相続で確定申告は必要?所得税・相続税がかかるケースを解説

遺産を相続した際、「収入があったのだから確定申告は必要だろうか?」と悩む方がいらっしゃいます。
相続した財産に対して原則的に所得税はかからず、確定申告も不要です。
相続した財産は相続税の対象であり、原則的に所得税の対象ではないためです(相続した財産が一定額以上の場合は、相続税の申告・納付が必要です)。
ただし、相続で次のようなことがあったときは、所得税の確定申告が必要になります。
▼相続人の確定申告が必要なケース
- 相続した不動産を売却した
- 賃貸物件を相続して家賃をもらうようになった
- 被相続人に保険をかけていて保険金を受け取った
▼被相続人の確定申告(準確定申告)が必要なケース
- 被相続人が確定申告をしていた
この記事では、遺産を相続して「所得税の確定申告」が必要になるケースと、その場合の確定申告の方法について詳しく解説します。
この記事の目次 [表示]
1.相続の際に相続人自身の所得税の確定申告が必要なケース
遺産を相続したのちに相続人自身の所得税の確定申告が必要になるケースを、具体的に見ていきましょう。
1-1.相続した財産(不動産など)を売却した
不動産など相続した財産を売却した場合には、売却益(譲渡所得)が所得税の対象となるため、確定申告が必要です。
1-1-1.譲渡所得とは
譲渡所得とは、不動産や株式などの財産を譲渡することによって生じる所得のことです。売却額から購入額を引いた売却益と考えるとわかりやすいでしょう。
譲渡所得の金額は、次の算式で計算します。
取得費は、譲渡した財産を購入した金額のほか購入するためにかかった費用も含めます。詳しい解説は、下記の記事をご覧ください。
(参考)不動産を譲渡した時の税金はいくら?所得税計算に必要な取得費とは?
(参考)相続で取得した上場株式を譲渡!譲渡所得等に係る取得費の計算方法
譲渡費用とは、財産を譲渡するために直接かかった費用のことです。不動産を売却するときの仲介手数料などのほか、株式を売却するときの委託手数料などが該当します。
不動産の譲渡では、一定の要件を満たした場合に特別控除額が適用できます。
たとえば、自宅を譲渡した場合には譲渡益から3,000万円まで控除することができます。令和9年までの時限措置として、空き家になった被相続人の自宅を譲渡した場合にも3,000万円の特別控除があります。
不動産、株式以外の財産を譲渡した場合は、50万円の特別控除があります。
株式の譲渡では、特別控除額はありません。
1-1-2.譲渡所得税の計算方法
譲渡所得に対する所得税の計算方法には、分離課税と総合課税があります。
分離課税は、不動産、株式の譲渡に適用されます。給与所得など他の所得とは合算せず、不動産、株式それぞれの譲渡に関する所得だけで税額を計算します。
(参考)分離課税は相続税とは別!譲渡所得にかかる税金を解説
総合課税は、不動産、株式以外の財産の譲渡に適用されます。給与所得など他の所得と合算して税額を計算します。
なお、総合課税の対象になる譲渡所得のうち、所有期間が5年を超える財産を譲渡した場合の長期譲渡所得は、その金額の2分の1が税額計算の対象になります。
1-1-3.譲渡所得税の税率表
譲渡所得に対する税率は下記のとおりです。所得税のほか、復興特別所得税、住民税の税率もあわせてご紹介します。
譲渡所得の区分 | 税率 |
---|---|
不動産長期譲渡所得 | 20.315% (所得税15%、復興特別所得税0.315%、住民税5%) |
不動産長期譲渡所得(軽減税率) | 14.21% (所得税10%、復興特別所得税0.21%、住民税4%) |
不動産短期譲渡所得 | 39.63% (所得税30%、復興特別所得税0.63%、住民税9%) |
株式 | 20.315% (所得税15%、復興特別所得税0.315%、住民税5%) |
不動産、株式以外の財産の譲渡所得(総合課税) | 所得税の税率は所得の額に応じて変動(5%~45%) 復興特別所得税は所得税額の2.1% 住民税の税率は10% |
不動産の譲渡所得は、売却した年の1月1日時点で所有期間が5年を超えているかどうかで長期譲渡所得と短期譲渡所得に分けられ、税率が異なります。なお、相続した財産の所有期間は、被相続人がその不動産を取得した日から通算できます。
所有期間が10年を超える自宅を売却した場合は、長期譲渡所得のうち6,000万円以下の部分について軽減税率を適用することができます。
1-1-4.相続した不動産の売却益は二重課税にならないか?
少し税金に詳しい人であれば、「遺産を相続したときに相続税が課税されて、次にその財産を売ったときに所得税が課税されるのは二重課税ではないか」と思われるかもしれません。
税務上は、「遺産の承継」と「承継した遺産の売却益」は異なるものであり、二重課税にはあたらないとされています。
しかし、相続税を納めてすぐそのあとに譲渡所得税を納めると負担が大きいため、こうした負担を軽減する「取得費加算の特例」が設けられています。
取得費加算の特例では、相続した財産を3年10か月以内に売却した場合に、相続税の一部を取得費に加算して譲渡所得を求めることができます。詳しくは、下記の記事をご覧ください。
(参考)【取得費加算の特例】計算方法や注意点は?併用可能な特例も解説
1-2.死亡保険金を受け取った
死亡保険金を受け取った場合は、多くの場合相続税の課税対象になります。
しかし、保険料を負担した人と死亡保険金の受取人が同一である場合は、相続税ではなく所得税の課税対象になります。
たとえば、妻が夫を被保険者とする保険に加入して自分で保険料を負担し、夫の死亡時に死亡保険金を受け取った場合は、確定申告をしなければなりません。

なお、死亡保険金に課税される税金は、生命保険の契約関係によって異なります。
保険料負担者と保険金受取人が同一である場合は所得税が課税されますが、保険料負担者と被保険者が同一である場合は相続税の課税対象になり、保険料負担者、被保険者、保険金受取人がそれぞれ異なるケースでは、贈与税の課税対象になります。
少し複雑なので、下記の図を参考にしてみてください。

1-2-1.死亡保険金を一時金で受け取った場合
一時金で受け取った死亡保険金に所得税がかかる場合は、一時所得として課税されます。
一時所得の金額は、次の算式で計算します。
死亡保険金以外に一時所得がないとすれば、受け取った死亡保険金からすでに支払った保険料を差し引き、特別控除額を引いた金額が一時所得となります。特別控除額を引く前の金額が50万円未満の場合は、その残額を差し引きます。
一時所得は、その金額の2分の1を給与所得など他の所得と合算して税額を計算します。
1-2-2.死亡保険金を年金として受け取った場合
年金として受け取った死亡保険金に所得税がかかる場合は、雑所得として課税されます。
雑所得の金額は、次の算式で計算します。
年金として受け取った死亡保険金については、1年の間に受け取った年金の額からその金額に対応する保険料を差し引いた金額が雑所得となります。
1-2-3.年金形式の保険金は二重課税にならないか?
年金形式の保険金については、二重課税が問題となったケースがありました。
一定期間年金が支給される保険に加入した人が死亡した場合は、年金受給権に相続税が課税され、年金を受け取るときに所得税が課税されます。これが二重課税にあたるとして問題になり、最高裁判所において二重課税を認めない旨の判決がありました。
現在は、年金の雑所得の計算で収入金額を非課税部分と課税部分に分けることで、二重課税の問題は解消されています。
1-3.収益物件を相続した
賃貸アパートや駐車場など収益物件を相続した場合は、賃料収入が不動産所得となり、所得税の確定申告が必要です。
不動産所得の金額は、次の算式で計算します。
なお、被相続人が死亡してから収益物件の所有者が決まるまでの間は、相続人が全員で収益物件を共有していることになります。賃料収入は法定相続分に応じて相続人全員に分配されるため、相続人は全員確定申告を行う必要があります。
1-3-1.被相続人が青色申告をしていた場合
被相続人が青色申告をしていた場合は、収益物件を相続した相続人は改めて青色申告の承認申請をする必要があります。被相続人が受けていた青色申告の適用が、自動的に相続人に引き継がれるわけではありません。
申請の期限は、原則として死亡の日から4か月以内です。ただし、被相続人が9月、10月に死亡した場合はその年の12月31日まで、11月、12月に死亡した場合は翌年の2月15日までとなります。
1-4.未支給年金を受け取った
被相続人が年金を受け取っていた場合は、死亡した時点でまだ受け取っていない未支給年金が発生します。被相続人の遺族は一定の要件のもと、未支給年金を受け取ることができます。
公的年金と企業年金(死亡月までの分)の未支給分は遺族に支給されるものであり、相続税は課税されません。ただし、遺族の一時所得として確定申告が必要になる場合があります。
一時所得の金額は、次の算式で計算します。下記の金額の2分の1が税額計算の対象になります。
未支給年金を受け取る遺族は年金の保険料を支払っていないため経費は考慮せず、総収入から特別控除額を引いて一時所得を計算します。
未支給年金については、下記の記事もあわせてご覧ください。
(参考)未支給年金は相続の対象?かかる税金や請求方法も解説
2.所得税が生じた場合の確定申告の方法
確定申告が必要な場合は、所得が発生した年の翌年の2月16日から3月15日までの間に税務署に申告書を提出して納税します。
この章では、所得税の確定申告の方法をご紹介します。
2-1.税務署の相談窓口で手続きをする
例年、確定申告の時期になると、各地の税務署などで確定申告の相談窓口が設けられます。相談窓口では、職員のアドバイスを受けてその場で申告書を作成することができます。所得の計算に必要な資料を持っていくようにしましょう。
なお、所得金額が大きい場合や内容が複雑な場合は、税理士に依頼するよう勧められることがあります。
2-2.「確定申告書等作成コーナー」で作成した申告書を提出する
税務署や相談窓口が遠い場合は、インターネットの「確定申告書等作成コーナー」で申告書を作成することができます。
「確定申告書等作成コーナー」では、所得に関する必要事項を入力するだけで自動的に申告書が作成されます。作成された申告書は、印刷して税務署の窓口に提出するほか、郵送による提出もできます。
2-3.国税電子申告・納税システム「e-Tax」で申告する
国税電子申告・納税システム「e-Tax」を利用して、インターネットで確定申告をすることもできます。
「確定申告書等作成コーナー」や「e-Taxソフト」で、所得に関する必要事項を入力するだけで自動的に申告書が作成されます。なお、「e-Tax」の利用には、利用者識別番号や電子証明書(マイナンバーカードなど)の取得が必要です。
個人でご利用の方 | 【e-Tax】国税電子申告・納税システム(イータックス)
2-4.税理士に確定申告を依頼する
確定申告を税理士に依頼すると、報酬として少なくとも5万円程度かかります。しかし、手続きとしては手間がかからず確実です。
自分で確定申告ができない場合や、手続きを行う時間が取れない場合、所得の金額が大きい場合などでは、報酬を支払ってでも税理士に依頼することをおすすめします。
3.相続の際の確定申告についてよくある質問
相続後の確定申告について、よくある質問に回答します。
3-1.相続税を申告したら、絶対に確定申告も必要?
「遺産相続」と給与・事業などの「収入」は、財産をもらうという点で共通しています。
そのため両者が混同され、遺産を相続したら所得になるのではないかと思う人もいます。
しかし、遺産を相続しただけでは所得税は課税されません。
相続税を申告した場合も、他に申告が必要な所得がないのであれば、重ねて所得税の確定申告をする必要はありません。
3-2.遺産を相続すると翌年の住民税に影響する?
住民税は、都道府県や市区町村に納める税金で、基本的に所得に応じて課税されます。
遺産を相続しただけでは所得税が課税されないのと同様に、住民税も課税されません。
そのため、遺産を相続したことが原因で、翌年の住民税が大きく増加するということはありません。
ただし、賃貸アパートを相続して家賃をもらうようになったことで、住民税が増加する場合があります。これは所得が増えたことが原因であり、遺産を相続したことで住民税が増えたわけではありません。
3-3.賃貸アパートを相続した際は相続税?所得税?
相続税は相続した財産に課税される税金であり、所得税は年間の収入から必要経費を引いた所得に課税される税金です。
そのため、遺産を相続した場合には相続税が課税され、所得税は課税されません。
賃貸アパートを相続して家賃をもらうようになった場合は、賃貸物件の相続について相続税が課税され、受け取った家賃には所得税が課税されます。
3-4.相続税、所得税以外で相続の際にかかる税金はある?
相続税、相続人の所得税、被相続人の所得税の他には、登録免許税が挙げられます。
登録免許税は、登記などに課税される税金です。相続では、不動産の相続登記のときに課税されます。
税額は、登記する不動産の固定資産税評価額の0.4%です。ただし、相続人以外の人への遺贈では固定資産税評価額の2.0%となります。
(参考)【相続登記の登録免許税】計算シミュレーション・免除措置も解説
4.亡くなった被相続人の確定申告(準確定申告)が必要なケース
被相続人(亡くなった人)の所得についての確定申告が必要な場合もあります。
被相続人が亡くなった年の所得にも所得税が課税されるため、相続人が代わりに確定申告をします。これを「準確定申告」といいます。
準確定申告と納税の期限は通常の確定申告とは異なり、死亡から4か月以内です。

たとえば、下記のような場合が該当します。
- 個人事業主であった
- 賃貸アパートなどを経営して不動産所得があった
- 年間の給与収入が2,000万円を超えていた
- 年間の年金受取額が400万円を超えていた
- 20万円を超える副収入(必要経費を除く)があった
準確定申告について、詳しくは下記の記事もあわせてご覧ください。
(参考)【準確定申告とは】必要・不要の判断方法、記入例などを解説
5.まとめ
ここまで、遺産を相続して「所得税の確定申告」が必要になるケースと、確定申告の方法について解説しました。
遺産を相続したときは相続税が課税され、所得税は課税されません。
しかし、相続した財産を売却した場合や収益を生む財産を相続した場合では、相続人の所得について確定申告が必要です。また、亡くなった人の所得について準確定申告が必要になることもあります。
相続に関する所得税の確定申告・準確定申告でお困りの方は、税理士にご相談ください。
相続税の申告が必要な方は、相続税専門の税理士法人チェスターで、まとめてご対応いたします。
税理士法人チェスターは、年間3,000件を超える相続税申告を行い、業界トップクラスの実績があります。
すでに相続が発生している方は初回無料でご相談いただけますので、お気軽にお問い合わせください。
※この記事は専門家監修のもと慎重に執筆を行っておりますが、万が一記事内容に誤りがあり読者に損害が生じた場合でも当法人は一切責任を負いません。なお、ご指摘がある場合にはお手数おかけ致しますが、「お問合せフォーム→掲載記事に関するご指摘等」よりお問合せ下さい。但し、記事内容に関するご質問にはお答えできませんので予めご了承下さい。
煩わしい相続手続きがワンストップで完結可能です!
相続手続きはとにかくやることが多く、自分の足で動くことも多いものです。
例えば、必要な書類収集・口座解約は行政書士、相続税申告は税理士、相続登記は司法書士、争族関係は法律事務所、不動産売却は不動産業へ…。
相続に関する様々な手続きにおいてプロの力を必要とされる方はそれぞれの専門家を探してこれだけの対応をしなければなりません。
でも、相続に関することならまずはチェスターへご相談頂ければもう安心です。
税理士法人チェスターではグループ会社に相続専門の各士業と不動産を取り扱う株式会社が揃っているのですべてをチェスターで完結できます。
相続手続き周りでお困りの方はまずは下記よりお気軽にお問い合わせください。
今まで見たページ(最大5件)
関連性が高い記事
カテゴリから他の記事を探す
相続手続き編