借地権割合とは?調べ方や相続税評価額の計算方法・ポイントを解説

相続税や贈与税の税額を計算するには、相続財産や贈与財産の相続税評価額を計算しなければなりません。
借地権や貸宅地(底地)を相続したり、贈与を受けた場合は、どのように相続税評価額を計算すればよいのでしょうか。
ここでは、借地権割合を使って、借地権や貸宅地の相続税評価額を計算する方法を徹底解説します。
この記事の目次 [表示]
1.借地権割合とは?
借地権とは、建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権をいいます(借地借家法2条一項)。
一般的には、自宅など建物を建てるために、土地を地主から借りて使用できる権利のことです。
借地権は、相続税や贈与税の課税対象となります。
1-1.借地権割合の定義
土地を貸して(借りて)、その土地の上に建物が建っている場合には、一つの土地の上に、貸し手の土地の所有者が持つ底地権と借り手の持つ借地権という二つの権利が存在することになります。
そこで借地権者の権利を財産としての価値を具体化する指標として「借地権割合」があります。
借地権の価額は、その借地権の目的となっている宅地の自用地としての価額に、当該価額に対する借地権の売買実例価額、精通者意見価格、地代の額等を基として評定した借地権の価額の割合(借地権割合)がおおむね同一と認められる地域ごとに国税局長の定める割合を乗じて計算した金額によって評価されています(財産評価基本通達27項)。
1-2.借地権割合の具体的な数値と地域差
借地権割合は、借地事情が似ている地域ごとに定められており、国税庁が公表している路線価図や評価倍率表に表示されています。
土地の利用価値が高い繁華街(東京の場合:銀座や新宿駅周辺)などでは90%のエリアが多くみられる一方で、郊外の不便な場所など利用価値が低い土地ほど借地権割合が低い傾向にあります。一般的には、住宅地の場合の借地権割合は60%~70%であることが多いです。
| 表記 | 借地権割合(%) | 特徴 |
|---|---|---|
| A | 90 | 都心部の主要駅周辺や目立つ場所に多く、商業地やオフィス街の中心部で非常に需要の高い一等地 |
| B | 80 | 都市部の主要駅周辺など、商業地域や住宅地として人気のある地域 |
| C | 70 | 交通量が多い駅前の商業地域や、高級住宅地として人気がある街など、比較的利便性の高い地域 |
| D | 60 | 都市部への通勤・通学に便利な市街地など、住宅地としての需要が安定している地域 |
| E | 50 | 郊外の人気がある比較的閑静な住宅地 |
| F | 40 | 地方の交通網が発達した住宅地や、郊外の住宅地で生活に車が欠かせない地域 |
| G | 30 | 都市部から離れた郊外や農村部など、日常生活に車が欠かせない地域 |
なお、地方の山林や農地など宅地として利用が少ない地域では、そもそも居住用の建物を建てるために土地を借りるという習慣がない地域もあります。
このような、借地権の取引慣行がない地域にある借地権は評価しないとされています(財産評価基本通達27項)。
1-3.路線価地域にある土地の借地権割合の調べ方
路線価が設定されている地域の借地権割合の調べ方については、次のとおりです。
路線価図とは、道路に面した土地の1㎡あたりの評価額(路線価)を示した地図で、毎年7月1日に国税庁が公表しています。
まずは国税庁ホームページ「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」にアクセスし、以下の流れで対象地を探してください。
①調べたい土地の都道府県を選択し、「路線価図」をクリックします。

②次に市区町村、地名を選択すると、該当の路線価図が表示されます。
地名を選択する際に、路線価図ページ番号が複数ある場合があります。その場合は「路線価図ページ番号」の適当な番号を選択してみて、その路線価図に対象地が見つからなかったら、画面左側の「接続図」から隣接する地域の路線価図を検索していきます。

③路線価図から対象地を見つけたら、その対象地に接している道路部分の数字とアルファベットを確認します。この数字が路線価で、アルファベットが借地権割合を表しています。
なお、路線価図の上部にアルファベットと借地権割合の表が示されているため、これで該当する土地の借地権割合を把握することができます。
| 記号 | A | B | C | D | E | F | G |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 借地権割合 | 90% | 80% | 70% | 60% | 50% | 40% | 30% |
路線価は千円単位で表示しているため、例えば「550D」と表示されている場合は、路線価が550千円、つまり当該土地の1㎡が55万円で、借地権割合(D)は60%となります。
なお、アルファベットの表示がない地域は、借地権の取引の慣行がなく、借地権の評価をしないこととされています。

※国税庁「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」を加工して作成
1-4.倍率地域にある土地の借地権割合の調べ方
路線価が設定されていない倍率地域にある土地の借地権割合の調べ方については、次のとおりです。
郊外の住宅地や農地、山林がある地域では、路線価が設定されていない場合があります。こうした地域は、「倍率地域」といいます。
倍率地域の場合は、国税庁「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」の評価倍率表から、次のステップで借地権割合を調べることができます。
①調べたい土地の都道府県を選択し、評価倍率表の「一般の土地等用」をクリックします。

②次に市区町村を選択すると、倍率表が表示されます。町(丁目)又は大字名から、対象地の借地権割合を確認することができます。
なお、倍率表で借地権割合が「-」となっている区域は、路線価図で借地権割合を確認することになります。

※国税庁「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」を加工して作成
2.借地権割合の計算方法
2-1.借地権の課税評価額の算出
借主側の借地権の課税評価額は、その借地権の目的となっている宅地の自用地としての価額に、借地権割合を乗じて計算した金額によって評価します。
例えば、下記の路線価図において、「550D」の道路に面している土地200㎡の借地権を計算する場合は、以下のように計算することができます。

※国税庁「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」を加工して作成
2-2.地主側に相続が発生した場合
ここまで、借主側に相続が発生した場合の借地権評価の説明をしましたが、地主側に相続が発生した場合には、「貸宅地」として評価することになります。
国税庁では、貸宅地を「借地権など宅地の上に存する権利の目的となっている宅地」と定義していますが、簡単に言えば、借地権などが設定されている土地になります。
貸宅地の計算方法は次のとおり、借地権同様に借地権割合を使用して計算します。
(参考)国税庁:No.4613 貸宅地の評価
なお、詳細につきましては「借地権割合とは?調べ方・計算方法までプロがくわしく解説」をご参照ください。
3.借地権割合が必要になる場面
借地権割合が必要とされるのは、相続税や贈与税など税金を計算する場面、建物の売却場面など、物件の価額を決めなければならない場合です。
以下、地主「個人」、借地人「個人」について解説します。
3-1.相続発生時
相続税や贈与税は、対象となる財産の価額によって課税額が決まります。借地権は建物の所有を目的として土地を利用できる権利で、財産としての価値があります。そして、借地権の評価額を算出する際に用いるのが借地権割合です。
3-1-1.借主側
土地の借主に相続が発生した場合、借地の上に建つ建物及び借地権は相続財産に含まれ、相続税の課税対象となります。また、建物の贈与を行う場合についても、建物の評価及び借地権の評価が必要となります。
3-1-2.地主側
地主に相続が発生した場合、相続税の計算における底地の評価額は、自用地評価額から借地権相当額を控除した価額となります。底地の贈与についても、同様の計算を行います。
3-2.借地権売却時
土地の借主が借地上の建物を売却する場合、借地権も合わせて売却するケース、地主から底地を買い取り売却するケースなど借地権の価額が反映されるケースは少なくありません。
また、親族間での売買において、市場価格よりも著しく低い価格で譲渡した場合、その時価と売買価格の差額が、譲り受けた親族に対する「贈与」とみなされ、贈与税の課税対象となる可能性が、譲渡した側も時価で譲渡したものとみなして譲渡所得を計算される可能性があります。
これら建物・借地権の計算においては、価格の設定の際に借地権割合も考慮することとなりますが、取引価格と建物・借地権の評価額は一致しないため、借地権割合を使った評価額はあくまで参考値となります。
3-3.地代設定時
個人間で土地の賃貸借契約を行うに当たり、地主が受け取った権利金は不動産所得の対象となりますが、その金額が土地の時価の2分の1を超える場合、地主が受け取った権利金は譲渡所得の対象となります。
このように権利金の授受を行った上、賃貸借契約期間中に通常の地代が支払われていた場合、相続開始時には、底地の評価額は自用地評価額から借地権相当額を控除した額、借地権の評価額は自用地評価額に借地権割合を乗じて計算した額となります。
また、賃貸契約時に権利金の授受がない場合、相続開始時には、賃貸借契約期間中の地代の状況に応じて、底地及び借地権の評価額は変わってきます。
このように、貸宅地について借地権課税を意識する必要がある場合には、相続開始時の底地及び借地権の評価額も考慮の上、権利金の額や地代の額を検討することとなります。
なお、実際の地代は、周辺地域の借地権相場、更地価額や公示価額などをベースに決まることが多いです。
4.借地権割合が相続税や贈与税に与える影響
4-1.相続税における借地権の評価と申告のポイント
借地権の相続税評価額を算出する際は、まず対象となる土地を自身で使用することを目的として所有する自用地の価額を算出する必要があります。
土地の価額の求め方は、路線価方式又は倍率方式によります。なお、路線価方式及び倍率方式についての詳細は、「路線価方式と倍率方式」をご参照ください。
【路線価を用いる場合】
自用地としての価額=路線価×土地の面積
【倍率方式を用いる場合】
自用地としての価額=固定資産税評価額×評価倍率
【借地権の課税評価額】
借地権の課税評価額=自用地としての価額×借地権割合
この評価額は、あくまで相続税を公平に算出するための基準値ということです。
また、借地権を相続した場合、土地を借りているということから、地主の承諾が必要になると思われるかもしれませんが、借地権の相続にあたり地主の承諾は不要です。承諾料(名義変更料)を支払う必要はありません。
ただし、法定相続人以外の人への遺贈(遺言によって、特定の人に財産を引き継がせること)の場合は異なります。
法定相続人以外の人への遺贈の場合は、地主の承諾が必要となります。
4-2.贈与税における借地権の評価と注意点
贈与税における借地権の評価は、上記4-1の相続税における借地権の評価と同一になります。
借地権の贈与は、原則として地主の承諾が必要です。相続による借地人の変更は地主の承諾は不要ですが、贈与の場合は地主の承諾なしに名義変更すると、地主から借地権の消滅を主張される可能性があります。
遺贈や死因贈与の場合も地主の承諾が必要となりますので、引き渡しや登記の前に地主の承諾を取り付けることにご注意ください。
5.借地権を活用した相続・贈与対策
5-1.借地権割合を活用した相続税対策
そもそも路線価自体が、実際の売買取引時の価額より低めに設定されていることからも、土地の所有権又は借地権を相続することは相続税の節税効果が高くなります。
さらに、借地権付き土地は、更地に比べて相続税評価額が低くなるため、相続税の節税効果が期待できます。
これは、土地を「所有」しているのではなく、「借りて」いるので、所有しているときよりも価値が低いと判断されるからです。
5-2.借地権者による小規模宅地等の特例の適用について
小規模宅地等の特例とは、一定の要件を満たせば、限度面積までの部分については、相続した土地の評価額を一定の割合まで減額できるという特例です。
租税特別措置法69条の4第1項において、「土地または土地の上に存する権利」が適用対象となっていることから、相続する土地が借地権の場合であっても、小規模宅地の特例について、取扱いは特に変わるところはありません。要件を満たせば、自分が所有する土地と同様に、借地権についても特例を適用することができます。
詳しくは、「小規模宅地等の特例を完全解説!対象条件や手続きを知って相続税を節税しよう」を参照してください。
5-2-1.事例1:借地上の自宅に同居していた配偶者が相続(居住用・80%減)
現状
- 路線価による自用地評価額:1億2,000万円
- 借地権割合:70%(例)→ 借地権評価額 8,400万円
- 被相続人は借地上の自宅に居住。相続人(配偶者)が引き続き居住・保有。
- 特定居住用宅地等(330㎡まで80%減)の要件を満たしている。
評価額の計算
- 特例適用前:借地権 8,400万円
- 特例適用後:8,400万円×(1-80%)=1,680万円
→評価差額 6,720万円の圧縮
ポイント
「宅地等」には借地権も含まれるため、借地でも居住用の80%減が狙える。要件の充足(配偶者・同居親族・家なき子など)を事前確認が重要。
5-2-2.事例2:相続前に底地を買い取り→所有権を一体化し、居住用の80%減と現金不動産化を同時に狙う
現状
- 所有資産:
現金 1億円
借地権(自宅):自用地1億円・借地権割合70% → 7,000万円 - 相続前に地主から底地(持分)を2,500万円で買い取り(例:市場で30%相当が実務上は借地制約で2~3割にディスカウントされ得る想定)。
- 結果:現金7,500万円+自用地(所有権一体化)1億円に再構成。以後も居住継続。
相続開始時の評価額の比較
- 買い取り前(借地権のまま)
借地権 7,000万円 ×(1-80%)= 1,400万円
現金 1億円 → 合計 1億1,400万円 - 買い取り後(所有権一体化)
自用地 1億円 ×(1-80%)= 2,000万円
現金 7,500万円 → 合計 9,500万円
効果のポイント
現金の評価額は100%だが、土地は路線価で評価されるため(一般に実勢より低めになりやすい)、現金から不動産への組み替えることによって評価額を抑えやすくなります。さらに居住用80%減を土地全体に使えるため、底地の買い取りがトータルで有利になる可能性があります。
ただし、買い取り価格・路線価水準・面積超過などで逆転もあり得るため、事前のシミュレーションは必須です。
なお、借地権・底地の基本的な評価枠組みは国税庁通達・タックスアンサーに定式化されています。
(参考)国税庁:No.4611 借地権の評価
(参考)国税庁:No.4613 貸宅地の評価
5-3.借地権を活用した贈与の工夫
土地の時価が今後上昇が見込まれる場合は、将来の借地権の上昇も込まれるので、早めに相続時精算課税制度(*)などを利用して贈与することにより、将来の相続財産を減少させることも可能となります。
(*)原則として60歳以上の父母又は祖父母、18歳以上の子又は孫などに対し、財産を贈与した場合に、贈与者ごとに1年間(1月1日から12月31日)に贈与を受けた財産の価額の合計から基礎控除110万円と特別控除額2,500万円(前年以前に特別控除を適用した金額がある場合は、その金額を控除した残額)を控除した残額に20%の税率を掛けて贈与税額を計算する制度。
6.まとめ
このように借地権割合は、借地権において相続税や贈与税を正確に計算するために必要不可欠です。また、地主との間での権利金や地代の計算においても必要となってくるなど、借地権に関する様々な手続きを進める上で、欠かせない要素といえます。
実務上でも借地権をめぐるトラブルは多く、正しい知識がないと税金の誤りや地主とのトラブルに発展することになりかねません。借地権の相続や売却でお困りの方は、早めに専門家に相談することをお勧めします。
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