に減らし、兄弟全員が納得できる農地承継が実現しやすくなります。
3-1.生前対策①公正証書遺言で農地の取得者を指定する
「誰が農地を相続するのか」を明確にする最も基本的な方法が、公正証書遺言で取得者を指定することです。
公正証書遺言とは、公証役場で公証人が作成する遺言書のことです。
法的に不備になるリスクが低く、検認不要というメリットがあるため、相続後の手続きが非常にスムーズになります(詳しくはこちら)。

ただし、遺言書があれば100%相続トラブルを回避できるという訳ではありません。
他の相続財産がどの程度あるのかにもよりますが、農地を特定の子に集中させると、他の兄弟の遺留分を侵害し、将来的に遺留分侵害額請求に発展する可能性があります。
遺言を作る際は遺留分に配慮をした内容にする、遺留分相当の代償財産(預金・保険金など)を準備するといった工夫が大切です。
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公正証書遺言の作成時には、内容設計や遺留分への配慮など、専門的な判断が必要です。
公正証書遺言の作成サポートは、相続に強い司法書士に相談されることをおすすめします。
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3-2.生前対策②生命保険で代償金の財源を事前に確保する
農地を特定の子に相続させる場合、他の兄弟に支払う代償金の財源を確保する方法としておすすめなのが、生命保険の死亡保険金の活用です。
死亡保険金は法的に「受取人固有の財産」であるため遺産分割の対象外、さらにすぐに現金化できるというメリットがあります。

なお、死亡保険金は「みなし相続財産」として相続税の課税対象になりますが、相続税の非課税枠が適用されるため、相続税の負担を抑えやすいという特徴もあります。
公正証書遺言と生命保険金の組み合わせは、代償金問題をスムーズに解決する実務的な方法です。
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生命保険金の金額設定や非課税枠の活用など、代償金とのバランス設計には税務判断が必要です。最適な生命保険設計は、相続税に強い税理士に相談されることをおすすめします。
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3-3.生前対策③贈与税の納税猶予を活用して生前贈与する
後継者がすでに決まっている場合は、贈与税の納税猶予制度を利用した、農地の生前贈与もおすすめです。
相続税の納税猶予特例と同じく、一定の要件を満たす農業後継者への生前一括贈与について、贈与税の納税が猶予される仕組みです(詳細はこちら)。
主な適用要件
- 受贈者は18歳以上の推定相続人であること
- 贈与者と受贈者が共に贈与前3年以上農業に従事していること
- 贈与後は速やかに農業経営を行うこと
- 農地の全部または2/3以上の面積の一括贈与であること
贈与税の納税猶予の特例適用後は、3年ごとに「継続届出書」の提出が必須で、怠ると猶予が打ち切られて贈与税と利子税を一括納付することになりますのでご注意ください。
また、生前贈与した農地は、特別受益として持ち戻しの対象となり、遺留分算定の計算に含まれますので、「兄弟間の公平性をどう確保するか」もしっかり検討しておく必要があります。
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贈与税の納税猶予の特例の適用可否や、継続届出の管理、遺留分への影響などは高度な税務判断が必要です。
農地の生前贈与を検討する際は、相続や贈与に強い税理士に相談されることをおすすめします。
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3-4.生前対策④生前に農地バンクへの貸付手続きをしておく
後継者がいない場合は、農地を生前のうちに「農地バンク」へ貸し付けておくことで、農地の押し付け合いを防ぐことができます。
貸付契約が生前に成立していれば、相続後も契約が継続し、兄弟間で「誰が管理するか」でもめる心配がありません。
主なメリット
- 兄弟間でのいらない農地の押し付け合いを防げる
- 子どもが管理負担から解放される
- 農地の荒廃を防ぎ、安定した賃料収入も期待できる
貸付には農地の現況確認や農業委員会との調整など、一定の手続きが必要になります。
地域ごとに受け入れ条件が異なるため、具体的な貸付の可否や条件については早めに自治体窓口へ相談しておくことが大切です。
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農地バンクへの貸付は、受け入れ条件や手続きが地域ごとに異なります。
農地が所在する農業委員会や農地中間管理機構の担当窓口で、詳細を確認されることをおすすめします。
4.農地を継がない子どもがいる場合は?検討すべき3つの選択肢
親が生前に農地の承継方針を考えるためには、相続後に子どもたちが取り得る対応を知っておくことも大切です。
農業をしない子どもが農地を相続することになった場合、使い道がないために、「誰が引き継ぐのか」「相続後にどう活用・処分するのか」をめぐって、兄弟間の話し合いが進まなくなることがあるからです。
農業をしない相続人には、3つの現実的な選択肢があります。
農業をしない相続人がいる場合の選択肢
この章では、これらの選択肢のメリット・デメリットや向いているケースを整理し、各ご家庭に最適な方法を判断しやすくなるよう解説します。
4-1.選択肢①後継者に農地を・ほかの子どもには別の財産を引き継がせる(現物分割)
後継者がいる家庭で最もスムーズに遺産分割を進められるのが、特定の相続人が単独で農地を相続し、他の兄弟は農地以外の財産を相続する「現物分割」です。
代償金を準備する必要がないため、心理的・金銭的な負担が軽く、兄弟間の合意形成がしやすい方法です。

相続財産をそのまま分割する現物分割は、代償金の支払いが不要で手続きもシンプルなため、兄弟間のトラブルを最小限に抑えられるというメリットがあります。
さらに後継者が農業を継続する場合には、農地の相続税の納税猶予特例を利用できます。
ただし、農地以外の財産がほとんどない家庭では、兄弟間で公平な遺産分割ができないため、現物分割に合意できない可能性が高くなります。
向いているケース
- 後継者が農業を継続する予定がある
- 農地以外の相続財産が十分にある
- 兄弟間の関係性が良好(多少の不公平が生じることに納得してくれる)
4-2.選択肢②後継者に農地を引き継いでもらう・ほかの子どもには代償金を渡す(代償分割)
後継者はいるものの、農地以外の遺産がほとんどない家庭で最も現実的な選択肢が、後継者が農地を取得し、他の兄弟が代償金を受け取る「代償分割」です。
公平な遺産分割を実現しやすく、後継者が農地を取得できるので、相続税の納税猶予特例も適用できるという特徴があります。

代償分割は、農地を取得した人が代償金を支払うことで、兄弟間の公平性を保つことができるというメリットがあります。
しかし、農地を取得する人に、代償金を支払う能力がなければ成立しません。
また、市街化農地など評価額が高い農地では、代償金の算定元となる評価額を、相続税評価額と時価のどちらを基準にするかで問題になりやすいため注意が必要です。
向いているケース
- 後継者が農業を継続する予定がある
- 農地以外の相続財産が少ない
- 後継者に代償金を支払う資力がある
4-3.選択肢③子どもが相続した農地を農地バンクで活用する
「相続はするが農業はしない」という家庭で最も現実的な方法が、農地を相続して「農地バンク(農地中間管理機構)」に貸し出すことです。
農地を手放さずに管理負担を軽減でき、耕作放棄地化を防ぎながら賃料収入も得られるという特徴があります。
引用:農林水産省「農地バンクパンフレット」
農地バンクに貸し出すことで、相続人が自分で借り手を探す必要がなく、安定した賃料収入を得られるのは大きなメリットです。
また、農地バンクへの貸付は、相続税の納税猶予を適用できる「特定貸付け」に該当するため、後継者がいない家庭でも税負担を抑えながら農地を維持できます。
一方で、貸付期間中は原則として農地を売却・転用しづらくなり、将来的な活用の自由度が下がるというデメリットがあります。
向いているケース
- 後継者はいないが農地は手放したくない(手放せない)
- 農地の管理負担を軽減したい
- 相続税の納税猶予を継続したい
4-4.【よくある誤解】農地だけ相続放棄はできない
「農地はいらないから相続放棄したい」という相談は非常に多いのですが、農地だけを切り離して相続放棄することはできません。
相続放棄は、被相続人のすべての相続財産(プラスの財産・マイナスの財産を含む)の相続権を放棄する制度であり、農地だけでなく預貯金や自宅不動産なども一切相続できなくなります。
相続放棄を検討すべきケース
- 債務超過であることが明らかである
- 兄弟間の相続トラブルから抜けたい場合
また、相続放棄を選択しても、次の相続人に引き渡すまでは農地の管理責任が残る点にも注意が必要です。
草刈り・境界管理・近隣トラブルへの対応など、一定の管理義務は相続放棄が受理された後も続きます。
「農地はいらないが預金は欲しい」「農地だけ避けたい」という場合には、相続放棄ではなく、選択肢①~③のいずれかで対応する必要があります。
参考:相続放棄の4つのデメリット・5つの注意点を専門家が解説
5.農地相続の兄弟トラブルは「生前対策」で回避できる
農地は法律上の制約や評価額の特殊性から、兄弟間の相続トラブルに発展しやすいという特徴があります。
すでに相続が始まっている場合は、現物分割・代償分割・農地バンク活用の中から、ご家庭の状況に合った方法を検討しましょう。
一方で、親が生前に対策を講じておけば、兄弟間の相続トラブルを回避できます。
農地を保有されている方は、最適な生前対策を検討することをおすすめします。
5-1.チェスターグループにご相談を
農地相続の生前対策は、遺言書の作成、生命保険の設計、生前贈与、農地バンクへの貸付などがあります。
しかし、これらを個別に相談すると、「遺言書は司法書士」「生命保険や税務は税理士」と窓口が分かれてしまいがちです。
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※この記事は専門家監修のもと慎重に執筆を行っておりますが、万が一記事内容に誤りがあり読者に損害が生じた場合でも当法人は一切責任を負いません。なお、ご指摘がある場合にはお手数おかけ致しますが、「お問合せフォーム→掲載記事に関するご指摘等」よりお問合せ下さい。但し、記事内容に関するご質問にはお答えできませんので予めご了承下さい。
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