相続は現金と不動産のどっちが得?メリット・デメリットを解説!

相続財産の代表的なものとして、「現金」と「不動産」があげられます。同じ価値の5,000万円の現金と不動産があれば、どちらを相続すると得か悩むところです。
この記事では、相続財産として現金又は不動産を相続した場合のメリット・デメリットについて解説します。
この記事の目次 [表示]
1. 現金相続するメリット
1-1.不動産のような管理の手間がいらない

相続した不動産は所有する限り管理しなければならず、土地であれば固定資産税の支払いや草むしりや樹木の伐採、建物であれば更に管理やメンテナンスのために修繕費や維持費など一定の負担が生じてきます。
特に自分で住まない遠方の不動産の場合は、わざわざ移動の時間を費やして庭木の手入れや建物の通気をしなければならず、一層負担感が大きくなります。
しかしながら、現金であればこのような手間やコストは一切不要で、銀行等の金融機関に預ければ通帳の管理程度で済みます。
1-2.遺産を平等に分割できる
現金なら1円単位で分割できますから、遺産分割を平等かつ公平にスムーズに調整できます。
不動産を換価して分割するとしても、買い手を見つけて実際に売却代金を受け取るまでには数か月の時間を要します。現金なら時間もかからず分割できます。
1-3.納税しやすい
相続財産が多いと相続税は高額になるケースが多く、相続税は相続の発生を知った日の翌日から10か月以内に基本的には現金で納めなければなりません。現金であれば、自分の預貯金から出費する必要もなく、相続税の納付に原資としてそのまま充当できます。
1-4.相続後にさまざまなことに使える
現金で相続すれば、その使い道には特に制約はなく、自由ですので、生活費や教育費、マイホームを建てるための資金、借入金の返済など自分の思うとおりに使えます。
2.現金相続のデメリットは不動産相続より相続税が高い
現金で相続するデメリットは、不動産相続したときよりも相続税が高くなることです。
後の項目で解説しますが、現金の相続時の評価額と、不動産の相続時の評価額において乖離ができるためです。
3.不動産相続するメリット
3-1.不動産の評価額を低く見積もることができる

相続税の計算をする際、まず相続財産の評価額を算出します。各種財産については、「財産評価基本通達」により統一的な評価方法を定められ、課税の公平の確保や納税者の便宜に資するよう定められています。
「財産評価基本通達」によると現金や預貯金はそのままの価額で評価し、不動産については別途計算方法が定められており、時価よりもおおむね2割から3割程度評価額が抑えられています。
よって、不動産は現金に比べて低い評価額によって財産を評価するので、相続税が少なくなるのです。評価が下がるのは、相続税の計算上のことであり、市場における取引価値が下がるわけではありません。
3-2.特例による節税が可能
相続した土地は、一定の要件を満たすことで、その土地の評価額から最大80%減額される「小規模宅地等の特例」があり、適用された場合は相続税の負担を大きく軽減できます。
小規模宅地等の特例が適用されるのは、次の4種類の土地に限られ、それぞれ減額できる割合や適用される面積の要件が異なります。
土地の用途 | 事業内容 | 特例の名称 | 上限面積 | 減額割合 |
---|---|---|---|---|
被相続人の自宅 | ― | 特定居住用宅地等 | 330㎡ | 80% |
被相続人の個人事業 | 貸付事業以外 | 特定事業用宅地等 | 400㎡ | 80% |
貸付事業 (賃貸アパート・賃駐車場など) | 貸付事業用宅地等 | 200㎡ | 50% | |
被相続人がオーナー になっている 同族企業に貸し出し | 貸付事業以外かつ 相続人が事業を 引き継いだ場合 | 特定同族会社事業用宅地等 | 400㎡ | 80% |
上記以外の場合 | 貸付事業用宅地等 | 200㎡ | 50% |
なお、小規模宅地等の特例について詳細を知りたい方は、「小規模宅地等の特例を完全解説!対象条件や手続きを知って相続税を節税しよう」をご覧ください。
3-3.不動産を賃貸しているとさらに評価額を下げることができる
相続のときに不動産を賃貸していれば、その不動産の相続税評価額がさらに下がります。不動産の相続税評価額が現金よりも低いことは前述したとおりです。
相続した不動産を第三者に貸し出すと相続税評価額が下げられ、相続税の軽減にもなります。それは、建物や土地を第三者に貸していると、所有者が自由に利用できなくなるためです。
また、不動産を賃貸していれば、賃貸収入を得られますので、相続人の税負担を軽減するだけではなく、相続税の納税資金や相続後の生活収入も得られることになります。
4.不動産相続のデメリット
4-1.分割相続が難しい

相続財産の大半が不動産である場合、相続人が二人以上いるケースになると公平に遺産を分割することができず、争いに発展することが多々見受けられます。それは、不動産は現金とは異なり物理的に分割することが難しいからです。
不動産を相続した際、単独で相続せず複数の相続人で相続する場合があります。そのような場合、不動産を分割する方法として、①現物分割、②代償分割、③換価分割、④共有分割があります。
①現物分割
不動産などの財産をそのまま相続する、または共有物を物理的に分ける方法です。
②代償分割
相続人が特定の不動産を相続する代わりに、他の相続人に金銭などを支払うことで遺産を分割する方法です。分割しにくい不動産を相続する際に有効な方法で次のような場合に利用されます。
- 不動産を単独で取得したい相続人がいる場合
- 不動産を残したい場合
- 不動産を当面の間売却したくない場合
- 遺産のほとんどが不動産である場合
③換価分割
相続した不動産を売却し、得られた売却金を法定相続人の間で分配する方法です。たとえば、4人の相続人がいた場合、4,000万円で売却した不動産の代金を一人1,000万円ずつ受け取るのが換価分割です。
④共有分割
不動産を複数の相続人の共有名義とする方法です。共有分割は相続人間で公平に分割することが可能ですが、共有取得された不動産を変更(全体の売却・大規模改修など)する場合には、共有者全員の同意が必要となるなどのデメリットがあります。
また、不動産を共有して相続することで、のちにトラブルに発展するリスクがあることから、極力避けたほうがよいといえます。
相続人の置かれた状況によって、不動産をどの分割方法とするのかは難しいので、専門家に相談することで、最も適切なアドバイスを受けることができます。
4-2.複数人で相続すると売却に全員の同意が必要
上記の共有分割で解説したとおり、共有取得した不動産を売却したり、大規模改修などをする場合には、共有者全員の同意がなければ実行できません。
例えば、アパートを兄弟で相続した場合、長男は空き室がなかなか埋まらないのでリフォームを提案しても、二男はリフォーム代がないといって反対すると対応ができなくなり、その間にも空き室が増えることも考えられます。
共有名義であっても自分の持ち分のみを売却することは不可能ではありませんが、その持ち分のみを買い取っても自由に利用できないため利用価値が低く、売却価格もかなり低くなるケースが多いです。
4-3.納税資金が不足することがある
相続税などの税金は、金銭で一度に納めるのが原則です。遺産の大部分が不動産で現金や預貯金があまりない場合、相続税を一度に納められないケースがでてきます。
ただし、相続税については、特別な納税方法として「延納」と「物納」制度があります。
延納は、何年かに分けて納めるものです。ただし、延納には利子がかかるうえ、担保となる財産が必要となります。
物納は、相続などで取得した財産そのもので納めるものです。
なお、延納、物納を希望する方は、相続税の申告書の提出期限までに税務署に申請書などを提出して許可を受ける必要があります。
5.現金と不動産のどちらで相続すべき?
5-1.相続税を減らしたいなら不動産
相続税の各種財産については、「財産評価基本通達」により統一的な評価方法を定められています。これによると現金や預貯金はそのままの価額で評価し、不動産については別途計算方法が定められており、時価よりもおおむね2割から3割程度評価額が抑えられています。
前述したとおり、小規模宅地等の特例を適用したり、賃貸不動産などは相続税評価額が下がるのでさらに減税効果が高まります。
よって、不動産は現金に比べて低い評価額によって相続税を計算するので、相続税が軽減されるのです。
どの程度減税効果があるか事例で詳しく説明します。
計算式は次のとおりです。
なお、課税遺産額の求め方は次のとおり
なお、基礎控除額は次のとおり
(*)相続税の速算表(一部抜粋)
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | ― |
1,000万円超~3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
3,000万円超~5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
それでは、相続人は子一人で、現金又は土地それぞれ時価評価額5,000万円(正味の遺産額)を相続した場合の税額を計算してみます。
【現金5,000万円を相続した場合】
相続人は一人のため、基礎控除額は次のとおりです。
課税遺産総額は次のとおりです。
相続税額は次のとおりです。
つまり、現金5,000万円を相続人一人で相続すると、相続税額は160万円となります。
【土地の時価5,000万円相当を相続した場合】
土地の評価は、路線価方式又は倍率方式によって評価します。
路線価方式の評価は次のとおりです。
倍率方式の評価は次のとおりです。
なお、路線価方式と倍率方式については「土地の相続税はいくら?評価額の計算方法や控除を解説」を参照してください。
一般的に土地の相続税評価額は時価の約80%とされることが多いので、本事例も土地の時価が5,000万円とすると相続税評価額を4,000万円(5,000万円×80%)として算出します。
相続人は一人のため、基礎控除額は次のとおりです。
課税遺産総額は次のとおりです。
相続税額は次のとおりです。
土地の時価5,000万円相当を相続人一人で相続すると、相続税額は40万円となります。
このように現金又は土地を相続した場合の相続税額を比較してみると、現金の場合は160万円、土地の場合は40万円と120万円の差がつきましたので、相続税を考えると土地を相続したほうが有利となります。
しかしながら、相続した後のことや相続財産の利用方法によりどちらが得ということが変わってきます。
例えば、相続した時価5,000万円相当の土地を5,000万円で譲渡した場合、その相続した土地の取得費次第で譲渡後の手元に残る金額が変わります。長期譲渡所得(被相続人が所有していた期間も含めて5年以上の所有の場合)の計算式は次のとおりです。
長期譲渡職所得の税額計算式は次のとおりです。
例えば、相続した土地は代々相続で引き継いできた土地(長期譲渡所得に該当)で土地の取得費が不明な場合は、譲渡価額の5%が土地の取得費とみなされ、譲渡費用はなかった場合の税額を算出します。
課税長期譲渡所得金は次のとおりです。
譲渡した際の税額は次のとおりです。
ただし、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡した場合は、相続財産を譲渡した場合の取得費の特例が適用となり、その計算式は次のとおりです。

この計算式に当てはめると、相続税額40万円が取得費に加算されるので、
【現金又は土地を売却した場合のトータル税額について】
【現金の場合】
相続税額のみの160万円となります。
【土地を売却した場合】
相続税額の40万円と土地を売却した長期譲渡所得の税額910万円を足した950万円となります。
このように相続税だけの税額と相続したのちの財産の処分の仕方によりトータルの税額はいろいろと変わりますのでご注意願います。
5-2.分割相続したいなら現金
前述1-2で解説したとおり、現金であれば、相続人が複数いたとしても遺産分割を平等かつ公平に調整できます。
不動産も相続人同士で持ち分を共有すれば公平に分けることはできますが、不動産の共有はリスクが生じる可能性が高いため通常はお勧めしません。
5-3.相続した資産の自由を意識するなら現金
不動産を相続した場合、自分でその不動産を利用するしないにかかわらず、固定資産税や管理、メンテナンスのために一定の費用や手間が発生します。
現金であれば、こうした手間は一切不要となりますし、相続税は高額となることが多いので納税資金の確保が難しくなることがありますが、相続税の納税に原資としてすぐ利用できます。
また、何かの購入や借金の返済に対する支払いなど目的を問わず各種支払いに自由に充てることができます。
6.まとめ
ここまで、現金と不動産があればどちらを相続すると得かを解説してきました。
相続した時点での相続人の状況や、相続税の申告期限までの状況、さらに相続後の相続財産の利用方法により、現金で相続した場合と不動産を相続した場合のメリット・デメリットが違ってきます。
相続税の対象となる財産は現金と不動産だけではなく、株式や生命保険金など多種類あり、それぞれの財産ごとに評価方法が定められています。相続人それぞれの実情で相続した財産の処分後のことや納税資金の確保も含めて、相続対策を行う必要があります。これらの対策には相続税専門の税理士事務所に相談することをお勧めします。
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