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会社の相続税はいくら?自社株の評価方法と税負担を抑える方法をプロが解説

会社の相続税はいくら?自社株の評価方法と税負担を抑える方法をプロが解説

会社の経営者が亡くなったとき、その会社自体は相続税の課税対象にはなりません。一方、経営者が持っていた会社の株式(自社株)は、亡くなった方の相続財産として課税対象となります

自社株を含む遺産の総額が相続税の基礎控除額を上回る場合は、相続税の申告が必要です。申告期限は、相続の開始を知った日(通常は被相続人が死亡した日)の翌日から10ヶ月以内です。

また、自社株の相続税評価額の求め方は、上場株式か非上場株式かによって変わります。

この記事では、会社(自社株)の相続税の計算方法と評価の仕組み、税負担を抑える方法を、相続税専門の税理士が解説します。

この記事の目次 [表示]

1.会社は相続税の課税対象になる?

相続税の課税対象となるのは、基本的に亡くなった方の名義となっている財産です。

会社(法人)そのものは経営者個人とは独立した別の人格(主体)を持つ存在であるため、経営者が死亡したときに相続税の課税対象とはなりません

ただし、経営者が保有していた会社の株式(自社株)は、預貯金や不動産など亡くなった人の相続財産とあわせて相続税の課税対象となります。

また、株主総会での「議決権」がある自社株を一定の割合以上引き継いだ人は、実質的にその会社の経営権・支配権を取得することが可能です。これが、いわゆる「会社を相続する」と表現される状態です

以下では、経営者が亡くなったときに相続税の課税対象となる財産と、会社・個人事業主の相続の違いを解説します。

1-1.株式など経営者個人に帰属していた財産が課税対象となる

経営者が保有していた財産のうち、会社に関わるもので相続税の課税対象となるのは、以下のとおりです。

〇相続税の課税対象となる会社に関する財産

 主な財産
プラスの財産(遺産に加わるもの)
  • 経営者が個人で持っていた自社株や持分会社の出資持分
  • 経営者が会社に貸していた貸付金
  • 会社から受け取る予定だった役員報酬など未収の債権
  • 経営者個人の名義で会社に貸していた土地・建物・設備
  • 死亡後3年以内に支給が確定した死亡退職金など、相続税法上「みなし相続財産」として課税対象になるもの
  • 会社に預けた保証金・敷金の返還を求める権利、配当を受け取る権利 など
マイナスの財産(遺産から差し引くもの)
  • 経営者が会社から借りていた借入金
  • 会社から受け取った前受金や、返すべき預り金 など

一方、会社そのものや会社名義の不動産や預貯金などは相続財産とはならず、相続税も課税されません

取締役や代表取締役、執行役などの地位も、会社との委任契約にもとづくため、相続によって当然に承継されるものではない点に注意が必要です。

1-2.後継者に会社を引き継ぐには自社株を一定割合以上取得させる必要がある

亡くなった経営者に代わる取締役は、株主総会の決議によって選任されます。また、代表取締役は会社の機関設計に応じて、取締役会や取締役の互選、株主総会などで改めて選定されます。

そのため、会社の経営権を特定の後継者へ承継するには、その人物に議決権のある株式を一定割合取得させなければなりません

株主総会の決議に必要な賛成の割合は以下のとおりです。

項目普通決議特別決議
決議する主な内容取締役の選任・解任、役員報酬の決定、剰余金の配当 など新株の発行、定款の変更、会社の解散 など
定足数議決権の過半数を持つ株主の出席議決権の過半数を持つ株主の出席
議決(可決の要件)出席株主の議決権の過半数の賛成出席株主の議決権の3分の2以上の賛成

※定足数とは、決議が成立するために最低限必要な出席株主の議決権の割合
※上記は会社法上の原則で、定款の定めによって変更されている場合がある

後継者が議決権の過半数を確保できれば、取締役の選任などを通じて会社の経営を主導しやすくなります。

議決権の3分の2以上を確保できると、定款変更など特別決議が必要な重要事項についての決定権も得られるため、株式を相続した人の意思にしたがって会社を経営しやすくなるでしょう

1-3.遺産相続における会社と個人事業主の違い

亡くなった人が事業を営んでいた場合、法人か個人事業主かによって相続財産となる範囲が変わります。

〇相続財産となる範囲の違い

  • 法人:経営者が保有していた株式が相続財産になる
  • 個人事業主:事業用資産や売掛金などの債権、借入金などの債務が承継対象になる

法人の場合、事業用の資産は会社が所有しています。相続人が引き継ぐのは、会社名義の資産そのものではなく、経営者が保有していた株式、つまり株主としての地位・権利です。

一方、個人事業主には法人格がありません。事業用の店舗や機械、売掛金などは、原則として亡くなった方の相続財産として扱われます
※取引契約上の地位は、契約内容や相手方の同意、一身専属性(その人だけに認められる権利かどうか)によって、承継できるかどうかが変わります。

事業を営むうえで負った借入金や未払金などの債務も相続人が承継します。取引契約や許認可、リース契約などは、契約内容や相手方の対応により、名義変更や再契約が必要になる場合があります。

2.会社の株式を相続したときにかかる相続税の計算方法

会社の株式を相続したときの相続税を計算するには、まず自社株の評価額を求める必要があります

以下では、相続税の計算手順と自社株の評価方法を解説します。

2-1.相続税の計算手順

自社株を相続した場合の相続税の計算手順は以下のとおりです。

〇相続税の計算手順

  1. 株式など相続財産の相続税評価額を算出する
  2. 預貯金や不動産、自社株などから債務や葬式費用を差し引いて相続財産の総額を求める
  3. 相続財産の総額から基礎控除額を差し引く
  4. 課税対象の遺産総額を法定相続分で分ける
  5. 分けた金額に税率をかけて相続税の総額を計算する
  6. 実際の取得割合で按分し、税額控除を適用して各人の納税額を確定する

基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算します。たとえば、法定相続人が3人であれば、基礎控除額は「3,000万円+600万円×3人=4,800万円」です。

各人の税額は、法定相続分に応じた仮の取得金額に応じた税率と控除額を用いて求めます。税率と控除額は以下のとおりです。

法定相続分に応ずる取得金額と基礎控除額

引用:国税庁「No.4155 相続税の税率

最後に、配偶者の税額軽減や未成年者控除、障害者控除などの税額控除を差し引いて各人の納税額を求めます。

相続税の計算手順について、詳しくは下記の記事で解説していますので、あわせてご覧ください。

参考:相続税の算出方法

2-2.自社株の相続税評価額を求める方法

相続税評価額とは、相続税を計算するために、財産評価基本通達(国税庁が定める評価ルール)にもとづいて算定する評価額のことです。

株式の評価方法は、上場株式と非上場株式で異なります。以下では各評価方法を解説します。

なお、上場株式と非上場株式の評価方法については以下の記事もご覧ください。

参考:相続した株式の評価を解説!上場株式・非上場株式の評価額の計算方法と注意点

2-2-1.上場株式の評価方法

上場株式は株価が日々変動するため、以下4つの価格のうち、もっとも低いものを相続税評価額にできます。

〇上場株式の評価に使う4つの価格

  • 被相続人が亡くなった日(課税時期)の終値
  • 被相続人が亡くなった月の終値の月平均額
  • 被相続人が亡くなった前月の終値の月平均額
  • 被相続人が亡くなった前々月の終値の月平均額

上場株式は市場価格が公表されているため、非上場株式よりも比較的容易に評価額を求められます

過去の株価は、証券会社が発行する取引残高報告書などの資料や、金融商品取引所が公表する株価情報で確認できます。

2-2-2.非上場株式の評価方法

非上場株式の評価は、原則的評価方式と特例的評価方式があります

〇非上場株式の主な評価方式

評価方式内容
原則的評価方式類似業種比準方式:事業内容が似た上場企業の株価や配当、利益、純資産価額(簿価)をもとに評価する方法
純資産価額方式:会社を解散させたときに、株主に分配される財産の価値で評価する方法
特例的評価方式配当還元方式:評価しようとする会社から受け取れる配当金額にもとづいて、1株あたりの評価額を計算する方法

どの方式で評価するのかは、株式を取得する人が同族株主か、同族株主以外の株主かによって変わります。

〇同族株主とは

会社の株主のうち、同族関係者グループ(株主の1人とその同族関係者)の有する議決権割合が、30%以上である場合におけるその株主及びその同族関係者のこと

また、同族株主等が取得する場合、会社の規模によっても評価方法が異なります。会社の規模は、総資産価額・従業員数・取引金額をもとに、大会社・中会社・小会社のいずれかに区分されます。

株主の区分ごとの評価方法は以下のとおりです。

〇株主区分による評価方式

区分評価方式
同族株主等が取得
  • 大会社:類似業種比準方式
  • 中会社:類似業種比準方式と純資産価額方式の併用
  • 小会社:純資産価額方式
同族株主以外の株主等が取得
  • 配当還元方式

非上場株式の評価では、会社規模(大・中・小)や株主区分の判定が必要です。計算が複雑になりやすいため、疑問点や不明点などがあるときは相続税専門の税理士に相談しながら進めるとよいでしょう。

非上場株式の評価方法や同族株主の判定方法などは、以下の記事で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。

参考:【会社区分別】非上場株式の評価方法を決定する方法まとめ
参考:【相続】同族株主のいる会社・いない会社を判定し評価方式を決定するフローチャート

3.会社の株式を相続したときの相続税をシミュレーション

ここで、遺産総額が1億5,000万円で、相続人が配偶者と子2人の計3人のケースの相続税額をシミュレーションします。

【例】会社オーナーである父が亡くなり、相続人は母(配偶者)と子2人(長男・次男)の合計3人であり、法定相続分どおりに取得したケースで相続税を計算します。

遺産総額は1億5,000万円で、内訳は自社株5,000万円と、預貯金・不動産など1億円です。

後継者である長男が、自社株5,000万円すべてと預貯金1,000万円の合計6,000万円を相続します。残りの預貯金・不動産9,000万円については、配偶者6,000万円、次男3,000万円を取得したものとします。

基礎控除額と課税される遺産総額を算出
まず、「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で基礎控除額を求めます。このケースでは法定相続人は計3人であるため、基礎控除額は以下のとおりとなります。

  • 基礎控除額:3,000万円+600万円×3人=4,800万円

遺産総額1億5,000万円から基礎控除額4,800万円を差し引くと、課税される遺産総額は次のとおりです。

  • 課税遺産総額:1億5,000万円-4,800万円=1億200万円

よって、課税遺産総額1億200万円を基準として相続税を計算します。

相続税の総額を算出
課税遺産総額1億200万円を法定相続分(配偶者が2分の1、子が4分の1ずつ)で仮に分けたとすると、配偶者の取得金額は5,100万円、子は1人あたり2,550万円となります。

配偶者の取得金額5,100万円に対する相続税率は30%、控除額は700万円です。子の取得金額2,550万円に対する相続税率は15%、控除額は50万円です。各人の仮の税額と相続税の総額は、次のように計算します。

  • 配偶者:5,100万円×30%-700万円=830万円
  • 子(1人あたり):2,550万円×15%-50万円=332万5,000円
  • 相続税の総額:830万円+332万5,000円×2=1,495万円

相続税の総額は1,495万円と算出されました。

各人の納税額
相続税の総額1,495万円を、実際に取得した割合で按分します。各人の取得額と取得割合は、長男が6,000万円(40%)、配偶者が6,000万円(40%)、次男が3,000万円(20%)です。

按分後の税額は次のとおりです。

  • 配偶者:1,495万円×40%=598万円
  • 長男:1,495万円×40%=598万円
  • 次男:1,495万円×20%=299万円

配偶者には配偶者の税額軽減が適用され、取得分が1億6,000万円か法定相続分までであれば相続税はかかりません。配偶者が取得した6,000万円はこの範囲に収まるため、配偶者の納税額は0円になります。

最終的な納付額は、長男598万円と次男299万円を合わせた897万円となります。

4.会社の株式を相続したときの相続税負担を軽減する方法

相続税は原則として金銭で納付する必要があるため、相続人は納税資金を確保しなければなりません。納税資金が不足し、相続した財産や自己資産の売却・取り崩しなどが必要になることもあります。

また、自社株や事業用資産の評価額が高いケースでは、納税負担や資金調達が後継者個人の資金繰りに影響し、結果として事業承継後の会社経営にも支障をきたすおそれがあります。

このような事態を防ぐためには、生前からの相続税対策が有効です。

代表的な方法は以下のとおりです。

〇会社の相続税負担を軽減する主な方法

  • 役員退職金や不動産購入などで自社株の評価額を引き下げる
  • 暦年贈与で計画的に自社株を移す
  • 事業承継税制を活用する
  • 生命保険を活用する

それぞれの方法を詳しく解説します。

4-1.役員退職金や不動産購入などで自社株の評価額を引き下げる

自社株の評価額は、会社の純資産や利益を圧縮することで下げられる場合があります。代表的な方法は、役員退職金の支給と不動産の購入です

〇自社株の評価額を引き下げる主な方法

  • 役員退職金の支給:適正額の役員退職金や死亡退職金を支払って純資産と利益を減らす方法
  • 不動産の購入:借入金を用いて収益不動産を取得し、純資産価額の引き下げを図る方法

役員退職金を適正な範囲で支給すると、純資産と利益が減り、自社株の評価額を下げる効果が期待できます

死亡退職金という形で支給すると、それを受け取った遺族は相続税の納税資金も確保することが可能です。また、相続人が受け取った場合、受取額のうち「500万円×法定相続人の数」まで相続税がかかりません。

収益不動産は、相続税を計算する際に実際の購入価格(時価)より低い金額で評価されるのが一般的です。

一方、購入資金として借り入れた金額のうち、課税時期に残っている借入金残高は、自社株の相続税評価において純資産価額を計算する際に原則として負債に含まれます。

そのため、借入金を用いて収益不動産を取得すると、一定の条件下では会社の純資産価額が下がり、自社株評価額の引き下げにつながることがあります

ただし、会社が課税時期前3年以内に取得または新築した土地・建物は、原則として通常の取引価額で評価されるなどの注意点があるため、必ずしも税負担の軽減効果が得られるとは限りません。

過度な節税を行うと税務署に否認されるリスクもあるため、税理士に相談しながら慎重に進めましょう。

4-2.暦年贈与で計画的に自社株を移す

暦年贈与は、贈与税の基礎控除額である年110万円の範囲内で毎年贈与する方法です。暦年贈与を活用することで、相続財産が圧縮され、相続税の負担を軽減する効果が期待できます。

自社株を生前に贈与しておけば、相続発生後の遺産分割で株式が複数の相続人に分散するのを防ぎ、後継者が会社経営を行ううえで必要な議決権を確実に引き継げます

また、先代経営者の「会社を任せる」という意思を生前に示せるため、相続開始後の経営権や遺産をめぐる親族間のトラブルを抑える効果も期待できるでしょう。

ただし、被相続人から生前に贈与された自社株が「生前贈与加算」の対象となり、相続財産に足し戻されて相続税が計算される可能性がある点には注意が必要です。

令和6年(2024年)1月1日以後の贈与から、生前贈与加算の対象期間は従来の相続開始前の3年以内から段階的に7年へ延長される予定です。

早めに贈与を始めるほど生前贈与加算の対象にならない贈与分が増え、相続財産を圧縮しやすくなります。

また、自社株を移す際は「相続時精算課税制度」を活用するのも1つの方法です。この制度の主な特徴は以下のとおりです。

相続時精算課税制度の仕組み

〇相続時精算課税制度の特徴

  • 60歳以上の父母・祖父母から、18歳以上の子・孫への贈与で選べる制度
  • 累計2,500万円までの贈与は贈与税がかからず、贈与者の相続時に相続財産へ加えて精算する
  • 令和6年(2024年)1月1日以後の贈与には、これとは別に年110万円の基礎控除が使える
  • 一度選択すると選んだ贈与者からの贈与は暦年課税に戻せない

暦年贈与や相続時精算課税制度については、以下の記事で解説していますので、あわせてご覧ください。

参考:暦年贈与とは?改正点と相続税を減らすためのポイントを解説
参考:相続時精算課税制度を分かりやすく解説。どんな場合に有効な方法か

4-3.事業承継税制を活用する

事業承継税制は、一定の要件を満たすと後継者が取得した非上場株式にかかる相続税・贈与税の納税が猶予される制度です。猶予された税額は、後継者の死亡など一定の事由で免除されます。

事業承継税制には、特例措置と一般措置の2つがあります。

〇特例措置と一般措置

  • 特例措置:全株式が対象で猶予割合100%、特例承継計画の提出と適用期限の制約がある
  • 一般措置:対象は総株式の3分の2まで、相続税の猶予割合は80%(贈与は100%)、期限のない恒久制度

特例措置について、特例承継計画書の提出期限と適用期限(贈与・相続の実行期限)は以下のとおりです。

〇特例措置の主な期限

  • 特例承継計画の提出期限:令和9年(2027年)9月30日まで(令和8年度税制改正により延長)
  • 贈与・相続の実行期限:令和9年(2027年)12月31日まで

制度の適用後も、一定の継続要件を満たさなければなりません。要件を満たせなくなると猶予が取り消され、猶予税額に利子税を加えて納付することを求められる可能性があります。

この制度は要件が複雑であり、税制改正の影響も受けやすい内容であるため、活用できるかどうかは税理士に相談して確認しましょう。

事業承継税制の制度内容や活用するメリットなどは下記記事で解説していますので、あわせてご覧ください。

参考:事業承継税制とは│要件や期限、メリット・デメリットを解説

4-4.生命保険を活用する

生命保険の死亡保険金は受取人固有の財産です。遺産分割協議の対象とならず、保険会社に請求することで通常1週間程度で保険金が支払われます。

そのため、相続税の納税資金や代償分割をした際にほかの相続人へ支払う代償金の原資などを確保できます

契約者(保険料負担者)と被保険者(保険の対象となる人)が亡くなった人である場合、支払われた死亡保険金は、みなし相続財産として相続税の課税対象になります。

一方、相続人が死亡保険金を受け取った場合、「500万円×法定相続人の数」まで相続税がかかりません。

相続税の非課税枠の計算式

死亡保険金の受取額が大きい場合でも、非課税枠までは課税対象に含まれないため、現金で遺すよりも相続税の負担を軽減できる可能性があります

会社契約の生命保険を活用する方法もあります。会社が受け取った保険金を原資に後継者から自社株を買い取れば、後継者は売却代金を納税資金等に充てることが可能です。

5.会社の株式を相続したときの相続税が払えない場合の選択肢

会社の株式は評価額が高くなりやすい一方、換金性が低いものも多い財産です。相続財産のほとんどが株式であり、相続人が持っている預貯金が少ないと、相続税の納税資金が不足することがあります。

納税資金が足りず、そのままでは相続税の支払いが難しいときは、以下4つの対策方法を検討しましょう。

〇相続税が払えない場合の主な選択肢

  • 相続した自社株を発行会社へ売却する
  • 金融機関から納税資金を借り入れる
  • 延納・物納を利用する
  • 相続放棄をする

以下では、それぞれの選択肢を解説します。

5-1.相続した自社株を発行会社へ売却する

非上場株式は上場株式のように市場で売買できず、買い手を見つけにくい財産です。そこで発行会社に買い取ってもらい、得られた現金を納税資金に充てる方法があります

通常、個人の株主が非上場株式を発行会社へ売却すると、資本金等に対応する額を上回る部分は原則としてみなし配当として総合課税の対象です。

一方、相続で取得した株式を一定期間内に発行会社へ譲渡し、所定の届出をすれば、譲渡所得として課税される特例を適用できます。期限は相続開始から約3年10ヶ月以内です。

原則と特例の税負担は、以下のとおりです。

 課税の扱い税率の目安
原則みなし配当として総合課税最大55.945%程度(所得税・復興特別所得税:最高45.945%+住民税:10%)
特例の適用時譲渡所得として課税20.315%(所得税・復興特別所得税:15.315%+住民税:5%)

特例を適用すると、みなし配当として総合課税が適用される場合よりも税負担が軽くなる場合があります。ただし所得状況や取得費などにより、必ず軽くなるとは限りません。

なお、買取には会社法上の財源規制があり、会社は分配可能額(配当などに充てられる剰余金をもとに計算される金額)の範囲でしか取得できません。

また、会社が取得した自己株式には議決権がないため、結果としてほかの株主の議決権割合が上がる可能性がある点にも注意が必要です。

5-2.金融機関から納税資金を借り入れる

自社株を手放したくない後継者にとって、納税資金をどう用意するかは悩みどころです。手元の預貯金では相続税を払いきれない場合は、金融機関から借り入れをして期限内に一括で納めるのも1つの方法です。

金融機関によっては、相続税の納税資金に特化した専用ローンを取り扱っています。借入金利を低く抑えられれば、利息の負担を軽減しながら、期限内に一括で納税できます。

ただし、相続税の納税資金ローンは、商品によって20年や35年といった長期の返済になるケースも見られるため、無理のない返済計画を立てたうえで活用することが大切です。

5-3.延納・物納を利用する

相続税は、現金で一括して納めるのが原則です。一括での納付が難しい場合は、「延納」や「物納」を利用できることがあります。各制度の内容は以下のとおりです。

相続税の納付方法

〇延納と物納

  • 延納:相続税や贈与税を分割(年賦)で納める制度。延納の期間中は利子税がかかる
  • 物納:現金の代わりに相続財産そのもので納める方法

まず延納で年賦による分割払いができないかを検討し、延納でも納付が難しいときは物納を申請するという流れになります

延納をするためには、金銭での一括納付が困難であるなどの要件を満たす必要があり、場合によっては延納税額(相続税額)と利子税額(利息)に相当する担保の提供も必要になります。

物納を利用するためには、厳しい条件をクリアしなければなりません。

非上場株式も対象ですが、優先順位が不動産や上場株式などよりも後であるうえ、譲渡制限や処分のしやすさといった要件も問われます。

物納と延納については下記の記事もご覧ください。

参考:相続税の延納とは│分割払いの4つの要件と手続き・利子税も解説
参考:相続税の物納とは│要件・物納できる財産や手続きを税理士が解説

5-4.相続放棄をする

会社の業績不振で株式以外に財産が乏しい場合や、経営者が多額の借入金・連帯保証債務を抱えていた場合、後を継ぐ意思がない場合などは、相続放棄も選択肢になります

相続放棄とは、被相続人の財産を一切引き継がない制度のことです。預貯金などのプラスの財産、および借入金や保証債務などのマイナスの財産のすべてを相続する権利を手放します。

相続放棄をするには、相続の開始を知った日から3ヶ月以内に、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所へ相続放棄申述書を提出します。

注意したいのは、自社株のみを放棄することはできない点です。預貯金や不動産も含めてすべてを手放すため、ほかに受け取りたい財産があるときは利用できません。

また、預貯金の引き出しや不動産・株式の売却など財産を処分すると、単純承認とみなされ放棄できなくなることもあります。

一度相続放棄をすると原則として撤回できません。相続放棄をすべきかどうかは、弁護士や税理士など相続の専門家にも相談のうえ、慎重に検討しましょう。

相続放棄について詳しくは、以下の記事で解説しています。

参考:相続放棄とは?期限・手続きの流れ・費用をわかりやすく解説

6.会社の相続税に関するQ&A

ここからは、会社の相続税について寄せられやすい疑問に回答します。

6-1.会社の設立が相続税対策になる理由は?

会社の設立(法人化)が相続税対策になり得るのは、不動産などの資産を会社に持たせ、本人は会社の株式を持つ形に変えられるためです。賃貸不動産などを管理する資産管理会社の設立が代表例です。

相続の対象が個別の資産ではなく会社の株式になることで、評価額を抑えられる場合があります。

また、不動産のように物理的に分けにくい資産とは異なり、株式は株数単位で配分できるため、相続人同士でより公平に遺産分割がしやすくなる点もメリットです。

ただし、資産を会社へ移すには譲渡所得税や登録免許税などがかかります。設立・維持のコストもかかる点に注意が必要です。

資産管理会社を設立するメリットなど詳しくは以下の記事で解説していますので、あわせてご覧ください。

参考:資産管理会社を使う相続対策のメリット・デメリットを税理士が解説

6-2.有限会社の場合、相続の対象となるのは?

有限会社でも、相続の対象になるのは出資持分(株式)です。相続税の評価方法や税金の考え方は、株式会社の非上場株式と基本的には同じです。

有限会社という会社の種類は、平成18年(2006年)施行の会社法で株式会社に統合されました。2026年時点で「有限会社」の商号を残して存続している会社を、特例有限会社と呼びます。

旧来の出資持分は会社法上「株式」とみなされるため、相続税の評価も原則として非上場株式と同じ方法で計算します。

6-3.兄弟で会社を相続する際の注意点は?

経営者の子である兄弟姉妹が自社株を分け合って相続すると、経営が不安定になりやすくなります。議決権が分散することで、普通決議や特別決議で必要な賛成を得にくくなることがあるためです。

そこで、後継者へ議決権を集中させて承継させるのも1つの方法です。具体的には、後継者へ株式を集中して取得させ、ほかの兄弟には代償金や別の財産を渡す方法が考えられます。

ただし、後継者には代償金を支払うだけの資力が必要です。また、代償金の金額の決め方をめぐって相続人の間で争いになることもあるなどさまざまな注意点があります。

他の相続対策と同様、遺産相続を専門とする弁護士や税理士などと相談して進めることをおすすめします。

7.自社株の評価と会社の相続は税理士に相談しよう

会社の相続は、自社株の評価額の算定や納税資金の準備、後継者への株式と経営権の引き継ぎなど検討すべきことが多岐にわたる分野です。

とくに非上場株式は、どの評価方式を用いるか、会社規模をどう判定するかで税額が変わります。判断を誤ると納税額が増えたり、申告のやり直しが生じたりすることもあるため、相続税専門の税理士に相談することをおすすめします。

税理士法人チェスターは、相続税の申告を専門に手がける税理士法人です。申告実績は年間3,076件(令和7年度)、累計では1万9,000件を超えます。

非上場株式の評価や事業承継への対応実績も豊富で、遺産総額が5億円を超える規模の相続も多数取り扱ってきました。自社株の評価額を試算したい方や自社に合った事業承継の進め方を知りたい方は、相続専門のチェスターグループにご相談ください。

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