賃貸物件の相続完全ガイド!売却・経営継続・放棄まで徹底解説

賃貸物件の相続、どう対応すべきか悩んでいませんか?
持ち続けるべきか、それとも売却・相続放棄すべきか、判断に悩む人も多いでしょう。
本記事では、相続後の選択肢や判断基準をケース別に解説します。
この記事の目次 [表示]
1.賃貸物件を相続したら、まず考えるべき3つの選択肢
賃貸物件を相続した場合、大きく分けると①賃貸経営を「維持」する、②賃貸物件を「売却」する、③「相続放棄」する、という3つの選択肢が考えられます。

それぞれのメリット・デメリットを理解しておきましょう。
1-1.選択肢①賃貸経営を「維持」する

これは、被相続人(お亡くなりになった方)から賃貸物件を相続し、そのまま賃貸経営を続けていく選択肢です。
| メリット | |
|---|---|
| 継続的な収入源の確保 | 入居者がいれば、毎月の家賃収入(インカムゲイン)を継続して得ることができます。 |
| 相続税の軽減効果 | 賃貸物件は、自分で使用する場合と比べて相続税評価額が低くなるため、相続税の負担を抑える効果があります。 |
| 資産としての価値 | 将来的に賃貸物件の価値が上昇すれば、売却時に利益(キャピタルゲイン)を得られる可能性があります。 |
| デメリット | |
|---|---|
| 空室・家賃滞納リスク | 常に入居者がいるとは限らず、空室になれば収入が途絶え、家賃滞納が発生すれば督促の手間や損失が生じます。 |
| 維持管理費の負担 | 固定資産税や火災保険料といった維持費に加えて、建物の老朽化に伴う修繕費や、入居者退去時の原状回復工事・リフォーム費用などが発生します。 |
| 管理の手間 | 入居者募集、家賃の集金、クレーム対応、建物の清掃・メンテナンスなど、賃貸経営には様々な手間がかかります。管理会社に委託することもできますが、その場合は管理委託費用が必要です。 |
1-2.選択肢②賃貸物件を「売却」する

これは、相続した賃貸物件を第三者に売却し、現金化する選択肢です。
| メリット | |
|---|---|
| 現金の確保 | 賃貸物件を売却することで、一度にまとまった現金を手に入れることができます。相続税の納税資金に充てたり、投資や生活資金などにも活用できます。 |
| 維持管理からの解放 | 賃貸物件を売却してしまえば、空室リスクや将来の大規模修繕費用、その他の維持管理などの賃貸経営に伴うあらゆる負担や心配事から解放されます。 |
| 遺産分割が容易になる | 相続人が複数いる場合、不動産のままでは公平に分けることが難しいですが、売却して現金化すれば、公平に分割しやすくなります。 |
| デメリット | |
|---|---|
| 将来の家賃収入がなくなる | 売却後は、家賃収入を得ることができなくなります。 |
| 税金・諸経費の発生 | 売却して利益(譲渡所得)が出た場合、その利益に対して所得税や住民税がかかります。また、不動産会社に支払う仲介手数料などの諸経費もかかります。 |
| 希望通りに売却できるとは限らない | 物件の立地や状態によっては、買い手が見つかるまでに時間がかかったり、希望の価格で売却できない可能性があります。 |
1-3.選択肢③「相続放棄」する

これは、プラスの財産もマイナスの財産も一切引き継がないようにする手続きです。
詳細は、「2-2.【ケース2】相続する物件が赤字経営で、維持費が負担になる場合」の「④相続放棄」もご確認ください。
| メリット | |
|---|---|
| 負債からの解放 | 赤字物件の維持管理義務や固定資産税の納税義務はもちろん、被相続人に多額の借入金があった場合でも、それらを一切引き継ぐ必要がなくなります。 |
| デメリット | |
|---|---|
| プラスの財産も放棄する必要がある | 預貯金や有価証券などのプラスの財産があったとしても、それらを含めた全ての財産を放棄しなければなりません。赤字物件のみを放棄するということはできません。 |
| 相続放棄後に撤回することができない | 相続放棄の手続きが完了すると、後からやはり相続したいと考えが変わったとしても、相続放棄を撤回することができません。 |
| 次の順位の相続人に影響が及ぶ | 相続放棄をすると、次の順位の相続人(例:子→親→兄弟姉妹)に相続権が移ります。事前に親族間で相談しておくことが望ましいです。 |
2.賃貸物件の相続、どうする?ケース別の判断基準と選択肢
賃貸物件を相続した場合、そのまま賃貸経営を続けるのか、売却するのか、あるいは他の方法を考えるのか、判断に迷うことも多いでしょう。ここでは、下記の4つのケースについて、詳しく解説します。
2-1.【ケース1】相続する物件が黒字経営で、収益性が高い場合

相続した賃貸物件が、安定した家賃収入を生み出しており、空室も少なく黒字経営である場合は、そのまま賃貸経営を継続することが有力な選択肢となります。
| 賃貸経営を継続するメリット | |
|---|---|
| 安定した収入源の確保 | 定期的な家賃収入は、生活費の補填や将来のための資産形成に役立ちます。 |
| インフレ対策 | 不動産は一般的にインフレに強い資産と言われており、物価上昇局面でも価値が目減りしにくい傾向があります。 |
| 相続税対策 (継続的な効果) | 将来的にさらに相続が発生した場合にも、賃貸物件は評価額が軽減される可能性があります。 |
【注意点と対応】
黒字経営であっても、以下のような点には注意が必要です。
- 空室リスク:
周辺環境の変化や建物の老朽化により、将来的に空室が増える可能性があります。 - 修繕費用の発生:
経年劣化による修繕や、入居者退去時の原状回復費用などが定期的に発生します。大規模修繕が必要になることもあります。 - 管理の手間:
入居者募集、家賃回収、クレーム対応、建物の維持管理など、賃貸経営には手間がかかります。
これらのリスクや手間を軽減するためには、信頼できる管理会社に管理業務を委託することが有効です。また、将来の修繕に備えて、計画的に資金を積み立てておくことも重要です。
相続人が複数いる場合は、誰が主体となって経営を行うのか、収益をどのように分配するのかなどを事前に話し合っておく必要があります。場合によっては、相続人全員で不動産管理会社を設立し、法人として経営を行うといった方法も考えられます。
2-2.【ケース2】相続する物件が赤字経営で、維持費が負担になる場合

相続した賃貸物件が、空室が多かったり、家賃収入よりも維持費(管理費、修繕費、固定資産税、ローン返済など)の方が上回ってしまったりして赤字経営になっている場合は、慎重な判断が必要です。そのまま放置しておくと、持ち出しが増え続け、経済的な負担が大きくなる可能性があります。
そのような場合、なぜ赤字になっているのか、その原因を詳しく分析することが最初のステップです。
立地条件、建物の状態、家賃設定、管理状況など、多角的に検証しましょう。
赤字の原因が特定できたら、以下のような対策を検討します。
2-2-1.対策①経営改善策の実施
- リフォーム・リノベーション:
時代に合わなくなった間取りや設備を改修することで、入居者のニーズに応え、空室を減らせる可能性があります。 - 家賃設定の見直し:
周辺の家賃相場を調査し、適切な家賃に再設定します。 - 管理会社の変更:
現在の管理会社の対応に問題がある場合は、より集客力や管理能力の高い会社に変更することを検討します。 - 経費削減:
不要な支出を見直し、コストを削減します。
2-2-2.対策②売却
経営改善が難しい、あるいは手間や費用をかけたくない場合は、物件を売却することも有力な選択肢です。ただし、赤字物件の場合、希望通りの価格で売却できない可能性もあります。不動産会社に査定を依頼し、市場価値を把握した上で判断しましょう。
2-2-3.対策③物納(相続税の支払い方法として)

相続税の納税資金が用意できない場合、一定の要件を満たせば、不動産そのもので相続税を納める「物納」という制度があります。ただし、物納できる財産には優先順位があり、管理処分不適格な不動産は認められないなど、条件は厳格です。最終手段として検討する程度に考えておきましょう。
(参考)【相続税の物納とは】要件・財産の順位・注意点をプロが解説
2-2-4.対策④相続放棄
上記①~③の対策を検討しても、なお赤字経営の賃貸物件の負担があまりにも大きい場合や、物件以外にも被相続人に多額の借金がある場合などは、「相続放棄」という選択肢も考える必要があります。
相続放棄とは、相続人が被相続人の財産および債務を一切引き継がないようにする法的な手続きです。
つまり、賃貸物件のようなプラスの財産だけでなく、借金や未払金、そして赤字物件の維持管理義務といったマイナスの財産も全て手放すことになります。
【相続放棄を検討すべき主なケース】
- 賃貸物件が大幅な赤字で、今後も改善の見込みが立たず、固定資産税や修繕費などの維持費が大きな負担となる場合。
- 賃貸物件以外に、被相続人に多額の借金があり、相続財産全体で見たときに明らかにマイナスの方が大きい場合。
- 物件の売却も困難で、管理の手間や責任から逃れたい場合。
相続放棄を行うためには、ご自身が相続人であることを知った時から原則として3か月以内に、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に「相続放棄の申述」という手続きを行う必要があります。

この3か月の期間を「熟慮期間」といい、この期間内に相続財産を調査し、相続するか放棄するかを判断しなければなりません。
期限を過ぎてしまうと、原則として相続放棄は認められず、全ての財産および債務を単純承認したものとみなされてしまうため、迅速な対応が求められます。
なお、相続放棄のデメリットおよび注意点としては、主に下記が考えられます。
| 相続放棄のデメリットおよび注意点 | |
|---|---|
| 全ての財産を放棄することになる | 相続放棄は「全て引き継ぐ」か「全て放棄する」の2択です。特定の財産を選んで相続し、赤字物件だけを放棄するということはできません。 |
| 一度放棄すると原則として撤回できない | 相続放棄後に、「やはり相続したい」と思っても、原則として撤回することはできません。慎重な判断が必要です。 |
| 次の順位の相続人に影響が及ぶ | 相続放棄を行うと、相続権は次の順位の相続人(例えば、子が放棄すれば親、親もいなければ兄弟姉妹など)に移ります。他の相続人に迷惑をかけないためにも、可能であれば事前に他の相続人と状況を共有し、相談することが望ましいでしょう。 |
| 相続財産の管理責任が残る可能性 | 相続放棄をしても、次に相続人となる人が相続財産の管理を始めるまでは、放棄した人にも一定の管理責任が残る場合があります。 |
| 賃貸物件特有の問題 | 相続放棄をした場合、その賃貸物件に入居者がいる場合の賃貸借契約の処理や敷金の返還義務などがどうなるのか、といった複雑な問題が生じる可能性があります。 |
相続放棄は、赤字経営の賃貸不動産に対する有効な手段の1つですが、上記のようなデメリットや注意点も十分に理解しておく必要があります。
(参考)相続放棄は自分でできる!手続き・費用・期間・注意点を解説
2-3.【ケース3】相続する物件が遠方にあり、管理が難しい場合

相続した賃貸物件が、現在住んでいる場所から遠く離れている場合、ご自身で直接管理を行うことは現実的ではありません。このようなケースでは、いくつかの選択肢が考えられます。
2-3-1.①信頼できる管理会社への委託
最も一般的なのは、物件の所在地にある、あるいは広範囲をカバーしている信頼できる不動産管理会社に管理業務を全面的に委託する方法です。入居者募集、家賃集金、クレーム対応、建物メンテナンスなどを任せることができます。
管理会社を選ぶ際は、実績や評判、担当者の対応などをしっかりと確認しましょう。遠方であっても、定期的に報告を受け、コミュニケーションを密に取ることが大切です。
2-3-2.②売却
管理を委託するにしても、遠方にある物件の状況を常に把握しておくのは大変です。また、将来的に大規模な修繕が必要になった場合の対応なども考慮すると、思い切って売却してしまうのも一つの手です。
売却して現金化すれば、より管理しやすい資産に組み替えることも可能になります。
2-3-3.③近隣に住む他の相続人や相続人以外の親族への管理依頼(可能な場合)
もし、他の相続人や相続人以外の親族が物件の近くに住んでいるのであれば、その人に管理を任せるという方法も考えられます。
ただし、その場合は管理業務に対する報酬などを明確に決めておく必要があります。
2-4.【ケース4】相続人が複数いて、遺産分割で揉める可能性がある場合

賃貸物件は、現金や預貯金のように物理的に分割することが難しいため、相続人が複数いる場合、遺産分割協議が難航するケースが少なくありません。
特に、各相続人の物件に対する考え方(売却したい、賃貸経営を続けたいなど)が異なる場合や、公平な分割方法が見出しにくい場合に、揉め事に発展しやすくなります。
このようなケースでは、主に下記の選択肢が考えられます。
2-4-1.①共有名義にする

相続人全員の合意のもと、物件を共有名義にする方法です。一見、公平なように見えますが、下記のようなデメリットもあります。
| デメリット | |
|---|---|
| 意思決定の難しさ | 売却や大規模修繕など、重要な決定を行う際に共有者全員の同意が必要となり、意見がまとまらないと何も進められなくなる可能性があります。 |
| 管理の複雑化 | 誰が主体となって管理を行うのか、経費負担や収益分配をどうするのかなど、細かく取り決めておく必要があります。 |
| 将来的な権利関係の複雑化 | 共有者の一人が亡くなった場合、さらにその相続人に権利が引き継がれ、関係者が増えてしまう可能性があります。 |
共有名義は、将来的なトラブルの種になりやすいため、できる限り避けるか、共有にする場合は運営ルールを明確に定めておくことが重要です。
2-4-2.②代償分割

相続人のうちの一人が物件を相続し、その代わりに他の相続人に対して、それぞれの相続分に相当する金銭(代償金)を支払う方法です。物件を維持したい相続人がいる場合に有効ですが、物件を相続する人に十分な支払能力があることが前提となります。
(参考)【代償分割とは】代償金の決め方・適したケース等プロが解説
2-4-3.③換価分割

物件を売却して現金化し、その現金を相続人間で分ける方法です。公平に分割しやすいというメリットがありますが、物件を売却することに全員が同意する必要があります。
また、売却には時間がかかる場合や、希望通りの価格で売れない可能性も考慮しなければなりません。
(参考)換価分割とは?遺産分割書の書き方やかかる税金を徹底解説
2-4-4.④現物分割

例えば、複数の独立した不動産がある場合や、土地を分筆してそれぞれが相続するといった方法です。
遺産分割で揉めないためには、まず相続人全員で十分に話し合い、それぞれの意向や事情を理解し合うことが大切です。感情的にならず、冷静に協議を進めるよう心がけましょう。
それでも話し合いがまとまらない場合や、法的な知識が必要な場合は、早めに弁護士や税理士、司法書士といった専門家に相談することをおすすめします。
3.賃貸物件の相続の流れ
では、実際に賃貸物件を相続することになった際には、どのような流れになるのでしょうか。
まずは、全体的な流れを見てみましょう。

それでは、ひとつずつ解説していきます。
3-1.<ステップ1>まずやるべき!賃貸物件の現状把握
賃貸物件の所有者がお亡くなりになった場合、最初に行うべきことは、その賃貸物件の現状を正確に把握することです。具体的には、以下の情報を確認・収集しましょう。
- 物件の基本情報:
物件の所在地、構造、築年数、間取り、部屋数など。 - 入居状況:
各部屋の入居者の有無、契約期間、滞納の有無など。 - 賃料収入:
各部屋の家賃、共益費、駐車場代など、毎月の収入額。 - 管理状況:
管理会社の有無、管理委託契約の内容、管理費、修繕積立金の状況など。 - ローン残高:
物件購入時のローンの残債があるか、ある場合はその金額や返済状況。 - その他費用:
固定資産税・都市計画税の年税額、火災保険の内容など。
これらの情報は、賃貸借契約書、登記事項証明書(登記簿謄本)、固定資産税納税通知書、ローン契約書、管理委託契約書、確定申告書などの書類で確認できます。
関係書類を整理し、不明な点があれば管理会社や金融機関に問い合わせるなどして、物件の全体像を明らかにすることが重要です。
この現状把握が、後の遺産分割協議や相続税申告、そして物件を今後どうするかを判断する上で非常に重要です。
3-2.<ステップ2>準確定申告
被相続人が賃貸物件を所有し、不動産所得を得ていた場合、相続人は被相続人の亡くなった年の1月1日から死亡日までの所得について、所得税の申告を行う必要があります。これを「準確定申告」といいます。
準確定申告は、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から4か月以内に行う必要があります。そのため、通常の確定申告とは異なる時期に手続きしなければなりませんので、注意が必要です。

主に下記の書類を収集した上で、手続きを進めていきましょう。
【不動産所得に関する主な必要書類】
- 賃貸借契約書
- 固定資産税・都市計画税の納税通知書および課税明細書
- 損害保険契約に関する保険証券、契約内容のお知らせ
- 管理会社の支払明細書
- 修繕費等の経費に関する請求書、領収書
- 借入金の返済予定表
- 預金通帳(家賃・礼金・更新料などの入金や、経費の支払いで利用しているもの)
- 被相続人の過去の確定申告書、届出書
準確定申告について、詳しくは「【準確定申告とは】必要・不要の判断方法、記入例などを解説」をご覧ください。
なお、被相続人がお亡くなりになった時点で、支払期限が到来しているにも関わらず受け取れていない未収家賃は、相続開始時点で被相続人が有していた債権として相続財産に含まれ、相続税の課税対象となります。
また、被相続人がお亡くなりになった日の翌日以降に発生する家賃収入について、原則として、遺産分割協議が確定するまでは、各相続人が法定相続分に応じて受け取ることになります。そのため、各相続人がそれぞれ確定申告することとなります。
その後遺産分割協議が整った際には、遺産分割協議後に発生する家賃収入については、その賃貸物件を最終的に相続した相続人の所得となり、その相続人が確定申告することとなります。
(参考)国税庁:タックスアンサーNo.1376? 不動産所得の収入計上時期
3-3.<ステップ3>遺産分割協議
相続人が複数いる場合、誰がどの財産をどれだけ相続するのかを話し合って決める必要があります。これを「遺産分割協議」といいます。賃貸物件も遺産分割の対象となり、誰がその物件を相続するのか、あるいは共有名義にするのかなどを相続人全員で合意しなければなりません。
賃貸物件は、現金のように簡単に分割することが難しい財産です。そのため、特定の相続人が物件を相続し、他の相続人には代償金を支払う「代償分割」や、物件を売却してその代金を分ける「換価分割」といった方法も検討されます。
遺産分割協議がまとまったら、その内容を明確にするために「遺産分割協議書」を作成します。この書類は、後の相続登記や相続税申告の際に必要となります。もし、相続人間で話し合いがまとまらない場合は、家庭裁判所に遺産分割調停や審判を申し立てる場合もあります。

遺産分割協議書については、下記も参考にしてください。
(参考)遺産分割協議書とは?作成までの流れや提出が必要な相続手続きを解説
3-4.<ステップ4>賃貸借契約の承継、賃貸物件の相続登記
賃貸物件を相続するということは、その物件の所有権だけでなく、入居者との間で締結されている賃貸借契約における貸主としての地位も引き継ぐことを意味します。つまり、相続人は新たな家主として、入居者から家賃を受け取る権利と、物件を適切に維持管理する義務を負うことになります。
この貸主の地位の変更に伴い、まずは関係各所への連絡が重要になります。
具体的には、物件の管理を委託している管理会社、契約している損害保険会社、そして何よりも実際に入居されている方々(借主)に対して、所有者が変更になった旨を速やかに連絡しましょう。
特に、家賃の振込先口座が変更になる場合は、入居者の方々が混乱しないよう、事前に書面などで明確に通知する必要があります。
これらの連絡を怠ると、家賃の入金トラブルや、万が一の事故の際の保険手続きに支障が出る可能性がありますので、忘れずに行いましょう。
さらに、物件を相続した人は、法務局で不動産の名義変更手続きである「相続登記」を行う必要があります。
これは、その物件の正式な所有者が誰になったのかを公に示すための重要な手続きです。相続登記を行っておかないと、将来的にその物件を売却したり、担保に入れて融資を受けたりする際に支障が生じる可能性があります。
また、他の相続人が勝手に自分の持分を売却してしまうといったトラブルに巻き込まれるリスクも考えられます。
相続登記を行うには、主に下記の書類が必要になります。
- 被相続人の出生から死亡までの連続戸籍
- 被相続人の住民票の除票または戸籍の附票
- 相続人の戸籍謄本
- 相続人の住民票または戸籍の附票
- 遺産分割協議書および印鑑証明書(遺言書がある場合は、遺言書)
- 相続登記を行う不動産に関する固定資産評価証明書
- 相続登記申請書
(参考)【相続登記】必要書類を自分で収集・手続きする方法を解説!
3-5.<ステップ5>相続税申告(対象となる人のみ)
相続した財産の総額が、相続税の基礎控除額を超える場合には、相続税の申告と納税が必要になります。相続税の基礎控除額は、「3,000万円 + (600万円 × 法定相続人の数)」で計算されます。

相続税の申告・納付期限は、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内です。この期限も準確定申告と同様に、比較的短いため注意が必要です。なお、申告手続きは、被相続人の最後の住所地を管轄する税務署に対して行います。
相続税申告を行うために必要な書類については、下記を参考にしてください。
(参考)相続税を申告するための必要書類をプロが解説!【一覧表付】
4.賃貸物件の相続税評価額
賃貸物件の相続税評価額は、相続税額を左右する重要なポイントです。現金や上場株式などとは異なり、その評価方法は少し複雑になります。
ここでは、賃貸物件の評価の基本的な考え方と、評価額を軽減できる可能性のある「小規模宅地等の特例」について解説します。
4-1.賃貸物件の評価のポイント
賃貸物件の相続税評価は、土地と建物に分けて行います。そして、それぞれが「人に貸している不動産」であるという点が評価に影響します。
4-1-1.土地部分の評価方法
まず、土地部分です。
他人に貸している建物の敷地となっている土地は、「貸家建付地(かしやたてつけち)」として評価されます。

これは、自分で使用している土地(自用地)と比較して、利用に制約があるため、評価額が一定割合減額されます。
具体的な評価額は、その土地の路線価(または固定資産税評価額に一定の倍率を乗じたもの)を基に、借地権割合や借家権割合、賃貸割合といった要素を考慮して計算されます。計算式で示すと以下のとおりになります。
なお、計算式の各用語の説明は、下記のとおりです。
- 自用地評価額:
その土地を更地として、所有者が何の制約もなく自由に使用できる状態とした場合の評価額をいいます。具体的には、路線価方式または倍率方式により計算します。 - 借地権割合:
土地の価値のうちに、所有者から土地を借りて使用することができる権利(借地権)が占める割合のことで、地域ごとに定められています。 - 借家権割合:
建物を借りている入居者の権利(借家権)を評価した割合のことで、全国一律30%とされています。 - 賃貸割合:
賃貸物件のうち、被相続人がお亡くなりになった時点で実際に賃貸されている部屋の床面積が占める割合のことをいいます。
この計算式からも分かるように、賃貸割合が高いほど評価額は低くなる傾向があります。
4-1-2.建物部分の評価方法
次に、建物部分です。
賃貸アパートやマンションなどの建物は、「貸家(かしや)」として評価されます。
これも土地と同様に、自分で使用している建物と比較して利用が制限されるため、固定資産税評価額から借家権割合に相当する金額が控除されます。計算式で示すと以下のとおりになります。
なお、固定資産税評価額は、毎年4月~6月頃に市区町村から送られてくる「固定資産税の課税明細書・納税通知書」で確認できます。

また、借地権割合や借家権割合について、詳しくは下記をご覧ください。
(参考)借地権割合とは?調べ方・計算方法までプロがくわしく解説
(参考)借家権割合とは?調べ方や相続税評価額の計算方法・ポイントを解説
4-1-3.サブリース契約の場合
不動産会社などが物件を一括で借り上げて入居者に転貸する、いわゆるサブリース契約についても、基本的には上記と同様の評価方法となります。
サブリース契約の大きな特徴は、空室の有無にかかわらず、サブリース会社から一定の賃料収入が保証されている点です。そのため、相続税評価における「賃貸割合」の算定においては、原則として、実際の入居状況ではなく、サブリース会社に一括で貸し付けている割合(通常は100%)で評価できます。
このように、賃貸物件は、その利用状況に応じて評価額が軽減される仕組みになっています。ただし、空室が多い場合や、一時的に貸し付けていると認められない場合などは、この軽減措置が受けられないケースもあるため注意が必要です。
4-1-4.居住用マンションの評価方法の改正について
2024年1月1日以降に相続、遺贈または贈与により取得する財産から、居住用の区分所有財産(マンションの1室など)の相続税評価について、新たなルールが適用されています。これは、いわゆる「タワマン節税」といった市場価格と相続税評価額との間に大きな乖離が生じるケースに対応するための改正です。
「建物の築年数」、「総階数」、「その部屋の所在階」、「敷地持分に対する面積の狭小度合い」などの要素を総合的に勘案して計算することになり、特に市場価格と従来の評価額との乖離が大きいとされる物件(例えば、都心部の高層マンションの評価など)では、評価額が従来よりも市場価格に近づくように調整される傾向があります。

居住用マンションを賃貸している場合も、この新しい評価方法の対象となりますので、注意が必要です。
居住用マンションの評価方法の解説について、詳しくは下記をご覧ください。
(参考)新たな居住用区分所有財産の評価の考え方~定義や適用外となるケース~
4-2.小規模宅地等の特例とは?適用条件と注意点
相続税の負担を軽減するための制度の一つに、「小規模宅地等の特例」があります。これは、被相続人やその親族が住んでいた土地や、事業に使っていた土地について、一定の要件を満たせば、その土地の評価額を最大80%または50%減額できるというものです。
賃貸物件の敷地も、この特例の対象となる場合があります。具体的には、「貸付事業用宅地等」として、200㎡までの部分について評価額を50%減額できる可能性があります。
| 減額割合 | 限度面積 | |
|---|---|---|
| 特定居住用宅地等(被相続人の自宅が建っている土地) | 80% | 330㎡ |
| 貸付事業用宅地等(被相続人が賃貸事業を営むために使っていた土地) | 50% | 200㎡ |
| 特定事業用宅地等(被相続人が飲食店などの事業で使っていた土地) | 80% | 400㎡ |
| 特定同族会社事業用宅地(同族会社が使っていた土地) | 80% | 400㎡ |
(参考)国税庁:No.4124?相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)
この特例の適用を受けるためには、いくつかの条件をクリアする必要があります。主な条件は、以下のとおりです。
- 被相続人が亡くなる前からその土地で貸付事業を行っていたこと。
- 相続人がその貸付事業を引き継ぎ、相続税の申告期限までその土地を保有し、貸付事業を継続していること。
- 一定の親族が相続すること(被相続人と生計を一にしていた親族など、より有利な条件が適用される場合もあります)。
ただし、この特例は自動的に適用されるわけではなく、相続税の申告書に特例の適用を受けたい旨を記載し、必要な書類を添付して申告する必要があります。また、他の特例(例えば、居住用の宅地に関する特例)とどちらを適用するか選択が必要になる場合や、適用できる面積に上限があるため、どの土地に適用するのが最も有利になるかを慎重に検討する必要があります。
小規模宅地等の特例は、適用できれば相続税額を大幅に抑えることができる非常に有効な制度ですが、適用要件が複雑で、判断が難しいケースも少なくありません。適用を検討する際は、相続に詳しい税理士に相談することをおすすめします。
小規模宅地等の特例について、詳しくは下記をご覧ください。
(参考)小規模宅地等の特例とは~概要・要件・よくあるQ&Aなどすべて解説~
5.まとめ
賃貸物件を相続する際は、維持・売却・相続放棄という3つの選択肢を慎重に検討しましょう。なお、検討にあたっては、相続に詳しい税理士や不動産会社などの専門家に相談することをおすすめします。
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※この記事は専門家監修のもと慎重に執筆を行っておりますが、万が一記事内容に誤りがあり読者に損害が生じた場合でも当法人は一切責任を負いません。なお、ご指摘がある場合にはお手数おかけ致しますが、「お問合せフォーム→掲載記事に関するご指摘等」よりお問合せ下さい。但し、記事内容に関するご質問にはお答えできませんので予めご了承下さい。
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