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株を相続するときの手続きや遺産分割、評価額、納税方法は?初心者にもわかりやすく解説

株を相続するときの手続きや遺産分割、評価額、納税方法は? 初心者にもわかりやすく解説

亡くなった方が株式投資をしており、遺産に株が含まれているケースは珍しくありません。株を相続する際には、日々変動している株価をどう評価すればいいのか、配当金をどう扱うかなど、迷いやすいポイントがあります。また、最近は「NISA口座」を利用して株式投資をしている人が増えていますが、NISA口座に特有の注意点もあります。

本記事では、これらの「株の相続」について、基本から手続きまでトータルに解説します。

なお、本記事では、株式市場に上場していて証券会社で売買できる「上場株式」を中心に解説しますが、必要に応じて非上場株式についても触れています。

この記事の目次 [表示]

1.株の相続手続きの大まかな流れ

遺産の株を相続する際の流れは、下記のようになります。

遺産の株を相続する際の流れ

ただし、遺言書の有無や内容、相続人等の状況、遺産額などによって、おこなうべき手続きが異なる場合があります。

以下の各ステップに沿って、ご自分の場合はなにをすればいいのか、ひとつずつご確認ください。

2.ステップ1:相続人等を確定し遺言書を確認する

最初におこなうのは相続にかかわる人を確定することと、遺言書の有無・内容を確認することです。

2-1.相続人の確定

被相続人(亡くなった人)の残した遺産(相続財産)を承継する権利があると定められている人のことを「相続人(法定相続人)」といいます。相続人を確定するためには戸籍調査が必要です。

相続人には、被相続人との関係によって優先順位が定められており、家族ならだれでも相続人になれるわけではありません。また、相続人であっても、相続をしないという選択(相続放棄)も可能です。

(参考)法定相続人とは?【図解あり】範囲・順位・相続割合まで解説

2-2.相続人以外で遺産を受け取る権利がある「受遺者」「受贈者」の確定

遺言書が残されていて、遺言に「遺贈」の記載があれば、相続人以外の人(受遺者)が遺産を承継することができます

また、故人の生前に、死亡を起因として成立する「死因贈与」契約が結ばれている場合も、相続人以外の人が贈与により遺産を承継できます。受け取る人を「受贈者」といいます。

2-3.遺言書の有無、および内容の確認

相続が発生したらなるべく早く、遺言書の有無、およびその内容の確認が必要です。

なお、遺言書には、自筆証書遺言(法務局保管または本人保管)、秘密証書遺言、公正証書遺言の3種類があります。本人保管(自宅や貸金庫などでの保管)の自筆証書遺言と、秘密証書遺言の場合は、家庭裁判所での「検認」という手続きを経てから開封しなければなりません。法務局保管の自筆証書遺言と公正証書遺言の場合は、検認手続きは不要です。

(参考)相続対策であり争族対策にも有効な遺言書|遺言の種類と特徴、注意点について

3.ステップ2:相続財産を調査・確定して、株の評価額を算定する

現預金、不動産、有価証券(株や投資信託、国債)、貴金属など、故人の遺産をすべて洗い出します。遺言がなければ、故人の通帳や郵便物、手帳などを調べ、故人が取引していた金融機関(銀行や証券会社)、不動産会社などを特定して、連絡を取っていきます。銀行や証券会社がわかったら、相続が発生したことを連絡して、故人の死亡日現在の預金や証券の「残高証明書」を発行してもらいましょう。

遺言書やエンディングノートなどが残されていれば、相続財産の目録、一覧などの資料もあるはずです。しかし、そこに記載されている財産がすべてとは限らないので、やはり調査はおこなわなければなりません。

3-1.遺産の評価額を算定する

遺産分割や相続税の計算をするには、遺産の総額を算定する必要があります。現金や預金であれば、金額は明確です。一方、株や不動産、貴金属などは常に価格が変動しています。そこで、課税の不公平が生じないように、すべての資産について、どのようにして価額を評価するのかというルールが法律(国税庁の「財産評価基本通達」)で定められています

すべての遺産について、この通達のルールによって評価額を計算し、遺産の総額を算定します。

3-2.相続した株は「上場株式」か「非上場株式」かにより評価方法が異なる

一般の個人投資家が、投資対象として売買する株は、株式市場に上場(登録)している会社(上場会社)の株で、「上場株式」と呼ばれます。日本国内の会社に占める上場会社の割合は1%程度で、残りの99%は上場していない「非上場会社」です。非上場の株式会社が発行している株式を「非上場株式」と呼びます。

遺産に含まれる株は、多くの場合上場株式です。ただし、故人が非上場会社の経営者や関係者であった場合、非上場株式が相続財産に含まれることもあります。

上場株式と非上場株式とでは、価額の評価方法がまったく異なります。評価方法については、記事の後半(8.株の評価方法)でくわしく説明します。

3-3.取引していた証券会社がわからなければ、証券保管振替機構に問い合わせる

「故人が株式投資をしていたことは知っているが、どの証券会社を利用していたかわからない」という場合があります。

特に最近は、店舗を持たないネット証券での株取引が増えていますが、ネット証券は基本的に郵便物などを送付してこないため、遺族が手がかりを得にくくなっています。故人のスマホやパソコンなどの中身を見ることができれば、メールやWebの履歴などから推測が可能ですが、スマホやパソコンにログインパスワードがかけられているとそれも簡単にはできません。

そのような場合、上場株式の保管や振替処理をおこなっている公的機関である証券保管振替機構」(通称「ほふり」)に対して情報開示の請求をすると、故人が口座を開設していた証券会社を教えてくれます

ただし、同機構でわかるのは「口座を開設していた証券会社名」のみで、保有している株の内容などは、別途証券会社に問い合わせる必要があります。

また、同機構への情報開示請求には、必要書類を揃えて郵送でおこなう必要があります。1件につき4,950円または6,050円(税込)の手数料がかかります。

くわしい手続き方法は、下記の証券保管振替機構のWebサイトでご確認ください。

(参考)証券保管機構「ご本人又は亡くなった方の株式等に係る口座の開設先を確認したい場合

4.ステップ3:遺産分割協議をおこない遺産分割協議書を作成する(必要に応じて)

相続人等(相続人、受遺者)が1人だけであれば、その人がすべての遺産を相続するので、遺産分割は発生しません。

一方、複数の相続人等がいる場合は、遺産を分割する必要があります。

4-1.遺産分割方法と遺産分割協議

遺産分割の決め方には、次の4通りがあります。

①遺言があり、その内容に従って遺産を分割する
②遺言はあるが、相続人等の全員が合意し遺言以外の割合で遺産を分割する
③遺言がなく、「法定相続分」(法律に定められた遺産分割割合の目安)に従って遺産を分割する
④遺言がなく、法定相続分とは異なる割合で遺産を分割する

②と④の場合は、相続人等の全員参加による「遺産分割協議」を実施し、協議がまとまったら合意内容(誰が、どの財産を相続するのか)を記載した「遺産分割協議書」を作成しなければなりません。遺産分割協議書は、参加者全員が署名・捺印(実印、印鑑証明書を添付)して、全員が同じものを1通ずつ保管します。

相続の様々な手続きでは、遺言書または遺産分割協議書が求められることがあります。そのため、③の場合でもスムーズな手続きのために遺産分割協議書が作成されることもあります。

遺産分割協議書

▲遺産分割協議書の例

(参考)【ひな型付】遺産分割協議書の書き方とは?基礎から応用まで詳しく解説

4-2.相続した株の分割方法は3種類ある

遺産分割において、株の分割方法には、「現物分割」「換価分割」「代償分割」の3種類あります

4-2-1.現物分割

株そのものを分割する方法です。例えば、遺産にA社株10,000株がある場合、長男と長女で5,000株ずつ相続するといった具合です。もっとも普通の方法です。

4-2-2.換価分割

株を売却し、得られた現金を分割する方法です。相続人全員が株に興味がない場合や、今後当面の間、株が値下がりしそうなので早く現金化したい場合などに検討されます。なお、換価分割は遺産分割協議の前でも、遺産分割協議後でもおこなうことができます。

4-2-3.代償分割

株はすべて1人の相続人が相続し、その代わりその相続人が他の相続人に代償金を支払う方法です。例えば、遺産にA社株10,000株がある場合に、長男が10,000株全部を相続し、長男から長女に対して5,000株分の代償金を支払うといった具合です。

相続人の一部に、株を相続することを避けたい人がいる場合などに用いられます。また、非上場株式の相続では、1人の相続人を会社の後継者として経営権を集中させたい場合など、しばしば利用されます。

4-3.遺産分割協議終了前でも、相続人が株主の権利を行使することができる

株主(株の所有者)には、配当金を受け取る権利や、株主総会での議決権などが与えられます。これらの株主の権利は、遺産分割協議が終了するまでは相続人全員が共有する状態になっています。

この状態でも、相続人のうち1人を「権利行使者」として定めて株式発行会社に通知すれば、議決権などを行使できます。

5.ステップ4:証券会社で株の名義変更手続きをする

株を相続する人とその割合が決まったら、証券会社で株の名義変更の手続きを取ります。

5-1.相続した株を移管するために故人と同じ証券会社に証券口座を開設する

最初に、株を相続する相続人全員が、故人が利用していたのと同じ証券会社に相続人の証券口座を開設します。

現在では、上場企業の株式はすべて電子化されており、紙の株券は発行されていません。そのため、相続した株券を証券会社から“引き出す”ということはできません。株の名義変更では、株のデータを故人の証券口座から相続人の証券口座へと移す(これを「移管」といいます)ことになります。そのために、相続人名義の証券口座が必要になるのです。もちろん、同じ証券会社にすでに口座を持っていれば、このプロセスは不要です。

株の相続の流れ

なお、相続人が、故人が利用していたのとは異なる証券会社に口座を持っている場合、相続した株をそちらの口座に移管してほしいと思うかもしれません。しかし、ほとんどの証券会社で、相続による移管は自社内の口座でのみおこなうこととされています。

したがって、もし故人が複数の証券会社で株を保有している場合は、相続人もそのすべての証券会社に口座を開設しなければなりません。

5-2.相続した株の名義変更に必要な書類

証券会社に連絡して、必要書類を請求します。あわせて、証券会社から求められる公的な書類等を用意します。一般的には、下記のような書類があります。

  • 株式名義変更依頼書、相続手続依頼書などの依頼書類(証券会社に請求する)
  • 故人と相続人全員の戸籍謄本、または法定相続情報一覧図の写し
  • 相続人全員の印鑑証明書
  • 遺産分割協議書、または遺言書(公正証書遺言以外の場合検認調書を含む)
  • その他、証券会社から求められる確認書等

5-3.古い紙の株券が出てきたら?

上場企業では2009年に紙の株券が廃止され、すべて電子化されました。その際、自宅などで保管していた紙の株券を証券会社に預けずに、そのまま保管していた場合(これを「タンス株」といいます)、その株は証券会社の証券口座ではなく、株式名簿管理人(信託銀行等)の特別口座に保管されることとなっています

2008年以前に発行されている古い株券が遺品に含まれていた場合、その株の発行会社が現在も上場しているのであれば、相続人の証券口座がある証券会社か、株式名簿を管理する信託銀行に連絡を取って手続きをすれば、信託銀行の特別口座から相続人の証券口座に移管することができます。

また、その会社が上場廃止となっており、非上場会社として存続している場合でも、原則的に株主としての権利は失われることはありません。ただし、証券会社や信託銀行では対応できなくなるので、発行会社に直接問い合わせて、名義変更の手続きを取る必要があります。

6.ステップ5:準確定申告をする(必要に応じて)

故人が亡くなった年分に、故人に一定の所得がある場合や、税金の還付を受けられる場合は、相続人が故人に代わって確定申告をする必要があります。これを「準確定申告」といいます

株式投資に関しては、株を売却して得られた利益(「譲渡所得」といいます)と、株を保有していて得られる配当(「配当所得」といいます)については、原則的に課税が発生します(「NISA口座」は例外で課税が発生しません)。

これらの所得は、確定申告をして納税するのが原則です。しかし実際には、個人投資家の利便性を考えた例外規定が多くあり、大半の相続では、株式投資に関しては準確定申告を考える必要はないでしょう。

ただし、確定申告が不要であっても、申告をしたほうが得になるケースもあることは注意してください。

株に関する準確定申告が必要かどうかを判断するためには、まず故人の口座がある証券会社から取引残高報告書を取り寄せて「口座の種類」、亡くなった年の株の売買状況や配当の受け取り状況、金額などを確認します。

(参考)【準確定申告とは】必要・不要の判断方法、記入例などを解説

6-1.証券口座の種類が「源泉徴収ありの特定口座」「NISA口座」の場合は確定申告不要

証券口座には、①「源泉徴収ありの特定口座」、②「源泉徴収なしの特定口座」、③「一般口座」、④「NISA口座」の4種類があります。①~③の口座はどれか1つを選択しますが、NISA口座は他の3つの口座と併用できます。

①「源泉徴収ありの特定口座」では、その名の通り、株を売却して譲渡所得が発生するたびに自動的に税金の源泉徴収納税がおこなわれる仕組みです。そのため、故人がこの口座を使っていた場合は、確定申告をする必要はありません。

また、④「NISA口座」での譲渡所得、配当所得は非課税となります。こちらも確定申告は不要です。

つまり、株の譲渡所得の確定申告が必要になるのは、②「源泉徴収なしの特定口座」、③「一般口座」で取引していた場合のみです。

現在、個人投資家の約8割が「源泉徴収ありの特定口座」で取引をしているといわれています。最近ではNISA口座の開設も増えています。

そのため、ほとんどの場合、株の相続での準確定申告は不要になります。

6-2.給与所得が2,000万円以下の給与者や年金所得者で、その年に得た株の譲渡所得が20万円以下の場合、確定申告は不要

②「源泉徴収なしの特定口座」、③「一般口座」であっても、給与所得が2,000万円以下の給与者や年金所得者で、その年に得た株の譲渡所得が20万円以下の場合は、確定申告は不要になります。申告が必要になるのは、20万円を超える譲渡所得があった場合です。

6-3.配当所得は原則として確定申告不要

上場株式の配当として受け取った金額は「配当所得」として、原則、所得税+復興特別税15.315%、地方税5%、計20.315%の課税がされます。配当所得への課税は、源泉徴収されて納税されるため、受け取った配当金は納税後の金額となっており、原則として確定申告は不要です。

6-4.確定申告をする必要はないが、したほうが有利になる場合

確定申告をする必要はないけれど、申告することで税金が還付されるなど有利になる場合もあります。

6-4-1.故人が複数の証券会社の「源泉徴収なしの特定口座」で売買をしていた場合

複数の証券会社の「源泉徴収なしの特定口座」で売買していた場合、ある口座で損益がプラスで、ある口座で損益がマイナスだったとしても、証券会社をまたいで損益は計算されません。確定申告をすることで複数の証券会社の損益の計算が可能になるので、課税が減少する場合があります。

6-4-2.故人が譲渡損失の繰り越し控除を利用していた場合

譲渡損失(売買での赤字)がある場合、確定申告をすれば損失額を3年間繰り越して、翌年以降の譲渡利益から控除することができます。故人が亡くなる前年以前にこの繰り越し控除を利用していた場合で、亡くなった年に譲渡利益がある場合は、確定申告することで繰り越された損失を控除して課税を減少させることができます。

6-4-3.配当所得控除を受けたい場合

上述の通り、上場株式の配当を受け取る際には、源泉徴収された残りの金額を受け取ることになります。配当以外の所得が一定額以下の人の場合、確定申告をして配当控除を受けることで、源泉徴収された税額の一部または全部の還付を受けられる場合があります。

6-5.準確定申告の期限は4か月

準確定申告の期限は、相続開始を知った日の翌日から4か月以内です。

相続発生後は行うべき手続きが多くあり忙しいものです。また、株の譲渡所得や配当所得の課税については、口座の種類や故人の所得額などに応じての組み合わせ種類が多く、申告したほうが有利になる場合もあるなど制度が複雑なため、投資金額が多額の場合や正確に判断したい場合などは、税理士への相談が推奨されます。

7.ステップ6:相続税を申告・納付する(必要な場合)

遺産分割の確定後、株を含めて遺産の評価額の総額をもとに相続税の計算をおこないます。ここでは相続税のくわしい計算方法は割愛しますが、相続税には基礎控除(3,000万円+(600万円×法定相続人数))があり、相続人全員の相続財産の総額が基礎控除額以下であれば、基本的に相続税は発生しません。

相続財産の総額が基礎控除額を超え、相続税が発生する場合は、故人の死亡を知った日(通常は死亡日)の翌日から10か月以内に、申告・納付をする必要があります

相続税は金銭一括納付が原則です。もし、遺産に株などの現預金以外の資産が多く、相続税納付のための現金が不足する恐れがあるなら、遺産分割協議で換価分割も検討するとよいでしょう。

8.相続した株の評価方法

相続財産に含まれる株の評価方法は、上場株式と非上場株式とで異なります。

8-1.上場株式の相続税評価

上場株式は、株式市場で客観的で公正な株価が形成されているので、市場の株価を用いれば問題ありません。ただし、株価は日々変動しているため、どの時点の株価を用いればいいのかが問題になります。

これは、次の4つから最も低い価額で評価します。

①故人が死亡した日の終値(※)
②故人が死亡した月の毎日の終値の平均値
③故人が死亡した前月の毎日の終値の平均値
④故人が死亡した前々月の毎日の終値の平均値

(※死亡日が株式市場の休場日(土日祝日など)の場合は、もっとも近い開場日の終値を用います。また、もっとも近い開場日が2日ある場合(死亡日が3連休の2日目の場合など)は、2日の平均額となります。)

ちなみに、現在、上場株式は100株単位での取引が原則となっていますが、株と同様に上場されて取引されているREIT(上場不動産投資信託)などは、1口単位での取引となっていますので、混同しないように注意してください。

8-2.非上場株式の相続税評価

遺産に株が含まれるケースの大半は上場株式です。しかし、故人が非上場会社のオーナー経営者や、その親族・関係者だった場合などに、非上場会社の株式が遺産に含まれることがあります。

非上場株式は、会社を支配することを目的として所有することから、通常、譲渡することは制限されており、上場会社のように取引価格はありません。(財産評価基本通達では、非上場株式は「取引相場のない株式」と呼ばれています)。

その評価方法には、大きくわけて「原則的評価方式」と「配当還元方式」の2種類があります。また、「原則的評価方式」はさらに、会社の規模などにより「類似業種比準価額方式」と「純資産価額方式」のどちらか、あるいは折衷して採用されることになります。

それぞれの具体的な計算方法は複雑なので、本記事では割愛します。

いずれにしても、非上場株式の相続税評価にあたっては、資産税の専門の税理士に相談することが推奨されます。

9.相続した株の配当金の扱いは要注意

株を保有していると、配当金を受け取れる場合があります(配当を実施していない会社もあります)。

相続した株の配当金の扱いについては、相続発生のタイミングと「配当基準日」「配当確定日」「配当支払日」との関係によって異なります。まず、これらの意味を説明します。

9-1.「配当基準日」「配当確定日」「配当支払日」とは

上場会社の株式は、株式市場でいつでも自由に売買できます。これは会社から見ると、株主が常に変化していて流動的だということです。

会社は、その期に稼いだ剰余金の一部を配当として株主に還元できますが、株主は常に変化しているため、なんらか基準で株主を確定する必要があります。

その基準として「この日に株を持っている人を、その期の株主として扱う」という特定の日が決められています。これを「配当金交付の基準日」(配当基準日)といいます。配当基準日は、通常、決算期末日(3月決算企業なら3月31日)とされます。

つまり、3月決算企業なら、3月31日にその企業の株を持っている人が株主として把握され、期末配当金を受け取る権利が与えられるということです。

ただし、配当基準日はあくまで配当を支払う対象となる株主を決めるための基準日であって、配当の有無や金額が、その日に決められるわけではありません。

配当の有無や金額は、原則として株主総会の決議事項となります(※1)。会社が配当の有無や金額を株主総会で提案し、それが決議・承認されて、はじめて実際に配当の支払いが決定されるのです。その意味で、株主総会日は「配当確定日」とも呼ばれます。

そして、株主総会決議を経た後、実際に配当が支払われる「配当受取日」となります。3月決算企業の場合、通常は6月に定期株主総会が開催され、6月中に配当が支払われます。

(※1)上場企業の中には、定款の定めなどによって配当を株主総会決議事項ではなく、取締役会決議事項としている会社もあります。その場合でも、期末配当の支払いは定期株主総会後となるのが一般的です。また、期末配当以外の配当(中間配当等)だけを取締役会決議事項としている会社もあります。

9-2.配当金の扱いは相続発生タイミングによって変わるので注意

以上を踏まえた上で、相続発生タイミングにより、配当金の扱いの違いを確認します。

配当金の扱い

9-2-1.配当基準日の前に相続が発生した場合

相続発生が配当基準日の前である場合、その後に受け取る配当金は、故人が残した相続財産ではなく、最初から株を相続した相続人自身の所得となります。

9-2-2.配当基準日から配当確定日までの間に相続が発生した場合

この場合、配当を受け取る権利はすでに故人に発生しているものの、まだ確定していない状態です。したがって、その配当金を受け取る権利は「相続財産」として扱われ、相続税の課税対象となります。株主総会での配当支給の確定前なので、このような場合は、「配当期待権」があるともいわれます。

なお、相続財産への計上金額は、予定配当額から配当課税額分を引いた額です。

9-2-3.株主総会日から配当支給日までの間に相続が発生した場合

この場合、株主総会で配当の支給は確定しているもののまだ支給はされていないので、「未収配当金」が相続財産に計上されます。このケースも、「②配当を受ける権利を相続財産として計上する場合」に該当し、計上金額の計算方法は「配当期待権」のケースと同じです。

9-2-4.配当受取日の後に相続が発生した場合

相続発生日より前に「配当受取日」となっている場合、配当金受領証の郵送、証券口座への入金などにより、すでに配当金が支払われています。つまり、受け取り済みの金額を相続財産として計上すればよいのです。

10.相続した株を売る場合の税金

相続した株を相続人が売却した場合、相続税とは別に、所得税・住民税の課税対象となることがあります。

10-1.上場株式の譲渡課税

相続した株の売却により利益が出た場合は、相続人の譲渡所得となり、所得税・住民税が申告分離課税で課税されます。

税率は所得税15%+復興特別税0.315%+住民税5%で、計20.315%です。

上場株式の譲渡所得は、「収入金額-取得費-費用等」で求めた売却益の合計になります。

収入金額は「売却時の株価×株数」で求められます。取得費については、故人がその株を買ったときの購入代金、すなわち「購入時の株価×株数」です。これは「相続したときの評価額ではない」という点に、十分注意してください。また、費用等については、購入時や売却時に証券会社に支払う手数料となります。

故人の証券口座が特定口座であれば、取得費や費用等は相続人の証券口座(特定口座)に引き継がれて記録されます。そして、株を売却した場合、証券会社が収入金額と取得費、費用を計算し、売却益があれば源泉徴収をします。 一方、故人の口座が一般口座だと取得費が自動的に引き継がれず、わからない場合があります。その場合、故人が株を購入した日を調べて、その日の終値を取得価額として計算する必要があります。

また、取得日がわからないなどで取得価額が不明の場合は、売却時の収入金額の5%が取得価額とみなされます。つまり、売却金額の95%(手数料を除く)に対して課税されることになり、課税負担が大きくなります。取得価額は、可能な限り調べたほうがよいでしょう。

(参考)相続した株の売却時には税金が発生-具体的な税額シミュレーション付き

10-2.取得費加算の特例

相続した財産が相続税の課税対象となり、さらにその財産の譲渡時に所得税の課税対象になると、相続人の税負担が重くなります。

そこで、相続した財産を一定期間内に売却した場合は、その取得費に支払った相続税の一部を加算できる特例措置が設けられています。これを「取得費加算の特例」といいます。株の売却にも同特例が認められる場合があります。条件は下記の通りです。

  • 相続または遺贈によって株を取得していること。
  • 相続税の負担があること。
  • 相続開始日の翌日から3年10か月以内に売却していること。

取得費加算の特例を適用すると、支払った相続税のうち譲渡した財産にかかる部分の相続税額が取得費に加算されます。

取得費が増えることにより、譲渡所得が減り、その分、譲渡所得にかかる課税を減らすことができます。取得費加算の特例のくわしい計算方法などは次の記事を参考にしてください。

(参考)【取得費加算の特例】計算方法や注意点は?併用可能な特例も解説

10-3.非上場株式の譲渡課税

非上場株式の売却では、売却する相手により課税関係が変わります。発行会社以外の者への売却の場合は、上場株式と同様の譲渡所得となります。通常、非上場株式を、その会社と関係ない第三者が購入することはないので、現実的には会社に買い取ってもらうか、他の株主に買い取ってもらうケースがほとんどです。他の株主に買い取ってもらう場合は、上場株式と同様の譲渡所得課税になるということです。

他方、他の株主が購入を希望しない場合、その株を発行している会社に買い取ってもらうこともあります(このように、会社が自社の株式を買い取ること、またその買い取った株のことを「金庫株」といいます)。

この場合は、資本金額に相当する、もともと出資していた金額以上の価額の部分は「みなし配当所得」として、総合課税の対象となります。

10-4.相続した株だけで利用できる「金庫株特例」

非上場株を発行会社に売却して総合課税となった場合の税率は、売却金額や他の所得金額により変わりますが、所得税の累進税率の最高部分は45%(住民税とあわせて55%)の高税率になってしまいます。

この高負担が、中小企業の事業承継の妨げにもなっていたことから、これを緩和するための特例措置が設けられています。それが「みなし配当課税の特例」とも呼ばれる「相続により取得した非上場株式を譲渡した場合の特例」です。

この特例は、相続により株を取得した人が、その株を発行会社に譲渡する場合に限って、総合課税ではなく、20.315%(所得税、住民税、復興特別税の合計)の分離課税とすることができるという内容です。

適用要件は取得費加算の特例の要件と似ており、以下のようになっています。

  • 相続または遺贈によって非上場株式を取得していること。
  • 相続税の負担があること(相続税が非課税の場合は利用できません)。
  • 相続開始日の翌日から3年10か月以内に売却していること。

なお、金庫株特例は、取得費加算の特例と併用することも可能です。併用すればさらに課税圧縮効果が高くなります。

11.株の相続とNISA口座の関係

2024年にスタートした現在のNISA口座(新NISA)は、投資上限1,800万円まで購入した株や投資信託等の譲渡所得(売却益)や配当所得がすべて非課税になる口座です。そのため、現在では株式投資にNISA口座を用いることが主流になっています。

11-1.相続した株を相続人のNISA口座に入れることはできない

故人がNISA口座で株を保管していた場合、その株を相続人のNISA口座に移管することができるのでしょうか?

残念ながら答えは「No」です。故人の口座が特定口座でもNISA口座でも、相続で取得した株はすべて、続人のNISA口座に移管することはできないルールとなっています。相続人の特定口座(または一般口座)に入庫されます。

11-2.故人のNISA口座から相続人の口座への移管では、取得費は引き継がれない

先にも説明しましたが、故人が特定口座で株を保管していた場合は、その株が相続人の特定口座に株が移管される際、故人が購入した時の取得費がそのまま引き継がれます。

ところが、故人がNISA口座で運用していた株の場合は、購入時の取得費は引き継がれません。相続発生日の終値の株価で計算した価格が、相続人の取得費となります。

11-3.NISA口座で非課税となるのは譲渡所得、配当所得だけ

念のために確認しておきますが、NISA口座で非課税となるのは株などの売却時の譲渡所得と配当所得だけです。故人の証券口座がNISA口座であっても、相続税の計算において非課税となるわけではありません

11-4.故人のNISA口座から相続した株でも、取得費加算の特例は利用できる

故人がNISA口座で保管していた株でも、取得費加算の特例の要件を満たしていれば、特例は利用できます。

12.相続人を困らせないための株式投資のポイント

ここまでは、相続発生後の相続人の立場から、株の相続の手続きや注意点を解説してきました。

最後に、将来の相続を迎えるにあたって、遺族が上場株式をスムーズに相続できるようにするための準備について触れておきます。

12-1.1つの証券会社の口座で取引する

1つの証券会社の「源泉徴収ありの特定口座」または「NISA口座」だけで株式投資をしていれば、遺族が準確定申告をする必要がなくなります(譲渡損失の繰り越し控除を利用する場合を除く)。

また、遺産分割の手続きも進めやすくなります。複数の証券会社で取引をしている人は、相続が近づいたら1社に株をまとめて保管することを検討しましょう

12-2.配当の受け取りは株式数比例配分方式を選ぶ

配当金の受け取り方法には、「配当金領収証方式」「口座振込方式(登録配当金受領口座方式または株式数比例配分方式)」「個別銘柄指定方式」があります

古くから株式投資をしている方には、受領証が郵送される「配当金領収証方式」を利用している人がいますが、それだと遺族の手間が増えます。受け取りの手間がかからない口座振込方式に変更しておくとよいでしょう。

12-3.口座情報は、遺言やエンディングノートに記録して残す

遺族がもっとも困るのは、証券口座の存在自体が把握できないことです。取引している証券会社、支店、口座番号などは、遺言やエンディングノートにまとめておくと、遺族の労力が大きく軽減されます。

まとめ:上場株式の相続手続きや評価は、意外と簡単

非上場株式の相続税評価は難しく、また、ほとんどの場合オーナー企業の経営が関係しているため、相続を迎える前の準備段階から、顧問税理士または資産税の専門の税理士に相談しておくことを強くおすすめします

一方、上場株式は株価が客観的に明確で、また分割や売却も容易であるため、非上場株式や不動産などの資産と比べて、相続の手間も少なく、遺産分割トラブルなども生じにくいものです。

しかし、これまでまったく株式投資に縁がなかった人は、「相続した後、その株をどうすればいいかわからない」とか「相続をした後に株価が下がったらどうしよう」と心配に思われる方もいるでしょう。そのような場合は、遺産相続手続きの段階での換価分割を検討してもよいかもしれません。

どのような遺産分割方法がふさわしいかなど、株の相続で心配や不安があれば、一度資産税の専門の税理士に相談なさってみてはいかがでしょうか。

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