未成年者は遺産相続できるの?特別代理人の要否や未成年者控除について
被相続人に未成年者の子供がいる場合、その未成年の子供や配偶者が遺産相続をすることとなります。
未成年者が法律行為をする際は、親権者が法定代理人となります。
しかし、遺産分割協議などの相続手続きでは、親子間で利益相反に該当することが多く、未成年者である法定相続人の特別代理人を選任しなくてはなりません。
この記事では、未成年者が係る相続における、特別代理人の要否や選任申立ての方法についてまとめました。
相続税の未成年者控除について解説しますので、ぜひ参考にしてください。
この記事の目次 [表示]
1.未成年者も遺産相続できる!ただし特別代理人が必要
未成年者であっても、法定相続人であれば遺産相続できます。
これは被相続人(亡くなった人)の遺産を相続する権利を持つ「法定相続人(代襲相続人も含む)」には、年齢制限が設けられていないためです。
18歳未満の未成年者はもちろん、言葉が話せない幼児や新生児、相続発生時に胎児でありその後生まれた子も法定相続人になります。
ただし、未成年者が法定相続人になる場合は、単独で法律行為ができません。
そのため、親権者や利害関係人が、家庭裁判所に特別代理人の選任申立てをする必要があります。
1-1.未成年者は単独で法律行為ができない
民法では、未成年者は法律行為ができない旨規定されています(民法第5条)。
これは、未成年者には法律行為を行うための判断力が十分に備わっていないと考えられるためです。仮に未成年者が単独で行った法律行為は、取り消すこともできます。
未成年者が法律行為を行うためには、法定代理人(親権者や未成年後見人)の同意が必要になります。
未成年者が携帯電話の契約などサービスの申し込みをするとき、保護者の同意を求められるのが身近な例です。
未成年者が単に権利を得る場合または義務を免れる場合、つまり未成年者が一方的に利益を得る場合には代理人の同意は不要です。
1-2.相続では未成年者の親が法定代理人になれないことも
遺産相続においては、未成年者の親権者(母親や父親)が法定代理人になれないこともあります。
この理由は、相続手続きの中には、親権者と未成年の子供の間で、互いに利害関係が衝突する「利益相反」に該当する行為が含まれるためです。
例えば、父親が亡くなって、母親と未成年の子が法定相続人になる場合、母子がともに遺産相続の当事者になります。
このようなケースにおいて、母親が未成年である子の法定代理人になれば、母は自分の利益を優先して遺産分割協議を進めることができ、子は遺産を十分に受け取れなくなる恐れがあります。
そのため、親子が相続の当事者になる場合は、子にとって不利益な事態を避けるため、親権者以外の人を特別代理人として立てなければなりません。
2.未成年者が法定相続人になる場合は「特別代理人」の選任を
特別代理人とは、親権者と未成年者の子の間で利益相反行為をする際に、「特別」に選任される未成年者の「代理人」のことです。
先述した通り、相続において親子が利益相反に該当する行為を行う場合、未成年者の親が法定代理人にはなれません。
そのため、法定相続人に未成年者がいる場合は、家庭裁判所に特別代理人の選任申立てをすることで、法的に相続手続きができるようになります。
「【特別代理人とは】相続で特別代理人が必要なケースと選任申立の流れ」もあわせてご覧ください。
2-1.特別代理人になれる人は誰?
特別代理人になれる人は、相続の当事者ではない人です。弁護士などの資格も必要ありません。
未成年者の祖父母や叔父伯母などの親族に、特別代理人への就任を依頼することも可能です。
なお、親族に適任な人がいなければ、弁護士・司法書士・税理士などの専門家に就任を依頼しましょう(報酬が別途必要です)。
2-2.特別代理人の職務・役割は?
特別代理人は家庭裁判所の審判で定められた行為以外の代理はできず、決められた行為が終了すれば、特別代理人の任務も終了します。
相続における特別代理人の代表的な職務・役割は、以下のような手続きを行うことです。
この他にも、身分関係存否確定の調停・訴訟の申立てをする場合や、未成年者の所有する物件に抵当権等を設定する場合も、特別代理人の選任が必要です。
しかし、相続とは直接的に関係がありませんので、今回は解説を割愛させていただきます。
3.未成年者が係る相続で特別代理人が必要な4つのケース
未成年者が係る相続において、特別代理人の選任が必要となる、具体的な4つのケースを確認しましょう。
3-1.未成年の子供と親権者で遺産分割協議をする場合
未成年者が係る相続において特別代理人が必要なのは、未成年の子供と親権者で遺産分割協議をする場合です。
なお、未成年の子供が複数人いる場合は、その人数分だけ特別代理人が必要になりますのでご注意ください。
上記シミュレーションモデルの場合、未成年者である長男と次男に、それぞれ特別代理人が必要となります。
3-2.複数の未成年者の法定代理人として遺産分割協議をする場合
未成年者が係る相続において特別代理人が必要なのは、複数の未成年者の法定代理人として遺産分割協議をする場合です。
例えば、被相続人と元配偶者との間に複数の未成年の子供がいて、現配偶者とその未成年の子供で遺産分割協議をする場合などが該当します。
未成年の子供が1人であれば、元配偶者は法定相続人ではありませんので法定代理人になれます(利益相反行為に該当しない)。
しかし、未成年の子供が複数名いる場合は、元配偶者が全員の法定代理人にはなれませんので、一部の未成年の子供に特別代理人が必要となります。
3-3.未成年者が単独で相続放棄をする場合
未成年者が係る相続において特別代理人が必要なのは、未成年者が単独で相続放棄をする場合です。
例えば、父親の相続が発生して、法定相続人が母親と未成年の子供1名になるものの、子供だけが単独で相続放棄をするケースが該当します。
未成年者が単独で相続放棄をすることは、親子間における利益相反行為に該当するため、特別代理人が必要となります。
ただし、先に親が相続放棄している場合は、特別代理人は不要です。
3-4.複数の未成年者のうち一部だけが相続放棄をする場合
未成年者が係る相続において特別代理人が必要なのは、複数の未成年者のうち一部だけが相続放棄をする場合です。
例えば、父親の相続が発生して、法定相続人が母親と未成年の子供2名(長男・次男)で、次男のみが相続放棄をするケースが該当します。
一部の未成年者のみが相続放棄をすることは、親子間や兄弟姉妹間において利益相反行為に該当するため、特別代理人が必要となります。
4.未成年者が係る相続で特別代理人が不要なケースもある
未成年者が係る相続であっても、特別代理人が不要なケースもあります。確認していきましょう。
4-1.未成年者の成人を待って遺産分割協議をする場合
未成年者が係る相続において、特別代理人の選任が不要なケースは、未成年者の成人を待って遺産分割協議をする場合です。
遺産分割協議には、法律で期限が設けられていません(寄与分や特別受益の主張は相続開始から10年以内)。
そのため、未成年者が数ヶ月で成人する場合などは、成人するのを待って遺産分割協議を行えば、特別代理人は不要になります。
ただし、相続税の申告・納付には、「相続開始の翌日から10ヶ月以内」という期限が設けられています。
未成年者が成年するのを待っている間に申告期限を過ぎると、無申告加算税や延滞税などのペナルティが課せられてしまいます。
また、相続税の未成年者控除が使えなくなるリスクもありますので、成人するのを待つべきか否かは必ず税理士に相談をしましょう。
詳しくは「相続税の申告期限・納付期限はいつ?延長はできる?過ぎたらどうなる?」をご覧ください。
4-2.遺言書で未成年者への相続・遺贈が指定されてる場合
未成年者が係る相続において、特別代理人の選任が不要なのは、遺言書で未成年者の相続・遺贈が指定されている場合です(法定相続人であるか否かは問わない)。
法的に有効な遺言書がある場合、原則としてその内容に従って遺産分割が行われます。
つまり、法定相続人全員で遺産分割協議をする必要がなく、親子間や兄弟姉妹間で利益相反も生じないため、特別代理人は原則不要です。
なお、遺言書で遺言執行者が指定されている場合は、遺言執行者が相続財産の解約や名義変更などを行います。
詳しくは「遺言執行者とは?権限や報酬・選任が必要なケースを解説」をご覧ください。
4-3.代襲相続人である孫が遺産分割協議に参加する場合
未成年者が係る相続において、特別代理人の選任が不要なのは、代襲相続人である孫(未成年者)が遺産分割協議に参加する場合です。
代襲相続とは、法定相続人である子がすでに死亡等している場合に、その法定相続人の子(孫)が代わりに法定相続人になることです。
代襲相続において、すでに亡くなった子の配偶者(孫の片親)は、法定相続人にはなりません。
親子間の利益相反は生じず、孫の親(子の配偶者)が法定代理人になれるため、特別代理人は不要です。
4-4.未成年者を含む全員が相続放棄をする場合
未成年者が係る相続において、特別代理人の選任が不要なのは、未成年者を含む法定相続人全員が相続放棄をする場合です。
例えば、父親の相続において債務超過が明らかであり、母親(配偶者)と未成年の子供全員が相続放棄をする場合が該当します。
未成年者と親権者が同じ相続の当事者であっても、同順位の法定相続人全員が相続放棄をする場合は、誰も遺産を相続しなくなるため、親子間や兄弟姉妹間で互いの利益相反しません(相続権は次順位の法定相続人に移行)。
そのため、親権者が法定代理人として、未成年者である子供の相続放棄の申述手続きができます。
5.特別代理人の選任申立て手続き
特別代理人を選任するためには、家庭裁判所に申立てをしなくてはなりません。
口約束や契約書などで、特別代理人を選任することはできませんのでご注意ください。
特別代理人の選任申立てができるのは、未成年者である法定相続人の親権者や利害関係人です。
詳しくは、裁判所「特別代理人選任(親権者とその子との利益相反の場合)」もご覧ください。
5-1.特別代理人の選任申立て先の家庭裁判所
特別代理人の選任申立て先の家庭裁判所は、未成年者の住所地を管轄する家庭裁判所です。
被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所ではありませんので、間違えないようご注意ください。
管轄の家庭裁判所について、詳しくは裁判所「裁判所の管轄区域」から検索していただけます。
5-2.特別代理人の選任申立ての必要書類
特別代理人の選任申立てでは、以下の必要書類を管轄の家庭裁判所に提出します。
上記の必要書類の中で、「特別代理人選任申立書」と「利益相反に関する資料(遺産分割協議書の案)」は、自分で作成しなくてはなりません。
この2つの書類の書き方や注意点を確認しておきましょう。
5-2-1.特別代理人選任申立書の書き方
特別代理人選任申立書の書き方は、以下の通りです(遺産分割協議の場合の書き方です)。
【出典:裁判所「特別代理人選任の申立書(遺産分割協議)」】
特別代理人の選任申立書の「特別代理人候補者」の欄には、就任を依頼する親族や専門家などの住所や氏名などの詳細を記載します。
5-2-2.遺産分割協議書の案の書き方
特別代理人の選任申立てをする時点で、遺産分割協議書の案を作成しなければなりません(署名押印は不要)。
この理由は、家庭裁判所は、遺産分割協議書の内容で特別代理人の選任申立てを受理するかどうかを判断するためです。
遺産分割協議書の内容が未成年の子にとって不利なものであれば、受理されない可能性がありますのでご注意ください。
詳しくは「【ひな型付】遺産分割協議書の書き方とは?基礎から応用まで詳しく解説」や「遺産分割協議書とは?書き方・必要書類・提出先を解説【ひな形あり】」をご覧ください。
6.未成年者の法定相続人は相続税の「未成年者控除」を適用できる
未成年者の多くは働いておらず、所得がありません。
こうした事情を考慮して、未成年者が遺産相続したときには、相続税の一定額が免除される「未成年者控除」という制度があります。
未成年者控除は、税額控除の一種です。まず成人と同じように相続税の税額を計算し、その税額から未成年者控除額を差し引いた後の価額が、実際の納税額となります。
相続税額の計算方法について、詳しくは「【早見表・税率表付】相続税の税率は何%?税額の計算手順を解説」をご覧ください。
6-1.未成年者控除の適用要件
未成年者控除を適用するためには、以下の適用要件を満たす必要があります。
- 相続または遺贈で財産を取得したこと
- 財産を取得した日に日本国内に住所があること
- 財産を取得した時点で18歳未満であること
- 法定相続人であること
詳しくは「相続で未成年者がいる場合に必要な特別代理人とは?相続税の未成年者控除についても解説」でも解説しておりますので、あわせてご覧ください。
6-2.未成年者控除額の計算方法
未成年者控除額は、遺産を相続した未成年者が18歳になるまでの年数(※)1年ごとに、10万円を乗じて計算します。
例えば、令和6年某日に開始した相続において、法定相続人の年齢が4歳10ヶ月であるとします。
この場合、(18歳-4歳)×10万円=140万円が未成年者控除額となります。
6-3.余った未成年控除額は扶養義務者の納税額から控除できる
未成年者である法定相続人の相続税額から、未成年者控除額を控除しきれない場合は、その余った控除額を扶養義務者の相続税額から控除できます。
扶養義務者とは、未成年者である相続人の父母・祖父母・兄弟姉妹などで、3親等以内の親族で家庭裁判所が定めた人も含まれます。
正確な相続税の納税額は、必ず相続税に強い税理士に計算をしてもらいましょう。
詳しくは「税額軽減の要因は6つ!相続税の税額控除とは?」をご覧ください。
7.未成年者が係る相続は相続の専門家に相談を
法定相続人に未成年者が含まれ、親権者が法定代理人になれない場合は、家庭裁判所に特別代理人の選任申立てをしなくてはなりません。
相続人である未成年者が2人以上いる場合は、その人数分の特別代理人が必要になります。
特別代理人を立てないことには遺産分割協議が始められず、相続税の申告が期限に間に合わなくなる恐れがあります。
法定相続人に未成年者が含まれる場合は、専門家である弁護士か司法書士に、早めに相談することをおすすめします。
7-1.未成年者が係る相続はチェスターグループにご相談を
未成年者が係る相続が発生した場合は、チェスターグループまでご相談ください。
チェスターグループでは、特別代理人の選任手続きから相続税の申告まで、相続を専門とする税理士・弁護士・司法書士・行政書士などの専門家が、ワンストップで対応させていただいております。
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