遺言書がある場合の相続手続きとは?見つけたらまず何をすべき?

遺言書が見つかった場合、すぐに開封したり、財産の名義変更を進めたりするのは避けましょう。遺言書の種類や保管方法によっては家庭裁判所の検認が必要で、相続放棄や相続税申告・納付、相続登記には期限もあります。
本記事では、遺言書を見つけた直後の対応から、相続人や財産の確認、相続税申告までの流れを7つのステップで解説します。
遺言内容に納得できない場合や記載のない財産が見つかった場合の対処法も解説するので、遺言書がある場合の相続手続きに不安がある方はぜひ参考にしてください。
この記事の目次 [表示]
1.遺言書を見つけたらまず何をする?開封前に種類を確認しよう
遺言書を見つけたら、まずはどのような種類の遺言書なのかを確認しましょう。一般的な遺言書には、公正証書遺言・自筆証書遺言・秘密証書遺言の3種類があり、種類や見つけたときの状況によっておこなうべき対応が変わります。
それぞれの特徴や作成方法、保管方法については以下の記事をご確認ください。
参考:公正証書遺言とは?効力・メリット・費用・作成方法を解説
参考:自筆証書遺言とは【ひな形付き】書き方・注意点・保管制度も解説
参考:秘密証書遺言とは?作成方法・保管場所やメリット・デメリットを解説
1-1.封印のある遺言書は自分で開封しない
遺言書を見つけたら、中に何が書かれているのかをすぐに確認したくなる方も多いのではないでしょうか。しかし、封印のある遺言書は家庭裁判所以外で開封してはいけません。家庭裁判所で相続人や代理人の立ち会いのもと、開封するのが原則だからです。
家庭裁判所以外で開封した場合、5万円以下の過料の対象となる可能性もあるため注意しましょう。(民法1005条)
ただし、誤って開封したとしても遺言書が直ちに無効になるわけではありません。遺言書を破棄・改変せず、速やかに家庭裁判所へ検認を申し立てましょう。
1-2.自筆証書遺言は家庭裁判所の検認が必要な場合がある
自宅や貸金庫などで保管されていた自筆証書遺言や秘密証書遺言は、原則として家庭裁判所の検認を受ける必要があります。検認とは、偽造や変造を防止するための手続きです。
遺言書の有効性を裁判所が認定してくれる手続きではありませんが、相続手続きでは検認が完了した証明である「検認済証明書」が必要になることがあります。
遺言書の検認手続きの流れや費用など、詳しくは「遺言書の検認とは?手続きの流れや必要書類・費用・期間を税理士が解説」をご確認ください。
1-3.公正証書遺言・法務局保管の自筆証書遺言は検認不要
公正証書遺言は公証人の関与のもと作成され、原本が公証役場で保管されるため、家庭裁判所での検認は不要です。
また、「自筆証書遺言書保管制度」を利用して法務局で保管されている自筆証書遺言も検認は必要ありません。
2.【完全ガイド】遺言書がある場合の相続手続き7つのステップ
遺言書がある場合の相続手続きには7つのステップがあります。手続きには期限があるケースもあるため、なるべく早めに準備して期限内に終わらせるようにしましょう。
とくに気を付けたい期限は以下のとおりです。
| 相続手続き | 期限 |
|---|---|
| 相続放棄の申述 | 自己のために相続の開始があったことを知った日から3カ月以内 |
| 相続税の申告・納付 | 被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10カ月以内 |
| 遺留分侵害額請求 | 相続開始と遺留分侵害を知ったときから1年以内/相続開始から10年以内 |
| 相続登記 | 自己のために相続開始があったことを知り、不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内 |
2-1.ステップ1:遺言書の種類・検認の要否を確認する
先述したとおり、相続手続きは遺言書の種類によって異なります。このため、まずは遺言書の種類と検認が必要かどうかを確認しましょう。
2-2.ステップ2:法定相続人と遺言執行者を確認する
次に、被相続人の戸籍謄本などを確認して法定相続人を確定します。
一般的に、有効な遺言書が見つかると、そこに書かれているとおりに相続や遺贈をおこないます。しかし、遺言書があるからといって法定相続人の調査が不要というわけではありません。法定相続人は遺留分の有無、遺言に記載されていない財産の分割、相続税計算などにも関係するからです。
法定相続人は被相続人の家族関係によって決まります。詳しくは「法定相続人とは?【図解付き】範囲・順位・割合と相続税への影響を解説」をご確認ください。
法定相続人の確定と同時に、遺言書のなかに「遺言執行者」の指定があるかどうかも確認しましょう。遺言執行者とは、遺言内容を実現するために相続財産の管理やその他必要な行為をおこなう者です。

相続人以外の第三者への遺贈について遺言書で指定されている場合もあるため、受遺者の有無も確認しましょう。
第三者への遺贈がある場合に遺言執行者が指定されていないと、相続手続きが難しくなるケースがあります。詳しくは「遺言執行者とは?必要なケース・権限・報酬までわかりやすく解説」を参考にしてください。
2-3.ステップ3:相続財産と借金を調査する
遺言書の有無にかかわらず、相続財産をすべて洗い出すことも相続手続きの重要なステップです。プラスの財産だけでなく、借金などマイナスの財産も調査します。

プラスの財産とは、具体的には預貯金・不動産・株式・投資信託・現金・貴金属などが含まれます。一方、マイナスの財産は借金・ローン・未払金などです。
遺言書に財産目録がある場合でも、書かれていない財産が見つかるケースもあるため注意しましょう。
なお、受取人が指定された死亡保険金は、原則として遺産分割の対象となる本来の相続財産ではありません。
ただし、被相続人が保険料を負担していた死亡保険金などは、相続税法上「みなし相続財産」として課税対象になる場合があります。
相続財産の対象になる財産については「相続財産とは?具体例で相続財産に含まれるもの含まれないものを解説」でご確認ください。
2-4.ステップ4:相続するか・相続放棄するか判断する
遺言書で財産の相続先として指定されている場合でも、相続人は相続放棄を選択できます。
相続には次の3種類があり、相続人はいずれかを選択することになります。
- 単純承認:被相続人の権利や義務を原則としてすべて承継する
- 限定承認:相続によって得た財産の限度で、被相続人の債務などを負担する
- 相続放棄:被相続人の権利や義務を原則として一切承継しない
被相続人の財産にマイナスの財産が多い場合は、限定承認や相続放棄を選択したほうがよいこともあります。限定承認と相続放棄は、相続の開始を知ってから3カ月以内に家庭裁判所で申述する必要があるので注意しましょう。

原則として限定承認または相続放棄をしなかった場合は、単純承認をしたものとみなされます。なお、相続放棄は単独で申述できますが、限定承認は共同相続人全員でおこなう必要があります。
相続放棄の手続きについては「相続放棄とは?期限・手続きの流れ・費用をわかりやすく解説」をご確認ください。
2-5.ステップ5:遺言書の内容に沿って財産を取得する
有効な遺言書で処分方法について指定されている財産は、原則としてその内容に従います。遺言内容から誰がどの財産を取得するのかを確認しましょう。
2-6.ステップ6:預貯金・不動産・証券などの名義変更をする
遺言書の内容を確認できたら、財産ごとの承継手続きをおこないます。承継する財産や内容によって異なりますが、具体的には以下のような手続きが必要です。
- 預貯金:金融機関へ連絡し、払戻し・名義変更など
- 不動産:法務局で相続登記(原則3年以内)
- 株式・証券:証券会社等で相続手続き、払戻し・名義変更など
預貯金の相続については、取引先の金融機関ごとに流れが異なります。大まかな流れや必要書類は「【預貯金の相続に必要な手続き】必要書類や期限、リスクを解説」をご確認ください。
また、2024年4月1日から相続登記は義務化されたため、相続によって不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記をする必要があります。

正当な理由なく相続登記を怠った場合、10万円以下の過料が科される可能性があるので注意しましょう。
相続登記は自分でおこなうことも可能ですので、必要な書類の収集方法については「相続登記の必要書類一覧│手続き・自分で収集する方法を解説」を参考にしてください。
2-7.ステップ7:必要に応じて相続税を申告・納税する
遺言書がある場合でも、相続税申告・納税は必要に応じておこなわなければなりません。
相続税の課税価格の合計額が、基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超えるか確認し、超える場合には原則として相続税の申告・納税が必要になります。

そのほか、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例などを利用する場合は、相続税の納税額がゼロだったとしても申告が必要です。
遺言書がある場合の相続税申告の手続きは、遺産分割協議をおこなう場合と異なる点があります。詳しくは「遺言書がある場合の相続税はどうなる?手続きと注意点を解説」をご確認ください。
3.遺言書があると遺産分割協議は不要?遺言執行者の有無によって相続手続きも変わる
遺言書があれば必ず遺産分割協議が不要になるわけではありません。有効な遺言があり、すべての財産の取得者が決まっていれば原則遺産分割協議は不要ですが、遺言に記載されていない財産がある場合などは協議が必要になるケースもあります。
また、遺言書で遺言執行者が指定されている場合と、されていない場合では、相続手続きが変わる点にも注意が必要です。
ここでは、遺言書がある場合の相続手続きについて解説します。
とくに遺言書と異なる遺産分割をする場合の進め方や注意点は「遺言と異なる遺産分割をするときの遺産分割協議書・登記・相続税はどうなるか」で詳しく解説しています。
3-1.遺言に記載された財産は原則として遺言書に沿って手続きする
有効な遺言によって財産の処分先が決められている場合、その財産について改めて遺産分割協議をする必要は原則ありません。遺言書の内容に沿って手続きを進めます。
ただし、「相続分を○分の○とする」のように割合だけが指定されている場合など、遺言の書き方によっては具体的な財産の分割方法を話し合う必要が生じるケースもあります。
3-2.相続人全員の同意があれば遺言書とは異なる遺産分割も可能
遺言書があっても、相続人全員の同意があり、受遺者がいる場合は受遺者を含めた関係者の同意も得られるなど、一定の条件を満たせば遺言内容とは異なる遺産分割をすることもできます。
ただし、このように遺産分割協議ができるのは、遺言書で遺産分割を禁止していない場合に限ります。遺産分割を禁止している場合には、相続人全員の同意があっても最大5年間遺産分割はできません。(民法908条)
また、遺言執行者がいる場合は、遺言と異なる遺産分割について遺言執行者の同意も得て進める必要があります。
3-3.遺言執行者がいる場合は遺言執行者が手続きを進める
遺言書で遺言執行者が指定されている場合、遺言内容を実行する手続きは遺言執行者がおこないます。相続財産の管理など、遺言内容を実現するために必要な手続きも、遺言執行者がおこないます。
3-4.遺言執行者がいない場合は家庭裁判所への選任申立ても可能
遺言執行者が指定されていない場合、家庭裁判所で選任してもらうことが可能です。
遺言書がある場合に必ず遺言執行者が必要というわけではなく、相続人が手続きを進めることもできます。
4.遺言書の内容に問題がある場合の対処法は?
遺言書が残されていても、内容が必ず有効というわけではありません。ここでは、万が一遺言書の内容に問題があると感じた場合の対処法を解説します。
4-1.遺言内容に納得できない場合|遺留分侵害額請求を検討する
相続人のひとりが遺言の内容に納得できないからといって、遺言を無効にする手続きがあるわけではありません。
ただし先述のように、相続人全員が合意し、受遺者や遺言執行者がいる場合にはその同意を得るなど一定の条件を満たせば、遺言書があっても遺言とは異なる遺産分割が可能な場合があります。
自身の遺産相続分が少なく納得できない場合、被相続人との関係によっては遺留分が認められることがあります。遺留分とは、配偶者・子・直系尊属など一定の相続人に保障されている最低限の遺産取得分のことですが、兄弟姉妹には認められていません。
遺留分を侵害された場合は、遺留分侵害額請求をすることで金銭の支払いを求めることができます。請求期限は、相続開始と遺留分侵害を知ったときから1年以内、相続開始から10年以内となります。

遺留分は被相続人との関係によって、認められている割合が異なります。詳しくは「遺留分をわかりやすく解説!請求できる人・割合・計算方法」をご確認ください。
4-2.遺言書に書かれていない財産が見つかった場合
遺言書に書かれていない財産が見つかった場合、法定相続人による遺産分割協議が必要になる場合があります。一般的な遺産分割協議と同様に、相続人全員で協議した後、遺産分割協議書に全員の実印を押すことで全員の同意を表します。
遺言書に具体的な財産が書かれていなかった場合でも「その他一切の財産」など包括的な記載があれば、遺言に従って財産の取得者を判断することが可能です。
相続税の申告や納付のあとに遺言書に書かれていない財産が見つかった場合は、修正申告をおこなうなどの手間が増えます。遺言書がある場合でも、預金口座、不動産、証券などの財産調査を十分おこなうことが重要です。
4-3.遺言書の有効性自体に疑問がある場合
検認を受けたとしても、遺言書が有効とは限りません。遺言書の有効性に疑問がある場合には、まず弁護士に相談しましょう。具体的には以下のような場合に、遺言書の有効性に疑問が出ることがあります。
- 自筆証書遺言の方式に問題がある
- 本人が書いたものか疑わしい
- 作成時の遺言能力に疑問がある
- 複数の遺言書が存在する
5.遺言書がある場合の相続でよくある質問
遺言書がある場合の相続でよくある3つの質問と、それぞれの答えをご紹介します。
5-1.一人だけに全財産を相続させる遺言があった場合はどうすべき?
遺言書が「長男に全財産を相続させる」など、一人だけに全財産を相続させるという内容だった場合、ほかの相続人の遺留分を侵害しているからといって、必ず遺言書自体が無効になるわけではありません。ただし、配偶者や子など、遺留分を持つ相続人は遺留分侵害額請求が可能なので検討してみるとよいでしょう。
遺留分侵害額請求については「4-1.遺言内容に納得できない場合|遺留分侵害額請求を検討する」で詳しく解説しているので、参考にしてください。
5-2.ほかの相続人に知らせず相続手続きを進めることはできる?
遺言執行者には、任務開始後に遺言内容を相続人に通知する義務があります。このため、遺言執行者がいる場合には、ほかの相続人に相続内容を秘密にすることはできません。
また、法務局保管の自筆証書遺言では、相続人などの一人が遺言書情報証明書の交付などを受けると、ほかの相続人へ通知される仕組みがあります。
このように遺言書の内容や種類によっては、そもそもほかの相続人に知られずに手続きをすることができません。
そのほかの場合でも、記載のない財産が見つかったり相続人間の紛争につながったりする可能性があるため、ほかの相続人に遺言書の存在や内容を知らせることをおすすめします。
5-3.2026年成立の「保管証書遺言」とは?
2026年6月17日に民法等改正法が成立し、新たに「保管証書遺言」が創設されることになりました。これは、パソコンなどで作成した電子データなどを活用し、法務局で保管する新しい遺言方式です。
ただし、2026年9月時点ではまだ施行されていません。遺言書を残そうと考えている方は、現時点では自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言のいずれかを作成することになります。
6.相続手続きで困ったら専門家への相談も検討しよう
遺言書があると相続手続きはスムーズに進めやすいことが多いものの、専門家へ相談したほうがよいこともあります。相続手続き中に判断に迷うことやトラブルが生じた場合は、専門家への相談を検討するとよいでしょう。
6-1.専門家に依頼するメリット
専門家に依頼することで、戸籍・財産・必要書類などの確認漏れを防ぎやすいというメリットがあります。遺言書に記載のない遺産が見つかった場合や財産の種類が多い場合でも、専門家のサポートがあると手続きを整理して進めやすくなるでしょう。
また、相続には相続放棄や相続税申告、相続登記など期限が定められた手続きがあります。必要な手続きを整理し、期限内に進めやすくなることも専門家へ依頼するメリットです。
さらに、不動産の評価や相続税の計算、遺言書の有効性をめぐる問題など、相続では専門的な判断が必要になることがあります。自分たちだけで判断するのが難しい場合には、早めに専門家へ相談することで手続きの負担やミスを減らしやすくなります。
6-2.どの専門家に相談すべき?|弁護士、司法書士、税理士の選び方
専門家にはそれぞれ専門分野があり、悩んでいる問題によって相談先は異なります。相続では、弁護士・司法書士・税理士といった専門家が関与することが多くありますが、それぞれの専門分野は次のとおりです。
- 弁護士:遺言の有効性をめぐる争い、遺留分、相続人間の紛争など
- 司法書士:相続登記を中心とする登記手続き
- 税理士:相続税申告、財産評価、税務上の特例など
相続人同士で争いがある場合や遺言書の有効性を争う場合は弁護士、不動産の名義変更が必要な場合は司法書士、相続税の申告や財産評価が必要な場合は税理士への相談を検討しましょう。
なお、税理士にもそれぞれ得意分野があるため、相続税申告を依頼する場合は相続税の申告実績が豊富な税理士を選ぶことが重要です。
相続税に詳しい税理士であれば、小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減など、利用できる制度を確認しながら申告を進めてもらえます。一次相続だけでなく二次相続まで見据えて相談できれば、将来的な税負担を軽減できる可能性もあります。
7.遺言書がある場合は遺言書の種類と相続手続きを確認しよう
遺言書がある場合の相続では、遺言書のない場合とは手続きが異なる点があります。遺言書の種類によってやるべきことが変わってくるため、故人が残した遺言書がどのような種類なのかをまずは確認しましょう。
有効な遺言書があっても、すべて遺言書どおりに進むわけではありません。遺言書に記載のない財産が見つかったり遺留分侵害の恐れがあったりする場合には、遺言内容どおりに相続手続きを進めることが難しいケースもあります。
このように、自分たちだけで相続手続きをおこなうのが難しい場合は、専門家のサポートを受けると安心です。まずはどのような問題があるのかを整理し、それを解決してくれる専門家に相談してみましょう。
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