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農地の相続税評価額はいくら?4つの区分の確認方法と計算方法を解説

農地の相続税評価額はいくら?4つの区分の確認方法と計算方法を解説

土地を相続すると、その土地の評価額に基づいて相続税が課税されます。

畑や田んぼといった「農地」は、原則として都道府県知事の許可がない限り用途を変えたり譲渡したりできないという制限があるため、通常の土地とは評価方法が異なります。

今回は、農地の区分やそれぞれの相続税評価の仕方、相続税の納税が猶予される特例などについて相続税専門の税理士がわかりやすく解説します。

1.農地の財産評価上の区分について

農地の相続税財産評価を行う場合には、最初に評価対象となる農地を分類します。

相続財産評価上の農地は、以下の4種類に分けられます。

①純農地
②中間農地
③市街地周辺農地
④市街地農地

1-1.純農地及び中間農地の定義について

①の純農地は、生産性のかなり高い農地で、宅地に転用することがほぼ不可能な農地のことです。

②の中間農地は、たとえば、鉄道駅から500m以内の区域にある農地のような、許可により宅地への転用が可能で、比較的売買できる可能性が高い農地のことをいいます。

1-2.市街地周辺農地と市街地農地の定義について

③の市街地周辺農地とは、たとえば、鉄道駅から300m以内の区域にある農地のような、市街化傾向が強い場所にある農地のことを言います。宅地への転用は原則可能です。

④の市街地農地とは、市街地にある農地のことで、既に宅地への転用許可を受けているか、又は、届け出だけで転用が可能な状態にある農地を言います。

2.農地の財産評価区分ごとの評価方法について

評価対象農地が農地の財産評価上どの区分に該当するかが明らかとなったら、その区分に応じて定められた方法により財産評価を行います。

この評価方法は、純農地と中間農地については、複雑さの点では宅地の評価とほぼ同じですが、市街地周辺農地と市街地農地については、宅地の評価より難しくなります。

2-1.純農地と中間農地の評価方法について

農地の相続財産評価は、先で述べたように農地の種別ごとに異なります。

まず、①の純農地と②の中間農地については、倍率方式により評価します。

倍率方式とは、評価対象地の固定資産税評価額に、国税庁が定める評価倍率表による「その土地が所在する区域の評価倍率」を乗じて評価額を算出する方式のことです。その計算によって算出された金額を評価対象農地の相続税評価額とします。

固定資産税評価額は、農地がある市区町村役場から送られてくる「固定資産税の納税通知書」に記載されています。評価倍率は国税庁の「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」で調べられます。

2-2.市街地周辺農地の評価方法について

③の市街地周辺農地の評価額は、評価対象農地が④の市街化農地であるとして評価した価額に0.8を乗じて計算します。

つまり、市街化周辺農地が市街化農地であると仮定した場合の評価額の80%が、市街化周辺農地の評価額となります。

2-3.市街化農地の評価方法について

④の市街地農地については、その農地が宅地であるとした場合の1㎡当たりの評価額から1㎡当たりの造成費を控除した価額に、評価対象農地の地積を乗じて評価額を計算します。

計算式は、以下のとおりです。

市街化農地の評価方法

たとえば、市街地農地を宅地とした場合の相続財産評価額が10万円/㎡、その農地が所在する区域の1㎡当たりの造成費を5万円、市街地農地の地積を1,000㎡とすると、この農地の評価額は、(10万円/㎡-5万円/㎡)×1,000㎡=5,000万円となります。

「宅地であるとした場合の1㎡価額」を求める際は、国税庁の「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」に掲載される路線価図を確認しましょう。

相続する農地が路線価地域にある場合、路線価図に掲載される路線価(道路に面した標準的な土地1㎡あたりの価額)に、間口・奥行・地形などを反映した画地調整率(間口狭小補正・奥行長大補正など)を掛けて、宅地としての1㎡価額を求めます。

路線価がない地域の場合は、近傍宅地の固定資産税評価額に「評価倍率表」の倍率を掛けて算出します。近傍宅地の価額は、相続する農地のある市区町村役場へ問い合わせるとよいでしょう。

造成費の金額は、国税庁の「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」に掲載される「宅地造成費の金額表」に、都道府県ごとに掲載されています。

3.相続税の負担を軽減する納税猶予の特例

農地は面積が広いことが多く評価額は高額になりやすいため、相続人に多額の相続税が課される可能性があります。相続人に十分な手持ち資金がない場合、納税資金を確保するために農地を手放さざるを得なくなるかもしれません。

そこで、亡くなった人が所有していた農地を相続して農業を続ける人には、一定の要件を満たすと相続税の納税を先送りにできる「納税猶予の特例」を適用することが可能です。

ここでは、納税猶予制度の仕組みやメリット、要件などを詳しく解説します。

なお、納税猶予の特例の要件や手続き方法などについて詳しくは以下の記事でも解説していますのであわせてご覧ください。

参考:【農地の納税猶予の特例とは】相続税免除の要件をプロが解説

3-1.納税猶予制度の仕組みとメリット

相続税の納税猶予の特例は、農業を営んでいた方が亡くなり、相続人が農地を相続して農業を続ける場合に、その土地に課される相続税額の大部分の納税を猶予できる特例のことです。

名称に「猶予」とあるため、相続税の納税を一定期間先延ばしにできる制度であると思われがちですが、実際は納税が免除されるケースも少なくありません。

3-1-1.納税猶予制度の仕組み

納税猶予の特例を適用できると、相続した農地の評価額のうち「農業投資価格」を超える部分にかかる税金の支払いが猶予されます。計算式は以下のとおりです。

納税猶予制度の仕組み

農業投資価格とは、農業に使用されることを前提にした土地の売買価格のことです。国税局が都道府県・地目ごとに定めており「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」で公開されています。

農業投資価格の目安は「10アール(1,000㎡)あたり約50万〜90万円」であり、通常の評価額の数百分の一程度と格段に低く設定されています。そのため、納税猶予の特例を適用できると、相続税申告時に納める税負担を大幅に軽減することが可能です。

また、納税が猶予された相続税は、特例を受けて農業を継続する相続人(農業相続人)が死亡した場合や、後継者に生前一括贈与を行った場合などに支払いが免除されます。

3-1-2.納税猶予制度の主なメリット

納税猶予制度を利用する主なメリットは、手元の資金を減らさずに済むことです。

猶予された税金は、相続人が農業を続けている間は納める必要がありません。そのため、農地を相続した当初の資金繰りが悪化しにくくなり、農業を継続しやすくなります。

また、農業相続人が亡くなった場合や次の世代へ生前一括贈与を行った場合などに猶予されていた相続税が免除されるため、税負担をゼロにすることも可能です。

相続した農地で農業を営みやすくなることもメリットの1つです。納税猶予制度の適用により相続税の納税が猶予されたことで農地を手放さずに済むと、農業を継続して安定した収益を得ることが可能です。

3-2.納税猶予を受けるための主な要件

納税猶予制度を利用するには、亡くなった人(被相続人)、引き継ぐ人(農業相続人)、対象の農地それぞれが所定の条件を満たす必要があります。 主な要件は以下のとおりです。

対象主な要件
被相続人
(亡くなった人)

以下のいずれかに該当すること

  • 死亡の日まで農業を営んでいた人
  • 死亡の日まで特定貸付や認定農地貸付等を行っていた人
  • 農地等を生前一括贈与した人(贈与者)
  • 死亡の日まで相続税の納税猶予の適用を受けていた農業相続人または農地等の生前一括贈与の適用を受けていた受贈者で、営農困難時貸付けをし、税務署長に届出をした人
農業相続人
(引き継ぐ人)

以下のいずれかに該当すること

  • 相続税の申告期限までに農業経営を開始し、引き続き営農を行うと認められる人
  • 相続税の申告期限までに特定貸付や認定農地貸付等を行った人
  • 農地を生前一括贈与された人(受贈者)
  • 農地等の生前一括贈与の特例の適用を受けた受贈者で、営農困難時貸付けをし、税務署長に届出をした人
対象となる農地

以下のいずれかに該当すること

  • 被相続人が農業の用に供していた農地等で、相続税の申告期限までに遺産分割されたもの
  • 被相続人が特定貸付等を行っていた農地または採草放牧地で、相続税の申告期限までに遺産分割されたもの
  • 被相続人が営農困難時貸付けを行っていた農地等で、相続税の申告期限までに遺産分割されたもの
  • 被相続人から生前一括贈与によって取得した農地等で、被相続人の死亡の時まで贈与税の納税猶予または納期限の延長の特例の適用を受けた農地等
  • 相続や遺贈によって財産を取得した人が相続開始の年に被相続人から生前一括贈与を受けていたもの

営農困難時貸付とは、身体障害等により農営を続けることが難しくなった場合に、所定の要件を満たすと農地を貸し付けた後も納税猶予を受けられる制度のことです。

納税猶予の特例を適用できる要件には複雑な部分があり、専門家でなければ該当しているか判断が難しいでしょう。そのため、農地を相続する際は、最寄りの税務署や相続税専門の税理士に特例の対象となるか確認することをおすすめします。

3-3.制度利用の注意点と打ち切り要件

納税猶予制度は1度受けたら終わりではなく、猶予を受け続けるためには一定の要件を満たしたうえで、相続税の申告期限から3年ごとに継続届出書を提出しなければなりません

以下のようなケースに該当すると、納税猶予税額の全額または一部が打ち切りとなる場合があります。

 打ち切られるケース
全額打ち切り
  • 適用を受けた農地面積の20%超を譲渡、貸付、転用、耕作放棄した場合
  • 農業相続人が適用を受けた農地での農業経営をやめた場合
  • 納税猶予適用継続届出書を提出しなかった場合 など
一部打ち切り
  • 収用交換等による譲渡等をした場合
  • 適用を受けた農地面積の20%以下を譲渡、貸付、転用、耕作放棄した場合
  • 生産緑地地区内の農地(採草放牧地を含む)の買取申出をした場合
  • 農用地区域内の農地等について、特例事業(農地中間管理機構への譲渡)、利用権設定等促進事業に基づき譲渡した場合 など

納税猶予の特例を受け続けるためには、前提として相続した農地で耕作をしている必要があります。災害や疾病等によるやむを得ない事情がある場合などを除き、農地での耕作をやめると納税猶予は取り消されてしまいます。

農地の一部を売ったり貸したりした場合、その面積が全体の20%以下であれば、その部分に対応する相続税を納付するのみで済みますが、20%を超えると猶予されている税額のすべてを一括で納付しなければなりません。

また、打ち切りになると猶予されていた相続税に加えて「利子税」も支払う必要があります。特例を受ける場合は、途中で対象外とならないよう、要件に該当していることを定期的に確認し、継続届出書を忘れずに提出しましょう。

4.農地の相続税評価から申告までの流れ

農地の相続税評価から申告までは、以下の手順で進めます。

4-1.STEP1:農地の区分を確認する

農地を相続した際は、相続税法上の農地区分である「純農地」「中間農地」「市街地周辺農地」「市街地農地」のどの種類に該当するのかを調べましょう

農地の区分は、国税庁の「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」で以下の手順で確認できます。

  1. 農地がある都道府県を選択
  2. 評価倍率表の「一般の土地等用」を選択
  3. 農地がある市区町村を選択

上記の手順で表示されるPDFファイルで、農地がある町(丁目)の右横にある固定資産税評価額に乗ずる倍率等に農地の区分が以下のように記載されています。

  • 純:純農地
  • 中:中間農地
  • 周比準:市街地周辺農地
  • 比準又は市比準:市街地農地

農地区分の判定を誤ると相続税評価額を正しく算出できなくなり、相続税の申告・納税も誤ってしまいかねません。必要に応じて最寄りの税務署や相続税専門の税理士などにも相談し、農地の区分を正しく判定することが大切です。

4-2.STEP2:評価に必要な書類を準備する

農地の相続税評価をする際は、基本的にその農地の「固定資産税評価額」が分かる書類が必要です。

固定資産税評価額は、自治体が算出する不動産価格のことであり、毎年5月ごろに送られてくる固定資産税の納税通知書に記載されています。

固定資産税の納税通知書が見当たらない場合は、市区町村役場や都税事務所などで「固定資産税評価証明書」を取得するとよいでしょう。

納税猶予の特例を受ける場合は、相続税の申告時に所定の書類を添付します。添付書類と申請先は以下をご確認ください。

納税猶予を利用するための提出書類

納税猶予の特例を受ける場合、農業委員会にも適格証明書などの書類を申請する必要があるため、スケジュールに余裕を持って早めに準備しましょう。

4-3.STEP3:申告書を作成し、税務署へ提出する

必要書類がそろったら相続税の申告書を作成し、税務署へ提出します。申告期限は「相続の開始を知った日(通常は被相続人の死亡日)の翌日から10ヶ月以内」です。

相続税申告書には、判明した区分にもとづいて計算した農地の評価額を記載します。納税猶予の適用を受ける場合は、先述のとおり申告書への記載に加え、農業委員会発行の「適格者証明書」や担保提供に関する書類を添付しましょう。

申告書類の提出先は、被相続人の最後の住所を管轄する税務署です。期限内にすべての書類を提出しないと納税猶予の特例が認められない可能性があります。

また、相続税の納税も相続の開始を知った日の翌日から10ヶ月以内に済ませなければなりません。

期限内に納税しなかった場合や本来よりも少なく申告・納税した場合は、加算税や延滞税が課される場合もあるため、早めに手続きを済ませることをおすすめします。

5.農地の相続税評価に関するよくある質問

最後に、農地の相続税評価についてよくある質問に回答します。

5-1.貸している農地(貸付農地)の評価方法は?

人に貸して耕作してもらっている農地は、被相続人自身が使っていた農地(自用地)よりも利用の自由度が低くなるため、評価額が下がります。

基本的には「自用地としての評価額」から、農地に設定される権利(耕作権等)の価額を差し引いて計算します。

農地に耕作権(地主に小作料を支払って農地の耕作または牧畜できる権利)が設定される場合、農地の評価額や耕作権の価額の計算式は以下のとおりです。

  • 耕作権の目的となっている農地の評価額:自用地評価額−耕作権の価額
  • 耕作権の価額:自用地評価額×耕作権割合

耕作権割合は、以下のとおり農地の区分にしたがって定められています。

  • 純農地および中間農地:50%
  • 市街地周辺農地および市街地農地:30%または40%

農地を相続した際は、各市町村の農業委員会が発行する農地台帳を閲覧し、農地に設定される権利を確認しましょう。

5-2.家庭菜園も農地として評価されますか?

家庭菜園は、自宅の庭や敷地の一角で野菜や花を育てている土地部分を指すのが一般的です。家庭菜園にて栽培・収穫された野菜や果物、花などは基本的に販売されることはなく、栽培した本人やその家族が消費しているケースがほとんどです。

そのため、家庭菜園の部分は原則として農地とはみなされず、その部分を含む住宅等の敷地全体が宅地として評価されます

ただし、家庭菜園と農地の区分が法律で明確に定められているわけではなく、どちらに該当するかは実態により個別に判定されるため、詳しくは相続税専門の税理士に相談することをおすすめします。

家庭菜園の相続税評価について詳しくは、以下の記事で解説していますので、あわせてご覧ください。

参考:家庭菜園の相続税評価の方法を分かりやすく解説

6.農地を相続したときは相続税専門の税理士に相談を

農地の相続税評価額は、宅地とは異なり「純農地」や「市街地農地」など4つの区分ごとに計算方法が変わるため、相続発生時は適切に判断しなければなりません。一方で、農業を続けるのであれば、税金の支払いを先送りにできる「納税猶予の特例」を利用すると、金銭的な負担を大きく減らすことが可能です。

とはいえ、農地の区分や特例を適用できるかどうかを適切に判断するためには、相続税に関する専門知識が求められます。申告内容を間違えてしまうと、加算税や延滞税を受ける恐れもあるため、農地を相続したときは相続税専門の税理士に相談するとよいでしょう。

税理士法人チェスターは、年間3,000件以上の申告実績がある豊富な経験とノウハウを強みとした相続税専門の税理士法人です。農地の評価や税金対策にも精通していますので、農地の相続でお困りの方は、ぜひ一度お問い合わせください

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