相続問題は裁判所で解決できる?調停や審判、訴訟の違いを解説

相続問題が発生したときは、解決へ向け裁判所で手続きを始めるのも一つの方法です。同じ話し合いでも、調停なら冷静にやり取りできるかもしれません。裁判所が調査できる審判で遺産分割を決定する方法もあります。訴訟提起するケースも見ていきましょう。
この記事の目次
1.遺産分割はもめやすい

遺産分割は相続問題に発展しやすい特徴があります。相続財産の全てが預貯金であれば、法定相続分ですっきり分けられるかもしれません。しかし実際には不動産といった分割しにくい財産も多いものです。
当事者だけで話がまとまらないなら、早い段階で弁護士に相談するのも有効な方法といえます。
1-1.遺産分割は各期限を意識して早めに
誰がどの財産を引き継ぐかなかなか決まらない場合、相続税が減額される控除を受けられない可能性があります。例えば『小規模宅地等の特例』は相続開始時から10カ月以内に手続きしなければ対象外です。
そのほかの控除も申告期限が設けられているものばかりです。遺産分割でもめると、相続税の負担が大きくなる可能性があるでしょう。
相続税の納税自体にも『10カ月』の期限があるため、たとえ遺産分割が終わっていなくても、法定相続分にのっとって納税しなければいけません。
遺産分割が終わっていなければ、相続財産から相続税を支払えない点にも要注意です。預金口座は凍結され、不動産の売却もできません。事業用の資産を含んでいるなら、事業承継に支障をきたす可能性もあります。
相続に関して、期限までにやっておかなければならない項目をチェックできる以下もご覧ください。
遺産分割協議は相続税申告期限までに!手続き期限リストで漏れを防ぐ – 相続税の申告相談なら【税理士法人チェスター】
1-2.遺産分割協議で話がまとまらない場合
なかなか話がまとまらないなら、交渉を弁護士に依頼するのもよいでしょう。相続人のみで話し合いを続けていると、つい感情的になってしまうこともあるものです。
このような状態で冷静に話し合うのは難しく、財産面では相続人全員が納得していても、感情的に納得がいかず話し合いがこじれるケースもあります。
弁護士に交渉を依頼すれば、協議を複雑にする感情を介さず淡々と進めやすくなります。ついカッとなって相続人間で対立が起こるといった事態も避けやすいでしょう。
2.裁判所に遺産分割調停を申し立てる

遺産分割協議で話がまとまらなければ、裁判所に『遺産分割調停』の申し立てを行います。裁判官と調停委員が相続人それぞれの話を聞き、遺産分割をどのように実施すればよいか話し合う場です。
2-1.調停とは
調停は、話し合いで合意形成するための手続きです。裁判のように勝ち負けを争うものではありません。また審判のように裁判所が事情を調査できる手続きとも違います。
あくまでも話し合いで相続問題を解決します。ただし、相続人同士が直接話し合うわけではありません。それぞれの相続人は裁判官と調停委員のいる部屋へ呼ばれ、順番に事情を話したり資料を提出したりします。
裁判官と調停委員は相続人全員の希望を考慮した上で、解決策を提案したり、解決へ向けたアドバイスをしたり、合意を目指した話し合いをサポートします。相続人であれば、調停は1人での申し立ても可能です。
2-2.調停調書に従って遺産を分け合う
調停の話し合いにより相続人全員が合意できたら、分割割合や分割方法を記載した『調停調書』を作成します。この後は調停調書に従い遺産分割を実施する段階です。
ただし、中には遺産分割の具体的な手続きを実施しない相続人もいるでしょう。調停調書を作成した後であれば、内容通りの遺産分割が行われない場合には、従わない相続人に対し『強制執行』を行えます。
確定した遺産分割審判と同一の強い効力がある調停調書だからこそできる処置です。
2-3.1年以上かかる場合もある
遺産分割調停にかかる期間は『半年~1年間』が一般的です。調停は1~2カ月に1回のペースで、成立・不成立が決まるまでに6~10回行われます。
ただし上記の期間や回数はあくまでも目安です。相続人の中に非協力的な人がいるケースや、遺産・相続人が多く複雑なケースでは、なかなか決着がつかず1年以上かかる場合もあります。
3.調停不成立の場合は審判へ

裁判所で実施する話し合いの場である調停で相続人全員が合意できなければ、調停は不成立となり『審判』へ移行します。調停は話し合いですが、審判は話し合いではありません。希望と異なる判断が下されたとしても従う必要があります。
3-1.裁判官が遺産分割方法を判断する
審判で遺産分割方法を決めるのは裁判官です。相続人の主張や提出された資料・独自の調査をもとに、適切と思われる遺産分割方法を指定されます。
判断するのは裁判官のため、結果的に希望と異なる決定となるケースもあるでしょう。手放したくない不動産に競売命令が出される可能性もあるため、不動産の取り扱いで相続問題が起きている場合には要注意です。
3-2.和解調書や審判確定に従い遺産を分け合う
裁判官の下した審判に不服なら、2週間以内に不服を申し立てる『即時抗告』を行います。誰も即時抗告をしなければ審判は確定です。
相続人は審判の内容に従い、預貯金の払い戻しや不動産の名義変更など、遺産分割の具体的な手続きを実施します。また遺産分割審判でも、裁判官の判断次第では、調停のように話し合いの場が設けられます。
話し合いにより和解したときには『和解調書』が作成され、遺産分割審判は終了です。相続人は和解調書に従い遺産分割を実施します。
3-3.期間は最短で数カ月かかる
審判にかかる期間は数カ月が目安です。ただしあくまでも目安のため、中には1年以上かかるケースもあります。
特に調停の段階で十分な話し合いが行われていないと、審判は長期化しやすいでしょう。審判の中で新たな主張が出てくると、審判が下されるまでの期間は長期化します。
遺産分割協議や調停開始時から考えると、審判が確定した段階で3~5年経過していることも珍しくありません。
4.相続の問題で訴訟になるケース

相続の問題の中には、訴訟に発展するケースもあります。財産隠しや遺留分の侵害・遺言の無効などが代表的です。それぞれどのような手続きが必要なのか見ていきましょう。
4-1.財産隠しの可能性がある場合
遺産分割協議がまとまらず調停や審判を申し立てたいと考えても、『財産隠し』の疑いがある状態では、申し立てを受け付けてもらえません。調停や審判は遺産の範囲が確定しているときに、分け方を決める手続きだからです。
財産隠しの可能性があるということは、そもそも遺産の範囲が決まっていません。開示されない財産をないものと考え調停や審判を進めてもよいですが、引き継ぐ遺産が少なくなる可能性があります。
隠されている財産を明らかにするには『遺産確認訴訟』の提訴が必要です。
4-2.遺留分を侵害されている場合
『遺留分』とは、相続財産から受け取れる最低限の取り分です。被相続人が生前贈与や遺贈で財産を全て譲り渡していたとしても、遺留分が奪われることはありません。
そのため遺留分が認められている相続人は、贈与や遺贈を受けた人に対して『遺留分侵害額の請求』を行えます。当事者間の話し合いで解決しない場合には、調停の利用も可能です。
調停が不成立なら訴訟を起こします。遺留分侵害額請求の金額が140万円以内なら簡易裁判所、140万円を超えるなら地方裁判所へ提起しましょう。
勝訴判決で遺留分を勝ち取れた場合、相手が決定に従わなければ強制執行も可能です。
4-3.遺言の無効が疑われる場合
被相続人の遺言書が残っていても、法的に効力がない可能性があります。無効が疑われるときに提起するのが『遺言無効確認訴訟』です。
提訴しない相続人と受遺者を被告とし、無効となる原因について争います。代表的な無効原因は以下の通りです。
- 遺言能力の欠如:遺言作成時の被相続人に遺言能力があったか
- 証人欠格:公正証書遺言・秘密証書遺言作成時に正しく証人を設定しているか
- 方式違背:正しい書式で作成されているか
- 共同遺言:遺言は1通につき1人分で作成されているか
- 遺言の撤回の撤回:一度撤回し無効となった遺言をさらに撤回していないか
- 詐欺・脅迫による遺言:遺言は詐欺や脅迫を受けて作成されたものではないか
- 錯誤による遺言:事実誤認をもとに作成された遺言ではないか
- 公序良俗違反の遺言:遺言内容が社会常識に反するものになっていないか
5.相続争いでかかる実費や弁護士報酬は?

調停・審判・訴訟を行う場合には費用がかかります。具体的にいくらくらいの費用を用意しておけばよいのでしょうか?必要な実費と弁護士報酬について確認します。
5-1.遺産分割調停、審判の費用
遺産分割調停や審判を実施する際には、以下の実費がかかります。
- 申立書に貼付する収入印紙:1,200円分
- 郵便切手:家庭裁判所により異なるため、管轄の家庭裁判所に確認
- 必要書類の取得費用:戸籍謄本・住民票・固定資産税評価証明書などを取り寄せる費用
加えて弁護士に依頼するときには弁護士費用も必要です。支払う費用は『着手金』と『成功報酬』に分けられます。加えて『出張費』『交通費』などがかかるケースもあるでしょう。
着手金は、遺産分割協議の交渉から依頼するならば10万円ほどから、調停から依頼するなら30万円ほどからかかります。
報酬は、得られた経済的利益に料率をかけて決められた金額をプラスして計算します。得られる利益が大きくなるほど料率は下がる仕組みです。
5-2.訴訟にかかる費用
訴訟にかかる費用は『民事訴訟費用等に関する法律』で以下の通り定められています。
訴訟の目的の価額 | 手数料額 |
---|---|
100万円までの部分 | その価額10万円までごとに1,000円 |
100万円超500万円までの部分 | その価額20万円までごとに1,000円 |
500万円超1,000万円までの部分 | その価額50万円までごとに2,000円 |
1,000万円超10億円までの部分 | その価額100万円までごとに3,000円 |
10億円超50億円までの部分 | その価額500万円までごとに1万円 |
50億円超の部分 | その価額1,000万円までごとに1万円 |
加えて、弁護士に依頼するための費用も必要です。訴訟の種類ごとに異なる報酬が設定されているケースが多いため、事前に確認しましょう。
例えば遺留分侵害額請求による訴訟と相続人確認訴訟は、同じように着手金と成功報酬が必要でも計算の仕方は異なります。
6.弁護士を交えて早期解決を目指そう

相続人同士で話し合う遺産分割協議で相続についての話がまとまらなければ、弁護士に交渉を依頼しましょう。つい感情的になりやすいシーンでも、弁護士が間に入ることで冷静に進めやすくなります。
調停や審判・訴訟へと進む場合にも、弁護士のサポートがあると安心です。できるだけスピーディーに解決するための調整役となってくれます。
弁護士への相談を検討される場合は相続専門の弁護士事務所を選ぶことをおすすめします。
遺産分割がスムーズに進まない場合、相続税の支払いにも影響が出てしまいます。申告期限のある控除を使えず、相続税の負担が増えるケースもあるでしょう。
『税理士法人チェスター』に相続税額について相談すると参考になります。
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