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遺留分侵害額請求(遺留分減殺請求)とは?備える方法・計算方法・時効・手続きの流れを紹介

民法では、一定の範囲の相続人には、一定割合の遺産を取得する権利が定められています。これを「遺留分」といいます。

しかし、相続が発生した際に、遺言書の指定や、被相続人の生前贈与などによって、特定の法定相続人が不利になったり、遺産を取得できなかったりする場合があります。これは、遺留分の権利が侵害されている状態だといえます。

このような状態のときに、権利を侵害された法定相続人が、遺留分相当額の遺産の分割を請求できるのが、「遺留分侵害額請求」という制度です。

この記事では、そもそも遺留分とはどんなものか、遺留分侵害額請求の概要、遺留分侵害額の計算方法、請求の手続きの流れや時効などついて解説します。

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1.遺留分とは

最初に「遺留分」の基本的な内容について確認しておきましょう。

1-1.最低限相続が保障されている財産の金額

遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人が、最低限受け取れる権利として定められている相続分のことです。

原則的に、被相続人(亡くなった人)は、生前、自分の財産を自由に処分する権利があります。「自分の財産なのだから、誰にどれだけ与えようが、自分の勝手だろう」と思う気持ちも理解できます。

しかし、相続においては「相続人の生活保障」の必要性、「相続財産の形成過程で相続人の貢献により得られた分が存在する可能性」などを考慮すべきだという考え方があります。

例えば、特定の相続人が全財産を相続することになった場合、住む場所を失うなどして、生活に困る相続人が生じるかもしれません。また、被相続人の財産の増加に協力した相続人がいたとして、その貢献分がまったく考慮されないのは不公平です。

そこで民法では、一定の相続人について遺留分という権利を規定しているのです(民法1042条)。

1-2.遺留分を認められるのは、兄弟姉妹以外の法定相続人

遺留分を認められるのは、兄弟姉妹(およびその代襲者となる甥、姪)以外の、法定相続人です(民法第1042条1項)。

「法定相続人」とは、民法に規定されている、という意味を強調するときに使う言葉です。意味としては「相続人」でも同じなので、以後、本記事では「相続人」といいます。

遺留分を理解する前提として、まず相続人について確認しておきましょう。

1-2-1.相続人(法定相続人)とは

民法では、相続人になるのは以下の人とされています。また、配偶者以外には、優先順位が定められています。

▼相続人となる人(被相続人から見た関係)

①配偶者は常に相続人になる

②第1順位:子(または子の代襲者となる孫などの直系卑属)

③第2順位:父母、祖父母、曾祖父母などの直系尊属

③第3順位:兄弟姉妹(または兄弟姉妹の代襲者となる甥、姪)

配偶者がいれば、配偶者は常に相続人になります。

②~④の人は、上の順位の人がいない場合に限り、下の順位の人が相続人になります。例えば、子(第1順位)がいる場合は、父母(第2順位)や兄弟姉妹(第3順位)は相続人にはなりません。また、子がいない場合で父母がいる場合なら、父母が相続人になり、兄弟姉妹は相続人になりません。つまり、兄弟姉妹が相続人になるのは、子も父母もいない場合のみだということです。

また、「代襲」とは、本来相続人となる人が相続発生前に死亡していた場合などに、その代わりに相続人となることです。例えば、被相続人に子と孫(子の子)がいて、相続発生時に、すでに子が死亡していた場合は、孫が子の代わりに「代襲相続人」となります。

なお、法定相続人については、下記の記事も参照ください。

(参考)「法定相続人」と「遺産を相続できる割合」を初心者でも分かるように解説!

1-2-2.遺留分を持つ人の例

上記の説明により、誰が相続人になるのかについて理解できれば、誰が遺留分を持つ人になるのかを理解することは容易でしょう。最初に述べたとおり、「兄弟姉妹(代襲者の甥・姪)以外の相続人が、遺留分を持つ人になる」ということです。

下記に例を挙げておきます。

被相続人の家族遺留分を持つ人
配偶者、子、父母、兄弟姉妹配偶者と子
子、父母
兄弟姉妹なし

1-3.遺留分を侵害されている状態とは?

「遺留分が侵害されている」とは、被相続人が財産を処分した結果、相続人が受け取る相続財産が、法的に認められる遺留分に満たない状態になっていることを意味します。

例えば、1,000万円の遺留分を持つ相続人が、被相続人の遺言により700万円分の相続分しか受けられなかったとします。その場合、「300万円分の遺留分が侵害されている」状態になるわけです。

(参考)兄弟に遺留分はゼロ-子どもがいない場合の相続人と遺産配分とは – 相続税専門【税理士法人チェスター】|申告実績は業界トップクラス (chester-tax.com)

(参考)遺言書の効力と遺留分の権利はどちらが優先?注意すべき点を解説 – 相続税専門【税理士法人チェスター】|申告実績は業界トップクラス (chester-tax.com)

2.遺留分侵害額請求(旧・遺留分減殺請求)とは何?

「遺留分侵害額請求」とは、遺留分を侵害されている相続人が、侵害している人(他の相続人など)に、その侵害額を請求できる制度です。

遺留分侵害額請求ができる権利を「遺留分侵害額請求権」といい、遺留分を請求する権利のある法定相続人を「遺留分権利者」と呼びます(民法第1046条第1項)。

2-1.民法改正で「遺留分減殺請求権」は「遺留分侵害額請求権」に変更された

なお、以前は「遺留分減殺請求」という制度がありました。しかし、民法の相続法が改正され、2019年7月から、「遺留分減殺請求」の内容が変更され「遺留分侵害額請求権」へと改められました。

名称が変わっただけではありません。以前は、原則的に侵害された遺産そのものを取り戻す(例えば侵害された遺産が不動産なら、不動産を分割したり共有したりする)権利であったのが、改正後は、相当額を金銭で請求できるように内容が変更されています。

以後、本記事では、現行制度である「遺留分侵害額請求」について説明していきます。

3.遺留分侵害額請求ができる人と遺留分の割合

遺留分侵害額請求ができる人は「遺留分権利者」です。遺留分権利者になれるのは、兄弟姉妹以外の相続人です。先に見たように、相続人は相続順位が定められており、家族の状況によって誰が相続人になるのかは変わります。

遺留分権利者それぞれの遺留分割合は、その相続人の状況に決まります。

3-1.遺留分は法定相続人によって割合が異なる

遺留分権利者それぞれが持つ遺留分の割合は、(1)遺留分全体の割合、(2)遺留分権利者の法定相続分、の2ステップで決まります。

3-1-1.ステップ1:遺留分全体の割合

まず、遺産全体に対して、以下のように遺留分全体の割合が定められています。

①相続人が兄弟姉妹やその代襲者(第3順位の相続人)のみの場合は、遺留分はなし。
②相続人が父母や祖父母などの直系尊属(第2順位の相続人)のみの場合は、遺産の1/3が遺留分全体の割合となる。
③上記以外の場合は、遺産の1/2が遺留分全体の割合となる。

3-1-2.ステップ2:遺留分権利者の法定相続分

法定相続分とは、相続人が複数名いる場合の遺産分割の「目安」として、民法で定められている分割割合です。例えば、配偶者と子が相続人の場合、それぞれ1/2が法定相続分です。また、相続人が配偶者と父の場合、配偶者は2/3、父は1/3が法定相続分です。

なお、相続人が1名の場合は、その人がすべての遺産を相続することになるので、1/1(全部)となります。

3-1-3.相続人のパターン別の遺留分権利者の法定相続分まとめ

上記のステップ1とステップ2をまとめると以下の表のようになります。

▼遺留分割合のまとめ

相続人遺留分全体の割合法定相続分各人の遺留分割合
配偶者と子1/2 配偶者:1/2
子:1/2を人数で按分
配偶者:1/4
子:1/4を人数で按分
配偶者と
両親
1/2 配偶者:2/3
両親:1/3を人数で按分
配偶者:1/3
両親:1/6を人数で按分
配偶者と
兄弟姉妹
1/2 兄弟姉妹に遺留分はないため遺留分全体の割合がそのまま配偶者の遺留分になる 配偶者:1/2
兄弟姉妹:なし
配偶者のみ1/21/2
子のみ1/2人数で按分1/2を人数で按分
両親のみ1/3人数で按分1/3を人数で按分
兄弟姉妹のみ兄弟姉妹に遺留分はない

引用:法定相続分とは何か?計算方法や遺留分との違いを解説!
(※同じ立場の人(子など)が複数名いる場合は、人数で均等に按分します。)

4.遺留分侵害が起こるケースとは

遺留分侵害は、以下のような場合に発生する可能性があります。

4-1.遺言書による遺産分割の指定(遺贈)

遺留分侵害でよくあるのは、特定の相続人に相続財産の大部分を引き継がせる(遺贈する)内容の遺言が残されているケースです。

例えば、長男にすべての遺産を相続させるとか、被相続人と折り合いの悪い相続人の相続分をゼロにするといった内容の遺言です。そのような内容の遺言でも、形式に不備がなければ法的には有効であり、それに沿って遺産は分割されます。しかし、その後、不利益を受けた相続人が、遺留分侵害額請求を起こす可能性は高いでしょう。

4-2.生前贈与

遺贈だけでなく、生前贈与も遺留分算定の対象となります。例えば、複数の子がいるのに、長男だけに多額の資金を贈与した、といった場合に遺留分侵害が生じやすくなります。

遺言での分割ではなく、生前贈与をしておけば、遺留分侵害を問われないと勘違いする人がたまにいますが、そうではない点に注意が必要です。なお、遺留分算定に加えられる贈与については、後でくわしく説明します。

4-3.死因贈与

死因贈与とは、死亡を原因として贈与する契約です。遺贈との違いは、遺贈は被相続人が単独で行うのに対し、死因贈与は贈与する人(贈与者)と受贈者の契約によって行われる点です。

死因贈与によって相続人の遺留分が侵害された場合、贈与を受けた人(受贈者)に対して遺留分侵害額の請求ができます。

(参考)生前贈与の非課税枠は年間110万円以内!申請方法によって2500万円が上限に? – 相続税専門【税理士法人チェスター】|申告実績は業界トップクラス (chester-tax.com)

(参考)死因贈与とは?遺贈との違いやメリット・デメリット、契約手続きの方法を解説 – 相続税専門【税理士法人チェスター】|申告実績は業界トップクラス (chester-tax.com)

5.遺留分侵害額の計算の流れ

次に、遺留分額と遺留分侵害額の計算方法を確認しましょう。

5-1.遺留分を算定するための財産の価額を計算

最初に、「遺留分を算定するための財産の価額」を計算します。これは、遺留分を計算する基準となる財産額のことです。その計算方法は、民法第1043条から第1045条で定められており、以下の算式で求めます。

相続財産+贈与財産-債務額

上記の「贈与財産」には、以下が該当します。

  • 相続開始1年以内の贈与
  • 相続人への特別受益に該当する相続開始前10年以内の贈与(令和元年6月30日以前の相続では全期間が対象)
  • 贈与当事者が遺留分権利者に損害を加えることを知ってなされた贈与
  • 当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってなされた不相当な対価による有償行為

5-2.遺留分を計算

上記で求めた「遺留分を計算する基準となる財産額」に、遺留分の割合を掛けて、相続人ごとの遺留分を計算します。まとめると下表のとおりです。

配偶者と子供【配偶者】財産の価額×1/2×法定相続分1/2

【子供】財産の価額×1/2×法定相続分1/2÷人数

配偶者と父母【配偶者】財産の価額×1/2×法定相続分2/3

【父母】財産の価額×1/2×法定相続分1/3÷人数

配偶者と兄弟姉妹【配偶者】財産の価額×1/2

【兄弟姉妹】遺留分なし

配偶者のみ財産の価額×1/2
子供のみ財産の価額×1/2÷人数
父母のみ財産の価額×1/3÷人数
兄弟姉妹のみ遺留分なし

引用:遺留分侵害額請求(遺留分減殺請求)とは?計算方法・時効・手続きの流れ

計算例も見てみましょう。

【例1】

遺留分算定の基準となる財産:5,000万円

相続人:配偶者、長男、長女

配偶者の遺留分額
5,000万円×1/2×1/2=1,250万円

長男、長女それぞれの遺留分額
5,000万円×1/2×1/2×1/2=625万円

【例2】

遺留分算定の基準となる財産:6,000万円

相続人:配偶者、父

配偶者の遺留分額
6,000万円×1/2×2/3=2,000万円

父の遺留分額
6,000万円×1/2×1/3=1,000万円

5-3.遺留分侵害額を計算

相続人ごとの遺留分侵害額は、下記により求められます。

遺留分侵害額 = 遺留分額 - 特別受益として贈与された価額 - 相続によって取得したプラスの財産 +相続によって取得したマイナスの財産(債務など)

計算例を見てみましょう。

【設例】

遺留分算定の基準となる財産:5,000万円

相続人:長男、長女

長男、長女それぞれの遺留分額
5,000万円×1/2×1/2=1,250万円

上記のような場合に、遺言で「長男に4,000万円、長女に1,000万円を相続させる」と指定され、実際にそのような遺産分割がなされたとします。(なお、特別受益、債務などはないものとします)。

遺留分侵害額=1,250万円(長女の遺留分額)-1,000万円(長女が取得した財産)=250万円

長女は長男に対して、250万円の遺留分侵害額請求を行うことができます。

上記の算出式からもわかるように、遺留分侵害額の計算では、遺留分権者が相続開始前に受けた特別受益を差し引かなければならないため、結果として遺留分侵害額請求ができないケースもあります。

(参考)「遺留分とは?0円になって遺産を取り戻せないケースを相続専門税理士が解説」

6.遺留分侵害額請求には時効が2パターンある

遺留分侵害額請求には、以下のとおり請求できる期間の制限があります(民法1048条)。

  • 時効:相続の開始および遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知ったときから1年
  • 除斥期間:相続開始から10年以内

遺留分権者は相続開始と遺留分侵害の事実を知ってから1年以内に遺留分侵害額請求をしないと、請求権が時効によって消滅します。

また、相続開始から10年経つと、遺留分権者が遺留分侵害を知らなくても遺留分侵害額請求権は除斥期間により失われます。

6-1.遺留分侵害額請求の時効の期限を延長(止める)する方法

遺留分侵害の相手方に遺留分の請求の意思表示を行えば、時効の進行を止めることができます。意思表示の方法に決まりはなく口頭でも有効ですが、「いった」「いわない」となるので、通常は証拠が残る方法を用います。

具体的には、配達証明付きの内容証明郵便を利用するとよいでしょう。

7.遺留分算定の財産の価額に加えることができる贈与

遺留分算定の財産の価額は、被相続人が生前に贈与した財産の価額を加えて求めます。この算定の対象となるのは、次のいずれかに該当する贈与です。

  • 相続開始前1年以内になされた贈与
  • 遺留分権利者に損害を与えることを知っておこなった贈与
  • 遺留分権利者に損害を与えることを知っておこなった不相当な対価による有償行為
  • 相続人への特別受益にあたる贈与

以下、それぞれを確認しましょう。

7-1.相続開始前1年以内になされた贈与

相続開始前の1年以内の「相続人ではない人への生前贈与」は、遺留分算定の対象になります。相続人ではない人への贈与とは、例えば、子の配偶者(息子の妻など)への贈与、孫(代襲者ではない)への贈与などが該当します。

7-2.遺留分権利者に損害を与えることを知ってした贈与

相続開始から1年以上前の贈与だとしても、当事者双方が遺留分権利者に損害を与えることを知って贈与をしたときは、遺留分侵害額請求の対象となります。

「遺留分権利者に損害を与えることを知って」とは、損害を与える意思の有無にかかわらず「遺留分侵害になることを知っている」という意味です。

なお、「遺留分侵害になることを知っていた」ことの証明責任は、遺留分権利者が負います。

7-3.遺留分権利者に損害を与えることを知ってした不相当な対価による有償行為

不相当な対価による有償行為とは、贈与ではなく売買などの取引価格が対象物の価値とかけ離れている場合を指します。

例えば、被相続人が所有する時価5,000万円の不動産を100万円で譲り受けるような無償に近いケースです。このようなケースでは差額の4,900万円の贈与を受けたものとみなし、遺留分侵害額請求の対象にできる可能性があります。

7-4.相続開始前10年間になされた、特別受益に該当する贈与

相続人への特別受益にあたる生前贈与は、相続開始前10年以内になされたものに限り、遺留分侵害額請求の対象になります。特別受益とは婚姻や養子縁組のため、または生計の資本として受けた贈与のことです。

婚姻や養子縁組のための贈与とは、いわゆる持参金・支度金や挙式費用などの贈与です。生計の資本としての贈与とは、居住用不動産の贈与などが該当します。

以前は、特別受益にあたる贈与については期間の制限なく遺留分算定の対象となっていましたが、令和元年7月1日以降は10年以内の制限が設けられました。

8.遺留分侵害額請求の手続きの流れ

遺留分侵害額請求の手続きは、以下のような流れに沿って行います。調停を経ないで、いきなり訴訟を行うなどはできない点に注意してください。

(1)内容証明郵便で遺留分侵害額請求の意思表示
(2)相手方との話し合い
(3)和解できなかった場合は、遺留分侵害額請求の調停の申し立て
(4)調停不成立の場合、遺留分侵害額請求訴訟を提起

8-1.内容証明郵便で遺留分侵害額請求の意思表示をする

遺留分侵害額請求を行うとき、最初は相手方に遺留分侵害額請求の意思表示をします。意思表示の方法は相手がスムーズに話し合いに応じてくれそうな場合には、電話やメールなどでもかまいません。

一般的には、内容証明郵便で遺留分侵害額請求の意思表示をしてからの話し合いが望ましいといえます。内容証明郵便には、時効の進行を止める効果もあります。

なお、ご自分で内容証明郵便にて意思表示をされるのが不安な方は、相続問題に強い弁護士に相談されることをおすすめします(弁護士費用の目安については後述します)。

8-1-1.遺留分侵害額請求の和解が成立した場合

相続人同士で合意できたら「遺留分侵害額についての合意書」を作成し、できれば公正証書の形で残しましょう。後のトラブル防止のためにも、最低でも参加者全員の署名押印のある書面は必要です。合意書を作成後、内容にしたがって遺留分の支払いを受けます。

(参考)「遺留分減殺請求の和解が成立した際にするべき相続税の手続き

8-2.遺留分侵害額請求調停で請求する

話し合いで合意できない場合に、家庭裁判所で「遺留分侵害額の請求調停」を申し立てます。裁判所の管轄は、相手の住所地の家庭裁判所です。

「調停」とは、裁判のように勝ち負けを決めるのではなく、話しあいでの紛争の解決を図る手続きです。遺留分侵害額の支払いについて合意できれば調停が成立します。

8-2-1.必要書類

「遺留分侵害額の請求調停」に必要な書類は以下のとおりです。

  • 申立書および申立書の写し(相手方の数の通数)
  • 被相続人の出生時から死亡時までの戸籍謄本(除籍,改製原戸籍)
  • 相続人全員の戸籍謄本
  • 被相続人の子(およびその代襲者)で死亡者がいる場合、その子(およびその代襲者)の出生時から死亡時までの戸籍謄本
  • 遺言書写しまたは遺言書の検認調書謄本の写し
  • 遺産に関する証明書(不動産登記事項証明書、固定資産評価証明書、預貯金通帳の写し、または残高証明書、有価証券写し、債務の額に関する資料等)

8-2-2.費用

「遺留分侵害額の請求調停」には、以下のような費用がかかります。

  • 収入印紙1,200円分
  • 連絡用の切手代(裁判所ごとに金額が異なる)
  • 弁護士報酬(後述します)

8-3.遺留分侵害額請求訴訟で請求する

調停が不成立に終わった場合、裁判所に遺留分侵害額請求訴訟を提訴することになります。裁判所の管轄は、被相続人の最後の住所地を管轄する地方裁判所(請求金額が140万円超の場合)か、簡易裁判所(請求金額が140万円以下)に訴状を提出して訴訟(裁判)となります。

8-3-1.必要書類

「遺留分侵害額の請求訴訟」の主な必要書類は以下のとおりです。

  • 訴状
  • 遺留分侵害額請求を求める内容証明郵便(遺留分侵害額の請求として送付したもの)
  • 被相続人と相続人全員の戸籍謄本類
  • 被相続人の相続財産の目録(物件目録など)
  • 残高証明書
  • 被相続人の遺言書の写し
  • 8-3-2.費用

    「遺留分侵害額請求訴訟」では、訴額(請求額)に応じた手数料(収入印紙)と、郵便切手の予納が必要になります。

    手数料は訴額に応じて、以下のように段階的に増加する額が必要です。

    • 訴額100万円まで:10万円ごとに1,000円
    • 訴額100万円超500万円:20万円ごとに1,000円
    • 訴額500万円超1,000万円まで:50万円ごとに2,000円
    • など

    (裁判所「手数料額早見表」)

    例えば、訴額が200万円ならば、1万5,000円となります。

    また、郵便切手の予納金額は、訴訟を提起する裁判所によって異なります。

    訴訟の場合、弁護士費用も想定する必要があります(後述)。

    9.遺留分侵害額請求の手続きは自分ひとりでできる?

    上記の手続きは、もちろん自分だけで行うことも可能です。遺留分侵害が明確であるなら、法律に詳しい人であれば、さほど難しい手続きではないといえるでしょう。

    しかし、特に法律に詳しいわけではない普通の人が、仕事をしながらこういった係争を自分だけで処理するのは、時間的、精神的な負担が大きくなります。期限内にすべて済ませるのは難しいこともあるでしょう。

    一般的には、弁護士など士業者に任せるほうが安心です。

    10.遺留分侵害額請求を弁護士に依頼するメリット

    遺留分侵害額請求を行っても、相手方が簡単に話し合いや支払いに応じてくれるとは限りません。遺留分の侵害を確実に解決するには、弁護士に依頼するほうが安心です。

    10-1.弁護士に依頼するメリット

    遺留分侵害額請求を弁護士に依頼することには、さまざまなメリットがあります。

    10-1-1.相手方と話し合う必要がなくなる

    遺留分侵害額請求を弁護士に依頼すると相手方と話をするのは弁護士となり、当事者同士で話し合う必要はありません。相手方は多くの場合、親や兄弟姉妹などの親族です。不公平な遺産分割が原因であることがほとんどなため、当事者間で感情的にぶつかり合う可能性も高くなります。「骨肉の争い」という言葉もあるとおり、肉親だからこそ、感情がこじれて憎悪が強くなることもよくあります。

    第三者である弁護士が間に入って対応することで、交渉での精神的苦痛が解消されます。

    10-1-2.書面作成などの手間がかからない

    遺留分侵害額請求を行うには、正確な遺留分侵害額を算出しておかなければなりません。また、調停や訴訟には多くの書類作成が必要です。それらを間違いなく準備するには、多くの手間や時間がかかり、仕事をしながら準備をするのは大変でしょう。弁護士に依頼すれば、請求に必要な準備の多くを任せられます。

    10-1-3.ストレスから解放される

    遺留分侵害額請求を自力で行うと精神的にも大きな負担や苦痛を伴いますが、弁護士に任せることでストレスから解放されます。自分ひとりでは「相手が支払いに応じるかわからない」などの不安がつきまとうものです。弁護士に依頼すれば、そのような不安について相談に乗ってもらえます。心配事について話せる専門家がいるというだけで、ストレスは減少します。

    10-1-4.時効の成立を防止できる

    遺留分侵害額請求は時効が完成するまでに行わなければなりませんが、弁護士に依頼すると速やかに対応してもらえます。そのため、時効によって請求ができなくなるリスクを軽減できます。

    10-1-5.調停や訴訟になっても任せられる

    話し合いがまとまらなければ調停や訴訟に進むことになりますが、その場合でも引き続き弁護士に対応してもらえます。基本的に自分が裁判所に出廷する必要もありません。

    10-2.弁護士に依頼する際の費用

    遺留分侵害額請求を弁護士に依頼する際にかかる費用には統一された決まりはなく、依頼する弁護士事務所によっても異なります。ここでは、遺留分侵害額請求を弁護士に依頼する場合の、一般的な費用の相場を紹介します。

    10-2-1.相談から内証証明作成、送付まで

    遺留分侵害額請求の最初のステップでは、請求の意思表示として相手方に内容証明郵便を送付します。この段階から弁護士に依頼する場合、以下のような費用がかかります。

    • 相談料:30分5,000円程度(一般的に1時間程度かかる)
    • 手数料:内容証明郵便作成・送付の場合、3万円から5万円程度
    • 着手金:案件に着手する際に支払う費用
    • 成功報酬:遺留分が返還された場合に支払う費用

    着手金は遺留分侵害額請求を依頼する際に支払い、依頼の結果遺留分が戻らなくても返還されません。返還される遺留分額が300万円以下であれば、8%前後、300万円を超えると5%前後+約9万円が一般的です。

    成功報酬とは遺留分が返還されたときにかかる費用です。返還された遺留分300万円以下の場合は17%前後、300万円を超えると10%+約19万円が相場となります。

    遺留分の受取額が200万円の場合、着手金24万円・成功報酬34万円で合計58万円かかる見込みです。

    なお、内容証明郵便の作成と送付だけでよい場合は、弁護士報酬は3万円から5万円程度が一般的です。

    10-2-2.調停になった場合

    遺留分侵害額請求の話し合いがまとまらず調停に発展すると、一般的に追加の着手金が必要になります。追加の着手金はかからない場合もありますが、かかる場合は10万円程度が目安です。

    調停になって弁護士が出廷する場合、1回につき2万円から5万円の日当が発生します。日当が発生しない弁護士事務所もあります。

    10-2-3.訴訟になった場合

    遺留分侵害額請求が訴訟になった場合、さらに10万円程度の追加の着手金かかるケースが一般的です。訴訟のための弁護士の出廷に対する日当も、調停の場合と同様に1回につき2万円から5万円程度です。

    (参考)遺産相続の弁護士費用の相場!いつ誰が払う?払えない場合の対処法は?

    11. 遺留分侵害額請求を受けたら、どうすればいい?

    この項目では、自分が他の相続人から遺留分侵害額請求を受けた場合の対応について解説します。

    11-1. 無視はNG。必ず対応する

    まず、内容証明郵便などで遺留分侵害額請求を受けたら、無視することは避けてください。遺留分侵害額請求の話し合いに応じないと調停や訴訟に進むおそれがあります。訴訟になった場合にも放置し続けた場合、相手方の請求が全面的に認められて強制執行により財産を差し押さえられるリスクがあります。

    請求されたからといって、直ちに支払いに応じなければならないわけではありませんし、相手の請求額全部を認める必要がない場合もあります。相手方の請求が正当であるかを確認し、その内容によって請求額を支払うか話し合うかなどの対応に進みます。

    11-2.請求を受けたときのチェックポイント

    遺留分侵害額請求を受けた際には、相手方の請求の妥当性をチェックします。主なチェックポイントは以下のとおりです。

    11-2-1.請求額は正当か

    相手方が請求してきた遺留分侵害額が正しいかを確認する必要があります。また、実際に遺留分の侵害があるかの確認も必要です。

    そのためには、遺留分侵害額を計算してみなければなりません。計算方法は先述していますので、参考にしてください。

    特別受益などは判断が難しい場合があるので、可能であれば、税理士などの専門家に依頼したほうがいいでしょう。

    11-2-2.時効にかかっていないか

    遺留分侵害額請求には時効があり、時効にかかっていれば請求に応じる必要はありません。遺留分侵害額請求権は相続人が相続の開始と遺留分を侵害する贈与・遺贈があったことを知ったときから1年を過ぎると、時効によって消滅します。また、相続開始のときから10年を過ぎると除斥期間によって消滅します。

    11-2-3.請求者が特別受益にあたる贈与を受けていないか

    遺留分侵害額請求の請求者が被相続人から生前贈与を受けている場合、その贈与が特別受益にあたるか否かを確認する必要があります。特別受益にあたる贈与の場合、遺留分額から差し引くため、請求額が減る可能性があるからです。

    生前贈与の調査が困難な場合は、弁護士に相談してみましょう。

    12.遺留分侵害額請求に備える方法

    遺留分侵害額請求が行われると親族間に紛争が生じ、人間関係が崩壊するおそれがあります。そのような事態が発生しないに越したことはありません。そのためには、被相続人が存命中に、将来の遺留分侵害額請求が起こらないように、しっかりと対策を講じておくことが何よりも大切です。

    12-1.遺留分に配慮した遺言を作成する

    特定の相続人に財産の多くを引き継がせる旨の遺言を作成する場合、遺留分に配慮した内容にしておくことが重要です。

    できれば遺留分を侵害しない分割方法にしましょう。遺留分を侵害される相続人が発生する場合も、土地の代わりに金銭を相続させるとか、あるいは、なぜそのようにするのかを十分に説明して納得してもらうといった配慮が必要です。

    12-2.計画的に生前贈与を行う

    遺留分侵害額請求の対象となる法定相続人に対する生前贈与は、相続発生前10年間のものです。特定の相続人に多くの財産を引き継がせる場合、生前贈与は有効です。活用する場合はなるべき早い時期から計画的に贈与を行いましょう。

    12-3.生命保険を代償分割資金として活用する

    不動産など分割の難しい財産が多い場合、遺留分侵害が生じやすくなります。そういう場合に活用できるのが、生命保険金を活用した代償分割です。

    例えば、不動産を相続させる子を、生命保険金の受取人にしておきます。そして、その保険金で、他の相続人に土地の分割に相当する現金(代償金)を支払うように、遺言で指定しておくのです。こういう方法を「代償分割」といいます。代償分割には生命保険の活用が有効です。

    12-4.遺留分を放棄してもらう

    どうしても遺留分侵害が生じてしまう場合、遺留分権者となる相続人に遺留分を放棄してもらう方法があります。

    遺留分放棄は、遺留分権者が、自分で家庭裁判所に遺留分放棄を申し立てます。遺留分放棄が認められるには、以下のような条件を満たす必要があります。

    • 遺留分を放棄すべき正当な理由がある
    • 遺留分権利者に相応の経済的利益が与えられる

    ただし、これはよほど特別な理由がない限り、難しい方法でしょう。

    (参考)生前贈与では生命保険を活用した相続対策を – 相続税専門【税理士法人チェスター】|申告実績は業界トップクラス (chester-tax.com)

    (参考)遺言書にはどんな効力がある?効力を持たせるための注意点も解説 – 相続税専門【税理士法人チェスター】|申告実績は業界トップクラス (chester-tax.com)

    13.まとめ:遺留分が侵害されていると感じたら、専門家の意見を求めよう

    相続財産が遺留分を下回っていた場合、「遺留分侵害額請求」によって侵害された遺留分を取り戻せます。

    しかし、正確な侵害額の計算には特別受益にあたる生前贈与などを反映させるため、専門知識がないと難しい面があります。また、遺留分侵害額請求には時効があり、1年以内に手続きをしなければ請求権が消滅してしまう点に注意が必要です。その他にも、遺留分侵害額請求には考慮すべき点が多く、個人で手続きを行うには相当な負担がかかります。

    侵害された遺留分を取り戻したいと考える場合、相続問題に精通した弁護士に相談することをおすすめします。

    14.遺留分侵害額請求のご相談は「CST法律事務所」へ

    CST法律事務所(旧:法律事務所チェスター)は、遺産相続や税務訴訟を主に取り扱う法律事務所です。

    当事務所は相続業務に特化したチェスターグループと協力・連携関係にあり、グループに所属している税理士・司法書士・宅建士等の専門家と共に相続問題のすべてをサポートさせていただきます。

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    CST法律事務所は弁護士による初回相談(60分)が無料です。まずはお気軽にお問合せください

    ※この記事は専門家監修のもと慎重に執筆を行っておりますが、万が一記事内容に誤りがあり読者に損害が生じた場合でも当法人は一切責任を負いません。なお、ご指摘がある場合にはお手数おかけ致しますが、「お問合せフォーム→掲載記事に関するご指摘等」よりお問合せ下さい。但し、記事内容に関するご質問にはお答えできませんので予めご了承下さい。

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