【孫との養子縁組デメリット6選】メリットも比較解説
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相続対策として、孫と養子縁組をするというケースがあります。
孫に財産を相続させたいという目的や、相続税を節税したいという目的で行われますが、孫との養子縁組にはデメリットもあるので注意が必要です。
相続時にトラブルが起こりやすいほか、思ったほど節税にならないこともあります。養子縁組で孫の苗字が変わることになれば、生活に大きな影響が及びます。
この記事では、孫と養子縁組をすることのデメリットとメリットをとりあげ、養子縁組のほかに孫に財産を残す方法も解説します。孫へ財産を残したいとお考えの方は、ぜひこの記事をご覧ください。
この記事の目次 [表示]
1.孫との養子縁組は相続対策で広く行われている
遺産を相続できる相続人は配偶者と子であり、孫は相続人になりません。相続人となるはずの子が先に亡くなった場合に孫が代襲相続することはありますが、子が健在であれば孫は相続人になりません。
しかし、孫と養子縁組をすれば孫は相続人になります。養子縁組をすれば、養子と養親は法律上親子となるためです(民法第727条)。
孫が相続人になると、次のような効果があります。
- 孫にも遺産を相続させることができる
- 相続人が増えるので相続税が節税できる
税額計算の仕組みはあとで説明しますが、遺産の金額が同じであれば、相続人が多いほど相続税は少なくなります。相続税が節税できるという理由から、孫と養子縁組をする人もいます。
2.孫と養子縁組をすることのデメリット
孫との養子縁組は遺産相続に効果をもたらす一方で、親・子・孫と続いている家族関係を変えることになるため、さまざまな問題が生じます。
ここでは、孫と養子縁組をすることのデメリットを6つとりあげます。
2-1.相続でトラブルが起こりやすい
孫と養子縁組をすると、相続人が増えます。
養子縁組は、新たに相続人になる孫にとっては良いことですが、もともと相続人であった実の子にとってはあまり良いことではありません。たとえば、もともと実の子が2人いたところへ孫養子が2人加わると、相続人は2人から4人になり、実の子が相続できる遺産は半分になってしまいます。
相続人が増えて想定していた遺産を得られないとわかると、孫と子の間でトラブルになる可能性が高いでしょう。
2-2.孫の苗字が変わ
って生活に影響する
民法では、養子は養親の苗字(氏・姓)を名乗ることになっています(民法第810条)。つまり、孫と苗字が異なる場合は、養子縁組により孫の苗字が変わることになります。
孫が未成年で養子縁組をする事情を理解できない場合は、ある日突然苗字が変わることを受け入れられないかもしれません。孫が成人していて養子縁組をする事情を理解できたとしても、苗字が変わることで預金口座や運転免許証、パスポートなどさまざまな名義の書き換えが必要になります。
なお、孫が結婚していると、苗字が変わるかどうかの判断が複雑になります。
結婚により孫の苗字が変わっている場合は、離婚しない限り養子縁組で苗字が変わることはありません(民法第810条ただし書き)。結婚により孫の苗字が変わっていない場合は、養子縁組により孫の配偶者も一緒に苗字が変わることになります。このとき、ひ孫(孫の子)の苗字は変わらないので、必要に応じてひ孫の苗字を変える手続きをします。
このように、養子縁組では孫やその家族の生活に多大な影響が及ぶことがあるので注意が必要です。
養子縁組による苗字への影響については、下記の記事もご覧ください。
2-3.孫養子が未成年のうちに祖父母が亡くなると未成年後見人が必要になる
養子縁組をすると、親権は養親が行使することになります(民法第818条第2項)。つまり、孫と養子縁組をすると、祖父母が親権者となります。
孫が未成年のうちに養親である祖父母がどちらも亡くなると、相続人となる孫には親権者がいなくなってしまいます。養親である祖父母が亡くなっても、親権は実の親に戻りません。
未成年の孫は法律行為ができないため、単独で遺産相続に加わることができません。家庭裁判所に申し立てて未成年後見人を選任する必要があります。
未成年後見人について詳しくは、下記の記事をご覧ください。
なお、実の親に親権を戻すには、家庭裁判所の許可を受けて祖父母との死後離縁を行います。詳しくは下記の記事をご覧ください。
死後離縁とは?養親・養子死亡後、相続発生後に手続する方法・流れを解説
2-4.未成年の孫養子には法定相続分を確保しなければならない
前項で解説したとおり、養子縁組をした孫が未成年のうちに祖父母が亡くなると、相続手続きのために未成年後見人を選任します。
この場合未成年後見人は、未成年である孫養子の権利を守るため、遺産分割で孫養子の法定相続分を確保しなければなりません。
実の子と孫養子が相続人となっている場合に、未成年であるにもかかわらず孫養子が法定相続分どおりの遺産を相続すると、実の子は良く思わないかもしれません。
また、未成年の孫養子が遺産を相続したときは、成人するまでその遺産を自由に使えない可能性があります。
未成年者は財産を処分することができず、未成年後見人が代わりに行います。未成年後見人が財産を処分するときは、未成年者に損害を与えないため、必要最小限の範囲にとどめることとされています。
2-5.孫養子は相続税が2割加算される
孫養子が遺産を相続した場合は、相続税の税額が2割加算されます。
相続税の税額を2割加算する制度は、被相続人と続柄が遠い人が遺産を相続することは偶然性が高いという考えによるものです。このほか、相続税を適正に課税するため、節税のための養子縁組を牽制する目的もあります。
孫養子は、養子縁組によって実子と同じ立場になりますが、相続税の税額計算では例外として2割加算されることになります(相続税法第18条第2項)。孫に財産を相続させたいという理由で養子縁組をしても、孫の相続税額は通常より多くなります。
なお、相続人となるはずの子が先に亡くなったことで孫が相続人になる場合(代襲相続の場合)は、2割加算はありません(相続税法第18条第2項ただし書き)。
2-6.相続税対策のためだけに行った養子縁組は認められないことがある
相続税法には、養子縁組によって相続税が不当に少なくなった場合に、養子を相続人から除いて相続税を計算できる規定があります(相続税法第63条)。
相続税対策のためだけに養子縁組をした場合は、税務署に否認される可能性があります。孫養子を法定相続人に含めずに相続税を計算し直すことになり、税額は高くなります。
被相続人が亡くなった後では、相続税対策のためだけに養子縁組をしたかどうかは判断できないかもしれません。しかし、次のような場合は税務署に否認される可能性があります。
- 亡くなる直前の入院中に養子縁組をした場合
- 意思表示できないにもかかわらず養子縁組がされた場合
- 養子となった孫が正当な理由もなく相続放棄した場合
- 養子となった孫が財産を全く相続しなかった場合
一方、正当な理由で養子縁組が行われて、結果として節税になったのであれば問題はないでしょう。たとえば、長らく看病してくれた孫に相続させる目的や、孫に家業を継がせる目的で養子縁組が行われたのであれば、税務署に否認される心配はないでしょう。
なお、税務署が行う否認は、あくまでも相続税を計算するためのものです。民法における養子縁組の効力は変わらず、養子が相続人でなくなるわけではありません。
3.孫と養子縁組をすることのメリット
ここまでお伝えしてきたように、孫との養子縁組にはさまざまなデメリットがあります。しかし、それでも孫と養子縁組をする人がいるのは、一定のメリットがあるからです。
冒頭でも簡単にお伝えしましたが、改めて、孫と養子縁組をすることのメリットを確認します。
3-1.孫にも遺産を相続させることができる
孫と養子縁組をすれば孫は相続人になります。つまり、遺言書を書かなくても、孫に遺産を相続させることができます。
養子縁組は、養親と養子(15歳未満の場合は法定代理人)の届け出により成立します。届け出は、養親または養子の本籍地または住所地の市区町村役場で行い、届出書に成人の証人2名の署名が必要です。
このほか、養親または養子に配偶者がいる場合は配偶者の同意も必要です。なお、養子が未成年の場合には家庭裁判所の許可が必要ですが、孫を含む直系卑属を養子にする場合は必要ありません。
3-2.相続税の計算で有利になることが多い
孫と養子縁組をすると、相続税の計算で有利になることが多いです。
遺産の金額が同じであれば、相続人が多いほど税額は少なくなります。また、孫に直接相続させると、子から孫に相続させる場合に比べて課税される回数が1回分少なくなります。
3-2-1.基礎控除額が増えて税額が少なくなる
相続税には基礎控除があり、遺産の総額から基礎控除額を差し引いた残額が課税の対象になります。基礎控除額の算式は、下記のとおりです。
(上記法定相続人の数は、誰も相続放棄をしていない場合の数)
養子も実子と同様に法定相続人となるため、孫と養子縁組をすれば基礎控除額が増えます。課税される遺産は少なくなり、税額も少なくなります。
なお、多数の孫を養子に迎えて相続税を不当に少なくすることを防ぐため、基礎控除額の計算で法定相続人の数に加えられる養子の数は、下記のように制限されています。
- 実子がいる場合:養子は1人まで
- 実子がいない場合:養子は2人まで
これらの制限は、あくまでも相続税を計算するためのものであり、実際に養子縁組を行う孫の数を制限するものではありません。
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3-2-2.生命保険金・死亡退職金の非課税限度額も増える
生命保険金(死亡保険金)や死亡退職金は、一定の金額まで相続税が非課税となります。
それぞれの非課税限度額は下記のとおりで、基礎控除額と同様に、孫と養子縁組をして相続人が増えると非課税限度額も増えます。
- 生命保険金の非課税限度額:500万円×法定相続人の数
- 死亡退職金の非課税限度額:500万円×法定相続人の数
(上記法定相続人の数は、いずれも誰も相続放棄をしていない場合の数)
養子の数に制限があるのも、基礎控除額と同様です。
- 実子がいる場合:養子は1人まで
- 実子がいない場合:養子は2人まで
3-2-3.相続人1人あたりの遺産が少なくなると相続税も少なくなる
相続税の税額は、遺産の総額に税率を乗じて求めるという単純な方法で計算するものではありません。各相続人(誰も相続放棄をしていない場合の相続人)が法定相続分に基づいて取得した遺産の額から計算します。
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相続人が増えると、相続人ごとの遺産の額は少なくなります。下記に示すように、相続税の税率は累進税率であるため、遺産の額が少ないほど税率は低くなり、税額も少なくなります。
したがって、孫と養子縁組をして相続人が増えると、税率構造の面でも相続税の節税につながります。
相続税の速算表
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | - |
1,000万円超3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
3,000万円超5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
5,000万円超1億円以下 | 30% | 700万円 |
1億円超2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
2億円超3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
3億円超6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
3-2-4.課税される相続を1回飛ばせる
通常の相続では、親から子、子から孫という順序で遺産が引き継がれます。孫が遺産を継ぐまでには相続が2回あり、相続税も2回課税されることになります。
孫と養子縁組をすると、1回の相続で孫に遺産を継がせることができ、相続税が課税される回数も1回で済みます。
ただし、孫への相続では相続税が2割加算されるため、本当に節税になるかどうかは慎重な検討が必要です。
4.養子縁組以外で孫に財産を残す方法
孫に財産を残したいという理由で養子縁組を検討されている方は、養子縁組以外にも財産を残す方法があることを知っておくとよいでしょう。
ここでは、養子縁組以外で孫に財産を残す方法として、遺言書の作成、生前贈与、家族信託をご紹介します。
孫に財産を残す方法については、下記の記事も参考にしてください。
孫に相続させる方法は?遺言書の作成や養子縁組の方法と注意点を解説
4-1.遺言書を作成する
遺言では、相続人でない人にも財産を残すことができます。遺言書を作成して孫に財産を残すことを指定すれば、その通りにできます。
遺言書は、法律で定められた形式で書かなければなりません。自分で作成する自筆証書遺言も認められますが、公証人に依頼して作成する公正証書遺言が確実です。
遺言書の種類や作成方法についての解説は、下記の記事をご覧ください。
遺言書の書き方完全ガイド-遺言書の形式と内容に関する注意点を解説
4-2.生前贈与をする
生前贈与は本人の自由な意志でできるため、相続まで待たずに必要なときに、孫に財産を与えることができます。
生前贈与をすると相続時の遺産が減るため、相続税の軽減も期待できます。ただし、贈与税は相続税に比べて少ない財産に高い税率で課されるため、事前に税額のシミュレーションをしておくことが欠かせません。
孫の教育や住宅購入、結婚・子育てのための贈与では、特例により一定金額(条件により500万円~1,500万円)まで贈与税が非課税になります。条件に合う場合は、これらの特例を活用するとよいでしょう。
孫への生前贈与については、下記の記事で詳しく解説しています。
孫への生前贈与が相続税対策に?!非課税で贈与するやり方と注意点
4-3.家族信託を利用する
家族信託とは、財産の管理や運用を家族に委託して運用益等を受ける仕組みです。委託者と受託者を自由に組み合わせて、財産を誰に継がせるかも自由に決められます。
遺言では遺産を孫に直接継がせることしかできませんが、家族信託では財産を一度子に継がせたうえで、その後子が死亡したときに孫に継がせるように指定することもできます。
ただし、家族信託は自由度が大きい分、仕組みが複雑になります。また、契約書の作成や不動産の登記などの手続きも必要です。必ず、弁護士や司法書士など専門家のサポートを受けるようにしましょう。
家族信託については、下記の記事を参考にしてください。
5.孫と養子縁組をする際に検討すべきこと
ここまで、孫と養子縁組をすることのデメリットやメリット、養子縁組以外で孫に財産を残す方法を解説しました。
最後に、これらの事項を踏まえて、孫と養子縁組をする際に検討すべきことを2点お伝えします。
5-1.デメリットとメリットを比較する
孫との養子縁組は、トラブルの懸念や生活への影響といったデメリットがある一方、相続税を節税できるというメリットがあります。
養子縁組をする際には、まず、相続税がどれぐらい節税できるかを見積もり、メリットがデメリットを上回るかどうかをよく考えるようにしましょう。
孫が成人していて苗字も同じなら、養子縁組による生活への影響はさほどないかもしれません。それでも、相続時にトラブルが起こる懸念は残ります。
孫が未成年であり苗字も違う場合は、相続が起きた時の手続きが複雑になるほか、孫の今後の生活に支障を来すことも考えられます。節税のためとはいえ、子や孫が受け入れられるかどうか、十分な配慮が必要です。
5-2.どうしても養子縁組でなければならないか検討する
前章でお伝えしたとおり、孫に財産を残す目的であれば、養子縁組以外にも方法があります。
生活への影響が大きい養子縁組だけにとらわれずに、遺言や生前贈与、家族信託などとも比較して、最善な方法で孫に財産を残せるとよいでしょう。
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