【相続税の控除・特例一覧】税理士がわかりやすく解説

相続税には、税負担を軽減するためのさまざまな控除や特例が用意されています。
「基礎控除」は、すべての人が対象となる制度として広く知られていますが、それ以外にも相続税を軽減できる「小規模宅地等の特例」等、税額を控除できる特例などの制度は複数あります。
この記事では、相続税額を少なくできる6つの控除制度と代表的な特例について、わかりやすく解説します。
1.基礎控除:全員が使える控除
基礎控除とは、誰もが使える控除です。
以下の計算式で求められた額は、相続税の課税対象から控除されます。
相続税の基礎控除額
=3,000万円+(法定相続人の数×600万円)
▼参考記事
「【相続税の基礎控除】いくらまで無税?計算式は?税理士が解説」
2.相続税計算時に控除できる主な控除

相続税の計算は、一度相続税総額を計算し、その後各相続人が納める税額を個別に計算します。その際、それぞれの相続人の身分等によって税額から控除できる事項のことを税額控除といいます。
つまり、基礎控除は全ての相続で利用できるのに対し、税額控除は相続人によって適用できるもの・できないものがあるということです。
税額控除には、以下の種類があります。
これらを控除して算出された額が各相続人の相続税額となります。
それでは、それぞれの控除を具体的に見ていきましょう。
2-1.贈与税額控除:相続税と贈与税の二重払いを防ぐ
【控除を使える人】
相続発生より3年以内に贈与財産を受け取った人

相続人が被相続人から贈与を受けて贈与税が発生した場合、贈与税を支払うことになります。その後、相続が発生して、その贈与財産を相続税の対象として税額計算する際、支払った贈与税額を控除することが可能です。
この控除のことを贈与税額控除と言います。

被相続人が生前、相続人に対して贈与した場合、その財産に対して相続税が生じる場合があります。相続が発生する前の3年以内に、相続人が被相続人から譲り受けた財産に対して相続税がかかるのです。このような場合、贈与時に贈与税の対象となっていれば、その財産から生じる税金を二度支払わなければなりません。しかし相続税法では、支払った贈与税を相続税計算時に控除することができるのです。
なお、上記の「3年以内」という期間は令和9年以降段階的に延長され、令和13年以降は「7年以内」となります。
▼参考記事
「暦年課税に係る贈与税額控除の控除不足額は還付なし~令和5年度税制改正で見直しもされず~」
国税庁「贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)」
2-2.配偶者控除:配偶者の高額相続財産取得が可能
【控除を使える人】
配偶者(夫・妻)
※婚姻関係にない方は不可(内縁の夫・妻)
相続や遺贈で配偶者が相続財産を取得した場合、その額が配偶者の法定相続分に相当する額までであれば、配偶者に対して相続税がかかりません。

また配偶者の取得した相続財産が法定相続分を超える場合でも、1億6,000万円までの場合は相続税の対象外です。
この控除制度のことを配偶者控除または配偶者の税額軽減と言います。

具体例をあげて説明すると、配偶者が子と一緒に相続する場合、2分の1が配偶者の法定相続分となります。
この場合、相続財産全体額の2分の1までであれば、配偶者は、相続税を支払うことなく、相続財産を取得することができるのです。したがって相続財産全体額が6億円でも10億円でも、配偶者の相続財産取得金額がそれぞれ3億円、5億円までであれば、相続税は生じないのです。また配偶者の取得した相続財産が1億6,000万円以下である場合、それだけで相続税の対象から外れます。
なぜこのように配偶者が優遇されているかというと、財産は夫婦の協力のもと築き上げられるものであること、また、残された配偶者が死亡した場合には、同一世代に2回課税することから、税負担を軽減させる必要があると考えられるためです。
今後の生活に困らないようにとの考慮もされています。
▼参考記事
■配偶者控除の詳細とは?
「1.6億円が無税に!相続税の配偶者控除の条件・注意点・計算方法を解説」
■法定相続分とは?
「法定相続分とは何か?計算方法や遺留分との違いを解説!」
「法定相続分は相続人の家族構成でこんなに変わる!【ケース別で解説】」
■婚姻関係のない夫婦はどうなる?
「内縁の妻や夫に相続権なし!生前対策と特別縁故者が財産を残すポイント」
2-3.未成年者控除:未成年者の相続人の相続税額を減らせる
未成年(満18歳未満の方。2022年3月31日以前の相続では満20歳未満の方)
相続人の中に未成年者がいる場合もあります。このような時、相続税を計算する際、未成年者の相続人が負担する相続税の額から一定額を控除することが可能です。
この制度が未成年者の相続税額を少なくできる制度が未成年者控除です。
ただし、未成年者の相続人であれば、誰でも適用されるわけではありません。
まず大前提として未成年の法定相続人でなければなりません。相続放棄をした相続人も未成年者控除の対象になります。
それから住所や国籍に関する一定の条件も満たさなければなりません。相続財産を取得した際、その者の住所が日本国内にあることが必要です。また住所が日本国内にない場合でも、国籍や居住年数で一定の条件に当てはまれば、未成年者控除を受けられます。
未成年者控除によってどれくらいの額を控除できるのでしょうか。

令和4年4月1日以降に相続が発生した場合は、控除の対象となる未成年者が満18歳になるまで、1年につき10万円を控除します。年数に1年未満の端数がある場合は、1年として計算します。
例えば、15歳9か月の未成年者が相続人である場合、その未成年者控除額の計算方法を見ていきましょう。
満18歳になるまでの年数は2年3か月ですが、1年未満の端数は1年として計算するので、3年となります。したがって、10万円に3を乗じた30万円が控除額となります。
未成年者に生じる相続税が、控除額より少ない場合もあるでしょう。控除しきれなかった部分は、扶養義務者である親などの相続税から差し引かれます。また相続の際、過去に未成年者控除の適用を受けたことがある場合、控除額がその分抑えられます。
▼参考記事
「相続税の未成年者控除とは?適用要件や控除額計算方法も解説」
2-4.障害者控除:障害者の相続人が負担する相続税額が少なくなる
【控除を使える人】
障害者の方
相続人の中に障害を持っている85歳未満の者がいる場合、その障害者にかかる相続税額から一定額を控除することができます。
この税額控除制度のことを障害者控除と言います。
この控除制度を利用するためには、「相続財産を取得した時、85歳未満の障害者で、日本国内に住所があった人」という要件があります。
相続放棄をした相続人でも控除の対象になるのは、未成年者控除の場合と変わりません。
障害者控除の控除額は、一般障害者か特別障害者によってその額が違います。
一般障害者とは比較的軽度の障害を持つ者で特別障害者とは重度の障害を持つ者です。そのため特別障害者のほうが一般障害者よりも控除額が大きくなっています。

平成27年1月1日以降に相続が発生した場合、障害者が満85歳に達するまでの年数1年につき、一般障害者の場合は10万円、特別障害者の場合は20万円を控除します。
例えば相続発生時の障害者の年齢が80歳である時、一般障害者の場合は50万円、特別障害者の場合は100万円の控除額になります。年数に1年未満の端数がある場合や、障害者控除による控除額が障害者の相続税額よりも大きい場合、過去に障害者控除を受けたことがある場合の扱いは未成年者控除と同様です。
▼参考記事
「【相続税の障害者控除】控除額の計算方法・要件をプロが解説」
2-5.相次相続控除:相次いで発生した相続による相続税の負担を軽減
【控除を使える人】
10年以内に2回相続が発生した方

短期間のうちに父親と母親が相次いで亡くなる場合もありえるでしょう。このような場合、父親の相続発生時と母親の相続発生時にそれぞれ相続税を支払わなければならないため、相続する子の負担が大きくなってしまいます。
このような状況となるのは、相続人である子にとって酷であると言えます。したがって二度目の相続発生の際、一度目の相続時に支払った相続税のうち一定額を控除できる制度が定められているのです。
この税額控除制度が、相次相続控除です。
相続税の計算時に相次相続控除の適用を受けるためには条件を満たさなければなりません。
まず二度目の相続の被相続人が一度目の相続の相続人であり、相続によって財産を取得し相続税を支払ったことです。相続により財産を取得しても相続税が発生しない場合は適用対象外です。
次に一度目の相続発生から二度目の相続発生まで10年以内であることも条件となっています。10年を超えてしまうと相次相続控除は適用されません。
それから相次相続控除の適用を受ける者は、二度目の相続の相続人です。相続放棄をした者は、法律上相続人ではないという扱いを受けます。したがって相続放棄をした者は相次相続控除の適用対象外です。また相続廃除によって相続権を失った者も相続人ではありません。そのためたとえ遺贈によって相続財産を取得した場合でも相次相続控除を受けられないことになります。
▼参考記事
「相次相続控除とは?申告要件や計算方法の具体例、手続きの方法も解説」
2-6.外国税額控除:外国と日本で相続税の二重払いを回避

外国に財産を保有している者が亡くなった場合、その国で相続税に対応する税金を支払わなければならない場合があります。
また日本に居住している者は、原則外国の相続財産も日本の相続税の課税対象となり、相続税を支払わなければなりません。このような場合、外国と日本の双方で課税されてしまうことになるのです。しかしこれでは税金を負担する相続人に酷だと言えます。
そのため外国で相続税に対応する税金を支払った場合、その額を日本の相続税を支払う際に控除することができるのです。この税額控除制度が外国税額控除です。
▼参考記事
「相続税の外国税額控除とは?二重課税を防ぐ手続き・計算方法を解説」
3.相続税を軽減できる特例
相続税を減額できる特例はいくつかありますが、ここでは一般的に利用されることの多い「小規模宅地等の特例」について解説します。
3-1.小規模宅地等の特例
【特例を受けられる人】
土地を相続する人
※土地・建物の面積など、特例を受けるための条件があります。
小規模宅地等の特例とは、土地の評価を80%下げることで、土地にかかる税金を大幅に減らすことができる制度です。
例えば、1億円の土地と5000万円の現金を、子供1人が相続した場合を考えます。
具体的な計算ではないのであくまでイメージですが、特例なしですと1億5000万円に相続税がかかるので、約3000万円の相続税を支払うことになります。
一方、小規模宅地等の特例を使うと土地は80%を減額した2000万円となり、現金を合わせた7000万円に相続税がかかりますので、約500万円の相続税を支払えばいいだけになります。
土地や家を相続した場合、住んでいるのにも関わらず相続税が払えずに土地と家を売却するということを避けるために小規模宅地等の特例は定められています。
肝心の“あなたは小規模宅地等の特例を使えるのかどうか”ですが、使える要件をここで説明すると長くなるので、参考記事をご覧ください。
■私は小規模宅地等の特例を使える?
「小規模宅地等の特例とは~概要・要件・よくあるQ&Aなどすべて解説~」
■小規模宅地等の特例を使える土地・建物とは何があるか知りたい
「私道における小規模宅地の特例の適用可否」
「青空駐車場とは?小規模宅地等の特例で相続税を50%抑える対策を解説」
「特別養護老人ホームと小規模宅地の特例の関係」
動画でも解説していますので、参考にしてください。
4.控除や特例を使う場合によくある質問
ここまで、相続税を軽減する6つの税額控除と、特例を紹介してきました。
制度を正しく使うため、税額控除や特例を使う場合によくある質問と回答を紹介するので、参考にしてください。
4-1.基礎控除とその他の控除や特例は併用できる?
相続税の基礎控除とその他の控除・特例は、要件を満たせば同時に適用することができます。
ただし、基礎控除と小規模宅地等の特例は「財産の価額」から控除するのに対し、贈与税額控除、配偶者控除、未成年者控除、障害者控除、相次相続控除は「算出された相続税額」から控除するという違いがあります。
したがって、単純に基礎控除とその他の控除・特例の金額を合算するわけではありません。
具体例を見てみましょう。
<前提>
課税価格:2億円
法定相続人:4人(配偶者+子ども3人)
➀ 基礎控除を引いた相続財産の税金額を計算する
遺産総額2億円 - 基礎控除5400万円 = 1億4600万円(相続財産)
1億4600万円の相続税 = 約2,500万円
② ①で求めた税金額にたいして、各控除・特例を当てはめる
さきほどの2500万円に、配偶者控除の1億6000万円までの控除が適用されます。
結果的には基礎控除も各種控除・特例も使いますが、基礎控除額5400万円+配偶者控除額1万6000円=2億1,400万円の控除が受けられる、ということではありませんので、注意してください。
4-2.控除・特例で相続税が0円に。申告はしなくていい?
控除、特例を受けようとする人が陥りやすい間違いがあります。
それは、「控除、特例で相続税の支払いが不要になったから申告を行わない」ということです。
以下の控除、特例を受けて相続税の支払いが不要になった場合は、申告書の提出が必要なので注意してください。
- 配偶者控除
- 小規模宅地等の特例
5.まとめ
相続税を軽減する6つの税額控除をご紹介しました。相続税は取得する財産によって変わりますが、高額であることが多いです。そのため、たくさんの控除が設けられています。
少しでも節税するためには、それぞれの控除の要件を理解することが重要です。控除の適用には手続きが必要となる場合がありますので、相続に強い税理士に相談することをおすすめします!
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