相続税・所得税・贈与税の違いを徹底比較|死亡保険金や不動産売却の税金は?
「相続税」「所得税」「贈与税」は、個人が財産や収入を得たときに課される国税です。これらは、税額の計算方法や申告方法などが異なるため、財産を受け取ったときは課される税金の種類を適切に判断することが重要です。
判断を誤ると「申告漏れによりペナルティが課される」「利用できる控除を見落として本来より高い税金を払う」などの不利益が生じるかもしれません。
この記事では、相続税・所得税・贈与税の違いや生命保険の死亡保険金に課される税金の決まり方などを相続税専門の税理士がわかりやすく解説します。
この記事の目次 [表示]
1.まずは基本を理解!相続税・贈与税・所得税の3つの違い
相続税・贈与税・所得税の特徴は以下のとおりです。
- 相続税:亡くなった人から財産を受け継いだときにかかる税金
- 贈与税:生きている人から無償で財産をもらったときにかかる税金
- 所得税:個人の「儲け」に対してかかる税金
以下では、各税金の主な違いを詳しく解説します。
1-1.3つの税金の概要を一覧表で比較
相続税・贈与税・所得税は、課税されるタイミングや計算の仕組みなどが異なります。主な違いは以下のとおりです。
| 相続税 | 贈与税 | 所得税 | |
|---|---|---|---|
| 課税対象となるタイミング | 亡くなった人の財産を引き継いだとき | 生きている人から財産をもらったとき | 給与や事業などで所得が生じたとき |
| 基礎控除額 | 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数 | 受贈者(財産をもらう人)1人につき年間110万円 | 納税者本人の合計所得金額により16万〜95万円 (合計所得金額が2,500万円超の場合は0円) |
| 税率 | 10〜55%(累進課税) | 10%〜55%(累進課税) | 5〜45%(累進課税) |
| 申告・納税期限 | 相続が開始された日(通常は被相続人が亡くなった日)の翌日から10ヶ月以内 | 財産をもらった年の翌年2月1日~3月15日 | 所得が生じた年の翌年2月16日~3月15日 |
所得税の税率は、相続税や贈与税よりも低くなっていますが、給与所得や事業所得などには住民税(原則税率10%)も課されるため、実質の税率は15〜55%となります。
相続税と贈与税の違いについて、詳しくは以下の記事で解説していますのであわせてご覧ください。
参考:相続税と贈与税はどちらが安い?違いと税額シミュレーション
1-2.相続税とは|亡くなった人から財産を受け継いだときにかかる税金
相続税は、亡くなった人の遺産を受け継いだ人に課される税金です。相続税の課税対象となる財産には、現金や不動産などだけでなく、借入金や未払金といった負債も含まれます。
また、被相続人が保険料を負担していた死亡保険金や故人の勤務先から支給された死亡退職金などは「みなし相続財産」となり実質的に被相続人の財産として課税対象になります。
相続税の申告が必要となるのは、遺産総額が「基礎控除額」を超える場合です。基礎控除額の計算式は以下のとおりです。

法定相続人とは、民法で定められる相続権を持つ人のことです。
たとえば、法定相続人が配偶者と子供3人の計4人である場合、基礎控除額は「3,000万円 + 600万円 × 4人=5,400万円」です。この場合、各相続人が引き継ぐ遺産をすべて足し合わせた金額が5,400万円を下回っていれば相続税はかかりません。
相続税の税率は、法定相続分(民法で定められる遺産の相続割合)に応じて決まります。
引用:国税庁「No.4155 相続税の税率」
申告と納税の期限は、相続の開始を知った日(通常は被相続人が亡くなった日)の翌日から10ヶ月です。
期限を過ぎてから申告・納税したときや申告漏れをした場合などは加算税や延滞税がかかる可能性があるため、相続が開始されたときは速やかに相続税の申告手続きの準備を始めましょう。
1-3.贈与税とは|個人から無償で財産をもらったときにかかる税金
贈与税は、生きている個人から財産を無償でもらった人に課される税金です。通常は「暦年課税」で税額が計算されます。
暦年課税は、1月1日から12月31日までの1年間にもらった財産の合計額から、基礎控除額110万円を引いた残りの金額に課税する方式です。110万円の非課税枠は「あげる人(贈与者)」ごとに適用されるのではなく「もらう人(受贈者)」ごとに適用されます。
たとえば、父親と母親からそれぞれ100万円ずつもらうと、贈与税の課税対象となる金額は合計200万円から基礎控除額110万円を差し引いた残りの90万円です。
贈与税の税率は、年間で贈与された財産の合計金額から基礎控除額110万円を引いた後の金額に応じて変わります。また「特例贈与財産」と「一般贈与財産」で税率が異なります。
- 特例贈与財産:18歳※以上の人が父母や祖父母などの直系尊属から贈与された財産
- 一般贈与財産:特例贈与財産に該当しない贈与財産(例:兄弟間や夫婦間で贈与された財産)
※令和4年3月31日以前の贈与については20歳
税率は以下のとおりです。
| 特例贈与財産 | 一般贈与財産 | ||||
|---|---|---|---|---|---|
| 基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 | 基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
| 200万円以下 | 10% | – | 200万円以下 | 10% | – |
| 400万円以下 | 15% | 10万円 | 300万円以下 | 15% | 10万円 |
| 600万円以下 | 20% | 30万円 | 400万円以下 | 20% | 25万円 |
| 1,000万円以下 | 30% | 90万円 | 600万円以下 | 30% | 65万円 |
| 1,500万円以下 | 40% | 190万円 | 1,000万円以下 | 40% | 125万円 |
| 3,000万円以下 | 45% | 265万円 | 1,500万円以下 | 45% | 175万円 |
| 4,500万円以下 | 50% | 415万円 | 3,000万円以下 | 50% | 250万円 |
| 4,500万円超 | 55% | 640万円 | 3,000万円超 | 55% | 400万円 |
参考:国税庁「No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)」
贈与税の申告は、財産をもらった年の翌年2月1日から3月15日までに行います。ただし、贈与された財産の合計金額が110万円以下の場合は申告不要です。
なお、亡くなった人が相続開始前の3〜7年以内に相続人に対して贈与した財産は、相続税を計算するときに相続財産に足し戻されます。このルールを「生前贈与加算」といいます。
1-4.所得税とは|個人の「儲け」に対してかかる税金
所得税は、勤務先から支払われた給料や事業の売上、株式や不動産の売却益など、1月1日から12月31日までの1年間に生じた個人の「所得(儲け)」に対してかかる税金です。
税額の計算方法は「総合課税」と「分離課税」の2種類があります。
- 総合課税:給与所得や事業所得などを合算して税額を計算する方法
- 分離課税:土地・建物の譲渡益や株式等の譲渡益などを、他の所得とは切り離して個別に計算する方法
所得税を計算する際は、所得の合計金額から「所得控除」を差し引くことが可能です。所得控除は、税金を納める人の家族構成や個人的な事情などに応じて税負担を調整するための制度です。
代表的なものとして、合計所得金額が2,500万円以下の人に適用される「基礎控除」があります。このほか、健康保険料や年金保険料を支払った場合の「社会保険料控除」や、所得が一定以下の配偶者がいる場合の「配偶者控除」など種類はさまざまです。
総合課税の場合、年間の合計所得金額から所得控除を差し引いた残りの金額に税率をかけて税額を計算します。税率は以下のとおりです。
引用:国税庁「No.2260 所得税の税率」
所得税の確定申告は、原則として翌年の2月16日から3月15日の間に行います。ただし、会社員や公務員などの給与所得者は、基本的に自分で確定申告をする必要はありません。
勤務先が毎月の給与から概算の税金を天引きし、年末に1年間の正しい税額を計算し直して精算する「年末調整」を行ったうえで代わりに納税してくれるためです。
2.【要注意】死亡保険金にかかる税金は相続税とは限らない
相続税・所得税・贈与税のどの税金が課されるか慎重に判断すべきなのが「生命保険の死亡保険金」です。
被保険者(保険の対象となる人)が亡くなって死亡保険金を受け取ったとき、必ずしも相続税がかかるわけではありません。
保険の契約形態、つまり「誰が保険料を払い、誰が亡くなり、誰が保険金を受け取るか」の組み合わせによって課税される税金が異なります。
- ケース1:契約者(保険料負担者)=被保険者の場合 → 相続税
- ケース2:契約者(保険料負担者)=受取人の場合 → 所得税
- ケース3:契約者(保険料負担者)・被保険者・受取人がすべて違う場合 → 贈与税

ここでは、生命保険の契約形態と課される税金の種類について解説します。
2-1.ケース1:契約者=被保険者の場合 → 相続税
亡くなった本人が保険料を負担していた場合、受取人が受け取った死亡保険金は相続税の課税対象です。
たとえば「夫が契約者(保険料負担者)かつ被保険者で、妻が受取人」という契約形態の場合、妻が受け取った死亡保険金は相続税の課税対象となります。
死亡保険金は、受取人固有の財産として扱われるため、遺産分割協議の対象外です。一方、被保険者である人の死亡によって支払われるものであり、実質的には相続と同様の効果があるため、相続税法上では「みなし相続財産」として扱われます。
死亡保険金が相続税の課税対象となる場合、受取人が法定相続人であれば「500万円 × 法定相続人の数」まで相続税はかかりません。
一方、配偶者や一親等の血族ではない人が受取人である場合は、相続税の2割加算の対象となるため、税負担が20%増加します。2割加算の対象となる範囲は以下のとおりです。

生命保険に相続税がかかるケースについては、以下の記事で解説していますので、あわせてご覧ください。
参考:生命保険(死亡保険金)の相続税はいくら?【最新版】非課税枠も解説
2-2.ケース2:契約者=受取人の場合 → 所得税
契約者(保険料負担者)が自身で保険金を受け取る場合は所得税の課税対象です。
たとえば「妻の万一に備えて妻を被保険者とし、夫が契約者かつ受取人になる」といった契約形態の場合、妻が亡くなったときに夫が受け取る死亡保険金は所得税の課税対象となります。
税法では、保険料を負担した人が自分自身のために受け取った保険金は「所得」とみなされるためです。
死亡保険金が所得税の課税対象となる場合、受け取り方(一時金または年金形式)によって所得の区分と課税対象となる金額の計算方法が異なります。
| 受け取り方 | 所得の区分 | 課税対象となる所得の計算方法 |
|---|---|---|
| 一時金 | 一時所得 | (死亡保険金の受取額−払込保険料総額−特別控除50万円)×1/2 |
| 年金 | 雑所得 | その年に受け取った年金額−その年金額に対応する払込保険料 |
死亡保険金が一時所得の場合、受取額と払込保険料総額の差が50万円以下であれば所得税はかかりません。
年金形式で受け取る場合、原則として所得税が源泉徴収されるため、保険会社からはあらかじめ税金分が差し引かれた金額が支払われます。
なお、死亡保険金に所得税が課される場合は、あわせて住民税も発生することを覚えておきましょう。また、令和19年までは復興特別所得税も課税されます。
2-3.ケース3:契約者・被保険者・受取人がすべて違う場合 → 贈与税
契約者(保険料負担者)・被保険者・受取人のすべてが異なる場合、死亡保険金は贈与税の課税対象です。
たとえば「夫が契約者、妻が被保険者、子が受取人」という契約形態の場合、妻が亡くなったときに子供が受け取る死亡保険金は贈与税の課税対象となります。
これは、保険料を負担した契約者である夫は生存しており、その夫が受け取るべき死亡保険金が、契約上の受取人である子へ渡った場合は「贈与」があったとみなされるためです。
死亡保険金が贈与税の課税対象となる場合、相続税のような「500万円 × 法定相続人の数」という非課税枠は利用できません。また、死亡保険金の受取額から贈与税の基礎控除である110万円を差し引いた部分のすべてが課税対象となるため、税負担が重くなりやすいです。
生命保険に贈与税がかかるケースについては、以下の記事で解説していますので、あわせてご覧ください。
3.相続した不動産や株を売却したら?相続税と所得税の関係
亡くなった人が所有していた不動産や株式などを引き継いだ場合、課される税金は相続税だけとは限りません。相続で受け継いだ不動産や株式を売却して利益が生じると、その利益は「個人の所得」として扱われるため「所得税」の課税対象となります。
一方、相続財産を売却して利益が生じたときは、特例を適用することで税負担を軽減することが可能です。
ここでは、売却時にかかる税金の計算方法や税負担を減らせる特例制度について解説します。
3-1.相続財産の売却益には「所得税(譲渡所得税)」がかかる
相続や遺贈(遺言によって財産を法定相続人ではない人に贈ること)で取得した土地、建物、株式などを売って得た利益は「譲渡所得」と呼ばれます。
譲渡所得には、所得税や住民税が課されるのが原則です。また、令和19年までは復興特別所得税も課されます。譲渡所得に対して課税されるこれらの税金は「譲渡所得税」と呼ばれます。
たとえ相続税をすでに支払っていても、相続した財産を売却して譲渡所得が生じたときは基本的に譲渡所得税の確定申告が必要です。
課税の対象となる譲渡所得(課税譲渡所得金額)と譲渡所得税の基本的な計算式は以下のとおりです。
- 課税譲渡所得金額=収入金額−(取得費+譲渡費用)−特別控除額
- 譲渡所得税=課税譲渡所得金額×税率
土地や建物などの不動産を売却する場合、上記計算式の項目に該当するものは以下のとおりとなります。
| 項目 | 該当する項目 |
|---|---|
| 収入金額 |
|
| 取得費 |
|
| 譲渡費用 |
|
| 特別控除額 |
|
不動産を購入した当時の売買契約書や領収書などがなく購入価格が不明な場合は、売却価格の5%を概算取得費として譲渡所得を計算できます。
また、不動産を売却したときの譲渡所得は分離課税のため、給与所得や事業所得などとは合算せず、所得金額に以下の税率をかけて税額を計算します。
- 短期譲渡所得(所有期間5年以下):39.63%(所得税30.63% + 住民税9%)
- 長期譲渡所得(所有期間5年超):20.315%(所得税15.315% + 住民税5%)
所有期間は、不動産を売却した年の1月1日時点で判断します。
相続した株式を売却した場合も、譲渡所得は「収入金額−(取得費+譲渡費用)」で求めますが、税額については所有期間にかかわらず「譲渡所得×20.315%」で求める点が異なります。
相続した不動産や株式を売却したときの譲渡所得税について詳しくは以下の記事で解説していますので、あわせてご覧ください。
参考:相続不動産を売却!税金シミュレーションをプロが解説
参考:相続した株の売却時には税金が発生-具体的な税額シミュレーション付き
3-2.知らないと損!節税に繋がる「取得費加算の特例」とは
相続税を支払った人が相続財産を一定期間内に売却すると「取得費加算の特例」を適用できる可能性があります。この特例を使うと、支払った相続税の一部または全部を売却時の「取得費」に上乗せされて譲渡所得(売却益)が減るため、譲渡所得税の負担を軽減することが可能です。
相続した土地や建物、株式などを売却したことにより、相続税の他に譲渡所得税もかかると、納税者にとって大きな負担となり手元に残る資産が大きく減ってしまいかねません。
そこで、相続税と譲渡所得税の実質的な二重課税により、納税者の税負担が過大にならないよう調整するために、取得費加算の特例という制度が設けられています。
特例を受けるための主な条件は以下のとおりです。
- 相続または遺贈で財産を取得した者であること
- 売却した相続財産に相続税が課税されていること
- 相続税の申告期限の翌日から3年以内(相続が開始された日の翌日から数えると3年10ヶ月以内)に売却すること
出典:国税庁「No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」
取得費加算の特例を適用する方法や取得費に加算できる金額の計算式などは以下の記事で解説していますので、あわせてご覧ください。
参考:【取得費加算の特例】計算方法や注意点は?併用可能な特例も解説
3-3.空き家を売却した場合は「3,000万円特別控除」も
亡くなった方が住んでいた空き家やその敷地を相続した後に売却する場合、特例により譲渡所得税の負担を軽減することが可能です。この特例を「被相続人の居住用財産に係る譲渡所得の特別控除の特例(以下、相続空き家の3,000万円特別控除)」といいます。
この特別控除を適用できると、譲渡所得から最高3,000万円を差し引くことができるため、売却益が大幅に減り税負担を減らすことが可能です。空き家を売却したときの譲渡所得が3,000万円以下であれば、税額はゼロ円となるため、譲渡所得税を納める必要はありません。
この特例を適用できるのは、原則として売却した空き家の家屋部分が以下の3点すべてに該当する場合です。
- 昭和56年5月31日以前に建築されたこと
- 区分所有建物登記がされている建物でないこと
- 相続の開始の直前において被相続人以外に居住をしていた人がいなかったこと
引用:国税庁「No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」
上記の他にも「相続開始から3年が経過した後の12月31日までに売却すること」「売却代金が1億円以下であること」などの要件を満たす必要があります。
また、空き家が一定の耐震基準に適合していない場合は、売却前に耐震リフォームを行わなければなりません。一方、空き家を取り壊して更地にしたうえで売却した場合も、その他の要件を満たしていれば最高3,000万円の控除を受けることが可能です。
相続空き家の3,000万円の特別控除の要件や適用する方法について詳しくは以下でご確認ください。
参考:空き家特例(3,000万円特別控除)と小規模宅地等の特例は併用できる
4.「生前贈与」と「相続」どちらがお得?税金から考える節税対策
多額の財産を保有している人は、自身が亡くなったとき家族の相続税負担が重くならないようにするために「生前贈与」をするケースが少なくありません。
一方、多額の財産をまとめて移すなど生前贈与の方法を誤ると、かえって税負担が重くなる可能性があります。
ここでは、生前贈与をする際に押さえておきたい、相続税と贈与税の税率の違いや暦年贈与の方法、令和6年の税制改正の内容について解説します。
4-1.税率だけ見ると贈与税のほうが高く設定されている
単純に税率を比べると相続税と贈与税の税率はどちらも10〜55%であり、金額が増えるほど税率が上がる累進課税制度である点は変わりません。
しかし、実際には贈与税のほうが負担は重くなるように設計されています。これは、贈与税が「相続税の補完」という役割があり、生前贈与による相続税の課税逃れを防ぐために設けられた税制であるためです。
まず、贈与税と相続税は税金がかかり始めるラインに大きな違いがあります。
- 贈与税(暦年課税):年間110万円を超えた部分に課税
- 相続税:「3,000万円+600万円×法定相続人の数」を超えた部分に課税
相続税には最低3,600万円の基礎控除があるため、相続財産の総額によってはまったく課税されないことも珍しくありません。対して贈与税は、基礎控除額が小さく年間で贈与された金額が合計110万円を超えるとすぐに課税されます。
また、最高税率の55%に達する金額も相続税より低く設定されています。
- 贈与税(暦年課税):一般税率は基礎控除を差し引いた後の課税価格が3,000万円超、特例税率は4,500万円超の場合
- 相続税:法定相続分を超える取得金額が6億円を超える場合
1度に大きな金額を贈与すると、相続で渡すよりも多くの税金を払うことになりかねません。そのため、生前贈与で相続税対策をする場合は「贈与税が課税されない範囲で財産を贈与すること」が基本となります。
4-2.暦年贈与を長期的に活用して相続財産を減らす
暦年贈与は、贈与税の基礎控除額である110万円の範囲内で財産を毎年贈与する手法です。
1月1日から12月31日までの1年間に受け取った財産が合計110万円以下であれば、贈与税はかからず申告手続きも不要です。暦年贈与では、この仕組みを活用し、時間をかけてコツコツと財産を移転して、相続税の課税対象となる財産を減らしていきます。
以下の表は、財産をもらう人の数と贈与する年数ごとに贈与できる最大の金額を記載したものです。
| 財産をもらう人(受贈者)の人数 | |||
|---|---|---|---|
| 贈与する年数 | 1人 | 2人 | 3人 |
| 1年 | 110万円 | 220万円 | 330万円 |
| 5年 | 550万円 | 1,100万円 | 1,650万円 |
| 10年 | 1,100万円 | 2,200万円 | 3,300万円 |
亡くなる直前に駆け込みで生前贈与を行うと、生前贈与加算というルールにより、相続財産に足し戻されて相続税が計算されるため、節税効果が得られない可能性がある点には注意が必要です。
一方、生前贈与加算の対象期間(相続開始前の3〜7年間)よりも前に贈与された財産は相続財産に足し戻されません。
また、受贈者が亡くなって相続が発生したときに相続または遺贈(遺言で法定相続人以外の人に財産を送ること)によって財産を取得していない人は生前贈与加算の対象外です。
暦年贈与の仕組みをよく理解したうえで生前贈与を行うことで、相続税の負担を大幅に軽減する効果が期待できます。
暦年贈与を活用した相続税対策について詳しくは以下の記事で解説していますので、あわせてご覧ください。
参考:暦年贈与とは?改正点と相続税を減らすためのポイントを解説
4-3.2024年改正対応|生前贈与加算と相続時精算課税制度
税制改正により、2024年(令和6年)1月1日から生前贈与のルールが変更されました。主な変更点は以下のとおりです。
- 暦年課税における「生前贈与加算」の対象期間が3年から7年に順次延長
- 「相続時精算課税制度」に基礎控除が創設
これまで、生前贈与加算の対象となるのは、被相続人が亡くなる前の3年以内に行われた生前贈与でしたが、改正により相続開始前の7年以内へと段階的に延長されます。
改正前であれば加算の対象外であった贈与財産も相続財産に足し戻されるようになったため、暦年贈与による相続税対策は節税効果が薄れることとなりました。
一方、相続時精算課税制度には年110万円の基礎控除が新設されています。
原則60歳以上の父母や祖父母から18歳以上の子や孫へ贈与する場合に選択できる制度。特別控除額2,500万円を超えるまで何度でも無税で財産を贈与できるが、贈与した分は贈与者が亡くなり将来相続が発生した際に、すべて相続財産に足し戻して相続税が計算される。

これまで、相続時精算課税制度を選択した人との間での贈与では暦年課税が適用できなくなり、基礎控除額110万円も使えませんでした。それが改正により、相続時精算課税制度にも110万円の基礎控除が創設されため、この制度を選択した人との間でも財産を毎年少しずつ非課税で贈与することが可能になりました。
また、年間110万円までの贈与なら贈与税申告は不要であることに加え、この基礎控除額の範囲内で贈与された財産は、贈与者が亡くなり相続が発生したときに相続財産へ持ち戻されることもありません。
今後の相続税対策では、暦年贈与だけでなく改正された相続時精算課税制度もうまく活用することが重要といえます。
生前贈与の改正点について詳しくは以下の記事で解説していますので、あわせてご覧ください。
参考:【2023年】生前贈与が税制改正!3年から7年へ加算期間が延長。その内容とは?
5.相続税・所得税・贈与税に関するQ&A
最後に、相続税や贈与税に関してよくある質問に回答します。
5-1.贈与税がかからない方法は?
1月1日から12月31日までの1年間に受け取った財産の合計が基礎控除額110万円以下であれば、贈与税はかかりません。
また、親や祖父母などの扶養義務者が、子や孫などに生活費や教育費を必要なタイミングでその都度わたす場合も贈与税は非課税とされています。
将来の生活費や教育費などを賄うためにまとまったお金を渡すと贈与税の課税対象となりますが、以下のような特例制度を活用することで一定金額まで非課税となります。
| 制度名 | 内容 |
|---|---|
| 住宅取得等資金の贈与の非課税 | 父母や祖父母から住宅の新築・購入・増改築のための資金を贈与された場合に一定額まで非課税となる制度。非課税枠は省エネ住宅等を取得する場合は最大1,000万円、それ以外の住宅は最大500万円。 |
| 贈与税の配偶者控除 | 婚姻期間20年以上の夫婦間で居住用不動産またはその購入資金を贈与した場合、最大2,000万円まで非課税となる制度。 |
| 教育資金一括贈与の非課税 | 父母や祖父母が30歳未満の子や孫に教育資金を贈与する場合、最大1,500万円まで非課税となる制度。 |
| 結婚・子育て資金一括贈与の非課税 | 18歳〜50歳未満の子や孫に結婚や子育てに必要な資金を贈与する場合、最大1,000万円(結婚資金は上限300万円)まで非課税となる制度。 |
特例の要件は細かく、所定の手続きが必要となるため、利用を検討する際は相続税専門の税理士にも相談するとよいでしょう。
贈与税が非課税になる方法について詳しくは以下の記事で解説していますので、あわせてご覧ください。
参考:贈与税がかからない方法は?親子や夫婦は?非課税になるケースや注意点を解説
5-2.相続税と贈与税の一体化はいつからですか?
相続税と贈与税がいつから完全に一体化されるかは定かではありません。しかし、令和5年の税制改正では生前贈与に関するルールが改正されており、今後も一体化に向けた法整備が進むと考えられます。
税制改正により、生前贈与加算の対象期間が順次延長され、暦年課税のルールが厳しくなっています。一方で、相続時精算課税制度には年110万円の基礎控除が新設されるなどより使いやすくなりました。
相続時精算課税制度を適用した場合、贈与した財産は相続財産に足し戻されて相続税が計算されるため、相続と贈与のどちらで財産を引き継いでも税負担は基本的に変わりません。
相続時精算課税制度に基礎控除を新設するなどして制度を拡充したということは、実質的に相続税と贈与税が一定化されるこの制度の利用者を国が増やしたいと考えていることが伺えます。
現行の税制は、贈与税の税率が高く設定されているものの、多額の資産を持つ富裕層は少しずつ生前に贈与することで将来の相続税を抑えることができるようになっています。
国はこの「お金持ちほど節税しやすい」という現行税制が抱える問題点を是正するために、今後も相続税と贈与税の一体化に向けた法改正が進められていくでしょう。
5-3.相続税と贈与税の二重課税を防ぐ方法は?
同じ財産に対して、相続税と贈与税の両方が二重にかかることは原則としてありません。
前述のとおり、被相続人が亡くなる前の一定期間に相続人に対して行われた贈与は、生前贈与加算により相続税の計算対象となる財産に足し戻されます。
一方、贈与の時点で贈与税を払っていた場合は、計算した相続税額から支払った分を差し引くことが可能です。この「贈与税額控除」という制度を利用すると相続税と贈与税が重複して課税される事態は防げます。
6.まとめ|財産の動きで税金は変わる!判断に迷ったら専門家へ
亡くなった人から財産を受け継ぐときは「相続税」、生きている人から無償で財産をもらうと「贈与税」、個人が儲けを得ると「所得税」がかかります。また、生命保険の死亡保険金に課される税金は、契約内容によって変わるため、受け取りの際には適切に判断する必要があります。
相続した財産を売却して利益を得たときは譲渡所得税がかかるため、必要に応じて確定申告をしなければなりません。一方、特例を使うと譲渡所得税の負担を減らせる場合があります。
課税される税金や特例の要件に該当しているかどうかを適切に判断するためには、税の専門知識が不可欠です。特に、遺産を相続することになったときは、相続税専門の税理士に相談することをおすすめします。
税理士法人チェスターは、年間3,000件以上の申告実績がある相続税専門の税理士法人です。豊富な経験とノウハウを持った税理士がサポートいたしますので、相続や贈与の税金でお困りの方は、ぜひ一度税理士法人チェスターにお問い合わせください。
※この記事は専門家監修のもと慎重に執筆を行っておりますが、万が一記事内容に誤りがあり読者に損害が生じた場合でも当法人は一切責任を負いません。なお、ご指摘がある場合にはお手数おかけ致しますが、「お問合せフォーム→掲載記事に関するご指摘等」よりお問合せ下さい。但し、記事内容に関するご質問にはお答えできませんので予めご了承下さい。
相続対策も相続税申告もチェスターにおまかせ。
「相続税の納税額が大きくなりそう」・「将来相続することになる配偶者や子どもたちが困ることが出てきたらどうしよう」という不安な思いを抱えていませんか?
相続専門の税理士法人だからこそできる相続税の対策があります。
そしてすでに相続が起きてしまい、何から始めていいか分からない方もどうぞご安心ください。
様々な状況をご納得いく形で提案してきた相続のプロフェッショナル集団がお客様にとっての最善策をご提案致します。
DVDとガイドブックの無料資料請求はこちらへ
各種サービスをチェック!
\ご相談をされたい方はこちら!/
今まで見たページ(最大5件)
関連性が高い記事
カテゴリから他の記事を探す
税務一般編

