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【簡単解説】財産評価基本通達とは?見方や評価方法・総則6項についても解説


【簡単解説】財産評価基本通達とは?見方や評価方法・総則6項についても解説


相続等によって取得した財産の価額は、相続等が発生した時の時価で、各財産の現況に基づいて評価されます。

預貯金や自宅に保管されている手許金(現金)の価額は容易に判断できますが、不動産や株式のように評価方法によって時価で評価額が異なる財産も少なくありません。このような財産について、評価方式が個別に行われると評価額に差が生じ、課税の公平が損なわれてしまうこともあります。

そのため国税庁は財産評価基本通達」を定め、相続や贈与により取得した財産の評価方法について一定の基準を示すことで、相続税の公平性を確保しています

しかし、この通達の定めに基づいて評価を行った場合であっても、令和4年4月の最高裁判決のように、総則6項により財産評価基本通達による評価が否定される事例もあります。例外規定の発動の基準も含め、財産評価基本通達の見方や評価方法・総則6項についても分かりやすく解説します。

1.財産評価基本通達とは?

相続や遺贈、贈与(以下「相続等」)により取得した財産の価額については、「相続税法第22条」により規定されています。

相続税法 第22条
この章で特別の定めのあるものを除くほか、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得のときにおける時価により、当該財産の価額から控除すべき債務の金額は、その時の現況による。


引用:e-Gov法令検索「相続税法第22条

この条文は、相続税の評価において、取得時の時価を基準とすることを明確にしています。具体的には、相続等によって取得した財産の評価は、その取得時点での市場価値(時価)に基づくことが求められます。

相続税法における「時価」は、「客観的な交換価値」といわれ、具体的には「不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額」といわれています。

しかしながら、財産の時価を客観的に評価することは容易なことではありません。この土地は、Aさんの解釈では1,000万円かもしれませんが、Bさんの解釈では1,500万円とされる場合もあり得ます。

このように納税者間で評価額がまちまちになることは、課税公平の観点から好ましくありません。そこで、誰もが簡単に計算し、財産の評価方法が公平になるようにするために、「財産評価基本通達」で財産の時価の評価方法を定めています。

「財産評価基本通達」は財産評価の基本的な方針を定めた上で、納税者間の公平の維持、納税者及び課税当局双方の便宜、徴税費の節減等の観点から各種財産について画一的かつ詳細な評価方法を定めています(金子宏「租税法《第24版》」734~735頁)。

1-1.財産評価基本通達の見方

通達とは、行政官庁の上位の機関が下位の機関に対して発せられる内部的な指示文書です。法令ではないので、国民に対する法的な拘束力はありませんし、行政上の解釈や取扱を示したものにすぎません。

しかし、実務上は法令と同様な効力を持つことが多く、重要な基準となっています。

2.財産評価基本通達に基づく相続財産の評価方法とは?

財産評価基本通達は、第1章から第8章までで構成されており、それぞれ各種財産の評価方法について定めています。

  • 第1章 総則
  • 第2章 土地及び土地の上に存する権利
  • 第3章 家屋及び家屋の上に存する権利
  • 第4章 構築物
  • 第5章 果樹等及び立竹木
  • 第6章 動産
  • 第7章 無体財産権
  • 第8章 その他の財産

財産評価基本通達の全文は、国税庁のWebサイトで確認できます。
(国税庁HP:「法令等」→「法令解釈通達」→「相続税・贈与税関係」→「基本通達」・「財産評価」)

2-1.預貯金・上場株式・投資信託・債権

2-1-1.預貯金

相続税の申告をする際の預貯金の価額は、課税時期(被相続人の死亡の日)における預入額と同時期現在において解約するとした場合に既経過利子の額として支払を受けることができる金額から当該金額につき源泉徴収されるべき所得税の額に相当する金額を控除した金額との合計額によって評価します。

2-1-2.上場株式

上場株式の評価額を計算する方法は、一株当たりの「株価×株数」です。
株価は、次の4つの金額のうち、最も金額の低いものを評価の計算に用います。

上場株式

2-1-3.投資信託

投資信託は、課税時期において解約請求又は買取請求を行った場合に証券会社などから支払いを受けることができる価額により評価します。

相続税評価額の基本計算式
評価額=(基準価額×保有口数)-源泉徴収税額-信託財産留保額(解約手数料)

  • 基準価額:相続開始日の投資信託の一口当たりの価格
  • 保有口数:相続開始日に保有していた口数
  • 源泉徴収税額:相続発生時点の利益に対して課税される所得税相当額
  • 信託財産留保額:解約時にかかる手数料
2-1-3-1.投資信託の種類別評価方法

①一般的な投資信託
基準価額は1万口当たりで表示されることが多いため、1万で割って一口当たりの価格を算出し、上記計算式で評価します。

②MRF(マネー・リザーブ・ファンド)
現在発売されているMRFは主に公社債で運用され、利回りはほぼゼロに近い利率が続いています。未収分配金や解約手数料がほとんどないため、単純に「基準価額×口数」で評価します。

③外貨建MMF(マネー・マーケット・ファンド)
外貨建てのため、相続発生時の為替レートで円換算します。未収分配金が発生することもあるため、取引金融機関に確認が必要です。

④上場投資信託(ETF・REIT)
証券取引所に上場されており、株式に近い性質を持ちます。評価額は相続発生日付近の終値のうち、最も金額の低いものを評価の計算に用います。
上記「2-1-2上場株式」の評価方法と同じです。

詳細につきましては、弊社「投資信託の相続手続きを解説│手続きの流れと相続税評価額計算法」をご参照ください。

2-1-4.債権

貸付金債権の評価額は、元本の価額と相続開始日までに発生した利息の価額との合計額で評価します。

詳細につきましては、弊社「貸付金債権の相続税評価」をご参照ください。

2-2.不動産(土地・建物)

不動産の評価は、土地と建物を区分して行います。

土地の価値や税金を計算する指標は4つあります。売買価格である①実勢価格、公的機関が公表する適正な地価の形成に寄与する②公示価格、固定資産税を算出するための基礎となる③固定資産税評価額、相続税を算出するための基礎となる④路線価の4つです。

財産評価基本通達11項では、宅地の評価は、原則として、①市街地的形態を形成する地域にある宅地は「路線価方式」で、②①以外の宅地であれば「倍率方式」で評価することとしています。

なお、その土地の評価方法につきましては、国税庁HPの「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」から、いずれにより評価するかを確認することになります。

2-2-1.路線価方式

路線価方式とは、路線価が定められている地域の評価方法をいいます(財産評価基本通達13項)。

財産評価基本通達13項
路線価方式とは、その宅地の面する路線に付された路線価を基とし、15((奥行価格補正))から20-7((容積率の異なる2以上の地域にわたる宅地の評価))までの定めにより計算した金額によって評価する方式をいう。

引用:国税庁「財産評価基本通達13項

つまり、路線価方式とは、①画地ごとの宅地の価額を、その画地の沿接する路線(不特定多数の者の通行の用に供されている道路をいいます。)に設定されている路線価に一定の加算又は減産(「画地調整」といいます。)を施し、その画地の地積を乗じて求めた金額によって評価する方式です。

路線価は、宅地が路線に接している状況、形状等がその路線に面する標準的な画地の1㎡あたりの標準価額であるから、実際に評価する宅地の路線に接している状況、形状等が標準的な要件と異なる場合には、その標準価額を基礎として画地調整を行う必要があります。

そのため、財産評価基本通達においては、15《奥行価格補正》から20-7《容積率の異なる2以上の地域にわたる宅地の評価》までにおいて、その実際に評価する宅地が路線に接している状況、形状等に応ずる評価が行えるように、各種の画地調整のための定め(各種補正率)が設けられています。

一つの道路に面している場合の路線価を使った評価額の計算式は次のとおりです。

評価額=路線価×各種補正率×土地の面積×持分割合

なお、主な各種補正率については、弊社HP「【奥行価格補正率とは】土地評価額の計算方法等をプロが解説」及び「【地積規模の大きな宅地の評価】適用要件・評価方法・計算例を徹底解説」などをご参照ください。

【例①】

路線価:20万円/㎡
各種補正率:1.00
土地の面積:200㎡
持分割合:1/1
評価額の計算式:20万円×1.00×200㎡×1/1=4,000万円
⇒評価額は4,000万円となります。


【例②】

路線価:30万円/㎡
各種補正率:0.95
土地の面積:200㎡
持分割合1/2
評価額の計算式:30万円×0.95×200㎡×1/2=2,850万円
⇒評価額は2,850万円となります。


2-2-2.倍率方式

倍率方式とは、財産評価基本通達21項によると次のとおりとなります。

財産評価基本通達21項
倍率方式とは、固定資産税評価額に国税局長が一定の地域ごとにその地域の実情に即するように定める倍率を乗じて計算した金額によって評価する方式をいう。

出典:国税庁「財産評価基本通達21項

なお、詳細につきましては、弊社HP「相続税の土地評価を自分で計算する方法を解説【初心者向け】」をご参照ください。

倍率地域の土地の評価額は、固定資産税評価額に倍率を乗じて計算します。

倍率地域の土地の評価額=固定資産税評価額×倍率×持分割合

【例】

固定資産税評価額:1,500万円
倍率:1.1倍
持分割合:1/1
評価額の計算式: 1,500万円×1.1×1/1=1,650万円
⇒評価額は1,650万円となります。

2-2-3.建物(家屋)等の評価

家屋の評価は、原則として、財産評価基本通達89項において、その家屋の固定資産税評価額に1.0の倍率を乗じて計算した金額によって評価します。

自宅の家屋等の評価方法の概要を一覧にすると次のとおりとなります。

区分評価の計算式
家屋(自宅)固定資産税評価額×1.0
建築中の家屋評価時点までの建築費用×70%
家屋と構造上一体の付属設備
(電気・ガス・給排水設備等)
家屋の価額に含めて評価
(別途評価しない)
門、塀等の設備(再建築価額-経年減価の額)×70%
庭園設備同じようなものを取得する額×70%

2-3.借地権・底地

2-3-1.借地権

借地権とは借地借家法に規定する建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権をいい、具体的には借地借家法に基づく普通借地権と旧借地法に基づく借地権の2種の借地権が該当します。

財産評価基本通達27項によると「借地権の価額は、その借地権の目的となっている宅地の自用地としての価額に、当該価額に対する借地権の売買実例価額、精通者意見価格、地代の額等を基として評定した借地権の価額の割合がおおむね同一と認められる地域ごとに国税局長の定める割合を乗じて計算した金額によって評価する。」とされています。

2-3-2.底地

底地とは、地主が所有する土地に、他人(借地権者)が建物を建てることを目的として借地権を設定している場合の、その土地のことをいいます。つまり、建物の所有・利用を目的とする借地権が設定されている土地のことです。

底地の価額の評価は、まず、土地を自分で利用するものとして評価額を求め、その後、借地権の評価額を差し引いて計算します。借地権の評価額は、自用地としての評価額に借地権割合を掛けて求めます。計算式は次のとおりとなります。

底地の相続税評価額=自用地としての評価額×(1-借地権割合)

2-4.非上場株式(取引相場のない株式)

非上場株式の評価方法は、会社の規模や種類によって異なります。基本的には、大会社に該当する会社の株式は類似業種比準方式、小会社に該当する会社の株式は純資産価額方式、中会社に該当する会社の株式は大会社の評価方式と小会社の評価方式との併用方式、つまり類似業種比準方式と純資産価額方式の2つの方法をそれぞれ加味して評価します。

会社の規模は、従業員数、総資産価額、年間取引額の3つの指標に基づいて判定されます。

また、同族株主かどうかによっても評価方法が異なる場合があります。
詳細につきましては、弊社「非上場株式(取引相場のない株式)の相続税評価のすべて」をご参照ください。

2-5.その他資産(会員権・貴金属・一般動産)

2-5-1.ゴルフ会員権

ゴルフ会員権の評価額は、財産評価基本通達211項により以下の方法で算出します。

①取引相場のある会員権の場合
通常の取引価格の70%相当額となります。
取引価格に含まれない預託金等がある場合は、通常の取引価格の70%相当額+返還時期に応じた預託金等評価額となります。

②取引相場のない会員権の場合
株式制の会員権は、株式として評価した金額となります。
株式制であり預託金等の預託も必要な会員権は、株式として評価した金額+返還時期に応じた預託金等の評価額となります。
預託金制の会員権は、返還時期に応じた預貯金等の評価額となります。

③プレー権のみの会員権の場合
評価しません。

2-5-2.リゾート会員権

不動産売買契約と施設相互利用契約とが一体として取引される不動産付施設利用権で、取引相場のあるリゾート会員権は、取引相場のあるゴルフ会員権の評価方法に準じて、通常の取引価格の70%相当額により評価します。

2-5-3.貴金属

貴金属や宝石は、税法上「動産」に分類され、不動産と異なり簡単に移動可能な財産です。そのため、基本的には市場での買取価格を参考に評価します。
具体的には、信頼できる買取店や質屋の査定額が基準となります。

2-5-4.一般動産

一般動産とは、事業を営む者が所有し事業の用に使用する機械及び装置、器具、工具、備品、車両運搬具や一般家庭用の家具、什器、衣服、非事業用の車両運搬具等が挙げられます。

一般動産の評価額は、財産評価基本通達129項により以下の方法で算出します。

【財産評価基本通達129項】
一般動産の価額は、原則として、売買実例価額、精通者意見価格等を参酌して評価する。ただし、売買実例価額、精通者意見価格等が明らかでない動産については、その動産と同種及び同規格の新品の課税時期における小売価額から、その動産の製造の時から課税時期までの期間の償却費の額の合計額又は減価の額を控除した金額によって評価する。

出典:国税庁「財産評価基本通達129項

例えば、中古車等の価額については、インターネット等の発達により市場価格(業者への売却額)の把握が比較的容易であるため、その金額により評価しています。

3.財産評価基本通達例外規定「総則6項」とは?

3-1.総則6項とは?

「総則6項」とは、「財産評価基本通達の6項」をいいます。

【財産評価基本通達6項】
この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の評価は、国税庁長官の指示を受けて評価する。


引用:国税庁「財産評価基本通達6項

財産の評価については、時価である客観的な交換価値を算定することが難しいため、原則として、納税者の公平性の観点から、相続税の実務では、財産評価基本通達による画一的な評価方法により評価することとされています。

一方、「総則6項」において、「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。」とされています。

つまり、相続財産の評価は基本的には財産評価基本通達により行うものの、その評価が不適当と認められるときは、国税庁長官の指示した評価方法により評価を行うとされているのです。

3-2.総則6項に関する事例

「著しく不適当と認められる」場合とは、どのような場合を示すのか、この総則6項を適用した事例によりみていきましょう。

3-2-1.最高裁判所第三小法廷令和4年4月19日判決

最近特に注目を集めたのが、最高裁判所第三小法廷令和4年4月19日判決で、相続税の負担を減らす目的で相続直前に不動産を購入したと認定され、総則6項を適用した課税処分が適法とされました。

本件の経緯は次のとおりです。

 A土地建物B土地建物
不動産の取得時期平成21年1月
相続開始3年5か月前
平成21年12月
相続開始2年6か月前
不動産取得時の被相続人年齢90歳91歳
不動産の取得価額8億3700万円5億5000万円
借入金6億3000万円4億2500万円
売却時期相続開始9か月後
売却金額5億1500万円
通達評価額2億0004万円1億3366万円
鑑定評価額7億5400万円5億1900万円
通達評価額と鑑定評価額とのかい離5億5396万円
約3.8倍
3億8534万円
約3.9倍

相続人は5人おり、相続税申告における課税価格の合計額は2,826万円、相続税額0円と申告しました。


しかし、課税当局は、総則6項を適用し、A及びB土地建物を不動産鑑定評価額によって評価し、課税価格の合計額を8億8,874万円、相続税額2億4,049万円で更正処分等を行いました。

最高裁判所は、総則6項を適用した原判決を支持し、財産評価基本通達による評価ではなく、不動産鑑定評価額に基づく評価額による課税処分を適法としました。

一審及び二審では「通達評価額と鑑定評価額のかい離」などを問題とし、総則6項を適用する特別の事情があったと認めて相続人側の請求を棄却しました。

しかし、最高裁判所は「本件各通達評価額と本件各鑑定評価額との間には大きなかい離があるということができるものの、このことをもって上記事情があるということはできない」と示しました。

また注目すべきは、「相続税の課税価格に算入される財産の価額について、評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情がある場合には、合理的な理由があると認められるから、当該財産の価額を評価通達の定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとすることが上記の平等原則に違反するものではないと解するのが相当である」との一文です。

つまり、最高裁判所は、下級審と異なる判断を示し、平等原則の観点から「実質的な租税負担の公平に反するというべき事情がある場合には、合理的な理由があると認められるから、当該財産の価額を評価通達の定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとすることが上記の平等原則に違反するものではないと解するのが相当である」と判示しました。

それでは、「租税負担の公平に反するというべき事情」とは、どのようなものを指すか本件の事実関係からみていきましょう。

①評価通達による評価額と異なる価額とすることについて合理的な理由
被相続人は、近い将来相続が発生すると予測しており、信託銀行に事業承継や相続対策などの相談をしていました。

この際、不動産の購入・借入による相続財産の圧縮効果について説明を受けており、実際に信託銀行の「貸出稟議書」には相続対策のため不動産購入の計画等の記載が確認されていたことからも、相続税の負担の軽減を意図していたといわざるを得ません。

さらに相続発生3年前後という短い期間で、A不動産の購入・借入、B不動産の購入・借入・売却をしています。

評価通達による評価額と他の合理的な評価額との間に著しいかい離
相続人が主張する財産評価基本通達による評価をすると、課税価格の合計額は2,826万円でした。

仮にA不動産とB不動産の購入・借入がなければ、本相続にかかる課税価格の合計額は8億円を超えるものであり、相続税額もゼロから約2億4千万円と増加することから、相続税の負担が著しく軽減されていることは明らかです。

詳細につきましては、弊社チェスターNEWS「財産評価基本通達6項(総則6項)の適用事例【最高裁判決】」をご参照ください。

この最高裁判決を受け、国税庁は、令和4年7月1日に「総則6項の適用基準や運用体制」を全国税局へ次のとおり指示しました。

総則6項の3つの適用基準

  1. 評価通達に定められた評価方法以外に、他の合理的な評価方法が存在するか。
  2. 評価通達に定められた評価方法による評価額と、他の合理的な評価方法による評価額との間に、著しいかい離が存在するか。
  3. 課税価格に算入される財産の価額が、客観的交換価値としての時価を上回らないとしても、評価通達の定めによって評価した価額と異なる価額とすることについての合理的な理由があるか。

これからは、総則6項の適用対象となるか否かについては、上記3つの適用基準に当てはめて総合的に判断されることになります。

3-2-2.東京高裁令和6年8月28日判決

本件は、地方の大会社に該当する法人(甲社)と大手企業(乙社)とのM&Aの話があり、売買規約締結に至る前段階である基本合意書(一株当たりの売買価確約10万5,068円)の締結直後に、甲社の代表者の相続が発生し、まだ株式の譲渡をしていない段階であったので、株の評価は類似業種比準価額(一株当たり約8,186円)で申告したところ、課税当局は財産評価基本通達総則6項を適用し、評価会社による専門的評価額(一株当たり約8万0373円)で更正処分を行い、相続人が不服として争った事案です。

本件の経緯は次のとおりです。

平成26年1月16日甲社の代表者が、自社株式の売却等のため乙社と秘密保持契約を締結
平成26年2月28日甲社が銀行とM&Aのアドバイス契約を締結
平成26年5月29日甲社株式の乙社への譲渡に向けた基本合意を締結
一株当たり約10万5,068円
平成26年6月11日甲社代表者(被相続人)死去
平成26年7月14日相続人が株式譲渡を引き継ぎ、乙社へ基本合意書どおりの価格で売却
平成27年2月27日相続人が財産評価基本通達に基づき一株当たり約8,186円で相続税申告
平成30年5月18日国税庁長官が国税局長に総則6項の適用を指示
(株式評価額一株当たり8万0373円)
平成30年8月7日税務署が総則6項を適用して株式の評価を見直し、一株8万0373円で更正処分
令和3年1月26日相続人は、この更正処分を不服として、東京地裁に提訴

東京高裁は、国の本件において総則6項を適用すべき根拠とした「本件相続株式につき、本件通達評価額と本件相続開始日における交換価値との間に著しいかい離があり、被控訴人(相続人)らがそのことを十分に認識することは可能であった」との主張に対し、次のように判断し、国の主張を排斥しました。


取引相場のない株式の交換価値は、本来、専門的評価を経ない限り判明し得ないものであって(現に控訴人は、株式会社K社に評価を委託している。)、外形的事実によって取引相場のない株式の交換価値を合理的に推測することが可能であるとは必ずしもいえない。
とりわけ、M&Aが行われる場合においては、高度な経営判断や双方の交渉の結果等により株式の売買代金が決定されるのであって、売買代金が交換価値を反映しているとは限らないというべきである。
このことは、結果的に、専門的評価により交換価値と評価通達180に定める類似業種比準価額とのかい離の程度が著しいと判定された場合においても変わらないのであって、本件相続株式について、譲渡予定価格(10万5068円)と本件算定報告額(8万0373円)が比較的近く、これらが本件通達評価額(8186円)と大きくかい離しているからといって、更正処分の時点にさかのぼって、譲渡予定価格が交換価値を反映したものであるとして、評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情(特段の事情)が存在していたということにはならない。


本件は、事実関係からM&Aのために本件算定報告額を知りえたものであり、租税負担の軽減を図るために評価通達180に定める類似業種比準価額に基づいて申告したものではないことから、上記3‐2‐1の総則6項の適用基準である③の「評価通達の定めによって評価した価額と異なる価額とすることについての合理的な理由」、つまり特段の事情が存在していたとはいえないことから、総則6項を適用できないものと判断しています。

詳細につきましては、弊社チェスターNEWS「財産評価基本通達6項(総則6項)の適用が否認された事例【東京高裁判決(仙台薬局事件)】」をご参照ください。

4.評価通達に定めのない財産の評価方法とは?

財産評価基本通達に評価方法が定められていない財産の評価額については、財産評価基本通達の総則5項に基づいて、通達に定められた評価方法に準じて評価されます。


【財産評価基本通達5項】
この通達に評価方法の定めのない財産の価額は、この通達に定める評価方法に準じて評価する。


引用:国税庁「財産評価基本通達5項

例えば、暗号資産(仮装通貨)については、財産評価基本通達に定めがないため、総則5項に基づいて外国通貨の評価方法に準じて取引所の公表する取引価格で評価することになります。

また、国外にある財産の価額については、この通達に定める評価方法に準じて、又は売買実例価額、精通者意見価格等を参酌して評価します。

5.財産評価基本通達の適用における最新動向

財産評価基本通達は、法令ではなく、これに適合するか否かによって直ちに課税処分の適法性が左右されるものではありません。

したがって、令和4年最高裁判決は、総則6項の判断基準などについて特段触れておりません。

しかし、国税当局が、財産の価額を、評価通達の定める方法により評価した価額を上回る価額で課税するためには、総則6項によるほかありません(国税庁長官が発遣した通達に拘束されます)。


令和5年版 財産評価基本通達逐条解説」の総則6項における解説によると、「当該判決(令和4年最高裁判決)がなされるまで、本項の適用が争点となった裁判例においては、本項に規定する『著しく不適当と認められる』か否かは、『特別の事情』の有無により判断されてきたが、当該判決においては、『評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情』がある場合には、合理的な理由があると認められる(つまり、財産の価額を評価基本通達の定める評価方法によって評価した価額を上回る価額によるものとすることが平等原則に違反するものではない)とされた。

この『実質的な租税負担の公平に反するというべき事情』については、具体的にどういう事情が該当するのかということを予め整理して公表することは性質上困難であると考えられるほか、当該判決においては、軽減される相続税(租税負担)の額や割合といった具体的な基準も示されていない(上記事情と同様、予め基準を示すことは困難であると考えられる)ことから、総合的に判断する必要がある。」とされています。

本件東京高裁判決は、総則6項は、令和4年最高裁判決で示された規範に沿ってその適用の是非が判断されるべきであり、大きな価格かい離があることのみをもって適用を可とし得ないことが明確に示されたという意味で、予測可能性を高める価値ある判決といえます。

6.難しい財産評価は専門家に相談!

伝家の宝刀とも呼ばれる総則6項は、これまで何をもって「著しく不適当」とされるのかが曖昧でしたが、今回の国税庁からの指示により、適用基準がより明白になりました。
なお「最高裁判決がお墨付きとなり、国税当局が積極的に適用するのではないか」という懸念もありますが、国税当局は今後も適切に運用していくとしています。

生前対策をお考えの方は、相続税や贈与税に強い税理士に相談をした上で、総則6項の適用リスクを踏まえた徹底的なシミュレーションを行われることをおすすめします。

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※この記事は専門家監修のもと慎重に執筆を行っておりますが、万が一記事内容に誤りがあり読者に損害が生じた場合でも当法人は一切責任を負いません。なお、ご指摘がある場合にはお手数おかけ致しますが、「お問合せフォーム→掲載記事に関するご指摘等」よりお問合せ下さい。但し、記事内容に関するご質問にはお答えできませんので予めご了承下さい。

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