遺言信託のメリットとデメリットは?気になる費用も紹介
遺言は、相続トラブルを防ぐための対策として多くのメリットがあり、実際によく利用されています。ます。しかし遺言の形式や内容に問題があると、かえって相続トラブルの原因となってしまう場合があります。また、遺言書の種類によっては、相続開始後に発見されにくく、遺言が実行されない恐れがあるなど、注意すべき点もあります。
このような遺言書のデメリットを解消する方法のひとつが、銀行、信託銀行などがおこなっている「遺言信託」を活用することです。本記事では遺言信託のメリットやデメリット、費用になどついて紹介します。
この記事の目次 [表示]
1.遺言信託とは
遺言信託という言葉は、実は2種類の異なる内容を指す場合に使われています。
1つは、信託法などの法律で規定されている「遺言による信託の指定」を指す場合です。法律行為としての「遺言による信託」とは、遺言に書いておくことで、家族などに信託をおこなってもらうということです。
もう1つが、主に信託銀行が提供している「サービス商品名としての遺言信託」を指す場合です。
「遺言信託」という言葉自体は、上記のどちらを指す場合にも用いられますが、一般的には、後者のほう広く知られ、またよく利用されています。
そこで本記事では、最初に信託銀行などが提供する遺言信託について、くわしく紹介していきます。以下、特に断りがない限り、「遺言信託」という言葉で、金融機関のサービス商品のことを指しているものとします。
そして記事の最後で、「遺言による信託」についても簡単に触れます。
2.金融機関による遺言信託の流れ
銀行などがおこなっている遺言信託のサービスとは、遺言書の作成、遺言書の保管、遺言の執行などを、下図のような流れでまとめてサポートしてくれるサービスのことです。
以下では、遺言信託の流れを段階的に具体的に見ていきます。
2-1.(1)事前の相談
最初に、遺言書の作成に向けて必要な相談を遺言者(遺言を残す人)と信託銀行がおこないます。相続の対象になる財産が何で相続人は誰なのか、どのように財産を受け継がせたいのか、あらかじめ考えをある程度整理した上で相談しましょう。
信託銀行は顧客から受けた相談内容を踏まえて検討をおこない、遺言書を作成する際に注意すべき点は何か、遺言はどのような内容にすると良いかなど、遺言者に対してアドバイスや提案をしてくれます。
2-2.(2)遺言書作成の補助
金融機関が遺言書の文案を作成し、遺言者と合意して遺言の内容が決まったら実際に遺言書を作成します。遺言には自筆証書遺言や公正証書遺言などいくつかの種類がありますが、遺言信託を利用する場合、一般的に公正証書遺言を作成します。
公正証書遺言は公証役場に出向いて作成します。遺言信託を利用する場合、信託銀行を遺言執行者に指定する旨を遺言に記載します。遺言執行者に指定された者は、遺言の執行に必要な手続きを実施できるようになります。
なお、公正証書遺言作成の際には証人が2人以上必要になりますが、信託銀行の職員が証人を引き受けることもあります。
2-3.(3)遺言書の保管
遺言書が書きあがったら、信託銀行と遺言信託契約を結び、遺言書を保管してもらいます。公正証書遺言には原本・正本・謄本の3種類の書面があり、このうち信託銀行で預かってもらうのは正本です。原本は公証役場で保管され、謄本は遺言者が持ち帰ります。
また遺言信託契約を結ぶ際には、遺言者が亡くなったときに信託銀行に連絡する死亡通知人を指定しておきます。
2-4.(4)異動・変更の定期的な照会
遺言書を一度作成すればずっとそのままでいいとは限りません。作成後に財産内容や、家族関係の状況が変われば、遺言書お作り直したほうがいい場合があります。そこで、遺言の内容に関連する事項に変更がないか、信託銀行から、遺言者に、定期的に照会がおこなわれます。
具体的には、財産を渡す予定だった人が先に亡くなった場合や、誰に遺産を渡すのか考え方が変わった場合など、遺言の内容に影響する事項に変更があれば、速やかに信託銀行に相談しましょう。
2-5.(5)相続開始の連絡、遺言の執行
遺言者が亡くなったら、死亡通知人として登録された人や近親者などが、遺言信託を依頼した銀行に連絡をします。
信託銀行は保管していた遺言書の内容を相続人等に説明し、遺言書で定められた事項を実現するために遺言執行者として手続きをおこないます。
具体的には、相続財産の調査、財産目録の作成、銀行口座の解約などの諸手続きです。そして、相続人等への遺産の分配が終わると、一連の遺言信託は終了となります。
3.遺言信託を利用している人はどれくらい?
一般社団法人信託協会が公表しているデータによると、信託銀行等における遺言書の保管・執行業務の件数は以下の通りです。2021年度の引受件数は約17.1万件となっています。
遺言信託の利用件数は着実に増加しており、相続対策として遺言信託を活用する人が増えていることがわかります。
▼図表 遺言信託の利用件数推移
(単位:件)
年度 遺言書の保管件数 保管のみ 執行付 合計 2010年 5,948 66,385 72,333 2011年 5,820 70,155 75,975 2012年 5,838 75,619 81,457 2013年 5,824 82,624 88,448 2014年 5,877 91,832 97,709 2015年 5,916 102,707 108,623 2016年 6,101 112,214 118,315 2017年 6,398 121,999 128,397 2018年 6,776 132,309 139,085 2019年 7,399 142,294 149,693 2020年 7,980 151,739 159,719 2021年 8,999 162,669 171,668
- 遺産整理は年度中(半期の計数は半期中)の引受件数
- 遺言書の保管件数は年度末(半期の計数は半期末)現在の件数
4.遺言信託のメリット・デメリット
遺言信託には、メリットもありますが、デメリットや注意点もあります。下記に記載するメリット・デメリットをよく理解した上で、利用を検討してください。
4-1.遺言信託のメリット
遺言信託の主なメリットは次の5つです。
- 遺言書を作成するときにアドバイスが受けられる
- 遺言の執行を代行してもらえる
- 個人の専門家に比べて長期的なサポートが期待できる
- 遺言書を保管してくれる
- 相続トラブルを防ぎやすい
4-1-1.遺言書作成のアドバイスが受けられるので、不適切な遺言とならない
遺言書は、遺言者が自由に作成することができます。しかし、書き方、形式に問題があると無効となる場合があります。また、有効であっても、内容が不適切だと、残された家族の相続トラブルの原因となる場合があります。
遺言信託を利用すれば、遺言作成に際してアドバイスが受けられるので、そのような問題のない遺言が作成できます。
4-1-2.遺言の執行を代行してもらえるため、相続人の負担が減らせる
遺言に従って相続人が手続きをする場合、戸籍など多くの書類を揃える必要があります。一般的な、相続人にとってかなりの負担になります。遺言信託を利用し、信託銀行に遺言執行者になってもらえば、それらの手続きを任せることができて相続人の負担を軽減できます。
4-1-3.個人の専門家に比べ、長期的なサポートが期待できる
遺言書の作成や執行は、弁護士や司法書士など個人の士業事務所に相談や依頼をすることも可能です。しかし個人事務所に依頼すると、遺言者が亡くなる前に事務所が廃業したり専門家が亡くなったりする恐れも、ないとはいえません。
一方で信託銀行の場合は、遺言書の保管や執行などの業務に組織として対応するため、担当者が変わることはあっても、業務が途切れることはありません。実行までに何年もかかる可能性がある遺言だからこそ、長期的なサポートが必要です。
4-1-4.遺言書を保管してくれる
自筆証書遺言を自宅で保管していた場合、相続が起きた際に相続人に見つけてもらえず、せっかく遺言を残しても実行されない恐れがあります。また、災害、盗難などにより、滅失してしまう可能性もあります。遺言信託を利用すれば、これらの心配はありません。
また、自筆証書遺言を家族に渡して保管を頼む方法も考えられますが、相続開始前に開封されてしまったり、家族が遺言書を隠して遺言が無視されてしまったりする可能性もゼロではありません。
遺言の内容を確実に実行してもらうためには、相続に関して利害関係を持たない第三者に託すことが有効な方法なのです。
4-1-5.相続後のトラブルを防ぎやすい
相続開始後に、相続人が手続きをする場合、相続人の中に非協力的な人がいると、必要書類が揃わず手続きが滞る場合や、トラブルになる場合があります。信託銀行を遺言執行者に指定しておけば単独で手続きが可能です。遺言執行者に特定の相続人との利害関係がないため、相続人全員が協力しやすく、手続きをスムーズに進めることができます。
(参考)土地の相続で兄弟どうしトラブルなく分割する方法
(参考)相続でもめるケースとは?起こりやすいトラブルを紹介
4-2.遺言信託のデメリット
遺言信託の主なデメリットは次の5つです。
- 費用・手数料が高額
- 子の認知など財産に関するもの以外は引き受けられない
- 訴訟に発展しそうな場合は引き受けられない
- 希望通りの遺言内容にならないことがある
- 相続人全員が合意しても遺言と異なる遺産分割が困難になる
- 相続税の申告は代行できない
4-2-1.費用・手数料が高額
遺言信託は手数料が高額になることが多く、かかった費用の分だけ相続財産が減る点がデメリットです。遺言信託の費用ついては後ほどくわしく説明しますが、費用をめぐって後でトラブルにならないように、利用検討に際には費用の総額を事前によく確認しましょう。
4-2-2.子の認知など、財産に関するもの以外は引き受けられない
信託銀行などの金融機関が信託業務としてできる業務の範囲は法律で決まっています。遺言の執行に関して信託銀行ができるのは「財産に関する遺言の執行」です(金融機関の信託業務の兼営等に関する法律 第1条1項4号)。
たとえば、遺言によって婚外子を認知することや、特定の人を相続人から除外する「相続人の廃除」など、身分に関する事項は引き受けてくれません。これらの事項を遺言で定めた上で専門家に遺言執行者になってもらいたい場合は、弁護士などに依頼する必要があります。
4-2-3.訴訟を抱えている、あるいは訴訟になりそうなトラブルがある場合は引き受けられない
遺言を作成する段階で、家族間にトラブルがあり訴訟などを抱えている、あるいは訴訟になる可能性が高いと見込まれる場合などは、遺言信託を申し込んでも、一般的に信託銀行から断られます。信託銀行が報酬を得て訴訟対応をおこなうと弁護士法第72条「非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止」に抵触する可能性があるからです。
仮に、遺言信託契約を結んだ時点(信託銀行が遺言書の保管を開始した時点)では問題がなくても、実際に相続が起きたときに相続人の間でトラブルが起きていた場合には、弁護士法との関係で信託銀行が遺言執行者に就任できないケースも考えられます。
4-2-4.希望通りの遺言内容にならないことがある
遺言を作成する場合、遺言者が希望する内容であっても、将来的にトラブルになる可能性がある内容だと信託銀行が認めてくれないことがあります。たとえば、子が2人いる父の遺言で、長男に全遺産の全部を渡して、次男の遺産相続はゼロにするといった遺言です。このような遺言は、次男の遺留分を侵害しています。
仮に、遺言者である父と、長男、次男の全員が合意し、全員がこのような遺言の作成を希望している場合でも、信託銀行としては万が一トラブルになった場合のことを考えて、遺言書の作成を断られる可能性があります。
4-2-5. 相続人全員が合意しても遺言と異なる遺産分割が困難になる
特定の相続財産を特定の相続人に相続させる旨の遺言がある場合、理論的には、その財産につき遺産分割は行えないと考えられています。
しかし、「相続させる」旨の遺言について、遺言と異なる内容での遺産分割が認められている例はあります。
なお、税務においては、特定の相続人に全部の相続財産を与える旨の遺言書がある場合、相続人全員で遺言書の内容と異なった遺産分割をしたときの各人の相続税の課税価格は、相続人全員で行われた遺産分割の内容によるものとされ、受遺者である相続人から他の相続人に対して贈与があったものとして、贈与税が課されることはないものとして取扱われています。
ただし、信託銀行など遺言執行者が指定されている遺言においては、相続人は遺言執行者の同意又は追認なくして相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができないことから、相続人全員が合意しても遺言と異なる遺産分割は困難となります。
4-2-6.相続税の申告は代行できない
信託銀行が遺言執行者としておこなう業務とは、遺言の執行に必要な手続きです。相続税の申告はあくまで相続人固有の義務であり、遺言者の依頼とは関係がありません。したがって、遺言執行者の権限には含まれません。
もし、相続税の申告の代理業務を税理士以外の者がおこなえば、税理士法違反となります(税理士法第52条)。信託銀行では相続税の申告は代行できないので、専門家に依頼する場合は自分で税理士を探さなければいけません。
遺言信託を依頼した銀行が、税理士の紹介をしてくれることもありますが、その税理士との契約は相続人との間で直接おこなわれるものであり、遺言信託報酬とは別に、税理士費用はかかります。
4-3.遺言信託の利用をおすすめできる人
ここまで見てきたように、遺言信託にはメリット・デメリットの両方があります。そのため、遺言信託を使うほうが良い人もいれば、そうでない人もいます。
一般的に、遺言信託の利用をおすすめできる人は、次のような人です。
- まとまった資産がある人
- 遺言の作成から執行まで手続きを1か所で済ませたい人
- 相続人が少なく争いになる可能性が低い人
- 遺言書の改ざんが不安な人
4-3-1.まとまった資産がある人
遺言信託を依頼するには、ある程度の費用がかかるので、費用を払っても家族に渡すだけの財産が残ることが前提になります。そのため、ある程度のまとまった財産がない人には、遺言信託の利用はおすすめできません。
また金融資産が多く、いくつもの金融機関に口座を持っていたり、いくつもの不動産を所有していたりするなど、大量かつ複雑な資産構成の場合は、相続開始後の手続きに手間がかかります。遺言信託を利用して信託銀行に手続きを任せれば相続人の負担を軽減できます。
4-3-2.遺言の作成から執行まで手続きを1か所で済ませたい人
遺言書の作成では被相続人が専門家を探し、相続後の手続きでは相続人が専門家を探すと、それぞれ手間も時間もかかってしまいます。遺言信託のメリットは、相続前後の手続きを1箇所で、いわゆるワンストップで引き受けてくれることです。
さらに信託銀行によっては司法書士や税理士などの士業者を必要に応じて、紹介してくれる場合もあり、相続人が自分で探す手間がかかりません。
4-3-3.相続人間での争いになる可能性が低い人
先にも触れましたが、家族間での相続トラブルに発展するリスクが高そうな場合は、遺言信託の申込みをしても一般的に信託銀行は引き受けてくれません。そういったトラブルの可能性が低い人が、遺言信託の利用に向いています。
逆に、争いになる可能性がある人は、訴訟対応も任せられるように弁護士などに、遺言の相談することがベターでしょう。
4-3-4.遺言書の改ざんや隠蔽などが不安な人
自筆証書遺言を作成して自宅で保管した場合は家族に改ざんや隠蔽をされる可能性があります。公正証書遺言であれば、遺言書の原本は公証役場で保管されるため改ざんのリスクはありませんが、その存在を最初に知った相続人のうちの1人が、遺言の存在を隠してしまうというリスクはあります。
遺言信託を利用すれば、そういった心配は不要となります。
(参考)自筆証書遺言のメリット・デメリットと保管制度・方式緩和について徹底解説
(参考)遺言書に関する注意点
5.遺言信託を利用する際にかかる費用など
遺言信託を利用する場合、主に以下の4つのタイミングで信託銀行へ支払う手数料などの費用が発生します。
- 遺言信託契約を結ぶとき
- 遺言書を保管しているとき
- 遺言書の内容を変更するとき
- 遺言者が死亡して遺言を執行するとき
手数料の金額は金融機関ごとに異なり、また、金融機関によっては手数料体系が異なる複数のプランを用意している場合があります。手数料の目安は以下の表の通りですが、契約にあたっては事前に各金融機関に確認するようにしてください。
「遺言の執行」では、遺産の額に応じた料率となっていますが、これは、たとえば2億円の遺産額の場合に、遺産額5000万円までは2%、5000万円~1億円までは1.5%、1億円から2億円までは1%などと、遺産の額が大きいほど、その部分については低い料率が適用されることが一般的です。
また信託銀行に払う手数料とは別に以下のような費用がかかります。
- 公正証書遺言の作成費用
- 戸籍謄本など必要書類の取得費用
- 税理士報酬(信託銀行が紹介する税理士に手続きを依頼する場合)
- 司法書士報酬(信託銀行が紹介する司法書士に手続きを依頼する場合)
6.遺言信託でトラブルが起きる可能性も
遺言信託をうまく活用すれば、長期的なサポートを受けられるなど多くのメリットがありますが、逆に、遺言信託が原因でトラブルになる場合もあります。
以下で紹介するようなトラブルを防止するには、遺言信託契約の内容をよく確認するとともに、将来相続人になるご家族の理解を得ておくことがポイントです。
6-1.遺言執行の手数料をめぐるトラブル
遺言を執行する際、遺言信託でかなりの費用がかかることを相続人が知らず、信託銀行との間でトラブルになる場合があります。
遺言を執行するときには遺言者はすでに亡くなっているため、費用の支払いなどの手続きをするのは相続人です。費用の分だけ相続できる財産が減ることに相続人が納得せずトラブルになる場合があるので、遺言信託契約を結ぶ段階で相続人にもよく説明しておく必要があります。遺言の付言事項などとして説明を記載しておくのもよいでしょう。
6-2.遺言内容をめぐるトラブル
相続人が遺言内容を知らされていなかったことでトラブルになる場合があります。遺言は遺言者の希望をもとに専門家のアドバイスを受けながら作成され、法的には問題のない遺言となります。
しかし、相続人の感情面は、法律とは別の話です。法的には問題がなくても、相続人が感情的に納得できるとは限りません。そこで、可能であれば、遺言の作成段階で家族ともよく話し合っておくか、あるいは、遺言の付言事項や、遺言以外の手紙などで、遺言者がどうしてそのような遺言内容にしたのかを十分に説明するといった配慮をしたほうがいいでしょう。
6-3.解約をめぐるトラブル
信託銀行が遺言書の保管を開始して以降に遺言信託の利用をやめる場合、解約に伴う手数料がかかる場合があります。金融機関によって解約手数料がかかる場合とかからない場合があり、20万円ほどの解約手数料がかかる場合もあるので注意が必要です。
遺言信託契約を結ぶ際には、解約手数料についてもよく確認し、途中で解約することにならないように、内容をよく理解した上で契約を結ぶようにしましょう。
7.類似した用語・サービスとの違い
ここでは、「遺言信託」という言葉が指すもう1つの意味である、法律行為としての「遺言による信託の指定」について説明します。あわせて、遺言信託と似ている「遺言代用信託」「民事信託」について、簡単に紹介します。
7-1.遺言による信託
「信託」とは、自分以外の者に、財産の管理・運用などを委任して任せる財産管理方法のことです。
「遺言による信託」は、信託の対象とする「信託財産」、財産を託して管理・処分等を任せる「受託者」、信託によって利益を受ける「受益者」など、信託に必要な項目を、遺言に書き記して信託をおこなう方法です。
これはどんな場合に利用されるかといえば、たとえば子に知的障害などがあり、子自身で財産管理をするのが難しい場合です。このような場合に、たとえば、遺言者が所有する不動坦を信託財産、子の成年後見人を受託者に、子を受益者にそれぞれ指定し、不動産の管理は受託にまかせ、そこから得られた収益は受益者の子が受け取れるようにする、といった設定ができます。
このような遺言信託を設定しておけば、親が亡くなった後でも子が生活に困らずに済むというわけです。
7-2.遺言代用信託
「遺言代用信託」とは、信託銀行に財産を信託して生存中は本人のために管理・運用してもらい、本人が亡くなると、事前に指定した受取人に財産が信託銀行から渡されるという内容のサービスです。
財産の受取人として配偶者や子を指定すれば、本人の死亡後、すぐに受け取ることができます。信託銀行に信託せず、銀行口座に預金を入れていた場合は遺産分割協議が終わるまで基本的に引き出せませんが、遺言代用信託を利用すればスムーズな財産承継が可能になるわけです。
遺言代用信託と遺言信託はいずれも信託銀行が扱う商品ですが両者は異なります。遺言代用信託では財産の受取人を信託契約で定めるため、遺言書を作成する必要はありません。
7-3.民事信託
民事信託とは、自分の財産を管理する人を家族の中から選ぶことができる信託の形態で、「家族信託」と呼ばれることもあります。たとえば、自分が認知症になって財産管理ができなくなった場合に備えて、信頼できる家族に財産管理を任せたい場合などに利用される信託です。
財産を託す信託契約を家族と結ぶ際、自分が死んだ後の財産の承継先を定めることができ、遺言ではできない二代先・三代先まで財産の承継先を指定することもできます。
8.信託銀行以外の遺言信託の依頼先
一般的に遺言信託で遺言執行者になるのは信託銀行ですが、弁護士や司法書士に依頼して遺言執行者になってもらう方法も考えられます。信託銀行より費用が安く済む傾向にあるなどメリットがあるので、遺言信託は弁護士や司法書士への依頼も検討してみましょう。
8-1.弁護士
相続トラブルになる可能性があると、信託銀行では遺言信託の申込みをしても引き受けてくれません。一方でトラブル対応の専門家である弁護士に依頼すれば、相続トラブルを回避するための対策の提案や実際に相続トラブルが起きた場合の適切な対応を期待できます。
個人の弁護士事務所に依頼した場合は、担当弁護士が遺言者より先に亡くなると新たな依頼先を探す必要がありますが、組織的に運営されている弁護士法人であれば、法人として遺言執行まで担当してくれるので、担当者が変わることはあっても新たに弁護士を自分で探す手間はかかりません。
8-2.司法書士
財産に不動産が含まれる場合、司法書士に遺言執行者になってもらえば家や土地の名義変更の手続き(相続登記)まで含めて依頼できます。
不動産は分割が難しく、誰が相続するかをめぐってトラブルの原因になることがあるので、家や土地の相続では司法書士に相談・依頼するのもひとつの方法です。不動産相続で注意すべき点を踏まえて、相続トラブルを回避するための適切な内容で遺言を考えてもらえます。
司法書士法人チェスターでは、公正証書遺言作成のサポートはもちろんのこと、遺言執行者に指定していただくことも可能です。相続対策をご検討中の方はお気軽にご相談ください。
9.遺言信託をはじめとした相続対策は専門家に相談を
遺言信託は、活用によっては相続トラブル防止に大きな力を発揮しますが、デメリットもあります。したがって、自分が遺言信託を利用したほうがいいのかどうかを、客観的な立場からアドバイスを受けたいと考えられる方もいるでしょう。
相続対策の検討では専門的な知識が必要になるので、客観的な立場から、将来の相続に備えたアドバイスをしてくれる専門家への相談をご検討ください。司法書士法人チェスターでは、遺言書の作成や相続登記など相続に関するサポートを幅広くおこなっています。
※この記事は専門家監修のもと慎重に執筆を行っておりますが、万が一記事内容に誤りがあり読者に損害が生じた場合でも当法人は一切責任を負いません。なお、ご指摘がある場合にはお手数おかけ致しますが、「お問合せフォーム→掲載記事に関するご指摘等」よりお問合せ下さい。但し、記事内容に関するご質問にはお答えできませんので予めご了承下さい。
公正証書遺言の作成ならチェスターにお任せ下さい
「遺言があれば、相続発生後の多くの争いを防ぐことができます。
さらに、相続発生後の手続きもスムーズに進めることができ残された方の負担が大幅に軽減されます。
チェスターグループでお客様の大切な遺言作成のサポートをお手伝いさせて下さい。
今まで見たページ(最大5件)
関連性が高い記事
カテゴリから他の記事を探す
相続法務編